八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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※今話はオリジナルの敵勢ISが登場します。
 そういった要素が苦手な方にはあまりオススメできないかも知れません。


第49話 音無に消ゆ

『各員、準備は良いな?』

「いつでも。」

「此方も同じく。」

(よろしくないです……今すぐ帰して下さい……。)

 

 時刻は昼前の11時ごろ。俺、イッチー、モッピーの3人は、とある極秘任務の実行部隊として駆り出されていた。その極秘任務とは……銀の福音迎撃作戦である。今から数時間前のハワイ沖にて試験運用していたアメリカ製軍用IS『銀の福音(シルバリオゴスペル)』が暴走。そのまま何処かへ飛び去ったとの事。

 

 なんと福音が飛び去った方向は、花月荘よりほど近い空域。臨海学校にて近場に居るIS学園専用機持ち1年に、福音の暴走を止める命令が通達されたのである。で、それに選別されたメンバーが最初の幼馴染組(オールドプレイメイト・ジ・オリジン)と……。この作戦には、ある程度の参加条件という物があった。

 

 まず1つ、短期決戦を狙う為にイッチーと白式の零落白夜は欠かせない。2つ、銀の福音は高機動機……イッチーに無駄なエネルギーを使わせずに運ぶ役目が必要となる。これが換装を必要とせず高速移動形態になれるモッピーと紅椿。そして3つ、紅椿に換装せずに追いつける俺&刹那はほぼ無条件で参加が確定と……。

 

 おかしい、絶対におかしい。だって俺の参加条件だけ意味解かんないもん。しかも鷹兄が他のISの高機動パッケージよりも速度が出せるなんて言うし……。くっそー……刹那のスラスターが飛電であった事が仇になった。この小隊編成だっておかしい。近接型、近接型、近接を主体とした万能型って……8割近接機の編成じゃないか。

 

『よろしい。それでは作戦内容を確認する。日本近空に接近している銀の福音を叩く。相手は暴走した高機動機体だ……チャンスを逃さず必ず仕留めろ。』

「「了解!」」

(はぁ……やるしかないか!)

 

 ぶっちゃけた話で、イッチーの零落白夜で一発KOを狙いたいところだ……が、世の中そう上手くはいかないだろう。必ずアレ……もしくはアレに近い形でイッチーが危ない目に合うはず。俺は事前にそれを知ってるんだ……どうにかしてイッチーを……。

 

「箒、紅椿の調子はどうだ。」

「悪くは無い……だろう。だが……。」

「だが……?」

「……こんな形は望んでいない。」

 

 モッピー……原作よかマシな気はするけど、これはこれでどうなんだ……?実戦の前に意気消沈してるというか、いつもの覇気は感じられない。俺もイッチーも……並び立とうって思ってくれてるのは嬉しい。けどそれがモッピーの望んだ形じゃないってなると……かける言葉はないだろう。

 

「……一夏、そろそろ私の背に乗れ。言っておくが、今回だけだからな。」

「あ、あぁ……解かってる。それじゃあ頼むな箒。」

 

 小さな溜息を吐いたモッピーは、イッチーに自分の背に乗るよう促した。おっと、俺もしっかり飛電の最終調整をしとかないとな。……オールグリーンか、暴発の心配とかは無さそうだ。後は、2人に心配かけないように小さく深呼吸をしておく。

 

『では、カウントダウンを始める。』

 

 ちー姉の声が響くと、刹那のハイパーセンサーにタイマーが現れた。きっと白式や紅椿も同じくだろう。カウントダウンは30秒から……。ピピピ……とタイマーの小さな音は、俺の鼓動にかき消されてしまいそうだ。だ、大丈夫……気をしっかり持て、俺。

 

『3、2、1……作戦開始!』

「飛ばすぞ一夏!しっかり掴まれ!」

「おう!」

 

