「さあぁっ! いよいよ始まります! 武道大会優勝者ザムリィの希望により、急遽決まったエキシビションマッチ! ザムリィvsダイ&ポップ&マァム&ヒュンケル&ラーハルト!」
司会の声に観客達が盛り上がる。初めは勇者一行を同時に相手しようというザムリィを馬鹿にしていたが、あの勇者一行の戦いを観られるとなると、興奮せずにはいられなかったようだ。
「ヒュンケル様ー! 頑張ってー!」
「ラーハルト様ー! 素敵ー! こっち向いてー!」
「マァムちゃーん! 怪我しないでねー!」
大魔王討伐後に作られた、勇者一行の物語は、多くの人々に広まっている。早い国だと、勇者一行の活躍を劇にして披露した所もあるほどだ。
勇者一行での人気は女性からはヒュンケルとラーハルトが、男性からはマァムが一番高い。当然、ダイとポップも人気なのだが。こういう場だと、どうしても顔の良さから人気が偏るのだろう。
「けっ。どいつもこいつも顔だけで人を見やがって」
「まあまあポップ。オレ達にもちゃんと声援はくれているからさ」
ダイの言う通り、ダイやポップへの声援がないわけではない。多くは男性だが、ちゃんと女性からの声援もあったりする。ただ単純に、ヒュンケルとラーハルトへの女性声援が多すぎるだけなのである。
まあ、それが気に食わないのがポップなのだが。
「あまり浮かれるなよポップ。相手に集中しろ」
「言われなくても分かってるよ。オレは全力で行くつもりだぜ」
先ほどまでの拗ねた態度はどこに行ったのか。真剣な表情で闘技場の反対側に立つザムリィを見ているポップに、ヒュンケルも要らぬ心配だったかと思う。
相手は謎の大魔法使いザムリィだ。その強さは下手をすれば大魔王級。そんな相手に油断をするなど、出来る筈もない。
「圧倒的な呪文の嵐で大会を優勝したザムリィ選手! その望みとは言え、相手は勇者一行五人組! その数の差は歴然! 果たして、ザムリィ選手は一矢報いることが出来るのか!」
司会も、多くの観客達も、ザムリィの願いが記念的なものであると思っていた。武道大会に優勝し、記念に勇者達の強さを実感したいという、そういった思い出作りのようなものだと。
そうではないと思っているのはザムリィと相対する勇者一行と、VIP席でこの戦いを見守っているアバン・ハドラー・クロコダインと王族の面々くらいであった。
「勇者達の強さ……我が研究の成果……試させてもらうぞ」
「……研究?」
ザムリィが零した言葉に反応するダイ。いったい何の研究だと言うのか。だが、それを知る暇がある筈もなく、注目の一戦が始まろうとしていた。
「それでは! エキシビションマッチ……始め!」
「ハーケンディストール!!」
試合開始の合図と同時、ラーハルトが様子見なしでの全力の一撃を初手にて敢行した。
ハーケンディストールはラーハルトの代名詞というべき必殺技である。槍を高速で回転させ、弧を描いたような衝撃波を放ち、対象を切断するという荒業だ。
槍の達人であり、超スピードでの戦いを得意とするラーハルトだからこその奥義であり、これを初見で躱せた者は今のところメタルンとバランくらいである。
そんな奥義を初手で放ったのは、ひとえにザムリィを警戒しているが為であり、たとえこの一撃で勝負が決し、エキシビションマッチが盛り上がりに欠けたとしても、それはそれで問題ないと考えているラーハルトだった。エンターテインメント気質は彼にはないのである。
超音速の一撃が、ザムリィを襲う。その威力により闘技場は大きく裂けていき、アバンが作った結界に直撃した。結界により観客達には被害が出ていないが、アバンの結界が弱ければ多くの被害が出ていたかもしれない威力である。
尤も、その心配はラーハルトにはなかったが。何故なら、アバンの結界の強度は勇者一行のお墨付きだったからだ。
この結界は、アバンが破邪の洞窟で身につけた秘術、
そこを改良したのが我らがチートアバン先生である。
魔法陣は五芒星の形で作られており、各所に特殊な魔法石を使用することで、結界の強度を飛躍的に高めていた。その効果は魔法石に籠められた魔法力で変わる。その障壁を複数展開することで更に効果を高めたことで、実験では竜魔人バランの
この武道大会で使われているのも当然複数展開された結界であり、観客を守る為に最大限の防御を仕込んでいた。それを分かっていたからこそ、ラーハルトは気兼ねなく全力の一撃を放ったのだ。
