八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第77話 戻る日常 変わる心境

「黒乃、今日という今日は止めてくれるなよ。絶対に文句を言ってやる……!」

(アッハイ。まぁ……ほどほどにね)

 

 学園祭も終わりを告げ、当たり前の日常へ戻ろうとしている。そんな最中、私達2人はたっちゃんに生徒会室へ顔を出すよう呼び出された。イッチーはグッと拳を握って、たっちゃんへの抗議を固く誓っている様子だ。というのも、今後の自身の扱いに関して不満があるのだろう。

 

 そもそも学園祭は、半ば織斑 一夏争奪戦と化していた。ルールとしては、学園祭の出し物で最も成果を出した部活動に部活無所属のイッチーを配備させるというもの。でも、これが見事に出来レースなのだ。生徒会企画であるシンデレラは、半ばどころか本格的にイッチー争奪戦だったり……。

 

 イッチーの王冠を奪った者は、イッチーと同室になれるとかなんとか。そうなると、学園中の女子は参加せざるを得ないでしょう?つまり、初めから生徒会が得票数1位を獲得する事なんて目に見えている。まぁ参加した方が悪いと思うが、それを知って女子達は不満爆発。それを鎮めるためにたっちゃんは―――

 

「無茶苦茶だろ、全部活動に顔出さないとならないとか……」

(どうどう……。ほらさ、イッチーが無所属だったのが事の発端―――ってのはあまりにも理不尽か)

 

 そう……生徒会がイッチーを管理する代わりに、申請さえすれば貸し出せるシステム。それなら別にと女子達は大人しくなったわけだが、本当にそれで良いの?……イッチーは物じゃない。好きになった影響なのか、なんだかイッチーの扱いにモヤモヤしてしまう私が居る。……どんな形でも、慰めてあげたいな。

 

(う~ん……。やっぱりどうしても受け身になんなきゃならないのはしんどいな。イッチーの方から甘えてきてくれれば最高なんだけど……。ムフッ。えぇ、それはもうイッチーが望むならあんな事やそんな事だって―――)

「黒乃、考え事か?もうすぐ着くから後にした方が良いと思うぞ」

(……ウィッス)

 

 なにやってん……ホントになにやってん私……。一気に頭ん中乙女脳になり過ぎでしょ!?思わず立ち止まるレベルで妄想とか……。これは黒乃ちゃんの影響ですね、間違いない。……なんて黒乃ちゃんへの熱い風評被害は置いて、小走りでイッチーとの距離を詰めた。

 

 とにかく、今は目の前の問題を切り抜けるのが先決か。たっちゃんが何の用事で呼び出したか解らない以上、集中して事に臨むべきだろう。あの人ってば食えないからねぇ。それに鷹兄が加わるっていうある意味で絶望的なコンボだもの。ここに来て憂鬱な気分を露呈させながら、私達は生徒会室の扉を潜った。

 

「ようこそいらっしゃいましたーっ!虚ちゃん、お茶!本音ちゃんはケーキ!近江先生は……そうね、2人を丁重にご案内して!」

「かしこまりました」

「かしこまり~!」

「はいはい了解」

(……なんだこの好待遇?)

 

 私が扉を潜るや否や、たっちゃんは会長用らしき椅子を蹴散らしながら立ち上がる。手早くメンバーに指示を出すと、皆はそれぞれ命令に従った。熱い紅茶が出て来て、高級感溢れるケーキが並べられ、鷹兄がこの席へどうぞと言わんばかりに椅子を引く。これには2人揃って面食らうしかない。とりあえずは―――

 

「何用?」

「っぴぃ!?」

(……ぴぃ?)

(や、やややや……やっぱり怒ってる……?)

 

 まず何の用事なのかを聞こうとすれば、返って来たのは名状しがたき悲鳴にも似た何か。まるで意味が解らんぞ!目を細めてたっちゃんを観察してみると、なんだか秒読みで顔が青白くなっているような……?大丈夫なんですかね、この生徒会長さん。

 

「まぁ落ち着きなよ更識さん、その問題についてはほぼほぼ解決してるでしょ?」

「わ、解ってるわよ……。う、うん!え~っと、貴方達を呼び出したのは、いろいろ説明するべき事があると思っての事よ」

「……あの女とかの事ですか?」

「それもあるけど、まずは感謝させて。2人が彼女を倒してくれたおかげで、こちらとしても非常に助かったわ。そして黒乃ちゃん、多くの人を守ってくれてありがとう」

 

