一体一体が強力な固有能力を持ち、輪廻眼の視覚共有により完璧な連携を誇るペイン六道。
あの二代目三忍自来也が仙人となっても太刀打ち出来なかった相手だ。だが木ノ葉の誇る精鋭が五人で掛かればどうだろうか。
いや、ペイン六道を相手に数の有利はない。必要なのは数ではなく質だ。一定以上の実力を持たない忍が何百、何千と集まろうと一蹴されるだけで終わるだろう。
その点で言えばこの五人は一定以上の質を有していた。三代目火影猿飛ヒルゼン。裏の火影と謳われる根のリーダー志村ダンゾウ。千の術をコピーしたはたけカカシ。火影を目指すうちはの精鋭うちはオビト。綱手に次ぐ医療忍術の使い手のはらリン。
いずれも強国である木ノ葉にて右に並ぶ者が少ない実力者たちだ。彼らだけで一国を落とす事も可能だろう。
だが、それでもペイン六道を相手に十分だと言い切れる戦力ではなかった。それは相対する木ノ葉の忍の誰もが理解していただろう。
「三代目火影と、それを裏から支える志村ダンゾウか」
ペイン六道の中でリーダー格として動く天道が戦闘の前に口を開く。カカシ達には目もくれず、天道の視線はその二人を射抜いていた。
「お前達は今の木ノ葉を築き上げた立役者だ。初代が作り、二代目が基礎を積み上げ、お前たちが磐石の物とした。その治世は他里すら羨む程だろう」
「暁の首領に褒められてもな……」
「その木ノ葉を滅ぼそうとする輩が何をほざく!」
ダンゾウもヒルゼンも、天道の言葉に怒りを顕わにする。
冷静だが里を滅茶苦茶にされた事でダンゾウは静かに怒り、里の全ての者を子どもの様に想っている三代目は激昂していた。
そんな二人の怒りから放たれる威圧など意に介さず、天道は言葉を続けた。
「全ては世界平和の為。お前達木ノ葉はその礎となるのだ」
「平和? こんな事をして平和ですって……!?」
天道の言葉を聞いたリンはペインの言動の矛盾に誰よりもその怒りを言葉にしてペインへとぶつけた。
心優しく戦いを望まないリンに、平和の為とほざきながら多くの忍を殺して木ノ葉を破壊しているペインの言葉は到底許せない事だった。
「そうだ。三代目、そして志村ダンゾウ。お前達は確かに木ノ葉を豊かに、そして平和に導いて来た。だが、それでも戦争は起こる。他里と幾度となく殺しあって来たお前達ならば分かるはずだ。……幾ら里を理想の形に導こうとも、他里にまでその理想を届ける事は出来ないのだと」
『……』
天道の言葉にヒルゼンもダンゾウも返す言葉を失くしていた。その言葉が事実だからだ。どれだけ二人が、いや二人の意思を広げ木ノ葉の忍が一丸となって里を平和にしようとも、それは木ノ葉の里だけの話だ。
軍事力を高め続ける雲隠れ、血生臭い噂が絶えない霧隠れ、他里を信用しない岩隠れ、近年に木ノ葉を襲った経歴を持つ砂隠れ。忍五大国の内、四つが平和と反する行動を取っている。砂隠れは木ノ葉と真に同盟を結んだが、それも永遠に続く訳ではないだろう。
この十数年、尾獣という強大な力の塊が里と里の軍事バランスを保ち多くの犠牲を恐れて戦争は避けられていた。だがその尾獣も殆どが暁によって狩られた。軍事バランスが崩れた今、いつ戦争が起きてもおかしくはなかった。
「三代目様達は誰よりも立派に木ノ葉を護って来た! 戦争の火種を作り出したお前達に言われたくねぇんだよ!!」
里と里に住む人々を愛し火影を目指すオビトはヒルゼンやダンゾウを尊敬していた。
その尊敬する彼らをまるで無能の様に罵る上に、尾獣を奪い木ノ葉を攻撃する暁とその首領の言葉など受け入れられる訳がなかった。
「そう、我々は戦争の火種を作った。その戦争をコントロールし、世界に痛みと言う名の成長を与える。痛みなくして世界に平和は訪れない」
「その痛みとやらでどれだけの犠牲が出ると思っている……!」
「例え億単位の人間が死のうとも、それが世界の平和に繋がるなら必要な犠牲だ」
カカシの言葉もペインには届きはしない。かつての師である自来也にも語った様に、尾獣を利用した禁術兵器によって世界に大きな痛みを与えようとしているペインにとって、犠牲の多さは寧ろ好都合なのだ。
「どうやら会話は成り立たん様だの」
「元より問答無用。木ノ葉を傷つけた報いは受けてもらう」
「愚かな。我らに協力すれば助けてやるのも吝かではなかったというのに」
会話は無意味。分かり合える事なく平行線を保つのみ。ならば互いに問答は不要であった。
木ノ葉の強豪とペイン六道。その死闘が幕を開けた。
――土遁・土流城壁!――
先手必勝とばかりに手を出したのはオビトだ。土流城壁にて地面を垂直に隆起させる事でペイン六道の前に壁を築き上げる。更に術の効果範囲を操作する事でペインの周囲全てを土の壁で覆った。
これは攻撃の為の術ではなくペイン六道の視界を塞ぐ為の術であった。自来也が得た情報はフカサクが伝えた事で主だった木ノ葉の忍に知れ渡っている。
その情報を元にオビトはペインの視界を塞ぎ輪廻眼の視界共有を妨げたのだ。
――雷遁・雷獣追牙!――
そして間髪入れずに放たれるのはカカシの雷遁である。カカシの代名詞とも言える雷切の形態変化で、狼の形をした雷切が敵を襲う術だ。
土流城壁に向けて放たれた雷獣追牙は土の壁を一瞬で食い破り、その後方にいるペインへと襲い掛かる。
雷遁は土遁に強い。その相性の良さを利用し、土の壁で視界が塞がれているペインにその壁越しに奇襲を喰らわせるというコンビ技だ。
