どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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NARUTO 第十一話

 木ノ葉の里のある一室に複数人の忍が集まっていた。

 その面子は三代目火影を中心としてそうそうたる物で、木ノ葉のご意見番である水戸門ホムラとうたたねコハル。暗部の中の一部隊『根』の主任である志村ダンゾウ。二代目三忍の一人自来也。火影の右腕うちはシスイに左腕日向ヒザシ。日向の長である日向ヒアシにうちはの長であるうちはフガク。木ノ葉有数の上忍であるはたけカカシにうちはオビトとマイト・ガイにうちはイタチ。

 以上の十三人と後一人が一室に揃っていた。この十三人がその気になれば彼らだけで幾つかの国を落とす事も可能だろう。そんな実力者達だ。

 

 そんな実力者達が一人の少女を見つめていた。現在渦中の人物と化してしまった日向アカネである。

 

「では、説明していただきましょうか」

 

 皆を代表して三代目がアカネへと詰問した。

 対するアカネは必殺忍術・かくかくしかじかを放った。

 

「とまあ、そういうわけでして。一応この事はこのメンバー以外には秘密にしておいてください。外に漏れると厄介事しか呼びませんからね」

 

 アカネの言う事は正しい。転生の秘術などという代物を知れば多くの存在がそれを求めてやってくるだろう。

 例え転生の秘術がアカネにしか使えないのだとしてもそんな事は関係ないのだ。欲にまみれた人間は受け入れやすい事柄のみを事実と信じ、受け入れがたい事実は信じないものなのだ。

 この場の人間以外にも木ノ葉には信用の置ける上に立場もある忍は多くいる。だが秘密というものは多くの人が共有すればするほど漏れやすくなるものなのだ。であるので少なくとも今はこの十三人のみがアカネの秘密を共有する事となった。

 

「なんと……ヒヨリ様が転生なされたとは……」

「こうして目の前にしても信じられん……」

 

 相談役のコハルとホムラは三代目の同期の忍だ。幼い頃からヒヨリの存在を良く知っていた人物達だ。

 その力も死に様も三代目と同じくこの場の誰よりも知っている。だからこそ誰よりもアカネの存在に驚いていた。

 

「御二方、信じがたいとは思いますがこれは真実です。それは私が保証いたします」

 

 日向の現当主にそう言われては疑る事も出来はしない。

 日向ヒアシという人物が下らない嘘を吐く人物でない事をこの場の全員が良く知っているのだ。

 

「間違いないぜコハル婆ちゃんホムラ爺ちゃん! このチャクラはヒヨリ様のチャクラだ!」

 

 オビトはその右目の写輪眼で見切るまでもなく自信を持ってそう言えた。

 自身の右半身を癒してくれた力強く暖かいチャクラを間違える訳がなかった。

 

「ワシも保証しよう。この一年間アカネと旅をしてきたが、まあ間違いなくヒヨリ様の転生体よ」

「ワシも疑ってはおらぬ。あの時の初代様と二代目様の反応。そしてチャクラの質と大蛇丸を容易く撃退した強さ。疑い様などある訳がない」

 

 次々とアカネがヒヨリの転生体であると保証する声が上がる事で、この場の全員がアカネを疑う事はなくなった。

 

「しかし何故それをもっと早くに教えていただけなかったのですか?」

 

 三代目のその言葉にアカネは頬を掻きながら返した。

 

「いやまあ、転生なんて大っぴらにしたくはありませんでしたしね。それに……教えたらダンゾウとかホムラとかダンゾウとかコハルとかダンゾウとかが絶対に私を有効活用してきそうだったし……」

「当たり前です。あなた程の力があれば里にどれだけの貢献が出来るか。あと、ワシの名前が多いのはどういう事ですかな?」

 

 今まで黙っていたダンゾウがアカネの言い分にそう返す。

 ダンゾウは使える物は親だろうが子だろうが使う性分なのでアカネという最大戦力を遊ばせておくつもりは毛頭なかった。

 

「ほらぁ。こうなるから嫌だったんですよ」

「子どもですかあなたは……」

「今は子どもですし。十四歳ですし」

 

 好きだの嫌いだので動かれては忍が務まるか。そう考えているダンゾウであったが、それでアカネを止められる訳もなかった。

 

「それにまあ、ちゃんと木ノ葉の為に働いてるじゃありませんか」

「まあ、それは確かにそうですが……」

 

 そう言われてはダンゾウも強くは言えなかった。実際アカネがいなければ今回の大蛇丸と砂隠れによる木ノ葉崩しはもっと大きな被害を受けていただろう。

 