 たっちゃんは、一度の咳払いで顔つきをキリッとしたものに変えた。そうして、まずは私とイッチーに感謝の意を述べる。まぁ、ホントはたっちゃんの出番を奪っちゃってるんでしょうけどね、イッチーがバッサリ斬っちゃいましたから。思えば、あの時のイッチーはかっこよかったな……。

 

「長くなってもいけないし、本題に入りましょう。ん~……何から聞きたい?」

「えっと、じゃあ……あの亡国機業とかいう連中って、いったいなんなんですか?」

「平たく言えばテロリストね。それも並みの規模じゃない……と、私達は踏んでる。ずぅーっと前から暗躍しててねぇ、嫌な事に長い付き合いなのよ……私達」

 

 何から話していいか曖昧なのか、たっちゃんは質問に受け答えする形式で話を進める。イッチーがまず質問したのは、当然ながら亡国機業について。全貌はたっちゃん達も把握し切れていないのか、非常にうんざりした様子で扇子を開く。そこには、有象無象と書かれていた。

 

「私達って言ってますけど、それっていったい……」

「それは……どう説明すれば良いのかしら」

「全部言えば良いんじゃな~い?おりむーとくろっちなら知られても問題ないと思うよ~」

「……それもそうね。では改めて自己紹介!お2人共、初めまして。私は対暗部用暗部更識家17代目当主の更識 楯無よ、どうぞお見知りおきを」

 

 たっちゃんは、一度閉じた扇子を勢いよく開きながら堂々と名乗りを上げた。開かれた扇子には、これまた堂々と頭領の2文字が。なんだかたっちゃんは得意気だし、のほほんちゃんははしゃぎながらパチパチと拍手を送る。そうして、肝心のイッチーはと言うと―――

 

「ちょっと織斑くん、その目はいったい何かしら?」

「可哀想な人を見る目です」

「いや、別に中二病とかそういうのではないから!本当なの……信じて!」

「日頃の行いですね」

「ブッ!プフフフフフフ……!」

 

 ジトーッとたっちゃんを見る目……これは本当に信じてない目っすわ。虚さんの日頃の行いってのは金言だと思う。その身に刻んで、どうぞ。というか、鷹兄は笑いすぎでしょーよ。一応は堪えてるみたいだけど……あっ、たっちゃんにお尻蹴られてら。

 

「ん……?あ、そうか。だからこのタイミングで俺を鍛えるって接触してきたんですね」

「そう、そういう事よ!どうにも2人が狙われてるみたいだったのよね……。そうそう黒乃ちゃんには手出しできないとして、織斑くんはまだまだだから」

「……部屋の件に関しても?」

「そうね、プライベートを狙われたらたまったもんじゃないもの」

「でも、楯無さん完全に楽しんでましたよね?」

「…………否定はしないわ、えぇ」

 

 おろ、イッチーが珍しく推理ってのを張り巡らせているぞ。まぁいきなり狙われてるから鍛えますって言われたって、そう実感が湧かないだろうから強硬だったんだろうね。だが、イッチーの追及はそこで終わらなかった。それは、たっちゃんと突然同室になった事へ及ぶ。

 

 知識として知ってはいるが、裸エプロンもどきやらで盛大にからかわれていたもんな。それが必要だったかと聞かれれば、絶対にノーだろう。たっちゃんはどうにも気まずいのか、顔を逸らしながら楽しんでいたと肯定する。……あっ、鷹兄がまたしても静かに笑っていらっしゃる。

 

「……まぁ、それはもう言わないでおきます。俺、楯無さんに感謝してる部分もキチンとありますから」

「あ、あら……それは意外ね」

「強引でも鍛えてもらってなかったら、俺はきっとオータムって奴には勝てませんでした」

 

 事実、私の知る世界線では大敗を期している。ちー姉の件を暴露され、激高し、直情的な戦いしかできなかったイッチーは……。どうしてこの世界線のイッチーが冷静で居られたのかは解らないが、それを抜きにしても地が出来ていなければ話にならない。イッチーは、だからこそ感謝しているんだろう。

 

