どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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NARUTO 第二十五話

 アスマ班の危機に駆けつけた夕日紅上忍が率いる第八班、通称紅班。

 だが担当の紅は妊娠中の為とても戦闘に参加する訳にも行かず一般人と共に避難している。

 なのでこの場に現れたのは日向ヒナタ・犬塚キバ・油女シノの三人の中忍だけである。

 

 三人が援軍として駆けつけて来たおかげでアスマは九死に一生を得た。だがアスマのその心境は複雑であった。

 確かに援軍は心強い。だが彼らはまだ中忍の身だ。現在アスマ達が戦っている敵はあまりにも強大であり、中忍レベルが何人集まろうとも焼け石に水と言える程の実力差があった。

 アスマも紅班の実力は知っている。三年前の時点ではアスマ班と比べてそれほどの差はないレベルだった。この三年間で強くなっているだろうがそれも予測が出来るレベルだろう。

 つまり自身の班員であるシカマル・チョウジ・イノと極端には変わらない実力だと予想していた。それでは駄目なのだ。

 いや、シカマル達もキバ達もそれぞれ突出した一芸とも言える秘伝忍術や血継限界を有している。これは普通の忍にはない強みであり、彼らをそこらの中忍と比べて一際輝かせる武器となっている。

 それでも、それでも暁との間には果てしなく高い壁があるのだ。今は退き、情報を持ち帰り、準備と戦力を整えてから再び暁と相対する。それが今するべき最適な戦術。その為の捨て駒となるのが……。

 

「お前ら! 一旦退け!」

 

 アスマはアイアンナックル――メリケンサックとナイフが合体した形状のチャクラ刀――を両手に構えて叫ぶ。

 捨て駒となるのは自分。それ以外の者ではこの敵を相手に撤退の為の時間稼ぎすら出来ないと判断しての考えだ。

 

「ふざけんな! あんた一人で死ぬ気かよ! 足止めならオレがやる! オレの能力の方が最適だ!」

「お前なら理解しているはずだ! 今はこれが最善の手だ! オレの言う事を聞け!」

 

 アスマの言動からその考えを見抜いたシカマルは到底賛同出来ないとばかりに叫んだ。だがアスマはそんなシカマルを怒鳴りつける。

 そう、シカマルとて理解しているのだ。この状況で最も正しい行動は一人を犠牲にして一度撤退する事だと。

 シカマルは既に飛段の能力をおおよそ理解していた。死司憑血(しじひょうけつ)の発動条件は呪いたい対象の血を取り入れる事と、地面に描いた図の上に立つ事だと。

 この情報があれば飛段の能力を逆に利用する策も取れる。だがその為には必要な準備という物がある。一度撤退しなければそれは叶わない。

 

 そして撤退する為にはどうしても足止めが必要になる。そして足止めにはシカマルの言う様に奈良一族の術が確かに最適だ。

 だがシカマルの真骨頂は術ではなくその頭脳にある。敵の能力を理解し反撃の策を思いつくにはシカマルが生き延びなければならない。その為にシカマルを残すという選択肢はない。

 そしてイノとチョウジもまた足止めには向いていない。純粋な戦闘能力が優れないイノは論外であり、チョウジも複数の敵を相手に粘る技量はまだ持ち合わせていなかった。

 

 いや、最善の手などと言っても所詮はアスマの言い訳に過ぎないのかもしれない。シカマル達もキバ達も未来ある若者だ。彼らを犠牲にしたくなく、自己犠牲に殉じたいだけなのだ。

 何故なら紅班に押し付けた方が片足が傷ついているアスマよりもまだ時間を稼ぐ事が出来るのだから。

 

「そんな、嫌だよ! アスマ先生だけ置いていくなんて出来ない!」

「そ、そうよ! ヒナタ達だって来てくれたんだからきっと皆で戦えば!」

 

 二人の会話を聞いてチョウジとイノもアスマの自己犠牲を理解した。そして当然の如くそれに反対する。

 チョウジは生来から気が優しく師であるアスマの事を尊敬しており、イノも気の強い性格をしているがその芯は心優しい故にアスマを見捨てる事が出来ないのだ。

 

「馬鹿野郎ども……! 実力差が分からないのか!?」

 

 三人の言葉を嬉しく思いつつもアスマは必死に三人を説得する。

 そんなアスマ班を見て飛段は馬鹿にするように鼻で笑っていた。

 

「はっ! なんだこりゃ? お涙頂戴の三文芝居か? 木ノ葉ってのは随分と温いんだな。オレがいた里を思い出してムカムカするぜ!」

 

 飛段は湯隠れの里出身の忍である。湯隠れの里は軍縮に伴い平和を享受し平和主義の里となった。

 だが飛段にとってその里は平和ボケしたぬるま湯に過ぎず、それ故にジャシン教の教えに感銘を受けて里を抜け出したのだ。

 そんな飛段がアスマ達を見ると元いた里を思い出して辟易とし、殺意が湧いてくる思いだった。もっとも、そうでなくても殺意が湧くのが飛段なのだが。

 

「木ノ葉は昔からこうだ。そうでありながら他のどの里よりも強国として成り立っている……虫唾が走るな」

 

 角都は滝隠れの里出身の忍だった。角都は里の中でも優れた忍でありその名を馳せていた。

 だが角都はある任務に失敗した。たった一度の失敗だ。だが、その失敗を里は許さず角都に汚名と重罰を与えた。

 あれだけ貢献してきたというのに、一度の失敗で己に屈辱を与えた里を角都は切り捨てた。そうして角都は滝隠れに伝わる禁術を盗み出して里抜けをしたのだ。

 そんな角都から言わせれば木ノ葉の里は他の里よりも温く、それでいながら強いという理不尽な里だ。任務失敗も木ノ葉の忍が原因なのでそれを思い出すと余計に苛立つというものだった。

 

「貴様らのような甘ちゃんを見ていると初めて戦った木ノ葉の忍を思い出す……そう、初代火影をな」

『!?』

 

 それを聞いた木ノ葉の忍は全員が驚愕した。初代火影と言えば数十年も前に亡くなった木ノ葉設立期の人間だ。そんな伝説の忍と戦って今を生きているこの男は一体何歳だと言うのか。