「あと、暁という組織についても調べてますよ」

「それは既に自来也から聞いております」

「そうですか。では暁の危険性も良く理解出来たでしょう。私は暁に対抗する為に出来るだけ里に縛られずに動きたいんですよね」

 

 里の任務などで動いていてはいざという時に対応が間に合わない可能性がある。

 それを防ぐ為にもアカネは自由行動権を欲していた。これまではヒアシ付きの下忍という立場でそれを得ていたが、こうして木ノ葉の中枢に正体を知られたなら改めてその権利を得る必要があるのだ。

 

「それは了解いたしました。ワシからの特別任務という形を取りましょう」

 

 三代目のその意見に反対する者はいなかった。

 

「ありがとうヒルゼン。それと皆にお願いが。私の事は公には普通に下忍として扱ってくださいね。敬語も必要ありませんし、アカネと呼び捨てで結構です」

「それは……」

「確かに必要な処置ですが……」

「むう……」

「ヒヨリ様を呼び捨てとは……」

 

 アカネのお願いに特に難色を示したのが老人四人だ。

 彼らはヒヨリとの付き合いが長かった為にすぐに了承の意思を見せる事が難しかったのだ。

 

「分かったぜアカネちゃん! いやぁあのヒヨリ様をこう呼ぶなんて思ってもいなかったぜ!」

「お前はお前で馴染むの早いね……。まあ了解だアカネ。これでいいんですよね?」

 

 対してまだ若い――と言っても老人組からしたらだが――者達は柔軟に対応していた。

 

「公の場では下忍として扱い、事情を知る者だけならばヒヨリ様と応対する様にすれば問題ないでしょう」

「ああ。私も屋敷ではそうしていたよフガク殿」

 

 そして老人と若者の中間と言える者達は公私の区別を上手く付ける様にしていた。

 

「まあそう言うわけです。今後ともよろしくお願いしますね皆さん」

『はっ!』

 

 そうしてアカネの正体と今後の対応について一通り話終えた所で、アカネはある事を思い出した。

 

「そう言えばヒルゼン。柱間と扉間はどうなりました?」

 

 穢土転生の術にてこの世に口寄せされた柱間と扉間はアカネによって常に破壊され続ける事で抵抗する事も出来ずにいた。

 その間に三代目火影は封印術にて二人を封印しようとしていたのだが……。

 

「残念ながら……大蛇丸が穢土転生を解除したのでしょう。封印の手前にて穢土転生は解除されました……」

「やはりか……」

 

 そう。穢土転生は口寄せの術の一種なので相手は口寄せにて呼び出された存在なのだ。元の術である穢土転生を解除すれば呼び出された死者は再び浄土へと戻るだろう。

 つまりもう一度大蛇丸が穢土転生を使用すれば再びあの二人が口寄せされる事になるというわけだ。

 

「まあ今の大蛇丸がまともにチャクラを練る事は不可能でしょうが」

「点穴ですか? しかしそれはいずれ回復するのでは?」

 

 三代目の疑問は尤もだ。いくら点穴を突いて経絡系を封じたとしてもいずれは回復するだろう。

 

「いえ、大蛇丸の点穴の奥深くに針の様に鋭いチャクラを残しておきました。それを外さない限り経絡系が癒える事はありません」

「なんと……!」

「その様な技術が!」

 

 アカネの説明に一番驚いているのはヒアシとヒザシの二人だった。

 共に日向最強の二人なのだが、そんな彼らが知らない技術なので余計に驚いたのだろう。

 

「と言ってもこれってあまり使い道ありませんよ? 敵を倒すなら普通に点穴突けばいいだけなんですから。これはお仕置き用の裏技みたいなものです」

 

 そう、敵を倒すという一点ならばこのような技術を使うまでもなく普通に点穴を突くだけで十分なのだ。

 それだけで敵を無力化し倒す事が出来るだろう。まあアカネとしては点穴を突くこと自体が無駄だと実は思っていたりする。

 点穴を十だの二十だの六十四だの突くよりも、経絡系に大量のチャクラを流し込んだ方が早かったりする。

 言うなればわざわざ六十四回敵を攻撃しているわけだ。それよりも柔拳を一回叩きこむ方が早いのは道理だろう。

 点穴は敵を無力化する時か、味方に突いてチャクラの増幅を図る時かのどちらかの方が使い道があるだろう。

 

「お仕置きに拘らなければここで終わりに出来ていたのですが……私の判断ミスですね。すみません」

 

