「それでは準決勝第二試合! ホルキンスvsザムリィ……! 始め!」
司会進行役の合図と共に始まった準決勝第二試合。その勝負は、誰もが予想外の結果となった。
ホルキンスはカール王国最強の騎士だ。魔法は使えないが、純粋な身体能力と巧みな剣術、そして闘気を操る技術はノヴァをも上回る。人間としては最高クラスの戦士と言えるだろう。ただしヒュンケルは除く。
今大会でも優勝候補の一人であり、準決勝まで危なげなく勝ち進んでいた。そのホルキンスが――
「イオラ」
「ぐぅっ!?」
――正体不明の女性に圧倒されていた。巧みな剣術も、近づけなければ意味がない。そう言わんばかりの力の差。いや、戦術の差と言うべきか。
戦士の最大の弱点。遠距離攻撃に乏しい戦士が、空を飛ぶ魔法使いにどうやって近づけというのか。
そう、ザムリィは
類まれなる戦士であるホルキンスも、剣が届かない場所に敵がいてはどうしようもなかった。
これがでろりんやノヴァならばまだ手を打てたが、純粋な戦士であるホルキンスでは手の打ちようがなく、粘りはするも敢え無く場外に落とされて敗北してしまった。
「しょ、勝者ザムリィ!」
その決着の合図に、客席からの歓声はノヴァvsでろりん戦よりも少なかった。確かに空を飛んでは駄目というルールはないし、結界があるから何十メートルも上に飛べる訳ではないのだが、それでもこのような戦い方を見て盛り上がれる者は少ないだろう。
「まあ、これに関しちゃオレはあのザムリィって人を肯定するね。魔法使いが空飛んで何が悪いってんだ」
「ポップ……あの人が綺麗だからって理由じゃないでしょうね……?」
ジト目でポップを睨みつけるマァムに対し、口笛を吹いて誤魔化すポップ。だが、ポップの言い分も確かだ。
この結果に文句を言うのならば、初めから戦士と魔法使いの大会を分ける必要があるだろう。将来的にそうなる可能性はあるが、今大会では何の問題もない戦術であり、勝利であった。
準決勝終了後、観客達のトイレ休憩を加味して、一時間の休憩時間が与えられた後、三位決定戦が行われた。
相対するのはノヴァとホルキンス。両者共に卓越した剣術の使い手だが、純粋な剣術と肉体の強さではホルキンスが上だ。だが、代わりにノヴァは魔法使いとしても高水準であり、戦士と魔法使いの良い所を融合させた、いわゆる器用万能タイプの使い手だ。
どちらが勝つかは観客も予想が付かず、両者の戦いを手に汗を握りしめて見守ることとなる。
先ほどの準決勝第二試合とは違い、両者の実力は拮抗しており、その戦いも激しく長いものとなった。
剣と剣、剣と魔法が幾度もぶつかり合う。そして、その激しい戦いを制したのはノヴァだった。これはやはりノヴァに魔法という手段があったことが要因となる。ノヴァは攻撃呪文だけでなく、回復呪文まで使えたのだ。
互いの力量は拮抗していたが、ホルキンスは徐々に体力が削られていき、ノヴァは回復することが出来る。これは長期戦となった今回の試合では大きな差となった。ホルキンスは全力で短期決戦をするべきだったのだが、今回は戦術のミスによる敗北となってしまった。
魔法力が大きく消耗するも、三位決定戦に勝利したノヴァは観客の歓声に手を挙げて応える。そして、舞台は次の主役達に移行する。
◆
「皆様! 大変長らくお待たせいたしました! これより武道大会決勝戦! でろりんvsザムリィ戦を開始致します!」
「二人とも! どちらが勝っても悔いがないよう、全力で戦うのじゃぞ!」
三日間という期間に渡り開かれた武道大会も、これが最後の試合となる。空は快晴であり、闘技場上空はまるで決勝で戦う両者を祝福するかのように輝いていた。
司会とロモス王の言葉が響き渡り、でろりんとザムリィが闘技場の上で相対する。
ザムリィは何を考えているのか分からない程に冷静だが、でろりんは非常に集中しており、その顔からは一筋の汗が流れていた。
でろりんには分かっていた。この勝負、初手で全てが決まる、と。
もしザムリィに先手を取られ、空中に飛ばれてしまえば、でろりんの攻撃手段は非常に限られてしまうだろう。
魔法も使えるでろりんは、ホルキンスよりも遠距離戦の心得がある。だが、当然魔法は魔法使いであるザムリィよりも劣る代物であるのはでろりんには良くわかっていた。
ザムリィに空を飛ばれたが最後、
ザムリィの魔法力が尽きるまで耐久するという手もあるが、相手の魔法力の総量が分からない状況で、闇雲に耐えたところで勝てるとは思えなかった。ノヴァと同じく回復呪文が使えていればまだ有りだったが、そうでないでろりんでは体力の方が先に切れてしまう可能性が高かった。