 ちなみに角都が失敗した任務とは実は初代火影の暗殺任務だったりする。初代火影の暗殺に失敗したので里は角都を厳罰に処した。これを初代火影の強さを知る者達が聞いたら誰もが角都に同情するだろう。

 

「ふざけるな! そんなデタラメを……!」

「信じる信じないは自由だ。それよりも、だらだらと話すのは終いだ。そろそろ死んでもらうぞ賞金首」

 

 無駄話は終わりだ。そう言い放つ角都に賛同する者が一人いた。

 

「同感だ。何故なら、敵を前に無駄に話すものではないからだ」

「っ!?」

 

 その言葉で角都がシノに気付いた時には、すでにシノは角都の背中に拳を当てていた。

 

――何時の間に!?――

 

 会話に気を取られていたとはいえ油断はしていなかった。だというのにこんな若造に後ろを取られている。

 シノの気殺に驚愕する角都だが、やはりガキかと内心で嘲笑する。せっかく背後を取ったのだからそのまま攻撃すればいい物を、わざわざ声を掛けるのだから。これでは攻撃しますよ、避けて下さいと言っている様なものだ。

 だが、シノの攻撃は角都に触れている時点で既に終了していた。

 

――虫食い!――

 

 油女一族は身体の中に様々な蟲を寄生させている。その中の一種に奇大蟲という、体内で与えるチャクラの量を間違えると肉をむさぼり急成長する寄生させておくのが難しい蟲がいる。

 その恐ろしい蟲を触れた対象の肉体に送り込む術。それが虫食いだ。読んで字の如く、適切なチャクラ量を与える事が出来ない者はそのまま内部からむさぼり食われてしまう。

 

「なっ!?」

 

 自らの内部で突如として急成長する蟲に角都は困惑と痛みを感じる。

 だが初代火影と戦ったという言葉は法螺ではない。歴戦の猛者たる角都はすぐにその原因に気付き、己の能力にて奇大蟲を即座に排除する。

 

「ぐぅっ!」

 

 角都の身体から生えた黒い触手が体内に潜んでいた奇大蟲が成長しきる前に体外へと引きずりだし、そしてそれを角都が殴り殺した。

 

「こ、このガキ!!」

「あまり敵を舐めない方がいい。なぜなら、油断は死に繋がるからだ」

 

 自分よりも遥かに年下の少年のその挑発めいた言葉に角都の苛立ちは頂点に達する。

 普段は冷静沈着な角都だが、トラブルが起こるとすぐに殺意が湧くという悪癖がある。そんな角都にとってシノの挑発は殺意を誘発するのに十分なものであったようだ。

 

 角都は目の前の舐めたガキを殺すべく土遁・土矛(どむ)にて腕を硬化して殴り掛かる。

 土矛は肉体を硬化する事で絶大な防御力を得る肉体強化の術の一種だ。今まで受けた攻撃を無効化して来たのもこの術である。

 硬化した部位は曲げたり動かしたりは出来ず、全身を硬化した場合は身動きも出来なくなるが、一部のみならば今のように攻撃に利用する事も出来る。

 

 角都の怒りの籠もった一撃を、しかしシノは中忍とは思えない体裁きで躱し、逆にその勢いを利用して懐に飛び込んで肘打ちを叩きこんだ。

 

「ぬぅっ!」

 

 それでシノの攻撃は終わらなかった。肘打ちで吹き飛ぶ角都をそれ以上の速度で追い掛けて、そして追撃を放とうとする。

 その動きを見てまずいと判断した角都は吹き飛びながら土矛により全身を硬化させた。それは最適な判断だったと言えよう。

 何故なら、硬化していなければ確実に死んでいただろう攻撃を浴びたのだから。

 

 シノはチャクラを籠めた拳を角都の鳩尾に叩き込む。そのまま地に沈む様に拳を下ろし、角都を大地に叩きつけた。

 これで衝撃が分散される事はない。シノは走ってきた勢いをそのまま足に乗せ振り上げ、そして踵を全力で角都の顔面へと振り下ろした。

 その一撃で起きた爆音と衝撃により周囲の瓦礫や砂が吹き荒れる。シノの突然の動きに驚愕していたアスマ達が角都を確認するが、地面深くに埋まった為にその姿は眼に映る事はなかった。

 

「おい、おいおいおい! なんだ今のは! おい角都ぅ!?」

 

 まさかの出来事に飛段も困惑している様だ。飛段は角都の事を戦闘に置いて非常に信頼している。純粋な戦闘力では角都には勝てない事も自覚していた。

 そんな角都があんな少年一人に圧倒されたのだ。普段はその不死身ぶりで敵を驚愕させている飛段だが、これには逆に飛段が驚愕してしまった。

 だが角都を心配する暇は飛段にはなかった。すぐ後ろから迫るキバに気付いたのだから。

 

「おらぁっ!」

「ちぃっ!」

 

 キバの鋭い爪を飛段はその大鎌で受け止める。更に連撃を繰り出すキバに、そのキバに追従する様に動きキバの連撃の間を縫って攻撃を繰り出しその隙を減らす忍犬の赤丸。

 忍犬と共に戦う犬塚一族らしいコンビネーションでキバと赤丸は飛段に反撃の隙を与えずに戦っていた。

 

 そしてヒナタがアスマ班の前に立ち白眼を発動しながら彼らを護る様に柔拳の構えを取る。

 

「イノちゃん! 今の内にアスマ先生の足を治療して!」

「え? あ、うん!」

 

 紅班の戦い振りに呆気に取られていたイノはヒナタの言葉で我に返り、医療忍者として最も重要な味方の治療という役目を思い出す。

 

「こりゃ……まさかのまさかか?」

「ああ……こいつらオレの予想を遥かに超えて成長してやがる!」

 

 シカマルがシノとキバの実力にシカマルとアスマが理想の未来を夢見てしまう。つまり、誰も犠牲にならずに勝利するという理想をだ。

 だが現実はそこまで甘くはない。少なくとも白眼にて角都を視た(・・)ヒナタには二人の考えは楽観視にしか映らなかった。

 

「いいえ! シノ君だけではあの敵には勝てません……! あの人はまだ――」

 

 ヒナタの言葉を遮る様に爆音が響いた。その音源を全員が見ると、そこには天を貫く様に放たれた風遁の術があった。

 

