どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

104 / 108
BLEACH 第四十三話

 ユーハバッハが山本元柳斎の卍解を使用する前の事だ。山本率いる死神と滅却師(クインシー)の生き残り達は技術開発局に集まっていた。

 

「その方法で、霊王宮への門が出来るのじゃな?」

「はい」

 

 山本のその問いに答えたのは浦原喜助だった。浦原は様々な未来を予測し、霊王宮へと乗り込む必要性がある可能性を考慮に入れていた。そしてその為に、霊王宮へと到達する為の手段を模索していたのだ。未知数の手段とユーハバッハに称されたのは伊達ではなかった。

 様々な準備を終えた浦原は瀞霊廷に移動し、そして技術開発局で山本達と合流したのだ。最高のタイミングで最高の手段を携えてきた浦原に、とある一人の死神以外が諸手をあげて歓迎したくなった程だ。

 

「クアルソさんが霊王宮までの障壁を破ってくれた今しか使えない方法です」

 

 浦原が用意した移動手段は、瀞霊廷と霊王宮を直接繋ぐ門を作り出す事だった。尸魂界(ソウル・ソサエティ)と断界、断界と現世の歪みに発生する特殊な物質を用い、霊王宮へ向かう移動エネルギーとする。

 そして死神や滅却師(クインシー)がその物質に大量の霊圧を籠める事で、霊王宮に繋がる門が作り出されるのである。

 

「霊圧の増幅器もある。これがあれば浦原喜助の予想よりも遥かに早く門が出来るヨ。霊圧を大量に必要とするなら、これくらい用意していたらどうだネ?」

 

 そう言ったのは涅マユリだ。自分が用意出来なかった手段を浦原が用意した事が癪に障ったようで、浦原に対して辛辣な対応を取っていた。

 尤も、そうでなくても浦原に対しては常に辛辣なのだが。

 

「ええ。涅サンがこんなのを用意してくれていたので助かりましたよ」

「フン」

 

 殺してやりたい程憎たらしい相手だが、流石の涅もこの場、この状況では自重した。今は内々で争っている場合ではないと涅も理解しているのだ。

 

「ならば一刻も早くユーハバッハを倒すため、霊王宮への門を作り出す! 皆、霊圧を籠めよ!」

『はっ!』

 

 山本の号令に多くの死神が了承の声をあげ、液体のように見える特殊な物質に霊圧を籠めていく。ユーハバッハを倒したいと願っている滅却師(クインシー)も同様にだ。

 強大な霊力を持つ魂魄が無数に集まった事と、霊圧増幅器により門が形作られていく。だが、それでもかなりの時間が掛かるようだ。それ程に霊王宮に至る門を作るのは困難だった。

 そうして少しずつ門が形成されている時の事だ。瀞霊廷の遥か上空で、瀞霊廷の全域に至るほどの巨大な雷が走った。

 

『!?』

 

 現在山本達が居る門を作り出す室内は、その機構の為か天井が開いていた。それ故に、先程の雷を誰もが目にし、そして誰もが驚愕する。

 

「あ、あれってあたしの雷霆(ザ・サンダーボルト)じゃねーか!」

「同じ? ふざけるなよ……! 規模が違い過ぎるだろうが!」

 

 キャンディスが己の力と同質の力にそんな声をあげるが、それを聞いたリルトットが声を荒げて反論する。

 確かに今の雷は雷霆(ザ・サンダーボルト)と同質の力だ。だが、その威力と規模は文字通り桁が違っていた。

 

「ユーハバッハの野郎……! あたしの力を奪って使いやがって……!」

 

 キャンディスがユーハバッハに対する不満と恨みを更に募らせる。だが、元々雷霆(ザ・サンダーボルト)はユーハバッハから授けられた力なので、恨むのはお門違いと言えるのだが、残りの滅却師(クインシー)もキャンディスと同様の怒りを抱いていた。

 

「あの雷……ユーハバッハだけのものではない。クアルソ・ソーンブラの力も混ざっておった」

「その通りだ」

 

