かなり喋るので違和感を覚えるかも知れませんが、あらかじめご了承下さい。
(……あり?)
死んだと思ったら、何処ぞへとワープしていたでござるの巻。いや、本当に一瞬だよ。夢から覚めるとか、そんな感覚は一切なく……こうパッと。よしよし、現状をしっかりと把握しよう。周囲はバケツをひっくり返したような大雨。俺が立っているのは寺の門みたいな場所だ。
よく見てみると……雨だというのに大量の烏が門の上、それに寺の屋根で幅を利かせている。……俗に言う廃寺って奴なのだろうか。寺は酷く木が腐食しているように見え、信仰心が離れてしまった事が容易に想像できる。でも俺には、不思議と誰か本堂に居るような気がしてならない。
(お邪魔しまーす……。)
本堂の内部は、思ったよりもカビ臭い。それに雨漏りも凄いな……。いつ倒壊してもおかしくないような寺の中をグルグルと見渡す。……誰か居たとして、薄暗くてよく見えない。目を凝らしてゆっくり前へ進むと、影から急に人が現れた錯覚をおぼえた。うおっ、黒い服を着てるから闇と同化してた?
(す、すみません!)
「
(あ、はい……申し訳……?)
蹴ってしまいそうになったため、心の中で謝罪しながら数歩下がる。するとそこには、尼の格好をした女性が禅を組んでいた。というか、何か不自然な……ってそうか、会話が成立してるんだ!何……?もしかして、神秘のパワーで俺の考えている事が解るとかかな……。
「言っておくが、儂にも
(そ、そうですか。)
爺言葉で話す女性の声は、美声というよりはハスキーボイス。それはそれで興奮するところがあるよね。後ろ姿しか見ていないけど、きっとドSな感じが似合う美女に違いない。俺がそう思っていると、女性は錫杖を床に叩きつけて立ち上がる。ビクッと身体を反応させた俺に対し尼さんは……。
「直れ。」
(はい?)
「そこに直れと言うておる!」
(は、はいっ!)
女性にそう言われた俺は、すぐさま膝を折って正座の体勢をとった。今にも抜けそうな床の上で恐縮していると、錫杖でコツコツと額を突かれる。これは……説教?尼さんっぽいしその言葉は当てはまるのだろうが、俺は何か悪い事を言った……もとい考えていただろうか。
「お
(でひひ、サーセン。)
「はぁ……
俺に反省の色がないのも伝わったのか、尼さんは諦めたような表情でそういう。ただ……流石に期待した方が馬鹿だったって言われるのは不服だ。俺だって反省する時くらいあるよ。ほら……ちょうどさっきだってそうだったんだから。死にたくないじゃなくて、生きたい……ってさ。
「そう、そうじゃ。儂のしたい話はそれじゃ。」
(へぁ?)
「お
(そうは言いますけれど、人間の本質であってですね……。)
さっきからこの人すげぇ毒舌なんですけど。むしろ好印象だが、そんな事ばっかり考えてると話が進まない。なんとも俺にとっては無理難題と思われる事を言われた。ビビりでヘタレな俺からしてみれば、戦いってのは無ければ無いほど良いんだ。だってやっぱ怖いもん。
「うむ、それは至極正しい思考回路じゃ。死にとうないと思えん者は、非常に危うい。人間として必要な部分が欠落しておる。」
(えぇ……?じゃあなんで俺は怒られたんっすかね。)
「お
き、厳しっ。怖いと思うのは当然で、そこは悪くない……。でも、俺には理由が必要って事か……?なんで死にたくないか……う~ん相当に哲学的な内容になってきたなぁ。尼さんは俺の答えを待っているようだし、何か見出さないと許してはもらえなさそうだ。
……逆に、どういう思いで俺はこれまで生きてきたんだろう。なし崩しに仕方がなく?転生ライフを満喫するため?……なんだか、どちらもピンとこない。当初は確かにその2つの要因が大きかったし、黒乃ちゃんの身体を借りている以上は義務感っていうのも強くて……。
だったらいつからだろ……そう思わなくなったのは。明確にこの辺りってのは、考えても無意味かな。だって、自然とそう思うようになったんだろうから。そういう考え方が出来るようになっているって事は、俺はやはり……皆の近くで生きたくて……。でも俺は―――
「……どうした?何か思うところがあるのじゃな。」
俺は本来……居ないはずの人間だから。黒乃ちゃんは含まずの話でね。だって、この世界には確かに……藤堂 黒乃ちゃんという女の子は居たんだ。俺じゃなくて、黒乃ちゃんは確かに。居ないはずの俺は、皆の周りに居てはいけない。せめて迷惑かけずに頑張ろうって、そう思っていたかも知れない。
いや、むしろこっちの要因が大きいかもね。こんな俺でも、死んだら悲しんでくれるだろう。だけどそれは、本当に
「……お
「…………?」
「どうこうと考えながらも、お
俺が答えに近いものを導き出したのか、尼さんは目を細めながらそう語る。……そうあれたら良いなって思うけど、本当にそうなのかな。もし本当にそうなのだとすれば、俺にも新たな道が開けるだろうか。……自らで自らを認めて、皆に相応しいって思えるだろうか。
「そのような考えは片腹痛い。誰もお
(俺は……何の為に……。)
「お
(……俺は、俺の為に生きる。俺が生きたいから生きる!んでもって……皆の為に戦う!だって皆が、俺の居場所で居てくれるんだから!)
