どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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NARUTO 第十三話

 アカネ達がナルトを目指して移動しているとやがて火影室へと辿り着いた。

 どうやら大分前にナルト達は綱手を重役達に出会わせていたようだ。まだ正式発表はされていないが既に綱手は五代目火影として就任していた。

 そして五代目となった綱手は重要な話があるという事でナルトとサスケを招集する。そこに丁度アカネ達も到着したようだ。

 サスケを呼ぶ為に火影室から出て来たカカシとすぐに出会ったのだ。

 

「ん? 丁度いい所にいたな。五代目様がお呼びだぞサスケ」

「五代目? 三代目はどうしたんだカカシ?」

「三代目様は引退なされたんだ。元々四代目が早くに亡くなってしまった為の一時的な引継ぎだったんだ。ここまで長く里を治めていたのが異例だったんだよ。ま、三代目ほど治世が巧みだった火影もそういないだろうけどね」

「……それで、五代目とやらがオレに何の用だ?」

「お前ね……少しは上司に気を使いなさいよ。火影様だよ火影様。あんまり調子に乗ってると怒られるよ? ……特にフガクさんに」

「う……分かったよ」

 

 相手が担当上忍だろうが火影だろうが自分が認めて尊敬する相手以外には基本的に敬語を使わないのがサスケだ。

 だがカカシがフガクの名前を出したので流石のサスケも口を噤んだようだ。

 

「ところで……なんでお前とアカネが一緒にいるの?」

 

 カカシはサスケの隣に立つアカネに疑問を抱く。この二人に接点などあったのだろうか、と。

 

「それはもちろん。私がサスケの師匠だからです」

 

 カカシの疑問にアカネは胸を張って答えた。どや、と言わんばかりだ。

 

「え!? アカネが!? サスケの!? ……ほ、本当なのかサスケ?」

「……まあな」

 

 サスケの返事にカカシは目を大きく開けて驚く。あのアカネがサスケを弟子にした。これはちょっとした事件である。

 日向ヒヨリが弟子を募集すれば全国から数多の忍が募るだろう。アカネがヒヨリであると知っているカカシからすれば驚いて当然の事件なのだ。

 

「そうか……運が良かったなサスケ」

 

 そんなカカシの言葉にサスケは以前から抱いていた疑問が更に大きくなった。

 一体この女は何者なんだ、と。日向の一族で、強いという事は分かっている。人が良いのも分かる。だがそれだけだ。それ以外には何も知りはしない。

 それだけならここまで疑問には思わなかっただろうが、父であるフガクと担当上忍にして上忍の中でも抜きん出ているカカシの二人が共にアカネを知っており、そして一目置いているという事実が非常に気になるのだ。

 父は日向の天才児と言っていたが、それだけではないような気がしていたのだ。

 

「……」

 

 だがその疑問を素直にぶつけられるサスケではなかった。少なくとも疑問の当人であるアカネがいるのにそんな話題を出す事は出来なかった。

 基本的に捻くれた少年であるサスケは本人に気になっているという事を知られるのが嫌なのであった。

 

「ま、アカネは少し待っててくれるか。呼ばれてるのはナルトとサスケだからさ」

「ええ分かりました」

「ナルトも? 一体なんだってんだよ……」

 

 そうしてサスケとカカシは火影室へと入っていく。

 残されたアカネはナルトが呼ばれた理由はともかく、サスケが呼ばれた理由が分からなかったのでそれについて思考していた。

 ナルトならば恐らく暁に関する事だろう。暁がナルトの中にいる九尾を狙っているのは明白。ならば当の本人にもそれを話しておく事は必要だろう。

 だがサスケに関しては想像出来ないでいた。ナルトと共に呼ばれているという事はもしかしたら暁は関係のない事柄なのかもしれない。

 しかし火影室には自来也もいるようなのだ。それが余計に暁関連の話を想像させていた。

 

「ま、気長に待ちますか」

 

 結局考えても仕方ないので今はそうするしかないという結論に至ったようだ。

 アカネは近くの椅子に座って話が終わるのを待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 火影室にてサスケは五代目火影の綱手と初対面する。そして僅かに驚いた。