 山本の言葉を藍染が肯定する。

 

「ユーハバッハが放った雷と、クアルソが放った鬼道と王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)を融合した雷。それが互いに相殺し合った結果だろう」

「どっちも化物かよ……!」

 

 藍染の説明を聞いて日番谷がそう零す。それはこの場に集う多くの者達の総意でもあった。そして、その総意を更に助長するような光景が天に広がった。

 

『!?』

 

 天を嘗め尽くすように劫火が拡がっていく。これもまた、ユーハバッハとクアルソの力がぶつかり合った結果だと誰もが知る。

 

「今度は俺の力を……! クソが!」

 

 この炎が自分の力だと気付いたバズビーが怒りの声をあげる。だが、その声がユーハバッハに届く事はない。この声を、この怒りを届ける為にも、一刻も早く霊王宮への門を開こうとバズビーは更に霊圧を高めていく。

 

 そして、門が徐々にその形を為して行った時……今までで一番の衝撃が、死神達を襲った。

 

『!?』

「これは!」

「まさか!」

 

 天から届く力の波動に、死神も滅却師(クインシー)も、そして破面(アランカル)もが驚愕する。

 そして、その力の波動を誰よりも知る山本が、怨嗟を籠めた声を天に向けて放った。

 

「おのれユーハバッハ! 儂の卍解を!」

 

 そう、ユーハバッハが山本元柳斎の卍解、残火の太刀を発動させたのだ。それにいち早く気付いた山本は、自分の力を奪い、その力を世界を壊す為に使おうとするユーハバッハに対し、怒りを籠めた声を叩きつけたのだ。

 だが、やはりその声はユーハバッハには届かない。力なき声など、例え聞こえていたとしてもユーハバッハが痛痒に感じる筈もなかった。それは山本も理解の内だ。

 故に山本は、ユーハバッハに怒りの鉄槌を下すべく、怨敵である藍染へと声を掛けた。

 

「藍染! 貴様も霊圧を籠めよ! この一時のみ、世界を救う一助となるのであろう!」

「余裕がないぞ山本元柳斎。まあいいだろう。十刃(エスパーダ)よ、君達も手伝い給え。全員でやれば五分で終わるだろう」

『はっ!』

 

 藍染からの命令に以前と同じように応えてしまった事に、十刃(エスパーダ)の誰もが顔を顰めるが、今は仕方ないとして割りきり霊圧を籠めていく。

 藍染の言う通り、あと五分もすれば門は完成するだろう。だが、果たしてその意味があるのかどうか、藍染と十刃(エスパーダ)だけがこの行動の意義を疑っていた。

 

 

 

 

 

 

 ユーハバッハとクアルソ。両者の戦いは残火の太刀を携えたユーハバッハ優勢に進んでいた。

 両者の力はほぼ互角だった。そこに卍解の、それも死神最強格の卍解が加われば、戦いの天秤がどちらに傾くかなど言うまでもなかった。

 

「どうした!? 避ける一方かクアルソ・ソーンブラ!?」

「くっ!」

 

 ユーハバッハが振るう残火の太刀を、クアルソは避け続ける。反撃はない。ひたすらにあの焼け焦げた小さな刀を避け続けているのだ。

 反撃しようにも、ユーハバッハの肉体は一千五百万度の高熱と化している。生半可な力ではその圧倒的熱量によって焼き滅ぼされるだろう。素手で攻撃しようものならどうなる事か。

 そしてユーハバッハが振るう残火の太刀。これもまた凶悪な力を宿していた。炎熱系の斬魄刀だというのに、その刀身からは欠片も炎を発していない。だが、確かに残火の太刀には炎熱系最強の炎の力が宿っていた。

 それは刃の刃先だ。刃先のみに全ての力を籠め、刃先一点に全ての力を集中させているのだ。それにより無駄な破壊はなくなり、ただ刃先に触れた物の全てを跡形もなく消し飛ばす恐るべき破壊力を秘めた刃と化しているのだ。

