どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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NARUTO 第十四話

 木ノ葉の里に広がる森の中。その森で木々のない開けた土地に数人の忍が集まっていた。

 アカネ・自来也・綱手の師匠組と、ナルト・サスケ・サクラの弟子組、そして第七班の担当であるカカシの計七人である。

 サクラがこの場にいるのは、サクラが綱手から聞かされた任務を受ける事を選んだからだ。今まで彼女はナルトやサスケに助けられてばかりだった。そんなお荷物な自分が嫌で、逆にナルト達を助けてやろうと決心したのだ。

 その時のサクラの意気込みを見て綱手はサクラを気に入った。こうなったら開いた時間を使って徹底的に鍛え上げるつもりだ。

 

 そして今日はナルトとサスケが勝負をする為にこうして集まっているのだった。

 狙われている二人の力を計る為であり、サクラに今の自分とナルト達との差を理解させてより追い付こうとする気概を持たせる為でもあった。

 そしてアカネにとってはナルトとサスケのチャクラを見比べる為でもある。この二人だけどうしてチャクラが二重に感じるのか。その不思議を少しでも解く為だ。

 

 勝負が始まる前からアカネは白眼を発動して二人を見る。こうして見比べると二人は似ているようでどこか違っていた。

 ナルトからは柱間を、サスケからはマダラを思い起こさせるチャクラを感じる。だが二人のチャクラが柱間とマダラに似ている訳ではない。

 二重になっているチャクラがそれぞれ柱間とマダラの二重になっていたチャクラと同一に感じるのだ。

 

(はてさて。これは一体何なのか?)

 

 長い人生を歩むアカネも皆目見当が付かないこの現象。とにかく今は観察に集中するしかなかった。

 

「それじゃあこれよりうずまきナルト対うちはサスケの勝負を始める。まずは互いに対立の印をせい」

 

 自来也の言葉に従い、ナルトとサスケが対立の印を組む。

 対立の印とは木ノ葉の里で古くから守られてきた伝統の訓練方式である忍組手の所作の一つだ。

 組手前に必ず片手印を相手に向ける行為の事だが、両手印で術を発動する所作の半分を意味し、これから戦う意思を示す行為。それが対立の印だ。

 

 そして組手が終わり決着の後に、互いに対立の印を前に出して重ね合わせ結び、和解の印として仲間である事の意思を示す。

 その一連の流れが忍組手の作法一式である。

 

 ナルトとサスケは対立の印を組む事で過去に思いを馳せていた。

 それは二人の最初の戦いの記憶。アカデミーでの忍組手の記憶だ。

 当時の組手はサスケの圧勝だった。家族がいて才能があって強くて、ナルトにとってサスケは眩し過ぎる存在だった。

 それからナルトはサスケをライバル視するようになった。必ずサスケに勝って自分を認めさせる。無意識の内に自分が初めて眩しいと感じた相手に認められる事で第一歩を踏み出せる様に思ったのだ。

 今までは落ちこぼれとしてナルトはサスケの眼中になかった。だが同じ班となって共に任務をし、今ではサスケから闘いたいと言われる様になった。

 そして今目の前に本気のサスケがいる。それがナルトには嬉しかった。

 

「へへ」

「何がおかしい?」

「おかしいんじゃねーってばよ、嬉しいんだ! お前にやっと勝てると思ったらな!」

 

 ナルトの答えにサスケは笑って返す。

 

「ふん。残念だが、今日もオレが勝つ。明日も、明後日もだ!」

「いつまでも落ちこぼれだと思ってんじゃねーぜ!」

「安心しろ……とっくの昔に思っちゃいねェーよ!」

「サスケェーー!」

「ナルトォーー!」

 

 互いの名を叫び、そして勝負が始まった。

 

 

 

 二人は正面からぶつかりあった。

 互いに振りかざした拳を同じ様に受け止め、そしてそこから幾度かの攻防が繰り広げられる。

 天才と謳われたサスケの体術にナルトは付いていっているのだ。それだけでサクラにとっては驚愕だった。

 

(あの落ちこぼれだったナルトが何時の間にかこんなに……とっくに、置いてかれていたんだ……)

 

