どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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NARUTO 第十五話

 アカネがカカシ率いる第七班それぞれに修行を付ける様になって一ヶ月が経った。

 影分身を利用する事で三人同時に別々に修行を付ける事が出来るので、改めて影分身の利便性を再確認するアカネ。

 加えて影分身を解除すると本体に経験が戻ってくるので自分の修行にもなるという優れ物だ。この術を開発した二代目火影である扉間は表彰物だとアカネは思っている。もっとも、穢土転生を開発したせいでプラマイゼロ、いやマイナスかもしれないが。

 

「しゅ~ぎょう~しゅ~ぎょう~、た~っぷ~り~しゅぎょう~」

 

 等と良く分からない歌を口ずさみながらアカネはご機嫌で歩いていた。

 若者の成長の早さは素晴らしい、とナルト達の成長を思い出して悦に浸っているようだ。

 前から修行を付けていたサスケはともかく、ナルトは何と自来也と綱手を探しに行った十日程で螺旋丸を覚えていたのだ。これにはアカネも驚いていた。

 

 ナルトは器用なタイプではない。発動に必要な印が不要な螺旋丸はナルト向けだが、その程度の日数で覚えられるとは思ってもいなかったのだ。

 螺旋丸を考案したナルトの父であるミナトは螺旋丸の完成に三年の年月が掛かっている。完成形を教えられたナルトがミナトよりも早く覚える事が出来るのは道理だが、それでも一から覚えたならば十日というのは素晴らしい速度だと言えよう。

 螺旋丸を使うナルトを見るとアカネはミナトを思いだす。やはり親子だと実感するのだ。血は争えないと言う事だろう。

 今はまだ九尾のチャクラはもちろん、自分の膨大なチャクラも持て余しているが、下地が出来上がりそれらを上手く操れる様になれば飛躍的に成長するだろう。

 

 サクラは医療忍術を習い始めたばかりなのでまだ表立った成果は出ていない。だがチャクラコントロールには目を見張る物があるのも確かだった。

 医療忍術は会得難度が高く、一人前になるには長い年月を修行に費やす必要があるが、サクラならばあと少しである程度の医療忍術を覚える事が出来そうだった。

 綱手と共に一通りの医療忍術を叩き込んだら、その後はチャクラコントロールを利用した攻撃方法と、医療忍者に必要な戦闘技術を教え込むつもりだ。その際はこの世界にはいないあの武術の後継者になるかもしれない。

 上手く育てば綱手の後を継ぐ医療忍者に至れるだろう。将来を思うと楽しみになるアカネだった。

 

 サスケに関しては言うまでもない。まさに彼は天才だった。

 うちは一族に当てられたその言葉だが、サスケはその中でも飛び抜けた才を持つ一人だろう。

 アカネの教えを水を吸い取る砂の様に吸収して行く様は見事の一言だった。目下の弱点はチャクラ不足だが、それを克服した時サスケに勝てる忍は数える程になるだろう。

 

 そしてナルトとサスケの関係が上手い具合に作用していた。

 互いに相手をライバルと認識しており、相手に負けてなるものかと修行する事で成長を更に後押ししているのだ。

 そしてそんな二人を意識する事でサクラも二人に付いて行こうと必死に努力する。素晴らしい関係だった。

 

 ナルトがサスケに勝つ→サスケが更に修行する→サクラが二人に追い付こうと努力する→サスケがナルトに勝つ→ナルトが更に修行する→サクラが追い付こうと努力する→ナルトがサスケに勝つ→以下エンドレス。

 これがアカネの思い描く最終段階である。この修行の無限螺旋に至れば三人の実力は否応無く上がっていくだろう。そう思うと歌も歌いたくなるというものだ。

 

「うーん、今日もいい修行日和だ」

 

 空からは燦燦と太陽の光が降り注いでいる。まるでナルト達の成長を祝福しているようだ。……当のナルト達は今日も地獄が始まると朝からどんよりしていたが。

 そんな風にアカネが機嫌良く歩いていると、ふと見知った人達を見掛けた。アカネの正体を知る数少ない者達、うちはイタチとうちはシスイである。

 二人は日向一族に用があるのか、日向の敷地に向かって歩いていた。つまり日向の敷地から出て行こうとしていたアカネとは自然とすれ違う事になる。

 

「おはようございますシスイさん、イタチさん」

「おはようアカネちゃん」

「おはよう」

 

