どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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NARUTO編
NARUTO 第一話


 かつて、戦国の世があった。

 そこではチャクラと呼ばれる特殊な力を操る者達が血で血を洗う戦いを繰り広げていた。彼らはこう呼ばれていた。忍、と。

 国々が自国の利権や領土拡大の為に争い、その戦力として忍は一族単位の武装集団として国に雇われ戦争に参加していた。

 更には国の戦争に関係なく、いや戦争で多くの仲間や家族を殺された恨みや悲しみが広がったせいで、戦争以外でも忍は多くの一族がいがみ合い殺し合う様になっていった。

 

 そんな戦国時代、忍と国民の平均寿命は僅か30歳前後と言われている。

 その平均を大きく下げていたのは、多くの幼い子ども達の死だった。

 10歳にも満たない子どもが忍として戦場に出てその多くが死に、そして国民もまた戦争の巻き添えとして子どもを含めて死んで行く。

 

 いつまで続くのか、いつ終わるのか分からない地獄の様な時代。それを地獄だと思わず常識だと認識してしまう世の中。

 そんな時代に、ある一人の少女が生きていた。

 

 彼女の名は日向ヒヨリ。忍の一族でも有名な日向一族、その宗家の姫君である。

 ヒヨリはこの戦国の世を憂えていた。他の忍と違い、ヒヨリは殺しを好まなかった。

 いや、他の忍も好んで敵を殺す者は少なかったが、それでも敵は殺す物として当たり前に思っていた。

 だがヒヨリはそうではなかった。国の利権の為に雇われ、一族の利権の為に敵を殺す。そんな生き方しか知らない自身の一族や他の一族を哀れに思っていた。

 

 何故ヒヨリがその様な考えに至ったか。それは彼女が前世の記憶を有した転生者であるからだ。

 平和な世界で生き、平和に育った経験を持つヒヨリにとって、この戦国の世しか知らない人々は憐憫の対象となったのだ。

 いや、大人ならばいい。大人が大人の都合で戦いに生きるのは否定しない。ヒヨリとて争いはともかく競い合う意味を持った闘いならばそこまで嫌いではない。

 だが、子どもを巻き込むなら話は別だ。戦争に子どもを投入し、十にも満たない歳の子が殺されていく。そんな世の中は間違っている。

 だからこそ、子どもを戦争に加担させる事が当たり前だという常識が、ヒヨリには我慢出来なかった。

 

 大人が大人の都合で、国が国の都合で戦争しているならばヒヨリも特に思うところはなかっただろう。

 国にとっての戦争とは政治の延長という側面もあるだろうし、場合によっては戦争をしなければ国が滅んでいた事態もある。戦争の全てを否定はしない。

 もちろん自国が一方的に他国に攻撃されて滅ぼされるのを許容するわけはないが。

 それは別として、子どもを駆り出してまで殺し合いを繰り返すこの世界の常識はヒヨリには受け入れがたかった。

 

 

 

 ある日の事。ヒヨリは日向一族の集落を抜け出し一人木の上に立っていた。

 いつまでも続くこの戦国の世に気が滅入り、少し気分転換をする為にこうして景色を眺めていたのだ。

 高い所から目を凝らせばどこまでも遠くを見渡せるような気がするのでヒヨリは高所が好きだった。

 ヒヨリはその両目を白眼へと変化させ、周囲360度全てを見渡す。

 

 白眼。これは日向一族が保有する血継限界と呼ばれる特殊な力である。

 血継限界とは忍がチャクラを練って生み出す術では再現出来ない特殊な力の事を指す。

 その希少な能力の中でも白眼は三大瞳術と呼ばれ恐れられていた。

 その能力はほぼ360度に渡る視界と透視能力に望遠能力、そして個人レベルでのチャクラの性質を見抜く事も出来るという優れ物だ。優れたチャクラ感知能力を持つ忍もチャクラの性質に関しては同じ事が出来るが、白眼だとそれ以上の精度で見抜く事が出来る。

 それだけではない。人体にあるチャクラの流れ――経絡系――や、その白眼の瞳力が強い者はチャクラ穴――点穴とも呼ばれる――と言われる経絡系上にあるツボも見極める事が出来るのだ。

 これらは戦闘に置いても感知に置いても非常に優秀な能力であった。だからこそ日向一族は忍の中でも強者として名を馳せていたのだ。

 

