本当は鰤編よりも先に書くつもりでしたが、途中まで書き上げていた鰤編を早く投稿したいがために、そっちの制作に集中してしまい、こっちは完全に放置してしまってました。鰤編が終わった後も、燃え尽き症候群でしばらく執筆から離れていましたし……最近になってようやく書こうという気になったので、コツコツ書き上げた次第。
この投稿はしばらくしたらダイ大編の方に移します。最初だけは最新話として投稿しないと、どこに投稿されたか訳わかんなくなるので……。ご了承ください。
ダイ大編後日談その1
アバン率いる勇者一行が大魔王を討伐――正確にはどこにでもいる可愛らしい愛嬌たっぷり愛されアイドルメタルキングが討伐した――し、世界各国がその事実に歓喜の声を上げていた時。
地上のどこか。薄暗い洞窟の中でも、一人の男が歓喜の声を上げていた。
「キィ~ヒッヒッヒッ! キィ~ヒッヒッヒッヒッ!」
そこは洞窟の中だが、明らかに人の手が加えられた形跡があった。複数の魔法のランプが暗い洞窟内を照らしており、男の周囲には何かしらの溶液に満たされた大きなカプセルが幾つも並んでいた。
その溶液の中に入れられている何かを見ながら、男は更に笑った。
「素晴らしい! これさえあれば! これさえあれば完成する! 完成するぞ! 魔族を超えた究極の魔族! 最強の超魔生物が! キィ~ヒッヒッヒッ!」
男の声に呼応するかのように、洞窟の外で雷鳴が鳴り響く。だが、そんな雷鳴よりも遥かに大きな音が洞窟内には響き渡っていた。
「あの世で見ていろ我が父よ! オレがあなたを超えるところをな! キィ~ヒッヒッヒッ!」
洞窟内には男の執念や妄執、そして僅かな悲哀が込められた叫びが木霊していた。
◆
大魔王討伐から二年の年月が流れた。地上では大きな争いはなくなり、各国の仲も魔王軍との戦いを通じて良好なものとなっていた。
特に軍事大国であるベンガーナ王国が、一方的な軍拡を中止したのは大きな変化だろう。兵器技術の発展にこそ力は入れているが、その技術を自国のみではなく他国にも広めようとしている。
他国もそれぞれ交易を盛んに行っており、ロモスの豊富な食料・パプニカの魔法の絹糸・オーザムの上質な宝石・カールの闘気を纏う武器・リンガイアの多種多様な鉱石など、他にも各国が誇る様々な名産品が世界中を飛び交っていた。
かつて、世界征服を企む魔王ハドラーを勇者アバンが倒した時も世界は賑わったが、これほど世界中の国々が一体と化したことはなかっただろう。
その理由として、そうなるように勇者アバンが働きかけたことが挙げられる。
勇者アバンは以前魔王ハドラーを倒した後、世界中を旅して回っていた。その際、様々な戦いがあったが、ここで語ることではないだろう。
ともかく、アバンは世界を旅し、優秀な弟子を育て、15年間もの年月をかけて次代の勇者たちを育てていた。つまり、各国を纏める動きなどしてはいなかった。
だが、大魔王バーンが魔界に帰還した後、勇者アバンは考えた。今後のことも考え、世界各国の関係を強固にすべきだ、と。
大魔王バーンは死んでなどいない。メタルンが倒しはしたが、今も生きて魔界で傷を癒し、更なる力を蓄えている最中なのだ。
バーンが更なる力を身につけ、メタルンを倒しにいずれ地上にやってくることは明白。その時、再びメタルンがバーンを倒してくれると信じるのは簡単だ。だが、絶対に倒せるかどうかなど分かるわけがない。
互いに神々を超える戦闘力を持っている二体だ。その戦いの結果がどうなるかなど、それこそ神にすら予測不能であった。
故にアバンは先を見据えて、世界各国での平和同盟を結ぶよう働きかけた。今後のことも考えると、人間の国同士で争っている場合ではない。大魔王を倒すことは無理だとしても、その軍勢に負けないくらいに一致団結すべきだろう、と。
世界を二度も救った勇者アバンの提案だ。各国も簡単には無下に出来ないだろう。それだけではない。今のアバンには勇者以外の大きな肩書があった。