 アカネもシスイ達もどちら肩書き通りの立場で会話をする。つまりアカネは下忍であり、イタチは上忍、シスイは火影の右腕としての立場だ。前以って決めてあった通りの対応である。

 

「本日は日向にどの様なご用件でしょうか?」

「ああ、サスケ君から修行の時間を聞いていたがどうやらいいタイミングだったようだね」

 

 アカネはシスイのその言葉からどうやら二人は自分に用があるのだと理解する。

 

「……なるほど。誰も居ない場所の方が都合が良いでしょうか?」

「出来ればね」

「……」

 

 アカネの質問に対し、シスイはイタチを見つつ答えた。当のイタチはどこか不満そうだ。あまり表情を変化させてはいないがアカネにはそう読み取れた。

 用件とはどうやらイタチに関する事のようだ。そう思ったアカネはイタチを少しだけ観察する。そして長き年月によって鍛えられた観察力により、イタチの体にどこか違和感があると感じ取った。

 

「……付いて来てください」

 

 アカネは二人を連れて人気のない場所へと移動する。宗家の屋敷も考えたが、出来るだけ広めたくない話ならば止めた方がいいだろうと思い直したのだ。

 宗家の屋敷ならばヒアシの耳に入るのは確実だ。人払いをするにも表立った立場が低いアカネではヒアシに頼まねば出来ないのだから致し方ないだろう。

 そうして到着した林の中で周囲に他者の気配が無い事を確認し、アカネは二人の用件を聞く前に白眼を発動してイタチの体を詳しく調べた。

 

「……これは」

「流石はアカネ様。イタチの状態を察して白眼にて早くも確認するとは。……どうでしょうか?」

 

 シスイは誰も居ない場所なので口調をヒヨリに対する物へと改める。

 シスイの言葉の意味。それはイタチの容態は大丈夫なのでしょうかという確認の言葉だ。

 それはつまり、イタチの体が病に蝕まれているという事だった。

 

 事の発端は数ヶ月前にイタチが任務を終えて里へと帰還した時だ。

 うちは一族は警務部隊を担当しているが、だからと言って通常の任務を受けられない訳ではない。警務部隊が休日の時や、人が足りている時には里の任務を受ける一族も少ないがいるにはいた。イタチもその一人だ。

 そして久しぶりの長期任務を終えて帰って来たイタチをたまたまシスイが発見した。良く知った仲であり兄弟のいないシスイはイタチを弟の様に思っており、当然気軽にイタチへと声を掛けた。

 いや、掛けようとした。掛けようとしたが、イタチがふらりと道から外れて人気の無い小道に入っていくのを見て声を掛けるのを止めたのだ。

 

 悪戯心が湧いたシスイは少し驚かせてやろうと思いイタチをこっそりと尾行した。そしてそこで咳き込み膝を突くイタチを見てしまったのだ。

 心配して駆け寄ったシスイにイタチは驚きつつも、少し咳き込んだだけだと説明した。その時はシスイもそれで引き下がった。だがそれからシスイはイタチを注意深く観察する様にしたのだ。

 そうして観察している内に、シスイはイタチの体に何らかの異変があると判断した。イタチの動きが若干、本当に若干だが鈍いのだ。それは注意深く観察したシスイだからこそ気付ける程僅かな違いだ。

 しばらくは黙って見ていたシスイだったが、木ノ葉崩しにて自分を犠牲にしようとするイタチを見て我慢も限界が来たのだ。

 そうして医療忍術の第一人者であったヒヨリの転生体であるアカネへと相談に来たわけだ。

 

「……どうでしょうか?」

 

 再びシスイはアカネに確認する。イタチの病気は何なのか? 命に別状はないのか? 治療は可能なのか? それら全てを籠めた言葉だ。

 

「……全く。イタチ、あなた初期症状は自覚していたんでしょう? 私がヒヨリと分かった時点で何故相談しなかったのですか」

 

 アカネの叱る様な口調に、まるで子どもに戻った様だと自嘲しつつイタチは答える。

 

「申し訳ありません……。自分の体の事は良く知っているつもりです。なので、これが不治の病であると知りとうに諦めていました」

「イタチ……! アカネ様! 本当にイタチは不治の病なのですか!?」

「いえ? 治せますけど?」

『……え?』

 

 助かる事のない命と思っていたイタチも、イタチの言葉に嘘がないと理解出来たシスイも、アカネの一言に呆気に取られていた。

 

「いえ、いい自己判断ですよ。良く初期症状の段階でそこまで見抜いていましたね。並の医療忍者ではこの病を手術で治療する事は出来ても治療箇所の発見は困難でしたでしょうから、その判断も間違った物ではありません。発見出来るようになる頃には手遅れだったでしょうしね」

