どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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生きてます。久しぶりの投稿です。


BLEACH編外伝その1

 滅却師との戦争から早20年の年月が流れた。瀞霊廷はすでに復興を果たし、以前よりも機構、設備、快適さが向上しており、以前の活気を取り戻していた。

 多くの死神や魂魄たちが行き交い、それぞれが今生きていることを喜び、生を謳歌していた。……一部の魂魄は現世で死んで魂魄となり瀞霊廷で暮らしている者もいるので、生を謳歌しているというのはいささか可笑しいかもしれないが。

 だが、復興した瀞霊廷で生を謳歌し平和に暮らしている者もいれば、そんな人々を守る為に命を賭してでも戦おうとしている者もいる。そう、護廷十三隊の面々と、その護廷十三隊にこれからなろうとしている者達である。

 

 二十年前の戦争で多くの死者が出て、当然ながら護廷十三隊の隊員も複数の欠員が出てしまった。死者だけではない。生き延びたとしても四肢欠損や、鎖穴――霊力のブースター――と魄睡――霊力の発生源――の損傷など、死神としての戦闘力を失ってしまい引退した者も少なくない。だが、欠員が出れば補充されるのが当たり前だ。戦後は復興に力を入れていたので補充もままならなかったが、復興後は当然新たな人員確保に力を入れていた。

 新設された真央霊術院もそのための(すべ)の一つだ。霊術院は死神・鬼道衆・隠密機動を育成する為の学院だ。しかし、20年前の戦争にて倒壊してしまった為、この度立て直すこととなった。それに伴い、今までの教育体制も見直すこととなった。

 

 20年前の戦争、そして、22年前の藍染の反乱。これらの二つで、隊長・副隊長と言われる隊長格以外の死神は、殆どと言って良いほど活躍しなかった。むしろ、あたら命を失い被害を大きくしただけと言えよう。

 もちろん、犠牲になってしまった隊員達の死を無駄と罵る隊長は殆ど――例外は一人ほどいる――いない。だが、実際多くの命が無駄に散ってしまったことは確かだ。然したる足止めが出来た訳でも、然したる情報を得られた訳でもなく、ただただ敵に圧倒されて命を散らした隊員は多い。

 ゆえに、護廷十三隊現総隊長となった京楽春水は、隊員を補充する速度よりも、隊員一人一人の質を重視した。

 京楽は前総隊長である山本元柳斎重國が作った真央霊術院から出た初の隊長である。ゆえに、真王霊術院のことを良く理解している。だからこそ、真央霊術院をより良くする為にその知識を注ぎ、人脈と立場を利用し、霊術院の教育水準を引き上げることが出来た。

 

 そうして新たに生まれ変わった真央霊術院は、戦争後に稼働して多くの護廷十三隊候補生を受け入れたが、その卒業生は以前の霊術院と比べて半数以下だった。

 新入生の数は以前とさほど変わらない。だが、卒業生の数は減っている。これが、現在の霊術院の卒業基準の難易度を物語っているだろう。これに対して複数の貴族からクレームが来たこともあるほどだ。

 

 当然だが、いくら総隊長と言えど、個人で学院を作ることなど出来はしない。人脈と権力だけでなく、現実的な問題として金が必要となるのだ。

 そんな金の問題を解決するのに、金を持っている貴族を頼らない理由はない。四大貴族を始め、多くの貴族の寄付で成り立ったのが真央霊術院だ。当然作り上げただけではなく、学院の維持費、教師の質の確保と給料、訓練所の補修や設備の維持・向上などなど、金は幾らあっても足りないだろう。

 

 そうした金の問題を解決する一助となった貴族は、当然だが新設された霊術院に我が子や親類を入学させた。新たに生まれ変わった霊術院初の卒業生、初の隊員、初の隊長。これらは非常に大きな名誉となるだろう。

