どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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NARUTO 第十話

 三代目の目の前には懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 【初】と書かれた棺からは初代火影・千手柱間が、【二】と書かれた棺からは二代目火影・千手扉間が、そして最後の【日】と書かれた棺からは……日向ヒヨリがそれぞれ姿を現していた。

 

「ま……! まさか! あの方々は……!?」

「あの方々……?」

 

 結界の外でそれを見た暗部の一人は口寄せされた者の正体に気付いた。

 もう一人はどうやら先代火影とヒヨリの姿を知らない様だ。恐らく若い暗部なのだろう。

 

「久しぶりよのォサル……」

「ほぉ……お前か。歳を取ったな猿飛」

 

 二代目が三代目に気付き、そして初代も目の前の老忍がかつての記憶よりも歳を取った猿飛ヒルゼンだと気付く。

 二人に死亡した時から今日までの記憶は当然ない。死者に記憶などないからだ。言うなれば未来にタイムスリップして来たような感覚と言った所だろうか。

 

「まさかこのようなことで御兄弟お二人と、そしてヒヨリ様に再びお会いしようとは……ん?」

 

 衝撃的な再会に驚き、その再会がこの様な形で成された事を残念に思っていた三代目だったが、穢土転生の最後の一人である日向ヒヨリの様子が可笑しい事に気付く。

 ヒヨリの姿を模っていた塵芥(ちりあくた)は形成された瞬間からすぐに崩れ落ちていき、最後に穢土転生に必要な生贄が中から倒れ出てきたのだ。

 

「これは……!?」

「どういう事なの……!?」

 

 何故ヒヨリの穢土転生だけ崩れ落ちたのか。それは三代目はもちろん、術者である大蛇丸でさえ理解出来なかった。

 術の失敗はなかったはず。死者である日向ヒヨリは確実に浄土から口寄せされたはずだ。だが、事実日向ヒヨリの穢土転生は失敗している。

 穢土転生に必要な死者の一部も、生贄も、術式も完璧だった。なのに何故? 何故日向ヒヨリだけ穢土転生が成功しなかったのか? そんな疑問が大蛇丸の中を巡る。

 

「穢土転生が失敗した? ヒヨリの奴め、まだ生きているのか?」

「ガハハハハ! ヒヨリがそう容易く死ぬはずあるまい! そう言えば、猿飛がそれだけ歳を取っておるということはヒヨリも相当な年寄りになっているのだろう? 見てみたいものぞ!」

 

 日向ヒヨリが生きている。それならば確かに穢土転生は失敗するだろう。穢土転生は死者を呼び出す術なのだから当然の話だ。

 だが三代目はそれはあり得ないと言う事を確信している。

 

「そんなはずは……ヒヨリ様は確かに十五年前の戦争中に現れた三尾を食い止めた時の傷が元で亡くなられたはず……!」

 

 日向ヒヨリの穢土転生が失敗に終わった事は三代目に取って喜ばしい事だが、それに関しては疑問が残る物となっていた。

 確かに日向ヒヨリは亡くなっていたはずである。だというのにどうして穢土転生は失敗したのか。

 大蛇丸も同じ疑問を抱いていたが、ここでこうして悩んでいても仕方のない事だ。今は穢土転生が成功した初代と二代目を完全な傀儡にして、師である三代目を殺すべきだと切り替えて行動に移る。

 

 穢土転生による死者の頭の中に特別性の札を埋め込む事でその死者の人格を殺し完全なる殺戮人形へと化す。

 大蛇丸はこのままでも二人を操る事が出来るが、そうすると二人の制御に力を割く為に大蛇丸自身の三代目への対応が疎かになる可能性がある。

 それを防ぐ為に二人を敵を殺す為のマシーンに切り替えようとしているのだ。

 そして大蛇丸が札を埋め込もうとした瞬間――結界の中に新たな乱入者が現れた。

 

『!?』

 

 三代目も大蛇丸も、結界を張っていた大蛇丸の部下も、結界の外を見守るしか出来なかった暗部も、新たに現れた存在に驚きを隠せなかった。

 その乱入者は、暗部の侵入を拒んだ強力な結界を突き破り、三代目と大蛇丸の間に着地したのだ。これだけの結界を容易く突き破る、味方ならばたのもしく、敵ならば難敵だろう。敵か味方かどちらだ? 三代目も大蛇丸も同時にそう思い、そして三代目はそれが味方であると判断した。