「並の……では!」

「はい。私か綱なら手術と医療忍術を駆使する事で治療可能な病気です」

 

 アカネの言葉にシスイは喜色満面の表情を見せる。イタチも普段の冷静な面を捨てて素直に驚愕を顕わにしていた。

 

「アカネ様! どうかイタチをよろしくお願いします!」

 

 アカネにイタチの治療が可能と知り、シスイは土下座する勢いで頭を下げた。

 

「止めてくれシスイ。オレの為にお前がそこまでする事はない」

「……お前は任務で大切な人を亡くしてしまった。その上この仕打ちはないだろう! お前にだって幸せになる権利はあるんだ!」

 

 イタチはかつて任務にて恋人を失ってしまった。それはこの忍の世界では良くある話だが、だからと言って悲しくないわけがない。イタチはその悲しみによって万華鏡写輪眼を開眼したのだ。

 そしてシスイはイタチに対して心苦しく思っていた。イタチは恋人が死んだというのに、自分は恋人を作り幸せな日々を送っているのだ。

 いや、イタチに幸せになる権利があるようにシスイにもまた幸せになる権利がある。シスイもまた大切な人を喪い万華鏡に開眼した者だ。イタチを気に掛ける事はともかく申し訳なく思う必要まではないだろう。

 だがシスイにとってイタチとは友であり好敵手であり、そして弟の様に信頼を置いている唯一無二の存在なのだ。そのイタチがこのまま病に倒れて死ぬなどシスイには耐えられなかった。

 

「ああ、分かっている。ありがとうシスイ。……お願いしますアカネ様。どうか、オレの体を治療してはもらえないでしょうか」

 

 シスイの想いを受け止めたイタチはアカネに対して深く頭を下げて治療を懇願する。

 幸せになれるかは分からないが、己の命を軽んじる事は止めようと思ったのだ。自分を想ってくれる人が自分が死んだ時にどう想うか、シスイを見てそう考えるととても安易に死を選べなくなったのだ。

 

「……どうやら説教の必要はないようですね」

 

 イタチが自分の死を軽んじていた事を察していたアカネは少しだけ説教をするつもりだったのだが、イタチが考えを改めたのを知りその必要がないと理解した。

 

「二人とも頭を上げなさい。そこまで頼みこまなくてもちゃんと治療はしますよ」

「本当ですか!」

「ありがとうございますアカネ様」

「手術は細かな検査をして綱と話し合ってからですね。しばらくは治療に掛かりきりになりますから当然任務は受けないでくださいよ。警務の仕事も休みなさい。あと、ちゃんと家族には話すんですよ?」

「……はい」

 

 取り敢えずこの場で話す事は終わったので三人は一度ここで別れた。

 アカネは綱手にイタチに関する事情を話しに行き、イタチとシスイはフガクの下へと事情の説明と任務の長期休暇を取りに行く。

 

 イタチの手術が行われたのはそれから一週間後。肺の三分の一を切り取り、それを再生忍術で元の健康な肺に戻すという手術だった。

 再生忍術が無くても手術は成功していただろうが、イタチは肺の機能が著しく落ちていただろう。手術すらしなかった場合はもちろん死が待っていた。

 

 術後しばらくしてイタチは退院。完全に元の健康体に戻っており、かつての技の冴えを取り戻したイタチは今も里の警務と任務とに張り切っているが、家族からの要望もありその仕事量は以前よりも落としているようだった。

 

 

 

 

 

 

 第七班の修行が始まってから既に一年という年月が経った。

 

 今アカネ――影分身だが――の目の前では三人の男性が疲れ果てて息を切らせていた。

 

「カカシ、またへばったんですか? これで今日の修行中六回目のダウンですよ? オビトは三回、ガイに至っては一度もダウンしてませんよ?」

「もうしわけ……ありません……」

 

 三人とはカカシ・オビト・ガイの木ノ葉の有名な忍達であった。

 何故彼らがアカネの下で修行しているのか? それは少し前にあった第七班vsカカシの勝負が原因である。

 一年間で第七班がどれだけ強くなったか。それを確認する為に第七班の担当上忍であったカカシがナルト達三人と勝負したのだ。

 その内容は鈴取り勝負。カカシが腰につけた鈴を奪うという、第七班の思い出深い勝負である。と言うのもこの勝負はかつて第七班がカカシから与えられた下忍になる最終試験でもあったのだ。