 残火の太刀の刃先に触れてしまえばクアルソと言えど触れた箇所ばかりか、触れた箇所から先まで消し飛ぶだろう。腕に触れれば腕が落ち、胴体に触れれば胴体が二つになり、脳天に触れれば全身が縦に裂かれる。それが、残火の太刀“東”・“旭日刃(きょくじつじん)”の力である。

 

「ぬん!」

 

 ユーハバッハが神速の刃を幾度も振るう。その剣術の冴えは一流のそれだ。ユーハバッハが受け継いだ力の持ち主の中には剣の達人も居たのか、それともユーハバッハ自身が鍛えた力か。はたまた両方か。

 だが、こと体術においてクアルソ・ソーンブラの右に出る者が果たしているかどうか。クアルソはこの高熱の中にあって冷静にユーハバッハの動きを見切り、残火の太刀の刃先ではなく峰に手をやって残火の太刀を受け流し、ユーハバッハの足へとその刃を叩き入れる。

 

「無駄だ!」

「くっ!」

 

 だが、全てを消し飛ばす旭日刃に触れた筈のユーハバッハにダメージはなかった。太陽の化身となったユーハバッハに炎は効かないのか、それとも自分の霊圧故に効かなかったのか。

 どちらが正解かはクアルソにも解らないが、このような返し方ではユーハバッハにダメージを与える事は出来ないのは理解出来た。ならば、別の一手を放つだけだ。

 

 クアルソは重力場を固めた刃を作り出し、それをユーハバッハへと振るう。直接触れてはダメージを負うだろうから、こうして重力の剣を作り出して攻撃したのだ。だが――

 

「無駄だと言っている!」

「ぐぅ!」

 

 クアルソが作り出した重力の剣は、ユーハバッハに触れた瞬間に蒸発し消滅した。そればかりか重力の剣を振るったクアルソの右腕まで焼け焦げる始末だ。

 クアルソは咄嗟にユーハバッハから距離を取り、そして回道にて腕の傷を癒していく。旭日刃に触れれば致命的なダメージを負い、かと言って本体に触れても致命的なダメージを負う。ならば遠距離から攻撃するのが定石だろう。

 

王虚の重閃光(グラン・レイ・セロ・グラペダト)!」

 

 ユーハバッハから距離を取ったクアルソが遠距離攻撃を放つ。全てを打ち砕く恐るべき重力の奔流がユーハバッハへと直進する。

 確かに一千五百万度の肉体は恐ろしいだろう。攻撃が通用するとは思えない肉体だろう。だが、どんなに高熱だろうと、魂魄の戦いは霊圧が物を言う事に変わりはない。太陽の化身と言える卍解も、実際の太陽ではなく霊圧で生み出された炎と化しているに過ぎないのだ。ならば、それを超える霊圧で攻撃すればダメージが通るのも必然。

 

「温いな」

 

 次元すら貫きかねない霊圧に対して、ユーハバッハは事も無げにそう呟き、残火の太刀を振るった。それだけで、クアルソが放った王虚の重閃光(グラン・レイ・セロ・グラペダト)は二つに分かたれた。

 だが、クアルソはユーハバッハから距離を取りながら、その結果を予想して次なる一手を放とうとしていた。

 

「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器――」

「完全詠唱か。無駄な事を」

 

 黒棺の完全詠唱を行おうとしているクアルソを見て、ユーハバッハは無駄な努力だと誹ろうとする。

 確かに無詠唱はおろか術名すら破棄した黒棺と王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)の融合であれだけの威力を出していたのだ。完全詠唱した黒棺ならば、より大きな威力を籠めた力を放てるだろう。

 だが、その程度では旭日刃も、残日獄衣のどちらも超える事は出来ない。その確信がユーハバッハにはあった。

 そう思っていたユーハバッハは、クアルソの次の行動を見てその表情に僅かな驚きを宿した。

 

「むっ!」

「千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる」

 