 この白眼の能力はヒヨリの今までの人生でも得た事のない力だ。特に透視と望遠の能力は便利に思っていた。

 というか、ぶっちゃけそれ以外の白眼の能力は大抵がヒヨリの経験で補う事が出来ていた。白眼を発動させなくても経絡系を感じ取れる事がその証拠であろう。

 これは日向一族には絶対に秘密にしている事である。言えば多分へこむ。経験だけで白眼が真似られては悲しくてならないだろう。

 

 ともかく、ヒヨリはこうして高所から白眼にて遠くを見渡すのが最近の楽しみになっていた。

 集落にいるとやれその力を一族の為に使えだの、敵を殺すのを躊躇うなだの年寄り共が煩いのだ。

 彼らもヒヨリの非凡な力を理解しつつあるのでヒヨリに期待してそう言っているのだ。ヒヨリとしてはたまったものではなかったが。

 

 そうして今日も年寄りの小言から逃げ出し遠方を見つめる。新しい発見はないかと色々と見通すのだ。

 ちなみにこれまでに幾つもの忍一族の集落や村などを見つけている。ヒヨリがその気だったならば既に幾つかの集落が日向によって滅ぼされていただろう。

 それだけヒヨリの望遠能力は優れていた。並外れたチャクラを白眼へと注ぎ込む事で桁違いの距離を見通す事が出来たのだ。

 

 そんな風に遥か遠方を眺めていたヒヨリは気になるものを見つけた。

 それは二人の少年だ。どうやら川原で戦っているようだ。だがそこに殺気は感じられない。恐らく同じ一族なのだろう。鍛錬でもしているのだろうか。

 そう思ったヒヨリは白眼で見た二人のチャクラ性質でその考えを否定した。

 

(これは……二人のチャクラ性質が違い過ぎる)

 

 チャクラは個人個人でその性質が異なる。これは指紋と同じ様なもので完全に一致するチャクラ性質を持つ者はいない。

 なのでこの二人の少年のチャクラの性質が異なっていたとしてもそれはおかしな事ではないのだ。

 だが、それでも似たようなチャクラの性質という物はある。それは家族や一族など近しい血縁関係にある者達のチャクラ性質がそうだった。

 

 この二人は完全に別物のチャクラ性質を持っていた。いや、どこか似ていると言えば似ている様に何故か感じるが、その性質はやはり別物だ。

 つまりこの二人は同じ一族の忍ではないということだ。だとしたらやはりこれは別の忍一族同士の殺し合いなのだろうか?

 

「……いや、やはり殺気はない」

 

 ヒヨリは思わずそう呟く。それどころか二人は実に楽しそうに戦っていた。完全に鍛錬の為の組み手としか思えない。

 そして勝った方はひたすら喜び、負けた方はすごく悔しがり、すぐに再戦したり、別の勝負方法で競ったりしている。

 

「これは……」

 

 もしかしたら彼らは同盟を結んでいる忍の一族なのかもしれないとヒヨリは考える。

 大抵は争うしかないが、稀に忍同士で手を組む事はあるにはあった。それでもこうして共に研鑚を積む事はまずない事だが。

 しかしその考えも否定した。ヒヨリは二人のチャクラ性質を見抜いたのだ。

 

「千手と、うちはだと?」

 

 千手一族とうちは一族。それは日向に勝る程の知名度を持つ忍一族である。有名故にヒヨリも戦場で見かけた事があり、そのチャクラ性質も見た事があった。

 二人のチャクラ性質はこのそれぞれこの二つの一族に似通っていた。まず間違いなくその一族に名を連ねる者達だろう。

 しかも二人の動きやチャクラの練り方、術の練度からして、まだ少年だと言うのに並の大人よりも強いという逸材であった。余程の才を持って生まれたのだろう。

 

 そんな二人がどうしてこの様に楽しげに共に在るのか、ヒヨリは理解に苦しんだ。

 二つの一族は敵対している事で有名なのだ。両一族は共に強大な力を持つので、戦争で千手が雇われれば対抗する為にうちはが雇われ、うちはが雇われればその逆の現象が良く起こっていた。

 両一族は幾度となく戦場で殺し合って来た因縁の間柄だ。だというのに、こうして共に研鑚を積むなど有りえないだろう。

 

