「ただいま……ってあれ?俺、鍵は締めたはずだよな……。」
千冬姉と遭遇して、トンボ返りで自室に戻った。ナチュラルに部屋へと入れたわけだが、俺の記憶では確かに鍵は締めたはず。となれば……シャルルが帰って来たんだろうな。姿が見えないとなると、今はシャワーでも浴びてんのかも。うん……水音が聞こえるし間違いない。
……そう言えば、ボディーソープが切れていなかっただろうか。いくら男と言えど、何も使わず水だけってご時世じゃないよな。特にシャルルは気を遣ってそうだし、届けてやる事にしよう。所定の位置から詰め替え用ボディーソープを取り出すと、洗面所兼脱衣所になっているスペースへと足を運んだ。
「ん、調度良かった。これ、替えのボディーソー……プ?」
「い、一夏……?」
「…………ん?」
洗面所からシャワールームに声をかけようと思ったらタイミングよくドアが開いたわけで、俺はボディーソープを捜しているものだと思った。そうやってシャルルの姿があるであろうドアの方へと目を向けると、どういうわけか女子がそこから出ようとしている謎の状況だ。
しかもいわゆる生まれたままの姿という奴で、率直に言ってしまえば全裸である。あ、シャワールームに居たんだから当然か……ハハッ。いや、待て……ハハッじゃないだろう。本当にこれはどういう事で……あれ?なんかこの女子、何処かで見覚えがあるような……。
「キャッ!?」
お互いに情報の処理が追いつかなくてフリーズ状態だった。だが、謎の女子は俺よりも早く復活して急いでシャワールームに戻って行く。……それはそうか、男にマジマジと見られて平気なはずがない。まぁ……その見ていた奴とは間違いなく俺の事だが。
「……詰め替え用、ここに置いとくから。」
「うん……ありがとう……。」
かくいう俺は、未だに頭の整理が追いついていない。そのせいか、恐らく後回しにすべき事を行いつつ脱衣所を後にしてしまう。……とりあえず、あの子が出てくるまで待っているか。あ~……そう言えば、シャルルは何処に……っておい、もしかしなくても……あの子ってシャルルなんじゃ……?
「上がったよ……。」
「…………。」
シャルルっぽい女子(仮)は、思ったよりも早く出てきた。きっと俺に気を遣ったんだろう。さて、今はジャージを着ている事だし……少しばかり観察させて貰う事にしよう。黄金と呼ぶにふさわしいブロンドの髪に、アメジストのような瞳。いや、ここだけとってもどうやったってシャルルだろ。
「その、シャルル……だよな。」
「うん……。」
「……話、聞かせて貰っても大丈夫か?」
「もちろん。こうなったからには、僕はキミの質問に答える義務があるもん。」
「まぁその前に、見て悪かった。」
「アハハ、仕方ないよ……キミは僕を男だって思ってたんだし。」
本人に確認を取ると、肯定の反応が示された。つまりは、シャルルは男のふりをして学園へやって来た事になる。なにやら事情があるのは明白で、責めるつもりはないが聞くべきではあると俺は思った。だが事情聴取の前に、うら若き乙女の裸体を見てしまった事をキチンと謝罪しておかなければならない。
「じゃあ、何処から話そうかな……。」
俺とシャルルは並んでベッドに腰掛けると、それぞれ聞き手と話し手の役割をこなす。シャルルは俯き加減だったが、確かに自分の素性を語ってくれた。自身が愛人の子である事、突然父親に引き取られテストパイロットになった事、父親の会社経営が危うい事、広告塔として注目を浴びるために男装をしていた事、そして―――
「それと僕は、白式のデータを盗ってくるよう命じられたんだ。」
「…………。」
何処か悲しそうにそう語るシャルルに対して、俺には返す言葉がすぐには見つからなかった。いや……きっと何を言っても気休めにしかならないはず。数回しか会った事が無いと言っていたが、実の親にそんな命令をされたのだから。俺の胸にあるのは、確かな憤りだ。……だが、それをシャルルに露呈しても何の意味もなさない。
……自分に出来る事を、精一杯してやれ。幼き日の俺に千冬姉が送ってくれた言葉だ。考えろ、意味のある行動をしろ、シャルルに今何をしてやれるかを考えるんだ。だが、さっき千冬姉に言われた通り……俺は馬鹿だ。だから俺に出来る事って言ったら……。
「シャルル、少し俺の話をしていいか?」
「え?うん……それは構わないけど。」
「そうか、ありがとう。……俺の両親な、俺と千冬姉を捨てて蒸発したんだ。」
「っ!?」
いきなりな俺の告白に、シャルルは大層驚いているようだ。それと、いきなり何を言い出してるんだコイツは……みたいな反応でもある。そりゃそうだ、親の話ではあったとはいえ……いきなりこんな事を言われても困るだろ。だけど、俺はシャルルに伝えたい事がある。