 結果は合格だったが、鈴を奪えた訳ではなかった。カカシがこの三人に忍として、人として必要なモノを持っていると判断したからこその合格である。

 なのでナルト達は今度こそ鈴を取ってやると息巻いて勝負を開始した。

 

 ……結果はカカシの負けであった。鈴を取られただけではない。ナルト達が鈴を奪うのに必要とした時間は僅か二分程度だったので、アカネが勝負を鈴取りから本気の勝負へと変更したのだ。

 もう分かるだろう。カカシは三人と本気で勝負して負けたのだ。ナルトは多重影分身から螺旋丸を加えた体術による連撃を、サスケは大幅に伸びたチャクラ量を利用した雷遁チャクラモードに火遁を巧みに利用した戦術を、サクラは二人をサポートしつつ綱手直伝の怪力にアカネ直伝の合気柔術という武術を、それぞれが修行で身に付けた力をこれでもかとぶつけてきたのだ。流石のカカシも押し負けてしまった。

 いくら自来也に綱手、そしてアカネが鍛えているとはいえたった三人の下忍に、それも教え子に負けたカカシはショックでしばらく落ち込んでいた程だ。

 

 落ち込んでいたカカシだがこのままでは担当上忍の沽券に関わる。そう思い至ったカカシは名案を思い付いた。

 あの三人がアカネに修行を付けてもらい強くなったのなら自分もそうすればいいじゃない、と。

 二日後には後悔していた。なのでオビトとガイを誘い地獄の道連れを作り出したのである。自分だけでないならきっと耐えられると思ったのだ。

 オビトもガイもカカシの申し出を快く受けた。オビトは火影になる為に、ガイは二人に負けない為に、どちらもカカシの申し出は願ったり叶ったりだったのである。

 その二日後にはオビトも後悔していたが。なおガイは一切後悔していない模様。流石は努力の達人である。これにはアカネもにっこりだ。

 

「あなたはチャクラ量が他の上忍と比べて少ないわけではありません。ですが、写輪眼はうちは一族ではないあなたの体には合っていない代物です。便利だからと無闇に多用すればすぐにチャクラ切れを起こします」

 

 それはカカシも理解しているカカシのみの写輪眼の欠点だ。理解しているからこそカカシは普段は写輪眼を布で覆って塞いでいるのだ。

 だがそれでも厳しい戦闘では写輪眼を使用せざるを得ないのだ。それほど写輪眼とは便利な代物だった。

 写輪眼が無ければカカシは自身の切り札である雷切――カカシの千鳥の呼称――をまともに運用出来なくなってしまうだろう。

 それはカカシに決定打とも言える術が無くなる事を意味する。更に写輪眼は相手の術を見切りコピーして自らの物としてしまう能力もある。

 これらが封じられた時カカシの戦闘力は果たしてどれだけ落ちるのか。

 

「あなたの課題は三つです。写輪眼に頼らずとも使える決定力を得る事、写輪眼と同時に術を使用してもすぐにチャクラ切れを起こさないチャクラ量を手に入れる事、そして写輪眼に慣れる事です」

「写輪眼に、慣れる?」

 

 前者二つはカカシも想定していた自身の課題だ。だが最後の一つはどういう事かよく理解出来なかった。

 

「あなたは写輪眼を発動し続けるとすぐに体が参るので普段は写輪眼を使用していませんが、これからは普段から出来るだけ写輪眼を発動していなさい。そうすれば少しずつ体が写輪眼に合わせて慣れて行くでしょう」

「え? そうするとオレはすぐにへばって動けなくなっちゃうんですけど……?」

 

 かつての強敵ザブザとの戦いをカカシは思いだす。あの時も普段はあまり使用しない写輪眼を戦闘中ほぼずっと発動していたので戦闘後は一週間も寝込んでいたのだ。

 戦闘中ではないとはいえ、普段からずっと写輪眼を発動していてはその内に倒れてしまいまたも長い時間寝込む事になるだろう。

 そうすれば体はその間に衰え、修行しても意味がない物となってしまう。

 だが、そんな不安はアカネの前では無意味だった。

 

「大丈夫です。影分身の私があなたに付いてあなたが倒れたらすぐに治療します。チャクラも分けますからすぐに元通りです。これでいつでも何度でも写輪眼の修行が出来ますよ!」

「……よ、良かったなカカシ、アカネちゃんがずっと一緒だってよ」

「うおおお! 羨ましいぞカカシぃ!」

「お前ら……!」

 