 そればかりか二人はこの世界の未来についても話し合っていたのだ。これにはヒヨリも驚愕である。

 ……ちなみにあまりに遠方なので当然会話は聞こえていないが、口の動きからその内容を把握していた。ストーカー真っ青の能力である。

 

 それはさておき。二人の会話から、互いに一族の名を知らないのだろうとヒヨリは感づいた。

 姓を見ず知らずの相手に口にしない。それが忍の共通の掟だ。姓を知られればそれが殺し合いに発展する事は多いのだ。

 

 それでも、二人は互いの姓を知らぬままでも、お互いに今の世の中をどうすれば変える事が出来るのかを話し合っていた。

 少年だからだろう。方法は見つからずともどうにかして未来を良くするんだという意気込みに溢れていた。

 

 そんな二人を見て、ヒヨリは思った。

 

(この、二人となら)

 

 二人の少年と比べて打算的な己のその思考に嫌気が差すヒヨリ。

 だがそれでもやらなくてはこの世界は変わりはしない。この二人と共にならば今の世を変革する事が出来る。

 日向一族だけでは多くの忍を屠らなければ実現は難しくとも、この二人と、そして千手一族とうちは一族と共になら……。

 

 思い立ったが吉日という奴だろう。ヒヨリはすぐにその場から飛び立ち二人の少年――千手柱間とうちはマダラの元へと向かった。

 

 それが……悲劇を生んだ。もしヒヨリがもう少し熟考してから行動に移していれば、起こらなかっただろう悲劇が……。

 

 

 

 

 

 

 千手柱間とうちはマダラ。千手一族とうちは一族、両一族きっての才能を誇る少年達は、偶然川原で出会ってから互いに無二の親友となった。

 いや、偶然ではなかったのかもしれない。互いが川原にやって来る理由は、川を見ていると心の中の嫌な気持ちが流れるような気がするという同一のものだった。故に二人の出会いは必然だったのかもしれない。

 出会ってすぐに二人は同じ理由で川原へ来ているのだと直感した。性格は違うが互いに何か通じるものを感じた二人はすぐに惹かれ合っていった。

 

 そして互いにこの戦乱の世を憂い、変えようとしていることを知る。

 それは今の世にあって異端と言っても良い考えだ。誰もが自分たちの一族の繁栄と、そしてそれ以外の一族の打倒を願っている。

 それが当たり前の考えの世の中で、こうして同じ理想を持つ者同士が出会えた事は奇跡に等しかっただろう。

 

 互いの理想を知ってから、二人はちょくちょくと会う様になった。姓は互いに知らないまま、忍の技を競い合ったり未来について話し合ったりしたのだ。

 まだ理想が高すぎて実力も手段も追いついてはいなかったが、それを覆す力を付けるべく共に研鑚していた。

 

 そんなある日の事だ。いつもの様に組手で力比べをし、休憩がてらに未来について語り合う。

 いつもと同じ日々だ。辛い世の中だが二人で理想を目指すのは互いの最大の楽しみだった。だが、そんな二人の日々は早くも終わりを告げる事となった。

 

 

 

「でも具体的にどうやったら変えられるかだぞ。先のビジョンが見えないと……」

「まずはこの考えを捨てねぇことと、自分に力をつけることだろが。弱い奴が何を吠えても何も変わらねぇ」

 

 理想実現に必要な事は何か。未だ具体的な方法は見つからないが、何をするにも力は必要だとマダラは言う。

 それは柱間も理解していた。どんなに崇高な理想を語ろうとも、この戦乱の世でそれを示すには一定以上の力が必要だ。力のない理想を語っても、それは騙りにしかならない。

 

「そだな……とにかく色々な術をマスターして強くなれば、大人もオレ達の言葉を無視できなくなる」

「苦手な術や弱点を克服するこったな……まあオレはもうその辺の大人より強ェーけどよォ……」

 

 マダラの言葉は嘘ではない。二人は少年と呼ばれる歳でありながら既に並の大人を凌駕する実力を有している。

 そんな自信のある言葉を吐きながら、マダラはその場を離れ下に川が流れる崖の端まで移動した。

 何をするのか疑問に思った柱間だったが、すぐにマダラの行動を理解した。

 