 クアルソが紡ぐ言霊は黒棺だけではなかった。二重詠唱。二つの鬼道の詠唱を並行して行い、鬼道を連発して放つ事が出来る高等技術だ。それを破道の九十・黒棺と破道の九十一・千手皎天汰炮という九十番台の鬼道で行うのだから、クアルソの技量の高さが窺えるだろう。

 

「させると思っているのか!」

 

 流石にこの二重詠唱を放置する事はなく、ユーハバッハはクアルソへと高速で接近し斬り掛かろうとする。だが、当然クアルソも時間を稼ぐ為に動いていた。

 

「縛道の九十九・禁!」

「!?」

 

 クアルソに迫るユーハバッハの全身が無数のベルトと鋲で打ち付けられ、拘束された。

 鬼道の二重詠唱を行いながら、縛道の九十九を発動する。まさに神技と言っても過言ではない技術だ。

 

「この程度!」

 

 だが、ユーハバッハを捕えた縛道は残日獄衣の炎によって消滅してしまう。動きを止める事が出来た時間は僅かだった。だが、クアルソにはその僅かな時間があれば十分だった。

 ユーハバッハが動きを止めた隙を衝き、響転(ソニード)で距離を取りながら詠唱を続ける。ここまで来ればユーハバッハと言えど二重詠唱を阻止する事は不可能だった。

 

「おのれ!」

「光を落とす道 火種を煽る風 集いて惑うな我が指を見よ 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ 光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ」

 

 クアルソの詠唱が完了する。そして、二つの鬼道が一つとなった。鬼道と鬼道の融合。かつてクアルソと戦った藍染が行った超絶技巧だ。それを模倣して、更に王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)と融合させる。

 

千虚の重閃光(ミリマノス・セロ・グラペダト)!!」

「おおお!」

 

 ユーハバッハに向かって王虚の重閃光(グラン・レイ・セロ・グラペダト)が放たれる。その数、実に千。空間が崩壊する程の重力がユーハバッハを押し潰さんとばかりに荒れ狂いながら向かっていく。

 霊王宮が尸魂界(ソウル・ソサエティ)で最も霊子に満ちた空間だからこそ、この重力の奔流に耐える事が出来ていた。ここが瀞霊廷や現世だった場合、この力が発動された空間には何らかの重力異常が発生していただろう。下手したら空間そのものが消滅していたかもしれないほどだ。

 

 そんな威力の攻撃に晒されたユーハバッハは、果たしてどうなったのか。普通ならば霊子の欠片も残さずに消滅しているだろう。

 だが、この場で戦っている存在は普通という言葉から最も掛け離れた者達だ。これで勝敗が決まるなどと、クアルソは欠片も思っていなかった。

 

「はぁ、はぁ!」

 

 流石のクアルソも九十番台の鬼道の二重詠唱と、王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)との融合には大きく消耗した。これ程まで力を酷使したのは何時ぶりか。

 だが、そんな感慨に耽る時間すらユーハバッハは与えてくれなかった。未だに歪み続ける空間の中から、無傷のユーハバッハが姿を現したのだ。

 

「凄まじい力だ。山本重國から残火の太刀を奪っていなかったら、ここで勝負は決していただろうな」

「はぁ、はぁ……ふぅ。あれで無傷か。信じ難い強さだな……」

 

 息を整えながらも、クアルソはユーハバッハの強さに戦慄する。あれは今のクアルソが放てる最大の火力の一つだ。他にも大技はあるが、威力の差は然程ない。あれで無理ならば、()のクアルソでは勝ち目がないという事になる。

 

「一体どうやって防いだのやら。その炎の身も吹き飛ばせる自信があったんだがな」

「知りたいか? ならば見せてやろう!」

 

 クアルソの言葉を挑発と理解しつつ、ユーハバッハはクアルソに向けて千虚の重閃光(ミリマノス・セロ・グラペダト)を防いだ力を解放しようとする。

 残火の太刀を振り上げるユーハバッハ。それを見て、クアルソの全身に怖気が走った。

 

