「ねぇ、ちょっと黒乃。」
「姉様、返事はともかく反応をしてくれないだろうか。」
「……いい加減に落ちるわよ、それ。」
(ん……?どわっち、オイラのゆで卵!)
「流石だな姉様、そう来られると私は何も言えん。」
IS学園にやって来た昼休み。俺はたまたま時間の合わせる事の出来た鈴ちゃん&ラウラたんと食堂を訪れていた。何事かと聞かれると、注文したラーメンのトッピングの頂点にあるゆで卵が落下しそうになったのだ。もやしの山の頂点にあるのが悪いと思うが、落ちかけたゆで卵は空中でなんとか箸でキャッチ。
う、うむ……とっさの行動とは言え上手く行くもんだな。特に卵は楕円形をしてる上にツルツルしているというのに。俺が内心で安堵の表情を浮かべていると、何やら鈴ちゃんとラウラたんがジーッと見てくる。な、なんですかその凝視は?こんなのホントにただの偶然で―――
「アンタさぁ、最近ボーっとし過ぎじゃない?」
「うむ、授業の時はそうでもないが……それ以外となると少し酷いぞ。」
(そ、そうかなぁ……いつも通りのつもりなんだけど。)
ボーっとしてる……か、冗談とかじゃなくて深刻な顔してるから心配になるレベルなのかも。どうかなぁ……基本的にのんびりしてる方だと思うんだけど。ドジやる比率もそうそう変わっている気はしない。でもそう言われる原因は、まぁ……心当たりがないわけじゃないけど。
「もしかして、まだ一夏と仲違い中だったりしないわよね。」
「おい待て鈴、それは本人同士に言わない約束では―――」
「良いじゃんじれったい。こんなにボーっとされると居心地悪いってのよ。で、どうなの?」
(そんな事ありまセーン……。)
「解り易っ!?アンタと付き合い長いけど、こんだけ解り易かった事なんて初よ初!」
皆がそれなりにイッチーと俺の関係修復に専念していたのは知っている。だが、やっぱり上手くいかなくて……。皆が頑張ってくれているのにという申し訳なさから、俺は盛大に顔の方向を逸らした。鈴ちゃんに見事なツッコミを入れられてしまったではないか。
「……ったく、そんだけ気まずいってお互い何しでかしたのよ。」
(何って……。……はぁん!思い出すだけで恥ずかしぃよぉー!)
「なっ、ねっ、姉様!?もやしの……もやしの山が倒れてしまいます!」
「これはかなり重症ね……。」
鈴ちゃんが俺達の身に何があったかと聞くものだから、例の事件に関して鮮明にフラッシュバックしてしまう。顔から火が出るような感覚に耐え切れず、俺はテーブルに向って思い切りのいいヘッドバッドをかました。そのせいでテーブルが揺れたのか、ラウラたんは俺のラーメンの心配をしている。……僕のオデコの心配は?
(まぁ別にいいけど……。)
「ねぇ、アタシらには相談できないわけ?」
(ダメ、それだけは絶対に出来ない!)
「ふぅん、アタシが言ってもダメならダメね。」
「おい鈴、何故そこで誇らしげになるのか説明してもらおうか。」
もし仮に話せたとしても絶対にヒロインズだけはいかん!さもなくば、俺かイッチー、または双方が酷い目に合うのは目に見えている。俺が首を左右に振ると、鈴ちゃんは腕を組みつつドヤァ……としつつ、それなら仕方ないと大人しく引き下がってくれた。ラウラたんはなんか鈴ちゃんを睨んでる。
「……姉様、それでは教師陣に相談してみるのはいかがだろうか?」
(教師……?)