 そう、あの時アカネは大蛇丸をただ倒すのではなく、死にはしないが苦痛が持続する攻撃方法を選んだ。

 全ては大蛇丸に他人の痛みを少しでも理解させる為にだ。点穴を突かれるというのは内臓を直接攻撃されるようなもので、その痛みは慣れ親しめるものではない。

 更にこの世の全ての術を手にしたいと願っている大蛇丸がその術の源であるチャクラの大半を奪われてはその苦しみは想像を絶するものだろう。

 そうして大蛇丸を無効化しておいて、その後捕らえて尋問なり投獄なりするつもりだったのだ。口寄せの術を利用して逃走されるとはその時は想像していなかったアカネであった。

 

「ふむ。まあ逃げられた事は仕方ないでしょう。この話はこれで終わりとしよう。次の話だが……」

 

 ダンゾウが流れを変えるように話を切り出した。その内容とは……火影交代についてだった。

 

「ヒルゼン。そろそろ五代目火影を決める時だろう」

「……そうだな。ワシも歳を取りすぎた。大蛇丸といい暁といい、これから木ノ葉と忍界は大きく動き出すじゃろう。その時にワシの様な年寄りでは木ノ葉を動かすには荷が重い」

 

 それは三代目も自覚していた事だった。元々三代目が今の木ノ葉の火影として立っているのも四代目が早くに死去してしまい、火影として相応しい者がいなかった為である。

 いや、正確には三代目が五代目にと思う者は複数いた。だがその誰もが五代目火影就任を拒んだのだ。

 例えば日向ヒアシ。彼は日向の宗家としての立場からその就任を断った。そして弟のヒザシも宗家の存在を鑑みて宗家より上の立場に立たないよう断っている。

 うちはイタチも自分は若く未熟だとして断り、そしてシスイもまた同じであった。

 

 ちなみにアカネを火影にするという案は流石になかった。若くそして誰よりも強いが、表だった実績が少ないので木ノ葉の忍が認めないだろう。

 ヒヨリという正体を明かすなどもっての他であるし、そもそもヒヨリは木ノ葉創生期の人間だ。そんな彼女に木ノ葉を任せるなど今の木ノ葉はオムツも取れてない赤子と言っているようなものだ。それを容認出来る者はこの場にはいなかった。

 

「ダンゾ――」

「自来也か綱手姫が良かろう。ワシは裏方よ。根が表に出るなど大木を枯らす行為。火影に出来ぬ仕事をするのがワシの役目よ」

「……」

「大体ワシもお前と同じ歳だろうに」

 

 ヒルゼンが全てを言い出す前にダンゾウは自分の思いを語りきった。ヒルゼンも二の句を告げなくなる程の返答であった。

 ヒルゼンとしてもダンゾウに火影をしてもらうのはあくまで次の火影が決まるまでの繋ぎをと考えていたのだが、こうも頑なに断られては口に出す事も出来なかった。

 

「ワシは断る。火影なんて柄じゃないんでのォ。綱手にやらせるのが一番だろうよ」

「だが綱手姫は今どこにいるか……」

「ワシが探してこよう。ついでに旅の供に連れて行きたい奴もいるしな」

 

 自来也が言っているのはナルトの事である。

 これを機にナルトに本格的に色々と指導しようとしているのだ。

 暁がナルトを狙っているのはほぼ確定している。ならば早急にナルトを強くする必要があった。

 ナルトを守るのはナルトそのものが強くなるのに越した事はないのだ。

 

「では頼んだぞ自来也。綱手姫が戻るまでは今まで通りヒルゼン、お主が火影として里を牽引してもらうぞ」

「仕方ないのぅ」

 

 これで一先ずの方針が決定したのでこの会議も終わりとなる。

 

「ではこれにて会議を終了する。今回の戦争の被害は少なかったがなかったわけではない。各自里の復旧に力を貸してくれ」

『はっ!』

「それじゃあ私もこれで」

 

 会議が終了したのでこの場から立ち去ろうとするアカネ。

 だがそんなアカネに声を掛ける人物がいた。それも複数もだ。

 

「アカネ殿。良ければあなたの知識を披露しては下さらぬか。もはや伝説となった初代火影と我らが先祖うちはマダラとの話などを聞かせて頂けるとありがたいのだが」

「知識の披露もいいですが、私は稽古をつけてくれると嬉しいです。あなたのチャクラコントロールは写輪眼でも真似る事が出来ない代物。是非ともご教授願いたい」

「そんな事よりアカネちゃん! 命を救ってくれた恩返しをしたいんだ! ヒヨリ様の好きだった団子屋まだあるから一緒に食べに行かないか? もちろんオレの奢りだ!」

 