 今の若い忍は火影と言えば老人である三代目火影を真っ先に思い浮かべるだろう。それはサスケも同じだ。

 だからこんな若い女性が五代目火影だとは思ってもいなかったのだ。

 もっとも、綱手の見た目は確かに二十代程だが実際は自来也と同じく五十一歳というとても若いとは言えない年齢なのだが。

 これは綱手が老いるのが嫌という何とも女性らしい理由により特別な術を用いて見た目の年齢を自由に変化させている為だ。

 言うなれば若作り婆さんなのだが、それを本人の前で口にすればどうなるかは自来也に聞くと懇切丁寧に教えてくれるだろう。

 

「良く来たな。お前がうちはサスケか」

「ああ……。あんたが五代目火影……様か」

「よお! 久しぶりだなサスケ!」

「おう。それで、一体オレになんの用なんですか?」

 

 早くナルトと勝負をしたいサスケは速攻で話を終わらせようと用件を聞きだし始めた。

 

「ふむ……。あまり良い話ではないが、コレに関しては早い内に知っておいた方がいいだろうと思ってお前達をここに呼んだ」

 

 そう言って綱手は話を切り出した。

 暁。その組織がナルトを狙っているという話を。

 現在自来也とアカネが調べて入手した限りの暁の情報と危険性を説明し、ナルトが狙われている事を伝える。 

 事実、ナルトが自来也と共に綱手捜索の旅に出た時に暁に襲われたのだ。その時は自来也が撃退して事なきを得たが、一歩間違えればナルトは暁の手に落ちていただろう。

 

「そして暁が次にナルトを狙ってくるのは三、四年後だと言う情報が入った。その間にナルトには徹底的に強くなってもらう。お前が強くなる事が暁への一番の抵抗だからな」

 

 なるほど。確かにその通りであるし、ナルトが危機的状況である事も暁とやらの危険性も理解は出来た。だがそれでも分からない事がサスケにはあった。

 

「それとオレにどういう関係があるって言うんだ? 聞いてりゃオレの話は一切出てこないようだが?」

 

 そう、これまでの話とサスケに関わりがないのだ。確かにナルトは同じ班の仲間だが、それを言うならここにいない最後の一人である春野サクラもそうだ。

 だがサクラは呼ばれずに自分は呼ばれる。それがサスケには腑に落ちなかった。

 

「お前も無関係の話ではないからだ。……暁には大蛇丸という奴がいてな」

「大蛇丸?」

 

 初耳、いや何処かで聞いた事がある名前だった。

 サスケはどこで聞いたのかを思いだそうとしている内に、答えを綱手が口にした。

 

「二代目三忍、いや元をつけた方がいいな。そいつは木ノ葉の抜け忍だ」

 

 それを聞いてサスケも思いだした。かつて忍者アカデミーで授業に出た事のある名前だと。

 

「その大蛇丸がどうしたって言うんだ」

「奴はお前を狙っている」

「なに!?」

「なんだって!? どういう事だってばよ綱手婆ちゃん!」

 

 サスケも、今までの話が良く理解出来ずにいたナルトも綱手の言葉に驚愕を顕わにした。

 そんな二人に綱手は知り得る限りの情報を伝える。

 

 大蛇丸が不死の研究の末に開発した禁術・不屍転生(ふしてんせい)。その器としてサスケを狙っているという事を。

 それは大蛇丸が綱手にアカネに封じられた点穴の治療を依頼しに行った時にこぼした言葉から分かった事だった。

 

「今の大蛇丸は本来の力の半分程度も発揮出来ない状態だが、それでも今のお前程度が百人いても相手にならない奴だ。それに抑えられた力をいつ元に戻すかも分からない。そうなればお前が連れ去られる可能性もより高まる事になる」

「ちっ……! 人の体を乗っ取ろうなんて何様だそいつ……!」

 

 誰しも自分の体を他人に渡したくはないものだ。

 当然サスケも自分の体を狙っているという存在を不気味に思いそして憤慨していた。

 

「というわけでだ。お前も乗っ取られたくなければより強くなる事だ。私達も里の仲間であるお前をそう簡単には大蛇丸なんぞに渡すつもりはないが、ナルトと同じ様にお前が強くなる事が一番の自衛の方法だからな」

「ふん……上等だ。その大蛇丸とやらがオレを狙ってくるなら返り討ちにしてやる」

「ほう、いい気概だ。とにかく、今お前達を下手に任務などで外に出して暁だの大蛇丸だのに捕らえられては意味がない。私達も里の外でまで常にお前達を守れるわけではないからな。だからしばらくは里の中で修行に励んでもらう」