「でも、そんな事はどうでも良いんだ。そんな薄情な奴ら親だなんて思った事は無い。だって俺には、血の繋がりはなくても……本当の両親が居てくれたから。」
「もしかして、藤堂さんのご両親?」
「ああ、そうだ。物心ついた頃には世話になっててさ、あの人達が俺の両親なんだって疑いもしなかった。」
それこそ、血の繋がりが無い事を知った時は……子供ながらにショックを受けた覚えがある。泣いて、喚いて……父さんと母さんをかなり困らせたろう。だけど、あの時に父さんに言われた言葉は……しっかりと胸に刻み込まれている。
『血の繋がりだけが家族じゃない。だってそれなら、僕と母さんは家族じゃないってことになる。大切なのは、一夏くんがどう思ってるか……じゃないかな。』
『……おれが……?』
『うん、そうだよ。僕はね、一夏くんと千冬ちゃんは本当の息子と娘だって思ってる。だから家族だ。違うかい?』
『ちがわない……とおもう。』
『自分がこの人が家族だって思っていたら……その人は家族って事で良いんだよ。じゃあ一夏くん、1つ聞かせてくれないか?一夏くんにとって、いったい僕はどう映ってるかな。』
『とう……さん……。とうさんは、おれのとうさん!』
……いかんな、思い出しただけで目頭が熱くなってきた。とにかく、あの言葉があったからこそ……俺は家族とはなんたるかという観点がある。黒乃の両親は、俺にとって父さんと母さん。千冬姉はもちろんだが、黒乃だって俺の家族。それを
「……良い……人達なんだね。」
「ああ……。だけど、俺の父さんと母さんも……もう遠くへ逝っちまってな。……交通事故だった。」
「そ、そんな……!?」
「……その交通事故がきっかけで、黒乃もあんな事に……。……いや、それはまた今度で良いな。」
父さん達の事故は、黒乃の現在に大きく影響しているが……今はそっちに話を移すときではない。つまり、俺は亡くなった父さんの言葉を借りたいって事だ。重要なのは、シャルルがこれからどうしたいか。ただ命令通りに動くんじゃなくて、シャルルが父をどう認識するかだ。
「それは……解らないよ。あの人が、僕……ううん、お母さんの事をどう思っていたのか……それを知らない限りは。」
「……解った。それなら今はそっちはなしだ。じゃあシャルルはこれからどうしたい?」
「僕は……。僕はここに居て、皆ともっと一緒に笑いたいな。」
「そうか。だったらそれで良い。決心がつくまで、シャルルはずっとここに居て良いんだ。俺も……シャルルと一緒に笑ってたい。」
俺がそう言うと、シャルルは両手で顔面を隠した。……そうか、辛かったよな……。精神的には成長したとはいえ、俺達なんてまだまだ子供だ。それで良い……泣きたいときには泣いて良いんだ。悲しい涙も嬉しい涙も、それを止める権利なんて誰にもない。俺は耳まで赤いシャルルの頭を撫でて慰める。
「無理しなくたって良いんだぞ。」
「な、泣いてないよ……照れてるの!」
「そうか?」
「そうだよ、一夏があんな事サラッと言うから……。それより、僕がここにいつまでも居るのは無理なんじゃないかな。本国に呼び戻されたりしたら……。」
「ああ、その事だったら―――」
IS学園特記事項第21、IS学園に所属する者は外部からのあらゆる干渉を受け付けない。……という裏技があるから、卒業ギリギリまでは悩んでいられる……という事だ。それを説明しようとすると、バァン!と凄まじい音を響せ自室のドアが開く。……あ、鍵かけんの忘れてた。そしてそこに立っていたのは……。
「く、黒乃……。」
「あ、あわわわわ……!」
「…………。」
俺の姉兼、妹兼、幼馴染の……藤堂 黒乃だった。
◇
(ん……もうこんな時間か。)
ふとPCの端にある時計に目をやると、かなりの時間が経過していた。部屋に戻ってからずっとアニメを見ていたが、少し疲れてきたかな……。無表情ながらも欠伸は出るもので、俺の静かな声でふわぁ……と息を吐く音が室内に響く。ん~……飯時かな、そろそろお腹減ってきたや。
というか、イッチーは大丈夫だろうか……。考え過ぎ等々のせいで、しょぼくれてなければ良いけど。うん……少し様子を見て、ついでにご飯に誘ってみよう。そしたらマイエンジェルも一緒で……って、マイエンジェル?ちょっと待とうか、俺は……マイエンジェル関連で何か忘れているような……。
(マイエンジェルが来て5日……。そんでラウラたんが絡んできたのなら、マイエンジェルの正体バレイベントの発生タイミング!)