「やってくれたな……」

 

 風遁が放たれた中心地から現れたのは無傷の角都だ。土矛の術はあれだけの猛攻すら無傷で凌ぐ程の防御力を有するようだ。

 だが無傷のはずの角都はそのプライドに傷を負っていた。ガキと舐めた相手にここまで虚仮にされたのは初めてだったのだ。

 

 風遁の術の範囲外に逃れていたシノは怒りが振り切れて逆に冷静になった角都と相対する。

 この場の誰よりも戦闘経験を持つ角都が放つ強大なプレッシャーを受けるシノ。だが、それでもシノは冷や汗を一つ掻くだけで後ずさりはしなかった。

 

 角都の放つプレッシャーはシノ以外にも届いていた。そして全員がヒナタの言葉の続きを理解した。

 あの人はまだ……全力を出していない、と。

 

「うォォォォ!」

 

 叫びと共に角都の肉体が盛り上がり四つの仮面と黒い触手が溢れ出る。そして仮面は触手で構成された肉体を得てその姿を現した。

 これが角都が滝隠れの里から奪った禁術・地怨虞(じおんぐ)である。

 全身から黒い触手を生やし操る術で、触手を通じて肉体を切り離して操作する事も出来る。

 更に忍の心臓をその経絡系ごと抜き取り取り込む事で生来の性質変化以外の性質変化を手に入れる事も出来るという凄まじい術だ。

 角都本来の性質変化は土遁だが、これにより残り四つの性質変化を使いこなしているのだ。

 しかも自身の心臓が寿命で止まる前に新しい心臓を得る事で寿命を無理矢理延ばす事も出来る。角都が九十一という高齢になっても忍として現役で戦えている理由がこれだ。

 

「光栄に思えガキ。全力で戦う敵は久方振りだ」

「……来い」

 

 角都と四体の仮面がシノに襲い掛かる。これはシノの数十倍の戦闘経験を持つ忍が強力な性質変化の術を使う四人の味方と共に完璧な連携で襲いかかってくるという事だ。

 シノは冷静に自己と敵の戦闘力を比較して判断した。勝ち目がない、と。アカネの修行で強くなったとしても、いや強くなったからこそより顕著に理解出来るのだ。

 この状況を勝利に導く(すべ)をシノは有していない。せいぜい死ぬまでの時間を延ばす程度が限界だろう。……一人だったならば、だが。

 

 風遁を操る仮面と火遁を操る仮面が融合し、その口を同時に開く。風遁・圧害(あつがい)と火遁・頭刻苦(ずこっく)による合体忍術を放つつもりだ。

 角都という本体が操っている仮面達はその術のチャクラ比率を完全に同一にする事が出来る。通常の忍が連携して放つ合体忍術には多少のチャクラ比のズレが生じるが、仮面の合体忍術にはそれがないのだ。

 それはつまり合体忍術を最大の威力と効率で放つ事が出来るという事である。そして単体の術でも強力な風遁・圧害と火遁・頭刻苦が合わさればその威力はまさに強力無比な火力となる

 

 決まれば必殺。直撃すればシノは、いやシノどころか周囲にいる角都を除く全ての忍が巻き込まれ、そして死にかねない。

 いや、飛段だけは例え炭と化しても死す事はなくいずれ元に戻るだろう。不死身という有り得ない仲間だからこその巻き込み攻撃である。

 もっとも、角都は飛段が不死身でなかったとしてもこの術を放っていただろうが。殺意に塗れた角都に仲間を気遣うという精神はなかった。

 

――八卦空掌!――

 

 だが、全てが灰と化す様な未来は訪れなかった。

 風遁と火遁の仮面がその口を開いた瞬間に、二体の仮面は術を放つ事なく吹き飛んで行ったからだ。

 

「なにっ!?」

「はぁぁっ!」

 

 全ての敵を焼き滅ぼそうと思っていた角都はそれに驚愕するが、その間にもヒナタの攻撃は止まってはいない。

 そう、角都が術を放とうとする瞬間を狙ったのはヒナタだった。白眼にて角都を視ていたヒナタはその化け物ぶりを他の誰よりも理解していた。

 全身に蠢いているチャクラの糸に、体内に存在する四つの心臓という強力なチャクラの塊。そしてそのチャクラの塊が外に現れた事でヒナタの警戒は最大限に高まっていた。

 白眼は他のどの瞳術よりも視る(・・)事に特化している。それ故に仮面がチャクラを高めて術を発動させようとしている前兆も捉えていた。

 術に籠められたチャクラの総量と、二つの術が完全に同一のチャクラ比率である事。これを視たヒナタはすぐにその術の発動を阻止する事に動いた。

 

 それが先の八卦空掌である。掌からチャクラによる真空の衝撃波を放つという中・遠距離用の柔拳の基本技だ。

 白眼をスコープの様に使用する事で急所を的確に射抜く事が出来る点を狙う術である。それをヒナタは四連射し、全ての仮面を狙撃した。

 

「ぬぅ!」

 

 次々と放たれた八卦空掌に全ての仮面が吹き飛ばされる。その犯人を見て角都は怒りを顕わにするが、シノはそんな角都にお構いなく攻撃を繰り出した。

 だがその攻撃を角都は土矛の術ではなく体術によって捌き、逆にシノへと触手による反撃を加える。

 角都の触手はかなりの攻撃速度を有しており、シノをあっさりと捕縛した。だがその触手はシノの身体から溢れ出る蟲によって噛み千切られる事となる。

 

「ちっ! 舐めるなよガキが!」

 

 触手が効果を成さない事に苛立つ角都が直接シノを殴り殺そうと拳を放つ。それをシノは前に踏み込み体を沈める事で躱し、そのまま大地に手を付いて体勢をコントロールして蹴りを放った。

 その一撃を角都は左腕でガードし、シノの足を掴み大地に投げつけようとする。だがシノは掴まれた足から蟲を繰り出し角都の手を直接攻撃する。

 それを嫌った角都は掴んでいた足を離し、未だ空中にいるシノを蹴り付ける。その一撃を十字に組んだ腕でガードしつつ、シノは吹き飛ばされる前に逆さのままに角都の頭部を蹴り付けた。

 

「ぐっ!」

「くぅ!」

 