故に先手必勝。試合開始の合図と共に、神速の攻撃でザムリィを攻撃する。今までのザムリィの試合を鑑みて、彼女は純粋な魔法使いであることが伺えた。つまり、近接戦闘ならばでろりんが上ということ。
そこを突き、初手の一撃にてザムリィを倒す。それが唯一の勝ち筋だと、でろりんは思っていた。
「それでは、決勝戦……でろりんvsザムリィ……」
司会の声がゆっくり聞こえる。絶対に勝つ。勝って、負けてしまったへろへろや、応援してくれているまぞっほとずるぼんと一緒に、大金を貰って良い暮らしをする。そのために、でろりんは人生で一番の集中力を発揮していた。
「はじめ!」
「でりゃぁっ!」
開始の合図と同時に、でろりんは疾風の如き突きを放った。ダイ達から見ても、これ以上ないほどのタイミングだった。魔法使いにこれを防ぐことは難しいだろう。
だが、そんな神速の攻撃を、ザムリィは片手でいなした。
「――は?」
最速のタイミングで放った自身最高の一撃が、魔法使いに片手であしらわれた。それを目の当たりにして、でろりんは戦闘中にも関わらず、思わず呆けてしまった。
そしてそれは、最悪の隙となってしまった。
「
「あ――」
「馬鹿! 何やってんだでろりん!」
一瞬の隙を突いて、ザムリィが空中に浮かび上がる。それを見て再び呆けたような声を出すでろりんに対し、呆けている場合かよとポップが声を上げた。だが、VIP席にいるポップの声など多くの観客の声が響く闘技場ででろりんに届くわけもなく、そもそも届いたとしても結果が変わることもなかった。
「くそっ! 落ちろ! イオラ!」
でろりんは咄嗟に呪文による迎撃を試みる。ここで落とさなければ負けは確定してしまう。そうなる前に、どうにか撃ち落さなければならない。
だが、そんな必死の抵抗すら、ザムリィが次に使用した呪文の前では無意味なものと化した。
「
「――へ?」
でろりんが放ったイオラが、その威力のままにでろりんに跳ね返って来た。まさかの事態に呆気に取られるも、どうにかその場から動いて自分のイオラを避けるでろりん。
上空に佇み冷静にでろりんを見下ろすザムリィ。地上でザムリィを絶望の表情でザムリィを見上げるでろりん。両者共に無傷だが、その趨勢は既に決まっていた。
「嘘だろ……
「でろりん……」
ポップとダイの声がVIP席に静かに響く。
ポップが知っているだけだと、自分と師であるマトリフを除き、誰も使えるところを見たことはない。それを使いこなすザムリィの正体がますます気になるところだ。
そしてこの事実は、でろりんの勝率が限りなく低くなったことを意味している。相手は上空、でろりんは呪文を封じられ、ザムリィに通用する攻撃は海波斬や闘気によるちょっとした気弾がせいぜいだろう。
「ち、ちくしょー!」
魔法が意味をなさないなら、出来る限りの遠距離攻撃をするしかない。勝ち目が限りなく低くなったからといって、諦めるような教えをバグから受けてはいなかったのだ。
なお、勝ち目が低くて命の危険があるなら逃げろとは教わっている。今回は試合のため、命の危険は限りなく低いから諦めなかっただけである。
まあ、でろりんの拙い遠距離攻撃が、ザムリィに通用するはずもなかったが。
「決勝だからな。もう遠慮する必要もない。
そう言って、ザムリィはニヤリと笑みを浮かべて、眼下のでろりんに向けて
「うぉぉっ!?」
そう、連射したのだ。一発や二発ではない。十、二十ものイオラが息つく間もなく放たれる。その連射速度はホルキンス戦でのそれとは比べ物にならず、そしてその威力も並ではなかった。
「な、なんという呪文の嵐!」
「これは、凄まじいですな!」
諸国の王達も、見たこともない光景に興奮を超えて唖然としていた。無理もないだろう。各国には優れた賢者や魔法使いがいるだろうが、このように呪文を連発する者など、どの国にもいるはずもないだろう。
何故なら――
「嘘だろ……バーン並の魔法力だ!」
そう、大魔王バーン(老人バージョン)との戦闘経験のあるダイの言う通り、ザムリィの魔法力はバーンに匹敵していた。その速度だけではない、威力も劣ることなく、ただの
「ふ、ふざけんなー! こんなん勝てるかぁーーっ!?」
そう叫びながらも、でろりんはこの弾幕の中でどうにか逃げ延びていた。でろりんがこの状況でも致命傷を負わずに逃げ延びられているのは、ひとえに同じ経験をしたことがあったからだ。
