八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第9話 IS適正検査

「…………。」

「黒乃、私に用事か?」

 

 俺は、テレビを見ながらくつろいでいるちー姉の肩を叩いた。なるべく驚かせないように配慮はしているけど、ちー姉相手にはあまり意味がなかったかも。とにかく、俺はちー姉の座っている向かい側へと腰かけた。なにやら真剣な話であると感じ取ってくれたらしく、ちー姉はリモコンを操作してテレビの電源を落とす。

 

「……随分とかしこまっているが。」

「…………。」

「これは……。」

 

 俺は机の上に、1枚のポスターを置いた。そのポスターには、ISに乗った女性が写されている。なぜこのポスターを差し出したのか、それは……俺がISに乗りたいという意思表示をする為だ。あれからいろいろと考えて、やはり俺はIS学園を目指す事に決めた。しかし、何も無計画に行く必要はないのではないかと考え付いたのだ。

 

 つまりIS学園へと行く前に、それなりの技術を最低限は身に着けようという事。何も代表候補生になろうなんて、高望みはしていない。最低でも、自衛の手段くらいは学んでおきたいのだ。イッチーの幼馴染で、IS学園へと行く。これがどれほどに死亡フラグか、ISに関してそれなりの知識があれば嫌でも察してしまうだろう。

 

 現在の俺は小学6年……ってか、つい最近に卒業したけどね。小学を卒業して、中学に入るまでの春休み。この期間に、ちー姉へ俺の意志を伝えようと思っていた。ダメだって言われれば、まぁ……それまでの事かな。でも、望みは薄いと解っている。ちー姉は、イッチーだけじゃ無く俺もISの話に関わらせないから。

 

「ISに乗りたいと、そう解釈して良いのだな。」

「…………。」

 

 なんとか俺の言いたい事は伝わったらしいが……。怖い……ちー姉怖いよぅ……。基本的に厳しいお姉ちゃんだけど、怖いかって聞かれればまた別の話だ。悪い事さえしなければ、至って何をされるでもない。しかし今のちー姉は、険しい顔つきで俺とポスターを交互に眺めている。

 

「……何を成す。」

「…………。」

「ISに乗って、お前は何を成したい。」

 

 な、何を成すって言われても。だから俺には、世界を取りたいとか野望的概念は持ち合わせちゃいないってば。最初から高望みしていないせいか、ろくな回答が思いつかないぞ。って言うか、答えられれば良い方だけど。ちー姉だって、返事が来ないとは思っているのだろうし。でも、う~ん……強いて言うなら主に自分の身を……。

 

「守りたいから。」

「…………!」

 

 おっ、やっぱり物は試しだね……言葉が口から出たぞ。とにかく乗りたい理由は言ったよ、ちー姉!さぁ次はちー姉の番で……って、何かちー姉は片手で顔を隠すような仕草を見せている。何だろうかと考えていると、ある1つの考えが思いついた。もしや……笑ってらっしゃるな!?

 

 絶対にそうだもん、小刻みに震えてるもん。そりゃそうだよねぇ、なんせ……中途半端に言葉が出るから、中二病くさい台詞になってるもの。別にあれだよ、俺に周りの人間って別に守る必要ねーよ。ちー姉は言わずもがな、イッチーもそれなりに戦えるし、鈴ちゃんは足技系ドラゴンだし……。

 

「……良いだろう。数日中に、良い場所と人を紹介してやる。」

 

 それだけ言うと、ちー姉はせっせとどこかへ去ってしまう。あれ?今……良いって言った!?い、意外だな。俺はてっきり、ダメだと思ってたけど。それにしても、場所と人って……?場所……は、養成所か何かの事かな。候補生の候補生を育てる場所が無いと、システム的にコネがある人しか代表候補生になれないもんね。

 

 それ言ったら、ちー姉とかIS界最大のコネだろうけども……。だとすると、人ってのは教官みたいな?美人な人なら嬉しいけどな~。もしかして、後の山田先生だったりして。あの人も元候補生とか言ってたし、可能性は十分にあり得るぞ。早くあの巨乳を生で見たいもんだ……。

 

 さて、用事も済んだし……このポスターはしまっておかないとな。このままにしておくと、イッチーに何か感付かれてしまうかも知れない。原作通りに、なるべくISには関わらせない方が良いだろう。俺も立ち上がってリビングを出ると、足早に自室を目指した。

 