 頭部に一撃を受けた角都はシノが不安定な体勢で放った攻撃故に大したダメージは受けてはいない。

 対するシノもチャクラを籠めた強固なガードが間に合ったおかげで多少腕が痺れてた程度ですんでいる。

 

「このガキ……大した体術だ」

 

 角都は素直にシノを称賛した。この年齢でここまでの体術を披露する者は少ないだろう。

 少なくともここまで自分に喰らい付いて来るとは思ってもいなかった。

 

「体術も想定以上か。だが、予想以上ではない」

 

 シノも角都の実力に舌を巻いている。徹底的に体術の修行をした自分が攻めあぐねている事に世界の広さを感じている様だ。

 だが、それでも世界の頂点を知っている身としてはこの程度で屈する訳には行かないという気持ちが(まさ)っていた。

 

「つくづくオレを怒らせるのが上手い奴だ……」

「大した事ではない。何故なら、言葉も忍の武器だからだ」

「抜かせっ!」

「ふっ!」

 

 再びシノと角都の体術合戦が始まる。いや、角都は見た目とは違い冷静であり、こうして体術でシノを足止めしつつ四つの仮面を操り残りの敵を倒そうとしていた。

 だがそれは全てヒナタによって防がれていた。遠距離から全てを見通す白眼にて的確に敵の動きを見抜き、その行動を一歩手前で止めているのだ。

 

――八卦四天空掌!――

 

 瞬時に四発の八卦空掌を放ち、全ての仮面の動きを阻害する。それだけでシノは角都だけに集中して動く事が出来ていた。

 もしヒナタがいなければ疾うにシノは殺られていただろう。そしてそれはキバも同じだった。

 

「おらよっ!」

「くっ、この犬っころ共がッ!!」

 

 キバと赤丸の強力な連携攻撃は飛段を圧倒していた。

 飛段もこの三年間で修行を重ねて死司憑血(しじひょうけつ)をより効率的に扱える様に体術に磨きを掛けていたが、キバと赤丸の連携はその飛段の上を行っていた。

 飛段には多少の負傷を無視してでも敵の攻撃を受けて無理矢理反撃するという強引な手段がある。飛段に取っての相打ちは勝ちに等しいのだ。

 だがそんな飛段の自爆戦法すらヒナタは防いでいた。飛段がキバの攻撃を防ぐではなく無理矢理受け止め強引にキバに隙を作り、それを突こうとした瞬間に八卦空掌が飛んで来るのだ。

 

「があっ! ってーなまたかよこのクソ女がァァッ!!」

 

 何度も何度も邪魔をされて飛段は怒り心頭だ。そんな飛段に対してキバは赤丸と共に術を放つ。

 

「行くぜ赤丸!」

「ワン!」

 

――犬塚流・人獣混合変化・双頭狼!――

 

 キバと赤丸が重なりあい、そして同時に変化の術を使用する事で一体の巨大な双頭の狼へと変化する。

 犬塚一族の秘伝忍術による変化は見た目だけでなくその戦闘力も大きく向上する。一人と一匹が協力する事で得られる力を全力で奮い、双頭狼は飛段に襲い掛かった。

 

――牙狼牙!!――

 

 双頭狼が高速で回転し敵に突撃する。その回転は真空の刃を作り出し触れずとも裂傷を負わせる程だ。

 それだけではない。キバは修行の末にとうとう全身からのチャクラの放出を会得していた。

 流石に日向一族程ではないが、それでも牙狼牙等の犬塚一族が良く使用する回転攻撃中にチャクラを放出する事でその威力を向上するくらいならば可能となったのだ。

 しかもあまりの高速回転故に敵へのマーキングがなければ追尾不可能という欠点も克服していた。敵のチャクラを感知し更に敵の体臭を覚える事でマーキングなくとも追尾を可能としたのだ。

 

――あれはまずい!――

 

 元々の威力が高い高速回転の術に、チャクラの放出を加える。これによる結果を誰よりも早くに理解したのは他でもない、角都であった。

 やはりその戦闘経験の差だろう。キバの術にヒナタが目を見張った瞬間、ほんの一瞬のその隙を突いて角都は飛段を触手にて引き寄せた。

 

「うおっ!?」

 

 飛段が角都に引き寄せられた瞬間に、飛段がかつて居た大地は微塵と化した。更に双頭狼は破壊を撒き散らしながら飛段を追いかける。

 これに慌てたのがシノだ。角都は飛段を己へと引き寄せた。そしてシノは角都と体術合戦を繰り広げていた。つまりこのままではシノまでこの恐ろしい術に巻き込まれるという事になる。

 

「冗談ではない……」

 

 流石にそれは御免だったシノは一度角都から離れキバの術の範囲から逃れる。飛段を追尾している事はシノも理解しているので飛段から離れれば問題はないのだ。

 飛段を引き寄せた事で角都も双頭狼の牙の攻撃範囲に入る。だが角都としてはここで飛段を見捨てるつもりはなかった。

 これは仲間意識というよりは戦術上の問題だ。飛段という味方が減る事で自分に掛かる負担が大きくなる事を避ける為である。

 つまり……この術は不死身の飛段を戦闘不能に至らせる程の威力があると角都は判断したのだ。

 

「いって、痛てぇっつてんだろ角都ぅ!!」

 

 その言葉を無視しながら角都は飛段を引きずりながら双頭狼から離れつつ位置取りを行う。

 その位置取りとはヒナタの邪魔が入らない、双頭狼を壁にした位置取りだ。これでヒナタはキバが邪魔で八卦空掌を放つ事が出来ないだろう。

 

 そして角都は迫り来る双頭狼に向かって全ての術を開放した。

 

――水遁・牙流愚虞(げるぐぐ)!――

――雷遁・偽暗(ぎあん)!――

――火遁・頭刻苦(ずこっく)!――

――風遁・圧害(あつがい)!――

 

 四つの仮面から放たれた強大な術は互いに威力を高めあって双頭狼へと襲い掛かる。

 牙流愚虞と偽暗が合わさった事で水刃は雷を帯び全てを切り裂く質量を持った雷刃と化し、頭刻苦と圧害は火遁と風遁のセオリーに従い全てを焼き尽くす劫火と化す。

 触れずとも敵を切り裂く高速回転と双頭狼の持つ鋭い牙と爪にチャクラの放出が組み合わさった圧倒的破壊と、単体で強力な威力を誇る四つの性質変化の術が互いを相殺する事なく組み合わさった圧倒的破壊がぶつかり合う。

