どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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NARUTO 第二十四話

 大地に立ち尽くし虚空を眺め続けている大蛇丸。そんな大蛇丸に止めを刺すべくサスケは千鳥を振り下ろそうとしていた。

 だが、それを止めた者がいる。大蛇丸にイザナミを仕掛けた本人であるイタチだ。

 

「待てサスケ」

 

 その言葉を聞いたサスケは大蛇丸に触れる寸前の千鳥を静止し、イタチに向かって叫んだ。

 

「どうしてだ兄さん!? こいつは生かしておいても――!? に、兄さん、その左目は!?」

 

 生かしておいても害悪しかない存在である大蛇丸に止めを刺す事を止めた兄に憤るサスケだが、イタチの左目を見た瞬間にそんな感情は吹き飛んでいた。

 イタチの左目が一切の光を映していないのである。そう、これがイザナミの反動であった。

 

「イザナミはその効果と引き換えに失明するリスクを負う……」

 

 イザナミとはイザナギを止める為に編み出された瞳術だ。

 イザナギは術者の都合の良いように運命を変えるうちはの完璧な瞳術だと言われていた。

 己の結果に上手く行かない事があればその結果を掻き消し元に戻る事が出来る。失明というリスクはあるが眼を交換さえすれば何度でもやり直せるという究極の幻術だ。

 だが、イザナギには失明以上のリスクがあった。結果を己の思うがままに変える事が出来る故に術者を驕らせ、個を暴走させる要因となったのだ。

 イザナギの術者が一人ならば問題はないが、二人以上になると都合の良い結果の奪い合いが始まるのだ。

 

 それを止める為に作られたのがイザナミなのだ。

 都合のいい結果のみに運命を変えようとすると同じところを永遠とループし続ける仕組みだ。

 だが失明をリスクとするイザナギを止める為に作られたせいか、イザナミもまた失明をリスクとしてしまうのだ。

 しかもイザナミは対象を救う為の術。故にイザナミから抜け出す方法もまた存在している。抜け道のある術など実戦では危険なので使用出来ない。そういう意味でイザナミは禁術とされていた。

 だが、そんな欠陥禁術を使ってまでイタチは何故大蛇丸を止めたと言うのか。それはサスケにも疑問であった。

 

「何でだ! どうして兄さんがそんなリスクを負ってまで大蛇丸にイザナミを掛けたんだ!? まさか大蛇丸を救うためってわけじゃないだろうな!」

 

 実力で自分たちを凌駕し、再生までするという限りなく不死不滅に近い大蛇丸を倒すのにイザナミを使ったのはサスケにも分かる。

 だがその後に止めを刺さずにいるというのは納得が出来ない事だった。抜け出す可能性があるならば今ここで止めを刺すべきなのだ。だが、イタチの考えは違っていた。

 

「今ここで大蛇丸を殺すのは簡単だ。だが、それで大蛇丸は本当に死ぬのか?」

「なに……?」

 

 そう、大蛇丸は殺しても死ぬのか。それがイタチの疑問だった。

 イタチは自来也から大蛇丸の情報を確認している。情報とは戦闘に置いて非常に重要な要素だとイタチは理解しているのだ。それに大事な弟を狙っているという大蛇丸に関して調べずにいられるわけもなかった。自来也以外にも大蛇丸の元弟子であった人物や、大蛇丸の人体実験場の跡なども調べている。

 

 イタチは様々な観点から大蛇丸を調べた。そしてその不死に対する類まれなる欲望を知ったのだ。

 そんな大蛇丸が何の保険も掛けずに木ノ葉に戦争を仕掛けるだろうか? 日向アカネの存在は大蛇丸も知っているはずだ。あのアカネを敵に回して死の危険はないと驕るだろうか?

 それはない。少なくともイタチはそう大蛇丸を評価する。敵の過小評価は死に繋がると知っているのだ。

 大蛇丸がかつての弟子に施していた呪印には大蛇丸のチャクラが籠められていた。それもただのチャクラではない、仙術チャクラがだ。これは自来也が確認したので間違ってはいないだろう。

 呪印と共に大蛇丸の意識や魂の一部を封印し、いざという時のバックアップとする。それくらいならば仕出かしかねない恐ろしさが大蛇丸にはある。そうイタチは判断していた。

 

「ここで殺しても、大蛇丸ならばいずれ何らかの形で復活する。その手はずを整えていないと、この不死身の男を相手にどうして言える?」

「それは……」

 

 イタチにそう言われてはサスケも否定しづらい。本当にそうかもしれないという不死性を大蛇丸に見せ付けられたからだ。

 忍の術には想像もつかない術も多い。そうアカネから教わり固定観念に捉われるなと言われた事がある。他の忍ならばともかく、大蛇丸ならばとサスケも思ってしまった。

 

「封印するだけなら、別の方法もあったのだがな……」

 

 そう、イタチには大蛇丸に対抗する為の力がまだあった。

 十拳剣(とつかのつるぎ)と言い、イタチの須佐能乎に備わっている三種の神器の一つ。突き刺した者を幻術の世界に飛ばして永久に封印する効果を持つ剣である。

 これならば如何に大蛇丸が不死であろうと関係なく封印する事が出来る。だが、そうしなかった理由は上記の通りという訳だ。

 

「イザナミは過ちを繰り返す限り抜け出る事は出来ない……己の間違いを認め受け入れて初めてループは終わる。その時は大蛇丸も……」

 