 などとフガクの声を皮切りにアカネに対して多くの誘いが出ていた。全部うちはだったが。

 ちなみにアカネが一番惹かれているのはオビトの誘いだったりする。

 

「じゃあ団子屋に――」

「ちょっと待ったーーッ!」

 

 アカネがオビトの誘いに乗ろうとした所で待ったコールが発生。それは何とガイからのコールであった。

 修行の相手でも頼みこむのか? この場の殆どの者がそう考えていたが、ガイの頼みは至って真面目な物だった。

 

「アカネ様! 確かアカネ様は医療忍術の名手だったはず! オビトを癒したのもアカネ様ですよね!」

「え、ええ。まあ薬とかに関しては綱手の方が上でしょうけど。特に最近の薬はあまり知りませんし」

「どうか! どうかリーを! オレの弟子を治して下さい! この通りです! 何とぞ! 何とぞリーを!!」

 

 その剣幕と必死さはアカネをして気圧される程だった。

 だが、本当に真剣な頼み事だった。自分の為ではない。弟子の為に頭を下げる所か土下座をするほどに。それほどまでに真摯に頼みこんでいたのだ。

 アカネはガイのその態度よりも、リーが自身に頼まねばならない程に傷ついている事が気に掛かっていた。ガイの弟子であるロック・リーとアカネはアカデミーの同期なのだ。

 アカネにとってリーは他の同期よりも気になる存在だった。そんな彼を見捨てる事はアカネの選択肢にはなかった。

 

「もちろんです。リーの所に案内してくれますか?」

「おお! 治してくれるんですか!?」

「容態を見てみない事にはなんとも言えませんが……。それでも私に出来る限りの手は尽くしましょう」

「あ、ありがとうございます! これでリーは……リーは忍の道を諦めずに……!」

 

 涙すら見せるガイに、アカネはただ一つ頷いて立ち上がった。

 

「では行きましょうか」

「はい! ありがとうございます!」

 

 アカネは涙ぐみながらも希望を感じて明るい返事をしたガイを伴ってリーがいる病院へと移動しようとする。

 だがそんなアカネの足をまたも止める様な声が掛かってきた。

 

「ああアカネ様。ついでに並の医療忍者では癒せない重傷患者の治療もお願いします。多少の怪我程度ならば放っておいても結構。何もかもアカネ様がしては里の力が育ちませぬから」

「いや、いいけどね……。お前本当にいい根性してるよダンゾウ……」

「立ってるモノは火影でも使う性分ですゆえ」

 

 ダンゾウの言葉に力なく頷いて、アカネは今度こそ病院へと移動した。

 

 

 

 

 

 

「う、うおおおおおお! ありがどうございまずぅぅぅぅぅ!」

 

 木ノ葉の病院内に盛大な叫び声が響いた。病院という環境では非常識な態度だと言えよう。

 だがそうと注意されていてもきっと彼は、ガイは大声で同じ事を叫んでいただろう。

 何故なら二度とまともに歩く事も出来ず、忍としての道を断たれた愛弟子の容態が回復へと向かったからだ。

 

「ガイさん。ここは病院ですよ、お静かに」

 

 はしゃぎ回るガイをアカネは宥め叱る。だがガイの気持ちは分からなくもない。

 大切な人の容態が良くなって嬉しくない者など居はしないだろう。

 

「あ、アカネさん……! ボクは本当に完治したんですか!?」

 

 アカネの治療を受けたリーは半信半疑にそう確認する。

 今まで医者からは何度も再起不能だと言われ、それでも無理を推して修行していたがまともに動く事も出来ず、看護師からも幾度となく止められてきたのだ。

 治療したので治りましたと言われても急すぎて現実感が湧いていないのだ。

 

「ええ。神経系に入り込んだ骨破片は全て取り除き、その際に傷ついていた神経も再生させました。ただし、治療する前に注意したように僅かですがあなたの寿命を削る事になりましたが」

 

 アカネの再生忍術は対象の寿命を削る。これに関しては術式前に説明はしておいた。

 残念ながらリーの傷は普通の医療忍術では回復は難しく、医療忍術と手術を組み合わせた所でその成功率はアカネをして五割、良くて六割と言った所だった。

 成功する確率があるとは言え、この手術に失敗すれば死ぬか良くて永遠に半身不随だ。死ぬ可能性のある手術よりは少々寿命は削れるが確実な再生忍術による治療を選択したわけだ。