そう、カール王国国王・アバン=デ=ジニュアール3世という、一つの国のトップとしての肩書である。
……勇者アバン、年貢の納め時であった。
勇者アバンはカール王国の出身である。そして、かつてはカール王国の騎士団の一員であった。
当然、カール王国の女王であるフローラ女王とも知己であり、アバンに幾度も助けられた経験もあって、フローラはアバンに恋心を抱いていた。
そんな女性を国に置いて世界中を旅していた朴念仁がアバンである。世の童貞に謝れ。
だが、さすがのアバンにも年貢の納め時という奴が来た。
大魔王バーン討伐という大仕事を終え、世界各国の平和同盟に関してまずは気心が知れたフローラに相談を持ち掛けたが最後。
「なら、あなたが発言力を持つのが一番ですよアバン」
「はい?」
そんなフローラの一言から始まり、あれよあれよと結婚していた。周囲の掘は既に埋められていた。アバンに逃げ場などなかった。
まあ、アバンも少なからず想っていた相手だ。結婚しましょうと言われた時は度肝を抜かれるほど驚いていたが、特に否はなく結婚に至った。はよ結婚しとけどんだけ待たせてるんだこいつ、とはどこぞのメタルキングの言である。
別の世界の童帝を見たらどの口がほざくんだと誰もが突っ込むことだろう。
こうして、カール王となったアバンは各国に働きかけ、大魔王討伐からちょうど一年後という記念すべき日に、世界平和同盟が樹立することとなる。
そして世界平和同盟が樹立して更に一年が経った記念すべき日に、各国の主導者が集まるサミットがテラン王国にて行われることとなった。
◆
「魔物たちの様子はどうだ?」
「特に動きはありませんね。魔物による被害もほぼありません。僅かな被害は魔物の生息域に侵入した密猟者のものですし、その被害も死者は出ておりません」
「うむ。各国の資料を見る限り、どの国も魔物に関する問題はなさそうだ」
「やはり魔国の影響もあるのだろうか? あの魔王ハドラーが新たに国を興し、多くの魔物を引き入れるとは……」
「いずれ人間国に戦争を仕掛ける為の準備に決まっておる!」
「ですが、魔王ハドラーは勇者達と共に大魔王を倒した功績者です。そんな彼が、再び我々に戦争を仕掛けるでしょうか?」
「そんなもの! 大魔王という魔王ハドラーにとっての目の上のたん瘤を取るための一時的な共闘だったに過ぎん!」
「ベンガーナ王の仰る可能性は捨てきれませんが、今は放置しておく他ないでしょう。下手につつき、再び世界を戦火に晒すわけにもいきますまい」
「パプニカ王の仰る通りですな。明確に敵対されたならまだしも、向こうが敵対しない旨を公言している現状、こちらから打って出るのは悪手かと」
様々な議題があがる中、会議は魔物についてと、地上に出来た最新にして問題の国、新生魔王国――通称魔国――に関する話になった。
魔国とは、かつての魔王ハドラーがバーンとの決戦後に、ギルドメイン山脈に作り上げた国である。
ギルドメイン山脈とは、多くの国があるこの世界最大の大陸、ギルドメイン大陸の東にある広大な大山脈地帯だ。周囲は岩山で囲まれており、人が寄り付かない場所となっており、かつては大魔王の本拠地である鬼岩城があった土地でもある。
そして、その鬼岩城跡地に建国されたのが、新生魔王国である。ハドラーは血の気の多い魔物達を従えて、その地に国を作り上げたのだ。
17年前の魔王ハドラーの恐怖は完全には消えていない。その脅威を覚えている人間は多く存在する。
そんな脅威の魔王が国を興したのだ。警戒するなというのが無理というものだろう。特に、武力に物を言わせやすいベンガーナ王や、ギルドメイン山脈にほど近い場所にあるテラン王国とリンガイア王国の関係者はその思いも一入だろう。
「むぅ……カール王……勇者アバン殿はどう思う?」
魔国に隣接するリンガイアの王がアバンに尋ねる。王としてではなく、かつてハドラーを討った勇者アバンとしての意見を聞きたいのだろう。