「フッ……
理由なんてなんだって良かったんだ……。俺がそこに居たいんだったら……生きてて良いんだ。そして時には支え、支えられ……そうやって皆の隣を歩いてたって良いんだ……。あぁ、なんだろうか……凄く気分が楽になった。ありがとう尼さん、俺は知らず知らずの内に……変な荷物を背負っていたみたい。
「うむ、今のお
「いらないです。」
「なぬ……?」
あっ、それとこれとはまた話が別なんで……はい。そんなパワーアップとかいらないです、心底。だってそんな事しちゃうと戦いに駆り出されちゃうじゃん。皆の為に戦うっつったけど、あくまで現状維持のアレで問題ないっす。俺がそんな事を考えていると、尼さんは突然……笑い出した。
「フッ……ハハ……ハハハハ!まことに不可思議な
(あ、あの~……?)
「ククク……うむ、儂とした事が……大事な部分を見落としておったな。一方的では意味が無い……。ならばそうじゃな、儂はこれからもお
(や、だからっ……そんなの本当に要らな……アーッ!)
どうやらこんな時に限って俺の心が読めてないみたいで、尼さんは割と似合わない笑みを浮かべながら俺の手を取った。そのまま引き起こすようにして俺を正座の状態から立たせると、その瞬間……周囲が光へと包まれていく。も、も~……勘弁してよ……せっちゃんってば……。
『……その呼び方は止めい、この
最後に呆れたような、そんな声を聴いた気がした―――
◇
『やぁっと完成したー……。』
『社長、少々お話が―――』
『あー!鶫さん良いところに来たね。これ見てよ、僕のロマンのけっしょ―――』
『はい、後で聞きますので。』
『そんな殺生なー……。刹那、後で様子を見に来るからね!』
儂が造り出された時に、そんな声を聞いた気がした。儂に命を吹き込みし……言わば創造主たる者は、どうにも変人としか言いようのない男。眼鏡の女に引っ張られて消えゆく創造主は、儂に手を振っておる。その時点で、儂を物でなく人扱いしておるのだという事が伝わった。
『とりあえず、キミを乗りこなせる人を捜さないとだね。』
それからと言うもの……創造主の言葉通りに儂に乗れるであろう人間を連れてくるとの事。この時の儂は、期待に胸を膨らませておった。大空を飛び回り、儂の主となる者の翼となる。そんな事を夢見ておった。しかし……あまりにも残酷な仕打ちをくろうてしまう。
『何よこのIS!?まともに飛べすらしないじゃない!』
『もうちょっと出力落してよ!そしたらこんなのでも貰ってあげるわ!』
……儂の性能は、創造主の趣味そのもの。普通の人間にはまず無理なのか、乗る者は儂や創造主に対して散々な罵声を浴びせよる。儂のせいにする暇があるのならば、少々は自分の腕を磨く事をせい……戯けどもが。そう……声を大にして叫びたかった。
しかし儂はあくまで機械。コアに人格が宿りしとも……儂の元へと辿り着ける者は現れぬであろう。儂はやがて格納庫に追いやられ、何やら創造主の立場も評価が下がりつつあるようだ。まぁ……無理を推して儂を造った挙句、乗れる者がおらぬなど……笑い話にもならんわ。
『ごめんねー。僕が突き詰めたせいでキミも色々言われちゃってさ。でも大丈夫、僕を信じて。必ずキミを乗りこなせる人を捜すからさ。』
会社にも人がまばらになる頃、創造主はこうして必ず儂に話しかけに来る。酔狂な輩だと思っていたが、随分と気が楽になるのも事実であった。早くせねば儂も廃棄処分であろうに、創造主に焦りは全く見えぬ。しかしある日、20代半ば程の2人組が格納庫内で話しておった会話が耳に着いた。
『鷹丸さんが天才ってのは俺も認めるよ。けどさー……どこまで本気か解んなくて怖ぇよなぁ……あの人。』
『あー……解かる解かる。鷹丸さん、あの機体に話しかけんのが日課みたいだぜ。普通に会話するみたいなんだってよ。』