「あの、楯無さん。何かあったら協力させて下さい。その代り―――俺をもっと厳しく指導してほしいんです」

「……その言葉、偽りはないかしら。言っては悪いけど、今までの指導はまだまだ全然よ?」

「地獄見てでも食らいつきます。どうしても、守りたい人が居ますから」

 

 そう言うイッチーの顔は、男らしいという表現が似つかわしい。そうして、机の下で皆には悟られないよう―――私の手をそっと握った。心臓の鼓動が早まる。だけど、私もその手を握り返した。もっと心臓が早く動く。けれど、今はこの鼓動が心地良く……文字通り手放したくなんかない。

 

「うん……貴方の覚悟は十分に伝わったわ。それなら、このお姉さんに任せなさい!」

「はい、ありがとうございます!」

「で、それとは別に1つビッグプレゼントね。さっきの私と同室って話に戻すけど、あれって要するに抑止力になっちゃえばなんでも良いのよね。と言うわけで~……貴方達2人、今日から同室で」

「……は?……はああああ!?」

 

 

 

 

 

 

「―――は?ア、アンタ今……なんて言ったの?」

「私は一夏から手を引くと言ったんだ」

 

 同時刻、箒によって食堂に集合をかけられた専用機持ち達は、衝撃のひと言に耳を疑った。話があるとしか言われなかったが、まさかそんな内容だとは誰も想像がつかなかったようだ。言った本人の目には、揺るがない決意や想いが宿っており、本気の本気だと見て取れる。

 

「……見損なったぞ。随分と諦めが早いじゃないか」

「諦め……。まぁ、どんな言い訳を重ねても本質はそうなのだろう。だが―――」

「……差し支えなければ、どうしてその結論に行きついたかお聞かせ下さいな」

「そうだよ、争う対象だけど……何も知らずに離脱なんてしてほしくないもん」

「……解った、話そう」

 

 一夏を諦めるという箒の宣言を前に、ラウラはかなり厳し目な言葉を送った。ラウラの性格を考慮するならば、あえてと言う線も考えられる。しかし、箒は何を言われても受け入れる気でこの場に居るらしい。厳しい言葉を鵜呑みにし始めようとする箒を制し、なんとか話の流れを確保する事が出来た。

 

「なんと言えば良いのだろうな。私としてはもう、かなりスッキリとした気分なんだ。こう……清々しい大敗を期した時のような、悔しいとも思えない程の感覚……と言えば伝わるか?」

「うん……言葉に出来ないけど、解らなくもない……わよね?」

 

 箒はうむむと眉間に皺を寄せながら、自分の想いを語り始めた。どうにも表現するのが難しいらしく、なんとか伝わればと手探りの状態ではあるが。だがそこは代表候補生達だけに、箒の言う清々しい大敗というのを経験しているらしい。鈴が同意を求めると、他の3人も黙って首を頷かせる。

 

「あんなのを見せつけられるとどうもな……。今まで見て見ぬフリをしていたつもりだが、やはり私のつけ入る隙は無いのだと思い知らされたよ」

「シンデレラの件だな」

「ああ、そうだ。……ここから先、お前達の士気を下げてしまう発言もあるだろう。そこに関しては本当に済まない……この通りだ。しかし、お前達は正しく私のライバルだった。だからそのケジメとして、話させて貰う事にする」

 

 語り始めた箒の表情は、悔しさも紛れてはいるが、やはり爽やかな様子だった。やれやれだ。とでも言いたそうな様子で、箒は席に深く背中を預ける。そうして真剣な表情で4人へ謝罪を述べると、本格的に一夏を諦めた理由を語り始めた。それは、箒だけでなくこの場の全員が見て見ぬふりをしていた内容だ。

 

「一夏と黒乃、あの2人につけ入る隙などどこにもない。アイツの……一夏の目には、黒乃しか映ってはいない」

「……そんなのは解り切った事ですわ!」

「そうよ、アンタそれで諦めるってふざけんじゃ―――」

「待って、2人共!……今は、箒の話を聞いてあげよう?」

 

 そう……一夏が黒乃を好いている事なんて、誰の目から見たって明白だった。この場に居る全員は、それでもと必死で一夏を振り向かせるため奮闘してきたのだ。そんな解り切った理由で一夏を諦めるとなると、自分達の行為に対する侮辱ともとれる。セシリアと鈴は声を荒げたが、それはシャルロットによってなんとか収まりがつく。

 