オビトが土流城壁を放つタイミングとカカシが雷獣追牙を放つタイミングに然したる差はなかった。一切の打ち合わせをせずにこの連携を行う事が出来るのが、二人がコンビとしてその名を馳せている証拠であろう。
雷獣追牙が土の壁を突き破った時、そこには既に天道と餓鬼道が待ち構えていた。
土流城壁にて土の壁が築かれた瞬間に次に忍術か飛び道具による一斉攻撃が来ると予測していたのだ。
流石に土の壁が築かれた瞬間にそれを突き破って雷遁が強襲してくるのは予想外だったが、忍術ならば餓鬼道が吸収すれば済むだけの事だ。
更に修羅道がその全身から数多の兵器を作り出し、土の壁に向けて一斉に放った。
無数のミサイルやレーザーと言ったこの世界の技術水準では本来有り得ない兵器を自らの肉体から作り出す。これも輪廻眼の恐るべき力であった。
無数の兵器は土の壁を容易く破壊しそのままヒルゼン達に襲い掛かる。
――火遁・大豪炎の術!――
――風遁・真空大玉!――
当然それを黙って受けるわけもなく、ヒルゼンとダンゾウは互いに得意とする忍術を同時に、完全にチャクラ比を合わせて放った。カカシとオビトのコンビに勝るとも劣らぬ、まさに熟練の技である。
大豪炎に真空大玉が合わさる事でその火力と規模は圧倒的に高まり、修羅道の兵器を防ぎ切った。
それだけでなくそのまま餓鬼道に向かってその炎は直進していく。だが当然忍術による攻撃が餓鬼道に通用するわけもなく、炎はそのまま餓鬼道に吸収されていく。
だが餓鬼道は忍術を吸収している間動く事が出来ない。その隙を突いてリンは複数の苦無を投擲する。
物理攻撃を防ぐ手段を餓鬼道は有していない。それを防ぐ為に天道は苦無に向けて神羅天征を放つ。自分を中心として周囲に斥力を発生させるだけでなく、こうして部分的に斥力を発生させる細かな放出も可能であった。
餓鬼道が炎を吸収し続け、天道が苦無を弾いた。その瞬間にカカシが地面から奇襲を仕掛けた。
カカシはオビトの隣で立っている。だがこうして奇襲をしているのもカカシだ。
カカシは土流城壁が壊される前に影分身の術を使用していたのだ。そして影分身を地中に潜らせて天道が神羅天征を使用した瞬間に攻撃を仕掛けたのである。
神羅天征のインターバルに付いてもフカサクから聞かされていた。その隙を突いての奇襲であった。
だが天道、いやペイン六道は能力が強いだけの存在ではない。
影分身のカカシが地面から飛び出す前に大地が僅かにひび割れた予兆を見逃さず、その奇襲を見切り完全に回避した。
更に追撃しようとする影分身だが、修羅道が振るった刃の尾により肉体を貫かれて消滅する――前に、修羅道に電撃を流していく。
――雷遁影分身だと――
そう、カカシの影分身はただの影分身ではない。雷遁を組み合わせる事で消滅する前に対象に雷撃を流す雷遁・影分身であった。
電撃を流された修羅道はその動きが麻痺した事で次の攻撃を回避する事が叶わなかった。
――螺旋丸!――
カカシとタイミングをずらして地面から奇襲を仕掛けたオビトの螺旋丸により、修羅道は破壊された。
アカネとの修行でオビトは自身に欠けていた近接戦闘に置ける決定打を手に入れたのだ。それが螺旋丸である。
チャクラを乱回転させて球状に留めた事で生み出される破壊力はペイン六道の一体の破壊に成功する。
オビトはそのまま餓鬼道を破壊しようとするが、それは天道によって防がれた。
そして天道がその腕から伸ばした黒い棒によりオビトは貫かれて消滅する。だが、当然この奇襲に使われたのも影分身だ。当人はカカシの隣で立っているのだから。
「取り敢えず一体か……」
「油断するな。奴らは復活する様だからな」
「復活の術を使うあのペインを先に倒しておきたい所だがのぅ……」
修羅道を倒したオビトにダンゾウもヒルゼンもまだ油断するなと声を掛ける。
そして奥にいる地獄道を難しそうな表情で睨んだ。地獄道は人間道と畜生道によって護られているのだ。
その三体のペインは後方に下がって完全に防御の態勢に入っていた。木ノ葉に地獄道がペインの急所だと知られているのを理解しているので、地獄道がやられるのを警戒しての動きだった。これでは奇襲も成功しないだろうと、まずは数を減らす事を先決にして修羅道を狙ったのである。
「このペイン六道相手にここまで戦えるとはな。自来也先生といいお前達といい、木ノ葉にはいい忍がいる……。だが、このペイン六道の前では全てが無意味!」
天道は修羅道の前に立ち自身を中心に神羅天征を放った。斥力を操るという忍術の枠を超えた圧倒的な力は、それを警戒していたヒルゼン達をいとも容易く吹き飛ばしていく。
『ぐぅっ!?』
「きゃあっ!?」
斥力の力は情報として頭に入れてはいたが、実際に体感するとなると大違いであった。一瞬で目に見えない力が全身に襲い掛かり、僅かに留まる事も出来ずに吹き飛ばされる。
防御だけでなく攻撃にも利用出来るまさに攻防一体の厄介な能力だ。強く吹き飛ばされた事で全身が痛む彼らは、この術にどう対抗すべきか高速で頭を回転させていた。
だがそれどころではなかった。天道が放った神羅天征はヒルゼン達を攻撃する為だけではなく、修羅道を後方へと吹き飛ばす為でもあったのだ。
吹き飛ばされた修羅道は地獄道に受け止められ、そして地獄道が呼び出した閻魔に飲み込まれて再び現れる。その姿は傷一つない、破壊される前の修羅道そのものであった。