 立ちションである。

 それを理解してすぐに柱間はマダラの真後ろに立とうとした。

 そうすれば小便が止まる繊細なタイプだと以前にマダラが口走った事を思い出したからだ。

 それを確認してやろうと悪戯心を出し、柱間は気配を消してマダラの背後に立つ。

 そして……悲劇は起こった。

 

 

 

「フウ~~……」

 

 小便が川に落ちる音が響く。だがそれもすぐに止まってしまった。

 マダラの小用が終わったわけではない。柱間が後ろに立った為に集中出来ずに小便が止まってしまったのだ。

 

「……」

「ホントに止まるんだ……」

「だからオレの後ろに立つんじゃねェーー!!」

 

 マダラは後ろに立つ柱間に怒鳴りながら文句を言う。

 その時だ。マダラの後ろに立つ柱間の、その更に後ろに急に人が降り立ったのは。

 

『!?』

 

 二人の更に後ろに突然発生した気配に驚愕しつつも、二人はすぐに反応して何があっても対応出来るように構えようとする。

 上空から降り立つという、明らかに一般人の登場方法ではないそれに、二人は急な訪問者が忍であると察する。

 忍の世は敵だらけだ。例え二人が別の一族でありながら無二の親友だとしても、それは例外中の例外に過ぎない。

 柱間とマダラの理想は未だ理想であり忍の世に欠片も浸透していない。ならばこの訪問者とも敵対する可能性は高い、高すぎるだろう。

 二人はこの相手が自分達の一族ではない事を咄嗟に祈る。もしそうであれば、この好敵手とも、同じ理想を求める同胞とも呼べる親友との日々が終わってしまうのだから。

 

 そうして二人は急な訪問者に振り向く合間の一瞬で様々な想いを抱く。

 そして二人が振り向いた先に見た者は……同年代くらいの少女であった。

 だが少女であろうと忍は忍。年齢や性別などそこに関係ない事を二人は嫌というほど理解していた。

 それを変えたいと思っている矢先にこうして別の一族と出会ってしまうのか。そう思っていた二人だが、少々少女の反応が可笑しい事に気付く。

 

 何か目的が有ってこの場に来たのは明白だ。そうでなくては二人が一緒にいるこの場に現れる理由がない。

 理由としては互いの一族の者が別の一族と出会っている為に相手を殺しに来たのか。

 二人は同時にそう考える。どちらもこの少女と初対面なので、互いに相手の一族の者なのだと想像したのだ。

 もう一つはどちらの一族の忍でもなく別の忍一族の者かという所か。こうして別の一族を発見した為に少しでも戦力を減らす為に二人を殺しに来たのか。

 それならば一人で来るとは考えづらい。恐らくどこかに伏兵がいるだろう。そう思い目の前の少女だけでなく伏兵も警戒する。

 

 だが、警戒する少女は二人を見て何故か視線を逸らした。

 いや、二人ではなくマダラを見て、だ。それはマダラも、そして柱間も視線と気配で理解した。

 

「お前……何者だ!?」

 

 様子の可笑しい少女にマダラは警戒心を顕わにする。

 柱間と出会った時は偶然かもしれないが、この少女は二人を目指して来たとしか思えない登場の仕方だ。

 何故か顔を赤らめていたりと様子が可笑しいが、警戒しない訳にはいかなかった。

 

「待てマダラ! まだ敵と決まった訳ではないぞ!? それに彼女に敵意は見られん!」

「油断すんな柱間! どっかに他の敵が潜んでるかもしれないぜ! こうしてるのはオレ達を欺く演技の可能性もある!」

 

 どちらの言う事も正しく間違ってはいない。

 少女に敵意はなく、しかしだからと言って演技の可能性もある。警戒心を解く理由にはならないだろう。

 流石に少女との出会い方が悪かった。あれではこの戦国の世で警戒するなという方が難しい。

 

「何の目的でここに来た!?」

「えっと……その……」

 

 マダラの詰問に対して少女は答えにくそうにうろたえている。

 それがさらにマダラの警戒心を大きく刺激し――

 

「その、股間……見えてますよ?」

 

 ――マダラは崖から飛び降りた。

 

 後に延々と笑い話にされるマダラの悲劇であった。

 

 

 

 

 

 

「何かすいませんでした」

 