「えー! それじゃあ任務とか出来ないって事!? オレってばすっげー難しい任務を次々とこなして里の皆を認めさせて火影になってやろうと思ってんのによー!」

 

 綱手の言葉にすぐに反感の意思を見せたのはナルトだ。火影になりたいナルトは修行に励む事は反対ではないが、任務を受けられないのは御免なのだ。

 そんなナルトを綱手は優しく微笑んで見ていた。生意気で馬鹿なナルトだが、綱手にとっては弟の様な存在なのだ。そういう言動もどこか微笑ましく感じていた。

 綱手はナルトと出会い火影になるまでの経緯でナルトを本物の男と認めていた。出会ったばかりの当初は馬鹿なガキという感想だったが、今では誰よりも守りたい存在と思っている。

 

「これこそがその任務だ。私からお前達に任務を言い渡す。三年間で暁や大蛇丸に負けないくらいに強くなれ! これはS級任務だ。分かったな?」

「S級……! おっしゃー! オレに任せとけ綱手の婆ちゃん!」

「ウスラトンカチが……どれだけ単純なんだお前は」

 

 そう言うサスケも綱手の命令を聞いてうっすらと笑みを浮かべていた。

 暁や大蛇丸に負けないくらいに強くなる。それはむしろサスケの望むところだった。

 

「よーし、やるぞー! ……っと、ちょっと待った婆ちゃん!」

「ん? どうしたナルト?」

「任務ってんならオレ達第七班全員の出番だろ!? ここにはサクラちゃんがいねーじゃん! サクラちゃんはどうすんだってばさ!」

「サクラ? カカシ、誰だそいつは?」

 

 ナルトの言う事も至極もっとも。だが綱手はサクラという存在を全く知らなかった。

 なので第七班の担当であるカカシに説明を任せた。

 

「我々第七班の最後の一人である春野サクラ。今はまだ下忍の域を出ておらず正直力不足は否めませんが、頭脳は明晰でチャクラコントロールも高く、そして根性があります」

 

 意味深な目線を送りながら綱手にサクラの説明をするカカシ。

 その目線とチャクラコントロールに長けて根性があるという説明を聞いて綱手はカカシの言いたい事を理解した。

 

「分かった。同じ班という事ならそのサクラとやらにも同じ任務を受けてもらう」

「おお! 話が分かるぜ婆ちゃん!」

「ただし、サクラの修行は私がつける。それに付いてこれないと私が判断したら、その時点で春野サクラの任務は終了。別の班へ移動してもらう」

「えー! どうしてだよ!?」

 

 綱手の厳しい言葉に反感を覚えるナルト。そしてナルトに対して答えたのはサスケだった。

 

「……弱ければ危険だからだ。そうだろ五代目?」

「そうだ。お前達と同じ班のままいるという事は、暁や大蛇丸と戦う可能性は非常に高い。そこに弱者がいればそれだけで自分はおろか味方に危機を招く事になる」

「そんなのオレとサスケがいりゃあどうとでもなるってばよ! そうだろサスケ!?」

「いや、オレも五代目の意見に賛成だ」

「サスケ!?」

「このバカ、少しは頭を使え! もし五代目が言った様な状況になってオレ達が死んだら残されたサクラは誰が守るんだ!? そうなったらサクラも死んで終わりだろうが! お前はそうしたいのか!?」

「っ! ……それは」

 

 サスケの言う状況を思い浮かべてナルトは意気消沈する。自分が死ぬのならばまだいい。だがサクラが、仲間が死ぬのは何よりも痛かった。

 ナルトが消沈したところで今まで黙っていた自来也が溜め息を吐きつつ口を開いた。

 

「全く。ナルトォ、お前はもう少し話を良く聞けぃ。綱手はそのサクラとやらが修行に付いてこれないなら、と言っておっただろうが」

「あ……。そっか、そうだな! サクラちゃんならきっと綱手の婆ちゃんの修行に付いていけるさ!」

「ふん……」

 