 ちー姉の作戦開始と言う発音と同時に、俺とモッピーはロケットスタートが如く目標へ向けて飛行を開始した。紅椿は流石に速いが、やはり問題なく追いつけてる。それを言うと、飛電で正解だったってのもあるのかも知れない。ハイパーセンサーで後方を確認すると、花月荘は既に見えなくなっている。よしっ、このまま一気に―――

 

「…………!?」

「黒乃!?ちぃっ……!」

「おい、何やってんだ箒!今黒乃が……明らかに攻撃されただろうが!」

「言っている場合か!不安定要素だが……私達の目的を忘れるな!」

 

 俺が快調に飛んでいると、ハイパーセンサーに何の警告も無しに……確かに攻撃されたのだ。いきなりの奇襲攻撃に、俺は思わず飛行体制のバランスを崩し隊列から外れてしまう。何かイッチーと揉めていた様子だが、モッピーはそのまま銀の福音目指して飛行を続ける。

 

 オーケー……それは大正解だよモッピー。各々が、各々の目的を忘れてはならない。イッチーの役目は福音に零落白夜をくらわす事。モッピーの役目はイッチーを無事に届ける事なんだから。ある意味補佐の役で作戦を参加してる俺が狙われてラッキーってとこだ。不安定要素を摘むのも俺のれっきとした役割だろうから。

 

(さて、何処から攻撃され……た……?)

『――――――――』

 

 俺が神立を引き抜いて周囲を警戒していると、いきなりハイパーセンサーにISの反応が現れた。慌ててそちらに振り向くと、何とも形容しがたいISが浮いていた。まず……異様に小さい。長身な男性……170cm強程の全長だ。そして頭部、何か……頭そのものが卵みたいな楕円形をしたバイザーのようになっている。

 

 そのバイザーには、心臓が脈打ち血が循環するように……赤い光が一定間隔で基盤のようなパターンをなぞりながら走る。手はまるで人間そのものだが、足は凄まじく細長い円錐みたいで……。全身漆黒かつシャープな造形のそのIS?は、どこかニンジャを思わせる。

 

『―――――――――』

(来るか!?)

『―――――――――』

(なっ……高周波振動してる!?)

 

 謎の敵勢ISは、それこそニンジャソードとでも呼びたくなるような片手サイズの日本刀を順手で構えると、背中から直接生えているようなスラスターをフルブーストで接近してくる。その攻撃は難なく神立で受けるが、甲高い金属音と火花を上げる。その時点で察した……あの刀は、いわゆるバイブレーションソード!

 

(このまま受け続けるのはマズイ……!)

 

 そう思った俺は、ニンジャISを蹴り飛ばした。すぐさま神立の刃を確認してみると……中ほどまで達してしまいそうなほどの亀裂が走っているではないか。バイブレーションソード……SF作品でお目にかかりやすい兵器だ。刃が超高速で振動する事により、単純に斬るのではなく切削能力を付与する事が出来る。

 

 それによって、通常ではありえないような硬度の代物もすっぱり……。ここまで神立を破壊されたとなると、アレの実用性を認めざるを得ない。とにかく、これでアイツ相手に物理ブレードを使えない。俺は大人しく神立を仕舞い、レーザーブレードの疾雷、迅雷を抜いた……その時だった。

 

(ぐっ!?ま、また……?!)

 

 またしてもハイパーセンサーに何の警告も無しに、攻撃を受けてしまう。今度は俺の背後で、小規模の爆発が複数発生した。それとついでに、身体の身動きが効かない……!まるで何かが巻き付いてるみたいだ。焦りながらもニンジャISを睨みつけていると―――

 

『『『『――――――――』』』』

(嘘……だろ……?)

 

 最初のニンジャISとほぼ同じ見た目をしたのが、4体同時に現れた。最初のは赤いバイザーパターンだったが、あちらこちらにクナイや手裏剣を装備してるのが青……多分だけど遠距離型。そして鎖付き分銅……俺の身体に巻き付いてるのがこれだ。で、それを装備してるのが緑……相手の動きを制限する捕縛型か?