『マジかよ……それただの危ない奴じゃん。ま、凡人の俺らには、天才サマの考えてる事なんか理解は及ばねーって話だろ。』
『ハハハ、そうだな。あの機体がスクラップになれば、鷹丸さんも反省するんじゃねぇ?最近我儘も過ぎるっての、いくら藤九郎社長の息子だからってよ―――』
そんな会話をしながら、ここでの用事は済んだのか2人組は去って行った。阿呆どもが……創造主はずっとそこにおる。2人が完全に去ったのを確認すると、儂の陰に背を預けるように座っていた創造主は……大きく息を吹きながら立ち上がった。
『噂話くらい、本人が居ない事を確認してからしてほしいよね。まぁそれは良いとして……朗報だよ、刹那。彼らが来ちゃって話しそびれたけど……本当の本当にキミに乗れそうな子が見つかってね。』
気にしているのかそうでないのかは解からぬが、創造主はすぐさま自分の話したい事を告げた。何やら本人の特別な感情が入り混じっているらしく、ペラペラと捲したてるように
そうして儂の前に現れたのは、たかだか10代そこらの小娘であった。……外面から人となりを判断できぬ。その小娘は、全ての感情が消え失せたかのような顔つきをしておる。事情があるようだが、それで儂の心が動く事はありはせん。小娘が飛ぶ前は、確かにそう思っていた。
儂を初操縦した小娘は、やはり他と同じでまともに飛ぶ事すらままならん。ただ……他と違う部分もある。確かに儂の出す速度に驚きはしたようだが、あくまで自らの技量不足故の体たらくだと……そう考えていた。……初めてじゃった。儂ではなく、己の非で飛べんという奴は。
(もしや、此奴となら……。)
思えば、この時には既に
(ぴぃ!?怖いぃ!)
(こ、此奴……見た目と考えている事が全く噛み合わぬ!)
主が儂に乗っている間は、不正確であろうが感情もいうものを読み取りやすい。……読めん方が良かった気もするのぅ。この小娘……ズレておるというかなんというか。
しかし……単にそれだけの者ではないのも確かであった。少々いきすぎなくらいに、他人の事を配慮し生きておる。その根幹には、自分が本当に此処に居て良いのか……そんな感情も含まれておった。まぁ……戦闘時に関しては、本気で怖がっている場合が多いが……この際それは良しとしておこうではないか。
ともかく、主がそのような事を思うのは筋違いである。他者の為に生きる事、それはそれで立派じゃ。しかし……己を律する事も出来ぬ物に、真に他者を気遣う事が出来ようて。主は……十分友に慕われておるよ。じゃから……胸を張れ、自信を持て。まずお主が始めるべきは……自らの為に生きる事じゃ。
……と、言って聞かせる事は簡単であろう。その為にはまず、あ奴が答えを求める事じゃ。さすれば自ずと道は拓かれようて。そう思うておると、ようやくしかるべき時が来たようだ。まさか……死にかけのタイミングとは思わんかったが。それでも……じゃ、主はこうして儂の目の前に現れた。それすなわち、答えを捜して彷徨うておる証拠よ。しかし―――
「…………。」
確と感じたぞ、この戯けが。今こやつ……儂に邪な感情を抱きよった。頭が痛い……これが儂の認めた主とは。日頃から言いたい事は多かったが、これだけはやはり言っておかねば気が済まぬ。儂は不機嫌そのものの様子で立ち上がり、主を目の前で正座させる。
「お
(…………。)
「はぁ……
具体的には解からぬが、何やら平謝りをされた気がする。反省の色なし。終いには見放してやろうか。仕方あるまい……今回は、儂しか知らぬ主の一面と思うて置く事にしておいてやろう。うむ……何やら良き響きだ。さて、本題に入るとしようかの……。丁度……こやつも自らの心境の変化に着いて考えておるようだしの。
「そう、そうじゃ。儂のしたい話しはそれじゃ。」
(…………?)
