どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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NARUTO 第二十八話

 圧倒的。まさにそう言っても良い程の実力をナルトは発揮していた。

 敵であるサソリは暁でも屈指の実力者だ。高名な傀儡使いである砂隠れのチヨバアからその技を教わり、更に独自に進化させたサソリは忍界最高の傀儡使いに至った。

 傀儡使いは操れる傀儡の数でその実力が計れると言われている。一体の傀儡を操れて傀儡使いを名乗る事が出来、三体の傀儡を操る事が出来れば一流と言え、十体もの傀儡を同時に操るチヨバアはまさに超一流だ。

 ならば、百体の傀儡を同時に操る事が出来るサソリはどう形容すればいいのだろうか。チヨバアすら凌駕する忍界最高の傀儡使い。百の傀儡にて一国を落とした事すらある男、それがサソリだ。

 

 そんなサソリがナルトという十六歳の少年一人を相手に圧倒されていた。

 隠れ蓑であったヒルコを容易く破壊され本体を晒されたサソリはナルトを最大限に警戒していた。なのでサソリはコレクションしている人傀儡の中で最も気に入っている一品を取り出した。

 それが三代目風影の人傀儡である。かつて三代目風影は何者かに攫われて行方不明となっていたのだが、その真実はサソリが人傀儡のコレクションとするべく三代目風影を密かに殺害していたのだ。

 

 サソリの人傀儡は生身の人体から作り出した故に生前のチャクラを宿している。つまりこの三代目風影の人傀儡も生前の力を振るえるという事だ。

 その力は磁力の力だ。三代目風影は練り込んだチャクラを磁力に変える事が出来る特別な体質であり、それを利用して砂鉄を操り状況に応じた武器を作り出す事を得意としていた。それにより三代目風影は歴代最強と謳われていたのだ。

 

 その三代目風影を、サソリは全力で操った。傀儡へと改造した時に全身に仕込んだ仕込みを余す事無く披露し、様々な形状に変化させた砂鉄を雨あられの如く放出する。

 毒使いでもあるサソリなだけにそれらの攻撃には全て毒が仕込まれていた。掠りでもすれば毒は回り戦闘力は低下し、短時間で死に至る恐るべき毒だ。

 対抗する為の解毒薬は既に木ノ葉に存在しているが、残念ながらナルトは所持していない為に掠り傷一つで敗北は必至となる。

 だが、その全てをナルトは跳ね返した。

 

 仙人モード。それはナルトに圧倒的なまでの力を与えていたのだ。

 大きく広がった感知能力によりサソリの鋭く複雑な攻撃の全てを見切り、磁力によって千本の様に鋭く細かな武器と化した砂鉄も超大型の螺旋丸にて全てを吹き飛ばした。

 細かな武器では意味がないと悟ったサソリは砂鉄を一つに纏めてナルトにぶつけようとするが、自然エネルギーにより向上した身体能力を持つナルトは鋼の硬さを持つ砂鉄の塊を容易く殴り飛ばす。

 これでは埒が明かないと思ったサソリは三代目風影の切り札を使用する。

 

 砂鉄界法。磁界の反する二つの高密度の砂鉄の塊を結合する事で磁力を一気に高め、その磁界の反発力にて広範囲に砂鉄の針を棘の如く拡散させる術だ。

 これだけの速度と広範囲に広がるこの術ならばとサソリは思うが、ナルトはこの術の真っ只中にあってさえ無傷であった。

 ナルトの周囲には三体の影分身がそれぞれナルトを囲む様に配置され、外側に向けて大型螺旋丸を作り出していた。

 更に本体のナルトも頭上に向けて大型螺旋丸を掲げており、それにより死角を無くしたナルトは周囲から迫る砂鉄の全てを螺旋丸にてなぎ払ったのだ。

 

 この切り札でも倒せなかった事にサソリは驚きを禁じえないが、それでも冷静さを保ち傀儡使いのセオリー通り中距離を保って戦闘を続行しようとする。

 傀儡使いは接近されると弱い。もちろんサソリはその例から外れているが、今のナルトを相手に近付くことは自殺行為だと理解しているのだ。

 だがそんなサソリの警戒すらまだ足りないとばかりに、ナルトはサソリに向けてある仙術を放った。

 

――仙法・風遁螺旋手裏剣!――

 