 

 黄色い奴は、両腕が巨大な手甲みたくなってる。きっと防御型だろう。最後は桃色……。装備らしい装備は見当たらないが、あちらこちらに着いてる球体が爆発物に見えなくもない。それと身の丈ほどの黒マントも気になるな。……新手の戦隊モノ?お前らは機甲忍隊シノビレンジャーとでも命名してやろう。

 

(各々が各々の役割をこなす……コイツらも同じだな。多勢に無勢……。勝てない算段で望まんと。だから、俺がすべきは退路の確保……。)

『……い!どう……っ……る!藤堂!反応が―――』

 

 あ、あれ……?刹那の通信機器がザーザー言ってちー姉の声が途切れ途切れだけど……もしかしてアイツらが通信妨害してる……?…………マズイいいいい!ひっじょぉーによろしくない!反応が言ってたし、これは刹那の反応自体を消されてる!つまり俺は……完全に孤立した状態になってしまった!

 

(ひぃいいい!勘弁してよ!)

『――――――――』

 

 とりあえず捕縛されているのをなんとかしようと、QIB(クイック・イグニッションブースト)を左方向へ放つ。すると振り子のようにして、シノビグリーンは横にいたシノビピンクへと激突した。それに伴って、俺に巻きついていた鎖も緩む。簡単に脱出できたは良いが、これが開戦の合図になったようだ。シノビレンジャーは一斉に遅いかかってくる。

 

(やってやる……!多対一がなんだ……って!?また消えた!?)

 

 もう、どうなってんだよさっきからぁ!ありとあらゆる反応が消え失せるし、視認すらできなくなるし!戸惑いを隠せない俺に、容赦なく攻撃は繰り広げられる。斬られた感覚、小規模な爆発、多分だけど殴られて吹き飛ばされ……。くそっ何か打開策は……!?見えなきゃ始まらない!

 

(ん……?)

 

 何か今……ハイパーセンサーに一瞬だけノイズが走ったような……。もしかしてこの感じ……!?ある事を思い立った俺は、すぐさまハイパーセンサーの機能をオフにした。するとどうだ……ごく当たり前のようにシノビンジャー全機が視認できる。……ハイパージャマーだコレー!?

 

 説明しよう!ハイパージャマーとは、某ロボットアニメにて登場する特殊兵装である。強力な妨害電波を発生させカメラやレーダー等の電子機器を機能停止させるという代物なのだ。つまり今の刹那はそれに似た障害を起こさせられている。まさかハイパーセンサーに影響を及ぼすとは……。つまるところ、ハイパーセンサーを使用している限りそこに居ても視認する事が出来ない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

(それでも!)

『『――――――――』』

 

 ハイパーセンサーを切ってるから、俺の視界は刹那を展開していない時と同等……。それでも見えているだけ良いに決まってる。シノビブルーの投げて来たクナイを疾雷、迅雷で弾くと、その隙を狙っていたであろうシノビレッドの攻撃も防ぐ。よし、反撃開始だぁ!

 

(でやああああ!)

『――――――――』

(しまった……!?)

 

 遠距離攻撃が脅威なため、レッドはスルーしてブルーを攻撃した……のだが、寸前のところでシノビイエローに割り込まれてしまう。イエローの手甲は、右腕と左腕が連結して盾のように形状が変化しているではないか。このまま止まっているのは危険だ……続けてイエローを攻撃―――

 

『――――――――』

(ちょっ、煙幕!?)

 

 イエローへと連続攻撃を加えようとすると、ピンクが腰に着いていた球体を此方へ投げた。するとボフン!という音と共に、俺の周囲には煙が蔓延する。煙玉か……!?だとすると、ピンクの役目は妨害行為だな。とにかく、ハイパーセンサーが使えない状況で視界を奪われるのはまずい!QIB(クイック・イグニッションブースト)で―――

 

『――――――――』

(またしてもかよ!?)