「これで振り出しに戻ったな」
「じょ、常識超え過ぎだろおい……!」
理不尽な力の応酬にオビトも歯噛みする。話には聞いていたが、こうして目にするとその理不尽さに嫌気も差すというものだ。
忍術は吸収され、物理攻撃は弾かれ、倒しても復活する。これに納得しろというのが無理という物だろう。
「それでもやるっきゃないでしょ!」
「分かってるよ! だがこのままじゃジリ貧だぜ!」
敵が理不尽でも戦うしかないというカカシの言葉は正しいが、オビトの言葉もまた正しい。天道は振り出しに戻ると言ったが実はそうではない。消耗はヒルゼン達の方が激しいのだ。
術の連発に神羅天征のダメージ。まだ動きに支障が出るほどではないが、確実に戦闘開始直後よりも消耗している。
対してペインも確かにチャクラは消耗しているかもしれないが六道全員が無傷だ。その上忍術を吸収する事でそのチャクラも回復している。どちらが有利かなど子どもでも理解出来るだろう。
この現状を覆す方法は誰もが理解していた。敵の復活の要である地獄道を倒す事だ。そうすればペイン六道がこれ以上復活する事はなくなるだろう。
だがもちろんそれはペインも理解している。だからこそ地獄道を強固な守りで護っているのだから。
どうにかしてあの守りを突破し地獄道を倒す。それがヒルゼン達に残された唯一の道である。
「さて、これはどうする?」
一瞬の膠着状態を破ったのはペインだ。畜生道が複数の口寄せ動物を呼び出しそれらをヒルゼン達にけし掛ける。
それだけでなく巨大な鳥の口寄せ動物に畜生道・地獄道・人間道・修羅道が乗り込み空へと飛び立った。
「あれでは……!」
空という領域に飛び立った地獄道への攻撃方法は限られている。これでより地獄道を倒す手段が減った事になる。
更に修羅道が空から地上に向けて無数の兵器で攻撃を仕掛け、地上では巨大な犬とカメレオンとムカデがそれぞれヒルゼン達に襲い掛かる。
この怒涛の攻撃に対してヒルゼン達はそれぞれが力を発揮し連携する事で凌いでいく。
――風遁・真空連波!――
ダンゾウが口から複数のカマイタチを吹き出し上空のペイン達を攻撃する。
そのカマイタチに対して修羅道はミサイルを放ち迎撃しようとするが、カマイタチとミサイルの間に突如として現れた存在がいた。
――土遁・地動核!――
「むっ!?」
それはヒルゼンの地動核の術により一気に持ち上げられた餓鬼道であった。
地動核の術は対象の立つ地面を不意打ちの形で持ち上げたり下げたりする術だ。その術で餓鬼道をカマイタチとミサイルの間まで上昇させたのである。
忍術を吸収出来る餓鬼道だが物理攻撃はそうではない。前方のカマイタチは吸収出来るが後方のミサイルは防げずにダメージを受けるだろう。
だがヒルゼンとダンゾウが予想した未来は訪れなかった。なんと餓鬼道はカマイタチではなく地動核にて持ち上げられた地面を吸収したのだ。
元々は普通の地面だが、チャクラによって操られ隆起した存在だ。ならば術を吸収する餓鬼道に吸収出来ないわけはなかった。
「物体である土遁も無理か!」
火遁などのエネルギーではなく質量を持つ土遁ならばと思っていたが、忍術である限り餓鬼道には通用しないようである。
餓鬼道が元の地面へと戻った事でカマイタチとミサイルはぶつかり合い上空で爆発が起こる。その爆発を縫って更にミサイルが地上へと降りかかり、それをヒルゼン達は躱していく。
回避行動を取るオビトに向かって巨大な犬がその強靭な顎と牙にて噛み砕かんとばかりに襲い掛かる。
「舐めんな!」
――土遁・土流割!――
その口寄せ犬に対してオビトは土流割にて大地に巨大な裂け目を作る事で対処した。
突如として地面に出来た裂け目に巨大な犬も飲み込まれていく。更にオビトは連続して術を放つ事でこの口寄せ犬を封じ込めた。
――土遁・土流槍!――
自らが作り出した裂け目から無数の土の槍を生み出し口寄せ犬を串刺しにしたのだ。
その攻撃を受けた事で口寄せ犬はその頭部を増やしていく。増幅口寄せの術という特殊な口寄せに縛られた巨大な犬は物理ダメージを受けるとその数を増やしていくのだ。
だがそれは前もってオビトも聞いている情報だ。だからこうして動きを封じる様に術を放っているのだ。
「そらよ!」
更にオビトは土流割にて作り出した裂け目を再びチャクラを操り閉じる事で、口寄せ犬を地下に閉じ込めた。
増えた頭の数だけ分裂する口寄せ犬を串刺しにし身動きが出来ない状態にし、その上で大地を閉じる事で分裂できるスペースを完全に奪い去ったのだ。
口寄せ犬が分裂をする前にこれだけの術を一瞬で連発し大地を閉じる。巧みなチャクラコントロールと忍術の腕を必要とする高等な技である。
「大したものだ……」
相手にすると厄介な増幅口寄せをこうも見事に封じ込めた手腕に、ペインも称賛の言葉を紡いだ。流石はカカシと共に音に聞こえた忍なだけはある、と。こういった忍は生かしておくと後々厄介になるとペインは理解していた。
まあ、この場の誰一人も生かす気がないので今更ではあったが。
天道はオビトに向けて片手を伸ばす。それを見たオビトは神羅天征を使用するつもりだと予測し、斥力の力に耐えようと身構える。
――万象天引――
だが天道が使用したのは神羅天征ではなかった。それは神羅天征と対を成す術、引力を操る万象天引であったのだ。
「なぁっ!?」
