「うおおおっ! 獣王痛恨撃!!」
先手を取ったのは超合金ピンクワニ、もとい魔国獣将軍クロコダインだった。
防具の肩当てが壊れてしまう程の闘気を左腕に集中させ、竜巻の如き闘気の渦を放つクロコダインの代名詞といえる技だ。今の防具はメタルキング素材製のため、壊れることはないが。
だが、この程度避けるまでもないと思ったのか、ザムザは人を馬鹿にするような笑み――変わらないスライムスマイルだが――を浮かべ、微動だにせず闘気の渦にそのまま飲み込まれた。
「ピギィ? ピギィギィ!」
――そよ風か? この程度、避けるまでもないわ!
「と言っているよ」
「ふ、ならばもう一つ、渦を追加してやろう!」
「ピギィ?」
――なに?
「むん!」
クロコダインが右腕に闘気を集中させる。そして、闘気の渦に飲み込まれているザムザに向かって、先ほどとは逆回転の痛恨撃を放った。
「ピギィ!?」
――むぅ、これは!?
「オレとて二年もの間、のんびり過ごしていた訳ではない! これぞオレが対メタルン戦に備えて開発した必殺技! 獣王激烈掌だ!!」
なんで師匠であり仲間であるメタルン用の技を開発しているのか。ここにメタルンがいれば詰め寄っていたことだろう。天もどういうことやねんと言わんばかりに光っているようだ。
「ピギギィ!」
――ぬぅ、相反する逆回転の闘気の渦……なるほど、そよ風と侮ったことは訂正しよう!
「と言っているよ」
右回転と左回転の渦の中心で、ザムザがクロコダインの力に感嘆する。今のクロコダインは既に軍団長などというレベルではなく、三界でも屈指の実力者だろうとザムザは再認識した。
だが、この程度でどうにかなるならメタルン相手に苦労はしないだろう。それを理解している勇者一行withハドラーは、ザムザが獣王激烈掌で動きを阻害されている間に集中砲火を放った。
「ハーケンディストール!」
『アバンストラッシュ!』
「
「
ラーハルトがハーケンディストールを、アバン流を修めているダイ・マァム・ヒュンケルがアバンストラッシュアロータイプを、そしてハドラーが
それぞれが現状可能な最大限の遠距離攻撃で、獣王激烈掌に飲み込まれているザムザを攻撃する。近接攻撃を行わなかったのは、自分達も激烈掌の渦に飲み込まれてしまうからだ。
渦の中心で凄まじい爆発が起こる。およそ地上で行われる破壊でこれ以上のものとなると、竜魔人バランやバグルキングの闘気技くらいだろう。流石三界最強クラスの生物と、三界最バグの生物である。
「やったか!」
「やってなさそう」
ポップの叫びに、ダイがフラグ立っちゃったとばかりに首を振る。これでやってたパターンは古今東西三千世界でどれだけあるのだろうか。限りなく低い事象となるだろう。
その証拠に、爆発の中心からザムザの高笑いが聞こえてきた。
「ピィ~ギッギッギ! ピギピギィ! ピィギギ! ピィギィ!」
――キィ~ヒッヒッヒ! その通りよ! この程度でやられる超魔生物ではないわ! メタルスライム系の防御力は伊達ではないのだよ! 特に、呪文など効くわけもなかろう!
