どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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NARUTO 第十七話

 ナルト達が暁に備え、暁が来たるべき未来に備え、それぞれが力を蓄える。そうして時は瞬く間に流れて行った。

 ナルト達が修行という任務を受けてから三年近い年月が経った。その年月でナルト達は強く、そして大きく育っていた。

 

 それを証明するかの様にナルトとサスケは闘いを繰り広げていた。

 三年前と同じ様に体術合戦をし、三年前とは桁違いな技術を披露する。

 ナルトの流れる様な連撃をサスケは捌き、サスケの反撃を紙一重で避ける事でナルトは逆に反撃の機会を作る。だがそれを読んでいたサスケは体を深く沈めてその反撃を躱し、体を沈めた反動を利用してナルトを蹴り上げた。

 

「ぐあっ!」

 

――火遁・豪火滅却!――

 

 空中に吹き飛んだナルトへの追撃としてサスケは火遁の術を放つ。それはかつてうちはマダラが集団の敵を相手にするのに多用していた高等火遁だ。今回単体のナルトに使用したのは影分身を警戒した為である。

 広範囲に広がっていく炎がナルトを襲う。まともに当たれば並の忍ならば骨も残らないだろう。だが、ナルトは並などではなかった。

 

 ナルトは空に吹き飛ばされながら、追撃への対処として既に影分身を作りだしていた。豪火滅却を放たれた後に影分身をしても間に合わない可能性があるため、蹴り上げられながら影分身の術を使用していたのだ。

 そして影分身は本体の前に現れ、両の手にそれぞれ大きな螺旋丸を作り出す。それを豪火滅却にぶつける事で後ろにいる本体へ炎が向かわない様にする。

 威力と範囲を兼ね備えた豪火滅却を一部分とは言え掻き消す事が出来るのも、同時に二つの螺旋丸を作り出す事が出来る様になったからである。

 かつては影分身を利用して初めて片手に螺旋丸を作る事が出来たのだが、今はその必要もないのだ。

 

 更にナルトは次々と影分身を作り出す。影分身が本体を投げたり蹴ったりする事で空を移動しているのだ。

 そうしてナルトは豪火滅却による炎の壁を上から乗り越えてサスケへと接近する。豪火滅却は巨大な炎の壁を作り出してしまうので、術者が対象を見失う欠点もあった。それを突いたナルトの戦術であった。

 

 だがそのような欠点など術者であるサスケには承知の上だ。常に気を張ってチャクラを感知していたサスケはナルトの位置を見失ってはいなかった。

 サスケは感知タイプと呼ばれる感知を得意とする忍ではないが、それでもこの距離ならばこの程度の感知は造作もなかった。

 

 ナルトとサスケは互いに睨み合い、そして計ったかの様にそれぞれが自身の代名詞となりつつある術を展開する。

 ナルトは螺旋丸を、サスケは千鳥を。両方とも一撃で相手を殺し得る威力を持つ術だ。それを相手に叩きつけようとして――

 

「はいストップ!」

 

 第三者の手によってそれを邪魔された。

 ナルトとサスケの術を発動している手首を掴んで合気にてそれぞれを吹き飛ばしたのだ。

 

「うわぁっ!?」

「くっ!?」

 

 ナルトは大地に、サスケは上空にそれぞれが吹き飛ばされる。大地に向かっていたナルトは更に急加速して大地に叩き付けられたのでかなり痛そうに呻いていた。

 空に吹き飛ばされたサスケは空中で姿勢を取り戻し、華麗に着地していたが。これは単に二人の力の方向がナルトが地に、サスケが天に向かっていたのでそれを合気にて利用しただけで、他意はない。そのはずだ。

 

「あ、頭がぁあああ!」

「なにしやがるサクラ!」

 

 ナルトは大地に叩き付けられた頭部の痛みに悶絶し、サスケは勝負を途中で遮るという邪魔を仕出かした第三者、サクラに詰問する。

 そう、合気にて二人を吹き飛ばしたのはアカネではなくサクラだったのだ。サクラは医療忍者として綱手の弟子になっていた。そして同時にアカネに合気柔術という護身術も習っていたのだ。