 だが、そんな貴族の新入生の多くは落第した。卒業はおろか、進級することも出来なかった者も多くいる。それにクレームを出すのは貴族として最早当然と言えた。金を出してやったのに、我が子を卒業させないとは何事だ、と。むしろ飛び級で卒業させて当然だろう、と。

 貴族とはそれだけでステータスだ。これは立場だけの話ではなく、貴族は生まれ持って霊力を有しており、他の魂魄とは一線を画す才能を持っている事が多いのだ。

 そんな貴族でさえ容赦なく落とす霊術院の難関さは言わずとも理解出来るほどだ。以前の霊術院ならば卒業出来ていただろう者たちも、今の霊術院が課している基準に満たないものは誰であろうと落とされている。

 

 全ては強い護廷十三隊を作り出す為だ。多くの貴族がクレームを入れていたが、その全てに多くの護廷十三隊隊員達が断固として否を返していた。

 多くの隊長が、副隊長が、席官が、平隊員が、護廷十三隊の基準を引き上げることを強く望んでいた。それらは全て、かつての戦争で受けた傷があったからこそ……だけではなかった。

 そう、戦争で多くの隊員が死んだから、だけではない。戦争で多くの人が亡くなったから、だけではない。当然それらも多く加味されている。仲間が、友が、家族が、親しい人達が、見知らぬ人達が犠牲になった事に心を悼まなかった者は殆ど――例外は一人ほどいる――いない。

 それでもなお、彼らの多くが感じていたことは一つ。次に何か起こったならば、それは我ら死神の手で解決する! これに尽きた。

 

 藍染の反乱も、滅却師(クインシー)の侵略も、全て解決したのは敵であるはずの破面(アランカル)だった。

 破面(アランカル)が、死神を助け、敵を倒し、世界を救った。これを知って、「ありがとう」だけで済ませられたならば死神などやってはいないだろう。

 感謝の気持ちはある。だが、それと同時に悔しかった。死神が解決すべき問題を、問題そのものと言って良い破面(アランカル)に解決されたからだ。

 だからこそ、多くの死神が戦争後に今まで以上の修行を己に課した。才能が足らず、護廷十三隊に相応しくないと実感し自ら引退し、後方支援に力を注いだ者もいる。

 そんな彼らが、これから死神になる者達の基準を一定以上に引き上げない訳がなかったのだ。

 

 いくら貴族がクレームを入れようと、真央霊術院の難易度が下がる事はなく、幾つかの貴族から資金援助は途絶えてしまったが、危機感を持った多くの貴族からはそのまま援助がなされ、霊術院は問題なく今も多くの候補生達を鍛えていた。

 そして、少ないが新設された霊術院を卒業した者達は、その多くが非凡な才能と実力を発揮し、護廷十三隊や鬼道衆、隠密機動の一員として活躍している。これは、そんな死神になった一人の少女の話である。

 

 

 

 

 

 

 瀞霊廷にある護廷十三隊、その十一番隊舎にて、二人の死神が対峙していた。

 一人は十一番隊副隊長である班目一角。以前の副隊長は草鹿やちるであったが、やちるが実は死神ではなく、更木剣八の斬魄刀であったという衝撃の事実が判明し、副隊長の座から退いたため、当時第三席であった一角が副隊長に就任したのだ。なお、やちるは死神ではなくなったが、女性死神協会会長の座はやちるのままとなっている。そこら辺は大分緩いようだ。

 なお、一角が副隊長となった流れで第五席であった綾瀬川弓親が第三席の座に就いている。実力では一角に次ぐ弓親が第四席ではなく第五席の座に甘んじていたのは、四という字が美しくないという、何とも独特の美意識によるものだったからだ。弓親が一番美しいと思う数字は三なのだが、その席には一角が就いている。ゆえに、三の次に美しいと思っている五の席を貰ったのだ。第三席の座が空いたならば、第五席に甘んじている理由はなく、一角以外の者に第三席を譲る必要もないという訳である。

 

 一角と対峙しているもう一人の死神は少女だった。見た目の年齢は12歳程だろうか。死神は年齢と外見がそぐわないことが多いので、実際には12歳とは言えないかもしれないが。