 そして、それから数日後……。ちー姉に連れて来られたのは、想像通りに養成所のようだった。しかし、何か雰囲気が変だ。人の声や物音が聞こえないし、それはおろか人の気配すら感じられない。本当に、運営しているんだろうね……。でも、ちー姉に限って嘘を吐くはずも無いしなぁ。

 

「行くぞ黒乃。しっかりと私に着いて来い。」

 

 ふむ、何の躊躇いもなく進みますか。それならば、何か事情があって人が居ないんだろう。そうだとしたら、これ以上は気にするだけ無駄だね。俺はペタペタと靴を鳴らしながら、ちー姉の背中を追いかける。入り組んだ道を進んで行けば、やがて受付のような場所へ辿り着く。そこを見て、何故かちー姉は溜息を吐いた。

 

「あいつ、この時間には来ると言っておいたろうに……!」

 

 そう呟いたちー姉は、携帯を取り出して『あいつ』と言った人と連絡を取ろうとしているみたいだ。しかし、なかなか通じないらしい。だんだんとちー姉は、イライラし始めているみたいだ。『あいつ』って人、来るなら来てくれないかなぁ……。ちー姉のイライラオーラのせいで、だんだん胃が痛く……。

 

「や~悪い悪い。寝坊しちゃった。」

「前にも言ったが、約束した事くらいは守ってくれ。」

「そうは言うけど、千冬だって私生活はボロボロじゃん。」

「……それとこれとは話が別だ。」

「ふ~ん、そう?同じ穴の何とやらだと思うけどね~……っと。」

 

 ちー姉の我慢が限界に達しそうな瞬間に、ここから見える仮眠室と書かれた部屋から1人の女性が出てきた。その女性の特徴を上げるとすれば、雑に染められたセミロングの金髪に……ダルンダルンのジャージ上下を着ていて、それに電子タバコを咥えているってところだろうか。言動から察するに、かなりだらしない女性だということが窺える。

 

 良いね、無気力系美女!養いたい。それにしても、原作だとこんな人……って、そんなの参考になんないか。語られないだけで、ちー姉にだって友人は沢山に決まっている。たば姉と山田先生しか友達が居ないみたいな、そんな失礼な事は考えていません……ええ、断じて!

 

「ってか、アタシの方が年上なんだから敬語くらい使ってくれても良いでしょ。」

「尊敬できる点が、何1つ見当たらないのでな。」

「さいですか……。で、その子が例の?」

「ああ、藤堂 黒乃……私が預かっている子だ。」

「ふぅ~ん。うぃっす、お嬢ちゃん。アタシは対馬(つしま) (すばる)っての、よろしく。」

 

 昴さんね……雰囲気からして、姉さんってよりは姐さんのが合いそうだ。ってなわけで、昴姐さんに大決定!昴姐さんは、俺の手を握ると無遠慮に上下に振った。むむっ!?腕が上下するのと連動して、おっぱいも揺れとる!服の上からは解からなかったが、なかなかのモノをお持ちで……。

 

 俺が昴姐さんのおっぱいを凝視していると、姐さんはほんの一瞬だけ表情を強張らせた。い、いかん……ばれたか?いや、男ならともかく俺は女の子なのだから大丈夫……だよね?ま、まぁ良いや……気にしなくても。昴姐さんが俺の手を離すと、ちー姉は話を進める。

 

「しかし、いつまでこの体制を続けるつもりだ?」

「へ?いつまでもだけど。だってさ、ここで生活してるだけで給料が入るし。」

「人間としてどうなんだ……底辺どころか底辺を突き抜けているぞ。」

「この世の中になってから、オッサン連中は文句言ってこないし?楽な方を選ぶのがアタシの人生よ。」

 

 2人の会話を盗み聞きして、ようやくこの施設の全貌が明らかになった。どうやら昴姐さんは、この養成所の管理運営及び講師の役割らしい。けれどろくに運営をしていないせいで、こうやって人の集まりが悪いのだ。それでも給料が発生してるって、この人……。ま、まぁ……言わないでおく事にしよう。

 

「今回だって、アタシが重い腰を上げただけで感謝しなさいよ。ってか、黒乃専用みたいなモンよ?」

「まぁ……黒乃の事情を考慮すれば、確かに悪い話ではないのかも知れんが。」

「解ったら、早く用事済ませましょう。今日の所は、適性検査だけで終わらせるんでしょ?」

「もはや何も言うまい……。黒乃、昴に案内して貰え。」

 