 それはどこか寂しさを感じさせる現実だった。自分よりも下と見ていたナルトが何時の間にか自分の遥か上に立っている。

 それが悔しくもあり、情けなくもあり、そして悲しくもある。何時までも成長していない自分に腹が立っていた。

 そんなサクラを見て綱手はこれだけでもサクラを連れてきた甲斐があったと思っていた。

 こうした思いがある限り人は努力出来るのだ。これで奮起しない様では忍として端から見込みがないと切り捨てるしかないだろう。

 

 ナルトとサスケの体術合戦は徐々にサスケが優位に進めていった。いくらナルトが急成長したとは言えサスケとの間にあった差を埋める程ではなかった。

 いや、サスケが成長していなければとっくに追い抜いていただろうが、サスケとて成長しているのだ。

 まともにぶつかり合っては不利と判断したナルトは得意術にしてとっておきの切り札を使用する。

 

「多重影分身の術!」

 

 術の発動と共に百を超えるナルトが現れた。影分身で生み出す分身の数を単純に増やしたという術だが、それだけで禁術扱いされている術でもある。

 影分身は術者のチャクラを分散する術故に大量の分身を生み出すとそれだけでチャクラが少ない者ならば気絶する可能性を秘めていた。

 故にこれはチャクラが大量にある忍のみに使用を許された禁術なのである。

 

「いくぞサスケェ!」

「ちぃ!」

 

 大量のナルトがサスケに襲い掛かる。影分身同士が連携して四方は当然として上空からも攻撃を仕掛けてくるのだ。

 これを防ぐのは並大抵の体術では不可能だろう。飛んで逃げようにも上空にも無数のナルトがいる為無事に切り抜ける事は難しい。

 ならば迎撃あるのみ。それがサスケの選択だった。

 

――千鳥流し!――

 

『うわぁあぁ!』

 

 サスケの周囲を覆っていたナルト達が一斉に消滅していく。

 これがサスケがアカネとの修行で新たに覚えた千鳥の発展型である。

 一点に集中していた千鳥を全身から発する事で自身の周囲に高圧電流を流す術だ。

 威力はそこまで高くはないが多くの敵を巻き込み痺れさせる事が出来る。一撃でも攻撃を受ければ消滅する影分身相手には効果的な術だろう。

 

「何時の間にあんな術を!」

 

 これに驚愕したのはカカシだ。元々千鳥をサスケに教えたのはカカシだったが、中忍試験からたった二週間程でこの様な応用技を身に付けているとは思ってもいなかったのだ。

 サスケの天性の才能を褒めるべきか、それとも短期間でサスケに仕込んだアカネを褒めるべきか悩みどころなくらいだ。

 

「ふっ」

「へへっ」

 

 上手く大量の影分身を消滅させたサスケはナルトに強い態度を見せるが、それに対してナルトも笑って返した。

 それを怪訝に思うサスケだったが、次の瞬間にサスケはナルトの態度の理由を理解した。

 

「がぁっ!?」

 

 サスケの足元の地面がひび割れ、突如として地面を突き破ってナルトが現れたのだ。

 そしてサスケの顎を殴りつけて上空へと吹き飛ばす。さしものサスケもこれには反応出来なかった様だ。

 ナルトは大量の影分身を出した時に影分身に紛れて本体を地面の下へと潜らせていたのだ。かつて中忍試験でネジを相手に使用した戦法の応用である。

 

「まだまだぁ! う! ず! ま! き! ナルト連弾!」

 

 これもかつて中忍試験でサスケが使った獅子連弾という体術の物真似で覚えた体術である。

 サスケを意識したが故の物真似だろう。もっとも一人でやっているサスケと違いナルトは影分身と協力しあっての連携体術だが。

 

「ぐ、あ、あぁ!」

 

 顎に強烈な一撃を貰い軽い脳震盪を起こしていたサスケはまともにガードする事も叶わずにナルト連弾を喰らってしまう。

 最後の一撃で大地に叩き付けられたサスケに、ナルトは全ての影分身を一斉に突撃させた。ここで一気に勝負を決めるつもりなのだろう。

 

(まさか! ナルトがここまで成長しているなんて!)

(うそ! ナルトがサスケ君に勝っちゃうの!?)