 だが、少女の年齢はまさしく12歳だった。12歳にしてこの場に立っている。それがどれほど異常なことか、理解出来ない死神はいないだろう。

 

「かかってきなアヤメ」

「はい! 行きますよ斑目副隊長!」

 

 一角の声にそう応え、アヤメと呼ばれた少女は木刀を構えて一角へと突撃した。瞬間、両者にあった5m程の間はなくなり、アヤメが振り下ろした木刀と、一角が構えた木刀がぶつかり合った。

 

「いい一撃だ! 入隊一年目とは思えねぇな!」

「まだまだ!」

 

 褒めながらも、自分の一撃は簡単に防がれた。それを歯痒く思いながら、アヤメは空中の霊子を固め足場とし、空中で軌道を変えながら一角に連撃を放つ。

 

「おお!? 器用だなおい!」

 

 大地や壁ではなく、空中で機動を変えて攻撃してくるアヤメに一時防戦となる一角。

 一角の言う通り、これはかなり器用な戦い方だ。確かに死神は空中にある霊子を足場とし、宙に立つことが出来る。だが、立てるからと言ってアヤメの変則機動をやれるかどうかは話が別だ。

 単に足場としてならばともかく、高速で戦っている最中にこうも器用に霊子を固めて軌道を変えるとなると、隊長格でも出来る者は少ないだろう。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 驚愕する一角に対し、アヤメは更なる猛攻を仕掛ける。相手は護廷十三隊最強の戦闘集団である十一番隊の副隊長。つまり、護廷十三隊副隊長の中でも随一の武闘派だ。そんな相手に躊躇などしていられない。

 ……尤も、アヤメは相手が誰であれ戦闘中に躊躇するという感覚は持っていないのだが。

 

「おっと、おらぁ!」

「っ!」

 

 アヤメの猛攻を防ぎつつ、一角はアヤメの猛攻の隙を突いて反撃の一撃を放った。猛攻の最中にそれを察したアヤメは咄嗟に木刀でその一撃を防ぐ。だが――

 

「くぅっ!」

「おせぇ!」

 

 膂力の差か、体重の差か、霊力の差か。いや、それら全てか。一撃の出力が違い過ぎた結果、アヤメは防いだ筈の一撃で大きく吹き飛ばされた。そして態勢を整えようとした瞬間、そこを狙った一角によって木刀を喉元に突き付けられた。

 

「はい一本。俺の勝ちだな」

「……」

 

 勝利宣言する一角に対し、アヤメは不服そうに睨みつけた。

 

「あん? なんだ? まだ負けちゃいないって言いたいのか?」

「その通りです! 喉元に刃を突き入れられた所で、反撃の手は止まりません!」

「いやそこは死んどけ? 人として死んどけ? いやまあ俺だって生きてりゃ反撃はするけどよ」

 

 そう、アヤメが不服だったのは喉元に木刀を突き付けられたからではない。その程度で勝ちと言って攻撃の手を止めた一角に対して不満だったのだ。

 例え喉元に木刀を突き入れられたとしても、いや、例え真剣を突き入れられたとしても、アヤメは反撃する気だった。

 

「相変わらず戦闘狂だな。俺達十一番隊には相応しいけどよ」

「もう一本! もう一本お願いします斑目副隊長!」

 

 まさしく戦闘集団である十一番隊に相応しい狂人だ。これが、新設された霊術院初の飛び級卒業生。9歳で真央霊術院に入学し、たった3年で卒業、十一番隊に入隊して僅か二か月で第八席に就任した少女、アヤメであった。

 

 

 

 

 

 

「うー! また負けたぁ!」

「当然だ。年季が違うんだよ年季がな」

 

 道場の床で突っ伏しているアヤメに対し、一角はそう告げる。だが、実際のところ一角は驚嘆していた。

 