 医療忍者として類い稀なるスピードで成長したサクラは、まさに綱手の後継者と言える程になっていた。

 そして成長したのは医療忍術だけではない。そも、医療忍者は戦闘にて敵の攻撃を受けてはならないと教えられている。

 それは味方を癒す医療忍者がやられては意味がないという理由からだ。

 

 だからアカネは合気柔術をサクラに伝授したのだ。合気柔術は相手の力を利用する武術。その為には相手の力の流れや相手の意を読まなければならない。

 合気の理を三年間みっちりと叩きこまれたサクラは相手の意を読んで攻撃を読む事に長ける様になった。

 そして敵の力を利用した合気柔術に、チャクラコントロールを利用した怪力。これらを武器に闘う様になったサクラの力はナルト達に匹敵するほどに高まっていた。

 

「ごめんごめん。でも、あれ見てよサスケ君」

 

 そう言ってサクラが指を差した方角をサスケが見ると、そこには緊急招集を知らせる煙が上がっていた。

 

「あれは……」

「そ、綱手様からの緊急召集の要請よ」

 

 煙の色を見て、あれが第七班への報せだとサスケも理解する。そして遅れた場合あの五代目が叱責するだろう点もまた理解していた。

 

「ちっ! おいナルト、今回の勝負は次に持ち越しだ」

「あーいてて。分かったってばよ。ちぇっ、今日はオレの勝ちだったのになぁ」

「オレの勝ちに決まっているだろうが」 

 

 二人の実力は大きく向上し、特にナルトはサスケとの差をほぼ完全に埋めていた。修行を始めて三年目から行った多重影分身を利用した修行がその要因だろう。

 だがそれでもナルトがサスケに勝ったのは僅か二回だ。これに関してはサスケを褒めるべきだろう。ナルトの多重影分身修行は尾獣を持たないサスケには真似をする事は出来ない。だがその不利を生来の才能で覆したのだ。

 いや、生来の才能の差を多重影分身で埋めたナルトを褒めるべきなのかもしれないが。どちらにせよ両者とも並の上忍程度なら軽くあしらえる実力を手に入れていた。そして受けに回れば二人でも攻め切れないサクラ。第七班は木ノ葉でも最強の……下忍だった。

 

 そう。何と三年経ってもこの三人は下忍のままなのだ。実力ではとうに上忍クラスに到達していたが、誰もこの三年間で中忍試験を受けなかったのだ。

 中忍試験を受けるという事は、中忍試験に集中して修行の時間が削れるという事。つまり他の第七班に先を越されるという事だ。

 サスケを追い抜こうとしているナルトはそれが我慢出来ず、ナルトに追い抜かれまいとするサスケはそれが我慢出来ず、二人に追い付き追い越そうとするサクラはそれが我慢出来ない。そんな三人の意思が一致した結果である。

 ちなみに三人の同期で下忍のままの忍は誰もいない。一つ上のネジに至っては上忍になっている。

 

「んだとぉー!」

「やるかウスラトンカチ!」

 

 そんな事など全く気にせずに二人は仲良く口喧嘩をしている。

 三年間で成長したのは実力だけなのかもしれない。この二人は相も変わらずであった。

 いや、ナルトは三年間で以前よりも思慮深くなり、サスケもクールというよりは冷静さを持つ様になってはいる。ただ、ナルトとサスケが混ざるとこうなってしまうのだ。

 

「もう、二人とも止めなさいよー。早く行かないと綱手様に怒られるわよ」

 

 そう言いつつもサクラは二人を見て微笑んでいた。

 いつまでも子どもの様に変わらずに友としてライバルとして接している二人が微笑ましく、そして嬉しかったのだ。

 だが、そんな楽しい日々にも終わりが来るのかもしれない。綱手の緊急招集の報せを見て、サクラはそう不安に思ってしまった。

 

 そして、その不安は当たっていた。暁が活動を再開したのである。

 

 

 

 

 

 

「我愛羅が……!」

 

 火影室に呼び出されたナルト達が聞いたは、砂隠れの新たな風影となった我愛羅が暁に捕われたという報告だった。

 我愛羅はかつて砂隠れが大蛇丸と共謀して木ノ葉に戦争を仕掛けた時に、切り札とされていた砂の人柱力だ。

 かつては自分の境遇に孤独と憎しみを抱き、周囲にその憎しみを感情のままにぶつけていた我愛羅だったが、同じ境遇を持つナルトに負けて、そしてナルトに理解される事で互いに友情を感じる様になる。