皆の視線がアバンに集まる中、アバンはゆっくりと口を開いた。
「そうですね。確かにかつて魔王ハドラーは非道を行いました。戦争を仕掛け、多くの人を死に追いやり、恐怖を撒き散らしました。それは間違いありません。私も、彼の勢力によって得難き友を失くしています……」
アバンの言葉を聞き、各国の指導者がやはり魔王ハドラーは危険な存在かと改めて認識しようとする中、再びアバンが口を開く。
「ですが、今のハドラーが我々に戦争を仕掛けることはないでしょう」
「なぜそんなことが断言できる! まさか、一緒に大魔王と戦ったからと絆されたのではないだろうな!?」
ベンガーナ王の反論は多くの指導者の代弁でもあった。かつての宿敵だが、大魔王を倒すために共に戦った仲でもある。アバンがハドラーを庇うような発言をすれば、そう思われても致し方ないだろう。
「いいえ、信じてほしいと言うほかないのですが、これは確かです。彼は……ハドラーは、我々人間に歩み寄ろうとしています」
「魔王ハドラーが――」
「人間に、歩み寄る……?」
アバンにそう言われても、はいそうですかと納得出来かねる発言だった。
あの魔王ハドラーが、人間に歩み寄ろうとしているなどと、どうして信じることが出来るというのか。
「人間に危害を加える危険性のある魔物の多くはハドラーが魔国に手引きしています。大魔王討伐以前の魔物の被害と、このニ年での魔物の被害の差は、先の資料の通りです」
「むぅ……」
「しかしだな……」
「それも兵を集めているだけということも考えられる」
流石のアバンの言葉でも、簡単には受け入れがたいようだ。指導者たちの渋面がそれを物語っていた。
「アバン殿の言葉が確かかどうかなど、今は分かる訳もないだろう。だが同時に、アバン殿の言葉を否定することもまた出来ぬ。そうではないか?」
「うむ。ワシもそう思う。確かに魔王ハドラーが行った非道は消えぬが、大魔王バーン討伐の一助という功績もまた消えぬと思う。警戒は必要じゃが、敵対行動を取っておらぬ以上、敵視ばかりするのも如何なものと思うがのう」
『……』
ハドラーを警戒しつつも、アバンを擁護する言葉がパプニカ王とロモス王から放たれる。穏健派である二人は、どちらかと言えばアバン寄りと言えた。
それでも各国の指導者や、被害にあった人々を思うと、両者ともにハドラーを完全に信頼することは出来ないようだ。
「今は様子見するほかありますまい。先ほどパプニカ王が仰ったように、下手に手を出して、それが原因で戦争が起こっては本末転倒。警戒しつつも静観すべきかと」
同じく穏健派であり、その知啓は随一と言えるテラン王がパプニカ・ロモス両国に賛同の意を示す。
テラン王国は国としては国家と呼ぶのも烏滸がましい国力――具体的には全国民合わせて50人ほど――だが、テラン王であるフォルケンは齢80を超えており、その蓄えられた知識は類を見ない。
そのテラン王までもが魔国に対し今は静観すべしと言う。これでカール・パプニカ・ロモス・テランの四か国が同意見となった。
世界平和同盟の七か国のうち、半数を超える四か国が魔国については静観すべしとの意見だ。こうなれば強硬派であるベンガーナ王もこの意見を受け入れるしかなかった。
「……分かった。確かに、今戦争を仕掛けても被害が拡大する可能性が高い。ひとまずは静観するとしよう。だが! 警戒せんつもりはない! 特にリンガイアやテランは魔国の隣国よ。事が起こったらこの二国が滅んでいたでは遅いからな!」
「ベンガーナ王の危惧も尤もです。私もリンガイア王国を預かっている身、魔国の動きはいち早く察知したい所存」
ベンガーナ王とリンガイア王の言葉にアバンも頷き、ただちに案を出す。
「まずは魔国王ハドラーと協議し、国境を定めましょう。国境が曖昧では今後様々な問題が出てしまいます。そして、国境付近には警備の兵を駐屯させるべきかと。これに関しては魔国側も要求してくるでしょうが」