 不死不滅を求めた根幹。それを思い出した時、その時は木ノ葉の忍としての自身を思い出しているだろう。そうなればイタチとしては後顧の憂いがなくなるというものだ。

 イタチはけして大蛇丸の為を思ってイザナミを仕掛けた訳ではない。自来也から聞いた大蛇丸が狂いだした原因は確かに同情の一つもするが、それでも大蛇丸がしてきた事は同情を遥かに凌駕するほどの罪なのだから。

 ならばなぜイタチは大蛇丸にイザナミを使用したのか。……それは全てサスケの為であった。

 大蛇丸が生きている限りサスケは狙われ続けるだろう。ここで殺してもどこかで復活する恐れのある大蛇丸だ。殺しても安心し切ることなど出来はしない。

 だからこそのイザナミだ。イザナミならば大蛇丸の性根を正してくれる。それだけの力を秘めた術だ。イタチはサスケが永遠に狙われ続ける僅かな可能性よりもイザナミによる矯正に賭けたのだ。

 

「……分かった。だが、もし大蛇丸がイザナミから抜け出ても変わっていなかった時は……」

「ああ、その時はお前の好きにしろ。オレも力を貸す」

 

 サスケとしては完全には納得出来なかったが、イタチが失明してまで大蛇丸に僅かな希望を与えたのだ。その兄の意思を無にするような事はしたくはなかった。

 折衷案として出したのがイザナミを抜け出た後の大蛇丸の処置だ。もしそれでも大蛇丸がなんら変わっていなかったら……。

 イザナミが術としての効果を発揮している以上その可能性はないが、それで少しでもサスケが納得してくれるならとイタチはその言葉に了承した。弟の為に失明したというその考えを自分の中で飲み込んで。

 

「……いや、その時はオレ一人の力で大蛇丸を倒す。いつまでも子ども扱いは止めてくれよ兄さん」

「ふ……そうだったな。許せサスケ」

 

 既にサスケの実力はイタチに迫っている。いや、万華鏡写輪眼がなければサスケはイタチ以上と言えるだろう。

 だが子ども扱いしないでくれと呟くサスケはやはりイタチにとってはまだ子どもと言える愛しい弟だ。

 そんなサスケに対してその額を指で小突くイタチに、それを子ども扱いされていると見て不満そうに睨むサスケ。

 

「さて、何時までもこうしている訳には行かないな……戦闘はまだ続いている」

「分かっている。だが、オレ達も大分消耗してるぞ……」

 

 イタチの言う通り、木ノ葉の里ではまだ暁との戦闘が続いている。

 だがサスケの言う通り現状の二人はかなり消耗していた。既に写輪眼を維持する事も難しい状態であり、その戦闘力は通常時の三割にも満たないだろう。

 そんな状況で戦線に加わっても足手纏いになりはしないだろうか。それがサスケの不安であった。

 

「そうだな……取りあえず補給の為に兵糧丸を受け取りに行くか」

 

 兵糧丸は食べるとチャクラを回復・増幅させる効果を持つ丸薬だ。と言っても増幅はサスケ達クラスになると殆ど効果を及ぼさないが。

 回復に至っても二人のチャクラ量ならば完全回復させるには大量の丸薬を食さねばならないだろう。だがないよりはマシだと判断して二人は補給の為に医療施設へと移動しようとして――

 

『っ!?』

 

 ――突如として、二人の周囲が爆発した。

 

 

 

 

 

 

 木ノ葉の里の一角にて木ノ葉の小隊と暁が戦闘を繰り広げていた。

 小隊は三代目火影の息子である猿飛アスマを隊長とした四人一組(フォーマンセル)で、そのメンバーはアスマの弟子であった奈良シカマル・山中イノ・秋道チョウジのいわゆるアスマ班である。

 彼らは暁が攻め込む前に焼肉店にて食事をしていたのだ。そして暁が攻め入った事でそのまま小隊を組み、暁に対抗しているのである。

 

 対する暁は不死コンビと名高い飛段と角都の二人一組(ツーマンセル)だ。暁でも珍しく二人一組(ツーマンセル)として機能しているコンビである。

 というのも暁は二人一組(ツーマンセル)で動く事を基本としているのだが、我が強い暁のメンバーは二人一組(ツーマンセル)を組んでもまともに小隊としての機能が働かないのである。

 まあ、この二人も我が強い事に変わりはないのだが、それでも二人の特異な能力が噛み合っている為に他のメンバーよりも二人一組(ツーマンセル)として機能しているのだった。

 

「この、化け物め!」

 

 悪態を吐きながらアスマは飛段に向かって火遁・灰積焼を放つ。チャクラを高熱の灰に変化させて口から吹き出し、奥歯に仕込んだ火打石による火花で着火させて爆発させる術だ。

 灰という粉塵故に広範囲に広まる点ではなく面を重視した術である。その分自分や味方を巻き込まない様に注意する必要があるが。

 灰積焼は確実に角都と飛段の二人を飲み込みそして着火、その爆発は二人に着実なダメージを与えた……はずだった。

 

「痛てーじゃねーかおい」

 

 飛段は確かに眼に見えるダメージを受けていた。灰積焼の爆発により全身の至る所に火傷が見られる。

 だがその動きには一切の陰りが見られない。言動からも痛みは受けているが何ら行動に支障がない様に見受けられ、しかもその火傷はすぐに消失してしまった。

 