「と言っているよ」
「く、試しちゃみたが、やっぱり攻撃呪文は意味ねぇかよ! 魔法使いの天敵すぎんぞメタル系はよぉ!!」
純粋なメタルキングではないので、もしかしたらと思って呪文を使ってみたポップとハドラーだったが、やはり効果はなかったようだ。メタルスライム系統の攻撃呪文の効かなさはどういう理屈なのだろうか。回復呪文は効くのに。
――
ポップの切り札の一つであるメドローアは、プラスの熱エネルギーであるメラ系呪文と、マイナスの熱エネルギーであるヒャド系呪文を同時に作り出し、その二つを融合させることで発動する極大呪文だ。
その使用難度は果てしなく高い。まず、前提として二つの呪文を同時に扱えなければならない。この技術を持つ者は少なく、地上ではマトリフとポップの二人だけだ。魔界を加えても果たしてどれだけの者が出来るのか。
そして次に、二つの呪文の威力を同一にしなければならない。片方の威力が高いともう片方の腕に魔法力が逆流してしまい、自分の呪文に自分が巻き込まれることになるだろう。二つの呪文を同時に扱うだけでも至難だというのに、それを同一の威力にして融合させなければならないとなれば、どれほどのセンスを必要とするか分かったものではない。
それだけではない。二つの相反する熱エネルギーをスパークさせ、全てを対消滅するエネルギーを作り出しただけでは意味がないのだ。そのままでは、作ったその場で対消滅が起きてしまい、自分や周囲の仲間すら巻き込む自爆呪文となってしまうだろう。
故に、最後にその対消滅エネルギーを、目標に向けて放つという工程も必要となる。もし、一般的な魔法使いがメドローアの原理を理解した上で実用しようとするならば、メラ系を使う者、ヒャド系を使う者、二つの呪文を融合する者、最後に目標を定めて発射する者と、四人の魔法使いが息を合わせる必要があるだろう。
それを一人で行っているのだから、開発者のマトリフやその弟子のポップの異常さが分かるというものだ。
ともかく、どれだけ凄い呪文だろうと、使えなければ意味がない。ボス属性という反則能力でメドローアを防げるバグルンもといメタルンと違い、ボス属性を持っていないザムザにはメドローアは確かに効く。
だが、そんな事実はポップにも分からないし、そもそも使えないという結論に変わりはなかった。使ってしまえばどれだけの被害が出るか分からない。そんな状況で、メドローアを使うという選択を取るポップではなかった。
「呪文が効かぬならば、圧倒的な破壊力で打ち砕くまでよ! はぁぁぁっ!」
ハドラーが光の闘気と闇の闘気を同時に発動する。そして相反する二つの闘気を混ぜ合わせ、竜闘気に劣らぬ混沌の闘気にて自身を遥かにパワーアップさせた。
それだけではない。両手から生体武器であるヘルズクローを生やし、それぞれに聖なる氷と暗黒の炎を宿らせ、その二つをスパークさせた。
これぞハドラー最強の必殺技。メドローアと同じく、相反する熱エネルギーを融合することで全てを消滅させるエネルギーを生み出し、その爪に宿らせる究極の奥義・聖魔滅爪撃である。
ネーミングはハドラーであると、天に輝くメタルンが申している。
「ピギィ!」
――素晴らしい! 二つの異なる闘気を混ぜ合わせただと! しかも炎と氷という相反する属性まで融合させるとは!
「と言っているよ」
思わずザムザも目を見開く程に、ハドラーの見せた力は凄まじかった。研究者であるザムザは、この結果を持ち帰り実験したくて堪らなくなったほどだ。
「ふん。そうやって余裕を見せられるのもここまでだ! 行くぞザムザ!」
聖魔闘気――ハドラー命名――を纏い、強化されたハドラーがザムザに向かって直進する。全てを消滅させる爪で、ザムザを貫こうとしているのだろう。
その速度は凄まじく、ラーハルトに肉薄する程であった。だが、そのラーハルトよりも速い存在がメタルンであり、そのメタルンの力を取り込んでいるのがザムザなのである。
「ピギィ」
――ふっ。
「と言っているよ」
「それくらいなら翻訳はいいんじゃねぇかな?」
どうでも良い言葉まで翻訳するダイに、ポップがツッコミを入れる。だが仕方ない。それがダイの生態故に。
癖になってんだ。メタルン語を翻訳するの。物心ついた時から翻訳してたぜ。家庭の事情でね。そんな言葉がどこからか聞こえてきそうだった。
閑話休題。とにかく、圧倒的な速さを誇るメタルンの特性を受け継いでいるのがザムザだ。つまり――
「く、速い!」
そう、防御力だけでなく、速さもメタルキングの特性を得ているのだ。
その速度を用いれば、如何に聖魔闘気にて強化されたハドラーとはいえ、まともに攻撃を当てることは困難であった。
「ピィ~ギッギッギ! ピギギィ?」
――キィ~ヒッヒッヒ! 遅いですなハドラー様、あくびが出ますぞ?
「と言っているよ」
「お、おのれメタルン!」
メタルンではない。ザムザである。何故この場にいない筈のメタルンに怒りをぶつけるのか。
大体気持ちは理解出来る勇者一行であった。
「ピギィ!」
――さあ、今度はこちらから行かせてもらうぞ!