「これは凄まじいぃぃぃっ! ラーハルト選手! 何という一撃! これは早くも勝負あったかぁ!?」
今大会でも見たことがない、凄まじい威力の一撃が放たれたのだ。司会がそう思うのも無理はないだろう。だが――
『っ!』
ハーケンディストールによって巻き起こった粉塵が晴れた先には、両手から高熱のエネルギーをアーチ状に展開しているザムリィの姿があった。その体のどこにも傷はなく、あの神速の一撃を無傷で切り抜けたということになる。その事実に驚く暇もなく、ポップは瞬時にザムリィが放とうとしている呪文の恐ろしさを見極めた。
「全員散れ!」
ポップの叫びと同時、ダイ達が散開する。そしてポップだけはその場に残り、この状況で最適の行動を取った。
「
ザムリィから放たれる、ギラ系最強の呪文。ギラ系は呪文の中でもトップクラスの威力を誇っており、その使用難度も相応に高い。
メラ系やヒャド系はシンプルで使い手も多いが、ギラ系の使い手は数少なく、使えたとしてもギラが精々、ベギラマが使えたら上位の魔法使いとみなされるほどだ。
だが、そのベギラマでさえ同じ呪文の使い手のメラゾーマ以上の威力であり、極大呪文であるベギラゴンとなると、その威力は呪文の中にあって最強クラスとなる。
人間よりも魔法に長けた魔族であっても
「
「なに?」
迫り来る
まさか人間が
「うおおぉっ!」
「ほう」
ポップとザムリィの
二つの極大呪文の衝突。両者共に同じ呪文。だがその軍配は、ザムリィに上がりつつあった。
「ぐぅぅ!! や、やっぱオレより上かよ! い、今の内に早く!」
人間の中では最高クラスの魔法力を有するポップが、得意とする呪文で押されていた。だがそれもそのはず。相手は大魔王クラスの魔法力を持つ者だ。むしろ、曲がりなりにも対抗出来ているポップが人間としてはおかしい存在といえよう。
「分かってる!
ダイが、竜の騎士のみに許されている伝説の呪文、
本来、人間は一度に一つの動作しか行うことが出来ない。剣を振るうと呪文が使えず、呪文を使うと剣が振るえない。それが人間の限界だ。
だが、竜の騎士は違った。剣と魔法。その二つを同時に使用出来るのだ。ダイは、剣に魔法を纏わせ、その威力を格段に引き上げる魔法剣を使いこなせる、世界でも数少ない強者なのだ。
自分よりも魔法力が上であるだろうザムリィを相手に、同じ呪文で対抗したのはポップの計画だった。
まともに呪文対決をしても、勝ち目が薄いのは明白。だが、ポップも使用出来る
故に、ポップは同じ呪文で出来るだけ相殺し続けることで、ザムリィの動きをその場で押しとどめたのだ。その隙を狙って、親友が決めてくれることを信じて。
悪を滅ぼす稲妻が天から落ちる。まるで神が神罰を下すような光景だ。これが伝説の竜の騎士の必殺技かと、観客達が目を見開いた。
その瞬間――結界によって
「あれ?」
「何やってんだダイぃぃぃッ!?」
あれ? ではない。この闘技場はアバンの結界で覆われているのは周知の事実であり、当然ダイも知っている。結界よりも上の空から落ちる
ダイ、渾身のうっかりである。これには親友もにっこり、ではなくがっかりである。
「そ、それじゃあ、アバンストラッシュ!」
ダイは気を取り直して、魔法剣ではなく闘気を籠めただけの必殺剣を放つ。だが、魔法剣でないとはいえ侮るなかれ。ダイが持つ闘気は、人の闘気ではなく竜の騎士が持つ
その力は人が持つ光の闘気や闇の闘気とは一線を画し、攻撃力、防御力共に格段に上昇する。それだけではなく、呪文に対する絶対的な防御力まで有するのが特徴と言えよう。流石に大魔王やポップクラスの魔法力で放たれる高威力の呪文であれば、
ともかく、そんな強力な闘気で放たれた一撃は、例え魔法剣でないとしても凄まじい威力を誇る。呪文を放つのに集中し、無防備となっているザムリィでは、耐えられる筈もないだろう。
誰もがそう思っていた。
「ふっ」
ダイの渾身のストラッシュを見て、ザムリィは嘲り笑った。魔法剣ですらないこの程度の攻撃で、自分を倒せるとでも思っているのかと言わんばかりに。
そして信じがたい事に、両手は
『なっ!?』
まさか、たかが蹴り一つでアバンストラッシュが防がれるとは夢にも思っていなかったのか、勇者一行から驚愕の声が漏れる。
アバンストラッシュには二つの種類があり、剣で直接斬り掛かる
ダイが今使ったのは
だが、威力が低いとはいえ竜闘気を纏った一撃だ。その威力は本家本元であるアバンが放つ