 その姿に見覚えがあったのだ。去年アカデミーを卒業し、日向ヒアシの付き人として三人一組(スリーマンセル)を組まずに一人で下忍として活動しているという日向アカネ。

 木ノ葉にいる忍――アカデミーの候補生は除く――ならば全員覚えている三代目はすぐにアカネの名を思い出した。

 

「お前は……日向アカネか! 何故ここに!?」

「日向? 白眼の娘が何の用かしら?」

 

 乱入者の正体が判明した所で三代目も大蛇丸もすぐに落ち着きを取り戻した。

 三代目はこれから起こるだろう血みどろの殺し合いの中に入ってきたアカネを心配するが、大蛇丸はわざわざやって来た実験サンプルに興味を示していた。

 

「白眼は持ってなかったわねぇ。写輪眼と比べると見劣りするけど、貰えるものなら貰っておこうかしら」

 

 世界各地から集めた珍しい能力を持っている大蛇丸の実験体の中にも日向一族はいなかった。

 日向一族は白眼に対する警戒心が強いので大蛇丸でも奪う事は容易ではなかったのだ。

 結界を突き破っての闖入には驚いたが、三代目を殺すついでに貰っていくのも悪くはない。そう思っていた大蛇丸は、すぐにその考えを破棄した。

 

「う、おお……!」

「これは……!?」

 

 目の前の少女から放たれるプレッシャーに大蛇丸は先程までの考えが甘い物だと理解した。

 あまりのプレッシャーに周囲の屋根はどんどんとひび割れていく。先の三代目と大蛇丸のプレッシャーの比でない。

 大蛇丸は確信した。これは……化け物だ。

 

「ガハハハハ!」

 

 三代目と大蛇丸がアカネのプレッシャーに気圧されている中、初代火影が突如として笑い出した。

 そして大笑いしている初代とは対照的に、隣にいる二代目火影は頭を抱えてアカネを見ていた。

 

「なるほど! お前は本当にオレを驚かせる!」

「穢土転生が成功せんわけだ……」

「……まさかッ!」

 

 大蛇丸は二人の言葉の意味が理解出来なかった。だが三代目は理解出来たのか、驚愕の瞳でアカネを見ている。

 そしてアカネは初代と二代目の言葉を聞いてそれまで放っていたプレッシャーを弱め、二人を見ながら微笑み語りかけた。

 

「安心しろ。すぐに止めてやるから」

「うむ! 任せたぞ!」

「お前がどうしてそのような姿で、今ここにいるのかは知らん。だが、木ノ葉を頼んだぞ」

 

 アカネの言葉に、柱間と扉間は頷いて答えた。

 そして二人の返事にアカネもまた頷く事で返した。

 

「何を!? 木ノ葉は今日終わるのですよ! 先代達は物言わぬ殺戮人形になっていただきましょう!」

 

 大蛇丸からしたら戯言としか言えない台詞を吐く初代と二代目に苛立ち、大蛇丸はすぐに二人の頭に札を突き入れた。

 徐々に二人の体が生気を帯びて行き、生前の姿へと近づいていく。それを見たヒルゼンは警戒を強めるが、そんなヒルゼンに対してまるで部下に対するようにアカネは言葉を発した。

 

「ヒルゼン。下がってなさい」

「しかし……!」

「下がれ。二人は私が止める。大蛇丸もだ」

 

 それは三代目に有無を言わせない圧力を籠めた言葉だった。

 そこから感じ取れる怒りを知り、三代目は大蛇丸を見た。

 

「愚かよの大蛇丸。人の道を外れ外道に成り下がり、その結果逆鱗に触れてしまった」

「逆鱗? 今更あなたの逆鱗に触れたところで……!」

 

 大蛇丸は既に三代目の逆鱗に触れている。少なくない里の忍達を犠牲にして禁術の人体実験をしていた大蛇丸だ。里を想う三代目にとってそれは許せない事だ。

 だが、三代目の言う逆鱗とは己自身の事ではなかった。

 

「ワシではない……この御方のじゃ!」

 