 

 結果、二つの圧倒的破壊は互いに拮抗し、凄まじい衝撃を生み出した。

 

「き、キバ君!?」

 

 あまりの衝撃にキバを心配するヒナタ。そんなヒナタの知覚に高速で迫る双頭狼の姿が感知される。

 ヒナタは咄嗟に双頭狼に向かって八卦空掌を放った。だがこれは攻撃の為ではなく、双頭狼の勢いを軽減させる為のクッションとして威力と範囲を調節した八卦空掌であった。

 おかげでキバと赤丸はその勢いのままに壁や地面に突撃するという事態を避ける事が出来た。あのままではそれだけで重傷を負いかねなかったのだ。

 

「キバ君! 赤丸も大丈夫!?」

「う、うう……くそっ、あれでも駄目かよ……」

「クゥン……」

 

 心配するヒナタだがどうやらキバも赤丸も命に別状はないようだ。

 だが必殺のつもりで放った一撃を防がれた事でキバの精神は大きく揺らいでいるようだ。それほど自信のあった術だったのだろう。

 

「いや……落ち込む必要はないぞキバ!」

 

 そんなキバに対してアスマは慰めの言葉を掛ける。だがそれは意味のない慰めではなかった。

 アスマは飛段と角都を油断なく見つめていたので誰よりも先にそれに気付いたのだ。

 キバの術と角都の術は質は違えどその破壊力は拮抗していた。そしてキバはその衝撃によりここまで吹き飛ばされた。ヒナタが食い止めなければその勢いで死にかねないほどの衝撃を受けた為だ。

 つまり、キバに起こった現象は角都側にも起こっているという事だ。もちろん術者本人が突撃する牙狼牙と違って忍術を放った角都はその被害は少ないだろう。だがそれでも多少の損害を与える事は出来たようだ。

 

「おいおい! 相殺し切れなかったのかよ! 一匹殺られてんじゃねーか!!」

 

 それは飛段の叫びだった。その叫びにキバも敵を見ると、角都が操る仮面の一体が崩れ落ちているのがその目に映った。

 

「黙れ。助けてもらっておいて喚くな」

 

 角都は飛段の喚きを鬱陶しそうに聞き流し、そしてキバを睨み付ける。

 予想以上の威力に角都も想定外の被害を受けて憤慨しているようだ。

 飛段の叫びもありいっそ見捨てるべきだったかとも思う角都だが、あの威力の攻撃を喰らえば不死の飛段も全身がバラバラとなり戦闘力は皆無となっていただろう。

 そうなればこの敵を相手に一人で戦わなければならない。それを避けたいと思うほどに、自分よりも遥かに年下の敵は手強かったのだ。

 

「へへ、何だよ効いてんじゃねーか……。良し、赤丸もう一撃だ……!」

「駄目だよキバ君! 今は治療しなきゃ!」

 

 キバの身体はボロボロだった。大地に激突すれば死ぬほどの速度で吹き飛ばされるという事はそれだけの衝撃を受けたという事だ。

 いや、あの四つの術とまともにぶつかってこの程度で済んでいるだけで凄まじいのだが。とにかく、もう一度牙狼牙の様な強力な体術を放てばその反動でキバは下手すれば死んでしまう可能性もあった。

 

「キバ、こっちに来て! 赤丸も!」

 

 アスマの治療が終わったイノがキバと赤丸を治療しようとする。この一人と一匹が完治すればまたあの凄まじい攻撃を繰り出す事が出来るだろう。

 そうすれば仮面の一つを失った角都はその攻撃を相殺する事が出来ず、牙狼牙の威力に飲み込まれるだろう。もちろん敵が大人しく同じ攻撃を受けてくれればの話だが。

 それでも味方を治療する事は戦闘の勝率を上げる結果に繋がる事に変わりはない。こうして少しずつ敵の戦力を減らして行く事が出来れば勝利も手にする事が出来るだろう。

 

 もっとも、それは敵も理解している当然の戦術なのでそれを黙って許してくれるわけがないのだが。

 

「行くぞ飛段! 奴らを調子に乗らせると面倒だ!」

「おおよ! いつものあれで行こうぜ!」

 

 時間を与えれば有利になるのは木ノ葉の忍。そう理解している角都は一気に猛攻を仕掛けて殲滅させる事を選んだ。

 飛段の呪術にてアスマを呪い殺すという選択もあるが、そうする内にキバが回復するという可能性を考慮し、回復の手間を潰す事を選択したのだ。

 

「飛段、盾になれ」

「……ちっ、わーったよ! いつかおめーには神の裁きが下るぜ!」

 

 角都が何を言いたいのか理解した飛段は角都に苛立ちを見せつつもそれを了解した。それが正しい戦術であると飛段も理解しているのだ。

 そうして飛段はアスマ達に向かって一直線に突撃する。それを盾にして角都は己の身体に残る三つの仮面を融合させて術を放つ準備をする。

 角都が仮面の化け物を別個に分離して使用するのはそうする事で敵の注意を分散させて攻撃の手を増やす為だ。

 だがヒナタの様な敵がいるとそれも意味がない戦術となる。術の発動を先読みして遠距離から的確な狙撃をしてくるなど厄介極まりない存在だ。

 第八班の戦術を支えているのはシノでもキバでもない、ヒナタなのだと角都は理解していた。

 

 とにかく、全ての仮面を融合させる事で攻撃の手数や戦術は減るが、ヒナタの狙撃は飛段と角都の二人のみに絞られる。

 本体である自分ならば八卦空掌にも対応出来ると踏んでの戦術であり、念の為の飛段という盾であった。

 

「くっ!」

 

 迫り来る飛段と角都にヒナタは八卦空掌を放つ。だがそれを二人はヒナタの攻撃モーションから見切って完全に躱し切った。

 

「馬鹿が! お前の動きに注意してりゃそんなの避けるのわけないんだよ!」

 

 今までそれが出来なかったのはシノやキバによる攻撃で八卦空掌に集中出来なかったが為だ。

 一度集中出来れば流石の暁というべきか。八卦空掌に慣れた事もあってその攻撃はほぼ見切っていた。

 