 風遁螺旋手裏剣。螺旋丸に風の性質変化を加えた忍術だ。その威力は凄まじく、風遁のチャクラによる無数の針が螺旋丸に渦巻く事で圧倒的な攻撃回数を誇るという大技だ。

 その攻撃回数は濃度で表した方が的確な程に濃く、針に形態変化したチャクラは対象の経絡系の全てを損傷させる程の威力を持つ。それだけでなく単純な破壊力に置いても右に並ぶ術は忍界に少ないという程の仙術だ。

 元々は忍術として一度は完成させていた螺旋手裏剣だったが、手裏剣の名は伊達と言わんばかりに投げる事が出来ない不完全な術だった。それが仙人に至った事でこうして完全な術へと進化したのだ。

 ナルトは完成した風遁螺旋手裏剣をその名に負けない様にサソリに向けて投擲する。それに焦ったのはサソリだ。

 

 サソリは間違いなく超一流の忍だ。故にこの風遁螺旋手裏剣の恐ろしさを一目で理解した。

 当たればまず死は免れない。人の身体を捨て、痛みを捨て、胸にある唯一の生身の部位を破壊されない限り行動可能というサソリがこの術の前に逃げの一手を取ったのだ。

 

 サソリは風遁螺旋手裏剣の軌道から素早く離れる。予想以上だと思っていたナルトが更に予想以上なのだと理解したサソリはどうするべきかと考える。

 ここまでの戦闘でナルトの強さが自分以上だとサソリは見抜いた。このまま戦っては死ぬか、死なぬまでも確実に手痛い目に遭うだろう。ならば撤退するべきか。

 僅かな時間でそこまで思考したサソリだが、次の瞬間に驚愕に目を見開いた。投擲された風遁螺旋手裏剣が、その軌道を変化させて自分に向かって来ているのだ。

 その理由はナルトの影分身にあった。ナルトは風遁螺旋手裏剣を投擲する前に自身の影分身を先行させていたのだ。そしてサソリが回避行動を取った所を確認し、近づいて来た螺旋手裏剣を掴みサソリに向けて再び投げつけたのだ。

 自身の術とはいえ、これほどの大忍術をこうも容易く操れるのはこれまでのナルトの弛まぬ努力の結果だろう。ともかく、一度避けたと思っていた術が再び迫る事態にサソリは驚愕し、そして三代目風影の人傀儡を犠牲にする事で難を逃れた。

 

「くっ!!」

 

 人傀儡と風遁螺旋手裏剣がぶつかり合い、そして凄まじい破壊の奔流が周囲を襲う。それに吹き飛ばされながら、サソリは風遁螺旋手裏剣の威力を垣間見た。

 そこには巨大な大穴しか残っていない。瓦礫も、平らな大地も、そして三代目風影も、跡形もなく消え去り、綺麗な半円状となった地面しか残されてはいなかった。

 

「ここまでとはな……」

 

 規模で言うならばこれ以上の忍術は数多……とまでは言わないがそれなりに存在する。だが、ここまでの密度を保った威力を誇る術はどれだけあるだろうか。

 あの術の攻撃範囲内にあった物は全てが塵と化すだろう。サソリにそう思わせるだけの威力を風遁螺旋手裏剣は有していた。

 先の戦闘の実力に加え、これだけの術とそれを使いこなす技術と判断力。まさに手に負えない化け物だ。多くの人柱力を狩ってきた暁が最後に当たった壁がこれかとサソリは苦笑するしかなかった。

 

 撤退するべきか、ではなく撤退するしかない。サソリのその判断は正しく、そして遅かった。

 

「逃がさねぇよ」

「くっ!」

 

 いつの間にか、既にサソリは影分身含めた四人のナルトに囲まれていた。

 この状況で逃げるのは不可能。ならば戦闘しつつどうにかして隙を作り出して逃亡するしかない。瞬時に作戦を見直したサソリは自身が操れる最大数である百体の傀儡を巻物から口寄せしようとして――ナルトによって殴り飛ばされた。

 

「!?」

 

 反応する暇もない攻撃だが、その威力はそこまでではなかった。更にナルトは続けてサソリを殴り飛ばす。何度も、何度もだ。

 怪訝になったのはサソリだ。ナルトの実力を知ったサソリは、ナルトが自分を破壊するのは容易いと理解していた。だというのに、ナルトは今も大したダメージにならない攻撃をサソリに加え続けている。

 