 三代目火影がこの御方と呼ぶ人物だろうアカネを大蛇丸は怪訝に思う。

 何故火影ともあろう者が一介の忍――にしては強いチャクラを纏っているが――をそう呼ぶのか。

 その疑問は、アカネの放つチャクラを感じている内に解けていった。

 

「まさかお前は!」

「扉間も他里の忍にしていた事だ……私が怒るのは扉間の穢土転生の犠牲者からすれば筋違いかもしれない……が! 大蛇丸! この二人を口寄せした事を後悔させてやろう!!」

「あなたは! 日向ヒヨリ!?」

「はぁっ!」

 

 大蛇丸がアカネの正体に気付いた瞬間、アカネの体から更にチャクラが溢れ、一瞬で内へと圧縮されていった。

 体から溢れるチャクラを凝縮する事で、視認出来る程に具現化したチャクラの衣を作り出し身に纏ったのだ。

 

「くっ! まさか生きていたとはね! いや、私と同じ術か!?」

「お前と同じ? それはお前の中にいる白蛇の事か? だとしたら一緒にされるのは不快なんだがな」

「そこまで見抜けるというのね! あなたの白眼はどれ程見通せるのかしら……!」

 

 他人の肉体を乗っ取る不屍転生(ふしてんせい)を開発した結果、大蛇丸の本体は巨大な白蛇と化している。

 そして今の体の奥深くに隠してあるその本体をアカネは白眼にて見抜いていたのだ。

 

「しかも不屍転生ではない……!? いいわ! 興味があるわその術! どうやって蘇った日向ヒヨリィィィ!」

 

 大蛇丸はアカネを捕らえるべく殺戮人形と化した柱間と扉間をアカネにけしかけた。

 殺戮人形故に加減は出来ないが、目の前の化け物は加減をしないくらいが丁度いいだろうとの判断だ。

 下手に手加減などすれば危ういのは己の身だ。

 だが、大蛇丸のその考えはまだアカネという存在を過小評価した考えだった。

 

「……遅すぎる」

 

 柱間が木遁――柱間のみに使用出来る血継限界――の印を、扉間が水遁の印を組みそれぞれ術を発動しようとする。

 だがその術が発動する前に、アカネは二人を通り越して大蛇丸の前へと移動していた。

 しかも柱間と扉間に大玉螺旋丸を叩き付けるというおまけ付きでだ。

 

 螺旋丸とはかつて四代目火影が考案した形態変化を極限まで極めた忍術だ。

 形態変化とは読んで字の如くチャクラの形態を変化させる技術の事だ。性質変化ほどの威力はないが、様々な形態変化により術の幅を大きく上げる事が出来る。

 ちなみに忍術を使用する時に必要な印は形態変化を簡易的に使用する為に開発された物だ。この印を組む事で性質変化をした術に様々な形態を加え、それが火遁や水遁などに代表される術となるのである。

 

 そして螺旋丸は印を用いず形態変化のみで最大の威力を持てるようにする思想で開発された。

 掌からチャクラを放出し、それを乱回転させて更に圧縮して球状に留め、それを対象にぶつける術である。

 言葉にすれば簡単だが実際にこの術を会得するのは非常に困難だ。忍術の会得難易度で言えばAランク。上から二番目である。

 相当なチャクラ操作とチャクラ放出の技術が要される高等忍術であった。現在螺旋丸を会得している忍は数える程だ。

 

 ちなみに術を開発し命名したのは四代目火影だが、アカネはヒヨリとして生まれた時から螺旋丸を会得していた。

 長きに渡る人生で似たような技を開発していたのである。印を用いずに使用出来てかつ高威力を誇るのでアカネも愛用している術だ。

 

 その術を両手で作り出し、その大きさを人一人を飲み込める程に大きくして柱間と扉間にぶつけたのだ。

 それだけではない。穢土転生体は例え体を損傷してもすぐに塵芥が集まり元に戻ってしまう。いくら攻撃しても倒す事が出来ない不死身の兵と化すのだ。

 だからアカネは二人を攻撃した螺旋丸を自身の体から離れてからもそのまま維持し続けた。二人が再生してもすぐに破壊して、再生と破壊を繰り返させる事で行動不能に陥らせたのだ。