弾かれる力に身構えていたオビトは予想外であった引き寄せる力に不意を突かれ、一気に天道へと引き寄せられて行く。
万象天引の力を受けたオビトは瞬時に天道の力を理解した。天道は斥力を操る力を持っているのではなく、斥力と引力を操る力を持っているのだと。
「みんなー! こいつは引力も操るッ!!」
全員に天道の能力を教えながらも、オビトは万象天引に抗おうと忍具として持っていた鎖を周囲の瓦礫に絡ませる。
だが万象天引の力にはその程度で抗う事は出来なかった。天道が更に力を籠める事でオビトは握り込んでいた鎖を手放してしまい、待ち構えていた天道が持つ黒い棒に突き刺されてしまう。
『オビトォォォ!!』
巨大なムカデを相手にしていたカカシも、苦無を投擲してカカシをサポートしつつ味方の回復役として前に出ていないリンも、オビトを助ける事が出来ず叫ぶしかなかった。
『くっ!』
姿を消して攻撃を仕掛けてくるカメレオンに対処していたヒルゼンも、空中の敵への牽制とミサイルの迎撃に精一杯のダンゾウもオビトに救いの手を伸ばす暇はなく、歯噛みするしか出来ないでいる。
だが――
「……貴様」
「ぐっ……へ、舐めんなって言っただろうが!」
オビトは生きていた。左肩を黒い棒にて貫かれているが、急所は避けていたようだ。
そればかりかオビトは鎖から手を離した瞬間にその右手に苦無を持ち構え、引き寄せられた勢いを利用して逆に天道に苦無を突き立てていた。
それは惜しくも天道の左腕にて防がれた為に致命傷には至っていないが、それでも自来也ですら傷つける事が出来なかった天道に傷を付けたのは確かだ。
オビトは更に追撃を加えるべく、苦無から手を離し右手で螺旋丸を作り出す。この至近距離ならば外しようはない。先ほどは咄嗟だった故に螺旋丸を作る事は出来なかったが、この威力ならば腕でガードしようがダメージを防ぎきれるものではない。逃がさない様に肩の痛みを無視し左手で天道の右腕を掴み、全力で螺旋丸を叩きつけようとする。
「ッ!?」
だがその螺旋丸は天道に当たる直前に掻き消える事となった。それは天道が神羅天征を使用した為ではない。オビトの左肩に刺さった黒い棒が原因であった。
この黒い棒はチャクラの受信機としての役割を持っている。ペイン六道の全身に刺さっているのと同じ物だ。これを利用してチャクラを流し込む事でオビトのチャクラを乱したのだ。
螺旋丸は非常に高度なチャクラ操作を要求する高難度の術だ。そんな術をチャクラをかき乱された状態で使用出来る訳もなく、敢え無く霧散してしまったという訳だ。
「クッ!」
オビトは咄嗟に天道から離れる。黒い棒を引き抜いた為に左肩に激痛が走るが、そんな痛みは無視して更にその場を離れようとする。そんなオビトに向けて修羅道は空から無数のミサイルを撃ち放った。
あわや絶体絶命か。そう思っていたオビトは突如として後方へと引き寄せられる事でそれらの攻撃から逃れる事が出来た。
「無事かオビト!」
オビトを救ったのはカカシだ。巨大なムカデを雷切にて切り裂いた後に、オビトに鎖を絡ませて引き寄せたのだ。
「ああ、問題ねー! 助かったぜカカシ」
九死に一生を得たオビトはカカシに礼を言う。だがその中に強がりがある事を見抜けないカカシとリンではなかった。
「リン!」
「ええ! オビト! 早く傷を見せて!」
カカシは二人の前に立ちペインの動きに警戒し、リンはすぐにオビトの傷を確認して医療忍術を施す。
「だ、大丈夫だって! こんなの唾でも付けときゃ問題ないからさ!」
戦闘中の回復は必要だが、この状況では回復している暇にペインの攻撃に晒されより危険に陥る可能性が高い。
それによりリンが危険になる事を危惧したオビトは強がりを述べるが、それで納得するリンではなかった。
「何強がり言ってるの! 私を心配してそんな事言ってるなら怒るからね!」
オビトが自分を心配してそう言っている事はリンには分かっていた。
誰よりも仲間想いなオビトだ。これまでの任務でも幾度となく仲間の為に無茶をした事がある。その上リンに惚れていると公言しているのだ。これが強がりなのは明白だろう。
そんなオビトにリンは腹を立てていた。もっと自分を信用してほしい。仲間として頼ってほしいと思うのだ。同時に女性としてのリンはオビトの言動に嬉しく思うので複雑ではあったが。
「リン……悪かった」
「ううん、怒鳴ってごめん……。よし、これでもう大丈夫よ!」
リンの想いを理解したオビトは素直に謝罪する。そして治療も終えた様だ。
アカネの元で医療忍者として修行を積んだリンはその実力を大きく伸ばしており、この程度の傷ならば僅かな時間で治療が可能であった。
カカシは自分の後ろでそんな風に治療と青春をしている二人を微笑ましく思いつつもペインへの注意は怠っていない。
そしてペインの動きの不自然さに気付いた。リンがオビトの治療に掛けた時間は僅かだ。だがその僅かな時間の中とはいえ、ペインは一切の攻撃をしてこなかった。
空から降り注がれていたミサイルも、天道の引力と斥力も、全ての口寄せ動物が倒された畜生道も新たな口寄せをする事なくこちらを見つめていたのだ。
――いや、見ているのはオレ達だけか?――
ペインの視線の先にあるのが自分とオビトとリン、この三人にあるのをカカシは見抜いた。
何故自分たちを注視して攻撃の手を止めたのか。オビトを治療する為に生まれる隙は攻撃の為の絶好の機会だったはずだ。それを何故見過ごしたのか?