「と言っているよ! 来るぞ皆!」
ダイの言葉を聞き、全員が身構える。相手は大魔王バーンとメタルンの力を得たとんでもない化け物だ。果たしてその化け物がどんな攻撃をしてくるというのか。
「ピギィ。ピギピギィ。ピ~ギィピギィ!」
――魔界では古来から語り継がれる伝説がある。大魔王が放つメラゾーマは、そのあまりの魔法力により放たれた炎がフェニックスの姿を取るという……その名も、カイザーフェニックス!
「と言っているよ。カイザーフェニックスだって!?」
『!?』
カイザーフェニックス。かつて老バーンがダイ達に放った必殺の呪文だ。ただのメラゾーマでも、大魔王にかかると全てを焼き尽くす業火と化すのだ。
それと同じことを、ザムザがしようとしていた。バーンの肉片を取り込んだことで得た圧倒的な魔法力で、メラゾーマをダイ達に向けて撃ち放つ。
「ピギィ!」
――これがオレのメラゾーマだ!
ザムザの膨大な魔法力が炎となり、それがまるで生き物のように形作られていく。それは瞬時に行われたというのに、ダイ達の目には何故かゆっくりに見えた。そして、巨大な炎が何となく憎らしいスライムスマイルを浮かべたメタルキングの姿へと変化し、ダイ達を襲う。
『なんでだよ!』
そのあまりの衝撃に、ダイすらも翻訳を忘れてツッコんでしまった。
「ええい!
「ピギィ?」
――なに?
ポップが咄嗟に
ザムザに地獄の業火が跳ね返る。攻撃呪文を無効化するザムザがこれでダメージを受けることはないが、それでも人間が
「ピギィ」
――素晴らしいな貴様。ベギラゴンはおろかマホカンタまで使えるとはな。これほどの魔法使いが人間にいるとは思ってもいなかったぞ。
「と言っているよ。褒められているよポップ」
「嬉しかねぇよ!」
これが大魔王だとかが言った台詞なら、敵ながらも嬉しいという気持ちになるかもしれないが、相手がなんか角の生えたメタルキングではそうはならなかった。
「ピギィ!」
――だが、所詮は魔法使い。オレの敵ではない!
そう言って、ザムザは本領発揮とばかりに高速移動を開始した。
残像が残るほどの速度で動き、瞬時にポップの背後に回る。
「うっ!?」
その動きを見切ることが出来ず、ポップは反応することも出来ずに無防備な姿をザムザに晒した。
「ちぃっ!」
そこをパーティ最速の男ラーハルトが咄嗟に庇う。神速の槍を振るい、ポップの背後に立ったザムザを迎撃する。
だが、それを無意味だとばかりにザムザは余裕でその攻撃を敢えて受け止めた。
「ピギィ?」
――中々に速いが、攻撃が軽いぞ?
「と言っているよ」
「おのれメタルン!」
メタルンではない。ザムザである。
ザムザの煽りに憤慨するも、ラーハルトの攻撃ではザムザにダメージを与えることはできなかった。
これはラーハルトの攻撃力が低いというわけではない。彼の攻撃力は速度に比例して高く、並のオリハルコンなら容易く切り裂けるほどだ。
相手がメタルキングの防御力を有しているとはいえ、ラーハルトならば貫くことも不可能ではないはずだ。
それを防いでいるのが、ザムザの闘気だった。ザムザの身体からは大魔王バーン並の暗黒闘気が発せられており、その防御力を格段に引き上げていたのだ。
闘気の使い手は、その技量や闘気の総量によって肉体の強化度合いが変わる。膨大な闘気で強化すれば、例え素手でもオリハルコンを砕くことが出来るようになるだろう。それはつまり、膨大な闘気でメタルキングの肉体を強化すれば、並大抵の攻撃ではびくともしない防御力を得ることが出来るということである。
「ならばこれはどうだ! 唸れ旋風!」
「純粋な破壊力で穿つ! 猛虎破砕拳!」
「ブラッディスクライド!」
「くたばれメタルン! 聖魔滅爪撃!」
クロコダインがメタルキングの重凱に埋め込まれている魔宝玉を発動し、鎧の背部にあるブースターから暴風を放出させる。その勢いを利用し、上空に飛び上がる。そしてブースターを変形させることで一気に大地へと急降下し、その勢いと闘気をメタルキングの戦斧に込めてザムザへと叩きつけようとする。
マァムは武神流の奥義の一つ、猛虎破砕拳にてザムザを打ち砕かんとする。全闘気を拳一つに集中させ、高速の拳打で対象を破壊するという必殺の一撃だ。その威力は凄まじく、命中すれば対象の背面まで衝撃が貫き、まるで虎の顔のような破壊痕が出来るという。
ヒュンケルもまた、味方を巻き込まずに出来る最大の攻撃であるブラッディスクライドにてメタルンを貫こうとする。
ハドラーは当たりさえすれば全てを貫ける最強の奥義にて、メタルン……ではなくザムザを貫こうとする。色々と恨みつらみが籠められている気がしてならない。
「ピギィ!」
――なるほど。凄まじい威力だな。だが遅すぎるぞ!