「お
(そうは言いますけれど、人間の本質であってですね……。)
よほど儂に伝えたいのか、今度は言葉としてはっきり聞こえたぞ。阿呆めが、そこがズレておるから指摘しているのであろうに。まぁ……無自覚な事柄故に致し方なし。しかし……主の抱くズレは、病的なほどでもある。どう話を持っていけば良かろうか。
「うむ、それは至極正しい思考回路じゃ。死にとうないと思えん者は、非常に危うい。人間として必要な部分が欠落しておる。」
(…………?)
「お
儂が指摘するのがダメならば、本人に考えさせるのが定石よ。変に真面目な主ならば、儂の質問に答えようと考えを巡らす事であろう。すると想像通りに、悩むような……モヤモヤとした主の感情が流れ込んでくる。内容が内容なせいか、思考が読み辛いのぅ……。しかしじゃ、しっかり察知させてもろうたぞ……主よ。
「……どうした?何か思うところがあるのじゃな。」
そう問いかければ、主の思考は加速した。それと同時に、己が友と一緒に居て良いのかと言う想いも強くなったのを感じる。他者に迷惑をかけとうないという……そんな2つの恐れが混在したズレが、儂の中へと流れて来よった。戯けが、阿呆が……お主は、その言葉に尽きるよ……主。
「……お
「…………?」
「どうこうと考えながらも、お
さぁさぁ主よ、手掛かりは相当に与えたぞ。後はお主が……目の前に当然のように転がっておる答えをその手に掴むのみよ。簡単な事なのじゃ……お主の抱えておる問題など、あってないようなものじゃ。そのズレを矯正出来た時、お主は―――
「そのような考えは片腹痛い。誰もお
(俺は……何の為に……。)
「お
(……俺は、俺の為に生きる。俺が生きたいから生きる!んでもって……皆の為に戦う!だって皆が、俺の居場所で居てくれるんだから!)
「フッ……
機械の分際で人間の複雑な感情を語る事こそ片腹痛いのかもしれぬが、まぁ……見てはおれんかったのでな。うむ……良き答えじゃ。その為に儂がおる。その為にお主は儂とまみえた。さすれば、最後の仕上げと行こうかの。儂は、主に向かって手を伸ばす。
「うむ、今のお
「いらないです。」
「なぬ……?」
こやつ……考えでなく、キチンと言葉にして伝えおった。儂は思わず面喰い、マヌケな声を上げながら聞き返してしもうた。そうか……こやつは、儂の言い方が気に入らなかったのであろう。思わず笑いが込み上げてしっかり主の思考を読めぬが……きっとそうに違いあるまい。
「フッ……ハハ……ハハハハ!まことに不可思議な
(…………?)
「ククク……うむ、儂とした事が……大事な部分を見落としておったな。一方的では意味が無い……。ならばそうじゃな、儂はこれからもお
込み上げてくる物を押さえる事が出来ずに、儂は豪快に笑ろうて見せた。そうじゃのぅ……儂とお主は一心同体であったのう。主が儂の四肢となりて、儂は主の翼である。それはいつまでも変わりはせんし、これからはより洗礼されたものとなろう。さぁ主よ、これで文句はなかろ?
(―――せっちゃん)
「……その呼び方は止めい、この戯け。」
……機械の儂に綽名などつけよってからに、創造主も主も酔狂な事よ。しかし……うむ、悪くない……少しだけな。儂らを光が包み込む中、思わず被っておった托鉢笠を手で抑え……より眼深に位置取る。コレはあれじゃ、光が眩しかった故……決して照れ隠しではあらん。ともかくとして、共に飛ぼうかの……主よ。リベンジマッチと言う奴といこうではないか。
黒乃→パワーアップとかいらないんだよなぁ……。
刹那→うむ、儂と共に強くなろうぞ……主よ。