「や、やべぇ! もう、耐えられねぇ!」
今のポップの防具は見た目では分からないが、全身がメタルキング素材で出来ているため死にはしないだろうが、それでも相当なダメージを負ってしまうだろう。
だが、そうなる前に神速の男がポップを救い出した。
「あ、危ねぇ……た、助かったぜラーハルト」
「気にするな。お前に抜けられる方が手間だ」
ポップに
そしてポップが助けられた瞬間に、
「こ、これは……どうすれば……」
この結果に、司会もどうすればいいのか判断が出来ないでいた。闘技場の上に立っていない者を失格とすれば良いのか。それとも、闘技場がなくなってしまったので、そもそも試合を中止すべきなのか。
そうして悩み司会に、ザムリィから救いの言葉が出た。
「ロモス王。この戦いに場外での失格は無しでお願いいたします。このような決着は、私も望んではおりませんので」
「う、うむ。そちがそういうのならば……この試合では場外負けは無しとする!」
これにより、この試合では場外による負けはなくなった。つまり、どちらかが倒れるまで、戦いは続くということになる。
ロモス王の宣言を聞いて、ダイ達の意識が変わった。今まではあくまで試合という形式だったが、先程までの短い攻防を経て、それではザムリィには勝てないことに気付いたのだ。
全員が意識を切り替え、ザムリィを完全な格上とみなして相対する。
「ゆくぞ! ブラッディスクライド!」
ヒュンケルが、尊敬するアバンから習った技ではない、自身の努力で編み出した必殺剣を放つ。
武器を高速で回転させ、螺旋状の剣圧を放つことで対象をえぐり抜くという荒業だ。ヒュンケルが光の闘気を籠めることで、その威力は格段に上がっている。例えオリハルコンだろうと容易く貫くだろう。
そんな強大無比の攻撃を、ザムリィは跳躍することで躱した。だが、ヒュンケルにとって今の一撃は牽制攻撃だった。
本来なら必殺の一撃なのだが、相手は未知数の強者だ。故に必殺技を牽制技として放ち、相手の動きを誘導したのだ。そう、空に飛んで逃げるのも、ヒュンケルの手の内だった。
「くらえ! グランドクルス!」
ヒュンケル最大の奥義が空に身を躱したザムリィを襲う。グランドクルスとは、アバンがヒュンケルに授けた最後の切り札だ。
呪文が使えない戦士であるヒュンケルが、最後の切り札となる隠し技として教えられたのがグランドクルスであり、本来の威力は精々が小さい岩に十字の跡を刻むのが限界だ。
グランドクルスは自身の生命力を闘気に変換し、十字型の武器――剣と柄を十字に見立てたり、クロスした両腕などでも可――に闘気を集中させ、それを放つという技だ。
だが、生命力を闘気に変換するのは非常に危険なことであり、あまりに威力を出し過ぎると、生命力が枯渇し死んでしまう恐れすらある。故に、アバンはヒュンケルに最小の力で使うように教えた。
それを必殺の域にまで鍛え上げたのがヒュンケルだ。限界ギリギリを見極めて生命力を闘気に変換し、極大の闘気を十字にして撃ち放つ。ヒュンケル最大にして最強の奥義である。その威力は
なお、この技を完成させた理由が、闘気の放出を利用して空を飛んでいるメタルンを見て、自分も飛んでみたいと思った幼少期の思い出であることはヒュンケルだけの秘密である。
「なにっ!?」
回避した瞬間を狙っての攻撃に、ザムリィも思わず驚愕の声を漏らす。先ほどの一撃は確かに必殺の一撃だった。それを囮にし、更に強大な一撃を放ってくるとは思っていなかったようだ。
迫り来る極大のオーラに対し、ザムリィは両手で頭部をガードして凌ごうとする。瞬時にグランドクルスに飲み込まれるザムリィ。その威力により吹き飛ばされ、結界に叩きつけられることとなる。
「はぁっ!」
そこに追撃を加えたのがラーハルトだ。ザムリィが大地に落ちる前に、宙に飛び上がり神速の槍捌きにてザムリィを攻撃する。
「くっ!」
その速さに、さしものザムリィも呪文による迎撃が間に合わず、ガードの上から幾発もの攻撃を受けることとなった。
ラーハルトは攻撃の勢いをそのままに、ザムリィを大地に叩きつける。そこを狙って、マァムが反撃の暇を与えぬ追撃を加える。だが、マァムが攻撃したのはザムリィではなく、ザムリィの手前の大地であった。
「土竜昇破拳!」
マァムは両腕を力強く大地に叩きつける。その行動にどんな意味があるというのか。観客も、追撃を食らうと思っていたザムリィですら理解出来なかった。