カカシには分かるはずもなかったが、ペインはこの時カカシ達を見てかつての記憶を思い出していた。
この世に平和をもたらす為に努力して無茶をするかつてのリーダーである弥彦。その弥彦の無茶を窘めつつも、無茶によって傷を負った弥彦を癒す小南。そんな二人を見守る自分。
二人が誰よりも大事だった。仲間であり友であり、それ以上に家族であった。弥彦の夢が自分の夢であり、三人でずっと一緒に平和を目指し、三人でずっと一緒に平和を謳歌したかった。
今でもその叶わぬ夢を思い出す。そんなペインがカカシ達の今の光景をかつての自分達と重ね合わせてしまうのは仕方のない事なのかもしれない。
かつてあった幸せな記憶を壊したくない。そんな想いがペインに攻撃の手を緩めさせる原因となった。ペインは最後の慈悲としてカカシ達に言葉を告げる。
「……我々に従い協力しろ。世界を平和へと導く為の力となれ。そうすれば、これ以上木ノ葉を傷つける事はしないと約束しよう」
それは最後通告だった。これに従わないならばペインもこれ以上の慈悲を掛けるつもりはなかった。
そしてその言葉への返答はオビトが行った。
「その木ノ葉の中にナルトはいないんだろ? だったら、答えは一つだけだ!」
その言葉はオビトだけでなく全員の意思の代弁だ。誰もがペインを強い意思で睨み付けている。
例えペインがナルトの命を奪わないと言っても答えは同じだろう。ペインの言う世界平和の為に生み出される犠牲を容認出来る者はこの場にはいないのだから。
「そうか……ならば死ね」
その言葉を合図にペイン六道の攻撃は再び開始された。
地上の天道による引力と斥力の操作。空中の修羅道による圧倒的な破壊の雨。畜生道が新たに口寄せした巨大生物。
これらの前にヒルゼン達は耐え凌ぐ事しか出来なかった。こちらの攻撃は天道が巧みに操作する斥力によって弾かれる。天道の神羅天征の術と術の合間にあるインターバルを狙うも天道の傍にいる餓鬼道が忍術を吸収し、物理攻撃は天道が避けるか最悪餓鬼道が身を挺して守る。そして破壊されたペインは地獄道が修復する。忍術を吸収し、物理攻撃を弾き、何度やられても復活する。こんな化け物を相手に耐え凌げているヒルゼン達はむしろ称えられても良い程である。
「このままでは……!」
このままではいずれ力尽きる。ヒルゼンの危惧は正解だ。
既にヒルゼンもダンゾウもチャクラの大半を失っている。二人は歴戦の忍だが同時に高齢でもあるのだ。衰えた肉体に蓄えられるチャクラの量は限られている。二人とも全盛期の半分程の実力もないだろう。
二人が全盛期であったならばヒルゼン達とペイン六道の立場は完全に逆転していたと言えよう。木ノ葉の全ての術を知り五大性質変化を有するヒルゼンと、『根』の創立者にして裏の火影たるダンゾウだ。その全盛期は忍の神と謳われる程であった。
だが悲しいかな。時の流れとは全てに平等に流れ、そして残酷だ。いや、衰えても並の上忍等とは比べ物にならない程の強さを保っている二人は、やはり忍として高みに至っているという事なのだろう。
ともかく、既に多くのチャクラを失ったヒルゼンとダンゾウ。この二人が倒れてしまえば一気に戦況はペインへと傾く事になる。
そうなれば残る三人もあっという間に倒されるだろう。そしてペインは悠々と木ノ葉を破壊して回ることになる。そうさせるわけには行かない。
「三代目様!? 何をっ!?」
ヒルゼンは覚悟を決めて前に出る。例え敵の攻撃で死に至る傷を負おうとも、それでも未来を切り開く為に自爆覚悟の攻撃に出たのだ。
敵の要である地獄道。これさえ仕留めれば後はペインも消耗し続けるしかない。ペインもそれを理解しているからこそ地獄道を守っているのだ。
だからこその捨て身だ。全てを賭してでもペインに隙を作り出す。そうすれば必ず友が、自分の最も信頼する男がその隙を突いてくれるだろうとヒルゼンは信じているのだ。
――後は頼んだぞダンゾウよ!――
言葉にせずとも伝わっているとヒルゼンは信じている。それ程の長きに渡って共に在った仲間であり、友であり、そして好敵手なのだから。
幾度となく語らい、いがみ合い、時には争った。互いに相手の過ちを言及しあい、互いの良い点を理解しあった。互いに自分にない物を相手が持っていると知り、互いに羨み、尊重しあうようになった。互いに蟠りを失くしてからは真の友として助け合ってきた。そんなダンゾウならば自分の想いを理解してくれると信じ切っていた。
「ゆくぞ猿魔よ!」
ヒルゼンは自らの口寄せ動物である猿猴王・猿魔を金剛如意という変幻自在の棍へと変化させ、空中にいる地獄道に向けて跳躍する。
「愚かな」
その無謀とも言える特攻に修羅道は迎撃の兵器を放つが、それはダンゾウが放つ風遁により逆に迎撃される。
天道は万象天引にてヒルゼンを引き寄せようとするが、それを阻止するべくカカシとリンは天道に向けて無数の苦無を放つ。オビトは餓鬼道が天道を庇わない様に火遁を放ち吸収させる事でその動きを止めていた。
「ちっ」
やむなく天道は神羅天征にて己の身を守る。強力な神羅天征にて苦無ごとヒルゼンを吹き飛ばそうとも考えたが、それをしてしまえば空中にいる他の六道にも影響を与えてしまうかもしれない。それが切っ掛けとなって地獄道がやられてしまえば本末転倒というものだ。