 ナルトはサクラなら絶対に綱手の厳しい修行を乗り越えられると自信を持って言えた。仲間を信じる思いは誰よりも高いのがナルトなのだ。

 サスケも言葉にはせずとも意外と根性のあるサクラならば大丈夫だろうと思っていた。精神を乗っ取るという心転身の術を受けても無理矢理にその縛りを破った女なのだから。

 

「では決まりだな。サクラには私から話しておく。まあこの話を聞いて初めから断る様ならそれまでだがな」

「ナルトの修行に関してはワシが見よう。螺旋丸も含めてこ奴を鍛えるのにワシ以上の人材は……まあ、おるにはおるがワシが適任だろうしのォ」

「ん? お前以外に螺旋丸が使える奴が今の木ノ葉にいたのか自来也?」

 

 自来也が自分以上の人材と口にして頭に思い浮かんだのはもちろんアカネだ。

 だが綱手は未だにアカネの存在と正体を知ってはいなかった。もちろん火影になったので早い内に知らされるだろう情報だが。

 まだこの部屋にはナルトとサスケがいる為に迂闊にアカネの正体に関しては話す訳にもいかないので、今は説明する時ではないと自来也は口を噤んだ。

 

「ああ、まあ、それは後で話すとしよう。サスケに関してだが、うちはの事はうちはに任せるのが良いかの」

「それですが……実は今サスケの師匠をしている人がいまして……」

「ん? お前以外でか?」

 

 元々カカシが今までは担当上忍としてサスケの修行を見ていた。うちはの者を担当上忍にしてはサスケへの贔屓の可能性も考慮して写輪眼を持つカカシに白羽の矢が当たったのだ。うちは一族の大半が警務部隊に入っているというのも大きな理由だが。

 だがこれから先は今まで通りには難しかった。流石のカカシもサスケの修行を見つつ大蛇丸に対応する事は難しい。むしろカカシ自体の戦力上昇も考えなければならない状況なのだ。

 それゆえに今回はうちは一族の誰かにサスケを任せようとしていたのだ。うちは一族の敷地内ならば大蛇丸とてそう易々とサスケを狙う事は出来ないだろうとの考えだ。

 

「ええ……アカネです」

「……マジか?」

「はい」

 

 カカシの言葉に嘘が無いと判断した自来也は感嘆の念を籠めてサスケに話しかけた。

 

「……サスケ、お前よく生きておったの」

「ああ……あんたもか」

 

 同類を見るような目線を自来也はサスケに送った。自来也もアカネと共に旅をした一年間で相当絞られたのだ。もうしばらくはアカネと一緒に旅をしたくないと思うくらいに……。

 サスケも自来也を見て同胞を見つけたような気持ちになりいつもの強気の態度を崩して何度も頷いていた。ここに性格も年齢も違い過ぎる二人の男が分かりあった。多分日向に行けば後二人くらい同胞が増えるだろう。

 

「一体誰なんだそのアカネという奴は?」

「それは……」

「日向アカネってやつだが……知らないのか?」

 

 カカシが口淀んだ瞬間にサスケはアカネの名前を出して綱手の反応を窺った。これにより綱手がどう反応するかを見たかったのだ。だが今までの反応からしてどうにも綱手はアカネの事を知ってはいないようだ。

 

「アカネ? 誰だそいつ? どうして日向の人間がうちはの師をしているんだ?」

「アカネェ!? なんでアカネがサスケの師匠をしてんだってばよ!?」

(ナルトがアカネを知っているのはともかく……五代目はアカネを知らない? カカシや自来也って三忍は知っているのにか? どういう事だ)

 

 これによりサスケはよりアカネの存在が気になる事になる。

 カカシやフガクの反応からしてアカネは上忍からも一目置かれる存在だろう。そして自来也も知っている。なのに同じ三忍の綱手はアカネを知らない。

 単に綱手がしばらく木ノ葉を離れていただけという可能性もあるが、それ以外に何かありそうな気もしていたサスケであった。

 

「あー、アカネについては後でワシから説明する。取り敢えず一旦はこれで解散するぞ」

「……分かった。ナルトとサスケ、お前達には私がサクラに同じ事を話した後に正式に任務を告げる。それまで自由に待機していて構わん。では解散だ」

 

 そうしてナルトとサスケが退室してから、綱手は自来也を睨みつける。

 

「で、どういう事だ? 日向アカネとやらについてはあいつらに話す事が出来ない内容なのか?」

 