「何のつもりだ?」

「てめぇは……そんな身体になって、痛みを忘れちまったのかよ!」

「……何を言うのかと思えば。痛みなど戦いに置いて邪魔にしかならない無駄なもんだ。いや、お前ら生身の人間にとっちゃ自分の肉体の異常を知らせてくれる便利な装置なのかもしれないがな。傀儡となったオレには不要の代物だ。何せ悪い部品は交換すればいいだけだからな」

 

 ナルトの言葉の意味を理解出来なかったサソリは、少し逡巡してその答えに行きついた。

 ナルトは自分を痛めつけてやろうとしていたのだろうと。だが生憎とサソリは傀儡の身。痛みなどとうの昔に捨て去った物だ。憎い敵が痛みに苦しむ様を見られなくて悔しがっているナルトを見やり、サソリはナルトを嘲笑う。

 だが、サソリのその考えは見当違いの物だった。

 

「ふざけんな! オレが言ってんのは自分の痛みじゃねー! 他人の痛みを理解する事も出来なくなったのかって言ってんだ!!」

「……あ?」

 

 今度こそ、サソリはナルトが何を言ってるのか理解出来なかった。他人の痛み? それが忍の世で何の役に立つというのか。

 敵と遭えば敵を殺し、利用出来るなら騙し、必要とあらば仲間ですら裏切る。それが忍の世の常だ。だと言うのに、他人の痛みを理解して何になるというのだ。自身の肉体の痛み以上に邪魔な物にしかならないだろう。それがサソリの偽りない本心だった。

 

「何でこんな事が出来る! どうして戦争なんてふざけた真似が出来るんだてめーらは!!」

「他人の痛みなんざ理解してどうなる? 馬鹿かお前? 忍の世は騙し騙されが当たり前に徘徊する魔窟だ。それが嫌なら初めから忍者になんざなるもんじゃないのさ」

「てめー!!」

 

 ナルトは更にサソリを殴り付ける。他人から痛みを受け育ち、他人から理解してもらいたく、他人に認められたかったナルトには、サソリの考えはどうしても理解出来ない物だった。

 確かにサソリの言う言葉は全てが偽りではない。この忍の世にそんな一面がある事は確かだ。それを覚悟せずに忍になる事は間違っているのかもしれない。

 だが、やはりそれは一面なのであり、全てではない。木ノ葉で傷つきながらも育ち、仲間と師に恵まれ、友を得たナルトはそう信じていた。

 

「お前にはいなかったのかよ! 誰か一人くらいお前を愛してくれる奴がよ!」

「……」

 

 そんな者はいなかった。いや、いた。サソリは自身に愛を注いでくれた確かな存在を思い出す。

 思えば、その存在がいなくなった事が自身が歪み出した原因かもしれない。この状況に至って、何故かサソリはそう思った。

 戦場という命のやり取りをする特殊な環境でそんな思いに至る事を不思議に思いつつ、これも目の前の少年が成せる力なのかもしれないとサソリは考える。

 

「ぐっ!?」

 

 サソリは突如としてナルトを殴り、その勢いでナルトから離れた。そして背中に仕込んであった巻物を取り出し百体もの傀儡を口寄せする。

 

「赤秘儀・百機の操演。オレはこれで一国を落とした。……もう遅いのさ。止めたければ、オレを殺すんだな」

「この、馬鹿野郎が!!」

 

 逃げる心算はサソリの中から消えていた。それを不思議と思いつつも、サソリは何故か逃げるつもりにはならなかった。かつて失った何かが胸に宿った様な気がして、サソリはそれを自嘲する。

 

――生身の身体を捨てた時、オレは人の心も捨てたはずなのにな――

 

 どうしてか目の前で素直に感情を表す少年を見ると捨てたはずの心が疼く気がした。剥き出しの感情をぶつけてくるナルトと接し、冷たい傀儡の身に熱が灯った様な錯覚をサソリは感じていた。

 人の身体と共に心を捨てたはずのサソリにそう思わせる何かをナルトは持っているのだ。自来也や綱手にアカネがナルトを実力以上に信頼しているのもそれと同じだろう。

 

 己の全てを振り絞ったサソリとナルトの戦いは、然程の時間を要する事なく終わりを告げた。

 無数の傀儡に無数のカラクリを仕込もうとも、自来也とアカネの修行を受けて成長し、妙木山にて仙人に至ったナルトには届かなかった。

 サソリが操る人傀儡は一体一体が並の上忍に匹敵する程の戦力を持つ。だが仙人モードのナルトも、仙人モードによる影分身も、人傀儡など歯牙にも掛けぬ程の戦力を有していた。