「無駄な事をするな。手間を掛けさせずにさっさと死ね」

 

 角都に至ってはダメージすら見受けられなかった。どんなカラクリがあるのか、先の灰積焼を無傷で切り抜けたらしい。

 そして角都の興味はアスマに向けられていた。アスマの忍衣装にある火の紋様。それが裏の社会では多額の賞金を懸けられている守護十二士の証だからだ。

 角都は「信じられるのは金だけだ」と豪語するほどに金に対して執着心があり、その角都にとってアスマはまさにお宝なのだ。

 残りの三人はどれだけ強かろうが角都にとってはゴミに過ぎない。せいぜいがここで生き延びればその内いい賞金首になるかもな、くらいの感情しか持っていないだろう。

 

「何なんだこいつら……!?」

「全然こっちの攻撃が効いてないじゃない!」

 

 チョウジとイノが思わず叫ぶのも無理はない。ここまでの戦闘で飛段と角都は多くの忍を屠ってきた。

 その戦闘でどれだけの攻撃を受けてもすぐに再生するか、全くの無傷かで切り抜けているのをその眼で見たのだから。

 

「……」

 

 飛段と角都を見てシカマルは思考する。完全な不死身なんてあるわけがない。あったとしても対処法はあるはずだ、と。

 飛段は攻撃を受けると傷は負っている。それがすぐに元に戻っているだけだ。だが四肢の欠損までは自力での再生は出来ていなかった。つまり修復能力はあれど再生能力はないという事だ。

 角都は殆どの攻撃を回避するか、受けても無傷で切り抜けている。つまりダメージを受けない様にする術か何かがあるだけで、飛段のような不死性はないと予測される。

 

 ここまではいい。問題はその為にどうすればいいかだ。圧倒的に準備が足りていないのだ。能力を知っても対処する為の道具や準備がなければどうしようもない。それだけの力の差が現状のアスマ班と不死コンビにはあった。

 しかも敵の能力は完全に詳細が割れていないのだ。どんな力を隠し持っているかも分かっていないこの状況でどうやって勝てばいいのか。

 これが野外での遭遇戦ならばどうにかして逃げの一手を打つ事も出来ただろうが、これは里を舞台とした防衛戦なのだ。ここで退いていつ戦うと言うのか。

 

「どうにかして私の術が決まれば……」

 

 山中一族であるイノは一族に伝わる秘伝忍術を会得している。それが心転身の術だ。対象に自分の精神を直接ぶつけて対象の精神を乗っ取る術である。これならば確かに勝機は作る事が出来るかもしれない。

 いや、それでも難しいとシカマルは判断していた。心転身の術には対象の精神を乗っ取っている時に、その対象が傷つけば術者自身も傷つくというリスクがある。不死の敵が相手では一方的にこちらにダメージが蓄積されるだけという可能性もあった。しかも心転身の術は一度不発してしまうと数分は元の肉体に戻れないという欠点もある。うかつに使用する訳にもいかない術なのだ。

 強敵の一人を操れば確かに有利になるかもしれないが、まだ敵の能力が割れていない状況ではリスクが高すぎる作戦だった。

 

「さて、こいつら結構やるからこれを使うとするか」

 

 シカマルが僅かな時間に数十もの策を講じている内に飛段が動き出した。自身の体から流れていた血を使って地面に陣図を描き、その中に入る。そして三つの刃がついた異様な大鎌をアスマ班に向けて……振るった。

 

 飛段とアスマ班の距離は大鎌が届く範囲ではないが、大鎌の柄の先端には縄が付けられており、実際の攻撃範囲よりも遥かに延びて届く仕組みになっている。その大鎌を巧みに操って飛段はアスマ班へと攻撃を繰り返す。

 

「お前ら下がっていろ!」

「くっ!」

「きゃあ!」

「うわぁっ!」

 

 アスマは三人を庇う様に前線に立ちその大鎌を捌く。

 イノは医療忍者であり特殊な秘伝忍術の使い手であまり体術は得意ではなく、チョウジは体術は得意だがどちらかと言えば圧倒的な質量による攻撃がメインで回避はそこまででもない。シカマルは頭脳はずば抜けて優れているが体術に関してはイノ以上チョウジ以下と言ったところだ。そんな三人ではこの攻撃を捌く事が出来ないと判断してアスマは代わりに攻撃をひき付ける。

 その間にシカマルが打開策を立て、それを二人がサポートしてくれれば。そう頼りに思う程に三人の力が合わさった時の爆発力は侮れない物があるとアスマは確信していた。

 だが敵は飛段一人ではないのだ。アスマの思う通りにシカマル達の手はずが整うのを待ってくれるわけがなかった。

 

「オレもやる。面倒事は残っているんでな」

「しゃーねーな。んじゃさっさと終わらせますか!」

 

――水遁・牙流愚虞(げるぐぐ)!――

 

 角都の左肩から突如として奇妙な面が現れ、そして強力な水遁を放った。高圧水流により鋭い刃と化した水刃が無数に飛び交いアスマ達を襲う。

 

「おおお!」

 