「あー……うん、それもアリかも知れないわね。アタシらなんかより人生経験豊富だろうし。けど黒乃が頼れるっていったら……。」
「近江先生くらいか……。」
仲が良いと言うよりは、教師ならば身近なと表現する方が適当か。山田先生は……こういう言い方はなんだけど、親身にはなってくれそうでも少し頼りない。ちー姉は……そもそも公私混同がどうので、学園内ではまともにとりあってくれなさそうだ。なら身近で頼れると言えば、鷹兄になるわけだな……。
「してみる。」
「してみるって、相談?近江先生に?……どうかしらねぇ。」
「提案しておいてなんだが、あの人はどうも―――」
(大丈夫、鷹兄は相談って言ったら真剣に聞いてくれるよ。……きっと、多分、メイビー……。)
「まぁ、黒乃がそう言うんなら止めないけど……。」
「ならば私が適当に捕まえて、事情を説明しておこう。」
なんだかんだ言って鷹兄のおかげでマイエンジェルが助かったってのもあるし、相談してみる価値はあると思う。俺が鷹兄に相談を持ち掛ける決意を固めるが、2人はどうにも渋い顔を見せた。俺が真っ直ぐな瞳で首を頷かせると、2人共納得してくれたみたい。ラウラたんに関しては、相談の場を作るところまで手を貸してくれるとの事だ。
そんな会話があった翌日。早速鷹兄からの呼び出しがあった。ラウラたんが上手く事を運んでくれたのだろう。ただ、呼び出された場所が解せない。生徒会室って、なんでなんだ?あそこにはなるべく近づきたくないんだけどなぁ……フラグ的な意味で。
(そうも言ってられないんだけどね……。)
こちらから相談を持ち掛けた以上は、相手に合わせなければ失礼と言うものだ。何とか生徒会室までたどり着いた俺は、出入り口を数回ノック。すると、中からはどうぞ~と非常に緩い声が聞こえてくる。それを合図に、俺はゆっくりと扉を開けた。
「やぁ、いらっしゃい。遠いところをわざわざごめんね?なんだか相談があるって聞いて、ここを選ばさせてもらったよ。」
(いえ、どうせ学園内ですし。)
「そうかい?じゃ、とりあえずは適当な席に腰掛けてよ。」
中まで案内されると、とにかく座れと促される。俺が適当な回転椅子に腰かけると、鷹兄は俺の真正面へと座り直した。まぁ、相手と1対1の時の基本だよね。なんだか面接みたいな気分になるが、リラックスするよう自分に言い聞かせ、鷹兄の出方を待った。
「悪いけど、事情はいろいろとボーデヴィッヒさんから聞いてるよ。織斑くんと喧嘩中で、それをどうにかしたい……って事で良いんだね?」
(喧嘩って程でもないんだけど、だいたい合ってます。)
「そうかい。う~ん……そうだねぇ。」
俺が喋れないのだから、前情報を得るのは自然な事だ。俺もいちいちそこを気にしたりはしていない。しかし、後に続いた質問には肯定を示す。それはそれで、鷹兄は少し難しそうな顔を浮かべた。これからどうするべきかを思案しているのだろう。まぁ……俺相手には困るよな。
「そっかぁ……つまり、仲直りしたくないほど嫌いになったとかそういう事でもないんだね。」
(はい、そもそも俺がイッチー嫌いになるって絶対にありえないですから。)
「じゃあ何かな、キミはどうして織斑くんを避けてるんだい?」
「…………。」
やっぱり鷹兄だって、原因を知らなければどうしようもないだろう。そもそも、ヒロインズには話せないって事なんだもんな。だから鷹兄を頼る事にしたんだ。口に出せるかがどうかがまずは賭けだし、死ぬほど恥ずかしいが……言おう、イッチーを避けてる原因を。
「キスされました。」
「……キス?マウス・トゥ・マウス?」
(こ、こんな時に魚の話したって仕方ないでしょ。)
俺が率直にキスしたと言えば、鷹兄は細かった目をパチクリと開きながら聞き返してきた。それを肯定した後は、超レアな鷹兄劇場が繰り広げられる。鷹兄は頭を掻いてみたり、う~んと唸ってみたりといつもの様子ではない。ようやく纏まったのか、鷹兄はまずこんな提案を出す。
「ここから先いろいろ質問するけど、肯定なら頷く、否定なら首を左右に、解らないなら首を傾げて、答えられないなら微動だにしないでね。……良いかい?」
(うん、了解。)
「ん、ありがとう。それじゃあまず……彼にキスされて嫌だったかい?それとも嬉しかった?」
(い、いや……正直そこが1番解らなくて……。)
鷹兄の質問1発目は、早速首を傾げる事になった。本当に、そこが全然解らない。もっと言えば、嫌ではなかった……けれど、なんとなくイラッときたのもある。だからこその解らない、だ。出鼻でも挫かれたのか、鷹兄はまたしても考え込んでから口を開いた。
「じゃあ嫌ではなかったと受け取らせてもらうとして、距離を置くのは怒っているから?」
(ううん、怒ってはないよ。やっぱり気まずいんだよね……。)
「なるほどね、じゃあ単純に気まずいわけだ。つまり、キミは別に織斑くんとキスするような関係ではないと思ってるんだね?」
(そう、それそれ!)