 

「多少の寿命くらい構いません! これで、これでボクは夢を諦めなくても……! う、うう……!」

 

 リーには忍術と幻術の才能がない。これは努力でどうにかなる物ではなく、本当にセンスとして持ち合わせていなかったのだ。

 だからリーは残された体術だけを磨き上げた。体術だけでも立派な忍になれると信じて、それを証明する為に努力を重ね続けてきたのだ。

 文字にすれば説明も簡単な目標だろう。だがその努力がどれだけ辛く、そしてその努力を掲げる事がどれだけ過酷だったか。

 まともに忍術も使えない者など忍と呼べるわけがない。そんな嘲笑を浴び続け、真の才能の持ち主と相対して、心が折れそうになった事は幾度もあるだろう。

 だが、それでもリーは自分を信じて努力し続けて来たのだ。

 

 死に物狂いの努力をしてでも叶えようとした夢を諦めずにすむのだと実感した時、リーの瞳には自然と涙が流れていた。

 

「リー……!」

「ガイ先生……!」

 

 ガイもリーと同じく涙を流していた。

 ガイにとってリーはただの弟子ではなかった。

 ガイもリー程ではないが忍術などは得意ではなく落ちこぼれの烙印を押されていた。

 今でこそ口寄せの術の一つくらいは覚えているが、それ以外の術は体術以外にはない。

 恐らく上忍で忍術らしい忍術を使えない者などガイくらいのものだろう。

 

 ガイもいい歳をして青春だの熱血だのと言っているが、かつてはそれを疑問に思った事もあった。青春を信じて負けた時にはそんなものに意味はあるのかと悩んでいた事もあった。

 それでも努力する事を忘れず、自分にとって大切なものを守りぬけるものこそ本当の勝利なのだとかつてのガイも父親から教わったのだ。

 ガイにとってリーは己の生き写しであり、父に教えられた想いと覚悟を伝えるべき後継者でもあるのだ。

 

 リーにとってもガイはただの担当上忍以上の存在だった。

 心が折れそうな時に励まされ、自分を信じ、自分にとって大切なものを守りぬくことを教えてくれた恩師。

 今のリーを形作るのにガイという存在は欠かせない物だ。ガイがいなければリーは忍としての道をとうに諦めていただろう。

 

 二人は涙を流しながら、最高の笑顔を浮かべて抱きしめあっていた。

 

「……」

 

 アカネも二人の様子を見て破顔し、喜びを顕わにしていた。才能がなくとも必死に努力して体術のみで忍の道を切り進もうとするリーの事をアカネは気に入っていた。そんな彼が夢を諦める事なく済んでアカネも嬉しかったのだ。

 

 念のため術の修行は明日からにするんですよ。そう伝えたいアカネだったが、今は二人をそっとしておいてあげたかったので口は挟まなかった

 アカネは書置きを残してそっと気配を消してその場から立ち去った。まだ見るべき患者は何人かいるのでそちらの治療もしなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 リーの治療を終えてから数日後。アカネは木ノ葉に古くからある老舗の団子屋に来ていた。

 古くといっても何百年という歴史があるわけではない。そもそも木ノ葉の里自体が出来てから百年の時も経っていないのだから当然の話だが。

 それでも五十年も店が潰れる事なく営業され続けているのはやはり売り物の団子が美味しいからという一言に尽きる。

 アカネもヒヨリ時代からお気に入りの人気店なのだ。

 

「やっぱり団子と言えば粒餡です。こし餡もみたらしも美味しいですが、団子に限っては何故か粒餡が好きなんですよね」

 

 そう隣に座る男性へ説明してからアカネはもきゅもきゅと団子を頬張る。その顔は実に幸せそうだ。

 その表情を見て隣に座る男性、うちはオビトも破顔して頷いていた。

 

「そりゃ良かった。ここの会計はオレが出すから遠慮せずに食べてくれよな!」

「誘ってもらっておいてなんですけど、いいんですか? 私結構食べますよ?」

「もちろんだよ! オレの命の恩人なんだからこれくらい安いもんさ!」

 

 オビトは数日前に言った通りアカネを団子屋へと誘ったのだ。

 これはかつて命を救ってくれた事への僅かばかりの恩返しであり、アカネに勘定を払わせるつもりはなかった。

 そしてアカネが健啖家である事もヒヨリ時代からオビトは良く知っていた。若い肉体だと言う事も加味して予算はそれなりに用意してあった。

 