ひとまず、魔国に対する対応は静観となった。魔国との交渉はアバンが矢面に立ち、調整するようだ。もちろん、他国の外交官もアバンとハドラーの談合がないよう立ち会うが。
いったん話はまとまり、特に議題がなくなった頃にロモス王がとある提案をした。
「のう各国の王よ。大魔王を退け平和になったと言えど、その大魔王は魔界にて健在。更に、今後の動向が不明の魔国の存在もある」
「その通りだが、それがどうかしたのかロモス王よ?」
「うむ。ここは一つ、武道大会を開くというのはどうじゃ?」
『武道、大会?』
ロモス王の急な提案に、各国の指導者たちが異口同音にオウム返しをする。
武道大会、言葉の意味は分かる。だが、それがなぜこのタイミングでそんな提案になるのか。その理由を、ロモス王は人好きのする笑顔を浮かべながら説明した。
「そう、武道大会じゃよ。平和になったからこそ、その平和を維持する為に戦力は必要。勇者殿たちは確かに強いが、勇者殿たちだけに頼るのもどうかとワシは思う」
『……』
その言葉は、各国の指導者たちには非常に耳に痛いものであった。大魔王率いる魔王軍との戦いは、勇者一行の力によって支えられていた。
もし勇者一行がいなければ、魔王軍の各軍団長が率いる無数の魔物により、大きな被害が出ていただろう。幾つかの国は滅んでいた可能性もあった。
それらのIFを未然に防げたのは間違いなく勇者一行の尽力によるものだ。つまり、今の平和は勇者一行におんぶに抱っこして築かれたものだということである。
「そこで武道大会を開くことで未だ見ぬ世界の強者を集めるのじゃよ。大会で優秀な成績を残した者には褒美を与え、希望する者には各国に召し抱えられるとすれば……」
「なるほど。悪くない提案だ。まだ見ぬ強者を探し出し、今後の平和維持の戦力になるという期待も出来る。各国に仕えている優秀な騎士や戦士、魔法使いなども名誉や報酬が得られるとなれば参加したいと思う者も多いだろう」
「それだけではないな。魔国が出来たことで民も少なからずストレスを受けているだろう。それを発散させることも期待できる」
「開催国には多くの見物客が来国することになる。経済効果も見込めるな。これは一度切りで終わらせるのは勿体ないですな。何年か置きに、開催国を変えながら開催するのはどうだろうか?」
「それはいいな。次があると知れば人々も奮起するだろう。次はオレが優勝する、いや私が、と。そうなると、世界全体の強者の質も上がるだろう」
ロモス王の説明を皮切りに、各々がこの提案に乗り気となって様々な案を出し始めた。なにせ世界中の国が協力して行う祭事など、世界初のことだ。誰もが未知の未来を想像し、楽しそうに笑っていた。
「それならば我が国ベンガーナが最初の開催国となろう。武道大会に丁度良いコロシアムもあることだしな」
「いや、我がリンガイアが最初の開催国となろう。我が騎士団が使用している演習場を改修すれば、武道大会を開くことも問題ない」
「いや、オーザムこそが最初の開催国となろう。厳しい常冬の環境故に、天気に左右されぬドーム型の建物がある。そこならば武道大会も開催可能だ」
気の早い主導者たちは、既に自国で開催される武道大会を想像しているようだ。最初の開催国ともなれば、やはり名誉なことと思う者も多く、血気盛んな三国の主導者たちは我が我がと声を荒げていた。
しかし、そこに冷水を浴びせるようにテラン王が意見を申し出た。
「ふむ。どの国も最初の開催国になりたいと思うのは当然のこと。しかし、それでは何時まで経っても決まりはしませぬ。ここは一つ、武道大会を提案したロモス王国を最初の開催国とするのが無難かと思いますが、如何か?」
「む、ぅ……」
「それは、確かに……」
「ふむ……」
テラン王の意見に、ヒートアップし掛けていた主導者たちが冷静さを取り戻す。確かに、このまま言い争っても結論は出ないだろう。もし自国以外の国で武道大会が開催されることとなったら、不満が残ることは明白だった。