俺とイッチーが恋人同士なら別に、その……やぶさかじゃないんだけど。そんな告白もされてない相手からキスされたって……ねぇ?あ、その、だからと言って、別に告白してほしいとか、告白待ちとか全然そんな事はないんだけどね?ほら、あくまで例えばの話だから……。
「織斑くんがキミにどうしてキスしたかは理解できるかい?」
(いえ、そこは全く……。)
「ああ、そう……キミもなかなか大概だね。ふぅむ……キスする相手とは思ってない織斑くんからキスされて、その理由が解らない……かぁ。なるほど、それは気まずくはなるねぇ。」
む、今何だかそこはかとなく馬鹿にされた気がするぞ。なかなか大概って、どっかの誰かと比較したな?まぁそれは置いておくとして、鷹兄が現状把握してくれたかどうかに賭けるしかない。最後の呟きで、なんとなく察してくれた感はある気がするが。
「もう1度聞くけど、仲直りしたいんだよね?」
(はい、したいです!)
「じゃあこっちも同じくもう1度。キミは別に怒ってるんじゃないんだね?」
(はい、怒ってはないです。)
「うん……じゃあこんな事しか言ってあげられないんだけど、キミも織斑くんも忘れて無かった事にするしかないんじゃない?」
無かった事に……。それは確かに良い手だったりするのかも知れない。今までキスした事すら言えなかったからか、そんな簡単な事にも気が付けなかった。というか、そうじゃん……わざわざイッチーから逃げなくても、知らん顔してれば良かった話かも……。だけど―――
「きっかけ。」
「……そっか、散々逃げ回ったから今更ってのもあるんだね。きっかけねぇ、確かにそれは大事だよね。」
(う゛……そうか、俺から歩み寄らなきゃなんなくなったのか……。)
「そうだ、こういうのはどうだい?キミは聞いた話によると、家事が一通り出来るんだよね?それなら、彼に手料理でも食べさせてあげなよ。真心込めて作った料理を食べてもらったら、仲直りしたいって気持ちは伝わるんじゃないかな。」
(うん……うん、それも良い手なのかも!イッチーは俺の料理が好きだって言ってくれたし、沢山好物を作ってあげたら……。)
「お、肯定してくれるのなら、お役に立てたって事かな。」
誰が怒っていたり許せない相手に対して、お弁当をわざわざ作って渡したりする?流石のイッチーでも怒ってないって思ってくれるはずだよ。良かった……料理得意でよかった!乙女スキル万歳!そうと決まれば、早速明日のお昼にでも……って、そもそも会うのが気まずいイッチーをどう誘えば……?