ああ、なんて事だ!よりによって、このイベントを忘れるなんて!場合によっては、マイエンジェルの全裸を見るチャンス……。こうしちゃいられない!制服のままでくつろいでいたため、急いで自室を飛び出た。そしてお隣である1025室の扉を確認……。おっ開いてんじゃ~ん!
失礼だとかは百も承知。それだけ俺にとっては一大事なのである。そういうわけで、1025室の扉を開帳。すると俺の目に飛び込んできたのは、ベッドに座るイッチーと……ジャージ姿のマイエンジェルだった。つまるところ……遅かったという事になる。あぁ……見逃してしまったかぁ……。
「く、黒乃……。」
「あ、あわわわわ……!」
「…………。」
「その、これはほら……違うくてな。シャルルって美少年だろ?だからちょっと服に丸めた新聞紙詰めて女装ごっこというか……。」
2人の様子をじっと見ていると、なんだかイッチーが苦しい言い訳をし始める。まぁ……そうだよな。原作でもマイエンジェルが自ら正体を明かすまでは、誰にも言わずに隠し通していたんだから。う~む、どうにかして2人……というか主にイッチーを落ち着けさせた方が良さそうだ。
「良いよ、一夏。藤堂さん、最初から気づいてたみたいだから。」
「そ、そうなのか黒乃!?」
「…………。」
マイエンジェルの半ば諦めたような言葉に、イッチーは驚いた様子で俺に問いかける。それに対していつも通りの無言で頷くが、内心は動揺しまくりだ。ま、まさか……女子だと知っているというのを見破られていたとは。でも……あ~んとかやってたし、流石に露骨過ぎたのだろうか。
俺が肯定の意思を見せるや否や、イッチーはマイエンジェルにいかような事情があったかを力説してくる。それも知ってるんだけど、これこそ悟られると面倒だ。俺はいかにも初耳ですよというような雰囲気を醸し出しつつ、イッチーの弁論に耳を傾ける。その間のマイエンジェルは、庇われる事が嬉しそう。……畜生め。
「……って事なんだ。だから頼む、シャルルを責めないでやってくれ!」
「一夏……。」
(ん~……そっか、原作と違って父親との
「藤堂さん、それ僕の制服とコルセット……。え、何?何?着がえろって言いたいの?わ、解ったよ……。」
マイエンジェルがそう決めたんだったら、俺も全力でキミを手伝うよ。だから……やはり鷹兄を頼る。本当だったら、おいそれと……ド◯えもん感覚でそんな話を持ちかけられる人じゃないってのは理解が及ぶ。だから断られたらそれまで。ただし、力を貸して貰えるんだったら鷹兄になんだってしてみせる。
そういうわけで善は急げ。早速鷹兄の元へと向かいたいのだが、それにはマイエンジェルが男装をする必要がある。俺が男装セットをグイグイと押し付けると、着替えてほしいという意図は伝わった。しかし、渋々といった様子でマイエンジェルは脱衣所に入って行く。
「……黒乃、シャルルをどうするつもりなんだ?」
(大丈夫、悪いようにはしない。だからイッチー……俺を信じて。)
「解った。黒乃がそう言うんだったら、俺は黒乃を信じる。」
イッチーは、訝しむ様子で俺へそう告げる。それに対して俺は、目で信じてくれと訴えた。するとどうだ、一言も発してないのに言いたい事が伝わった。うん、伝わるって素敵だね。俺は、俺とイッチーの間に確かな家族の絆を感じた。いや、より一層深まった気さえするよ。
「えと、着替えたけど……これから何処かへ向かうのかな?」
(よ~し、すぐ行こう。鷹兄も待ってはくれないし。)
「わっ!?ひっ、引っ張らなくても逃げないよ……?」
「まぁシャルル、今は黒乃を信じてやってくれ。」
着替え終わったマイエンジェルに歩み寄り、その手を掴んでさっさと1025室を出た。強引で悪いけど、あまり時間をかけるのはまずいからさ。俺がズンズンと突き進むのに合わせて、マイエンジェルは慌てて着いてくる。イッチーは、その様子を何処か微笑ましげに少し後ろを歩いた。
はてさて、鷹兄の部屋は寮の職員用のフロア~っと。近江重工関連で何回か訪ねたが、今もタイミング良く居てくれるといいけど……。しかし、マイエンジェルの表情が曇ってくるな。きっと、職員のフロアに向かっていると解ったからだろう。だけど大丈夫、鷹兄だったらきっと力になってくれるさ。
(はい、到着!すんまっせ~ん、鷹兄いらっしゃいますかー!)