 適性検査か……。確か、ちー姉で言うと『S』だのどうだの……そんな話だったよな?へ~……検査装置が、ここにも存在するのか。ちー姉が俺の背中を軽く押すと、昴姐さんの方へ歩いて行く。面倒くさがりみたいだけど、面倒見は良いらしい。昴姐さんは、しっかり俺の手を取って歩き出す。

 

 通されたのは、更衣室だ。昴姐さん曰く、この奥に検査機器があるらしい。とにかく着替えて、奥へ来いという事なんだろうね。昴姐さんは、ヒラヒラ手を振って先に奥へと進んで行った。あらかじめ用意されているISスーツを眺めて、どうにもやりきれない気分になってくる。

 

 精神的に男なせいか、未だにスクール水着とみたいな体に吸い付く衣装は慣れない。それはそれである種興奮するのもあるけど、やはり着るよりは見てる方が良いや。ISスーツも例に漏れずピッチリレオタードタイプ……。はぁ……四の五の言ってる暇は無いか、これからしょっちゅう着るのだし、早く慣れよう。

 

 余計に時間をくったので、俺は急いで着ている服を脱ぎ捨てる。ISスーツに袖を通すと、すぐさま奥へと向かった。自動ドアを潜ると、そこにはアニメで見た事があるような機械が点在していた。ちー姉と昴姐さんは、ガラス越しに機械の操作するらしい場所に居た。

 

『オーケー、来たね。そこの台座みたいなとこに立ってもらえる?』

『なに緊張するな、一瞬で済む。』

 

 え~っと、台座台座……。あっ、あの出っ張り部分の所だな。しかし……これで適正が低いとかだと、けっこうショックな気もするな。ちー姉の言葉とは真逆で、なんだか緊張してきたかも。そこは黒乃ちゃんのスペックを信じるしかないな。俺はゆっくりと指定された場に立つ。

 

『よ~し、始めるわよ。じっとしててね。』

 

 仕事はまともにしていないながらも、機械の操作は一通りできるみたいだ。昴姐さんが機械を弄る様子を見せると、俺を囲うように円柱状の薄いガラスのようなものが降りてきた。SFっぽいなぁ……なんて思っていると、どうやら機械は俺の身体をスキャニングしているらしい。

 

 頭の先から足の先まで、光のリングが昇降していく。なんか、メトロ◯ドのセーブポイントみたいだ。光の昇降が終わると、囲っていたガラスも元の位置へと戻った。さて、これで結果が出たのだな。2人のリアクションはというと、なんか……ヒソヒソと話し合っているように見える。

 

『ごめんね、黒乃。スキャナーの調子が悪かったみたい。もう1回やらせて。』

 

 え、えぇ~……?そんなヒソヒソ話しをされた後にもう1回って、嫌な予感しかしませんよ。何?何?もしかして、女なのにIS適正なしとか!?それなら、隠し事をしていたのも頷ける……。うおおお……ど、とどうか、本当に調子が悪かっただけであってくれ~……。

 

 内心で祈りながら、再度のスキャニングを受ける。2回目のスキャニングが終わっても、2人のリアクションは変わらない。何!?なんなのさ!何かあるなら、お兄さんハッキリ言ってくれた方が助かるよ!?しばらく待つと、ガラスの向こうで昴姐さんが手招きした。心配もあるけど、ひとまず姐さんの元へ歩いた。

 

「ほら、これ結果ね。可もなく不可もなく……Bで落ち着いたわ。」

「まぁ、BだのAだのはあまり気にしなくても良い。」

 

 あれぇ……?なんだ、驚いたな。どうやら俺の考え過ぎで、特に何の問題も無かったらしい。だったらあの様子が何だったのかも気になるが、そこはもう言わないでおく事にしよう。ちー姉の言う通りに、ISさえ動かせれば俺としては何の問題も無いのだから。

 

「んで、あ~……どうしようか。……どうしようか?」

「……そうだな。黒乃、少し昴と話がある。久しぶりに会ったのでな。悪いが、時間をくれ。」

 

 久しぶりの再会ならば、つもる話くらいあるだろう。俺は首を縦に振って肯定して、更衣室へと戻っていった。でも……着替えて何しながら待っていようか。つもる話って言っても、ちー姉だし長話にはならないかな。んじゃ、少し昼寝でもしながら待っていよう。俺はベンチに横になると、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 某日、私としては恐れていた事が起きてしまった。それは、黒乃の差し出したポスターが鮮明に語っている。そこに描かれているのは、IS……。意味のある行動だと解釈するのならば、ISに乗りたい。黒乃は、そう言いたい他無いに決まっている。聞くまでも無いが一応の確認を取ると、黒乃はしっかり頷く。