意味のない行動かと思い、ザムリィは即座に態勢を整える。その瞬間――
「なにっ!?」
ザムリィの足元が、突如として爆発した。これぞ武神流拳法の一つ、土竜昇破拳の効果である。
土竜昇破拳とは、地面を打つことで発生する衝撃波を自在に操り、敵の足元を爆発させてその態勢を崩すという技だ。突如として足元が爆発した敵は、その衝撃と突然の爆発により、大きな隙を晒すことになるだろう。
「アバンストラッシュ!」
その隙を狙い、ダイが
「うおぉぉっ!」
その威力により、流石のザムリィもダメージを負ったようだ。その声からは苦悶の声色が伺えた。だが――
「ダイ……気付いたか」
「うん……」
ラーハルトとダイからは、必殺の一撃を叩きこんだという喜びの感情が何一つなかった。むしろ、ザムリィの不気味さが更に増したかのような反応を取っている。
「おい、やったんじゃねぇのかよダイ!?」
二人の反応に、ポップも喜びよりも不審さが勝った。いったい二人は何を訝しんでいるというのか。
それは、ザムリィに直接攻撃を加えた二人だけにしか分からないこと……そう、ザムリィの肉体の頑強さであった。
「硬いんだ。とんでもなく……あの人……あれでも大したダメージを受けちゃいないよ」
「ああ……信じがたいが、この硬さ……メタルンに匹敵するぞ!」
『!?』
ダイとラーハルトの言葉に、ポップ達が驚愕する。それも当然だ。今の一撃を受けて碌なダメージを受けていないなど、どうして信じられるというのか。
しかも、その硬さがあのメタルンに匹敵するとなると……それを信じろというのが無茶というものだろう。
だが、それを証明するかの如く、ダイのストラッシュにて吹き飛ばされたザムリィが、不気味な声を上げながら立ち上がった。
「ふ、ふふふ……キィ~ヒッヒッヒ!! 素晴らしい! 流石は勇者とその仲間達! 今のこの
突如として、ザムリィの雰囲気がガラリと変わる。一人称が私からオレと変わり、癇に障る特徴的な笑い方をしだしたのだ。
その笑い方を聞いて、反応する者が二人いた。VIP席にいるハドラーとクロコダインの二人……そう、元魔王軍の二人である。
「今の笑い方……ハドラー殿!」
「うむ。まさか奴は……!」
二人とも、あの特徴的な笑い方に聞き覚えがあるようだ。それも当然だ。二人とも、魔王軍に所属していた時、幾度も聞いたことのある笑い方だからだ。
そう、六団長の一人であったクロコダインのかつての同胞であり、魔軍司令であったハドラーのかつての部下。妖魔司教ザボエラの笑い方と瓜二つなのだ。
「貴様! もしやザボエラか!?」
クロコダインがザムリィに向かってそう叫ぶ。それを聞いて、一瞬呆気に取られたザムリィは、次の瞬間には大声で笑いだした。
「くはははははっ! このオレを、事もあろうに死人と間違えるとはな! 巨体故に知恵が回っていないのか貴様は! キィ~ヒッヒッヒ!!」
「な、なに!?」
ザムリィの嘲笑も当然かもしれないが、クロコダインはザボエラが死んだというのを情報でしか知らないのだ。
だが、あの狡猾な男ならば、死んだ振りをして生き延びていたとしても不思議ではないとクロコダインは考えた故に、ザムリィをザボエラだと思ったのだ。
「良いだろう! ここに来て、我が正体を隠す意味もなし! この姿は武道大会に参加するための仮のものよ! 我が正体を篤と見よ!
ザムリィが
見た目や雰囲気は若干ザムリィに似たものがあるが、その肌の色は白から褐色に変わっており、髪の色は金髪で変わりはないが、特徴的なのはその耳だった。
人間とは違い、その耳は尖っていた。これはエルフと、そして魔族に現れる特徴である。そしてエルフの肌は純白であり、ザムザは褐色だった。これらの情報とハドラー達の反応からして、ザムリィの正体は一つしかないだろう。
「き、貴様は!」
「お久しぶりですなハドラー様! そして勇者達よ! 改めて自己紹介をしよう! 我が名はザムザ! 貴様たちに殺された妖魔司教ザボエラが一子! 妖魔学士ザムザよ!!」
ダイ達によって倒された六団長の一人、妖魔司教ザボエラ。その息子である妖魔学士ザムザ。それが、大魔法使いザムリィの正体であった。
くくく、ザムリィの正体がザムザであったとは、読者の誰も予想出来なかったに違いない(節穴)。
ザムザがモシャスを解いたのではなく、モシャスを使って魔族の姿になったのは一応理由があります。