 ――この年齢でこの強さ。大したもんだぜ。こりゃうかうかしてらんねぇな。

 

 二人が訓練を開始してから、既に五時間が経過していた。今日は休日なので時間は幾らでもあったから別に時間は問題ないのだが、流石に五時間連続で戦い続ければ、訓練とは言え副隊長でも流石に疲弊もする。

 そんな、副隊長である一角ですら疲弊しているというのに、これまで幾度となく敗北しても食らいついて来たアヤメは正しく傑物と言えよう。

 

「ぜぇ、ぜぇ」

「ま、流石に今日のとこは終いだな」

「ま、まだやれますよ」

「止めとけ止めとけ。これ以上は訓練にならねぇよ。今は息を整えて、霊力を回復させてろ」

「……今回は私の負けです。でも、覚えていてください。次は私が勝ちます」

「前も聞いたぞその台詞」

 

 一角の言い分に一応納得し、アヤメは呼吸を整えて霊力回復に努める。確かに、こんなフラフラの状態では一角相手に勝ち目などないだろう。強い相手に勝ちたいから戦うのだ。勝ち目のない相手に戦いを挑むなど、相手に失礼というものだろう。

 そんな、どこかずれた感覚でアヤメは休憩に入った。そして休憩して僅か数分、アヤメの霊圧探知にとある霊圧の持ち主が引っ掛かった。

 

「っ!」

 

 ――瞬間、アヤメは木刀を握りしめ、瞬歩にて道場入り口に向かい、その木刀を振り下ろした。

 

「隙ありぃ!」

「あ?」

 

 アヤメが木刀を振り下ろしたその先には、道場に入室したばかりの十一番隊隊長、更木剣八の姿があった。

 道場の扉を開けた瞬間の奇襲。いくら更木剣八と言えど防ぎようなどない……等ということは当然ない。この程度の奇襲、防げずして何が剣八か。そう言わんばかりに、剣八はアヤメの一撃を指二本で摘み、手首を返す動作だけでアヤメから木刀を奪い取った。

 

「ああ! 私の木刀返してぇ!」

「馬鹿か。返して欲しけりゃ奪い返せ」

「あぐぅ!?」

 

 そう言って、剣八は奪い取った木刀で容赦なくアヤメの胴体を薙いだ。咄嗟に両腕を交差し、霊力を固めて防御したアヤメだったが、それでも威力は殺しきれず、その一撃で左腕の骨が折れ、道場の壁へと叩きつけられた。

 

「相変わらず容赦ねぇ……」

「容赦してるぜ? なんせ殺しちゃいねぇんだからな」

 

 剣八は一角の呟きに笑みを深めながらそう返す。例え女子供が相手だろうと、向かって来るならば手加減はすれども叩き潰すのが更木剣八である。なお、敵であるならば手加減もせず叩き潰す。それが戦闘狂の中の戦闘狂、十一番隊隊長更木剣八なのである。

 

「がぁ!」

 

 だが、戦闘狂具合で言えばアヤメも負けていなかった。左腕が折れた。ならば残りの右腕がある。足がある。歯もある。戦いようなどいくらでもある。たかが腕一本使えなくなった所で、負けを認める理由にはならなかった。

 道場に叩きつけられてなお、アヤメは瞬時に動き、剣八へと空中で無数の機動を取りつつ接近していく。

 

「お? やるじゃねぇかアヤメ。いつの間にこんなの覚えやがった」 

 

 空中の霊子を足場とするこの空中機動は、アヤメが最近の秘密特訓で身に着けた自慢の技だ。これで一角を倒し、その次に剣八を倒そうと意気込んでいたのだが、剣八の前段階である一角相手にあしらわれてしまった。

 当然、そんな攻撃が一角よりも強い剣八に通用する筈もなく、前よりも強くなっているアヤメを見て愉しそうに笑う剣八に、いとも容易く捕捉されてしまった。捕捉された上で、わざと剣八はアヤメの攻撃を受けた。

 