 

 束が言うには、この子こそが白騎士事件の引き金……。もし本当にそうなら、私は黒乃をISに乗せたくは無かった。乗せたら最後、何か……黒乃が遠くに行ってしまうのではないかと思ってしまう。しかし、この子が何かをしたい。そう意思表示している事を、一概にダメだとも私には言えん。

 

「……何を成す。」

「…………。」

「ISに乗って、お前は何を成したい。」

 

 だからこそ私は、問い掛けずにはいられない。返答が出来ない事など、始めから解っている。私は恐らくだが、単に力を得たいとか……そう言って欲しかったのだろう。黒乃がそう言ってくれれば、頭ごなしにダメだと否定できる大義名分ができるから。黒乃は少し考える様子を見せると、静かに口を開く。

 

「守りたいから。」

「…………!」

 

 黒乃が喋ってくれたのも衝撃的だったが、私は言葉の内容の方に驚きを覚えた。実に数年ぶりに聞く黒乃の言葉は、なんとも黒乃らしい言葉だ。そうか、守りたいから……か。この子は、守るだけの力が欲しいのだろう。それはきっと、藤堂夫妻の死が大きく影響しているはず。

 

 当然だ。黒乃の両親は、あまりにも突然に居なくなってしまった。残った家族の一夏や私……いや、黒乃の事ならば凰などの身近な人々も含めて『守りたい』という事に違いない。私は思わず、目頭が熱くなってしまう。片手で顔を隠して誤魔化すが、こんなのでは黒乃にお見通しだろう。

 

「……良いだろう。数日中に、良い場所と人を紹介してやる。」

 

 私は、どうやら初歩的なミスを犯していたらしい。黒乃は私の家族だ。それを束の言葉に振り回されて、家族を信じる事を忘れていたなど……姉貴分失格も良い所だ。黒乃がそう言うのならば、背中を押してやるのが私の役目だ。ただ……どうにも落ち着かないので、黒乃の前から逃げ去ってしまう。

 

「父さん、母さん。2人の黒乃は、立派に育っていますよ……。」

 

 廊下に出た私は、天井を見上げながらそう呟いた。……このあたりにしておこう。どうにも私の柄ではない。となれば、とっとと『アイツ』と連絡を取っておかなくては。私が言うのもなんだが、相当にズボラな奴だ。うるさく言っておかないと、黒乃に迷惑をかけてしまう。私は携帯を手に取ると、対馬 昴の項目から発信を飛ばす。

 

『千冬~……?何?何の用?アタシの安眠タイム邪魔してくれちゃって……。』

「お前に頼みがある。」

 

 

 

 

 

 

 数日後、アイツとの約束を取り付けた日となった。私は黒乃を引き連れて、とある施設を訪れていた。簡単に言えば、IS乗りを育成する場所だ。もうすぐ学園が出来ると聞くが、政府もなかなかに忙しい物だな。それはさて置いて、奥へと急ごう。私は、黒乃に着いて来るよう言ってから歩き出す。

 

 奥へ行けば受付まで辿り着くが、そこにアイツの姿は無かった。あの女……。私は思わず眉をひそめて、ブツブツと口から文句がこぼれてしまう。無理にでも呼び出さなくては、アイツは約束すら忘れている可能性も大きい。私は何度も何度も、アイツの携帯へと呼び出しをかける。

 

「や~悪い悪い。寝坊しちゃった。」

「前にも言ったが、約束した事くらいは守ってくれ。」

「そうは言うけど、千冬だって私生活はボロボロじゃん。」

「……それとこれとは話が別だ。」

「ふ~ん、そう?同じ穴の何とやらだと思うけどね~……っと。」

 

 なんともだらしがない格好で姿を見せたこの女は、名を対馬 昴という。IS関連の仕事で知り合ったが、私の友人にカウントされる人間はどことなく欠陥のある人間ばかりだ。それは、類は友を呼ぶという奴なのかも知れん。とにかく、昴に関してはズボラすぎる。私生活に関しては言い返せなかったが……。

 

「ってか、アタシの方が年上なんだから敬語くらい使ってくれたって良いでしょ。」

「尊敬できる点が、何1つ見当たらないのでな。」

「さいですか……。で、その子が例の?」

「ああ、藤堂 黒乃……私が預かっている子だ。」

「ふぅ~ん。うぃっす、お嬢ちゃん。アタシは対馬 昴っての、よろしく。」

 