 

 いくらナルトが強くなったと言っても現時点でのこの展開は予想外だったようだ。

 カカシもサクラもあの落ちこぼれだったナルトが天才のサスケに勝利する瞬間に目を見開いて活目していた。

 だが、その驚愕の瞬間は訪れなかった。

 

「な、なにぃ!?」

 

 決着をつけようとしたナルトの視界からサスケの姿が消え去っていた。

 本体だけではない。無数の影分身全ての視界から消えたのだ。そんな事が有り得るのか? ナルトは動揺しつつも四方を見渡してサスケを探す。

 そして見つけた。何時の間にかサスケは数十メートルも離れた場所に移動していたのだ。

 どうやってあの一瞬でそこまで移動したのかはナルトには分からない。だが見つけたからには本体含む全てのナルトがサスケへの追撃に移行した。

 

「ふぅ……ナルト。お前は強い……強くなった。だが……まだオレが強い!」

 

 脳震盪を回復させるには十分な時間を得たサスケは、大きく息を吐き切り札を使用した。

 それは先程ナルトの攻撃を回避した時と同じ術。あまりのチャクラ消費量の為にまだ短時間しか発動出来ないサスケのとっておき。

 雷遁チャクラによる高速モードである。

 

「はぁ!」

 

 全身に雷遁の衣を纏ったサスケは雷を利用して電気信号の伝達速度を加速させる。これにより目にも止まらぬ高速戦闘を可能としたのだ。これが先程ナルトがサスケを見失った理由だった。

 サスケは瞬きも許さぬ間に次々とナルトの影分身を消し去って行く。その高速攻撃に対応出来る反射神経を今のナルトはまだ身に付けてはいなかった。つまり、抵抗する事すら不可能という事だ。

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

 ナルトが訳も分からぬままに影分身は全て消滅する。そしてどうにか応戦しようとしてチャクラを練ろうとするが、その暇も与えられずにあっという間に倒されてしまった。

 

「それまで! 勝者うちはサスケ!」

 

 倒れたナルトに馬乗りになり拳をすん止めしているサスケ。そしてそれを見た自来也が決着の言葉を放った。

 

「く、くそぉ……!」

「はぁ! はぁ!」

 

 悔しがるナルトに息を荒げるサスケ。勝者はサスケだが消耗が激しいのもサスケだった。

 今のサスケのチャクラではやはり雷遁の衣を発動し続けるのは厳しい物があるのだ。

 対してナルトはまだまだスタミナが残っていた。ナルトのチャクラ量はサスケを凌駕しており、実に数倍の差がある。その上九尾のチャクラを引き出せれば百倍を超えるチャクラを有する事になるのだ。ことチャクラ量でナルトに勝る忍は極僅かと言えよう。

 

 だが勝負はチャクラ量だけで決まるものではない。少ないチャクラも要は使い方次第だ。

 今のナルトはまだ大量のチャクラを持て余しているに過ぎなかった。

 

「では互いに和解の印をせい」

 

 組手が終われば和解の印を組む。ここまでが忍組手の流れだ。

 最初に二人が闘った時はいがみ合って素直になれずに拒みあっていたので和解の印は成立しなかった。

 負けた事が悔しくて才能溢れるサスケに認められていなかった事が悔しくて、ナルトから拒んだ結果である。

 だが――

 

「はぁ、はぁ……。ナルト……オレはもっと、もっと強くなる」

「ッ!」

 

 今でも十分に強いとナルトは思っていた。だがそれでサスケは満足していなかった。

 サスケの目標は優秀で尊敬する兄であり、そして身近にアカネという手が届かない位置にいる存在を知っているのに満足など出来るわけがなかったのだ。

 そんな遠い目標を持っているサスケの瞳を見ているとナルトはまた置いて行かれる様な錯覚を覚えた。しかし、次のサスケの一言でその錯覚は消え去った。

 

「だからお前も追いかけてこい。さっさと来ないとオレはどんどん先に行くぞ」

「……!! へんっ! オレってばお前よりも絶対強くなってやる! 追いつくんじゃなくて追い抜いてやるから覚悟しとけよ!」

 

 サスケはナルトを自分のライバルと認めたのだ。先程の勝負はアカネに修行を付けて貰ったからこその僅差だった。雷遁による高速戦闘がなければどうなっていたかは分からない。それはサスケも自覚していた。