 それにより我愛羅は変わった。ただただ憎しみを振りまくのではなく、例え迫害されても負けない強さを持つナルトの様になりたいと思うようになったのだ。他者との繋がりを否定していた我愛羅が、苦しみや悲しみ、そして喜びを他者と分かちあえるのだと思うようになったのだ。

 その心境の変化が良い結果に繋がったのだろう。風影という中核を失っていた砂隠れは我愛羅を風影に任命し、我愛羅は里を守るべく五代目風影へと就任した。

 

 そして……里を守る為に、暁に攫われてしまった。一対一の戦いでは我愛羅は里を襲った暁の一員・デイダラに負けてはいなかっただろう。

 だが里に巨大な起爆粘土を落とされた為、里を守る為に持てる力を振り絞ったのだ。それにより疲弊し大きな隙を作ってしまった我愛羅はデイダラに捕らえられてしまったのだ。

 それを知った砂隠れは同盟国である木ノ葉に連絡を取る。その連絡を受け取った綱手がナルト含む第七班を召集したのだ。

 

「そうだ。そこでお前達に新たな任務を下す。直ちに砂隠れの里へ行き状況を把握し木ノ葉に伝達。その後砂隠れの命に従い彼らを支援しろ」

 

 それは火影としては間違った指令かもしれない。これは暁にナルトという餌を与えるに等しい行為かもしれないからだ。

 だが綱手はナルトの気持ちを理解していた。ナルトと我愛羅は同じ人柱力だ。そして二人はかつて中忍試験で闘った仲である。

 その時ナルトは我愛羅を理解し、そして我愛羅もナルトの理解を得る事で人としての自分を取り戻した。

 同じ人柱力同士分かり合えたのだ。そしてナルトは我愛羅を助けたいと思っている。そんなナルトの後押しを綱手はしてあげたかったのだ。

 そして何より綱手はナルトを信じていた。ナルトならば暁などに負ける事なく任務を達成出来ると。

 

「その任務。私は参加しませんので」

 

 そう言ったのはアカネである。アカネはこの三年間は第七班を初めとする多くの忍の修行に忙しくて暁についての情報収集も出来なかった。

 その暁が再び活動を再開したとなれば厄介ではあるが打倒する好機でもある。地に潜られたままよりは対処しやすいと言えた。そんな好機を逃すわけには行かないだろう。

 だと言うのに何故ここに来て暁討伐の機会を逃す様な事を言い出すのか。それには二つの理由があった。

 

 一つは暁に気付かれない様に近付きたかったから。

 アカネとてこの機会を逃すつもりはない。だが暁にどの様な能力者がいるか分からないまま、あからさまにナルト達と共に行動していては暁にアカネの行動がばれる可能性もあるだろう。

 暁にアカネが日向ヒヨリの転生体である事は周知されていると見ていいだろう。暁に大蛇丸が所属している事からその点はほぼ間違いがないとアカネは考えている。

 アカネが警戒されている可能性は非常に高いと言える。だからこそ暁に見つからない様、第七班にも秘密にして行動するつもりだった。

 

 もう一つの理由は第七班の精神的な成長を促す為だ。

 彼らはアカネの実力の高さを嫌と言うほど知っている。だからこそ、アカネがいればどんな局面でもどうにかなると思っているかもしれない。

 そうであればいざという時にアカネがいなければ精神的に脆くなってしまう可能性もある。どれだけ実力が伸びようともそれでは意味がないだろう。

 それを確認する為にも、第七班のみでこの任務を受けてもらい様子を見たかったのだ。まあ、いざとなればアカネが手助けする事に変わりはないのだが、そのいざという事態に陥った時の対応が見たいのだ。

 ……もっとも、第七班の実力の高さから余程の事がない限りそのいざという事態が起こる事もないかもしれないのだが。

 

「アカネが行かなくてもオレは行くぜ! 我愛羅は絶対に助けてやる!」

 

 ナルトのその言葉を聞いたアカネは確認の必要はなかったかなと思えた。そして残りの三人の台詞もまた逞しいものだった。

 

「ふん、我愛羅を助ける義理はないが、暁が相手なら丁度いい。この三年間でオレがどれだけ地獄を見たのか教えてやる……!」

 