だが、言い出しっぺであるロモス王国で開催するとなれば納得せざるを得なかった。これ以上ないほどの正当性と言えよう。しかもそう主張したのがロモス王国と関係がないテラン王だったことが、その提案の納得感を増していた。
「次回からの開催国は公平にクジか何かで決めるのが良いでしょう。ああ、我が国テランは開催国となることを辞退する。我が国ではそのような大きな催しを行う施設はないのでな」
テラン王が権利を放棄したことで、各国の主導者たちはそれ以上言い争うことが出来なくなった。権利を放棄した者がいる最中で、自分たちが権利を主張するという浅ましい行為は流石に出来なかったようだ。
「うむ! 言い出しっぺのワシが主導せんわけにもいくまい! 必ずや盛大な大会にすることを誓おう!」
こうして、後に幾世紀にも渡って開催されることとなる武道大会の記念すべき第一回が、ロモス王国で開かれる事が決定された。
「そうと決まれば、優勝者には盛大な褒美を与えるべきじゃのう。ただの大金というのも面白みがないし、如何すべきか……」
武道大会を開催するのは良いが、優勝者や優秀な成績を収めた参加者に与える報酬をどうするか、これがロモス王の悩みだ。
シンプルにお金というのも有りだが、優勝者ともなればそれだけでは面白くない。そうして悩むロモス王に、アバンが助け舟を出した。
「優勝者には、優勝者のみが扱えるオリジナルの武具を与える、というのはどうでしょう?」
「優勝者のみが使える、オリジナルの武具じゃと? それはどういうことじゃアバン王?」
武具とは、使用者の体格や力にもよるが、誰でもある程度は装備できるものだ。特定の個人だけにしか使えない武具など、それこそ伝説の武具以外には早々あり得ないものだろう。
だが、そんな伝説の武具を量産できるバグった存在を、アバンは良く知っていた。
「優勝者には、本人が望む武器や防具一式を、作ってもらえる権利を与えるのです。幸い、そういう武具を作ることが出来る方と知り合いなので、頼んでみましょう。多分、快く引き受けてくれると思いますよ」
「なるほど! ロン・ベルク殿か! あの勇者一行の武器を鍛え上げた人物! 魔界の伝説の名工という噂の!」
「はは、まあ、ロン・ベルク殿を訪ねるのはそうですね」
興奮するロモス王に対し、アバンは何故か乾いた笑いをしながら曖昧な返事をした。
どこか様子の可笑しいアバンに疑問を抱くも、取り合えず優勝者への報酬が決まったことに安堵するロモス王。
強硬派の主導者も、穏健派の主導者も、そしてアバンですら、開催される武道大会に思いを馳せる。どのような強者がいるのか。それとも自国の強者が優勝するのか。どちらにせよ、非常に楽しみなことだ。
「うむ。それとは別に優勝者には我が国に出来ることならば、大抵の望みを一つだけ叶えることにしよう。武具以外の報酬が良いと思う者もいるだろうしのう」
ロモス王の人の良い性格により、報酬はオリジナルの武具一式と、ロモス王国に叶えられることという条件付きで、優勝者の望みを叶えるということになった。
空手形故に止めた方が良いとの意見もあったが、王に二言はないとして、初の世界全土での祭典ということもあり、今大会のみ報酬として追加された結果だ。
「どのような強者が集まるか。楽しみじゃのう!」
呑気なロモス王の声が会議室に響く。空手形が痛い形にならねばいいのですがと、アバンは頬を掻いて心配した。
なお、当然のごとく勇者一行は武道大会出禁となった。残念でもなく当然である。未知の強者を見つけたいのであって、暫定世界最強の一行を出場させて蹂躙劇を見たいわけではないのである。
◆
「というわけなので、協力してもらえませんかメタルン」
かくかくしかじかと、アバンはメタルンに武道大会の件について説明した。
サミットから一週間後。自国に使節団と共に戻ったアバンがあれやこれやの雑務を終わらせて、自由時間にルーラでロン・ベルクの鍛冶屋に飛んできたのである。