 互いに軽口をたたき合うのが、昴と会った時の常だ。私もそれなりに辛辣な言葉を述べたが、昴は気にする様子も無く受け流す。そして、目線の先に黒乃を捕えたようだ。昴は黒乃の目線までしゃがむと、強く黒乃の手を取り上下に振った。一見すれば和やかな光景だが、私はその時得体の知れない何かを感じる。

 

「しかし、いつまでこの体制を続けるつもりだ?」

「へ?いつまでもだけど。だってさ、ここで生活してるだけで給料が入るし。」

「人間としてどうなんだ……底辺どころか底辺を突き抜けているぞ。」

「この世の中になってから、オッサン連中は文句言ってこないし?楽な方を選ぶのがアタシの人生よ。」

 

 私は世間話をするフリをしつつ、再度昴と視線を合わせる。どうやら、昴も何かを感じ取ったらしい……。ほんのわずかながらも、私に目で訴えて来ているのが解る。なんだか解からんが、一応は昴と意見交換をしておくのが吉だろう。とはいえ、黒乃が居る前でそんな話をする訳にもいかん。私が黒乃をハケさせろと目で訴えると、昴は更にこう続けた。

 

「今回だって、アタシが重い腰を上げただけで感謝しなさいよ。ってか、黒乃専用みたいなモンよ?」

「まぁ……黒乃の事情を考慮すれば、確かに悪い話ではないのかも知れんが。」

「解ったら、早く用事済ませましょう。今日の所は、適性検査だけで終わらせるんでしょ?」

「もはや何も言うまい……。黒乃、昴に案内して貰え。」

 

 黒乃の適性検査をする予定なのも確かだったが、こうすれば少しは2人で意見を交わす時間も作れるだろう。昴が黒乃を連れて移動を開始したのに合わせて、私も検査室を目指した。機器を操作する側でしばらく待つと、検査機器側の出入り口から昴が姿を見せる。昴もこちら側へ来ると、早速口を開いた。

 

「あの子をマジでISに乗せる気?アタシ、ろくな事にならないと思うけど。」

「一応はな。聞かせてくれ、あの子に……何を感じたんだ。」

「簡単に言えば、禍々しい何か?まるで、アタシを獲物みたいな目で見てた。ほんの一瞬だけどね。」

 

 獲物……?その表現が適格だとして、黒乃は昴をどうしてそんな目で見たと言うんだ。……強者?まさか、昴が実力者であるからか……?確かに黒乃へ力のある人間を会わせるのは初めてだが、まさかそんな……。私の耳には、いやに昴のろくな事にならないという言葉が残ってしまう。

 

 

『…………。』

「オーケー、来たね。そこの台座みたいなとこに立ってもらえる?」

「なに緊張するな、一瞬で済む。」

 

 深く考え込んでしまっていたようで、黒乃が検査室に入っていたことに気が付かなかった。昴の声で我に返ったので、それに合わせて自然な様子を取り繕う。そして、適性検査を行う黒乃を見守った。昴は基本的に適当な奴だが、根は真面目だ。機器の操作は問題ないようで、安心して見ていられる。

 

「あ~……ほら、だから言ったじゃん。」

「何がだ。言いたい事があるなら、ハッキリと言え。」

「ろくな事にならないって話。これ見なよ。」

 

 検査結果が出たらしいが、昴はぶつくさと呟き始めた。何事かと尋ねれば、自分の眼で確かめろと返って来る。昴がチョイチョイと指さした画面には、測定不能の4文字が刻まれていた。それが何を意味するかなど、私にだってすぐに解った。しかし、衝撃が大き過ぎたせいかすぐさま口が開けない。

 

「ISの適性の最大評価はS。他ならない千冬が出したのが最大ってのは本人が知ってるでしょ。この結果を見るに、あの子は……Sの枠じゃ収まらないって事ってのは解るわよね。」

「…………。機器の調子が悪かったのやも知れん。」

「現実逃避とは珍しいね~……何回やっても同じ事だろうけど。」

 

 そう言うと昴は、黒乃に声をかけてもう1度検査を始めた。しかし昴の言った通りに、結果は先ほどと変わらない。認めるしかないのだ……黒乃が、規格外な存在であることを。これを聞けば、束は大層喜ぶに違いない。だがこの事実を、丸々黒乃へと伝える訳にもいかなかった。昴の提案で、他のデータを流用する運びとなる。

 