 ――まずい!――

 

 この一撃を受けるのは危険だ。そう直感したクアルソは残火の太刀の太刀筋の延長線上に立たないように高速で動き回る。

 

「ふはは! 一目でこの力の恐ろしさを理解したか! 確かにその動きに当てるのは困難。だが……こうすればどうする?」

「!?」

 

 ユーハバッハはクアルソの遥か上空へと移動し、眼下にいるクアルソ目掛けて残火の太刀を振り下ろそうとする。

 当然、そんな事をしてもクアルソならば先程と同じように高速で動き、残火の太刀の太刀筋の延長線上から逃れる事は容易い。それはユーハバッハも承知の上だ。だからこそ、ユーハバッハはクアルソの上空へと移動したのだ。

 

「ユーハバッハ!」

「敵の性質を利用するのも戦術であろう?」

 

 ユーハバッハはクアルソの性質、その性格を利用したのだ。クアルソは破面(アランカル)とは思えないくらい温厚だ。強者との戦いは好むが、無駄な争いは好まない。そして、無関係の者が死ぬ事も好まない。

 クアルソが藍染を止め、死神を助け、空座(からくら)町の人々を助けて来たのをユーハバッハは知っている。クアルソに刃を向けた死神を殺さずに無力化しただけで終わらせたのも、藍染と錯覚させられて攻撃を仕掛けられたのに、クアルソからは攻撃せずに回避に徹したのも知っている。

 そんなクアルソならば、この一撃を無視する事は出来ないだろう。そう、ユーハバッハは未来を()()したのだ。そして、それは正しかった。

 

「残火の太刀“北”・“天地灰尽(てんちかいじん)”」

「おおおおおお!!」

 

 ユーハバッハが眼下のクアルソに向けて、いや……眼下の瀞霊廷に向けて残火の太刀を振るう。そう、ユーハバッハはクアルソを狙ったのではない。クアルソよりも遥か真下に存在する瀞霊廷を狙ったのだ。

 瀞霊廷には多くの死神や隠れ潜む一般の魂魄が無数に存在している。そこに千虚の重閃光(ミリマノス・セロ・グラペダト)を防いだ程の一撃を放たれたらどうなるか……予想するまでもないだろう。

 クアルソは避ける事が出来た一撃をその身で受け止める。無音で放った王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)で少しでも威力を削ぎ、それが突破された瞬間に重力を混ぜ込んだ霊圧を放出して高速回転させる。そしてそれすら突破されると見越し、全身を血装(ブルート)の模倣技で強化する。

 そして――クアルソは瀞霊廷の大地へと叩き付けられた。ここまでの防御を敷いて、それでも全ての防御を貫き、クアルソの鋼皮(イエロ)を焼き尽くし、その威力でクアルソを遥か彼方にある瀞霊廷の大地へと叩き落としたのだ。恐るべき威力を秘めた一撃だろう。

 

 

 

 

 

 

「良し。もうすぐ門が完成します!」

 

 瀞霊廷では霊王宮に繋がる門が完成しつつあった。藍染と十刃(エスパーダ)が霊圧を籠め始めてから四分と少々で完成度は九割だ。藍染の読み通り約五分で完成と言った処だ。

 

「ふむ……凄まじいな」

 

 門が完成間近となった時、藍染が空を見上げながらそう呟いた。その言葉に誰もが上空を見つめ、神話のような力の奔流をその眼にする。

 

「空が……!」

「割れているだと!」

 

 クアルソが放った千虚の重閃光(ミリマノス・セロ・グラペダト)により、霊王宮一帯の空間が割れているのが全員の視界に映る。一体どのような力があれば可能な所業なのか、浦原ですら計り知れない程だ。

 そして、それ以上の力を全ての者達がその目にする事となった。

 

「!? 皆の者伏せよ!!」

『!?』

 