 そしてそんなサスケの思いはナルトに伝わっていた。一番認めて欲しい存在から認められたのだ。嬉しくない訳が無かった。

 ここで二人は初めて和解の印を結んだ。互いに仲間と認め友と認め好敵手として認め合ったのだ。二人の実力が加速度的に飛躍していくのはこれからであった。

 

 

 

「サスケ君もナルトもすごい……」

「本当にね。全く、こりゃうかうかしてたらあっという間に追い抜かれるな」

 

 多重影分身を使った戦術と膨大なチャクラ量を披露したナルトに、覚えたばかりの雷遁を巧みに操り圧倒的な力を見せたサスケ。

 どちらも一ヶ月前には想像出来なかった姿だ。同じ班としてサクラは二人を尊敬し、そして自分の情けなさに肩を落としていた。

 そんなサクラに綱手が声を掛けた。

 

「置いていかれるままでいいのか?」

「ッ!?」

 

 それはサクラの核心を突く言葉だった。先程の二人の忍組手の最中にも感じたその思い。成長し続ける二人に置いていかれたくないという思い。

 このままでいい訳がない。自分だって二人と同じ第七班の一員なのだ。来るべき時に向けて強くなり、二人を守ると誓ったのだ。

 

「いえ、私は二人の後ろにいたくない! 必ず横に並んでみせます!」

「そうか。ならばお前を私の正式な弟子とする! 修行は厳しいぞ?」

「はい!」

 

 サクラも決意を新たにして綱手の弟子となった。これからあの二人に追いつくために必死の修行をするだろう。

 それを見ていたアカネもふとした事を思い付いた。

 

「ふむ。どうせなら私も第七班それぞれに教えましょうか」

「ん? どういうことだばあ……アカネ?」

「サスケばかりに教えるのも何ですから。私の持つ技術をナルトとサクラさんにも授けようかと思いまして。それぞれに合った技術を提供出来そうですし」

「ふむ……。それなら三人一緒に修行をするという事か?」

「いえ、基礎修行ならともかくここから先はそれぞれの方向性に合わせた修行に特化します。三人一緒に修行してもあまり意味はないでしょう。なので、自来也にナルト、カカシ及びうちは一族にサスケ、五代目にサクラさんの修行を付けてもらい、私は空いた時間にそれぞれを見ようかと」

「なるほど……」

 

 アカネがサスケ一人に集中するよりも、これまで培ってきた経験と技術を全員が恩恵に与れるようにした方が全体の戦力向上に繋がるだろう。

 普段は別個に分かれて個人に合わせた特化修行を行い、たまに三人揃って連携や基礎修行を行う様にすればより効果的な修行になる。そう判断した綱手はアカネの意見を取り入れた。

 

「いいだろう。うちは一族には私から伝えておく」

「お願いします綱手様」

 

 そんな二人の会話を聞いていたサクラはナルトとサスケへと近付いて二人に疑問をぶつけてみた。

 

「ねぇ、あのアカネっていう人何者なの? 何で五代目火影の綱手様と普通に話しているの?」

「オレもわからねーってばよ。少しだけ一緒に修行した事あんだけど、すげー強いって事しか知らねーってばよ」

「オレもだ。あいつのおかげで強くなれたんだが、あいつが何者なのかはさっぱりだ。父さんやオビトさん……一族の一部は知っているみたいだが」

 

 謎の女アカネ。そのベールが暴かれる時は果たして来るのだろうか。

 

「なあなあ綱手の婆ちゃん! アカネって一体何者なんだってばよ!?」

((良くやったナルト!))

 

 気になっても聞くに聞けなかった事をあっさりと聞いたナルトをサスケとサクラは内心で褒め称えた。

 どうにもアカネには重要な秘密がある様なので明確に聞く事が憚られていたのだ。それを一切気にせずに質問した馬鹿なナルトを今日ばかりは褒めていた。

 

「うむ。気になるのは分かるだろうがこれは里の重要機密に関わる。よって教える事は出来んし、以後の質問も禁ずる。もちろんこの話を広める様な事もするなよ。特にナルト」

 

 口が軽そうなナルトにアカネの正体など教えればあっという間に里全体に広まり、そして他里にも広まるだろう。そうなった時の厄介さなど考えたくないものだ。

 