「ほら、これ結果ね。可もなく不可もなく……Bで落ち着いたわ。」

「まぁ、BだのAだのは、あまり気にしなくても良い。」

 

 結果をプリントアウトした紙を渡せば、黒乃はマジマジとそれを見つめていた。まさか、結果の隠蔽にも感付いているのではあるまいな。とにかく、もう少し昴と話し合いたい。それは向こうも同じなようで、黒乃を前にしてソワソワと落ち着きのない様子だ。

 

「んで、あ~……どうしようか。……どうしようか?」

「……そうだな。黒乃、少し昴と話がある。久方ぶりに会ったのでな。悪いが、時間をくれ。」

 

 私の言葉に、黒乃は首を頷かせた。来た場所から更衣室の方へと戻り、完全に姿は見えなくなる。すると昴は、私と会話を始める前に黒乃のデータの書き換えにかかっていた。一連の作業を見届けると、昴は盛大に頭を掻く。厄介事が舞い込んできたとか、そんな事を考えているに違いない。

 

「……今の事実、世間には公表しない方が良いわよね。あの子の為にもさ。」

「……ああ。悪い方に転べば、モルモット待ったなしだ。」

「ですよね~。ねぇ、考え直さない?あの子をISに乗せて、良い事なんて1つも起きないと思うよ?むしろ……良くない事が起きるって、アタシはそう思う。今なら千冬が言えば、あの子は止まってくれるはず。」

 

 昴の瞳の奥底に眠るのは、未知なる存在に対する恐怖そのものであった。黒乃は、こんな視線を送られる事が多い……。それは、ISの世界においてもなのか?確かに、黒乃の規格外っぷりはIS界を揺るがす事となるだろう。しかし私は、決めたばかりなんだ。あの子を……黒乃の事を信じ抜くと。

 

「どうあろうと、私の意志は変わらない。」

「ああ、そう。数年後に、後悔しなけりゃいいけどね。」

「おい……どこへ行く?」

「寝る。頭ん中リセットしないとやってられないっての。悪いけど、今後の予定とかはまた今度にして。」

 

 私の意見が変わらない事に、昴はけっこうな苛立ちを感じているようだ。眉間に皺を寄せ、頭の痛そうな仕草を見せる。そして皮肉たっぷりな言葉を放ち、私の横を通り過ぎて行った。そもそも粗暴ではあるが、酒の席以外であんなに荒れているのは初めてだ。1人取り残された私は、機器の電源を落して更衣室へ向かった。

 

「黒乃、待たせ……。」

「スー……スー……。」

 

 そんなに時間は経過していないが、黒乃は静かな寝息をたてながらベンチに寝転がっていた。黒乃の気の抜けた様子を見ると、思わず笑みがこぼれてしまう。そうだな……しっかりしているせいで忘れがちだが、お前もまだまだ子供だものな。私は、黒乃を起こさないように横抱きで持ち上げる。

 

「子供とは言え、大きくなったものだ。」

 

 問題は全くないが、思いの外、黒乃は重くなっていた。成長……か。この子がこれから進む道は、果たしてどんな道なのだろう。正直な話で、例え昴の言った通りになろうと……私はどうでも良いとさえ思える。それが間違った道ならば、喜んで正そう。しかし、存分に力を振るう事に何の問題があると言えようか。

 

 いつだったかに、決めたのだ。私は、黒乃の事を見守り続けると。私がするべきは、背を押してやる事のみだ。規格外、大いに結構。むしろ歓迎しよう。この子は、ISに乗るために産まれてきたのだと。黒乃の事を抱きかかえた私は、終始そんな事を考えていた。

 

 

 




黒乃→IS適性はBか、妥当だな!
昴→IS適性S以上の持ち主……とんでもないわね。



昴姐さんのプロフィールをば。


名前 対馬(つしま) (すばる)
年齢 26歳(原作開始時)
外見的特徴 まだらに染まった金髪 目つきが悪い 
好きな物 酒 車 バイク
嫌いな物 発酵食品全般 面倒事
趣味 昼寝 ドライブ

有名レディースの元総長だったが、とある事情により引退。当然ながら高校はまともに通っていなかったため、数年間プー太郎同然な生活を送る。親にも見放され流石にマズイと思った折に、世にISが広まった。試しにパイロットに志願するや否や、持ち前の才能かあっという間に頭角を現し、IS選手となる。しかし、ある程度IS業界において地位を確立すると同時にせっせと隠居。現在は地位や人脈を駆使して、暇を持て余しつつ給料も貰う理想的な生活に落ち着いた。




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