「あれ、ここ……?ここって……。」
「はいはい、今出ま~……って、藤堂さん。それに織斑くんにデュノアくん。3人揃って、いったいどうしたんだい?」
「黒乃……どうして近江先生のところに連れて来たんだ。」
鷹兄の部屋の扉を叩くと、しばらくして家主が顔を覗かせた。俺達の姿を確認した鷹兄は、珍しい組み合わせだねとでも言いたげだ。そして、さっきまでの穏やかさはどこへやら……イッチーは凄く機嫌が悪そうだ。嫌いなのかも知れんけど、今はこの人が1番頼りになる人だと忘れないように。
「もしかして藤堂さん、近江先生に力になってもらおうと?」
「ちょっと待った待った。僕を置いてきぼりにしてほしくはないなぁ。とりあえず3人とも入ってよ。話は中でゆっくり聞くから。」
話が呑み込めないから困っているんじゃ無くて、鷹兄は仲間外れにしてほしくない感じだ。どちらにしたって、隔離空間でなければ話は進められない。俺が容赦なく鷹兄の部屋に侵入すると、後ろの2人は顔を見合わせてから恐る恐る入室した。
部屋の様子は、学生寮の部屋と変わりは無い。ただ、鷹兄の部屋には資料が多いのだ。仕事用であろうデスクの上にも山積みだったけど、幾分か量が減っている。鷹兄が適当に腰掛けてくれと言うと、イッチーとマイエンジェルはベッドに腰掛けた。俺は……立ちっぱなしで良いや。
「……さて、これでもう白々しいマネをしなくて良いかな。まぁ誰が聞いてるか解からないし、警戒は怠らないようにね。っていうかデュノアくん、だから気を付けてって言ったのに。」
「ア、アハハ……近江先生の言う通り、気を付けててもどうしようもない事態が起きちゃいまして。」
「ちょっと待て、アンタ……知ってたのか!?」
「うん、そりゃね。というか、僕が知らないハズないじゃない。」
鷹兄とマイエンジェルのやり取りは、なんだか意思の疎通が取れていて……俺は思った、鷹兄が知らないハズないと。い、今更かよ……マヌケもいい加減にしようぜ俺。そっかー……マイエンジェルは、独自に鷹兄へと接触してたか。それでこの様子を見るに、鷹兄はマイエンジェルを応援してたくらいみたい。
「まぁ……理由は知ってても、デュノアくんの事情は知らないけどね。その辺り、詳しく聞かせてくれると嬉しいな。」
「は、はい……。実は―――」
鷹兄は、マイエンジェルの目的までしか知らないらしい。それはそうか、身の上話まで知ってたら流石に背筋が凍る。マイエンジェルの話を聞く鷹兄の顔は、いつも通りで締まりがない。けれど、相槌を打つ声色は真剣そのものだった。やがてマイエンジェルが話しを終えると鷹兄は、安っぽい回転椅子に深く座り直す。
「……なるほどね。そっか、お父さんの……。……デュノアくん、キミはお父さんの真意を知りたいって事で良いのかな。」
「……はい。僕は、お父さんと話してみたいです。」
「そうかい。で、藤堂さん。デュノアくんを僕の所に連れてきたって事は、僕の力で2人をなんとか引き合わせろって事で良いかい?」
(そういう事になりますね。)
おや、なんだか鷹兄の様子が……。う、うわぁ……なんか嫌な予感がする顔してるよ。1年もこの人を見てくるとだね、微妙な変化にいい加減気が付いてきた。同じ笑みでもなんかこう……今は悪戯でも思いついたかのような印象かな。そうして鷹兄は、考える素振りも見せずに答えた。
「そういう事なら喜んで協力するよ。」
「「!?」」
「……そっちの方が面白そうだから。とかですか?」
「ん、まぁね。黙ってても面白くなりそうとは思っていたけど、これは想像以上かな。」
まさかの2つ返事って奴だよ。良いんすかそれで、アウトかセーフかギリギリなラインですぜ?まぁ……鷹兄はアウトって言われてもセーフと言い張るタイプ。それならば、何を言っても無駄だろう。しかし動機が……。そういうところは嘘吐いてもええんやで?