 

 襲い来る無数の傀儡を次々と破壊しながらナルトはサソリへと突き進み、そしてサソリの元へと到達する。

 サソリは全ての力を出し切った。操れる全ての人傀儡を繰り出し、全てのカラクリを披露し、掠り傷一つで勝ちを拾える毒を用い、己の本体とも言える生身のパーツを別の人傀儡に移し見た目だけの人傀儡を囮にする戦法まで駆使した。

 それら全てをナルトは突破した。百の人傀儡の攻撃を掠りもさせず、邪魔をする人傀儡は破壊し、そして仙人モードによる感知力でサソリの本体を見極める。

 そして、壊された傀儡を装い隠れていたサソリの生身であるチャクラを生み出すパーツを、ナルトは螺旋丸にて破壊した。

 

「……ちっ。やられたか……」

 

 サソリは口から血の様な液体を流しながら呟く。だがその表情は何の痛痒も感じていない様に見えた。

 当然だ。人傀儡となった時に、サソリは苦痛という物を失った、いや捨て去ったのだから。

 

 だが今のサソリは痛みではなく、別の何かに感情を支配されていた。それは悔しさだ。

 人の肉体を捨てた時にサソリは人形になりきったはずだった。それは人の心すら捨てたという事だ。

 だが違った。チャクラを生み出す為にどうしても生身のパーツを使わざるを得なかった様に、人の心もまた完全に捨て去る事は出来ていなかったのだ。

 それがナルトとの戦いの中で蘇った。いや、ナルトがぶつけて来た熱く偽りのない生の感情が、サソリの心の奥底に残っていた感情を呼び起こしたのだ。

 ナルトには全てをぶつけたいとサソリは何故か思ったのだ。そして全力を尽し、負けた。全力を出したから満足した等とサソリは思わない。むしろこんな子どもに負けた事を悔しく思っていた。

 

「……何て顔をしてやがる? こんなガキにやられるなんざな……」

 

 自分を倒したはずの男は、ナルトは悲しそうにサソリを見下ろしていた。

 自分たちの仲間や里に破壊と死を撒き散らした憎き敵に対する表情とはとても思えない。敵に対して感情を顕わにするなど、木ノ葉の里ではどういう教育をしているのか気になる程だ。

 

「たかだか人形一つを破壊しただけだろうが……。憎い敵が一つ壊れた。それだけの話だ……」

「違う……お前は敵だし、憎いとも思った。だけど……お前は人間だ。人形なんかじゃねー」

 

 人形を破壊したのではない。人間を殺したのだ。憎くても、自分が殺した相手でも、人が死ぬ事は悲しい。そう、ナルトは言っているのだ。

 

「……木ノ葉には馬鹿が多いが、お前はとびっきりだな。こんな馬鹿は初めて見た……だからだろうな……オレにも、馬鹿がうつったのは……」

 

 馬鹿が感染したせいで、逃げる事もせずに負ける戦いをしてしまった。そう納得したサソリは、負けて悔しいと思えど、何故か逃げなかった事は後悔せず……その生涯を終えた。

 

「……馬鹿野郎」

 

 どこか満足そうに死んだサソリに最後にそう呟き、ナルトは気合を入れ直す。落ち込んでいる状況ではないからだ。

 

「くそっ! じっちゃんやカカシ先生達はまだ大丈夫か……! 他は……大分やられてるけど、勝ってんのか? アカネは……くそ、冗談じゃねーってばよ」

 

 ナルトは仙人モードによる感知能力で木ノ葉の里周辺の状況を把握する。

 ナルトには把握出来ないが、喜ばしい事に暁の多くは既に打倒されている。この戦争の途中から参戦したナルトは暁がどれだけの人数で攻め込んだのか知りようがなかったのだ。

 暁と思わしきチャクラや戦闘中のチャクラは殆ど感じ取る事が出来ないので、現状では三代目達が戦っているペインと、アカネが戦っているマダラ以外には暁はいないと判断した。

 

 そしてアカネに向けて感知を伸ばすと信じられない物をナルトは感じ取った。

 それは化け物と化け物のぶつかりあいだ。仙人に至ったからこそより明確に理解出来る。アカネとマダラ。この二人と自分の間にある隔絶とした差を。高みに至ったが故に気付ける更なる高みを。