「と言っているよ」
だが、威力は高くとも当たらなければ意味がない。ザムザはその速度によってすべての攻撃を躱し、嫌らしい程に清々しいスライムスマイルを浮かべてクロコダイン達をあざ笑った。
圧倒的な防御力により当たっても碌なダメージを与えられないのに、そもそも当てる事さえ困難だという。デルムリン島で何度も味わった理不尽を見て、誰もが辟易としていた。
「あ、当たらねぇのに、当たったとしても効かねぇとなると、どうすりゃいいんだよこんな奴! メタルンの野郎、厄介なもんを残しやがって!」
これに関してはメタルンは悪くないだろう。バーン戦で砕けた肉体が拾われて利用されたとしても、メタルンに責任はない。だが、メタルンにあたりたくなる気持ちは誰もが理解出来た。メタルンだけは首を傾げるが。
「ピギィ!」
――そぅら、お返しだ!
ザムザの頭部――多分頭部辺りだと思われる――に生えている二本の角から、高熱のエネルギーがアーチ状に展開される。そして瞬時に撃ち放った。その発動速度は人間形態の時よりも早く、ポップも迎撃の
「く、くそっ!
ポップが咄嗟に呪文を跳ね返す。だが、攻撃呪文を跳ね返したところで、ザムザに意味はない。
自分の呪文を突き破り、ザムザがポップに向かって闘気弾を連射する。
「ピギィピギィピギギィ?」
――これなら反射することは出来まい?
「うぉぉっ!?」
「危ないポップ!」
「はぁぁ!」
「むん!」
「ぬぅ!」
「ちぃっ!」
ポップの危機にダイ・マァム・ヒュンケル・クロコダイン・ラーハルトの五人がポップの前に立ち、闘気弾の全てを弾いていく。彼らの装備がメタルキング素材というのもあり、膨大な暗黒闘気を籠められた気弾は全て無事に弾くことが出来た。
だが、それでも体力は削られていく。このままではいずれ力尽きてしまうだろう。それを分かっているのか、ザムザはダイ達を見て高笑いをした。
「ピ~ギッギッギ! ピギピギィ! ピ~ギッギッギ!」
――キィ~ヒッヒッヒ! 素晴らしい! 素晴らしいぞこの力! 大魔王を倒した勇者達を相手に、圧倒出来ているのだからな! ピ~ギッギッギ!
「と言っているよ」
「お前翻訳が癖になりすぎてんだろダイ。あとザムザ、お前翻訳でもメタルン語に毒されてきてるじゃねぇか。本当に大丈夫か?」
と言っているよbotと化してしまったダイと、なんかメタルン成分に侵食されかけているようなザムザに、ポップがツッコミを入れる。敵にも味方にもツッコミを入れつつ、呪文を適切に使って味方を援護する。この戦いにおける彼の活躍は果てしなく大きかった。
大分短め。というか、今までの話が平均一万文字以上で長すぎた感。ある程度短期間で投稿しようと思ったら、これくらいの分量になってしまいました。不定期投稿でいいならもっと長く詰め込めるけど。毎日休みならなぁ。
蒼天のソウラというドラクエ漫画に、四人の魔法使いが力を合わせてメドローアを撃つという描写があります。それを一人でこなしているマトリフやポップは大概化け物です。ポップは自分がやべーってのを自覚した方がいいよ。なんでこれで原作では自信なくて印光らねぇとか言ってんだよ。一般人なめんなよこの逸般人がよぉ。
次話投稿は少し遅れるかもです。仕事が忙しくて執筆の余裕がないので。