「…………。」
「おやぁ織斑くん。僕の言い方が気に入らない……って顔してるね。」
「そうだな、かなり気に入らない。」
「でも、僕なら間違いなく100%デュノアくんの抱えてる問題を解決できるよ?キミの気持ち1つで台無しにしちゃって良いのかな。」
まぁまぁイッチー落ち着きんさいな……。反論を重ねるだけ、鷹兄の調子を上げてくだけだからね。この人と口論しようと思ったら夜通しを覚悟しないといかんだろう。とにかくこのままいくと話も進まなさそうなので、イッチーを宥める事にしよう。ほぅら、お姉ちゃんが頭を撫でてあげようじゃないか。
「わ、解った……。黒乃、冷静になるから止めてくれ……。」
「ブッフ!おっと失敬……。まぁとにかく、こんな面白そうな話を僕は見逃さない。そして僕のポリシーはどうせ楽しむなら全力で。つまり目的を成し遂げる為には妥協をしないと誓うよ。後は―――」
「後は、僕の意思次第……ですか。」
「まぁそうなるね。断るならそれはそれで。僕はこの話を聞かなかった事にするよ。」
俺に良いように扱われているイッチーが面白かったのか、鷹兄は盛大に噴出した。隠そうともしないあたり、なんというか清々しいや……。まぁでも、後から出た言葉に嘘はないだろう。鷹兄は典型的な科学者気質だしね。最終判断を任されたマイエンジェルの表情は、少しだけ難しそうだ。
「前……話した時の事を覚えてますか?先生はあの時、黙っておくって言ってくれましたよね。正直なところで半信半疑でしたけど、結局近江先生は……こうして黙ってくれています。」
「まぁ約束は守る主義だからね。」
「ええ、動機はどうあれそれが良く解りましたから。だから僕は、近江先生を信じます。僕に力を貸してください!」
「よし、決まりだね。さっきも言ったけど、キミとお父さんを確実に会わせてみせるよ。」
動機はどうあれ、ねぇ……。鷹兄の事だし、黙ってた方が面白そうだとかそんなんかな。だけど約束を守ったのも確かだ。そこが決定打になったのか、マイエンジェルは鷹兄の手を借りる事にしたらしい。お互い少しばかり腰を浮かせて、固い握手を交わした。
「……で、具体的にどうするんだ?」
「そうだねぇ。手っ取り早く商談でも仕掛けてみようかな。今のデュノア社はそれで簡単に釣れるでしょ。」
商談か……。現在のデュノア社は、藁をもつかむ気持ちだろう。だからこそマイエンジェルをこんな卑劣な理由でIS学園に潜入させたんだし。鷹兄の言い方からすると、向こうも疑いをかけつつ乗ってくるって事かな。疑ってるけど話を聞く価値はあるだろう……みたいな感じでデュノア社長はあえて釣り針に引っかかると。
「えっと、僕がそれに着いて行く……って事ですか?」
「平たく言えばそうだけど、藤堂さんと織斑くんにも手伝ってもらいたいんだよねぇ。」
「俺と黒乃に?あまり役にはたてないと思うが……。」
「いや、頭数は多い方が良い。とはいえ、大人数ってわけにもいかないから……僕ら4人で当たるべき事案さ。」
まぁ……鷹兄の言葉の裏には、これ以上の人間を巻き込むわけにはいかないってのもあるだろう。かといって、俺とイッチーが参加しないと頭数が足りないって話だな。俺はマイエンジェルのためなら努力は惜しまない所存。イッチーも、言われなくても力になる気が満々らしい。
「とにかく、あらゆる手を尽くす事を約束するよ。絶対にキミとお父さんを会わせてみせる。」
「は、はい!ありがとうございます!」
「とはいえ、色々と準備しなきゃだし……決行は早くて夏休み中になるかな。」
夏休み……か、まぁ軽いフランス旅行とでも思っておこう。パスポートは、ドイツに行ったときのがまだ有効期限内だったかな。さて、これで後戻りはできなくなった。気合い入れて、いっちょ原作改変といきますか。それもこれも、マイエンジェルが安心して暮らしていけるために。
「それじゃ、今日のところは解散しよう。また何かあったら声をかけるから。」
「解った。黒乃、シャルル、帰ろうぜ。」
「あ、うん。失礼しました。」
(鷹兄まったね~。)
鷹兄は、パンッと手を叩いてからそう言う。解散になると同時に、イッチーとマイエンジェルはベッドから立ち上がった。俺も2人の後に続くと、鷹兄のヒラヒラと手を振る姿が見える。……いつも通りに戻ったみたいで安心したよ。俺は鷹兄に会釈すると、再び2人を追いかけ始めた。
黒乃→マイエンジェルの風呂上りぃ!
シャルロット→このタイミングで登場って、本当に監視してたみたいだね……。