どうせ無謀な特攻をしたヒルゼンは敢え無く修羅道により迎撃されると天道は踏んだ。それを証明するかの如く修羅道はその頭部からレーザーを放とうとしていた。エネルギーの塊であるレーザーならばダンゾウの風遁では防げないだろう。
それでもヒルゼンは構わず地獄道目掛けて跳躍していた。口寄せされた鳥がヒルゼンから離れようとも、閻魔の変化を利用して空中で足場とし跳躍を繰り返し追い続ける。
例え修羅道のレーザーがこの身を貫こうとも構わずに地獄道を道連れにするつもりだ。頭部のみを守り近付くヒルゼンに、修羅道は望み通り胴体に風穴を開けてやろうとレーザーを放ち――
――互いに大地に引き寄せられる事でその体勢を崩す事となった。
『なッ!?』
凄まじい勢いで引き寄せられるヒルゼンと空中にいるペイン達。これには敵も味方も驚愕していた。
天道は神羅天征も万象天引も使用していない。ならばこれは誰の仕業だと言うのか。答えは大地にいる巨大な生物にあった。
「ヴォオオオオ!!」
象の様な鼻を持つこの巨大な生物の名は
その能力は強力な吸引だ。巨大な口を大きく開きあらゆる物を吸い込んでいく。その吸引力でヒルゼンも、そして空を飛ぶ鳥諸共ペインも引き寄せられているのだ。
大地に立っていれば抵抗も出来ようが、空という不安定な空間では自らを支える事も出来ずにヒルゼンもペイン達も貘に向けて引き寄せられていく。
更にダンゾウは影分身を使用し、その影分身に風遁・大突破を本体自らに向けて放たせる事で貘の吸引力を振り切ってペインへと向かう。
巨大な鳥に降り立ったダンゾウはその勢いのままに苦無を振るい地獄道を破壊しようとして――修羅道によって阻止された。
「ぐぅっ!!」
ペインもダンゾウの思いのままにさせるつもりはない。貘の力で地上へ引き寄せられ、ダンゾウに近付かれたのは予想外だったが、それでやられるままにいる訳がなかった。
修羅道が振るった刃の尾はダンゾウの身体を貫いていた。それだけではない。残る人間道、畜生道もその手から黒い棒を伸ばし、次々とダンゾウの身体を貫いていった。
「ダンゾウ!!」
ヒルゼンは大地に落ちつつその光景を目にして叫んだ。そんなヒルゼンをダンゾウは僅かに見やり、そして笑みを浮かべた。
――今度はオレの番だヒルゼン――
ヒルゼンはダンゾウのそんな声を聞いた気がした。その言葉の意味を理解したヒルゼンは再び叫んだ。
「だ、ダンゾウォォ!!」
巨大な鳥の上に倒れるダンゾウを見て地獄道は呟く。
「ようやく一人か。だが、お前たちの抵抗もこれで終わりだな」
五人掛かりでようやく拮抗を保てていたのだ。そこから一人減れば最早拮抗など保てようはずもない。
だが、その地獄道が放てる言葉はそれが最後だった。
「む? こ、これは!?」
一番最初に異変に気付いたのは人間道だ。ダンゾウの身体から黒い何かが噴き出したのだ。そしてそれは周囲に広がりある陣を描き出した。
「ちっ!」
ダンゾウの最期の足掻きに、口寄せ鳥の上に立つペイン達はその場から離れようとする。だが、その中で地獄道のみが脱出する事が出来ないでいた。
地獄道の足をダンゾウが掴んでいたのだ。死ぬ前に全ての力を振り絞り、地獄道だけは逃がさない様にしたダンゾウの執念の証だ。
そしてダンゾウがその身に刻み込んでいた術式がその効果を発揮した。己の死に際に発動するよう術式を組んでいた封印術。周囲の全てを自らの死体に引きずり込んで封印する道連れ封印術である。
ダンゾウは初めからこれを狙っていたのだ。貘を今まで使用していなかったのは、敵に空中から引きずり落とす手段がないと油断させる為。ヒルゼンの特攻を補佐したのもヒルゼンを囮とし、自らの行動を悟らせない様にする為。
味方すら欺き敵の隙を生み出しそこを突く。根を束ねるダンゾウらしい戦術だった。その隙を突いた苦無の一撃も通用はしなかったが、それすらダンゾウの手の内だった。
もちろん苦無の一撃にて地獄道を破壊する事が出来ていればそれに越した事はなかったが、それが不可能だった場合に自らが犠牲となる事をダンゾウは厭わなかった。
全ては木ノ葉の為に。かつて若かりし頃のダンゾウは、仲間の危機の際その覚悟を持ち出す事が出来なかった。
誰かが犠牲にならなければ全滅してしまう場面だった。自分が犠牲になると言い出すつもりだった。だが、言えなかった。怖かったのだ。忍の世界は死と隣り合わせだと理解していても、いつかは死ぬと理解していても、やはり自分から死を選ぶのは怖かったのだ。
そんな風にダンゾウが覚悟を持ち出す事が出来ないでいる時、ヒルゼンは他の誰よりも早く、他の誰かの為に犠牲となろうと動き出していた。
ヒルゼンの犠牲は二代目火影扉間によって防がれたが、当時のダンゾウは自分よりも先に誰よりも立派な行動を取るヒルゼンに対して敗北感や屈辱を感じ、ヒルゼンを憎んだ事すらあった。
だが生きて帰った二代目に諭され、時間を掛けてヒルゼンと共に成長していく内にダンゾウは変わった。ヒルゼンに対抗する為ではなく、真に木ノ葉を想って物事を考える様になったのだ。