「それじゃあ遠慮なく。すいませーん、団子各種3皿ずつお願いしまーす!」

「かしこまりましたー!」

 

 ちなみにこの店の団子の種類は全部で粒餡・こし餡・白餡・みたらし・よもぎ・醤油・きな粉・ゴマ・三色の9種類だ。そして一皿あたりの団子の本数は3本である。

 なので全部合わせれば81本という数になる。普通は食べ切れない量ではあるが、オビトにとっては予想の範疇の数だった。

 

「やっぱり動くと食べる量も多くなっちゃうんですよね」

 

 少し恥ずかしそうにはにかみながらそう言うアカネにオビトは分かっているという風に頷いた。

 

「だよねぇ。オレも修行した後は腹が減って腹が減って」

 

 そう言って趣味嗜好などを恥ずかしがる女性に理解を示し、上手く合わせてあげる男オビト。

 彼もいつまでも子どものままではないのである。誰しも成長し大人になるという事なのだ。

 まあ、その甲斐性を本命相手に発揮出来ているかと言えばお察しなのだが。

 

「むぐむぐ。そう言えば、オビトは火影が夢って言ってたね。今でもそうなの?」

「ああ、その夢は今でも変わっていないさ」

 

 そう、オビトの夢であり目標は火影になる事である。

 それは何も珍しい夢ではない。木ノ葉で成長した忍ならば多くが一度は夢見る目標だ。

 だがそれをいつまでも維持し続ける者は少ない。ある者は実力の壁を知り、ある者は任務で体を壊し、様々な理由で夢を見るのを止めて現実を直視する様になる。

 それでも火影になる者はやはりいる。それに必要なのは火影になるという目標を目指す努力……ではない。

 

「火影になる為に一番大事な事を知っていますか?」

「一番大事な事? ああ……」

 

 オビトは一瞬迷うが、すぐにそれに思い至った。

 実力は必要だ。弱い影では里を守る事は出来ない。だが、それと同じくらい必要で大事な事がある。それこそが――

 

「里と、里に住む人を誰よりも大切に想う気持ち……だろ?」

「はい」

 

 オビトの答えに、アカネは嬉しそうに微笑んで頷く。

 オビトはアカネの知っていた小さな頃から変わっていなかった。精神的にも肉体的にも成長している。だが、芯となる大切な部分は微塵も変わってはいなかった。それがアカネには嬉しかったのだ。

 

「強さは、必要です。強くなければ守りたいモノを守る事が出来ない。でも、ただ強いだけでは火影は務まらない。里を想い里を愛し、里という物を理解している者こそ、火影になるに相応しいのです」

 

 里を理解する。それは里をシステムとして見るのではなく、そこに住む人々を一人の人間だと理解し愛するという事を意味する。

 上に立つ人間は冷酷な判断をしなければならない時がある。時には少数の忍を犠牲にして多くの忍や民を救わなければならない事もあるだろう。

 だが、その時に犠牲となった者を書類の上での数字ではなく、一人の人間として受け止める。これが出来ない者は里の長になる資格はない。

 もしそんな者が火影になりでもしたら、いずれ木ノ葉は滅びてしまうだろう。少なくともアカネはそう思っている。

 

「それを忘れていないあなたなら、きっといい火影になります。五代目はもう決まっていますが、六代目はあなたかもしれませんね」

「ああ。見てろよアカネちゃん! オレはきっと火影になって里を守ってみせる! あのでっかい顔岩にオレの写輪眼を刻んでやるんだ! それで他里に睨みを利かせてやる!」

「ええ、楽しみにしてますね」

 

 それはかつてヒヨリが聞いたオビトの今も変わらぬ夢。

 子どもの様な夢を今も真っ直ぐにぶつけてくるオビトの事がアカネは好ましかった。

 アカネはどこかオビトとナルトが似ているなと考えながら、ふと手に違和感を感じたのでオビトに頼み事をした。

 

「オビト……」

「え? な、なにアカネちゃん?」

 

 何だか憂いを籠めたようなアカネの表情にオビトは動揺する。

 アカネちゃんはヒヨリ婆ちゃん、アカネちゃんはヒヨリ婆ちゃん、と心の中で呟きどうにか動揺を抑えようとしているようだ。

 そんな内心慌てふためいているオビトにアカネがした頼み事とは……。

 

「お代わり、頼んでもいい?」

「あ、はい」

 

 団子のお代わり催促だった。

 話している最中も高速で食べていたので団子がすでに無くなっていたのだ。

 オビトが快く(?)承諾してくれたのでアカネは早速お代わりを頼もうとして、ふとオビトに近づいてくる人がいたので注文を取り止めた。

 