 びしょ濡れの服で焚き火に当たるマダラにヒヨリは土下座する。

 戦乱の世を変えてくれるかもしれない人材の発見に少々浮かれていたようで、まさか小用中だったとは思ってもいなかった様だ。

 タイミングがとことん悪かった結果だ。マダラが小用を催したのが僅かでも前後していれば、柱間がマダラの後ろに立とうとしなければ、ヒヨリの到着が少しでも前後していれば、起こり得なかった悲劇である。

 

「いや……もういいよ」

「でも、その、見てしまいましたし。いえ私は気にしてないんですよ。互いに子どもじゃないですか。まだご立派な物でもなかったですし可愛い物を見させてもらったといいますか」

「もういいっつってんだろお前よー!! 少しは男の気持ちを理解して言葉を選んで話せや!?」

 

 ヒヨリの精神攻撃! 効果は抜群だ! マダラの男としてのプライドはズタズタだ!

 

「男の……気持ち……」

「何でお前が落ち込んでんだよ!? 意味わかんねぇわ!」

 

 マダラの言葉によってもはや男であった頃の気持ちなど記憶の残滓にも残ってないなぁと思いださせられたのだ。

 マダラの反撃! 効果は抜群だ! ヒヨリは精神に多大なダメージを受けた!

 

「――だ」

「あ? 何言ってんだ柱間?」

 

 そんな風にヒヨリとマダラが互いの心にダメージを与えている所、柱間が何かしら呟いているのをマダラが気付いた。

 そして柱間はどこかキリッと表情をきつくしてこう言った。

 

「お前……何者だ!?」

「ぶふぅ!?」

 

 柱間のごく最近どこかで聞いた様な台詞にマダラが噴き出した。

 

「油断すんな柱間! どっかに他の敵が潜んでるかもしれないぜ! こうしてるのはオレ達を欺く演技の可能性もある!」

「がぁ!?」

「何の目的でここに来た!? ……股間おっぴろげて言う台詞ではないぞ! アハハハハハハハハハハハッ!!」

「元はと言えばお前がオレの後ろに立ったのが原因だろォがァァ!!」

 

 股間を晒した状態で放ってしまった台詞を真似する事でとことんマダラを煽っていく柱間。

 当然マダラがそれに耐えられる訳もなく、二人はそのまま殴り合いへと発展していった。

 と言っても互いに殺意はない。これくらいは親友同士の悪ふざけの範疇なのだろう。

 

「ふふっ」

 

 そんな仲の良い二人を見てヒヨリはくすりと笑みをこぼす。

 どれだけ永く生き、どれだけ経験を積もうと、こういったやり取りは見てて飽きる事がないな、と。そう思い、心から微笑んだのだ。

 まあ、それを見てどう判断するかは人それぞれなのだが。

 

「お前も笑ってんじゃねーっ!?」

「あはは、ああ、ごめん。嬉しくてつい」

「……ふん。何が嬉しいのやら。変わったやつだ」

「まあ恥ずかしいのは分かるが少女に当たるのはどうかと思うぞ?」

「お前はしつけーんだよ柱間ァ! そんな事より! お前は一体何者だおい!?」

 

 ようやく話が本題に戻ったようだ。いや、マダラが無理矢理に戻したというべきか。

 それも致し方ないだろう。誰だって自分の恥部の話を蒸し返されたくはないものだ。

 

「えっと、今更ですが初めまして。私は日向ヒヨリと言います。ぶっちゃけ日向一族の忍です。よろしく」

『!?』

 

 ヒヨリのいきなりのカミングアウトに柱間もマダラも驚愕する。

 当たり前だ。忍の姓は見知らぬ相手に教える物ではない。これは全忍の不文律とも言うべき掟なのだ。

 それを出会って十分足らずの相手に教えるなど前代未聞と言っても過言ではないかもしれない出来事だ。

 そんな前代未聞の自己紹介をしたヒヨリは唖然とする二人に更に言葉を続ける。

 

「いやぁ、日向って白眼にならなくても瞳が解りやすいくらい白みがかってますからね。どうせばれるなら初めから教えても問題ないでしょう?」

 