 その水刃をアスマは己のチャクラを籠めたチャクラ刀にて切り裂いていく。

 このチャクラ刀とは使用者のチャクラ性質を吸収する特別な金属で出来ており、アスマの風のチャクラ性質を吸収した事で非常に鋭利な刃と化しているのだ。

 次々と迫る水刃の全てを切り裂いたアスマに角都は称賛の言葉と共に新たな術を放った。

 

「やるな。だが、これはどうだ?」

 

――雷遁・偽暗(ぎあん)!――

 

 角都の右肩に現れた新たな面が強力な雷遁を放った。それもアスマに直接ではなく、地面に向かってだ。

 

「し、しま――がああああっ!」

 

 アスマの周囲の地面は先の水遁により水に覆われていたのだ。例え防がれたとしても次の一手に繋がる攻撃を仕掛ける。角都が数多の戦闘を潜り抜けてきた猛者だと理解させる攻撃であった。

 足元の水分を伝って雷遁はアスマにまで到達した。直接命中してないが故に致命傷には至っていないが、それでも電撃による麻痺は起こる。そこを飛段の大鎌が狙いをつける。このコンビの必勝パターンの一つであった。

 

「させっかよ!」

 

 自分たちの先生であるアスマを見捨てる訳もなく、シカマル達はその大鎌の一撃をどうにかして食い止めようとする。

 イノとチョウジは苦無や手裏剣などの忍具で大鎌を少しでも逸らし、シカマルは奈良一族秘伝・影真似の術にて麻痺したアスマを操りその場から離れさせようとする。

 影真似の術は術者の影を自在に操作し、術者の影と対象の影を接触させる事で自身の動きを対象に真似させるという特殊な術だ。

 この術で敵の動きを封じて味方の術のサポートをするのが本来の使い方だが、今回の様に身動き出来なくなった味方を助けるという使用方法もある。

 

「ぐ、た、助かったぞお前たち……」

 

 飛段の大鎌はアスマの腕を僅かに切り裂いただけだったようだ。あのまま放置していれば確実に死んでいただろうからこの程度は軽傷と言えるだろう。

 九死に一生を得た事を弟子であり成長した仲間に礼を言うアスマ。だが、そんなアスマを嘲笑うかのように飛段は大鎌に付着したアスマの血を舐めて笑い声を上げた。

 

「ゲハハハハハ! 無駄だ無駄だ! 既にてめーはオレに呪われた! これより儀式を始める! さアァ! オレと一緒に最高の痛みを味わおーぜェェ!!」

 

 いつの間にか全身に黒い紋様が浮かび上がった飛段。そんな飛段の言う呪いという、アスマ達が理解出来ないその言葉を実証するかの如く、飛段は鋭く細い槍状の武器を懐から取り出し……己の左足に突き刺した。

 

『っ!?』

「ぐあっ!?」

 

 自身の肉体を傷つけるという意味不明な行動にシカマル達は誰もが唖然となり、その真意を問う前に目の前でアスマが痛みに呻き出した。

 

「アスマ!?」

「先生!?」

「な、何で!? どうしてアスマ先生まで――」

 

 どうしてアスマまで、飛段と同じ左足に怪我を負っているのか。

 三人が見ればアスマが手で抑えている左足からは血が流れ出している。先程まではそんな箇所に攻撃を受けた様子は確かになかった。しかも血が出ているのに何故衣服には傷一つないのか。

 しかも飛段が突き刺した左足の太ももと、アスマに突如として現れた傷の箇所は完全に一致していた。ここまでの一致が偶然の一言で片付けられていいのだろうか。

 

 もちろんそんな偶然などあるわけがない。これこそが飛段の最悪の呪術・死司憑血(しじひょうけつ)の効果である。

 地面に描いた図の上に立ち、そして呪いたい対象の血を舐めて体内に取り入れる。これが死司憑血の発動条件だ。

 そしてその状態で自身の肉体に傷を与えると、血を取り込んだ対象の肉体にも同じ傷が浮かび上がる。

 

 これだけならば相打ち用の自爆技と言えなくもない。だがこの呪術の術者は不死身の飛段であり、呪われた対象は不死身ではない。つまりこの状況になれば一方的に相手にのみ致命傷を与えることが出来るという訳だ。

 

「痛てぇだろ!? ゲハハハハ! だが急所はこんなもんじゃねーぞォォ! あの痛みは最高だ! 他人が死ぬ時の痛みがオレの身体の中に染み込んで来る! 痛みを通り越して快感に変わるゥ!」

 

 完全に狂人の嗜好であった。痛みを苦として受け入れず快楽とする。そういう性癖の人間はいるが、死すら厭わぬ痛みを以ってそう受け止める者など飛段以外にいるのだろうか。

 しかも他人の死すら快楽を彩るスパイスとしているのだ。これを狂人と言わずに何と言うのか。

 

 シカマル達は飛段のその狂い様を見て青ざめるが、それ以上にこの状況をどうにかすべく思考を張り巡らせ行動を開始していた。

 飛段がダメージを負えば同じダメージをアスマが負う事は理解出来た。ならばそれを止める為に飛段を出来るだけ傷つけずに動きそのものを止めなければならない。飛段を攻撃してはアスマが傷つくだけで、不死身の飛段の動きは止まりようがないのだ。

 

「シカマル! イノ!」

『分かってる!』

 

 この状況を覆す事が出来るのはシカマルの影真似の術とイノの心転身の術のみ。チョウジがそう判断して二人に叫ぶが、それを黙って見過ごす角都ではなかった。

 