 

 俺が上昇しながらQIB(クイック・イグニッションブースト)を使うと、そこにはグリーンが待ち受けていた。グリーンは手早く俺に鎖を巻きつけると、俺を振り回してブン投げる。その投げられた方向には……今度はイエローが!イエローは俺の振り回された威力を利用し、強烈なラリアットを俺の首筋に見舞う。

 

(かはっ!?)

 

 巨大な手甲から繰り出されるラリアットは、相当な衝撃を俺に与えた。グリーンは大人しく拘束を解除してくれたが……これは、本当にまずい……!1機ずつ相手にしたのならきっと大した事はないんだろう。だがこのチームプレーが厄介としか言いようがない!

 

 それぞれの特性を持つ5機が、余計な事をせずに自分の特性を生かした戦いをする。……付け入る隙がない……勝てるビジョンが見えてこない……!どうしよう……怖い…怖い怖い怖い!このままじゃ……本当に殺されてしまう……。でも、今俺が逃げ出したら……こいつらは誰が抑えろってんだ……。

 

『『『『『――――――――』』』』』

(ひっ……!?)

 

 恐怖からくる笑顔は出ているが、機械故に動揺も誘えない。俺の頭の中では、逃げたい、死にたくない……怖くても戦わなきゃダメだというせめぎ合いが行われていた。それだけに、もはやまともに刹那を動かす事すら出来やしない。これでは一方的な蹂躙だ。

 

 刹那のエネルギーは、みるみる内に削られていく。やがて……本当に生きるか死ぬかの瀬戸際のところまできてしまう。刹那のシールドエネルギーが……たった今尽きた。飛電の方のエネルギーも無い。つまりは、QIB(クイック・イグニッションブースト)OIB(オーバード・イグニッションブースト)も使えない……。終わった……何もかも全部。

 

(嫌だ……こんなところで死にたくなんか!)

『『――――――――』』

(くそっ……今度は何だよ!?)

 

 すぐ目の前に迫る死の予感。その圧倒的恐怖に、俺は息を乱しながらシノビレンジャーを見つめることしかできない。そんな俺に対して、連中はまたしても不可解な行動を取ろうとしていた。ピンクがマントを外したと思えば、バサッと広げてレッドを遮るように隠す。

 

 そしてピンクがマントを戻せば……特に何の変わりもなくレッドがそこにいた。……なんなん?まぁ良い……わけの解らん行動を見せられて、逆になんだか落ち着いてきた。一撃もらったら終了?面白いじゃないか。一撃死モードなんていくつもクリアしてきた。今回もそれと同じくらいのレベルだと思えば―――

 

ザシュ!

『――――――――』

(は……?ザシュって今何の音で……あ……え……?)

 

 ……意味が解らない。どうして俺の腹から……刀が生えてきているのだろうか?恐る恐る顔だけ振り返らせると、俺の真後ろに……レッドが居た。あぁ……そうか、俺は……刺されたのか……。いや、ちょっと待とうか……。……あっ!?あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっ!!!!熱い熱い熱い熱い!腹が焼けるように熱いぃっ!!!!な、なんで……どうして!?

 

 激痛を堪えながらも腹を見てみると、おびただしい量の血液がISスーツに滲み出ていた。(アカ)(アカ)(アカ)……漆黒のISスーツをアカイロが染めている。それにこの熱……刺された感覚だけじゃない。高周振動によって刃自体が発熱し、内臓から何からを実際に焼いて……!?

 

(うぐぇ……うぉえっ!カハッ!)

 

 自らの腹の焼ける悪臭が鼻につき、俺は嘔吐と吐血を同時に行わざるをえなかった。畜生……畜生!なんで背後から腹まで貫通するような攻撃に気が付けなかった!?どうしても事実を受け入れられなかった俺は、感触を確かめるように忍者刀を握る。確かにあそこには、もう1機のシノビレッドが……!