 仙人モードの自身ですら勝ち目があるとは言えない。それほどまでの実力差を感じ取り、今は木ノ葉の内部にある戦闘を終わらせる事に意識を向けるべきだと判断する。

 

 ナルトは消耗した仙術チャクラを自然エネルギーを吸収する事で回復させる。

 そして三代目達が戦っている場所へ赴こうとして――ナルトは木ノ葉の外れにて二人の忍のチャクラを感じ取った。

 その内の一人はナルトが誰よりも良く知る人物だ。同じ班の仲間にして好敵手にして友であるサスケ。そしてその兄であるイタチ。

 そんな二人がいつもと比べるまでもなく分かるほどに弱々しいチャクラを発し――そんな二人に近付く感じた事のないチャクラを見つける。

 

 瞬間、ナルトは影分身を木ノ葉の各地に分散させ、本体である自身はサスケの元へと駆け出した。

 感じた事のないチャクラはサスケ達へと近付いている。仙人モードのナルトでなければ気付けない程巧妙に気配を消して、だ。

 仲間に対してそんな風に近付く必要はなく、つまりサスケ達に近付くこの存在は……敵だ!

 

「サスケェ!!」

 

 サスケに忍び寄る魔の手を払うべくナルトは全力で駆ける。だがそれは――僅かに遅かった。

 

 

 

 

 

 

 大蛇丸との激闘を制したサスケとイタチは予想以上に消耗していた。

 特にイタチの消耗はかなりのものだった。万華鏡写輪眼である天照と須佐能乎の多用とイザナミの使用。これらはイタチに多大なダメージを与える結果となった。

 万華鏡写輪眼は非常に強力な瞳術であり、それと同時に肉体に掛かる負担が非常に大きな瞳術でもある。使用に必要なチャクラは膨大であり、その上長期で見れば失明というリスクが、短期で見ても全身に強い痛みを与えるリスクが存在するのだ。

 イタチの右目からは血が流れている。これも天照を多用した結果だ。そして須佐能乎の反動で全身には強い痛みが断続的に続いている。その上イザナミの使用により左目は失明している。これでまともな戦闘が出来るわけもないだろう。

 

 サスケもイタチ程ではないが大きく消耗している。幾度となく強力な忍術を連発した事でチャクラは大きく減少し、仙人モードの大蛇丸の攻撃を喰らった事で大きなダメージも受けている。

 今のサスケの戦闘力は通常時の二割から三割といったところだろう。そこらの雑魚ならともかく、暁ほどの敵となると足手まといになりかねない消耗具合だ。

 なので二人が医療施設を目指しているのは間違った判断ではなく――二人が敵の気配に気付かなかったのも仕方ない事である。それほど巧妙に敵は気配を消しており、それ以上に二人は消耗しているのだから。

 

 二人の前に突如として現れたのは奇妙な形をした虫とも蜘蛛とも言える見た目の何かだ。それが無数に二人へと飛び掛ろうとしていた。

 それを確認した瞬間、サスケはイタチを突き飛ばした。今のイタチはまともに動く事も難しい程に疲弊しているのだ。ここまで歩くのにサスケの肩を借りねばならなかった程にだ。

 自分が兄を守る。そう決意していたサスケは庇う様にイタチの前に立ち、全身を雷遁チャクラにて強化して敵の攻撃に備え――そして無数の何かは「喝っ!」という言葉と共に爆発した。

 

 まさか爆発するとは思ってもいなかったサスケはその衝撃に耐えようと両手で顔を覆う事しか出来なかった。

 だがすぐに気付く。あれだけの爆発の割には痛みがない事に。衝撃も殆どなく、身体は爆発に吹き飛ばされる事無くその場に立っている。敵の攻撃が予想以上に弱かったのか。

 そう怪訝に思うサスケが爆発による土煙が晴れた後に目にした光景は――うちは一族が誇る写輪眼を疑いたくなるような光景だった。

 

「……にい、さん?」

 

 隣に立っているはずの兄がいない。いや、いた、大地に倒れていた。自分が突き飛ばしたのだから倒れているのか、それなら仕方ない。

 だが何故全身から血を流しているのか。それ程強く突き飛ばした覚えはない。それ程の爆発だったのか。だがそこまでの衝撃を自分は受けていない。

 自分が兄の前に立ったのに、自分が爆発でやられていないのに、兄が倒れているのはおかしい。何だこれは? 幻術なのか?