「何をする気かは知らんが、邪魔はさせん」

 

――風遁・圧害(あつがい)!――

 

『うわあああぁっ!?』

 

 角都の肉体に新たに現れた別の仮面が強力な風遁を放つ。シカマル達はその対応に精一杯で飛段の動きを止めるどころではなかった。

 そしてシカマル達が動きあぐねている中、飛段は己の心臓にその鋭い槍を突き刺した。

 

「アスマァァッ!!」

 

 飛段とアスマのダメージはリンクしている。ならばアスマは心臓を貫かれた事になる。……その結果が理解出来ない者はこの場にはいないだろう。

 

「っ……ん? これは……」

「先生!? 無事なの!?」

 

 だが結果は全員の想像とは違った物となっていた。アスマの心臓……左胸付近からは僅かに血が流れているが、それだけだ。

 アスマ本人も不思議がっており左胸を抑えている。どうやら致命傷には至っていないようだ。

 飛段の術に対する予想が間違っていたのか? そう思い飛段を見やるアスマ班だが、そこには怒りに震えている飛段の姿が映っていた。

 

「……誰だ神聖な儀式の邪魔をした奴はよぉ!?」

 

 飛段はそう叫んで右手に持っていた槍を投げ捨てた。その槍は根元から折れており、鋭く尖った先端は大地に転がっていた。

 そう、飛段の術の効果はアスマ達が予想していた通りだ。だが飛段が己の心臓を突き刺す瞬間に、その槍が根元からへし折れた為に僅かに左胸に傷を作るしか出来なかっただけだったのだ。

 

 誰かが遠距離から槍をへし折った。そう悟った飛段は周囲を見渡し、そして発見した。数十メートルは離れた位置から掌をこちらにかざしている一人の少女の姿を。

 

「てめーか! ――っ!?」

 

 儀式の邪魔をした張本人を見つけた飛段は制裁を加える為に大鎌を振りかざそうとするが、大地からの奇襲によりそれを阻止される事となる。

 

「ひゃっほう!」

 

 大地を削りながら現れたのは一人の少年と一匹の犬だ。高速回転により大地を削りながら地中を進んで来たようだ。

 その攻撃は飛段が立っていた図を破壊した。それを見て飛段は思わず舌打ちをする。

 

「ちぃっ! やってくれたなてめー!!」

「その反応。どうやらその図がお前の術には必要な様だな」

 

 その言葉に飛段は後ろを振り向く。そこには先ほど地面から現れた少年とは別の少年が一人立っていた。そしてその傍に槍を破壊した少女と図を破壊した少年と犬が集合する。

 

「良く分かったなシノ! あの図を破壊すりゃいいってよ!」

「そうでもない。なぜなら、敵の用意した物を怪しむのは忍として当然の事だからだ」

「ううん、私には分からなかったからやっぱりすごいよシノ君」

 

 怒りを顕わにする飛段を無視して談笑する三人。その三人を見てシカマル達は希望の笑みを浮かべる。

 

「お前ら……!」

「へっ、苦戦してんじゃねーかシカマル! オレらに任せて休んでいてもいいぜ!」

「あまり強い言葉を言うものじゃない。なぜなら、弱く見えるからだ……」

「アスマ先生! みんな! 私たちも加勢します!」

 

 窮地に陥っていたアスマ班に援軍が現れた。そして他の木ノ葉の戦いにも――

 

 

 

 

 

 

 鬼鮫は襲い来る木ノ葉の忍の全てを返り撃ちにしていた。

 水遁は水がない所ではその規模が縮小されるというのが一般的な忍の常識だ。

 だが鬼鮫はその常識を無視する程の水遁使いであり、しかも得意なフィールドを自ら作り出す事さえ出来るのだ。

 これも鬼鮫が有している圧倒的なチャクラの量による代物だ。そして鮫肌という特殊な大刀を得物としている鬼鮫に対抗出来る忍はいなかった。

 

 既にどれだけの忍が犠牲となっているか。水遁に強いはずの土遁使いも木ノ葉には少なからずいるが、その相性の差を覆す実力を鬼鮫は有していた。

 土遁を得意とする岩隠れの忍ならばもしかしたら鬼鮫に対抗する事も出来たかもしれないが、火遁を得意とする者が多い木ノ葉の忍にとって鬼鮫は鬼門と言っても良い敵だった。

 

「忍五大国最強と言われる木ノ葉も案外大した事ないんですねぇ。これなら霧隠れの方が歯応えが――」

 

 その呟きは最後まで言葉として発する事は出来なかった。

 攻撃を受けた訳ではない。誰かに話しかけられたが為に遮られたのではない。

 ならば何故か。それは……無駄口を叩く余裕もなくなる程の敵意をその身に受けた為だった。

 

「これは……!」

 

 鬼鮫はプレッシャーを感じ取った方向に振り向き、そしてその持ち主を発見した。

 

「次のお相手はあなたのようですねぇ。どうやら大物のご様子……お名前を伺っても?」

 

 崩れ掛けた建物の上に立ち自身を見下ろすその忍に鬼鮫は問い掛ける。

 これまでの忍とは一線を画すその貫禄と放たれる気配から余程の大物だと理解したようだ。そしてその忍は鬼鮫の言葉に対して返事を返した。

 