 三年間の修行はサスケに地獄を見せたようだ。そのせいか哀しみや怒りを背負わなくても万華鏡を開眼しそうな程にチャクラが荒ぶっている。

 

「そうよね……私達が中忍試験を受ける事もなく修行し続けたのも、元はと言えばそいつらがナルトとサスケ君を狙っているからよね……。一発、ううん、十発は殴らないと気が済まないわ」

 

 今のサクラに十発も殴られれば絶対に途中で死ぬだろう。不死コンビと呼ばれる暁の一員以外はサクラの前に立ってはいけないのかもしれない。

 

(こいつらに負けないように修行して、そのせいで不名誉な称号を得たオレ達の恨みと憎しみと哀しみをオレが代表して暁にぶつけてやる)

 

 カカシは言葉にこそしていないが、暁に対する恨みはナルト達に負けない程に高まっていた。まるで一人ではなく多くの忍の怨念を背負っているかの様である。

 影分身だがアカネとほぼ四六時中一緒にいて修行していたせいで、アカネの修行を受けた三十代前後の忍はその多くにロリコンの称号が里から与えられていた。

 あの時、カカシとオビトを見るリンの冷たい視線を彼らは一生忘れる事はないだろう。そういった恨みの諸々を暁にぶつける時が来たとカカシは普段の様子を捨ててまで息巻いていた。

 

 

 そんな第七班の様子を見てアカネは確信する。うん、こいつらが私に頼り切りになる事ってないな、と。

 そして同時に願った。どうか、彼らと戦う暁が人としての尊厳を保ったままにやられますように、と。

 

 

 

 

 

 

 カカシ率いる第七班は我愛羅救出に向けて木ノ葉を発つ。道中で火の国に来ていた我愛羅の姉であるテマリと偶然合流し、それから三日掛けて砂隠れに到着する。

 ナルト達が全力を出せば二日で辿りつけるだろうが、それでは肝心の暁と戦う時に疲労が大きくなっているだろうし、テマリがいるから移動速度を抑えた結果が三日という時間だった。

 いや、テマリとて木ノ葉崩しから約三年で下忍から上忍となっており大きく成長しているのだが、ナルト達の成長がそれを遥かに凌駕する程だったのだ。

 

 砂隠れの里に到着したナルト達は我愛羅救出に向かう前に、我愛羅の兄であるカンクロウの治療を行う。

 カンクロウは我愛羅が連れ去られた時、すぐに弟を救うべく暁に立ち向かったのだ。かつては憎しみのままに殺戮を振りまく弟を疎ましく思っていたが、成長した我愛羅を見てカンクロウも変わったのだ。今では大切な弟であり里の中核を成す風影となった我愛羅を誇りに思っている程だ。

 だが相手は暁。カンクロウ一人では敵うことはなく、あえなく返り討ちにあってしまった。その際に敵の毒を受けてしまい、今まさに生死の境を彷徨っているのだった。

 

 その毒は砂隠れの里のご隠居であり、毒の専門家でもあるチヨという老婆でも解毒は不可能な程困難な調合を施されていた。

 だが綱手とアカネの修行を受けて医療忍者として成長したサクラが、直接毒を体内から抜き取る事でどうにか大事を切り抜ける。その後は砂隠れにある薬草を用いて解毒薬を調合し、カンクロウの解毒処置は完了した。

 なお、その際にチヨがカカシを見てその容貌からカカシの父であるサクモと勘違いし、カカシに襲い掛かるというハプニングがあったのだが……まあ怪我人は出なかったので問題はないだろう。

 

 解毒薬の準備も整った所で第七班は我愛羅救出の為に暁の追跡に入る。カンクロウから暁の手がかりである匂いの元を託され、そして同時に我愛羅を頼むという想いも受け取ったナルト達は砂隠れを発つ。

 メンバーにはチヨも加わる。理由は我愛羅を攫った暁の一員に、チヨの孫であるサソリが交ざっていたからだ。

 サソリは傀儡の使い手であり、その腕前も群を抜いている。それに対抗する為にサソリに傀儡の術を教えたチヨ本人が出張ったという訳だ。いや、それ以上に孫を止めたいと願う気持ちもあるのだろう。

 