 例え二人の肉体が動き螺旋丸からずれた場所で再生しようとしてもすぐにアカネが螺旋丸を操作して二人の体を攻撃し続ける。

 螺旋丸は掌から放出されるチャクラを操作して作り出す術だ。これは掌がもっともチャクラ放出に向いている箇所なのが理由だ。

 それを肉体から離しても維持し続ける。チャクラ放出とチャクラ操作、二つのチャクラの技術が桁外れに高いアカネだからこその芸当である。白眼で二人の位置を確認しているのも要因の一つだ。

 

「所詮は不完全な穢土転生。柱間と扉間が本来の力で蘇っていればこんな攻撃は通用しない。お前がそうしなかったという事は本来の力で二人を復活させると穢土転生の縛りを破られると理解していたからか……」

「ふ、ふふははは! 素晴らしい……! これが! これがお伽話にすらなった初代三忍の真の力!」

 

 大蛇丸をしてアカネの力は桁違いと思わざるを得なかった。

 瞬神と呼ばれた四代目以上の速さ、螺旋丸の高等応用技、そして今も周囲を圧迫する程の圧力を放ちながらも一切の無駄な破壊を生み出していない高密度なチャクラの衣。

 まさに伝説の忍。木ノ葉を築き上げた最強の三忍その一人。

 

「大蛇丸。お前は少々やりすぎた。幼い頃はこうではなかったのに、いつから……」

「さあ、それは私にも分かりませんねぇ……。私はただこの世の全てを解き明かしたいだけなのですよ」

 

 この世の全てを解き明かす。全ての術を知りこの世の全ての真理を理解する。それが大蛇丸の欲望。

 だが人の身でそれを成すには時間が足りな過ぎる。有限の身では全ての真理を理解するなど不可能だ。だからこそ大蛇丸は不屍転生(ふしてんせい)を開発したのだ。

 

「そんな事は全知全能にでもならない限り不可能だ。そしてそれは悠久の時を手に入れても達する事が出来ない境地だ」

「まるで悠久の時を手に入れているかの様なお言葉ですね。死して新たな肉体で蘇ったその秘密……是非とも教えて頂きたい物です……!」

 

 大蛇丸の不屍転生(ふしてんせい)にはある欠点があった。

 それは一度不屍転生(ふしてんせい)を行うと三年ほど時間を開けないと再び使用出来ないという物。

 だがアカネの術にそう言った欠点がないのなら、しかも乗っ取る相手を見繕う必要がないのなら、それは大蛇丸にとって理想の転生忍術と言えた。

 

「無駄ですよ。これは私だけの術。あなたが使う事は不可能です」

 

 アカネの転生能力は忍術ではないのだ。例え誰であろうと、この世の全ての術を会得しようとアカネの能力を会得する事は出来ない。

 

「だったらあなたの体を乗っ取ってでも……!」

「やってごらんなさい。出来るものならね!」

 

 大蛇丸はアカネの肉体を無傷で手に入れる為に幻術を仕掛ける。

 だが幻術の類はアカネの能力によって完全に無効化されてしまうのだ。

 

 幻術が一切効果ないとすぐに悟った大蛇丸は忍術による攻撃を選択した。

 

――風遁・大突破!――

 

 大蛇丸の口から暴風が吐き出され、荒れ狂う暴風がアカネを襲う。

 だがこの攻撃はアカネにダメージを与える為のものではなかった。

 この程度の忍術でアカネを傷つける事は不可能だと大蛇丸も理解している。

 だが屋根の上という不安定な足場を崩し、アカネを宙に吹き飛ばす事なら出来るだろう。

 いくら暴風に耐える為に踏ん張ろうとも、足場その物が吹き飛べば踏ん張りようがないのだから。

 

 そうして宙に吹き飛んだ所を体の中に口寄せしてある草薙の剣で攻撃する。

 草薙の剣は大蛇丸の持つ忍具の中でも最大の切れ味を誇る剣だ。また自在に刀身を伸ばす事も出来る。結界がある為アカネが吹き飛び過ぎない様になっているのも計算づくだ。

 これならばアカネがいかにチャクラの衣で身を守っていようとも貫く事が出来る。大蛇丸は草薙の剣を空中で無防備となっているアカネへと伸ばそうとして――

 

「なッ……!?」

 