「貴様に名乗る名などない。だが、この言葉だけは魂に刻んでおけ……日向は木ノ葉にて最強。来世があるならば思い出す事だ。我らに敵対せぬようにな!」

「これはこれは……! 日向の御大ですか! ならばその言葉が真実かどうか、確かめさせて頂きましょう!」

 

 日向当主にして一族最強の男、日向ヒアシ。

 尾を持たない尾獣、霧の怪人干柿鬼鮫。

 二人の強者がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧倒的な力を振るい木ノ葉に痛みを与え続けるペイン六道。

 その力は自来也が齎した事前情報により、警戒を重ねて作戦を練った所で無意味と言わんばかりであった。多くの忍が様々な攻撃をするも、術の多くは餓鬼道に吸収され、物理攻撃の多くは天道に弾かれる。

 いや、そもそも単純な実力で圧倒的な差があるのだ。この二体に攻撃を無効化される以前に輪廻眼による視界共有で全ての攻撃は見切られ回避されるのが殆どだ。

 六体が揃ったペイン六道に勝てる忍は居はしなかった。自来也の実力が高くなまじ善戦をしてペインの能力の多くを里に持ち帰らせた事が、逆にペインを警戒させていた。

 そうでなければペインは六道をばらばらに動かして木ノ葉の里に痛みを振りまいていただろう。それならばまだ各個撃破の目があったのだが……。

 

「うう……」

「まだ息があったか。せっかくだ。うずまきナルトはどこだ?」

 

 無数の忍が返り討ちにあった中、一人の忍が命を長らえていた。だがペインはそれをむしろ幸いだと利用し、その頭を掴み魂と共に記憶を抜き取ろうとする。

 どれほど強固な精神をしていようと、魂から直接記憶を盗み見る人間道の力の前では無力だ。数秒も経たずにこの忍は知っている情報を洗いざらい読み取られるだろう。

 だがその前に人間道はその忍から手を放した。記憶を読み取り終わった訳ではない。そうする前に手を放さざるを得ない状況に陥ったのだ。

 

「……大した物だ。このペインを相手にここまで気配を感じ取らせないとはな」

「……」

 

 人間道がゆっくりと首を動かし、ある人物に語りかける。そこには忍刀を右手に携えて左手に先の忍を抱えている一人の老人の姿があった。

 そう、この老忍に切り掛かられた為に人間道は咄嗟に記憶を読もうとした忍から手を離したのだ。

 

「一人か。このペイン六道を相手にそれは自殺行為だな」

 

 残る五人のペインもその老忍を取り囲む。一対六。かの二代目三忍自来也でさえ覆せなかった戦力差だ。この老忍にそれを覆すことが出来るのだろうか。

 老忍はペインの言葉には耳も傾けずに忍術を放つ。

 

――風遁・真空玉!――

 

 老忍の口から数発の真空の弾が放たれた。だが、それはペインに取っては児戯と言っても良いレベルの術であった。

 

「下らぬ。この程度の術――」

 

 この程度の術など餓鬼道で吸収するまでもない。そうペインは思い、そしてそれは老忍の予想通りの反応であった。

 

――火遁・豪炎の術!――

 

「!?」

 

 突如として現れた新たな老忍が真空玉に向けて火遁の術を放った。それにより真空玉は一つ一つが豪炎と化し、威力を高めてペイン六道へと襲いかかる。

 

 咄嗟の判断で天道がその力――神羅天征――にて全ての豪炎を掻き消した。その判断力は流石は暁を統べる者というべきだろう。だが、能力を使用した瞬間を狙う者達がこの場には隠れ潜んでいた。

 

――水遁・水龍弾の術!――

――風遁・真空波!――

 

 水で形作られた龍がその勢いで敵を圧殺しようと迫り、それを風遁の真空波が後押しして水龍の圧力を更に高める。二つの術が同じチャクラ比率で合わさった事で更に威力を増して天道へと迫って行った。

 

「っ!」

 

 それに対して天道は神羅天征にて術を弾く事が出来ないでいた。

 斥力を操りあらゆる物理的な攻撃を弾く事が出来る神羅天征にもある欠点があった。それが術と術の間に必要とするインターバルである。この合体忍術はその隙を狙っての攻撃だったのだ。

 

 無防備となった天道の前に餓鬼道が現れてその合体忍術を吸収する。どれだけ強力な術だろうと忍術ならば餓鬼道の前では無力となる。

 だがその行動が天道の能力に限界がある事を木ノ葉の忍に教える事となった。

 

「なるほど。やはりフカサク様が仰った様にあの術を弾き返す能力にはインターバルがあるようですね」

「大丈夫か三代目様! ダンゾウのじいちゃん! オレ達が来たからにはもう安心だぜ!」

「じいちゃんって……ちょっとオビト! ダンゾウ様に失礼でしょ!」

「……構わん。ここでは無礼講とする。それよりもヒルゼン、衰えてはおらんだろうな?」

「ふん、お主の風遁に完全に合わせておっただろうが」

 

 三代目火影猿飛ヒルゼン。根のリーダーにして裏の火影志村ダンゾウ。四代目の弟子にして日向アカネの弟子でもあるはたけカカシ・うちはオビト・野原リン。

 ペイン六道の前に五人の忍が立ちはだかった。

 

 

 

 

 

 

 