 道中でチヨはナルトの境遇と我愛羅へのシンパシーと想いを知り、時代は変わりつつある事に気付く。同盟など形だけと思っていたが、こうして自里が危機に陥った時に同盟国は即座に救援に来てくれた。

 ナルト達の可能性を見てそれを羨ましく思いつつも、まだ老いぼれにも出来る事はあるかも知れないと思い至り、チヨは一人覚悟を決めていた。

 

 

 

 そしてチヨ含む第七班は暁のアジトの一つだろう場所に辿り付く。だが……その時既に、暁はその場には誰もいなかった。

 アジトは岩壁をくり抜かれた洞窟状になっており、その入り口は大岩で塞がれた上に何らかの封印が施されていたので簡単に中に入る事は出来ない。そしてナルト達では中の様子を確認する術もない。

 だが、アジト内部に既に生きた人間は誰もいない事に気付いたのがこの中にいた。それは第七班でもなければ、チヨでもない。その人物はカカシの忍具を収める鞄の中から声を出した。

 

「これは……まずいな」

 

 突如として響いたその声に第七班は驚愕する。

 

「え!?」

「いま、アカネの声がしなかったか?」

「間違いないわ! アカネの声よ今の!」

「ま、まさか……」

「……そこか!」

 

 そしてカカシとチヨはその声がどこから聞こえたのか見抜いた。カカシは自分の鞄を下ろして鞄を開く。すると中から巻物が一つ飛び出してきた。

 飛び出した巻物は空中で音を立てて姿を変える。そう、巻物はアカネが変化した姿だったのだ。アカネは気配を消して巻物に変化してカカシの鞄の中に潜んでいたのだ。

 

「い、いつの間に……!?」

「誰じゃお主……?」

 

 一体いつの間に潜んでいたのか? カカシは気付かなかった自分を恥じ、そしてチヨは突然現れたアカネを訝しむ。まあ、ナルト達の反応からして敵ではない様だと判断はしているが。

 

「それよりも、風影様が危険です! 中は既にもぬけの空です! いるのは……尾獣を抜かれた風影様のみ……!」

『っ!?』

 

 そう、全ては遅かった。暁は我愛羅を攫ってから凄まじい速度でアジトへと戻り、この三年間で修行した封印術により圧倒的速度で我愛羅から尾獣を抜き取ってアジトから逃げ出していたのだ。

 全てはアカネを、ヒヨリを警戒しての電撃作戦だった。砂隠れが木ノ葉と同盟を結んでいる事は周知の事実。当然暁もそれを知っている。だからこそ、全てを速攻で終わらせてこの場から離れたのだ。

 

「早く中に入らねーと!」

 

 人柱力から尾獣が抜かれる。それにより起こる事実を理解しているナルトは焦って大岩を壊して中に入ろうとする。

 

「待てナルト! この岩には封印が施されている。これを何とかしないと中に入る事は出来ないぞ!」

 

 焦るナルトを止めたのはサスケだ。その写輪眼にて大岩を覆う封印術を見抜いたのだ。

 

「これって五封結界ね。近辺に“禁”と書かれた札を五ヶ所に貼り付けて結界を作っているわ。この岩に一つあるから、残り四つがどこかにあるはず!」

 

 サクラがその知識で封印術の種類と対処法を伝える。

 

「……」

 

 成長した第七班を見て、カカシはもう自分は必要ないかな、と嬉しくもあり悲しくもある思いを秘める。まあ、ナルトは成長しつつも相変わらずなのだが。

 

「だったらさっさとその札を外して我愛羅を助けるぞ!」

「その必要はありません! 事は一刻を争うので強引に行かせてもらいます!」

『え?』

 

 ナルトの意気込みを他所に、アカネは一気に体内チャクラを練り上げる。同時に天使のヴェールを発動しているのでそのチャクラを周囲の者は感じ取る事は出来ないでいたが。

 

「離れていなさい! 怪我をしますよ!」

 

 アカネが叫ぶと第七班は全員がその場から離れていく。アカネがそう言うならばそうなのだと理解しているのだ。チヨも第七班を見てそれに倣いその場から離れた。

 それを確認したアカネはチャクラを右手の一点に集中し、そして封印を無視して大岩を粉々に破壊した。

 