 微動だにしていないアカネを見て驚愕する事となった。

 アカネの位置は大蛇丸が風遁を放った時から僅かたりとも後ろに下がってはいない。

 そればかりか足場もないと言うのに宙に浮いて元の位置を維持しているのだ。未だ暴風はアカネを襲っているというのにだ。

 

「くっ!」

 

 大蛇丸はそれでも構わずにアカネに向けて草薙の剣を伸ばした。

 当たりさえすれば致命傷を与える事が出来るはず。そんな大蛇丸の考えはまたも真っ向から否定される事となった。

 

 草薙の剣は確かにアカネに命中した。だが高速で回転するチャクラによって草薙の剣はアカネにかすり傷一つ付ける事も出来ずに弾かれたのだ。

 

――か、回天!? いえこれは!――

 

 そう、大蛇丸が気付いた様にこれは回天ではない。

 肉体ではなく放出したチャクラそのものを回転させる事で攻撃を弾くという、回天の更に上の奥義、廻天である。

 

 アカネは大蛇丸の攻撃を廻天にて弾いた後、そのまま廻天を維持しつつ大蛇丸へと接近した。

 そして放たれるは柔拳の奥義。瞬時に相手の点穴を流れるように打ち続ける事でチャクラの流れを塞き止める日向宗家にのみ伝わる秘伝。

 

――柔拳法八卦六十四掌――

 

「ぐがああ!?」

 

 凄まじい速度で繰り出される攻撃はその全てが大蛇丸の本体である白蛇の点穴を突いていた。

 肉体の奥深くに隠れている白蛇まで浸透するようにチャクラを鋭く突き刺し、その上アカネのチャクラを点穴に突き刺して残しておく。

 これで時間が経っても点穴が解除される事はない。アカネがチャクラを消すか、誰かの手で排除してもらわない限り大蛇丸はまともにチャクラを練る事も出来ないだろう。

 さらには体の内部から焼かれる様な痛みが常に大蛇丸を襲い続ける。これがアカネが大蛇丸に下す罰であった。

 

「これでお前の大半の術は奪った。そしてその痛みは永劫消える事はない。お前が弄んだ人の痛みを僅かでも思い知れ」

「ぐ、うううぅうっぅ! くそ……!」

 

 悪態を吐く余裕もなく大蛇丸は痛みに悶えながら思考する。そんな事をしている暇はないのだ。このままでは木ノ葉に捕われ永劫の苦しみを味わうか、座して死ぬかの未来しか待っていない。

 何とかして逃げなくてはならない。生き延びさえすれば方法はあるのだから。

 

「あなた達!」

『はっ!』

 

 結界を張っていた大蛇丸の部下が結界を解除して主人を守るように飛び出してくる。大蛇丸はそれに呼応する様に後ろへと下がって行った。

 部下に僅かでも時間を稼がせて自分は逃げ切るつもりだろう。だが、この程度の足止めがアカネに通用するわけもなかった。

 

「喰らえ蜘蛛しば――」

 

 アカネに向けてチャクラを流し込んだ粘着性の糸を飛ばしてくる音忍。だが既に糸を飛ばした場所にアカネの姿はなかった。

 

「ど、どこに!」

 

 その言葉を最後に糸を飛ばした音忍は気を失った。

 アカネは経絡系を突いて音忍の一人を気絶させた後、すぐに残りの音忍へと攻撃を加える。

 その速さに対応出来た音忍はおらず、残りの三人もあえなく気を失う事となった。

 

「くっ……役立たずめ!」

「逃げ切れると思うなよ大蛇――む!?」

 

 逃げようと足掻く大蛇丸に止めとなる一撃を加えようとしたアカネ。

 だがその攻撃は寸でのところで止まる事となった。それは何故か?