「話は聞かせてもらったわ!この生徒会長が協力しようじゃないの。」
「おや、お帰り更識さん。特訓はもういいの?」
「ええ、近江先生が相談に乗ってるって聞いて飛んで来たわ。ところで黒乃ちゃん、織斑くんの誘導は任せてちょうだい。私は人払いとかも得意よ~?」
「更識さんの協力が得られるのは大きいね。じゃあ……こうしようか。」
乱暴に扉が開くと、そこには生徒会室の主が。有り難い事に、俺に力を貸してくれるそうなのだ。問題であったイッチーの誘導もこれで解決。話の流れを纏めるように、鷹兄がこう提案する。イッチーにも仲直りに協力すると明日の放課後にでも告げ、その更に翌日の昼休みにイッチーを屋上へ呼び出す。
イッチーを屋上へ呼び出す日には、俺が朝の内から用意しておいた弁当を渡すと……大体そんな感じ。ハプニングさえなければ、ほぼ100%くらい上手く行きそうだな。俺が怒ってないと伝えられればそれで丸く収まるんだし。ぬぐっ、きっかけはイッチーが作ったが……こじらせたのはやっぱり俺か……。
そうして時間は過ぎて、作戦決行の日へ。朝早く起きた俺は、調理室を借りてお弁当作りに励んでいた。イッチーの分だけじゃなくて俺のも必要な事を思い出し、慌てて起きたんだけどね……。しかし、なんだろうか……普段は起きるのが億劫なはずなのに、今日はなんだか―――
(……えへへっ。)
少し気分が弾む。なんだか料理が楽しくって仕方ない。……なんでだろ?たかだかイッチーに食べてもらうだけなのに、なんでだろ。むふっ、でも……やっぱり楽しい。表情筋が動けば、だらしない面が出来上がりそうなほどに。えへっ、えへへへへ……なんだろう、なんなんだろう……この感情は。
……なんだか、最近はこうして楽しいって思う事すら少なかった気がする。皆もなんとなく気を遣って、盛り上がりもわざとらしかった感じだし。そして何より、イッチーと一緒に居られなかったから……かな。……なんだろうか、今度は心臓がズキズキ痛むような気がする。
(浮き沈み激しい……情緒不安定かな?)
いや、あながち間違っていないのかも。……イッチーが隣に居てくれないと、調子……狂う。……だからこそ、さっさと仲直りしろって話ですよね。よしっ、鷹兄の言う通りに真心こめて頑張ろう!そうやって気合を入れ直し、弁当を作った結果―――
(張り切り過ぎた……。)
当初の予定をオーバーした量の品数が出来上がってしまった。用意した弁当箱には確実に収まりきらないや……。確か部屋にピクニック用とかのがあったはず。急いで自室と調理室とを往復して大き目の弁当箱に料理を詰めていくと、ちょうどピッタリ収まった感じだ。
(うん、結果オーライ。後は、昼休みを待つばかりかな。)
痛みそうなものはないし、時間が来るまでは自室に放置しておけばいいだろう。なんかまた戻るのが凄まじく効率悪いんだけどね……。いくら効率が悪かろうと、調子に乗ったのがそもそもの始まりだから何とも言えない。自室に再度戻って時間を確認してみると、いつも起きる時間を少し過ぎているじゃないか。
(おっと、朝ご飯を食べる時間がなくなるな……。少し急がないと。)
ホントはしれっといつもの時間に食堂へいるつもりだったんだけど、なんだかんだでギリギリだ。かと言って遅刻しそうかと聞かれればそうでもない。慌てず騒がず、いつもの調子を意識するかのように振る舞った。そうして時間は過ぎ去り、昼休みがやってきた。
『屋上の人払いは万全だし、織斑くんも呼び出しておいたわ。後は頑張って!』
とのメールを受け取り、急いで弁当箱を回収して今は屋上の出入り口の前だ。たっちゃんには感謝しかないな……。恩に報いるとするのなら、意地でもイッチーと仲直りしてみせるしかないだろう。落ち着けよ、深呼吸して……よし、行くぜ!