そう、空を飛んで遠距離から延々と絨毯爆撃をしてくる化け物。メタルンに同じことをされた経験である。色んな危機的状況での生き延び方、と言って行われた修行の一つであった。
だが、経験があるとはいえ、だから勝てるというわけではない。でろりんの叫びは正しく、生き延びるのが限界で勝ち目など欠片もなかった。
故にでろりんは、恥も外聞もなく颯爽と闘技場の上から逃げ出し、場外に飛び出た。
「しょ、勝者ザムリィ!」
「……勇者の一味でなければこの程度か。いや、あれを無事に切り抜けられるだけ、人間の中では上澄みだな」
ぼそりと呟いたその言葉は、静寂に包まれた闘技場でも誰の耳にも届かなかった。そう、決勝戦の勝敗が決したというのに、観客からは歓声の一つも上がっていなかったのだ。
それもそうだろう。観客達は人と人の戦いを観に来たのだ。誰も象と蟻の戦いを観たいなどと思ってはいなかった。それほどに、先ほどの呪文の弾幕は圧倒的だったと言えよう。
「あ、あいつ何もんだ……!? 綺麗な顔をしているけど、ただの人間とは思えねぇぜ……!」
「ええ……。あれは、人の域を超えているわ。それこそ、大魔王の領域よ……!」
ポップとマァムの言う通り、ザムリィという女性は明らかに人外の領域にいると思われた。そもそもにして、今のポップ自体が人外に近しい実力を有している。その魔法力は人間でもトップであり、既に師であるマトリフすら超えている。
そんなポップですら勝てないかもしれないと思われる魔法力を、ザムリィは有しているのだ。ザムリィがまともな人間であると考えるのは愚か者のする事だろう。
「……あの女、人間ではないかもしれんぞ」
『えっ!?』
「何か知っているのですかハドラー?」
ハドラーの呟きに、VIP席にいる者達が全員反応する。誰もがハドラーに注目する中、アバンの問いに対してハドラーが答えた。
「いや、あのような女は見たこともない。だが、あれだけの魔法力……人間ではない可能性の方が高いだろう」
「で、ではあの女性は魔族が化けているかもしれんと言うことか!? まさかハドラー殿……魔国からの刺客ではないだろうな!?」
『!!?』
ベンガーナ王の叫びに全員が驚愕する。ザムリィの正体が魔族というだけでも恐ろしいというのに、事もあろうに魔国からの刺客だと言い放ったのだ。
一国の王に対し、証拠もないのにそのような事を宣っては大問題だろう。ハドラーが激昂し、その恐るべき力を振りかざしたとしても可笑しくはない侮辱と言えた。
各国の王や護衛達に緊張が走る中、当のハドラーは平然とベンガーナ王の疑問に答えた。
「ふん。そもそも魔族であるかどうかも怪しいものだ。大魔王バーンに匹敵する魔法力だぞ? そんなもの、魔族の中では大魔王バーン以外に存在せんわ。そもそも、あのような者が魔国にいるならば、オレよりもそいつが魔国の王になっているだろうよ。我が国は実力主義なのでな」
「む、うぅ。……今のは失言であった。申し訳ない」
ハドラーの言葉に、納得せざるを得ないベンガーナ王。そして、素直に謝罪する。相手は魔王ハドラーであり、潜在的な人間の敵かもしれないが、今はまだ敵対していない国の王だ。ここで軽んじるような言動をし、謝罪もしないとなると、後の禍根となり戦争の切っ掛けになるかもしれない。そう考えるだけの冷静さはベンガーナ王も持っており、ここは頭を下げることも厭わなかった。
そしてハドラーの言う通り、ザムリィが魔族かどうかすら怪しかった。大魔王バーンに匹敵する魔法力というのは、それだけあり得ないものなのだ。
そして、ハドラーの言葉の真意を理解した者達は別の意味で驚愕する。ハドラーは今、ザムリィが自分よりも強いと言ったも同然のことを言い放ったのだから。
「ど、どうする? 報酬を渡すのは中止にすべきか?」
ロモス王のその言葉に、アバンが首を横に振って反論した。
「いえ、それは止めた方がいいでしょう。あの女性は少なくとも大会の規定に違反しているわけではありません。正体が人間ではなく魔族か、それに準ずる何かだと判明した訳でもないのです。そもそも、魔族が参加しては行けないという規定もありませんし。ここで報酬を渡さなかった場合、観客からも不満の声があがるでしょう。それに、彼女を刺激しどのような行動に出るか分かったものではありませんしね」
「む、むぅ。確かにそうだ。彼女は大会のルールに則り、優勝したのだ。報酬は約束通り渡すべきだな」