 

「消えた? この消え方、口寄せ解除か!?」

 

 そう、アカネが攻撃を止めたのは肝心の大蛇丸がその場から急に掻き消えたからだ。

 

「馬鹿な……! プライドの高いあ奴が口寄せされていたじゃと!?」

 

 その事実に大蛇丸の師である三代目火影も驚愕していた。

 大蛇丸が誰かと口寄せ契約をする様な人間だとは思ってもいなかったのだ。

 だが確かに効果的な逃走方法だ。予め口寄せにて現れていたならば、その口寄せを解除すれば確実に元の場所まで時空間を飛び越えて一瞬で移動する事が出来るのだから。

 

「……やれやれ。面倒事を片付けられませんでしたか」

 

 そう呟きつつも、まだ木ノ葉には面倒事が残っている事を思い出し、それをアカネは片付けようと白眼にて当の面倒事を確認する。

 

「……あれは」

 

 アカネが見た物は、面倒事である尾獣が一体・一尾と闘っているナルトの姿だった。

 ナルトはあの一尾を相手にガマブン太を口寄せし、協力して渡りあっている。

 人柱力と力を合わせていない尾獣とはいえ、それでも尾獣は強大だ。

 それを相手に一歩も退かずにナルトは闘っていた。

 

「……ふふ」

 

 これなら大丈夫だ。アカネはそう確信を持って言えた。

 今のナルトは誰かを守る為の目をしており、そして敵を憎む目をしていない。そういう目をした者は強い。アカネはそれを長き人生で知っていた。

 

「もしもの事があれば加勢してあげるから、全力でやりなさいナルト」

 

 もっとも、その必要はないだろう。何故かアカネはそう思えるほどナルトが勝つと信じていた。

 アカネにそう思わせる何かがナルトにはあった。恐らくミナトもそれを感じ取ってナルトを信じて九尾を封じ込めたのだろうとアカネは思う。

 

 そんな風に過去に思いを馳せ、地味に現実逃避をしていたアカネは後ろから感じる複数の視線に気付きつつもあえて無視していた。

 

「……ヒヨリ様」

「おお、そこだ! いけナルト!」

「ヒヨリ様!」

「はて? 私は日向アカネというしがない下忍でして。ヒヨリ様という超絶美女くノ一とご一緒にされるとヒヨリ様に申し訳ないのですが?」

「それで誤魔化せると思っておられるなら些かワシ等を馬鹿にし過ぎですが」

 

 アカネが後ろを振り向くと、アカネの予想通り四人の忍にじーっと見られていた。

 三代目火影、はたけカカシ、うちはオビト、マイト・ガイの四人である。全員生前の日向ヒヨリと面識のある忍だ。

 

「……てへぺろ」

「……」

 

 アカネの過去だろう人物を想像すると果てしなく似合わない仕草と思ったカカシであるが、命が惜しくてそれを口にする事はなかった。

 だが残念。アカネはそれくらい容易に読み取る洞察力を備えているのだ。初代三忍の名は伊達ではないのだ。

 

「何か言いたそうですねカカシさん。下忍なんかに遠慮せず言っても良いんですよ?」

「空が青いですねー。あ、鷹だ」

 

 どこかで聞いた事のある様な誤魔化し方をするカカシ。

 カカシは自来也の孫弟子に当たるので、余計な所まで継承したのかもしれない。

 

「うう、生きてたんですねヒヨリ様!」

 

 オビトは残った右目からだーだーと涙を流していた。

 昔から泣き癖がある子だったなと、オビトの幼い頃を良く知っているアカネはそれを思い出した。

 オビトは小さい頃から老人と仲良くなるのが得意で、木ノ葉の全ての老人と知り合っていた。それは日向ヒヨリも例外ではない。

 そしてオビトは命の恩人であるヒヨリを今も尊敬し慕っていたのだ。亡くなったヒヨリがこうして無事(?)生きていて非常に嬉しく涙を禁じえないようだ。

 

「ヒヨリ様、色々と事情を聞かせてもらいたいのですが……今は非常事態ゆえ後回しにさせて頂きます」

「ええ。私もこの状況で白を切るつもりはありませんよ。……本当ですよ? なんでそんな疑わしそうにこっちを見るんだヒルゼン?」

 

 最初に白を切った本人に言われても説得力という物がないだろう。

 

「この戦争の片が付いたらこの場にいる人と信用の置ける忍を集めておきなさい。その時に全てを説明しましょう。でも、出来るだけ少ない人数でお願いしますよ?」

「かしこまりました。皆の者! すぐに戦争を終わらせるぞ!」

『はっ!』

 