 

(!? あぁ……なんだ、簡単な事だったんだ……。)

 

 ピンクの手の甲部分を良く見てみると、僅かな光が発せられていた。つまりあれは……ホログラフィック。あのマントでレッドを隠した時に、本体と幻影が入れ替わっていたんだ。そして恐らくコイツらは……短時間ならステルスしていられるのだろう。

 

 現在はハイパーセンサーをオフにしている。警告なんて親切なものはしてもらえない……。ステルスしている間に俺の背後に忍び寄ったレッドは、隙だらけの俺の背後から忍者刀をグッサリと……ハハ……ハハハハ……。はぁ……失血やらの影響で脳に酸素が行かないね……頭……ボーッとしてきた。

 

『――――――――』

(ひぎっ……!?も、もう少し優しく抜けやぁ……!)

 

 ズリュリとかグチャリとか、そんな音を立てて俺の腹から忍者刀が引き抜かれた。今度はジワリと……俺の腹から熱が去っていくような感覚が襲う。失血の速度はさらに加速……。もう……ダメだ……まともに……飛んでいるのも……。そんな感じで意識が朦朧としていたのだが、全身を叩きつけられる衝撃を感じてハッとなる。

 

(息……苦し……。そう……か、海か……。)

 

 いつの間にやら海に落ちてしまったようだ。身体は着々と海底へと沈んで行くが、もう俺にはもがく気力は残されていなかった。あぁ……死ぬときは迷惑かけずにって思ってたんだけどなぁ……。このままだと、行方不明って事で捜索部隊が編成されちゃうよ……。

 

 ……ゴメン、ゴメン黒乃ちゃん……キミの代わりに精一杯やってきたけど、オジサンにはこれが限界みたいだ。ゴメン……イッチーにちー姉。また家族が減る悲しみを味わわせちゃうね……。ゴメン……皆……。俺と仲良くなってくれた皆……本当にゴメン……!

 

 嫌だなぁ……死にたくないなぁ……。もっと……もっともっと、皆と一緒に笑いたかった。皆と一緒に泣きたかった。皆と一緒に……生きたかった……。そうだ……俺は、死にたくないんじゃなくて……生きたい。死の恐怖ではなく、生への渇望……。怖い怖いって思うばっかりで、生きてる実感……というか楽しみ?……いつの間にか、見逃していたのかも知れない。

 

 大事な物ほど見落としがちっていうか、死に際に見つかるなんてまたベタだね……。……もし俺にチャンスがあるんだったら、今度こそは……生きるために生きられるように……そうありたいな……。俺の意識は、やがて深淵へと落ちていく。もう2度と目覚める事の叶わない深淵へと……。

 

 

 

 

 

 

「……(たわ)けが、ようやくその言葉をひりだしおった。」

 

 雨漏りの激しい廃寺らしき場所で、禅を組んだ女がそう呟いた。女は尼の格好をしているが、頭は丸めていない。長めの黒髪を毛先の方で束ねている。またいかにもな錫杖を持っているのが尼っぽさを引き立てているのかも知れない。

 

「まぁ……ワシの元に辿り着けただけでも及第点かのぅ。」

 

 爺言葉で話す女は、いったい誰に対して……何に対してそんな台詞を呟いているのだろうか。口調は冷たく、内容も何処か酷評するかのようだ。しかし、その言葉の裏腹に……どうにも口元は楽しみや歓喜といった物が現れている。早い話が……ツンデレなのかもしれない。

 

「不可思議な女子(おなご)ではあるが……一見の価値あり。確と見極めさせてもらおう……。それでふさわしくないと判断した場合は、それまでの女子(おなご)じゃった……といったところかの。」

 

 そう言いながら女は膝に乗せていた錫杖を右手に取り、底の部分をダァン!と力強く床に叩きつけた。するとどうだ……雨音と共に、飛び立つ羽音と烏の鳴き声が反響するではないか。そして廃寺内が雨音のみに戻ると、女は再び膝に錫杖を乗せ……静かに目を閉じる。その静けさといったら、この空間で呼吸をする事すら(はばか)られるような……そんな静寂が支配していた。

 

 

 


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