「よおオビトさん」

「ん? ああ、サスケか。どうしたこんな所に? 何かオレに用か?」

 

 オビトを訪ねて来たのはうちはサスケであった。

 サスケとオビトは同じ一族の、いわば遠縁同士なので当然知り合いである。

 何か用があって訪ねて来ても不思議ではないが、その内容は予想出来ないオビトであった。

 

「いや、カカシの奴を探してんだが……ところでオビトさんよ、デートはいいけどよ流石に犯罪じゃねーか?」

 

 ちらりとオビトの隣にちょこんと座るアカネを見てそう呟くサスケ。

 出る所は出ているが、自分とさして変わらない歳の少女と団子屋でお茶をしている二十台後半の男性。

 事案であった。場合によっては一族から逮捕者が出るかもしれない。

 警務部隊として里の治安を一任されているうちはから犯罪者が出るとは……サスケは心を痛めた。

 

「ちげーーよっ! これはデートとかじゃなくて! 恩返し! 恩返しなの! オレこの子に救われたの!」

「……私はてっきりデートかと。おめかしもしてきたのに……」

「おいぃぃ!? アカネちゃんなんて事言ってくれちゃってんのォ!? それにおめかししてたのォ!? 気付けなくてごめんねぇ!!」

 

 アカネの服装は日向の代表的な胴着や忍衣装ではなく女性らしい服装であり、オビトが良く見れば僅かに化粧も施していた。

 この違いに気づかない辺りまだまだオビトは未熟であった。

 

「……警務部隊に配属される前に犯罪者を、それも一族を捕まえる事になるなんてな。あんたの事、嫌いじゃなかったぜ」

「違うから! 話せば分かるから! だからその苦無をホルダーに収めるんだサスケ君!」

「逃げてオビトさん! 私が囮になるからその内にあなただけでも!」

「話ややこしくすんなよ! あんた絶対面白がってやってるだろォォ!!」

 

 まるで悲劇のヒロインを演じているかの様である。まあまさしく言葉の通り演じているのだが。

 

「私の名前は日向アカネです。よろしくね。団子食べます?」

「うちはサスケだ。悪いが納豆と甘い物は嫌いなんだ」

「分かった。お前らオレをおちょくってんだな? いいぞ、ガキが調子に乗っても大人には勝てないと……あ、やっぱりいいです」

 

 唐突に自己紹介に切り替えた二人が自分をからかってると理解し、大人の力という奴を見せ付けてやるとかなり大人気ない事を考えていたオビトだがアカネの強さを思い出して最後の一言は喉から出さなかった。

 勝ち目のない闘いを挑まない。彼は忍として非常に正しい選択をしただけなのだ。けっして臆病だとかではない。

 これがもし仲間や里の民の命が懸かっていたならば必ず命を賭してでも戦いを挑んでいただろう。多分。

 

「で、サスケは何の用があって来たんだ? あ?」

 

 若干不機嫌そうにオビトはサスケに同じ質問をする。

 流石にこれ以上はまずいと思ったのかサスケもオビトをからかうような真似はしなかった。

 アカネとしてはもうちょっとやってもよかったと思っていたが。

 

「カカシの奴を探しているんだ。修行をつけてもらおうと思ってな……」

 

 サスケはナルトと同じ三人一組(スリーマンセル)の班であり、その強さも人となりも良く知っている。

 そしてサスケの知るナルトとは落ちこぼれの負けず嫌いであった。どれだけ負けても勝つ為に努力する根性は認めているが、才能がなければ話にならないのが忍だ。

 だがそんなナルトは一緒に任務をする内に目を見張る速度で成長していった。気がつけば先を行っているはずの自分の後ろを走っているようで不気味に感じたほどだ。

 

 内心ではナルトを認めつつも、心のどこかでは認めまいとする心もある。そして大部分を占めるのが、ナルトに負けてたまるかという想いだった。

 それは今回の木ノ葉崩しの一件で更に膨れ上がった。サスケはこの事件にて砂の人柱力である我愛羅を追っていたのだが、その力に屈し殺され掛けていた。

 それを救ったのがナルトだった。圧倒的な砂の我愛羅を相手に奮闘し、驚くべき力を発揮して最後には撃退してしまったのだ。

 その時は素直にサスケも感嘆した。仲間であるナルトの成長に興奮もしたものだ。

 