「ッ!?」

「だがまだあめぇ。動きは悪くねぇが、攻撃が軽い。もっと力をつけろ」

 

 アヤメが剣八に振るった右腕は確かに剣八の左頬に命中した。だが、剣八は微動だにせず、むしろ攻撃した筈のアヤメの手の骨に罅が入っていた。

 圧倒的なまでの霊圧の差。アヤメが剣八を倒そうとして右腕に集中させていた霊圧よりも、剣八が無造作に放出している霊圧の方が上だった結果だ。死神同士の戦いは霊圧の戦い。霊圧が強い者が勝つ訳ではないが、有利なのは間違いない。そして、霊圧に圧倒的なまでの差があるならば、この結果はもはや必然であった。

 

 ――避けようと思えば避けられただろうに、隊長の悪い癖が出てるなぁ。

 

 一角は剣八とアヤメの攻防を見ながらそう心の中で呟いた。敵の攻撃を敢えて避けずに受ける。更木剣八が時折見せる悪い癖だった。

 ここ20年間その癖を見せる事は殆どなかったが、アヤメとの訓練では時折わざとそうしていた。力の差を見せつけ、更なる成長を促すために敢えてそうしているのだろうが、やられた側としてはたまったものではないだろう。

 

「そこまで疲れてるのに俺に向かって来るのはいい度胸だが、今度は万全の状態で向かって来い。その方が俺も愉しめるってもんだ」

「~~ッ!」

 

 剣八が深めた笑みを見て、アヤメもまた笑みを深める。強い。強い。強い。強すぎるくらい強い。例え疲れてなくても、万全の状態でも相手にならないくらいに強い。

 こんなに強い(おとこ)は更木剣八以外にいない。いたら全力で殺し愛たいほどだ。だがいない。例え護廷十三隊総隊長の京楽春水と言えど、更木剣八相手に真っ向から勝つことは出来ないだろうとアヤメは断言出来た。それほどまでに、剣八の強さを信じていた。

 

 ――いつか、いつか絶対にこの男を倒す!

 

 アヤメは自身の腹部に迫ってくる剣八の右手を眺めながら、幾度となく己に誓った思いを心の中で復唱し、意識を閉ざした。

 

 

 

 

 

 

「……知ってる天井だ」

「アヤメさん。目覚めましたか……前にも呟いていましたが、何の台詞ですかそれ?」

 

 アヤメが気絶から目を覚ますと、良く知る天井がその目に映った。そう、入隊して半年も経たずに数十回もお世話になっている四番隊にある医療施設の天井である。

 目を覚ましたアヤメの近くには、四番隊隊長である卯ノ花烈がいた。どうやらアヤメの隣のベッドで横になっている一角と弓親を治療しているようだ。

 なぜ十一番隊副隊長と三席の二人がここにいるのか。それを説明するには多くを語らねばなるまい。剣八に修行の過程でボコられた。以上である。

 

「これ? 現世のアニメを苺花(いちか)ちゃんに見せてもらったの。途中までは面白かったけど、後半良くわかんなくなっちゃって見るの止めちゃったけど。その中の台詞だったかな。ちょっと違うけど」

「そうですか。仲が良いのは良いことです」

 

 アヤメの言う苺花ちゃんとは、六番隊副隊長である阿散井恋次と、十三番隊隊長である朽木ルキアの娘である。苺花もまた素晴らしい成績で新設された真央霊術院を卒業した傑物であり、アヤメの先輩でもあった。

 しかし、年齢は上の筈の苺花に対し、アヤメは気安い敬称をつけて呼んでいる。これに関しては苺花が特に気にしておらず、むしろ苺花の方から積極的に先輩として、数少ない霊術院の卒業生として、仲良くなろうとした結果だ。その過程の一つとして、苺花が両親の伝手で現世に赴いた時に借りてきたアニメ鑑賞があったりする。