 総隊長である山本の叫びに、一部を除く多くの死神がその言葉に従い床に伏せる。命を惜しむ何人かの滅却師(クインシー)もだ。

 それと同時、上空で巨大な爆発が起こった。クアルソが天地灰尽を防いだ事による衝撃だ。天地灰尽は黒崎一護の月牙天衝と同じく、霊圧を刃の形にして遠距離に飛ばす攻撃だ。違う点は二つ。霊圧が炎の属性という事と、その威力が桁違いという事だ。

 本来ならば触れたもの全てを消し飛ばす威力が籠められた一撃だが、クアルソのあまりの防御力により、膨大な爆発が起こるという現象が起こったのだ。その爆発の衝撃は瀞霊廷にまで及び、瀞霊廷にいる全ての者達にまで響いていく。

 

「天地灰尽……! あれではクアルソ・ソーンブラも……」

 

 天地灰尽が放たれた以上、クアルソ・ソーンブラですら敗れただろう。そう考える山本に対し、山本の言葉を聞いた藍染が異を唱える。

 

「愚かだな。貴様風情の常識でクアルソを量る事が出来ると思っているのか?」

 

 藍染の言葉と同時、大地に衝撃音が走った。如何なる偶然か、天から叩き落とされたクアルソが技術開発局の傍に墜落したのだ。

 その衝撃で山本達が居た部屋の壁も吹き飛ばされる。それ程の威力でクアルソが大地に叩き付けられたという事だ。

 

『クアルソ様!』

「クアルソ!」

 

 大地に叩き付けられたのがクアルソだと気付き、十刃(エスパーダ)達がクアルソの傍へと駆け寄った。未だにスタークと融合しているリリネットも銃から心配の声をあげる。

 そして、十刃(エスパーダ)達は見た。大地に落ちたクアルソの無残な姿を。十刃(エスパーダ)を追って近くまでやって来た死神達も同様にだ。

 

「これは……!」

 

 クアルソの胴体がほぼ二つに分かれていた。辛うじて一部分だけが繋がっているだけだ。右腕と左腕もなくなっている。天地灰尽を防ぐ為の代償に使ったのだろう。

 

「ぐぶっ」

 

 クアルソの口から血反吐が吐き出される。それを見てまだ生きている事に喜ぶ者と、まだ生きている事に驚く者と二つの反応に分かれた。

 

『クアルソ様!』

「寄るな!」

 

 クアルソに駆け寄ろうとする何人かの十刃(エスパーダ)を、クアルソは怒声をあげて止めた。

 戦いは終わっていない。まだ続いているのだ。まだ全力を出していない。まだ戦い尽くしていない。だというのに他人の手助けを借りるなど、クアルソの誇りが許さなかった。

 絶対に負けられない戦い故に、誰かと共に戦っても問題はないはずだ。過去のクアルソだったらそう思っただろう。やはり(ホロウ)として生まれた影響が出ているのかもしれないなと、クアルソはこの状況にありながら自嘲する。

 

「寄るなって……これはもう無理だろ」

 

 そう言ったのはバズビーだ。ユーハバッハを己の力で倒したいと願っているバズビーは、クアルソの敗北を心のどこかで喜んでいた。

 この状況から逆転するなど不可能だと思い込んでいた。そう思いたかったのだ。そんなバズビーに対し、周囲の十刃(エスパーダ)が反論の声をあげる。

 

「おいおい。うちのボスを舐めないでくれるか?」

「あんまり舐めたこと言ってるとあたしがぼこぼこにするぞ!」

「ああ。私達のクアルソ様は最強不敗。この程度で負ける筈がない」

「ええ。クアルソ様の強さは絶対よ。この世に絶対は少なくても、それだけは断言出来るわ」

「むかつくが、あの人の強さだけは認めている。これで負けるようなら端から俺達は従っていねーよ」

「そういうこと。君程度じゃ理解出来ないんだろうけどねぇ」

「解ったらすっこんでろ。てめーがどう足掻こうが、何も出来やしねーんだからよ」

 

 次々に放たれる言葉にバズビーは怒りを募らせていく。黙っていれば好き放題に言ってくれるじゃないか、と。

 