 綱手は自来也がアカネについてナルトとサスケに知られない様に二人を遠ざけようとしていたのに気付いていた。

 それほどまでに情報を規制する必要がある存在が気にならないわけがなかった。

 

「ちょっと待って下さい。実は当のアカネがすぐそこにいましてね。どうせ五代目様には知られる事になるでしょうから、ちょっと呼んできますよ」

「おう、そうか。なら頼むとしようかの」

 

 そうして火影室から出たカカシはすぐにアカネを見つける。

 アカネはナルト達が出て行った時に自分が呼ばれるだろうと思って待ち構えていたのだ。ナルト達には後で合流すると話している。

 

「アカネ……五代目様がお呼びだ」

「ええ。……あの子に会うのも久しぶりですね」

 

 アカネは記憶に残る最後の綱手を思いだす。そして思わず目を瞑った。

 当時の綱手はそれはもう荒み落ち込んでいたものだ。最愛の弟と最愛の恋人を戦争で失ったのだ。そうなるのも致し方ないだろう。

 アカネはヒヨリとして綱手とはそれなりに親しい関係を結んでいたが、それでも綱手の心の傷を癒す事は無理だった。

 いや、その時間すらなかったのだ。ダンを失った綱手は程なくして木ノ葉から去ったのだから。

 その綱手が木ノ葉に帰り火影の座についた。安堵と心配と不安と感慨深さが混ざり合った感情を抱きながら、アカネは火影室の扉を開けて中に入る。

 

「失礼します」

「うむ。私が五代目火影の綱手だ。お前が日向アカ……ネ……」

 

 入室して来たアカネを見て綱手は火影として挨拶をする。だがアカネを見てすぐに綱手の言葉は尻すぼみしていった。

 信じられないモノを見たかのように驚きで目を見開いてアカネを見つめる綱手。唇は震え、座っていた体は何時の間にか乗り出していた。

 

「ばあ様……」

 

 そしてポツリとそう呟いた。アカネは確かにヒヨリと同じ日向の一族だが、別段そっくりという訳ではない。

 他の日向の女性を見た時はこんな風にヒヨリを思い浮かべる事はない。だが、何故か綱手はアカネの姿にヒヨリが重なって見えていた。

 

「……いや、すまない。私の勘違いだ――」

 

 勘違いだから気にするな。そう言おうとした綱手の言葉をアカネが遮った。

 

「久しぶり、綱」

「!!」

 

 その言葉に、その優しい眼差しに、またも綱手はヒヨリを思い浮かべる。

 久しぶり。会った事もない相手からのその言葉だが、綱手は何故か不思議とおかしいとは思わなかった。

 そして自然と答えが口から出て来ていた。

 

「ヒヨリ……ばあ様、なのか?」

 

 綱手のその言葉に、アカネは頷いて答えた。

 

「少し長くなるけど、全てを話すよ」

 

 驚愕に身を竦ませている綱手に、アカネはゆっくりと全てを語った。

 

 

 

 そしてアカネの正体とその経緯を知った綱手は溜め息を吐いてゆっくりと腰を下ろした。

 

「ふぅ……。まさかヒヨリばあ様が転生をしていたなんてな……」

 

 予想だに出来なかった事態を目の前にして流石の火影も興奮が冷めやらぬ様子のようだ。

 まあ、予想しろという方が無茶なので誰しもこうなって当然だろう。

 そんな綱手にアカネは優しく、そして嬉しそうに語りかけた。

 

「綱……過去を乗り越えたんだな」

「っ!? ……何でもお見通しか。ばあ様には昔から隠し事が出来なかったな」 

 

 アカネは綱手と接している内にかつて綱手の中にあった負の感情がなくなっている事に気付いた。

 いや、正確には少し違う。無くなっているのではなく乗り越えたのだ。あの凄惨で非情な過去を飲み込み、前を向く事が出来ているのだ。

 自分の力で克服したのか、それとも第三者の手助けがあったのか、それを考えてアカネはふとナルトの存在を思いだした。

 

「……ナルトか?」

「……ああ」

「そう、か」

 

 うずまきナルト。九尾の人柱力であり木ノ葉の下忍。だがそれ以上の可能性を秘めた少年。

 どこか不思議な期待を持たせる事が出来るあの少年ならばと、アカネは思えたのだ。

 

「ナルトには、礼をしなければなりませんね」

 