「えー! いいじゃん婆ちゃんのけちーっ!」

「何と言おうと駄目なものは駄目だ!」

 

 食い下がるナルトだが綱手が了承するはずもなく、仕方なく引き下がった。

 だが諦めていない事は誰の目にも明白であり、恐らくアカネと二人きりになればその時に本人に確認する事だろう。まあアカネも教えるつもりはなかったが。

 そこでアカネはふと面白い案を思い付いた。

 

「そうですね。私に勝てたら教えてあげてもいいですよナルト」

「本当かアカネ! ようし、その約束忘れんじゃねーぞ!!」

 

 教える気はないなこりゃ。それが大人組全員の感想だったのは言うまでもなかった。

 

 なお、ナルトとサスケのチャクラが二重になって見える現象に関しては何も分からなかった様である。

 

 

 

 

 

 

 暁。それはS級犯罪者としてビンゴブックに名を連ねている凶悪犯罪者集団の集い。

 その活動は多岐に渡り、忍の争いに傭兵として雇われたり、闇相場で賞金を懸けられている凄腕の忍を狩ったり、世界中に散らばる禁術を集めたりなどだ。

 だがそのどれも本当の目的ではなかった。あくまで組織を運営する金や力を目的とした活動なだけで、真の目的は他にあった。

 その目的の為の手段が尾獣狩りである。

 

 暁はある目的の為に九体いる尾獣の全てを手にするつもりなのだ。その為に世界各地から仲間たり得る力と思想を持つ忍を集め活動していた。

 もっとも、真の目的など関係なくただ己の欲望を満たす為に動く者が殆どだったが。暁という組織が自分の欲を満たすのに適しているから属しているだけの者は多かった。

 

 だが暁はここしばらく活動を控えていた。それには二つの理由があった。

 一つは尾獣を人柱力から引き剥がし外道魔像と呼ばれる存在に封印する為の準備期間だ。これらの術と必要な道具を集めるのにかなりの時間が掛かるのだ。

 そして二つ目の理由。それは……日向ヒヨリの存在であった。

 

 

 

「どうして今更活動を抑えろって言うんだよ、なあリーダーさんよぉ」

 

 岩肌に囲まれた薄暗い洞窟の中に複数の気配が漂う。外道魔像と呼ばれる巨大な像の指の上にそれぞれ一人ずつ人間が立っていたのだ。

 だが実際にその場に人はいない。これは術によって遠方にいる人間の意識をこの場に具現し会話しているのだ。

 この場に集まっているのは暁の面々。そして会話の内容は今後の活動方針に関してだった。

 それは三年間に渡って活動を抑えるという、過激派とも言えるメンバーにとっては納得のいかない方針だったのだ。

 その理由を問いかけているのは飛段という男だ。過激派の中でも特に人を殺す事が大好きでジャシンという神を崇めるジャシン教の狂信者だ。

 

「我々の目的は尾獣だ。だが尾獣を封印する為の準備に後三年はかかる」

 

 表だった理由を暁のリーダーであるペインが語るが、それで納得する者はこの場に一人もいなかった。

 

「それならば尾獣狩り以外の仕事をする事に問題はないだろう」

 

 そう言ったのは角都。飛段と二人一組(ツーマンセル)を組んでいる男だ。

 暁は基本的に二人一組(ツーマンセル)で行動するようになっている。そして飛段と組んでいるだけにこの男もかなりの危険人物であった。

 人殺しを好むというより、金のみを信じているので金の為に人を殺すのだ。だが、普段は冷静沈着だがトラブルが起こると激昂し仲間であっても殺してしまうというとんでもない癖もある。

 この恐ろしい二人が組んでいるのには訳があるが、今はそれは置いておこう。

 角都に図星を突かれたペインは活動を抑える本当の理由を話した。

 

「……木ノ葉の日向ヒヨリが生きている。それも若い肉体を得てな」

『!?』

「あ? 誰だそれ?」

 

 暁の殆どがペインの言葉に驚愕する。飛段だけはヒヨリの存在を知らなかったようだが。

 

「馬鹿な……日向ヒヨリは十五年も前に死んだはずだ。それが生きて、しかも若い肉体を得ているだと?」

 