「……だからと言ってアプローチが空しくなったとか、マイナス思考じみた諦めではないつもりなんだがな。決定打は、そうだな……恐らくは、黒乃が生徒や一般客を守った直後の事だろうか」

「うむ、結果的にテロリストを逃がしはしたが……流石は姉様と言ったところだろう」

「黒乃が多くの人を守り切ってな、一夏が本当に嬉しそうだったんだ。別に自分が名誉ある行動をしたわけでも、讃えられているわけでもないのにな」

 

 黒乃が神翼招雷で人命を守り切った後の一夏とのやりとりを、箒は脳内で思い起こす。一夏は黒乃が讃えられている事が幸せそうだった。黒乃は多くの歓声よりも、ただ1人……一夏が喜んでくれる事を、何よりも幸せそうにかみしめていた。少なくとも、箒にはそう見えたらしい。

 

「あの時の2人は、ただただ幸せそうだったよ。見ていてこちらも幸せな気分になるほどに……な」

「箒さん……。だから、諦めがついたと?」

「初めに言ったろう、私としては清々しい気分だとな。だから、あの2人を応援したくなったと表現するのが近いだろうか。まぁ、それも結局は言い訳でしかないが」

「……そんな事ないんじゃない?箒がそう思ってるんなら、きっとそうなんだよ」

「……ありがとう、シャルロット」

 

 箒の自嘲じみた様子に、シャルロットは諭すような言葉を送った。なんというか、この娘は相変わらずだ。なんて思いながらも、箒はシャルロットに感謝の言葉を返す。少し気分が軽くなった気がした。だから、自分の言いたい事を最後まで貫く。

 

「私は何より、黒乃に幸せになってもらいたいと思うようになったんだ。……いきなりだが、聞かせてもらおう。お前達にとって、一夏が関連しない幸せとは何だ?」

「何って……そうね、美味しい物を食べた時とか?」

「わたしくは、やはりティータイムは外せませんわね」

「う~ん……僕は事情が事情だったからなぁ。何気ない日常とか、本当に幸せだと思うよ」

「強いて言うなら……きょっ、教官に褒められた時……だろうか」

 

 本当にいきなりな箒の質問に、代表候補生達は思い思いの幸せを述べた。鈴は恐らく数ある内の1つ。セシリアはイギリス出身らしく。シャルロットは辛い時期を乗り越えた反動。ラウラは少し恥ずかしそうに千冬に褒められた時だと言う。皆の言葉に、箒はうむと頷いた。

 

「では、もう1つ聞くぞ。黒乃にとっての幸せとは何だ?」

「何って……。何……かしらね」

「人並の事は幸せだと感じておられるのでしょうが……」

「凄く情けないけど、胸を張ってこれだとは言えないよね……」

「こんな事言いたくはないが、やはり姉様の考えは姉様にしか解らん……」

 

 箒からの再度の質問に、候補生達はスラスラと答える事は出来なかった。それどころか、雰囲気を暗くしながら伏し目がちに曖昧な事しか言えない。そんな候補生達の様子を見て、箒はまたしてもうむと頷く。その言葉の真意は、いったいどこにあるのだろうか?

 

「気にする事はない、きっと誰だろうと確かな事は言えんはずだからな。だが、裏を返せば……黒乃にとって唯一、確実に私達にも解る幸せというものがあるんだ」

「……一夏、よね」

「……そうだ。私達にとっても、一夏と一緒に居るのは幸せな事だ。だが、黒乃にとっては……辛く苦しいはずの人生を歩んできた黒乃にとっては、私達の比だとかそういう次元ではないはずなんだ」

 

 両親の死。両親の死の際に失語症を患う。誘拐事件に遭い、二重人格を患う。代表候補生に上り詰めたというのに、八咫烏の黒乃と揶揄され、恐れられ、後ろ指を指され……。それでも黒乃は、前に前に歩んできた。それも全て、隣に一夏が居たからだ。箒は、だから黒乃を応援したいと思うようになった。

 

「黒乃には、真の意味で幸せになってもらいたい。唯一端から見ても解る黒乃の幸せ……一夏と言う男と結ばれる事によってな」

「「「「…………」」」」

「ああ、いや……本当に済まない。だからと言って、お前達にも諦めろと言っているわけではないんだぞ?くっ、前置きはしたがやはり話すべきでは―――」

「ア、アンタはそんなの気にしなくて良いの!とりあえず、気持ちは十分わかったわよ」

「変な言葉になるが、良い意味での諦めだと理解できた。……さっきは済まなかったな」

「い、いや!お前達が私に気を遣う事は何も……。済まない……本当に済まない……」

 