 ナルト達は岩が破壊された瞬間に内部に侵入する。チャクラを練っていない――ナルト達にはそう見えている――アカネが岩を破壊した事に驚愕するが、それでいちいち行動を止めていては命が幾つあっても足りないと達観しているのだ。

 そして内部に侵入したナルト達は……倒れ伏し、ピクリとも動かない我愛羅を発見する事となる……。

 

「が、我愛羅……」

「くっ……!」

「ナルト……」

 

 ナルトの声に我愛羅は何の反応もしなかった。その体に生気はなく、息もしていない事をナルトは悟り、悔しさや怒り、そして悲しみの感情が入り乱れた。

 サスケもかつて戦った化け物の如き我愛羅がこうして死んでしまった事にどこか悔しさを感じていた。あの強かった我愛羅が、呆気なく死んでいるのを見て何かこみ上げてくるものがあったのだ。

 サクラはナルトの悲しみを知り、そして死者を救う事が出来ない医療忍術の限界を嘆いた。仕方ない事だとは分かっている、死者を治療する術はないと分かってはいるのだが、それでもやはり救えないというのは悔しいものなのだ。

 

 そんな三人を尻目に、アカネは我愛羅の治療を試みる。

 傍に駆け寄り、心臓をマッサージして少しでも血流を動かして、再生忍術にて尾獣が抜かれた事による経絡系の損壊を修復しようとしているのだ。

 再生忍術は生きている人間にしか効果はない。再生させる細胞が死んでは再生しようがないのだ。だが細胞とは人間が死ねばすぐに死滅するわけではない。もしかしたらという可能性を信じて、アカネは再生忍術を施し続ける。

 

「サクラ! 手伝いなさい! 心臓を直接マッサージするんです!」

「わ、分かったわ!」

 

 アカネの考えを理解したサクラは、すぐにチャクラで作ったメスで我愛羅の胸部を切開し、直接心臓をマッサージする。

 そして人工呼吸にて息を吹き込み、我愛羅の蘇生を試みる。少しでも息を吹き返せばアカネがどうにかしてくれる。そう信じてサクラは心臓マッサージと人工呼吸を繰り返した。

 

「……」

 

 それを見て、チヨは決めていた覚悟を取り出した。

 他里の忍である我愛羅の死を本気で嘆くナルトに、悔しそうに呻くサスケ。今も必死で蘇生を試みるサクラと、そしてかつての大敵が風影を必死に助けようとする姿を見て、今が覚悟を示す時だと思ったのだ。

 チヨは我愛羅へと近付いていき、その体にそっと手を添えてある術を発動させる。そして、それを白眼で見たアカネはチヨを止めようとする。

 

「それは……そのチャクラの流れは……! 止めなさいチヨ! それではあなたが!」

「やはり見抜くか日向の姫よ。姿は変われどその瞳力は変わらんな」

 

 チヨは古くから砂隠れの忍として存在している。故にアカネの前世であるヒヨリとの面識も当然あった。だからこそ、アカネのチャクラを感じずともヒヨリという正体に思い至ったのだ。

 日向ヒヨリはそのチャクラを他者に悟らせない。古い忍達はそう知っているのだ。天使のヴェールの存在が逆にアカネの正体を気付かせる事になったのだ。何せ、その様な術者などそう多くいるわけがないのだから。

 当時はその強さに恐れ慄いていたものだとチヨは苦笑する。当時から今も生きている忍で、日向ヒヨリを恐れなかった者など一人としていまいと自信を持って言える程だ。

 

「チヨ!」

「もう、ワシの時代ではないのだ日向の姫よ。老いぼれは去り、若い者が時代を動かす力となるのだ」

 

 チヨの覚悟はアカネにも理解出来ない訳ではない。事実、アカネも今までの人生で何度となくそう思った事があるからだ。

 だが、転生を続けるアカネは何度もその考えに至りつつも、何度もそれを否定してきた。歳を取った時にはそう思っても、転生して若い肉体になり仲の良い老人を見ると、歳を取っても生きていて欲しいと願うようになるからだ。

 

「時代とか、そんな事が年寄りが死ぬ理由になるか! ナルト、チヨにチャクラを分けるんだ。サスケはそれを写輪眼でサポートしてくれ!」

「お、おう!」

「……仕方ないな」

 