そしてかつて持ち出す事が出来なかった覚悟を持ち出す機会がやって来た。ダンゾウが予想した通り、ヒルゼンは自らを犠牲にして未来を切り開こうとしていた。
それを阻止し、自身が犠牲となる。五代目の統治にヒルゼンの様な存在は必要だ。経験不足の綱手をより良く導いてくれるだろう。自分の代わりは作れるが、ヒルゼンの様に木ノ葉を照らす光の代わりはそうはいないのだ。
だからこそヒルゼンを生かし自身を礎とする。そうする事で最後にヒルゼンに勝てた様な気になる自分に気付き、それを嬉しく思いつつも、死に際までヒルゼンへの対抗心が残っていた事にどこか可笑しく思いながら……ダンゾウは死んでいった。
「ダンゾウ……! この、馬鹿者が……! ワシの様な年寄りを庇ってどうする……!」
庇うならばこんな枯葉ではなく木ノ葉の若葉だろうと、ヒルゼンはダンゾウの死を嘆きつつその行動を批判する。
ダンゾウはヒルゼンこそが木ノ葉に必要な人材だと思っていた。だが、同時にヒルゼンはダンゾウこそが木ノ葉に必要な人材だと思っていたのだ。皆の称賛を一心に受ける事が出来る光の存在ではなく、誰の目に留まらずとも必要不可欠な仕事をこなしてくれる裏方こそが、木ノ葉という大木を支え続けてくれているのだ。
こんな先の短い老いぼれを庇い犠牲になる必要はなかった。常に木ノ葉の根として、火影の裏方として動き続けていたダンゾウには、生きて未来を見てほしかったのだ。ダンゾウの努力によって築かれた平和を謳歌する子ども達を見守り続けてほしかったのだ。
だが、今はダンゾウの死を嘆き続けている場合ではない。ヒルゼンはその想いを内に秘め、ダンゾウが切り開いてくれた未来を掴む為に前を向く。
「これで敵の復活はない……! ゆくぞ皆の者! 木ノ葉の未来はこの一戦にある!」
『はっ!』
ダンゾウの死を悲しむ暇などない。地獄道がいなくなった今、ペインはもはや復活する事は出来ない。
こちらもダンゾウが死した為に戦力は大きく削れてしまったが、だからといって退くわけには行かなかった。復活のキーである地獄道がいなくなった今こそがペイン打倒の唯一の好機なのだから。
ヒルゼン達は誰もが相打ってでもペインを止めようと覚悟していた。だがそんなヒルゼン達の覚悟も、そしてダンゾウの犠牲をも嘲笑うかの如く、ペインはその力を見せ付けた。
天道の近くに集まっていたペインの内、畜生道のみが修羅道によって遥か後方へと投げ飛ばされる。それを見たヒルゼンはペインの行動の意味を理解し、すぐにこの場から離れるように叫んだ。
「いかん! 一旦離れよ!」
「いい判断だ。だが遅い」
――神羅天征!――
天道を中心に強大な斥力が放たれる。それは大地を削り瓦礫を吹き飛ばし、そして耐える暇もなくヒルゼン達を吹き飛ばしていく。
当然その力に周囲のペイン達も巻き込まれる。味方だけは巻き込まないという便利な力ではないのだ。この力に巻き込まれなかったのはあらかじめ避難していた畜生道のみだ。
畜生道を逃がした行動で、ヒルゼンは今までとは規模の違う神羅天征が放たれると予測したのだが、その予測も退避の指示も無意味と言わんばかりの強大な力が全てを吹き飛ばした。
「ぐ、ううっ……」
「なんて奴だ……」
「……みんな、無事?」
「どうやら、生きてはいるようだな……」
ヒルゼン達はかろうじて全員が生きていた。だが誰もが重傷を負っている様だ。あまりの力で吹き飛ばされた為に全身の骨が幾つも折れ、瓦礫により無数の傷が出来ている。
皆の傷を癒そうとリンが動こうとするがその意思は肉体には伝わらない。それ程の傷をリンも負っているのだ。まずは動けるように自身の傷を癒す事にリンは集中する。
「なんという力。じゃが、あれでは奴らも……」
ヒルゼンの考えている通り、天道の周囲にいたペインも神羅天征に巻き込まれダメージを受けている。
いや、ヒルゼン達よりも天道の遥か近くにいた為にその身に受けたダメージは比ではなく、天道と畜生道以外のペインは全て破壊されてしまっていた。
「自分たちの戦力を減らすなんて、何考えてんだ?」
「だが好機だ。あと二人、特にあのペインを倒しさえすれば……!」
オビトの疑問ももっともだが、カカシの言う通り最も厄介な天道さえ倒せば残る畜生道はどうとでもなる。
だがカカシは理解していなかった。いや、ヒルゼン達の誰もが理解していなかった。唯一畜生道だけ逃したその意味を。
――万象天引――
天道は万象天引にて遠く離れた畜生道を引き寄せる。そして畜生道は口寄せの術を使用した。そして口寄せされた者を見て、その者が行った事を見て、ヒルゼン達は驚愕した。
口寄せされたのは神羅天征によって破壊された修羅道・人間道・餓鬼道、そしてもう一人、今まで見た事のない新たなペインであった。
「七体目の、ペインじゃと!?」
「違うな。ペイン六道はその名の通り六体のペインを表す」
ヒルゼンの言葉にそう返す天道だが、正確には七体目のペインとも言うべき存在はいる。だがこの場では関係ないのでそれは省こう。
呼び出されたのは七体目のペインではない。それを示すかの様に、新たなペインは破壊された三体のペインを自らの力で呼び出した閻魔像に飲み込ませ、そして元通りの身体で復活させた。