この王様、王になってもフットワークが軽かった。今頃カール王国では王の不在に側近たちが慌てふためいていることだろう。いや、案外慣れていて達観している可能性はある。既にフローラ女王は達観していた。
さて、何故アバンがメタルンに協力を願い出たのか。何故ロン・ベルクの鍛冶屋に来たのか。答えは簡単だ。メタルンがロン・ベルクに弟子入りし、鍛冶師として修業を積んでいるからだ。
大魔王との決戦前に、メタルンはロン・ベルクに弟子入りを懇願し、どうにかしてそれは叶えられた。尤も、本格的に弟子入りをしたのはデルムリン島で面倒を見ていた元偽勇者でろりん一行の修行を終えてからだが。
それでも既に一年程の年月をロン・ベルクの元で過ごしていたメタルンは、何と既に相当な鍛冶の腕を得ていた。
元々自分の身体を削って武器にしていたメタルンだ。人間として生きていた歳月もかなり長かった為か、飲み込みが非常に早く、見る見るうちにロン・ベルクの技術を吸収していったのだ。
なお、こんな良く分からんデカくて速くて硬くて異常に強いメタルキングと名乗るのも烏滸がましい未知の存在に、自分の技術が見る見るうちに吸収されていくのを見ていたロン・ベルクの心情は複雑であった。
弟子が優秀なことを喜べばいいのか、こんな奴を弟子にしたことを嘆けばいいのか……。まあ、副産物であるメタルキング素材がたくさん手に入ったので、ロン・ベルクは深く考えるのを止めた。
「ピギィ?」
アバンの説明を聞いたメタルンは、「師匠」「どういたしましょう?」という二枚のフリップを器用に操り、ロン・ベルクへと尋ねた。
「ふむ。そこの小屋……いや、倉庫というべきか。倉庫に武具ならば腐るほど転がっている。そこらの人間の武具ならばそれで十分だろう」
そう言って、ロン・ベルクは巨大な倉庫を指さした。そこはかつてロン・ベルクが手慰みに作った武具の置き場だったのだが、メタルンが弟子入りして以降、大量の武具が次々と作られたため、置き場に困ってメタルンが小屋から倉庫に改装したものだった。
倉庫の中にはメタルン作の武具や、ロン・ベルク作の武具が大量に保管されていた。その多くがメタルキング素材によるものだ。まさに宝の山と言えよう。どの武具も、国宝になってもおかしくないほどの性能が込められていたりする。
なお、防犯意識は欠片もない。この二人――一人と一匹――が留守になれば、簡単に盗めるだろう。鍵くらいかけておけと言いたい。
「いえ、どんな人が優勝するか分かりませんので。優勝した方の武器が剣なのか槍なのか、はたまた爪なのか鞭なのか。防具の大きさや種類など、様々でしょう? それに、ねぇ……」
「それに?」
「ピギィ?」
言葉を濁したアバンに二人――面倒なので二人としておく――が疑問の声を上げる。
「そこに収められている武具は、どれもこれも強すぎるでしょう……メタルキング素材の武具は、報酬としては少しやりすぎですよ……」
「ああ……」
「ピギィ……」
アバンにそう言われて、二人は思い出したかのように頷いた。そう、本来メタルキング素材で出来た武具など、伝説の中の伝説の存在なのだ。
そんな武具をポンポンと増産出来ているのは、ひとえにメタルンが自らの肉体を文字通り削って使用しているからだ。普通は量産できる代物ではない。
だが、そんな伝説の武具を毎日のように量産していた二人は、そこら辺の感覚が完全に麻痺していた。もし優勝者への褒美がメタルキング製の武具となったら、今後武道大会が開催される度に世の中にメタルキング製の武具が広まっていくことになってしまうだろう。
まさに伝説の武具のバーゲンセールである。
それは流石に看過できないとして、アバンは素材のグレードを下げるように頼み込んだ。
「というわけで、そこそこな鉱石を使って武具を作ってくれませんか? 優勝者が望んだ形と性能で」
「ピギィ?」
アバンの頼みごとに対し、メタルンは「師匠」「どういたしましょう?」というフリップを再びロン・ベルクに見せる。