 だが全てが終わり冷静に振り返った時、サスケはナルトに助けられた事を恥じていた。

 これがナルト以外ならばサスケもこうは思わなかっただろう。だが何故かナルト相手だとサスケは異常に反応してしまうのだ。

 それが何故かはサスケにも分からない。だが昔からナルトにだけは負けたくないという想いがサスケの中にはあったのだ。

 

 ナルトには負けたくない。そんなサスケがやるべき事はただ一つ、修行である。

 その為に修行相手を探しているのだ。最有力候補であった兄は里の復旧任務で忙しく、父も簡単に時間が取れる立場にはいない。

 そして担当上忍であるカカシに白羽の矢を立てたわけだ。

 

「カカシの奴なら任務だな。里の被害は思ったよりは少なかったけどそれでも平時よりは忙しくなってるからなぁ」

「それなのにあんたはデートとかいいご身分だなオビトさんよ」

「まだ言うかこのクソガキめ! まったくイタチ相手だとああまで態度が変わるのによ」

「ふん。まああんたでもいいか……あんた、雷遁は使えたっけか?」

 

 この際オビトで妥協しようと本人が聞いたら噴飯物の思いを抱きつつもオビトにそう確認をする。

 サスケはここ最近カカシに教わった雷遁に関してさらに修行を積もうとしているのだ。まだ雷遁を覚えたばかりで応用も出来ていないのだ。もっと修行すれば更に発展する可能性を秘めていると言えよう。

 

「悪いがオレが使えるのは火遁と水遁と土遁だ」

「使えねぇ……」

「んだとこらー!」

 

 忍術の性質である五大変化には適正というものがある。

 大体は生まれ持って一つの性質変化の才能を持っているが、努力によって適正を増やす事も不可能ではない。木ノ葉の上忍ともなれば多くが2~3種類の性質変化を有している。

 一族ごとに引き継がれる性質もあり、うちは一族は火の性質変化を生まれついて有している。

 

 この性質変化だが修行して新たに覚える事は確かに出来るのだが、それを実現する為には相当な修行期間が必要になる。一般的には数年は掛かるだろう。更には生来の性質変化と合致していないと威力を保てない場合もある。

 その性質変化を下忍になる前に火遁を覚え、カカシに習って一ヶ月足らずで新たに雷遁を覚えた上に威力も兼ねているサスケは真実天才という事になる。

 

 ともかく、上忍で三つの性質変化を有しているオビトは十分優秀なのだ。

 今はカカシが覚えていない風を覚えようと努力している所だ。風の性質変化を覚えればカカシとのコンビネーションが更に高まるだろう。

 まあ、それも今のサスケにとっては意味がなく役に立たない事なのだろうが。

 

「それなら私が教えましょうか、雷遁?」

「……お前が?」

「アカネちゃん!?」

 

 アカネの会得している性質変化は水と風と雷である。

 元々は水の性質変化を持っていたアカネが、水と同時に使用する事で強力になる性質を選んで風と雷を更に覚えたのである。後は土でも覚えられたらなと思っているところだ。

 

「私も雷遁を使えますし、その応用技もいくつか知っています。多少は役に立てると思いますよ」

「……本当か?」

 

 サスケはアカネの話が信用出来ずにアカネにではなくオビトへと確認をした。

 サスケはその歳では木ノ葉で右に並ぶ者がいない程の実力者だ。下忍になって一年未満だが既に実力は中忍並に至っている。

 そんな自分の修行の相手となれる同年代の少女がいるなどサスケには俄かに信じがたかったのだ。

 

「ああ、雷遁が使えるのは知らなかったけど、アカネちゃんが強い事は間違いない。それだけは保証する」

 

 オビトはそれだけは誰にだろうと保証する事が出来た。

 口憚る事情さえなければ木ノ葉最強だと大声で叫ぶ事も出来ただろう。

 

「他にも美貌とか智謀とかも保証してくれてもいいんですよ?」

「強さと優しさは保証する!」

「おい?」

「……」

 

 このやり取りで若干、いやかなり信憑性をなくしているが、まあサスケも駄目元でアカネに頼んでみる事にした。

 

「まあいい。あんたが雷遁が使えるって言うんなら少しは役に立つだろ。今は時間を無駄にしたくないからな、頼んだぜ」

「ええ! 任されました! さあ、有望な若人を鍛えるぞ~!」

 

 この時何故かサスケは猛烈な悪寒を感じたと言う。

 後に、サスケは何故この時アカネに修行を頼まずカカシの任務完了を待たなかったのかと少しだが後悔する事になる。








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