 戦闘ばかりでなく、人間関係も意外とちゃんとしている事に卯ノ花は安堵する。確かに強くなることは良いことだが、人間性の全てを捨てるのもまた違うだろうと、人間性の多くを捨ててそうな初代剣八は思った。

 

「そんなことよりも。はぁ、まだまだ勝てないなぁ。更木隊長強すぎ。だからこそ燃えるんだけど」

「当たり前です。今の貴方程度で勝てるならば、彼は剣八を名乗っていません。だからこそ滾るのです」

 

 似た者同士なのか。両者共に強者を相手に興奮する性質のようだ。これが瀞霊廷の女性のスタンダードならば、瀞霊廷から貴族という存在は滅びていることだろう。彼らは一般的な女性にもっと敬意を払うべきである。

 

「あー、良いなぁ卯ノ花隊長は。更木隊長なんて人を見つけられて。私にも良い人いないかなぁ」

「あれは私の獲物()ですよ。欲しければ奪ってみなさい。今の貴女レベルであれば、貴女より強い人はたくさんいるでしょう? そちらで満足すればどうですか?」

 

 挑発的な笑みと発言をする卯ノ花に対し、アヤメもまた挑発的な笑みと発言を以て返す。

 

「やだよ。だって更木隊長より強い人いないじゃん。最強を知っているのに、他ので満足なんて出来る訳ないよ。それと、奪ってもいいの? 今は無理だけど、いつかは私の方が強くなるよ」

「根拠のない自信ですね。私もまだまだ強くなっています。貴女が奪うよりも先に、私が彼を奪いますよ」

 

 既に卯ノ花と剣八は結婚しているのだが、この発言の意味はそういう意味ではない。これは卯ノ花がより強くなり、剣八を殺して独り占めするという意味だ。普通はそう考えないし、そうと理解も出来ないだろう。

 だが同類であるアヤメには理解できた。そこにある卯ノ花特有の歪んだ愛もだ。

 

『ふふふふふ』

『……』

 

 互いに笑みを浮かべて牽制しあう二人の女性。その傍らにいる実は目覚めていた一角と弓親は、寝たふりをする事にした。賢明な判断である。

 

「それはそれとして、今の貴女ではまだまだ修行不足です。高みを目指すにしても、順序という物があります」

 

 剣呑とした雰囲気から、突如としていつものスマイルへと変貌した卯ノ花は、優しくアヤメを諭し出す。先ほどまでとは打って変わっての優しさに、寝たふりをしている二人は女性の怖さを心底感じていた。

 

「……分かってるよ」

 

 卯ノ花の言い分は理解しているのか、アヤメも渋々と認める。いくらアヤメが才気溢れる死神と言えど、まだ十二歳の少女だ。対して相手は更木剣八。剣八の名を継いだ中でも最強と謳われる存在だ。それを相手に今の段階で勝とうなどと、流石に傲慢が過ぎた。

 

「だから最初にそこのハゲを倒そうとしてるんですよ」

 

 ――誰がハゲだ誰が! これは剃ってるだけだ餓鬼が!

 

 当然目覚めているハゲ――もとい一角は、アヤメの発言を聞いてそのツルっとした頭部に血管を浮かべて内心キレていたが、今起きてこの二人の話に聞き耳を立てていた事がバレたら面倒なので、何とか我慢して寝たふりを続けていた。二十年前なら確実にキレていただろうが、一角も肉体的にだけでなく精神的にも成長しているのである。

 

「彼も曲がりなりにも十一番隊の副隊長ですよ。曲がりなりにも卍解も会得していますしその強さは確かです。十一番隊でなければ隊長の座に就くことも出来たでしょう。そんな相手を最初などと、少々烏滸がましいですよアヤメさん」

 

 ――誰が曲がりなりにもだ誰が! 大体どうして俺が卍解を会得してること知ってるんだこのば……いえ、何でもないです。

 

 褒めながら貶すという手法を取る卯ノ花に、やはり内心でキレ散らかす一角であったが、卯ノ花を婆呼ばわりする寸前に思いとどまった。内心でそう思おうとした瞬間、思いもよらぬ寒気に襲われたからだ。