 自分にも出来なかった事をナルトは成し遂げてくれた。きっとアカネがどんな言葉を並びたてようともそれは綱手の心に響かなかっただろう。

 けどナルトはそんな綱手の心を動かしたのだ。どうやったのかは分からないが、それだけでナルトはアカネにとっての恩人だった。

 大切な親友の孫を救ってくれたのだから……。

 

「後で修行でもつけてあげましょうか」

「お前、ナルトに恨みでもあるんかの?」

「なんで!?」

 

 お礼にとびっきりの修行をつけて強くしてあげようと思っていた矢先の自来也の言葉である。

 

「おい自来也! ヒヨリばあ様になんて口の聞き方だ!」

 

 綱手にとってヒヨリとは尊敬する祖父である初代火影柱間の親友にして初代火影の左腕にして木ノ葉設立の立役者にして、そして気の優しいお婆ちゃんだった。

 美味しいおやつを貰ったり、怪我をしたら治してくれたり、修行の手伝いをしてくれたりと色々と世話をしてもらったものだ。

 そんな尊敬すべき相手に対し対等の口を聞く自来也に憤慨するのも無理はない。

 

「いいんですよ綱。というか、あなたもこう言った事情を知る者達だけの場ならともかく、それ以外では普通に木ノ葉の下忍として扱って下さい。そうしないと厄介ですし」

「それは……確かにそうだが……」

 

 綱手もアカネの言い分は理解出来る。火影ともあろうものが高々下忍を相手に敬う態度を見せては色々と問題だろう。

 

「……分かった。では普段はそうさせてもらう。だがそれ以外ではヒヨリばあ様として対応させてもらうぞ」

「いいですよ。私もその方が嬉しいですし」

 

 再会を喜びあった二人はそう言って互いに笑いあう。

 だがそれも束の間。すぐに二人は先の事に付いて話しあった。

 

「ヒヨリばあ様がサスケを見るならばそちらは安泰だろうが、やはり問題はナルトか」

「ワシが信用出来んか綱手?」

「そうではない。だが大蛇丸だけが狙っているサスケと暁全員が狙っているナルトでは話が違う。一刻も早くナルトには強くなってもらわねばならん」

 

 その物言いと籠められた思いから、綱手が余程ナルトを信用しているのだとアカネは理解した。

 恐らくナルトを弟の縄樹に重ね、その上で過去を乗り越える要因となったナルトに可能性を感じているのだろう。

 ナルトならば九尾の人柱力という境遇を乗り越え、いずれは火影になり里を守る力となると信じているのだ。

 

「けど焦っても意味はありません。まずは地力を伸ばす事が重要です。その上で九尾の力を完全に使いこなせれば……」

 

 そうなればまず敵はない。それほど九尾の力は凄まじいのだ。

 ナルトの中にある九尾のチャクラはどうも完全ではないとアカネは感じ取っていたが、それでも尾獣の中でもっとも強大な力を持っている規格外の尾獣が九尾なのだ。

 ちなみに今のナルトの中にある九尾のチャクラは陽のチャクラのみ。陰のチャクラは屍鬼封尽にてミナトが道連れにして封印してある。半分でそれだから本当に規格外なのである。

 

「うーん、九尾チャクラを自在にコントロール出来れば修行も大幅に捗るのですが……」

「どういうことだばあ様?」

 

 綱手の質問にアカネは九尾チャクラを利用した修行法を伝える。

 それは影分身を応用した修行だ。分身の術とは実体を持たない術者の分身を生み出す術だが、影分身はそれに実体を持たせるという高等忍術だ。

 そして影分身の特性として、影分身が得た情報や経験は影分身を解除した時に本体に還元されるという物がある。

 それを利用して、影分身を大量に出してその分身全てに修行させる事で修行時間を大幅に縮めるという裏技的な方法があるのだ。

 

 もっとも全てにおいて都合良くは出来ていない。まず影分身自体が本体のチャクラを分散して作り出す術なのでこの修行方法だとあっという間にチャクラが切れてしまうのだ。

 これを行うには桁違いのチャクラが必要になってくる。それこそ尾獣のチャクラを自在に操れるくらいでなければ不可能だ。

 だが今のナルトはまだその域に達してはいない。今までにも何回か九尾のチャクラが漏れ出して爆発的な力を見せた事はあるが、自在にとなると難しい。

 そして上手く九尾のチャクラを引き出せた所で問題がある。あまりに九尾のチャクラを引き出していると下手すれば九尾の封印式が緩んで九尾が復活する可能性もあるのだ。

 この修行法は上手く行けば非常に効率的な修行だが同時に危険性も高いのである。

 