 ナルトがチヨの手に自分の手を重ねてチャクラを分け与える。そしてサスケは写輪眼でチャクラの流れを見切り、ナルトが過剰な量のチャクラを流し込まないようにサポートをする。

 そしてサクラが心臓マッサージと人工呼吸を行い、アカネが再生忍術を施し、チヨが己の命を代償に初めて可能とする禁術、転生忍術である己生転生(きしょうてんせい)を使用する。

 

 

 

 あらゆる蘇生術を施された我愛羅は程なくして息を吹き返した。そして己生転生(きしょうてんせい)の術者であるチヨも大きく疲弊してはいるが無事であった。

 本来なら己生転生(きしょうてんせい)を用いて死者を蘇生した場合、術者は確実に死亡する。だが、ナルトからチャクラを分けてもらい、サクラとアカネが我愛羅に蘇生術を施した事で、完全な死者ではなく半死人となっていた我愛羅を蘇生させるのに全ての命を懸ける必要がなくなったのだ。

 まさか生き延びるとは思っていなかったチヨは、ナルトが我愛羅に笑い掛けている姿を見ながら呆然としていた。そしてそんなチヨにチャクラを分けながらアカネは話し掛ける。

 

「どうですか。生きていればいい物が見られるでしょう」

「……そうじゃな。全く、意外としぶとい物じゃな」

「いい事じゃないですか」

「ワシではないわ、お前の事よ日向の姫よ。どうして若い肉体になって生きておるんだ……」

「ははは……私特有の転生忍術でして……」

 

 アカネの言葉が本当かは分からないが、この姫が生きている木ノ葉に戦争を仕掛けても成功するはずもないとチヨは理解した。

 まあ、アカネに関係なくすでにチヨの中に木ノ葉へ戦争を仕掛ける気など失せていたが。ナルト達を見てチヨは木ノ葉への見方を、忍の世界の見方を変えたのだ。

 他里同士でもいがみ合うだけでなく、分かりあう事も出来るのだと……。

 

「ほら、いい物が見れますよ」

「ん?」

 

 それは我愛羅の生を喜ぶナルトと、そのナルトを見て喜ぶ我愛羅の姿ではなかったのかとチヨは思い、そして少しの時間を置いて驚愕する。

 そこには、砂隠れの里から風影である我愛羅を助ける為に多くの忍が駆けつける姿があったのだ。

 かつては我愛羅を蔑み恐れ離れて迫害していた里の忍達が、今では我愛羅の為に駆けつけてその無事に喜びを顕わにしている。そこに嘘はないと長年の経験でチヨは理解していた。

 

「……ああ、こういう物がまだ見られるなら、もう少しばかり生きていたいものだな……」

「そうでしょう。こういうのは、何度見ても、いつになっても、素晴らしい物です……」

 

 この場の誰よりも人生経験を積んでいる二人は、多くの忍に囲まれる我愛羅を見てそう思った。

 

 

 

 

 

「……私の事、秘密にして下さいね?」

「さてのー。ワシ、年寄りじゃからそんな約束覚えられんかものー」

「えぇ……」

「なーんてな! ボケたフリ~! ギャハ、ギャハ、ギャハ!」

 

 個性的な笑いをする様になったな……。自分をからかって楽しんでいるチヨを見てアカネはそう思い、そしてやはり長生きするのは悪い事ではないと苦笑した。

 

 なお、ここに来た意味があったのかを考えている木ノ葉の上忍が視界の隅に映っていたのだが、とりあえずアカネは何も考えないようにした。

 

 

 

 

 

 

 どこか薄暗い洞窟の中。まともな人間なら集まりそうもないそんな場所に、十人の男女が集まっていた。

 

「これで一尾は終わりだ。残る尾獣は八体」

 

 暁のリーダーであるペインが現在の状況を各々に説明する。

 

「その内の七体は既に捕獲済み。後は尾獣を抜き出して封印するのみだ」

 

 そう、ペインが言うように、暁は既に九尾以外の人柱力を捕らえていた。三尾のみ人柱力ではなく尾獣のままに捕らえていたが。一尾は木ノ葉の同盟国である砂隠れの人柱力だったので後回しにされていただけなのである。