 毒と傀儡。この二つの武器でサソリは木ノ葉の里を蹂躙していた。

 それ以外の忍術らしい忍術は使用せず、したとしてもそれは人傀儡が放つそれのみ。毒も傀儡に仕込ませている武器だ。つまりサソリは傀儡人形の力のみで木ノ葉と言う大国を相手取り蹂躙しているのだ。それだけサソリが傀儡師として優秀だという事である。

 

 だが、意外にもサソリの相手をした木ノ葉の忍の中で毒によって死んだ者は少なかった。サソリがその身体から生やしている蛇腹状の刃の尾にはかすり傷一つでも死に至る毒が塗られている。

 だがそれで死んだ者は致命傷を負った忍のみで、多少の傷ならば物ともせずに動いていたのだ。毒による朦朧もなく攻めて来る忍を見てサソリは怪訝に思っていた。

 

(どういうことだ? 急に毒で死ぬ忍が少なくなった)

 

 そう、急になのだ。奇襲を仕掛けた当初は毒は非常に有効に効果を発揮していた。

 だが突如として毒の効き目が薄くなったのだ。いや、効いている節は見られるのだがいつの間にか治療されているというべきか。

 

「馬鹿な。オレの毒にこの短時間で解毒薬を作ったなど……有り得ん」

 

 サソリは傀儡人形の造詣以外にも毒に対しても非常に詳しく、この特別製の毒もサソリが手ずから配合したものだ。

 その配合率を見抜くのはサソリの師であったチヨバアにも不可能だと言われている。その毒に対する解毒薬をこの僅かな時間でどうやって入手したと言うのか。

 毒の入手、調合配分の検査、解毒薬の調合。これだけの事を僅かな時間で出来る者などいるわけがない。

 だが実際にサソリの毒は大部分が無効化されてしまっている。一体どういうことなのか。それを調べる為にサソリはわざと生かしておいた忍をその尾で持ち上げた。

 

「う、うう……」

「おい、きさまは解毒薬を持っているだろう。見せろ」

「な、何の事だか分かりませんね……」

 

 眼鏡を掛けたその忍はサソリの言葉に対して不敵に笑ってそう白を切る。そう、白を切ったのだ。つまりこの忍は解毒剤を持っているのだ。何故木ノ葉の忍が暁のサソリの毒に対する薬を持っているのか。その答えは春野サクラにあった。

 

 サクラは砂影奪還の任の時にサソリの毒にやられた砂の忍を診察し解毒した。その際に毒の配合を見抜き解毒薬を作っていたのだ。サソリとの戦闘に備えて砂隠れの里にあった薬草を調合することで解毒薬を三つ用意していたサクラだったが、暁が早々に退き上げた事でその解毒薬は使用される事はなかった。

 だが役に立たなかった訳ではない。いずれ暁が攻め込んで来るだろうと予測していた綱手はサクラに解毒薬の量産をさせていたのだ。そして今回の暁侵攻により、サソリに立ち向かう忍に解毒薬が普及したのである。

 

 そうと知らないサソリは半死半生の忍に問い掛ける。もっとも、サソリとしてはいちいち死体を探って解毒薬を見つけるのが手間だからこそこうして直接確認しただけであり、教える気がないならわざわざ生かすつもりもなかった。

 

「そうか、なら死ね」

 

 躊躇なくその尾を振り払い忍を空中に投げ捨て、止めを刺そうとするサソリ。

 だがその前にサソリに対して奇襲を仕掛けた忍がいた。いや、忍と言ってもいいのだろうか。それはまだ年若い少年だった。確かに少年は忍ではある。だが少年はまだアカデミーを卒業して間もない下忍であった。

 木ノ葉を襲う暁は誰もが恐ろしい使い手だ。アカデミーを卒業したばかりの下忍が相手に出来る代物ではない。事実少年も暁の猛攻に怯えて隠れ潜むしか出来なかった。

 それでも少年は恐怖を振り払い暁に立ち向かった。殺されそうになった恩師を助けるために。

 

「おっと」

 

 そんな少年に対してサソリは無造作にその尾を振るった。所詮はガキ、どうという事はないとばかりに。

 だがその結果を見てサソリは眼を見開いた。少年は影分身を用いて小さいが確かに螺旋丸を作り出し、サソリの尾を破壊したのだ。

 これにはサソリも驚きだった。そして冷徹な眼でこの結果を生み出した少年を見下ろした。

 

「う、うう」

「に、逃げなさい木ノ葉丸君……! ここは私が時間を稼ぎますから!」

 

 サソリの生み出した圧倒的な圧迫感に少年は、木ノ葉丸は気圧されてしまう。

 無理もない。如何に才はあろうがまだ少年なのだ。そんな木の葉丸を見て死に体だった忍、エビスはその身体に鞭を打ってどうにか木ノ葉丸を逃がそうとする。

 

「に、逃げない。オレは、ナルトの兄ちゃんと火影の名を賭けて、いつか勝負するって約束したんだ!」

 

 それは木ノ葉丸がまだ幼く、そして三代目火影の孫という立場だけでちやほやされていた事に嫌気が差していた頃の事だ。

 そんな時に木ノ葉丸はナルトと出会い、そして変わったのだ。誰も彼もが火影の孫として自分を見て、木ノ葉丸として見てくれなかった。

 だがナルトは違った。木ノ葉丸を等身大の木ノ葉丸として見て受け止め、そして火影を目指すライバルだと言ってくれたのだ。

 それから木ノ葉丸はナルトを目指して進むようになった。だから木ノ葉丸は逃げ道を選ばない。その先に、尊敬するライバルはいないと知っているのだから。

 