アバンの言葉に納得し、首肯するロモス王。そして、席から立ちあがり一歩前に出て、場内の全ての者達に聞こえるよう声を張り上げる。
「見事だったザムリィよ! その凄まじい魔法の力、篤と見させてもらったぞ! でろりんもまた見事だった! 負けたとは言え、あの呪文の数々を無事に凌ぐとは! 皆の者! 両者に盛大な拍手を!」
ロモス王の言葉と同時に、静まった闘技場が歓声と拍手の音で包まれる。でろりんも気を良くしてだらしなさそうな笑顔で手を振り、ザムリィもロモス王に対して頭を下げた。
少しして場内が静まった後、ロモス王がザムリィに話しかける。
「優勝おめでとうザムリィよ。宣言通り、此度の報酬として望む武具と、我がロモスが叶えられる望みを叶えよう。さあ、好きな望みを言うがよい。ああ、流石に叶えられぬと判断した望みは無理じゃぞ? 常識の範囲内で頼む」
王でありながら気さくさを感じられる話し方に、場内でも笑いが零れる。民からも好かれている良い王である証だった。
ロモス王の言葉に対し、膝をついて頭を下げたまま、ザムリィは望みを告げる。
「ありがたき幸せ。私の望みは……勇者一行との手合わせでございます」
『!?』
ザムリィの口にした望みに、ロモス王も、各国の主導者達も、観客も、そして、勇者一行の面々も、誰もが驚愕する。
「そ、それが望みか? 大金や、国の重鎮という立場、貴族の地位を得ることも出来るのだぞ?」
「いえ、私の望みはただ一つ。私の研究の成果を……私の今の力を試したい。ただそれだけでございます。その為には、世界最強の実力者達と戦うのが一番ですゆえ……」
「な、なるほど……。あいわかった! その望みを叶えよう! これより一時間後、勇者一行とザムリィのエキシビションマッチを行うこととする!」
『はい!?』
ザムリィの望みを叶えると宣ったロモス王。観客達が思わぬエキシビションマッチの開催に歓喜の声を上げる中、寝耳に水の勇者一行であるダイ達は疑問の声を上げた。どうして自分達が戦う流れになっているのか。何故それをロモス王が勝手に決めるのか。さっぱりである。
「いやいやロモスの王様よぉ! なんでオレ達が戦う必要があるんだよ!?」
「おお、すまんなポップ! しかし、望みを叶えると言った手前、これくらいは叶えてやらねば王としても国としても威厳という物がのぅ……」
「そんな威厳の為にオレ達を犠牲にすんなよ!」
全くである。勇者一行はロモス王国と全く関係のない赤の他人なのだ。それを当人たちの意向も確認せずに、勝手に勝負の場に立たされるとなればポップの怒りも正当なものだった。
「まあまあポップ。いいじゃんオレ達が戦ってもさ」
「おお! 助かるぞダイ!」
「お、お前なぁ」
ロモス王に助け舟を出すダイに、お人よしが過ぎると呆れるポップ。だが、親友がこう言ったならば引かない事は良く知っている為、溜め息を吐きながらポップは諦めた。
「それに……あの人、何か気になるんだ……。戦って確認してみたい」
「ダイの言う通りだ。あの女、並ではない。何者なのか見極める為に戦うのも一つの手だろう」
「うむ。魔法力の高さに注目がいっているが……でろりんの一撃を捌いた体術も相当だった。あの女には、何かがある」
ダイの言葉をヒュンケルとラーハルトが肯定し、共に闘技場に立つザムリィに厳しい視線を向けていた。
地上が誇る最強の戦士である二人が警戒する存在。そんなものがただの人間であるはずもないだろう。ただの強いだけの人間か、それとも魔族や竜族が化けているのか。敵か、それとも地上にとって無害な存在か。それらを確認する為にも、ここで戦うというのは確かに良い手ではあった。
「うむ。では決まりじゃな。おほん。……ザムリィよ! 勇者一行の誰と戦いたい!? ここには竜の騎士であるダイ! 大魔導士であるポップ! 武神流を修めたマァム! 歴戦の戦士であるヒュンケル! 神速の槍使いラーハルトの五人がおるぞ!」
流石にアバンの名は出さなかったロモス王。確かに勇者一行であり、要とも言えるアバンだが、今は王という立場に付いているのだ。それを戦闘に出させる訳には行かないのは当然だろう。
果たしてザムリィは誰と戦いたいのか。ザムリィの選択に、この場にいる多くの者が固唾を飲んで見守った。そして、ザムリィの次の言葉に驚愕を顕わにした。
「その五人、全員でお願いします」
『……は?』
多くの者の口から、異口同音の単語が漏れた。全員? 五人全員と言ったのか? ザムリィが? あの、最強の勇者一行の五人と同時に戦うと言ったのか?