 アカネの説明を聞いたオビトはカカシに同情の視線を送り、そしてガイは本気で羨ましそうな視線を送っていた。

 どちらも勘弁してくれというのがカカシの心情だったが。

 

 カカシの問題を指摘した次に、アカネはオビトへと視線を送った。

 

「オビトの課題は欠点が少ないものの、小さく纏まっている事ですね。カカシと違いこれだという決定打がありません。術も火遁・土遁・水遁と多彩で集団の敵に対しては強いですが強敵相手には決定打が無い為に苦戦を強いられるでしょう」

「う……」

 

 これもまたオビトも理解していた課題であった。対集団には効果的な術は多いが、一人の強敵相手は苦手なのである。

 そのいい例がガイであろう。ガイと勝負をしてもオビトは殆ど勝てた試しがない。

 大規模な術を使ってもガイならそれを避けるなり突き破るなりして向かってくるのだ。

 近接戦闘が苦手なわけではないが、それでも決定打がないオビトでは接近戦の達人であるガイ相手に近付かれてはどうしようもないのだ。

 

「あなたも基礎修行は当たり前として、近接主体の決定打を覚えてもらいましょうか。後は風遁を覚える事が出来ればいいですね。影分身は使えますか?」

「ああ、使えるけど?」

「それは重畳。風遁を覚えれば一人で火遁と風遁の合体忍術が使用出来ます。これだけで広範囲の決定打としては十分でしょう」

 

 忍術の属性には相性があり、風遁は火遁に弱い。何故なら火遁と風遁がぶつかり合うと風遁の風を受けた火遁が更に威力を増してしまうからだ。

 逆に言えば味方同士で火遁と風遁を同時に敵に向かって放てばそれは更なる威力の火遁となるのだ。その威力は火遁に強い水遁でも相殺出来なくなる程だ。

 

「というわけで、ナルトと違って土台が出来上がっているあなたは影分身を応用して修行してもらいましょうか。なに? チャクラ切れが起きるって? 安心して下さい。私がいますよ」

 

 アカネという尾獣すら超えたチャクラを持つ化け物が傍にいる限り、修行中のチャクラ切れは起こり得ない。

 つまり延々と修行が出来るという事である。素晴らしい天国の様な環境だ。……修行ジャンキーにとってはだが。

 

「オレは、絶対に火影になるんだ……」

 

 自分の夢を再確認する事でオビトは自身を奮い立たせた。きっと彼ならば立派な火影になってくれるだろう。修行を乗り越えられたらだが。

 

 次にアカネはガイへと視線を向ける。そこには期待に胸を躍らせているガイの姿があった。きっと自分にはどんな課題があるのか楽しみなのだろう。

 カカシとオビトを良く知り、二人の欠点と課題を聞いていたガイはそれらの課題を乗り越えた時に二人がどれほど強くなるか理解していた。

 なので自分もアカネの課題を乗り越えた時にどれだけ強くなれるか楽しみで仕方ないのだ。

 

「ガイは何と言うか、今のままで完成していますね」

「えー!? ちょっとアカネ! それはないんじゃないか!? こう、オレにもここが足りないとか、こうすれば良くなるとかあるだろ!?」

 

 ガイはリーを救ってくれた恩からアカネの事を様付けで呼んでいたが、アカネが懇願してどうにか止めてもらえた。

 いや、それが秘密を知る者だけがいる場ならいいんだが、常日頃からアカネが里の何処にいようとも出会えば敬ってくるのだ。秘密を守る気はないのかと問いたい。と言うか問うた。

 アカネやカカシ達が何度も説明してようやく通常の対応をするようになったのだ。まあ、それはいいとしよう。

 ガイは予想と違ったアカネの答えに困惑していた。弱点を克服した時に強くなれるという楽しみが潰された思いだ。

 

「完成してると言われて何で落ち込んでるんだお前は……」

「そうだ! 羨ましいじゃないか!」

 

 逆に憤慨しているのがカカシとオビトだ。自分達は大量の欠点を叩き付けられたというのに、ガイだけはそれがないのだから当然の話だ。

 

「オレだってもっと青春をしたいんだ!」

 

 事情を知らない者には訳の分からない事を口走っているが、どうやら欠点を克服する事に青春を見出している様だ。

 そんなガイにアカネは朗報――と言っていいのだろうか――を伝える。

 

「まあ落ち着いて下さい。完成されているのは通常のガイの事です。あなたの切り札である八門遁甲を使った時は別ですよ」

「え? と言うと?」

 