「はっ! お前たちがどう言おうが、そいつが死に体なのは一目で……嘘だろおい」

 

 死に体となっていたクアルソにもう一度視線を向けたバズビーは、そこで信じ難いものを目にした。

 半ば千切れ消し飛び掛けていた胴体と、完全に消し飛んでいた筈の両腕が、共に再生しているのだ。これは超速再生ではない。破面(アランカル)化した(ホロウ)(ホロウ)の時に有していた超速再生を失う者が殆どだ。クアルソも同様だった。

 

 クアルソは前世の人生において、回復術ではない再生術を会得していた。世界が変わり力の法則が変わった為、この世界では回復術も覚え直しとなったが、一度覚えれば以前の応用を利かせる事は可能だった。

 そうしてクアルソは回道を改良し、再道と言える再生術を生み出したのだ。それにより、本来なら不可能である肉体の欠損を再生させる事に成功したのだ。

 

「こいつ……どうやったら死ぬんだよ……」

 

 頭部を消し飛ばせば死ぬだろうが、それも絶対と言い切れる者はクアルソを誰よりも知る藍染や十刃(エスパーダ)にもいなかった。頭部を失っても再生しそうな怖さがあったのだ。本当にどうやったら死ぬのだろうか。藍染達は誰もがそう思った。

 もっとも、不死身度合いで言えば確実に星十字騎士団(シュテルンリッター)側の方に軍配が上がるだろうが。首がなくなったくらいでは死なない者も居たし、攻撃に免疫が出来て死なない者もいた程だ。

 

「ちっ! 油断はないか、ユーハバッハめ」

 

 肉体を再生させたクアルソは、体を起こしながら上空を見上げてそう叫ぶ。そして、クアルソの言葉で山本と藍染、そして剣八がユーハバッハが行おうとしている事に気付いた。

 

「天地灰尽!?」

「二撃目か!」

「ちっ!」

 

 そう、ユーハバッハはクアルソと瀞霊廷目掛け、再び天地灰尽を放とうとしているのだ。先の一撃に手応えを感じたユーハバッハは、しかしそれでクアルソが倒せたとは思っていなかった。

 確実な勝利を得る。その為に、ユーハバッハは油断も慢心もせず、二撃目の天地灰尽を放とうとしているのだ。

 いや、二撃どころか三撃、四撃と、クアルソを倒せたと確信するまで幾度も天地灰尽を放つ心算だ。それで瀞霊廷に残る死神を倒す事も出来れば一石二鳥というものだ。

 

「……」

 

 二撃目の天地灰尽。これを防ぎ切る事は、()のクアルソでは不可能だった。先程の防御をした所で、この場は瀞霊廷だ。クアルソは耐え抜く事は出来るだろうが、クアルソ以外に生き延びる事が出来るのは藍染を筆頭に数人程度だろう。他の者は全滅だ。

 それを許す訳にはいかない。故にクアルソは、残された力を解放する事にした。

 

「……眠れ――」

『!!』

 

 眠れ。その言葉を聞いた藍染と十刃(エスパーダ)に衝撃が走る。この場で彼らだけが知っていた。クアルソの、本当の力を。帰刃(レスレクシオン)でも解放し切れない、最強の力を。

 この言葉はそれを解放する為の解号だ。それを知っている藍染と十刃(エスパーダ)達は、ついにクアルソの真の力が解放されると知って心を躍らせる。

 クアルソに反旗を翻すつもりの藍染も、グリムジョーも、ヤミーも、やはり今の王がクアルソである事は認めている。その王が、自分達を統べる者が、最強の力を周囲に示すのだ。それを喜ばない者はいなかった。

 そして解号と共に、クアルソの姿が変化した。

 

 




 天地灰尽は原作で説明がない能力です。なので私の私見でこの小説内では月牙天衝と同タイプの、霊圧を飛ばす遠距離攻撃としました。属性炎の月牙天衝みたいなものですね。威力は段違いですが。

 あと、女にはならないからね?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。