「……おかしいな。……何か仕掛けられているふうでもないし。」
(や、やぁイッチー……。)
「うん?なぁっ!?くっ、く、く、く黒乃!?」
イッチーも今着いたばかりなのか、何か不吉な事を呟きながら前方180度を見渡していた。あまり驚かせてはいけないと思って肩を指でちょんちょんと突いたのだが、効果は薄かったようだ。そもそもイッチーは俺がここに居ること自体が驚きみたいで、ズザザッと距離を取ってみせる。
「黒乃!その、夏休みの事だけど―――」
(ああ、もうそういうのお互いに言いっこなしだから……ね?)
「う、五月蠅いとか……それとも黙れとか言いたいのか……?」
(な、なんでそうなるの……そんな酷い事は言わないよ。)
距離を取ってから数拍間が空くと、イッチーが意を決したかのように顔を上げた。夏休みと出た時点で弁明を図ろうとしているのが丸解りだが、今日はそういうのを全てリセットしにきたのだから続きは言わせない。俺が唇に人差し指を当てると、なんだかイッチーは恐縮した様子で言葉を止めた。
(まぁとにかく座って座って。)
「く、黒乃……?ここに座れって、いったい何を……。」
(ジャーン、これなーんだ?)
「……それ、弁当か!?」
やっぱり俺が怒っている体でイッチーは話を進める気らしい。弁当を作っておいて良かったな……。これで怒ってないってのは伝わってくれるはずだ。とにかくイッチーをその場に座らせ、背後に隠すように置いておいた弁当箱を取り出した。するとイッチーは、目玉を大きく見開いて驚きを隠せない様子になる。
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ黒乃!俺は黒乃に……その、いきなりキ、キスして―――」
「もう良い。」
「へ……?」
「仲直り。」
むっ、言葉は出たけどもう良いってのは少し言い方が悪い気もする。うん、とにかくもうイッチーが思いつめる事ないんだよ。とりあえずあの件はお互い水に流そうよ。俺はそんな気が満々なんだけど、どうにもイッチーは表情が渋い。納得できるかよって顔してるなぁ。
「そんな……だって、黒乃は何も悪くない!俺がどうにか謝ってれば済む話だったんだから、黒乃がそんな―――」
「……嫌だよ。」
「く、黒乃……!?」
「もう、今みたいなのは……嫌。」
自分を責めるかのようなイッチーの姿勢に、なんだか胸中にモヤッとした感情が溢れてきた。気づけば私は膝立ちの状態になって、イッチーへと抱き着いているではないか。あぁ……本当に、ずっとこのままだなんて嫌だよ。納得なんかしなくたって良いじゃん。元通りの関係に戻れるのなら、私はそれで良い。
だって、イッチーが居ないとダメだもん。学校生活が全然楽しくない……。もう……良いよ、お願いだから隣に居て。私の隣で笑っていて……。自分から避けておいてなんだけど、キミの隣に居られるんだったらなんだって良い。お願い……お願いだから―――
「……ありがとう黒乃。そんでもって、ごめんな黒乃。俺に出来る事があるななんだってする。だから、元通りになろう。俺も嫌だ……嫌なんだ。」
「約束……。」
「っ……!?ああ、そうだな……ずっと一緒だ。これからは、これからも、ずっと……。」
あはっ、嬉しいな……イッチーも嫌だって言ってくれた。私が隣に居ないとダメだって思ってくれた。そうだよね、ずっと一緒に居たんだもんね……今更離れられるもんか。だから約束、今度はお互いちゃんと守ろう?ずっと一緒、私が居なくなったって、ずっとずっと……。フフッ、我ながら盛大に矛盾してるけど。
「……飯にするか?」
(うん、そうしよっか。あのね、イッチーの好物いっぱい作って来たんだよ!)
しばらく互いに抱き合ったままだったけど、なんだか照れくさそうにイッチーは私を離した。そうしてご飯にしようとの提案に、私はすぐさま食らいついた。イッチーの為にイッチーが好きな物を沢山作ってきたわけだし、美味しく味わってもらいたいじゃん?私は何処か誇らしげに、お弁当箱の蓋をパカリと開いた。