 この事実を一番信じられなかったのが角都だ。角都は他人の心臓を奪い取り自分の物とする事で今も生き延びている老忍だ。

 その年齢は実に八十八歳。あの初代火影千手柱間との戦闘経験を持つという現存する忍の最高齢だった。

 だからこそ日向ヒヨリの存在を良く知っていた。だからこそ死んだはずのヒヨリが生きている事にもっとも驚愕したのだ。

 

「それが本当だとしたらこの上なく厄介ですねぇ」

 

 獰猛な鮫を思わせる見た目とは裏腹に丁寧な物言いをする男の名は鬼鮫。

 水遁を得意とする忍であり、そして鮫肌という特殊な大刀を駆使する。チャクラ量も尾獣並であり尾のない尾獣とまで呼ばれている強者だ。

 

「オレと同じ傀儡か? それともお前と同じ術か大蛇丸?」 

 

 そう聞いたのはサソリと呼ばれる男だ。サソリは己の身を傀儡(くぐつ)と呼ばれる人形に改造した生きた傀儡人形だ。

 人形ゆえに老いる事はなく、その姿は若かりし頃と全く変わってはいない。それならば日向ヒヨリが生きているのにも頷けるという物だ。

 

「……」

 

 そしてもう一つの理由として問われた大蛇丸は日向ヒヨリが生きているという事実をペインが知っている事に内心動揺していた。

 この事実は今はまだ暁には教えずに機を見て暁を翻弄する為に利用しようとしていたのだ。それがどうしてペインにばれていたというのか。

 

「おい大蛇丸。どうなんだ? 返事をしろ」

「さあ……私にも分からないわ」

「理由はどうでもいい。問題は日向ヒヨリが生きているという事だ。そして、ヒヨリは我々の活動を調べているという報告がある。そうだなゼツ」

 

 ペインが問うたゼツという男は暁の情報収集担当の男だ。地面や木に同化するという特異な能力を駆使して世界を巡り情報を集めているのだ。

 

「うん。二代目三忍の自来也と一緒に暁について調べていたよ。隠れていたボクの分身も見つかって一瞬で捕らえられた。あれ、相当強いと思うよ」

 

 と言ってもゼツの戦闘力は暁でも最低、いや世界的に見てもけして高いとは言えないだろう。

 それでも情報収集には非常に役に立つ能力を有しているからこそ暁の一員なのだ。

 

「その日向ヒヨリっていうのはどんな見た目だ、うん」

 

 独特の語尾で話す男の名はデイダラ。起爆粘土と言うチャクラを混ぜた爆発する粘土を使用する術を持ち、大蛇丸の木ノ葉崩しの手助けをした忍だ。

 

「日向の若い女だよ」

「それだけじゃわからねーよ。だが、多分あいつだな、うん。オレの芸術をあんな不完全な形にしたクソ女だ」

 

 デイダラが木ノ葉崩しにて里に落とした起爆粘土はアカネによって防がれてしまった。

 その時の動揺で出来た虚を突かれて手傷を負ってデイダラは撤退したという苦い記憶がある。

 

「お前のC2を防いだのか?」

「……C3だ」

「なに……!」

 

 C2・C3とはデイダラの起爆粘土の種類を表している。そしてC3は起爆粘土の中で最も爆発力が強いデイダラの十八番で、その威力は一つの里を飲み込む程もある。

 それを防いだという日向ヒヨリの実力の高さは最早疑いようがないだろう。

 

「分かったな。それが日向ヒヨリだ。伝説の存在を舐めてかかれば手痛いしっぺ返しでは済まない。本格的な活動は準備の整った三年後、それまでは情報を集めて地下に潜む。そして……準備が整い次第に九尾以外の尾獣を一気に集める。日向ヒヨリにばれる前にな」

「ちっ! 気にくわねーな。いくら強いからってたった一人の人間に怯えてこそこそするなんてよぉ。大体オレが暁に入ったのはジャシン教の教義を満足するまで満たす事が出来るからだぜ。それなのにこれじゃあ本末転倒もいいところだ」

 

 ジャシン教の「汝、隣人を殺戮せよ」という狂った教義を全うする為に飛段は暁に入ったのだ。

 ただ単に暴れるがままに暴れていてはいずれ大きな里から目を付けられて自由に動く事が出来なくなる。それを防ぐ為の暁入りだったのだ。

 それが意味をなさないならば暁を抜ける事もある。暗にそう含ませて飛段はペインに問う。

 