「来るぞ」

 

 シノが前に立ちそう呟く。ここ最近の修行で体術に秀でてしまった蟲使いはその力で敵を食い止めるつもりの様だ。

 

「ああ! 今度はオレも加勢する!」

「アスマがそう言うって事は勝ちの目を見たって事だな」

「ボクもやる!」

「キバ、赤丸ごめん。治療する暇はないかも!」

 

 足の治療が終わったアスマはシノと共に前に立ちアイアンナックルを構える。

 成長した第八班の実力と健闘を見てこの戦いに希望が湧いて来たようだ。それはシカマルも同じだった。ここまで味方が揃えばどうにか出来そうだと戦術を組み立て直している最中だ。

 チョウジとイノも絶望しかなかった状況が一変した事で気力が充実しているようだ。

 

「キバ君は休んでて! ここは絶対通さないから!」

「くそ……」

 

 ヒナタはキバの前に立ち庇うように構えを取る。キバはまだまともに動くことも出来ない状況だ。

 そんな自分を情けないと思いながらもキバはヒナタの言葉に従い少しでも力を回復させる為に身体を休める。

 

「イノ! 心伝身だ!」

「ええ!」

 

 シカマルはここまでの敵の能力と味方の能力を計算に入れて新たに作り出した戦術をイノを通じて全員に伝える。

 これが山中一族に伝わる心転身の応用、周囲の仲間と思念のやりとりを行うテレパシーの一種、心伝身の術である。

 これは術者のみでなく術者に触れている対象の思念を伝達する事も可能だ。ただし、伝達対象が膨大だった場合や伝達時間が長すぎた場合は術者に大きな負担が掛かる事もある。

 だがこの程度の人数で、シカマルの戦術を説明するくらいならば問題はなかった。

 

 だが、シカマルが全ての戦術を説明し終わる前に飛段と角都の猛攻が始まった。

 

「そらよぉぉ!!」

 

 攻めに転じる事が出来た飛段は生き生きと大鎌を振るう。

 独特の形状であり柄の先端に縄が付けられている大鎌は広い攻撃範囲を生かして後方にて体力回復に努めているキバに襲い掛かる。

 今はほぼ無力化されているが、あの破壊力をもう一度放たれる可能性を考えると真っ先に潰しておくべきだと判断したのだ。

 同時に飛段はキバを護るヒナタもあわよくば片付けられたらと思っている。ヒナタという守りの要がいなくなれば後が楽になるだろうからだ。

 

 かすり傷一つでも付けば血液という呪術の材料が手に入るので、飛段の攻撃は全て避けなければならない。

 だが、命中しても傷が付かなければ問題ないという考えもある。それをヒナタは実行した。

 

――回天!――

 

 キバとヒナタに同時に迫る大鎌を、ヒナタは日向宗家にのみ伝わる奥義にて完全に防ぎ切った。

 未だ点穴を見切る事が出来ないヒナタではあるが、厳しい修行の果てにとうとう回天を会得したのだ。

 全ては尊敬する愛しい人を護りたいという一心による賜物だ。そんな想いで会得した回天は仲間であるキバを護り抜いた。

 

 だが暁の攻撃は終わっていない。飛段は大鎌を振るったままにアスマ達に突撃し、それを迎え撃とうとしたアスマ達目掛けて角都は術を放った。

 

――風遁・圧害!――

 

 飛段に対応しようとした矢先にこの竜巻である。不死身という有り得ない味方の特性を利用した戦術だ。

 だが流石は上忍か。アスマは角都の仮面の化け物を見て、どの仮面がどの術を放つかを既に見切っていた。

 四つの仮面はそれぞれ形が違っているのだ。今は三つだが。とにかく、仮面の形と性質を覚えていればどの仮面がどの術を放つかを見切るのは容易いだろう。

 

――火遁・豪炎の術!――

 

 風遁には火遁。お決まりの性質変化の相性を角都が利用する前にアスマが逆に利用した。

 風遁と火遁がぶつかり合えば火遁が勝つ。その場合火遁の勢いに風遁が押される事になるのだが、今回の結果は違っていた。

 圧害が豪炎の術よりも術としての威力が高かったのだ。それにより圧害は豪炎の術に押される事なくその場で爆炎となって燃え盛った。

 

――風遁・大突破!――

 

 その爆炎にアスマは更に大突破による暴風を放つ。燃え盛る爆炎を暴風によって飛段達に向けようとしたのだ。

 

――火遁・頭刻苦!――

 

 だが角都が放った頭刻苦によってその爆炎は相殺された。そして爆炎が掻き消える前にその中から焼け焦げた飛段が大鎌を振るって飛び出してくる。

 

「意外とやるな。術を選ぶ判断力は褒めてやる」

「そりゃどうも!」

 

 角都の本気かどうか分からない称賛の言葉をぞんざいに返し、アスマはアイアンナックルで飛段の大鎌を捌く。

 

「オレに一度呪われた雑魚が! 邪魔なんだよ!」

「だからオレが貴様の相手をしているのさ!」

 

 そう、一度呪われたアスマならば飛段にまた血を取り込まれる心配もない。二重に血を取り入れても意味がないだろうと見越しての対応だ。

 これはシカマルの予測だった。飛段が血を取り込む事を呪術の第一段階としているならば、それが既に終わっているアスマが適任だろうとの予測だ。

 飛段が呪術を発動するには地面にあの図を描かなければならない。だがこうも接近戦を繰り広げているとその隙もないだろう。

 

 だが純粋な近接能力では飛段の方がアスマよりも上だ。このまま長引けば呪いなどに関係なくアスマが殺されるだろう。

 そうさせない為の援護役がヒナタだ。後方から白眼にて戦場を把握し援護射撃に専念する事で味方のサポート役に徹する。

 

 そして角都に対抗するのが残りの全員だ。そうするだけの実力が角都にはあるとシカマルは判断していた。

 

 シノが角都に術を放つ暇を与えさせない様に接近戦に入る。こと忍術において角都はこの場で最も優れている存在だ。敵の真骨頂を引き出してやる必要はないだろう。

 更にチョウジが秋道一族に伝わる秘伝忍術・倍化の術を駆使してシノと共に角都を攻め立てる。これで土矛の術を使用させて動きを阻害させるという狙いだ。土矛の術で防御した時に角都が動いていない事をシカマルは見抜いていたのだ。