 そうして三代目と共に上忍たちが砂忍との決着をつけにいく。

 と言っても既に大蛇丸は退場し、一尾もナルトが抑えている。残りの砂忍の多くが死亡や重傷で戦闘不能に陥っており、無事な砂忍も大半が戦意を喪失していた。

 そしてナルトが一尾とその人柱力である砂の我愛羅を倒した所で砂隠れは木ノ葉から撤退。

 後に、戦争により里の戦力低下を招くという、本来の計画からすれば真逆の結果を生み出してしまった砂隠れは木ノ葉に全面降伏を宣言。

 木ノ葉はそれを承諾。戦争を仕掛けて来た砂の掌を返した様な申し出だが、木ノ葉としても無駄に戦争を続けて被害を拡大するつもりはなかったのだ。

 こうして木ノ葉隠れと砂隠れの戦争は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 とある薄暗い部屋の中に二人の人物がいた。

 

「危ないところだったわ……」

 

 一人は大蛇丸。全身を襲う痛みに耐えながら大蛇丸は安堵の溜め息を吐いていた。

 口寄せの術を利用した移動法で上手く木ノ葉から逃げ延びた大蛇丸。

 後僅かに口寄せ解除が遅ければ……。やはり口寄せ契約を交わしておいて正解だったと大蛇丸は自分の英断を内心で褒め称える。

 大蛇丸は木ノ葉の戦力を舐めてはいない。今の木ノ葉には自身を脅かす存在が最低でも五人はいると判断していたのだ。

 それが三代目火影・うちはシスイ・うちはイタチ・日向ヒアシ・日向ヒザシの五人である。

 一人一人ならば勝つ自信もあったが、二人同時ならば勝ち目は薄く、三人以上ならばまず勝てないだろう。それ程の実力者達だ。

 だからこそ念には念を入れて緊急避難用に口寄せ契約を結んでいたのだ。

 

「ご無事で何よりです」

 

 そして大蛇丸の隣で彼に医療忍術を掛けている男。彼の名前はカブト。大蛇丸に仕える忍の一人にして大蛇丸が最も重宝している男である。

 このカブトこそが大蛇丸と口寄せ契約を結び、大蛇丸をこのアジトへ呼び戻した張本人であった。

 

「ふん……あなたにしたら私が死んだ方が良かったんじゃないかしら? ああ、私が死ねばあなたの大切な人も危なかったわねぇ……」

「……」

 

 大蛇丸の言葉に無言で返すだけのカブト。彼は望んで大蛇丸に仕えている訳ではなかった。

 かつてカブトはとある孤児院に世話になっていた一人の戦災孤児であった。

 孤児院は火の国や木ノ葉の里から補助金を受けて経営されており、その補助金をより多く得る為に孤児院の職員や子どもは医療忍術にて木ノ葉の忍を癒すという仕事をこなしていた。

 カブトもまたマザーと呼ばれるカブトを拾ってくれた恩人に医療忍術を教わり、多くの忍を癒してきた。

 幸いと言っていいのかカブトには医療忍術の才能があった。いや、不幸だったのだろう。才能があったからこそ、カブトは大蛇丸に目を付けられたのだから。

 大蛇丸は戦争で傷ついた肉体をカブトに癒してもらった時にその才能を見出したのだ。

 

 大蛇丸は木ノ葉を抜け出してから暁に入り、多くの人体実験を繰り返していく中で一つの不満を抱えていた。

 それは術の開発に使用される人間の数が多い為、その補充が追いつかないという事だ。

 あまりに多くの人間を攫って人体実験を繰り返していれば流石に木ノ葉や他里の忍に気付かれやすくなる。

 それを防ぐにはどうすればいいか? 人体実験に使用した人間が使い捨てではなく、再利用出来る様にすればいいのだ。

 

 そんな悪魔の様な思考で大蛇丸は優秀な医療忍者であったカブトを拉致して己の駒とした。

 もちろんただ拉致しただけでカブトが自分の命令を聞くとは思っていない。色々と口憚るような手段を取れば話は別だが、それでも意思が強い者ならば裏切る可能性はある。

 だから大蛇丸はカブトを調べ上げ、カブトが己の命よりも大切にしている者を人質にしたのだ。

 それこそが孤児院のマザー、ノノウであった。

 