 欠点があると明確に言われたのに嬉しそうに反応するガイ。そんなガイを馬鹿を見る目で見つめるカカシとオビトであった。

 

「あなたは忍術や幻術を不得意としているのに、体術のみでカカシと互角以上にまで至った素晴らしい忍です。そして八門遁甲を発動すればあなたに勝てる忍は極僅かでしょう。……死門まで開ければまた話は変わるでしょうが」

 

 八門遁甲とは、経絡系上に頭部から順に体の各部にある八つの門――経絡系の弁、言うなればリミッター――を無理矢理外す事で通常では出せない潜在能力を発揮する禁術である。

 門にはそれぞれ開門・休門・生門・傷門・杜門・景門・驚門・死門と名付けられており、後半の門ほど開ける事が難しい。もちろん後半になるに連れ引き出される力も大きくなっていく。

 そして、それだけ強力な術だけに代償も大きい。それこそがこの術が禁術に指定された理由だ。

 術に慣れていない者なら一の門である開門を開けただけでも体は大きく傷つく。その上の門など説明するまでもないだろう。

 そしてどんなに八門遁甲に長けた術者であろうと、最後の死門を開いた者は僅かな時間だが五影すら上回る力を得る事と引き換えに、その命を失ってしまう。

 

「今のあなたはどこまで門を開けますか?」

「……七門までだ」

 

 第七の門・驚門。死門の一つ手前の門だけに、ここまで開いたガイに勝てる忍は本当に数少ない。五影でも怪しいと言えるだろう。

 だがその引き換えにガイの全身は骨までボロボロになるだろう。潜在能力を無理矢理引き出しているのだ。肉体が傷ついて当然だ。

 そして毎回それではその時は危機を退けられても後がない。強敵を倒したはいいが、全身が傷つき動けなくなった時に後から現れた雑魚に殺されては話にならない。

 

「死門は論外として、実質最高の七門までですか。ちょっと開放してもらえますか?」

「ん? ……いや、分かった。では行くぞぉ!」

 

 何故この場で八門遁甲を開放させるのか、その理由はガイには分からなかったが、今は師であるアカネの言葉に従いガイは驚門までを開放する。

 そしてガイの体から凄まじいチャクラが溢れだし、その身を碧い蒸気が覆う。驚門を開いた者は体から碧い汗をかく。それが己の熱気で蒸発して碧い蒸気となるのだ。

 

「ではあそこの木まで走って、ここまで戻って来てもらえますか」

「分かった! 行くぞぉ!!」

 

 叫ぶと同時、ガイは目にも止まらぬ速さで数百メートルの距離を移動し、そして瞬時に戻ってきた。写輪眼を発動していないカカシとオビトには見る事も叶わぬ速さである。

 

「良し! 戻って来たぞ!」

「お疲れ様。それでは八門を閉じていいですよ」

「うむ! え? ……ぐ、ぐわぁぁぁぁぁ!」

 

 アカネに言われ素直に八門を閉じたガイの全身に痛みが走る。

 驚門を開いた状態で全力で動けば、たったあれだけの時間でもこれほどの副作用が待っているのだ。

 

「とまあ、このように八門遁甲は強大な分その副作用もまた強大ですね。今のあなたが副作用無く運用出来るのは第五門か、良くて第六門が限界でしょう」

「お、仰る通りで、おおおおぁっ!」

 

 アカネはガイに治療を施しながら話を続ける。

 

「というわけで、今後のあなたの課題は第七門を副作用無く運用出来る様になる事です。基礎修行と驚門を開き続ける修行を只管繰り返す事になりますね。それとは別に体術の強化もしましょう。体術の先は極めた後にある! 限界を乗り越えて修行し続けて初めて辿り着ける境地があるのです!」

「限界を乗り越える……! う、うおおおお! 分かったぞアカネよ!! オレは限界を超えて更に体術を磨き上げていくぞ!」

「その意気や良し! あなたにも私の影分身を付けましょう! ともに体術の極みへと近付きましょう!」

 

 ああ、最悪の二人が意気投合したのかもしれない。カカシとオビトは同時にそう恐怖していた。

 そんな二人の思いを他所にアカネは影分身を利用した他の忍の強化なども考えていたりする。

 なお、多くの忍(主に男性)に影分身を付けて密着修行した事で、後の木ノ葉の里でアカネが複数の男性と付きあって弄ぶ悪女だという噂が立つのだが、今それを知る術はアカネにはなかった。

 

 


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