「なるほどな……」

「柱間がいればなぁ。あいつ木遁で九尾を縛る事が出来たし」

 

 九尾という天災を抑える事が出来た数少ない忍の一人が柱間だ。木遁の特殊な力で九尾の力や意思を抑える事が出来るのだ。かなりおかしい性能である。流石は忍の神と謳われた存在だ。

 

「落ち込みやすい性格の癖に……」

「ばあ様? 何か言ったか?」

「いや何も。まあ無い物ねだりをしても仕方ない。ナルトには地道に強くなってもらうとしよう」

 

 結局はそれが一番の近道だろう。そう結論付けたアカネだったが、そこにカカシが口を挟んだ。

 

「ちょっとお待ちを。木遁忍術なら一人だけ扱える忍を知っています」

「え?」

「どういう事だカカシ?」

 

 これにはアカネも綱手も困惑した。木遁とは初代火影のみに許された血継限界だ。

 いや、柱間と同じ千手一族にも直系の子孫にも伝わっていないので血継限界とすら言えないのかもしれない。それほどの秘術なのだ。

 それを扱える者が今の世にいるなどとは流石の二人も想像だにしていなかった。

 

「実はかつて大蛇丸がしていたという人体実験の成果でして……」

 

 カカシは事の詳細を語る。と言ってもカカシも全てを知っているわけではなかったが。

 かつて大蛇丸がまだ木ノ葉の里から抜けていなかった時、大蛇丸は様々な研究を秘密裏に行っていた。木遁の研究もその一つだ。

 千手柱間の細胞を利用してそれを幼い子どもに移植し木遁を再現出来ないかという最悪の実験。そして実験台となった子どもはその殆どが死に絶えた。

 いや、大蛇丸は全員が死亡したと思っていた。だが一人だけ生き延びた子どもがいたのだ。

 

「それが後に暗部の一員となったテンゾウという男です」

「大蛇丸め、どこまで……!」

「最悪だな。今度あった時は一切の加減も仕置きも抜きで……」

 

 カカシの説明を聞いた二人は大蛇丸への怒りを顕わにする。隣でそれを見た自来也は少しだけ外道に堕ちた元仲間に同情した。

 

(この二人の怒りを買うか。死ぬのぉ、あいつ)

 

 初代三忍と二代目三忍の紅一点から命を狙われる事になった大蛇丸。彼の運命や如何に。

 

「とまあ、テンゾウはオレも信用の置ける男です。奴ならば九尾を抑える事も出来るでしょう」

「そうか。それじゃあナルトの修行が一段落したらそのテンゾウさんに力を貸してもらいましょう」

「今すぐじゃ駄目なのかばあ様?」

「ええ。最初から他人に頼った修行をしてはナルトの為になりません。三年の時間があるなら二年はきちんと自分の力だけで強くなってもらいます」

 

 自力で影分身による修行が出来るならば話は別だが、そうでないならば頼り切った修行は毒になる。まずは地力を伸ばしてからという事に変わりは無かった。

 

「何時でもテンゾウが動ける様にあいつにはオレから声を掛けておきます」

「うむ。これで大体の方針は決まったな。後は他里にも声を掛け続けておく。暁が人柱力を狙っているならば必ず他の里も狙うはずだからな」

 

 だがそう言いつつも綱手は他里が木ノ葉の話を素直に聞き入れるのは難しいだろうと思っている。

 改めて同盟国となった砂はともかく、雲と土と霧。この三つの里がまともに話を聞くわけがない。例え暁の危険性を説いても自分達ならば大丈夫と言い張り、他里との連携など期待出来ようもないだろう。

 そもそも人柱力とは里にとっての重要な軍事力なのだ。それは最重要機密であり、他里に漏らす訳がない。

 危機的状況になってからでは遅いのだが、その状況にならなければ理解出来ないのが人間なのだ。それでも何もしないままでいるわけにも行かないので、綱手は出来る限り他里へと呼びかけをするのであった。

 

 








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