 ヒヨリの言う通り、日向一族は常に瞳の色彩が薄い。具体的にはやや薄紫がかった白色と言った所か。

 そのせいで瞳を見れば日向一族だとばれる可能性は大いにあるのだった。

 と言ってもそれは日向一族について多少なりとも知識や対面がある場合の話で、自ら積極的に教える理由にはならないだろうが。

 

 そしてこの忍が争う戦国の世にあって、他の一族と出会った忍がする事はただ一つ。

 

「……」

 

 マダラは無言で苦無(くない)を構える。柱間も苦無を構えてはいないがやはり警戒している様だ。

 それを見て、やはり早過ぎたかとヒヨリは落胆した。もちろん名前だけで自己紹介をすませた方がいいのはヒヨリも理解していた。

 これが偶然出会ったのならばそれで良かっただろう。その時はヒヨリも姓までは名乗らなかっただろう。無駄な争いなど好むヒヨリではない。

 

 しかしヒヨリは目的が有って二人に接触した。その目的はもちろんこの忍の世の変革の為だ。

 だと言うのにだ。姓も名乗れずにどうして忍の世が変革出来るというのだ。それでは今までと何も変わらないではないか。

 たかだか姓を名乗るだけだが、この世界では大きな一歩なのは理解している。だが、それでも前に歩まなければ作りたい未来に辿りつける訳がない。

 

 ヒヨリは柱間やマダラの警戒心が籠もった視線を受けても目を逸らすことなく二人を見据える。

 

 ――けどやっぱり早過ぎたかなぁ。もうちょっと仲良くなってからでも良かったかなぁ。

 

 などと内心動揺していたが、それはおくびにも出していない。これも長年の経験による賜物である。

 

『……』

 

 柱間もマダラも、ヒヨリに対してどうすればいいのか考えあぐねていた。

 敵意があれば交戦していただろう。だがヒヨリからは微塵も敵意は感じられない。

 そして何より、あんな出会い方をして、あんな馬鹿なやり取りをして……そんな相手をすぐに敵だと見做したくなかったのだ。

 

 そんな二人の葛藤を知ってか、ヒヨリはその口を開いた。

 

「姓も……名乗れない世の中なんて……嫌なんですよね私」

『!?』

 

 それは二人の願いの根源の一つだ。

 柱間もマダラも、互いの姓を知らずにいる。

 そんな世の中を変えたいと願ってこうして二人で共に研鑚を積み、方法を論じてきた。

 だが、そんな二人なのに未だに互いの姓を知らない。それは今までにも何度も気に掛けていた事だった。

 相手に教えたい。だがそうするとこの関係は崩れてしまう。それは恐らく確実な事だろうと互いに予想していた。

 

 だが柱間は悩み逡巡した末に、意を決した様に面を上げて言葉を発した。

 

「オレは……オレの名前は……」

「止めろ柱間!!」

 

 それをマダラは止めた。柱間が何を言おうとしたのか理解したのだ。

 それを聞けばマダラは柱間を許せなくなる。今まで柱間と接してきてそう感づいているのだ。

 聞きさえしなければ知らなかったですむ。だが、知ってしまえば……。

 

「マダラ! 解ってる! お前の言いたい事は! だが、オレ達の作りたい忍の世は、姓を名乗れぬ世界ではないぞ!?」

 

 柱間もまた理解していた。マダラが自分の姓を知ってどう思うかを。そしてマダラの姓がなんであるかを、マダラと同じ様に感づいていたのだ。

 

「オレは! 千手柱間ぞ!!」

 

 言った。名乗ってしまった。最早後戻りは出来ない。

 もう今までの関係は終わりを告げてしまったのだ。マダラもそれを感じ取り、自らの姓を名乗った。

 

「オレは……うちはマダラだ」

 

 そう名乗ったマダラの瞳に小さな勾玉の紋様が一つ浮かび上がっていた。

 それはうちは一族特有の血継限界、写輪眼である。

 その能力は凄まじいの一言に尽きる。ずば抜けて高い動体視力を有し、相手に幻術を見せたり、催眠に掛けることも可能。

 その上、体術・幻術・忍術の仕組みを看破し、またその術をコピーして自らの物とする事が出来る。全ての術を無条件でコピー出来るわけではないが。

 

 写輪眼は成長すると瞳に勾玉が三つ浮かび上がる様になる。つまりマダラの写輪眼はまだ完全ではないという事だ。

 だがそれでも十分過ぎる能力を持つのが写輪眼だ。日向一族の白眼と共に三大瞳術に数えられている程の物である。

 