 だが尾獣は尾の数が少ない一尾から順に封印する必要があるので、先に捕らえていた人柱力は大蛇丸の薬で意識を奪って捕らえ続けていたのだ。

 全ては日向アカネに悟られない様にするために。それだけの為に暁は三年間地に潜み力を蓄え人柱力の情報を集め、そして全ての準備を整えてから一気に事を起こしたのだ。

 それだけ暁はアカネという存在を警戒しているという事である。……中にはそうでない者もいたが。

 

「全くよぉ。ここまで警戒する必要があるのかそのヒヨリってのはさぁ。いくら強いったって一人だろ?」

「日向ヒヨリを舐めるなよ飛段。……死ぬぞ?」

「それをオレに言うかよ角都。ほんと殺せるものなら殺して欲しーぜ」

 

 飛段はジャシン教と呼ばれる宗教によりある秘術を施され、不死身の肉体を手に入れている。それは文字通り不死身なのだ。

 心臓を貫かれても、首を切り落とされても、体をバラバラにされても生きているだろう。最早人外の術と言えよう。だが、そんな人外の集いが暁なのだ。

 

「例え死ななくても対処の仕方はあるわ。封印でもされたら終わりよ?」

「ちっ! うっせーな、分かってんよ」

 

 大蛇丸に図星を刺された飛段は捻くれた様に舌打ちする。だが実際封印されるのだけは勘弁な飛段だった。

 何せ死にもせず永遠の時間を動きを封じられて過ごさなくてはならなくなるからだ。“汝、隣人を殺害せよ”という狂った教義と殺戮をモットーとしているジャシン教信者としては耐えがたい屈辱だろう。

 

「何度も言うが、あれは人ではなく一種の化け物だ。人柱力など歯牙にも掛けぬ程のな。死なないからと舐めて掛かれば……身体を修復不可能な程に粉々にされるぞ?」

「……」

 

 流石に粉々になれば終わりかもしれない。そう思った飛段は角都の言葉を信じる事にした。

 同じ不死同士であり、自分よりも強い角都がそこまで言うのだから相当なのだろう。まあ、角都がそこまで言うからこそ、飛段もこの三年間地道に修行をしてきたのだが。

 何せ時間なら無駄にあったし、殺戮を楽しみながらも修行に費やしていたのだ。それは他の暁も同様である。多くの者が日向アカネに、そして木ノ葉に備えて地力を伸ばしていた。

 

「しかし、ようやく暴れられますね。人柱力相手は時間を優先したのでまともに戦わず奇襲にて終わらせたのが殆どですからねぇ。どうにも楽しめませんでしたよ」

 

 鬼鮫はこれからの事を思い獰猛な笑みを浮かべる。三年間地に潜み、こそ泥のように人柱力を連れ攫ったので流石に鬱憤が溜まっているようだ。

 

「そうは言ってもしばらくは封印で時間が取られるがな」

 

 我愛羅を連れ攫った片割れであるサソリはうんざりとした様子で呟く。

 人柱力から尾獣を抜き取る作業はかなりの時間を要するのだ。修行により多少の時間短縮は出来ているが、二尾から八尾までの七体の尾獣を抜き取るとなると多少短縮しても相当な日数が掛かるだろう。そう思うと憂鬱になるものだ。

 

「そういった鬱憤は全部木ノ葉にぶつけてやればいいさ。次こそはオイラの芸術であの女を吹き飛ばしてやるぜ、うん」

 

 デイダラは未だに己の芸術と称する起爆粘土をアカネに防がれた事を根に持っていた。自信のあったC3という大技だけに尚更だ。

 それを晴らす機会がようやく来たと思えば封印術に掛かる多少の日数など何ともない程だ。

 

 無言の者も多いが、やる気が見られる暁の一同を見てペインは言葉を放つ。

 

「ではこれから残る二尾から八尾までの封印を開始する。それが終われば全員で木ノ葉を……潰す」

 

 暁が、その牙を木ノ葉に向けようとしていた。

 

 




 チヨバア可愛いよチヨバア。

 ……すいません。私、ああいうお婆ちゃんって大好きなんですよね。たるんだほっぺたをタプタプしたくなる。

 原作と違い第七班にアカネが付いていると綱手は知っているのでガイ班を助っ人参戦させていません。明らかに過剰戦力だからです。
 そして原作と違い暁が十人いて、そして封印術の修行を積んでいたので一尾の封印が早く終わりました。なので足止めの敵はいませんでした。

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