 そうして角都を足止めしている隙にイノはキバの治療を行い、飛段の動きを止める。そうすれば全員で角都を相手に封殺すればいい。後はシカマルの戦術がどこまで通用するかであった。

 

「おおお!」

 

――部分倍化の術!――

 

 チョウジが巨人の如くに巨大化した腕を大きく振るい、シノに足止めされている角都を攻撃する。

 まともに受ければダメージは免れないと判断した角都は土矛の術にてそれを防ぐ。この質量すら無傷で防ぐこの術は凄まじいと言えよう。

 だがやはり全身を硬化した場合身動きが取れなくなるという欠点がある。そこを突いてシノは角都を全力で蹴りつける事で後方へと弾き飛ばす。

 こうして角都と飛段と引き離してそのコンビネーションを食い止める作戦だ。

 

「おのれ……!」

 

 吹き飛ばされた角都はすぐに土矛の術を解き、接近して来るシノに向かって雷遁・偽暗を放った。

 威力・速度共に優れている偽暗ならばこの面倒な敵を一蹴出来るだろう。そう思って放たれた雷の槍はシノに命中した。

 だが――

 

「蟲……? 分身だと!」

 

 その一撃を受けたシノは無数の蟲となって霧散していった。

 チョウジの部分倍化にて角都が押し潰され視界が途切れた時に蟲を用いて分身を作っていたのだ。

 本体は瓦礫に隠れて近づいており、角都が分身を攻撃した瞬間を突いて抜き手にてその心臓を一突きした。

 

「ぐぶっ!?」

「硬化がなければ問題ない」

 

 チャクラを集中させて攻撃力を増していた抜き手は土矛の術を発動していなかった角都を貫き、その心臓をも破壊した。

 だがシノはそこで油断せずにすぐにその場を離れる。次の瞬間にはシノが立っていた場所に無数の触手が攻撃をしていた。

 

「よし! これで二つ目!」

 

 シカマルの予測はまたも正解だった様だ。あの四体の仮面にはそれぞれ心臓の様に脈打つ臓器がくっ付いていた。

 心伝身の術でシカマルとヒナタが情報を交換していたが、あの臓器はやはり心臓と同じ経絡系が絡み付いていたという。

 そこでシカマルは敵が自分の物を含めて五つの心臓を持っているのだと予測した。不死身の敵の相方だ。能力を過大評価しても過小評価する必要はないだろう。

 もちろん当たっていない方が嬉しい予測だったが、今回は残念ながらも正解だった様だ。

 

「オレの心臓を二つも……久方ぶりだぞ!」

 

 怒りを顕わにする角都。だがその怒りを更に増す出来事が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスマと飛段は激しい戦闘を繰り広げていた。飛段はアスマよりも体術に秀でていたが、それでも圧倒するほどの差ではない。

 そうしてアスマを相手に梃子摺っている間にヒナタによる狙撃を受ける。これでは飛段もアスマを殺しようがなかった。

 

 なので飛段はアスマを自分とヒナタの直線上に立つ様に誘導した。角都がキバを盾にしてヒナタの攻撃を防ごうとしたのと同じ考えだ。

 後はヒナタの邪魔が入らない内にアスマを殺せばいい。だが意外と手強い為に戦っている内にいつヒナタが邪魔に入るかも分からない。

 一番いい方法は呪術・死司憑血にて確実な止めを刺す事だ。これならば自分への邪魔は寧ろアスマへのダメージになる。

 

 死司憑血の為の図を描く隙を作るにはどうするか。そう考えていた飛段の前で、アスマは突如として苦悶の表情で左足から体勢を崩した。

 

「ぬぐっ!?」

 

 それを見た飛段は笑みを浮かべる。あの時の呪いによって与えた傷が完全には癒えていなかったのだ。激しい戦闘で再び傷が開いたのだろう。

 この隙に飛段は地面に呪術の為の図を描いた。後は図の中で心臓を刺せばいいだけだ。

 

「アスマ先生伏せてください!」

 

――八卦空壁掌!――

 

 だが、そうはさせじとばかりにヒナタは八卦空掌を両手で同時に放つ八卦空壁掌を飛段へと撃ち放った。

 父や尊敬する姉に比べればまだ未熟な空壁掌だがそれで問題はない。ダメージを与える為ではなく飛段を吹き飛ばす為の攻撃なのだから。

 

「ぐ、おお!」

 

 八卦空壁掌を受けた飛段はその勢いに押されて図から吹き飛ばされていく。その衝撃によるダメージをアスマも受けたが、心臓を貫かれる事に比べれば遥かにマシだろう。

 だが吹き飛ばされた飛段は大鎌を大地に突き刺す事でどうにか踏みとどまり、すぐに体勢を戻して再び図へと戻ろうとする。

 

「今度こそ邪魔はさせねぇッ!」

 

 素早く図の上に戻り、新たな邪魔が入る前に儀式を完了しようとする。

 飛段に取って幸いにも先ほどの八卦空壁掌で図は壊れてはいなかった。まあ、地面に伏せたアスマを避けるように放たれたのだから当然だろう。

 そうしてようやく敵を呪い殺せる事に快楽の笑みを浮かべ、飛段は鋭い槍を己に突き刺そうとして……そのまま身動き一つ出来ずに固まった。

 

「な、なんだとォッ!?」

「影真似成功……!」

 

 影真似の術。自身の影と対象の影を重ねる事で対象に自身の動きをトレースさせるという奈良一族の秘伝忍術。

 その術をシカマルは飛段に仕掛けていた。それに飛段が気付かなかった理由は二つ。シカマルが今まで影真似の術を使用していなかった事。そしてシカマルの影が地面に描いた図と重なっていた事だ。

 シカマルは影真似の術を最後の最後に利用すると決めていた。ここまでの戦闘で影真似を使用していなかった事を逆に利用し、その効果を敵が理解する前に決め手となる時に術を使用した訳だ。

 そして飛段が呪いを発動する為に必ず図の上に乗る事も利用した。奈良一族は己の影を自在に動かして形を変える事が出来る。影を伸ばす距離の限界は影そのものの面積と同じだが。そうして影を伸ばし、図と同じ形で図に重ねて飛段が影に触れるのを待ち構えていたのだ。