 そしてその開眼条件はかなり特殊である。

 それは、うちは一族の者が激しい感情の変化が起きた時、脳内に特殊なチャクラが噴き出し、視神経に反応して眼に変化が現れて写輪眼となるのである。

 つまりマダラは写輪眼が開眼する程に激しい感情の変化が起きたという事だ。

 

「柱間……お前は千手。何となくそうじゃないかって思ってた。でも、出来れば違ってほしかった……オレの兄弟は千手に殺された」

 

 それがマダラに激しい感情の変化をもたらした要因。マダラに取って千手一族は家族の仇だったのだ。

 そしてそれだけではない。真に写輪眼を開眼した理由、それはマダラが柱間と敵対する事を決意したからだ。

 柱間と敵対する事を決意した事で激しい感情の変化をもたらすほど、マダラは柱間の事を親友として認めていたという事である。

 

 そして、そんなマダラの告白は柱間にも苦しい過去を思い起こさせた。

 

「オレの……オレの兄弟も、うちはに殺された」

「!? そうか……やっぱりオレ達は殺しあうしかないようだな」

 

 柱間の告白を聞き、マダラはこうなるべくしてなったのだと思う。

 互いに兄弟をそれぞれの一族によって殺されたのだ。最早手を取り合えるわけもないだろう、と。

 だが、マダラと同じ境遇であるはずの柱間の考えは違った。

 

「違う! そんな事はない! オレ達は分かりあえただろ!? 別の道もあるはずだ!」

 

 柱間は、この状況でなおマダラと手を取り合う未来を捨てていなかったのだ。

 それがマダラには信じられなかった。マダラの中には千手に対する憎しみが今も渦巻いている。

 

「どうしてそんな事が言える! オレは弟を殺した千手が憎い! お前だって!」

「オレだって! 憎くないと言えば嘘になるさ! でも、そうやってずっと憎しみだけで戦っていけば結局何も変わらないぞ!」

 

 二人の様々な感情が入り交ざった討論は加速していく。

 そんな二人と違い、どこで声を掛けたらいいのかタイミングを計るヒヨリ。

 今はこうして互いに思っている事をぶつけた方がいいと思って見守っているのだ。

 

「マダラ、お前は5人兄弟と言ってたな……もう、一人も残っていないのか?」

「……一人だけ、弟が残っている」

「オレも、4人兄弟だった。そして、一人だけ弟が残っている」

「それがどうした!?」

「オレ達がこの世界を変えたいと願ったのは、幼子が戦場に出るこんな世界に嫌気が差したからだろ! これ以上、兄弟を失いたくなかったからだろ!」

「ッ!」

 

 柱間の必死な言葉がマダラの心に突き刺さる。

 

「オレ達にはまだ守りたい者がいるだろう! オレは、オレはこれから生まれてくる仲間や家族にこの地獄の様な世界を見せたくないぞ!」

「それは……」

 

 それはマダラとて同じ想いだ。だからこそマダラは柱間と意気投合し、今まで共にいたのだから。

 

「オレは集落を作りたい! そこでは子どもがちゃんと強く大きくなるための訓練する学校があるんだ! 個人の能力や力を合わせて任務を選べる様にする! 依頼レベルをちゃんと振り分けられる上役を作る! そうすれば子どもを激しい戦地へ送ったりしなくていい、そんな集落だ!」

「何を……! そんな物は夢物語だ!」

 

 いや、夢かもしれない。だが実現してほしい。マダラは激昂しつつもそう思った。

 本当にそんな集落が出来れば、今みたいに幼子が使い捨ての道具の様に無闇に死んだりはしなくなる。

 人が生きている限り全ての不幸がなくなる事はないのは分かっている。だが、それでも確実に今よりは少なくなるはずだ。

 そしてそんな集落が出来れば、今度こそ弟を失わずにすむのではと、最後に残ったたった一人の弟を守る事が出来るのではと、柱間の夢物語に希望を感じたのだ。

 

「今は夢だ! でもお前が協力してくれたらきっと実現出来る! オレと同じ夢を見たお前となら! だから頼むマダラ!」

 

 そう言って柱間は苦無を構えるマダラの前で土下座をした。今の無防備な柱間を殺す事などマダラには容易いだろう。

 