 死ぬ。そう思った一角は瞬時に怒りを鎮め、寝たふりを続けた。まあ無駄な足掻きかもしれないが。

 

「確かに……ハゲにもまだ勝てないし。はぁ、まだまだ修行不足かぁ。もう勝てると思ったんだけどなぁ。面倒くさいけど、弓親さん辺りからやるかー」

 

 ――え、僕が次に狙われるの? 君八席だよね? せめて順番通り七席狙いなよ。

 

「そこは順番通り七席を狙うのではないのですか……?」

 

 弓親の内心が読めた訳ではないだろうが、卯ノ花の呆れたような言葉と弓親の内心が一致した。それに対し、アヤメは不満そうに返す。

 

「だって、他の席官で強そうな人いないもん。私が八席になったのも、四席よりも八席の人の方が強そうだったからだし」

 

 護廷十三隊の席官は、基本的にその数が小さいほど強い。だが、何事にも例外はあり、数が大きい席官の方が強いこともままある。当時の十一番隊の八席もそうであり、四席よりも強いと判断したアヤメが、八席に勝負を仕掛け、その勝負で勝利した為にアヤメは八席に繰り上がったのだ。

 たかが一回の、それも単純な強さによる勝敗で席順が変わることはあまりないのだが、こと強さを基準としている十一番隊では話が別だ。強い者がより上に立つ。その脳筋とも言える思考は十一番隊では常識であり、勝った方が偉いのである。

 

「弓親さんは結構強いし、斬魄刀の力は見たことないけど多分強いだろうし、殺し合いになったら見せてくれるかもだし、あれ、そう思ったら何だか愉しみになってきた。うん、次は弓親さんと戦おう!」

 

 ――頑張れよ弓親。

 ――見捨てないでよ一角!?

 

 脳筋の中の脳筋に狙われることが確定した弓親であった。一角は見捨てた。見捨てるも何も、既に自分は獲物となっているので、むしろ仲間が増えて嬉しかったくらいだ。

 

「ようし! そうと決まれば早速修行です! それじゃあ卯ノ花隊長! 治療ありがとうございました! またよろしくお願いします!」

 

 思い立ったが吉日。鉄は熱い内に打て。それらのことわざを体現するかの如く、アヤメは四番隊舎を飛び出した。

 

「あらあら、全く血気盛んなことですね。また次も利用する気の様ですし……」

 

 微笑ましい笑みを浮かべつつ、溜め息を吐いてアヤメを見送る卯ノ花。そして、微笑ましい笑みのまま、ゆっくりと一角の方へと向き直った。

 

「ところで……斑目副隊長。先ほど、何か、不適切なことを、考えていませんでしたか?」

 

 ――頑張って一角。

 ――見捨てるなよ弓親!?

 

 脳筋の中の脳筋に狙われることが確定した一角であった。弓親は見捨てた。

 

 

 




 なんか急に興が乗って、頭の中で妄想していたけど文章にはしていなかった外伝を書き上げてしまった。出来たからには投稿するということで、超久しぶりの投稿です。楽しんでくれたら何よりです。
 新作を期待していた方には申し訳ないけど、新作を書く予定は今のところありません。
 ここ数年は本当に小説を書くという気力が湧かず、ただただ仕事してゲームしてネット小説読んでるだけでした。今回興が乗ったのは何故なのか。別に暇でもなかったのに。自分でも良くわからない気まぐれですね。
 というわけで、鰤のオリジナル二十年後という未来外伝です。復興後に真王霊術院がどうなっていたとか、原作を読んだ限りでは特に情報はないので、完全な捏造です。ご容赦ください。
 苺花は原作10年後に護廷隊見習いという立場でしたが、今作では厳しい鍛錬と勉強の末、真王霊術院を卒業して原作より遅く死神となっています。大体クアルソが悪い。

 続きは後日投稿となります。しばしお待ちを。
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