 こうなれば飛段に足掻く術はない。シカマルの影真似の術は持続時間が切れるか、圧倒的な実力差で無理矢理外すくらいしか抜け出る方法はないが、そのどちらも飛段には満たす事は出来なかった。

 

「今だアスマ……!」

「ああ!」

 

 シカマルが影真似の術で飛段を無理矢理に図の上から引きずり出したのを確認してアスマは武器を振るう。

 そうして飛段は敢え無くアスマのチャクラ刀によって切り裂かれた。風の性質変化を吸収したチャクラ刀は鋭い切れ味にて飛段の五体をバラバラに切り裂く。

 不死身だと言うのならば身動き一つ出来なくすればいいだけの話だ。ここまですれば例え生きていたとしてもどうしようもないだろう。

 

「て、てめぇら……よくも!」

「そんなになっても生きているか……」

「だが、不死身でもそうなっちまえばどうしようもねぇよな」

 

 予想はしていたがこれでも飛段が生きている事に驚きを禁じえないアスマだが、シカマルの言う通りだと理解して次の敵に目を向ける。

 

「飛段……! 油断し過ぎだ!」

 

 飛段が行動不能に陥ったのを見た角都はすぐに飛段の元へと向かう。

 角都の触手は糸の様に使用する事も出来るので、それを利用して飛段の身体を繋ぎ合わせようとしているのだ。

 足が傷ついたままのアスマではそれを防ぐ事が出来ないだろう。だが、角都に並行するように動く者がいた。いや、者というか、蟲だったが。

 

――秘術・蟲玉!――

 

「ぬっ!」

 

 シノが放った蟲が角都の全身を覆いその動きを止める。だがその程度の足止めは角都の動きを僅かに止めただけだ。すぐに角都は全身から触手を噴出させて蟲をなぎ払った。

 だが僅かに動きを止めるだけでシノには問題なかった。敵が嫌がる行動をする事が勝利への一歩だとシノは理解していた。

 角都が何をしようとしていたかまではシノは理解していなかったが、それでも角都が飛段に駆け寄ろうとした事には何らかの意味があると判断し、その動きを阻害したのだ。

 そしてその僅かな動きの阻害で、勝負は決していた。

 

「邪魔を……っ! これは!?」

「アンタら……敵を舐めすぎだぜ!」

 

 影真似再びである。周囲の瓦礫はシカマルの影を気付かせない様に敵に近づけるには最適の役目を果たしていた。

 更に瓦礫が生み出す影がシカマルの影の距離を伸ばす役目にもなる。そして音もなく近づいていた影は蟲玉によって動きを抑えられていた角都を捕らえたのだ。

 

「この程度の術……!」

 

 角都ならば影真似の術から逃れるのに然程の時間は掛からなかっただろう。少なくとも後二回死ぬ余裕がある角都だ。全ての心臓が尽きる前に抜け出し、そして再起を図る事も出来た。

 そう、角都はここに至って撤退する気であった。心臓を二つも消費し飛段も行動不能となっている。そんな状況で木ノ葉を相手に戦闘を続ける程角都は愚かではなかった。

 生きてさえいれば再起は可能。この歳まで他人の心臓を奪ってまで生き延びている老獪な忍らしい思考だ。だが、全ては遅かった。 

 

「喰らえやァッ!!」

 

――牙狼牙!――

 

 角都が影真似に捕らえられた瞬間。完璧なタイミングでキバと赤丸が牙狼牙を放っていた。体力回復に努めていたキバはここぞのタイミングで残る力を振り絞ったのだ。

 抜け出す暇もない連携攻撃だ。角都には防ぐ事も避ける事も出来はしなかった。

 

「う、うおおおおッ!?」

 

 圧倒的破壊力を誇る双頭狼の牙狼牙の直撃。それは角都の心臓の全てを破壊するばかりか、その身体の殆どを消し飛ばした。

 

「ばか、な……」

 

 首だけになった角都が最期に怨嗟の声を呟く。視界に映るのは己よりも遥かに若い少年少女達。

 そんな者達が一丸になったとはいえ自分を打ち倒した事が未だに信じられないまま、角都はこの世を去った。

 

「か、角都! 殺られやがったのかよおいっ!」

 

 自分よりも強い角都が死んだという事実が信じられずに飛段は首だけのままで叫ぶ。

 

「もう終わりだ。何故なら、お前はもう動く事も出来ないからだ」

 

 そんな飛段にシノは冷静な口調で現状を語った。既に詰みなのだ、と。

 だが飛段はシノに対して嘲笑を浴びせた。

 

「クッ、ククク! 確かにオレの負けだな! だがオレは死にはしねぇ! 封印だろうが何だろうがしてもいずれ抜け出して、テメーらの喉元に喰らい付いてやるぜ!!」

 

 その叫びはアスマ達を呪い殺さんばかりに響き渡った。いずれ本当にそうなりそうだという不安を周囲に与える程にだ。

 だがシノはそんな飛段に対して冷静に残酷な言葉を返した。

 

「無駄だ。何故なら……お前はこれから蟲の餌となるからだ」

「……あ?」

 

 シノの言葉が理解出来なかった飛段は一瞬呆け、そしてシノが全身から開放した無数の蟲を見て青ざめる。

 

「て、てめー、ま、まさか……!」

「肉片一つ残さずに消えても生きているのか……確かめた事はあるか?」

「や、やめろォォォ!!」

 

 哀れ、不死身なれど再生能力を持っていない飛段は、全身余すことなく蟲に喰らわれて完全に消滅した。

 

「……むごいな」

「……ああ」

「ボク、虫料理だけは食べられないと思う……」

「見ちゃ駄目よヒナタ!」

「う、うん!」

 

 その死に様には暁に対して敵愾心しか持っていないアスマ達にも同情心を生み出したという。

 

 




 六対二は描写が難しい……! ペイン六道対木ノ葉五人は書けるのだろうか……。
 飛段は永遠に土の中にいるよりはマシなのだろうか。どっちがいいかは飛段のみ知る。
 イノの活躍所を作るのが難しい。外したら終わりだけど当たったら超有利な術って上手く使いにくいんですよね。それで言うなら影真似も一緒だけど。医療忍者としてしか使えなかった……。







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