『ッ!?』
それはまさに地獄道の力そのものであった。そう、このペインは七体目のペインなのではなく、ペイン六道の一体、地獄道なのだ。
「ば、馬鹿な! その力を持つペインはダンゾウが封印したはず!」
「その通りだ。地獄道はあの男によって封印された。だから予備の地獄道を動かしたのだ」
「予備……だと!?」
そう、予備だ。ペインは木ノ葉に戦争を仕掛ける前にあらかじめペイン六道の予備を用意していたのだ。と言っても予備は地獄道のみなのだが。
ペインと自来也が戦った時、ペインは自来也の予想以上の実力に多くの力を見せる事となった。そしてその情報が木ノ葉に伝わっている事も理解している。
ならば敵が地獄道を狙わないはずはなかった。当然だ。復活させる能力を持つ敵を放置するなど馬鹿でもしない所業だろう。ペインが地獄道を他のペインで守っているのも同じ理由だ。
だがそれだけでは地獄道を守るには足りないだろうとペインは木ノ葉を高く評価していた。自来也という強大な力の持ち主がいたのだ。他にも多くの実力者がいないとどうして言える。
自来也と同じ二代目三忍の綱手。三代目火影であるヒルゼン。裏の火影ダンゾウ。火影の右腕左腕に、うちはと日向の当主、他にも多くの名が知れ渡っている忍を擁するのが木ノ葉隠れの里なのだ。甘く見てはペインと言えど痛い目を見るだろう事は容易く予想された。
更にはあの日向ヒヨリの生まれ変わりである日向アカネと戦う事も計算に入れていたのだ。慎重に慎重を重ねても臆病ではないだろう。
そうしてペインは木ノ葉を襲う前に地獄道の予備を用意した。手頃な死体を用意し、それにチャクラの受信機となる黒い棒を埋め込み、地獄道が破壊された時に新たな地獄道となる様に準備していたのだ。
この手は無数の予備を生み出すには至らなかった。ペイン六道を生み出すにはそれなりの手間と準備が必要であり、無数に予備を用意する事は様々な点から不可能だったのだ。
予備の地獄道を準備するだけでも長門に大きな負担を強いていたのだから、これ以上は長門の体力と寿命を更に削る事になっていただろう。
「恨むなら自来也先生の強さを恨め。そして誇れ。このペインにここまで警戒させたお前達の力を」
そう言って、ここまで戦い抜いたヒルゼン達を称賛しつつペインはヒルゼン達に神の裁きを下す。
復活した修羅道がその全身から数多のミサイルを生み出し、傷つき瓦礫に埋もれるヒルゼン達に放った。
「ぬぅぅっ!」
「う、おおお!」
ヒルゼンとカカシは全身の痛みを無視してその場から離れた。戦力差は絶望的なまでに開いたが、だからと言って諦めるつもりは毛頭なく、彼らは最後まで足掻くつもりだ。
リンも同じくその場から離れている。この中で唯一医療忍者である彼女は自身の傷を癒し万全に近い体調に戻っていた。あの距離から放たれたミサイルならば問題なく避けられただろう。
だが唯一瓦礫から動かない者がいた。
「く、くそっ!!」
それはオビトだ。オビトの足には建築に使われただろう鉄材が突き刺さっていた。その鉄材は巨大な瓦礫と繋がっていた。これでは動く事など出来ないだろう。
足から鉄材を抜こうにもそれだけの暇は既にない。こうしている間にもミサイルは迫っているのだ。このままではオビトはミサイルの餌食となってしまうだろう。
当然ヒルゼン達がそれを良しとする訳がない。各々が今出来るだけの援護をオビトに向けた。
――火遁・大豪炎の術!――
――水遁・水陣壁!――
ヒルゼンが火遁にてミサイルを迎撃し、カカシが水の壁を張る事でオビトの防御を高める。
だがそれが限界だ。今のヒルゼン達は傷つき疲弊し弱っている。これ以上の援護は無理だった。
やがてヒルゼン達の守りを突破し、幾つかのミサイルがオビトへと向かう。だがリンがオビトに向かって走りつつ、その脅威からオビトを守った。
――残る苦無は三本――
リンはオビトの前に向かいつつ自身の忍具を確認する。投擲武器である苦無の本数は三本。そしてミサイルの数は七つだ。リンは残る全ての苦無に起爆札を付けてミサイルに投擲する。
一投目、ミサイルに命中し爆発、更に誘爆を起こした事でミサイルの数は五つとなる。二投目、同じく命中し爆発、誘爆によりミサイルは残り二つとなる。
そして最後の一投。それもミサイルに命中し爆発を起こす。だが……誘爆を起こす事はなかった。
最後に残ったミサイルはそのままオビト目掛けて飛び続ける。もはやリンにそれを阻止する手段はない。いや、あった。オビトを守る為の最後の手段が。
リンは、己の身を盾として、ミサイルからオビトを守り抜いた。
『り、リンーーーッ!!?』
ミサイルの爆音を掻き消すかの如くに、オビトとカカシの慟哭が木ノ葉の里に響き渡った。
大豪炎の術は原作にはない術です。豪炎の術の強化版としてオリジナルで作りました。ヒルゼンならこれくらいはやってくれるはず……!
ペイン六道に予備を作れるかどうかは完全なオリ設定です。簡単に作れるなら原作でも作っておいて不思議ではないのですが、自来也によって原作以上に木ノ葉を警戒しているならこういう手もありかと思って書きました。それでも無数に作られては勝ち目が薄くなりすぎるので地獄道一体だけとしましたが。