そんな馬鹿な事があるわけがない。そう自分の耳を疑って出た、呆気に取られた単語だった。
「い、今、なんと言ったザムリィよ?」
「五人全員と、戦いたいと申し上げました」
ロモス王が聞き間違いかと確認するも、ザムリィの口から出た言葉に変わりはなかった。
「い、いやいや。流石のお主と言えど、勇者一行を五人も同時に相手するなどと……考え直した方が良いと思うぞ?」
「叶えられぬ望みだったでしょうか?」
「いや、そういう訳ではないのじゃが……」
「では、私の望みは変わりませぬ」
ロモス王の言葉はザムリィを心配してのものだ。確かにザムリィは強い。大魔王に匹敵する魔法力を持っているのかもしれない。
だが、ダイ達の強さもまた別格だ。大魔王討伐から二年。その二年で、ダイ達が更に強くなっている事はロモス王もアバンから耳にしている。
そんな相手を五人も同時にするなどと、流石に多勢に無勢が過ぎるというものだ。
しかし、ロモス王の心配も余所に、ザムリィの願いは頑なに変わらなかった。
「あ、あいわかった! それでは一時間後に、ダイ・ポップ・マァム・ヒュンケル・ラーハルトvsザムリィの試合を開催することとする! そ、それで良いのだな?」
「ありがたき幸せにございます、ロモス王」
ロモス王の宣言に対し、ザムリィが慇懃な態度で礼をする。そこに緊張や嫌みなどはなく、正しく感謝の気持ちが籠められていた。
観客席からは多くのざわめきが聞こえてくる。
――何を考えているんだあの女?
――もしかして、勇者様達に勝てる気でいるのか?
――思い上がっているんじゃないか?
――いやでも、あの魔法の数々はすごかったぜ?
――いくら何でも勇者様五人を相手に勝つことなんて出来る訳ないだろ。
――痛い目にあったらわかるさ。
などなど、多くの人達が、ザムリィの無謀な挑戦をあざ笑っていた。中にはザムリィの強さと、あの変わらぬ態度を見て、もしかしたらと思う者もいたが、それは少数だった。
だが、その少数の中に、勇者一行が入っていたのは観客達には知る由もなかった。
「一時間後か。気を引き締めろよ皆。あの女、オレ達を相手に勝つ自信があるようだぞ」
ヒュンケルの言葉に、全員が緊張した面持ちで頷く。ここに至っては、ポップだって軽口を叩くつもりはなかった。
あの魔法力は確かに凄まじく、体術も並ではない。そしてあの願い。恐らく最初から自分達と戦うつもりでこの武道大会に参加したのだろうと思われる。
つまり、最初から勝てるつもりでいるということだ。ここまでの情報が出揃っていて、油断するものなど勇者一行にはいないだろう。
「あいつが何もんかは分からねぇが、全力でやるぞ」
「ええ。負けるつもりはないわ」
「当然だ。全力を出さずに負けるなど、愚の骨頂」
ポップ・マァム・ラーハルトが気合を入れる。当然ダイもだ
「うん。相手がメタルンのつもりで戦うよ!」
『いやそれは無理』
相手がどれだけ強いかは分からないが、流石にメタルンクラスだと勝ち目はない。あの化け物メタルキングを引き合いに出されては堪ったものではなかった。
ぷるぷる。私、化け物メタルキングじゃないよ。
ホルキンスさんにはさっくり負けてもらいました。流石に遠距離攻撃がないと厳しかった。もしかしたら原作ホルキンスさんには闘気か何かの遠距離攻撃手段があったかもしれないけど、この作品ではなかったということで。すまん!
さらっとマホカンタを覚えていたポップ。二年間の修行は伊達ではない。なお使うことは滅多にない。