「うおおお!」

「木ノ葉丸君……」

 

 大きく成長した木ノ葉丸を見て、そしてその成長を促したのが里の嫌われ者と言われていたナルトだと理解して、木ノ葉丸の教師役だったエビスは嬉しく思う。

 だが、どれだけ木ノ葉丸が精神的な成長を見せようと敵は暁。その差は果てしなく、残酷なまでに大きかった。

 

 木ノ葉丸は再び作り出した螺旋丸をサソリに叩きつけようとするが、奇襲ですらないそれはサソリに完全に見切られていた。

 注意すべきは螺旋丸のみ。それ以外は突出した動きも見られない下忍の域を出ない忍だ。それがサソリの木ノ葉丸に対する評価だった。この歳で螺旋丸を放った事に驚愕した為に一瞬の隙を生んだが、それも最早ない。木ノ葉丸の命運は尽きたも同然だった。

 

 エビスはどうにかして木ノ葉丸を救おうと足掻くが、サソリによってボロボロとなったその身体は意思に反してまともに動いてはくれなかった。

 

 サソリが半ばから砕けた尾を振るう。それだけで木ノ葉丸はこの世を去るだろう。そんな未来を見たくなく、思わずエビスは眼を背けてしまった。

 

「……何者だ?」

「……?」

 

 サソリが放った言葉はエビスが想像した未来にはないものだ。

 エビスは恐る恐ると眼を開き、そしてサソリの前に立つ一人の少年を見た。

 

「な、ナルト兄ちゃん!」

 

 そう、その少年はうずまきナルト。暁が求めていた最終目標その人であった。

 

 ナルトは妙木山にて仙術の修行に明け暮れていた。だが木ノ葉が暁によって攻め込まれた時に木ノ葉に残していた連絡用の蛙がその事実を妙木山へ持ち帰り、ナルトやフカサク達に伝えたのだ。

 慌てたナルトはすぐに木ノ葉に帰ろうとしたが、ナルトの仙術修行には一つ問題があった。それはナルトの中に封じられている九尾のチャクラの影響により、ナルトとフカサクが仙法両生の術にて融合する事が出来ないという事だった。

 これでは戦闘中に仙人モードになる事は難しいと言える。仙人モードになるには自然エネルギーを吸収する必要があるが、その為には一切の身動きをしてはならない。戦闘中にそんな事をすれば致命的な隙を作ってしまうだろう。

 それを防ぐのが仙人蛙との融合なのだが、ナルトはそれが出来ない。ならばどうすればいいのか。

 

 その答えに行きつくのに少々の時間が掛かってしまったのだが、ナルトは独自のアイディアでそれを解消し、こうして木ノ葉の里に戻って来たのだった。

 

「おう、良く頑張ったな木ノ葉丸。流石はオレのライバルだってばよ!」

 

 邂逅一番に放ったナルトのその言葉は、木ノ葉丸にとって最高の言葉だった。思わず目頭が熱くなるが、敵を前にして泣くわけにはいかないと木ノ葉丸は顔を拭う。

 

「木ノ葉丸。エビス先生を連れてここから離れてろ」

「でも!」

 

 一人で暁に挑もうとするナルトを木ノ葉丸は案じる。だが、そんな木ノ葉丸にナルトは自信満々に答えた。

 

「大丈夫だ。オレに任せとけ!」

「……うん!」

 

 その言葉と笑顔は木ノ葉丸に何の疑いも抱かせなかった。木ノ葉丸はすぐにエビスを抱え、ナルトの邪魔にならない様にその場から離れていく。

 それをサソリは黙って見ていた。当然だ。目の前に最高の獲物が現れたのだ。他の有象無象など放って置いても何の支障もない。

 

「ターゲットが自らのこのこと現れるとはな。先ほどのガキも無謀にも実力差を省みずにオレに挑んできたり……木ノ葉には馬鹿しかいないのか?」

 

 サソリの馬鹿にしたような物言いに対してのナルトの返答は……サソリには見切る事が出来なかった。

 

「――ッ!?」

 

 一瞬。ほんの一瞬でナルトとサソリの間にあった距離は零となり、ナルトが放った螺旋丸がサソリの肉体を打ち砕いた。

 

「……それがてめーの本体か」

 

 いや、砕いたのはサソリの肉体ではなかった。今まで木ノ葉の忍がサソリだと思っていたのはサソリが操る傀儡人形の一つ、ヒルコだったのだ。

 サソリはヒルコの中に潜みそこからヒルコを操り行動していたのだ。そしてサソリはナルトの攻撃が回避不可能と悟り、ヒルコを破棄して脱出する事で難を逃れたのである。

 

「やるな……まさかオレ本体が出張る事になるとはな」

「うっせーよ。木ノ葉をこんなに無茶苦茶にしやがって……ぶっ飛ばしてやる!」

 

 仙人に至ったナルトと百の傀儡を操るサソリが戦闘を開始した。

 

 




 ちなみにガイ班は外で任務中。

 角都が使った水遁・牙流愚虞(げるぐぐ)はオリジナルです。角都が地怨虞 (じおんぐ)にて手に入れた性質変化の術のうち、原作で水遁だけはカカシの奇襲で殺された為に出てきませんでしたので、こうして作ってみました。







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