「……各々の趣味を制限するつもりはない。だがけして目立つ様には動くな。五大国には近付かず、小国や小さな隠れ里、一族のみで生きる忍のみを狙え。それらの情報はゼツから受け取れ」

「そうこなくちゃな」

 

 一先ずは満足の行く答えが貰えたようだ。他にもメンバーに不満は大小あるが、それでもペインの言う方針を破るつもりはないようだ。

 

「それではこれで一度解散する。三年まてば……その時は思う存分暴れさせてやる」

 

 ペインの言葉を最後にそれぞれが術から解放されて意識を元の肉体に戻していく。

 だが大蛇丸とペイン、そしてもう一人だけはその場に残っていた。術の使用者であるペインがその二人を解放しなかったのだ。

 

「……? まだ何か用かしら?」

「……お前の知っている情報を全て話してもらうぞ大蛇丸」

「何の事?」

 

 平静を装っているが大蛇丸の内心は動揺に塗れている。ペインは大蛇丸をして謎の多い存在。そんな人物に今のチャクラをまともに練れない自分が逆らった所で勝ち目などある訳がない。

 だがペインではなく、もう一人残った仮面を付けた様に見える男が大蛇丸の予想外の言葉を口にした。

 

「貴様が日向ヒヨリと交戦したのは分かっている。その情報を隠さず話せば、お前を蝕むチャクラの縛りを解いてやろう」

「!?」

 

 大蛇丸の知る限り仮面の男はこれまで殆ど会話らしい会話をした事がなかった。

 それがこんなにも長く話す。日向ヒヨリにかなりの関心を示しているのは明白だった。

 何故そこまでの関心を示すのかは大蛇丸にも分からないが、男の言う事は大蛇丸には願ったり叶ったりではある。

 既にこの身を蝕むチャクラの縛りを解く手立ては立っている。ならばこの取引を利用して別の利を得た方がマシという物だ。

 

「……必要ないわ。どうにかする目処は立ったから……。それよりも、あなたが九尾の封印を解除した時の事を詳しく聞きたいわぁ。興味があるのよね、うずまき一族の封印術にも……」

「……」

 

 仮面の男は無言だが、大蛇丸の情報網の広さと勘の良さには内心称賛していた。良くもまあそこに気付いたものだと。

 ある程度の憶測はあるのだろうが、もしかしたら自分の正体にも気付きかけているかもしれない。

 だがそれならそれで別に構わなかった。大蛇丸は使えるコマであるし、裏切ったところで処分するのも容易く放置した所で支障はない。仮面の男にとって大蛇丸はその程度の価値だった。

 そして九尾襲撃時の出来事を話す事にも何も問題はない。それよりも日向ヒヨリに関する情報を少しでも多く集める方が先決と言えた。

 

「いいだろう。奴に関する情報は少しでもあった方がいい。奴と直接戦ったお前に聞くのが一番だ」

「そう。じゃあ話しましょう」

 

 そうして己の知る全てを大蛇丸は語る。

 大蛇丸が全てを語り終えた後、この場に残っているのは誰もいなかった。

 

 

 

 とある場所にて仮面の男は空を見て呟いた。

 

「生きていた、いや転生したのか……」

 

 あの時、三尾をけしかけて確実に殺したはずの女。それが転生して新たな肉体を得て生きている。

 流石にこれはイレギュラーだった。面倒な日向ヒヨリを確実に殺す為に戦場を操り波状攻撃を仕掛け弱ったところに三尾を投入したのだ。

 だというのにこれでは意味がないどころか若返ったのでむしろ面倒事が大きくなったくらいだ。

 

「まあ、いい。どうせその気になればすぐにでも……」

 

 そう呟く男の声はこの世に全くの興味を持ってない、そんな意思が籠められたかの様な声だった。

 

「所詮ただの余興だ。この世界は等しく存在する価値がない。ならばせめてこのくらいの余興は楽しませてもらわねばな」

 

 そうして男は姿を消した。この世にある全てはただの余興と断じて。この世の全てに価値はないと断じて。

 

 






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