「柱間何を……!?」

「頼む! 共に夢を追ってくれ! お前とならば夢は夢ではなくなる! 全てが終わった時、お前の憎しみをオレにぶつけてもいい! だから頼む! 頼む!」

「集落が出来たなら、夢が叶ったなら……オレに、殺されてもいいというのか」

「ああ。だが、それで最後にしてくれ。その後は集落を頼んだぞ。お前になら任せられるからな」

「馬鹿が……出来てもいない集落を託されても迷惑なんだよ」

 

 マダラはいつしか苦無を落としていた。目の前の馬鹿は、この状況になってまだ自分を信頼し、命がけで頼み込んできたのだ。

 そんな想いの丈をぶつけられてはマダラの怒りも恨みも薄れてしまったのだ。

 今でも千手は憎い。柱間に対してもまだわだかまりがあるだろう。

 それでも……弟を想い、弟が平和に生きていく世界を作りたいと願う気持ちは柱間と同じだ。

 そして、柱間とならそんな世界が作れると思っているのもまた同じだった。

 

「マダラ!」

 

 苦無を落とし殺意が薄れていく事でマダラの戦意がなくなった事を柱間は悟る。

 想いが通じたのだと柱間は喜色満面の笑みを浮かべ面を上げた。

 そこに見えたのは写輪眼ではなくなった瞳のマダラの顔だ。

 

「気色わりぃ顔見せんな! ……他人の、腑を見るこたぁ……出来ねー」

 

 それはマダラがかつて柱間に言った言葉。

 敵同士でも腹の中を見せ合って本音を語って隠し事をせず、そうして仲を深める事が出来ればと願っていた。

 だが本当にそうする事は不可能だ。人の腹の中の奥、腑までは、本音までは確認する術はないのだ、と。そうマダラは言った。

 

「だが、今回だけは信じてやる。お前のさっきの言葉が、腑を見せたもんだってな」

「マダラ……!」

 

 柱間以外ならば、マダラは相手が何を言っても信じはしなかっただろう。

 柱間だからこそ。互いにたった一人残った弟を想い、幼子が理不尽に死す世の中を憂い、そんな世界を変えたいと努力している。

 そんな自分と同じ境遇の柱間だからこそ、その腑を見ずとも言葉を信じる事が出来たのだ。

 

「う、うう。オレは、オレは嬉しいぞ……!」

「だぁぁ! 泣くなうっとうしい! お前落ち込みやすいだけでなく感激屋でもあんのかよ!」

「うう、感動です! いけませんね歳を取ると涙もろくなってしまって……!」

「そういやいたなお前よぉ!! その歳で何ほざいてんだ!?」

 

 だーだーと涙を流す柱間の横で、一連の話を聞いて感動して涙をほろりと流しているヒヨリ。

 歳を取るとなんて言っているが、どう見ても柱間やマダラと同年代である。馬鹿にしてるのかとマダラが思っても仕方ないだろう。 

 

「で、結局お前は何なんだ?」

「日向ヒヨリ。性別女性。年齢・体重・スリーサイズは秘密です。知りたかったら私の心を射止める事ですね」

「んなこと知りたくもないわアホがァァ!」

「え……もしかしてホ――」

「そこから先は言わせねぇぞ!」

「マダラ……お前オレの体を狙って……」

「ぶっ殺す!」

 

 マダラの瞳に写輪眼が宿る。しかも勾玉は二つだ。本気の殺意である。

 

『ぎゃああああああ!!』

 

 哀れ。二人は殺意の波動に目覚めたマダラによって大地の養分と化してしまった。

 ……という事はもちろんなかったが。

 

「冗談! 冗談ですってば!」

「この! くそ! 避けるな!」

「避けるよ! 当たれば痛いでしょ!」

「落ち着けマダラ! オレが悪かったぞ!」

「黙れこらぁぁぁ! やっぱりお前とは相容れねぇぇぇ!」

 

 この騒動は柱間とマダラが倒れこむまで続いたという。

 

 




 日向は木ノ葉にて最強を実現したかった。後悔はしていない。あと、柱間とマダラの仲を保ちたかった。ついでにもう一人加えて三忍とか第七班みたいなトリオを作りたかった。後悔はしていない。







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