 カブトに取ってマザーは命の恩人であり名付け親であり自分の理解者であり、本当の親よりも愛している何よりも大切な存在だ。

 そのマザーは大蛇丸に捕らえられ、いつでも大蛇丸の意思一つで殺せるように処理されてしまったのだ。

 さらに大蛇丸はマザーだけでなく孤児院その物もカブトを脅す材料にした。孤児院はカブトの家というだけでなく、血は繋がってないが兄弟と思っている多くの仲間がいる。

 そんな存在も大蛇丸の手に掛かればいとも容易く破壊されてしまうだろう。カブトは大蛇丸に頭を垂れるしかなかったのだ。

 

 だがカブトも大蛇丸にただ従っているだけではない。虎視眈々と復讐の機会を待ち、そして僅かばかりの嫌がらせに大蛇丸や暁の情報を巧妙に隠して木ノ葉の一部の忍に伝えていた。

 それが大蛇丸と同じ三忍の自来也だったりする。自来也が仕入れていた大蛇丸や暁に関する情報の多くはカブトから手に入れたものだったのだ。

 

「……もういいわ。ぐぅ……少しは楽になったけど……」

 

 カブトの治療を受けた大蛇丸は未だ己を苛む痛みに呻く。

 大蛇丸の本体である白蛇の点穴の内六十四は今もなおアカネのチャクラ針によって塞がっている。

 それは大蛇丸に間断無い痛みを与え続け、しかもチャクラを練る事を阻害し続けているのだ。

 三忍と言われた大蛇丸だからこそチャクラを多少は練る事が出来ているようだが、一般的な忍ならば僅かたりともチャクラを練る事は出来ないだろう。

 そしてそれらはカブトの卓越した医療忍術でも癒す事は出来なかった。

 

「おのれ日向ヒヨリ……!」

 

 静かに怒気を現す大蛇丸の言葉にカブトは内心で驚いていた。

 日向ヒヨリ。とうに死んだはずの人間の名前が出た事に驚き、そして大蛇丸が言うからにはそれが事実なのだと理解して更に驚く。

 

「ふふふ……今なら簡単に私を殺せるわよ?」

「ご冗談を……」

 

 カブトの内心は大蛇丸でも計りきれない。それほど上手くカブトは己を殺していた。

 そしてそんなカブトの内心は大蛇丸への殺意とマザーと孤児院を心配する二つの感情で占められていた。

 今もカブトはこの弱った大蛇丸の首を掻っ切ってやりたい衝動に襲われている。だがそれで殺せたとしても、マザーを助ける事は出来ないのだ。

 マザーがどこにいるかカブトは知らされていない。そして大蛇丸が死ねばマザーも死ぬようになっているとカブトは大蛇丸に説明されているのだ。

 もしかしたらそれは大蛇丸のはったりなのかもしれない。だが大蛇丸ならばそんな仕組みをマザーに仕込むのも容易いと思わされている。

 その思いがある限りカブトは大蛇丸を表面上は裏切る事が出来ないでいた。

 

「ふん……。まあいいわ。木ノ葉崩しは失敗に終わったけど、収穫がなかったわけじゃない……」

 

 大蛇丸は新たな器候補であるサスケと、今もなお生きて伝説の力をそのままに振るったアカネの姿を思い浮かべる。

 

「くくく……」

 

 あの伝説の力を上手く誘導すれば、暁を出し抜く事も可能かもしれない。暁との戦闘で弱った所を上手く突けば乗っ取りも可能かもしれない。

 かもしれないという希望的観測だが、その未来を想像した大蛇丸は暗く歪んだ嗤いを浮かべ、闇の中へと消えて行った。

 

 




 主人公による原作との変更点。

 月光ハヤテ……カブトがスパイとして砂隠れのバキと接触する事がなかったので無事に生きている。ただし病弱なのは変わらない。

 ドス・キヌタ……大蛇丸がサスケを求めている事を知らない為サスケへの嫉妬もなかったので我愛羅に挑む事なくすむ。だが大蛇丸によって日向ヒヨリを口寄せする為の生贄にされた。死に方が変わっただけであった。

 薬師カブト……ダンゾウがDANNZOUなので孤児院から連れ去られる事無く成長し続け人格が歪まず確固たる自身を手に入れている。マザーと孤児院を人質に取られているので大蛇丸に従っている。いつか大蛇丸をぶっ殺してやる。







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