 予想はしていたが、皆の雰囲気のダダ下がりっぷりに、箒はどうにもやるせない気分となった。すかさず謝罪を始めるも、何よりも箒自身が決めた事に口出しはできないと謝罪合戦が始まってしまう。この場に居る全員がそれをナンセンスと思ってはいたが、やはり謝らずにはいられないのだろう。

 

「とにかくだ!単にこれは私のケジメだ。お前達は変わらず一夏を―――」

「その事なんだけどね。箒、僕も同じ気持ちかなって」

「シャルロットさん、貴女まさか……」

「うん……実はずっと前から悩んでたんだ。このままで良いのかな……って」

 

 箒が強引に話を締めくくりにかかると、シャルロットが待ったをかけた。皆まで言いはしなかったが、どうやら一夏争奪戦から降りる気らしい。そう語る表情は、どこか箒と似て清々しい物だった。前々から気にかかっていた胸中を、ポツリポツリと語り出す。

 

「僕を救い出してくれたのはあの2人で、黒乃に至っては自分の立場も気にしない始末で……。黒乃は僕に帰る場所を与えてくれたのに、僕がしてる事は―――」

「姉様の居場所を奪う事……か?」

「シャルロット、それこそお前が気にする事ではなんだ。私がこんな話をしたからと言って、何もお前まで……」

「ううん、良いんだ。箒の話を聞いてたら、なんだか僕もスッキリしちゃったよ。今は一夏より良い人を見つけようって気持ちかな!」

 

 自分のせいでシャルロットがこういった結論へ至ってしまったのではと、箒は説得を試みた。しかし、本人は恩に報いる為に手を引くとかではなく、箒と全く同じ理由で……つまり良い意味での諦めで、一夏争奪戦から降りると決意したようだ。新たに決意表明するその姿に、憂いは何も見られない。

 

「ア、アタシは……言っとくけど、アタシは諦めないんだからね!あの2人が完全にデキてるって感じになるまでは、絶対……絶対……!」

「わたくしも、最後までこの想いを貫き通させて頂きます」

「以下同分だ」

「ああ、それで良い。お前達はそれで良いんだ。何なら、私達に奇跡の逆転劇でも見せてくれ」

「うん、僕達の分も頑張ってよね」

 

 少し不安げな表情を見せた後、鈴は顔つきを険しくしながら立ち上がった。そしてズビシと明後日の方向を指差すと、まだまだ勝負はこれからだと徹底抗戦の意思表明をしてみせる。それと同意見と述べたのは、セシリアとラウラの2名。そんな3人に対して、箒とシャルロットは激励の言葉を贈る。

 

「ところで箒、一夏に想いは伝えないの?」

「ん……ああ、一応は言っておくつもりだ。この話をしたのがお前達へのケジメなら、一応でも一夏に想いを伝えるのは……私自身へのケジメだろうからな」

「そっか、じゃあ早い方が良いね。僕もそう思ってたから一緒に行こう?」

「い、今からか!?ちょっと待てシャルロット、まだ心の準備が―――」

「という事だから、少し行ってくるよ」

 

 当たって砕けろどころか、箒は初めから散るつもりで一夏に告白するつもりでいた。万が一でも、その想いが通る事はないと解っているから。どうやらシャルロットも同じことを考えていたようで、強引に腕を引っ張られて連行されてしまう。今だとは言っていない。そう抗議しても、シャルロットは話を逸らすばかり。

 

 残された3人は、決して箒とシャルロットを止める事は無かった。やはり、箒達が100%振られると解っているからだろう。そうして3人の内の誰かが、夕餉にしようと切り出す。食事中は全員何事もなかったかのように振る舞ったが、やはりどこか……空気の違いを心の奥底で感じずにはいられなかった。

 

 

 




黒乃→なぁんかオドオドした会長さんだ事……。
楯無→や、やっぱり怒らせてるかしら……?

箒とシャルロットの件についてですけどマジで勘弁して下さい。
なんかもう、原作ヒロンズの扱いに関して疲れてるんですわ。
白状すると逃げです、逃避です、現実逃避です。
許されるのなら後ろ向きに全力疾走させてほしい……。

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