今のメタルンはロン・ベルクの直弟子だ。他の私事ならばともかく、鍛冶に関することならば師に確認を仰ぐ必要があるのだ。
「ふむ。いいだろう。メタルン、これはお前への試験とする。お前の素材を使わずに、俺を納得させる武具を作ってみせろ」
「……ピギィ!」
ロン・ベルクの命に対し、メタルンは嬉しそうな笑み――普段と特に変わらないスライムスマイル――で頷いた。
こうして、無事に武道大会優勝者の報酬が作られることが決定した。なお、問題となるのはそこそこの鉱石がメタルン的に、メタルキング素材よりも希少というバグった現実だったりする。
◆
「武道大会?」
「ええ、今度ロモスで開かれることになったみたいなの」
「世界中からたくさんの戦士や魔法使いが集まって、誰が一番強いのか決めるらしいぜ。報酬も出るってよ」
魔の島デルムリン島にて、勇者一行であるダイ、ポップ、マァムの三人が楽しそうに話していた。
勇者一行は大魔王討伐の後、それぞれがそれぞれの道を歩みだした。先述の通り、アバンはカール王となり、ヒュンケルは修業の旅に出た。ポップは魔法の修行をしつつ、ルーラでダイやマァムと一緒に遊んだりしている。マァムもポップ同様だ。ダイ達家族はデルムリン島に戻り、以前と同じような生活を再開した。
何気ない日常が続く中、ダイの元に遊びに来たポップ達が伝えた言葉は、ダイを再び非日常へと誘った。
「すごい! どんな人達が参加するのかなぁ! オレも参加してみたい!」
嬉しそうに笑うダイを見て、ポップ達は気まずそうに悲しい現実を突きつけた。
「それがなダイ……」
「私達勇者一行は、参加禁止なんだって……」
「ええぇっ!?」
衝撃の事実に思わず声を荒げるダイ。それも仕方ないだろう。せっかくの楽しそうな催しに、自分は参加出来ないとなればこうもなろう。
そもそも、ダイはまだ14歳の少年だ。それが楽しそうな祭典に強制的に参加不可となれば、不満の一つや二つも出るというものだ。
「まあしゃあねーよ。オレ達が出たら大体優勝者は決まっちまうだろ。お前の親父さんか、お前かのどっちかになっちまうよ」
「だからってさー……」
ポップの言葉は理解できるが、納得できるかどうかは別だった。世界最強クラスの力を持ってはいるが、まだまだ子どもなのである。
「だいたい、誰でも出て良いならメタルンが出場しちまうぞ?」
「残念でもなく当然の規定だと思う」
ダイは瞬時に手のひらを返した。ここにメタルンがいれば疑問の声を上げていたことだろう。
「まあ参加は出来ないけどさ、代わりと言ってかオレ達勇者ご一行様はVIP席での観戦が認められているんだぜ。どんな奴らがいるか見るのも楽しいだろうし、武道大会以外にも出店とかたくさん出る大きなお祭りになるみたいだし、一緒に行こうぜ!」
「四年ごとに開催されるらしいから、四年に一度の大きなお祭りということね。皆で一緒に楽しみましょうよ」
「いいね! 父さん達も誘って皆で行こうよ! あ、レオナも来るのかな?」
「ええ。レオナ姫も当然観戦に来るわ。各国の王族は大体が観戦しに来るみたい。自国の戦士や騎士、魔法使いや賢者なんかも参加するみたいだし、その活躍を見届ける必要もあるし、強い参加者は勧誘もされるみたいだから、その見極めも兼ねているらしいわ」
「そっかー。レオナに会うのも久しぶりだなー」
武道大会に参加できないことは悲しかったが、それでもお祭りとなればダイのテンションは上がった。レオナに久しぶりに会えるとなれば尚更だった。
なお、当のレオナも武道大会中にダイに会えるかもと期待していたりする。もう付き合っちまえよお前らとバグルキングが申しております。
言うまでもないけど、ギャグ編です。
ギャグ「シリアスはオレが鰤編においてきた。修行はしたが、ハッキリ言ってこの戦いにはついていけない」
各国の名産品は適当です。パプニカ王国の布が上質なのは確かみたいですが。