 

 目の前の光景が理解出来ず混乱するサスケは、やがて自身の周囲を覆うチャクラの鎧に気が付く。それがイタチの身体から伸びている事にも。

 

「あ、ああ……」

 

 それは須佐能乎の鎧だ。

 

「にい……さん……?」

 

 須佐能乎の鎧で守られたからこそ、あれだけの爆発の中でもサスケは然したるダメージを受けなかったのだ。

 

「嘘だ……」

 

 サスケに須佐能乎の鎧を分け与えたからこそ、自分の守りが疎かとなり、イタチはあの爆発による衝撃をまともに受けたのだ。

 

「嘘だあああああぁっ!!」

 

 そして、サスケを覆っていた須佐能乎が消えた。当然だ。術者が力尽きても効果が残る類の術ではないのだ。

 

「ちっ。まとめて一発ってわけにはいかねーか、うん」

 

 サスケの慟哭など気にも止めず、二人に奇襲を仕掛けた張本人は草むらから姿を現す。それは暁の一員にして芸術家を自称する起爆粘土の使い手、デイダラだ。

 デイダラは木ノ葉にて空を飛びつつ起爆粘土をばら撒き好き放題暴れていた。だが空から眺めている内に、木ノ葉の外れにて大きな爆炎が舞ったのをその目で見たのだ。

 それが気になったデイダラはその外れに近付きつつ遠目から確認した。そして見つけたのは同胞である大蛇丸と戦うサスケとイタチだ。

 

 この時点でデイダラには二つの選択肢があった。一つは大蛇丸に協力して木ノ葉の忍を倒すこと。傍目から見ても強敵だと分かるサスケとイタチだ。こちらも協力して戦うのが最も良い戦術だろう。

 だがデイダラはもう一つの選択肢を選んだ。それは、どちらかが勝利するまで身を隠し、勝利した方を不意打ちにて殺すという選択肢だ。

 仲間であるはずの大蛇丸だが、デイダラは大蛇丸の事を嫌っていた。同胞でなければ自分が殺したいと思うほどにだ。今までは同じ暁の一員という建前があった為それは不可能だったが、木ノ葉との戦争中のドサクサに紛れて暗殺すれば何の問題もないだろう。

 他の仲間から怪しまれようとも、木ノ葉の連中に殺された事にすればそれ以上疑われる事もない。デイダラはそう思っていたし、実際そうなる可能性は高いと言えた。

 

 そして蓋を開ければ勝利したのは木ノ葉の忍だ。大蛇丸をだらしないと思いつつも、死んではいないようなので止めを刺す楽しみはある上に、生き残った二人の厄介な強者も倒す事が出来る。まさに一石二鳥だ。

 まともに戦えそうもない程に弱った二人を殺す事など容易い事だ。だが得体の知れない力を使う敵を警戒し、デイダラは起爆粘土による奇襲を試み……今に至る。

 

「まあいい。生き残った奴ももうボロボロだしな。うん。今すぐ大好きなお兄ちゃんの所に送ってやるぜ」

 

 生き延びはしたが、今のサスケが自分相手に勝てるわけもないと踏んだデイダラは悠々と語りつつ起爆粘土を用意する。

 木ノ葉を攻め落とす為に起爆粘土に必要な粘土は大量に用意してある。袋に入れてある粘土を掌の口に食わせる事で自身のチャクラを混ぜ込み起爆粘土へと変化させ、それを独自の感性に基づき造形していく。

 これでデイダラ曰く芸術作品の完成だ。いや、これは完成への序章だ。後はこれをサスケにぶつけ爆発させるだけ。それでデイダラの芸術は真の完成に至る。

 

「芸術は爆発だ! 地獄でそれを広めるんだな! うん!」

 

 サスケにはデイダラが何を言ってるのか理解出来なかった。それは芸術がどうたらという話ではない。真実デイダラの言葉が聞き取れなかったのだ。

 それ程今のサスケの感情は高まっていた。デイダラの声が言葉として認識出来ないほどに、ただの耳障りな音としか認識出来ない程に、サスケは昂ぶっていた。

 

――なんだこれは?――

 

 なんでこうなった? どうして兄さんが倒れている? どうして? 決まっている。オレを庇ったからだ。

 どうしてオレを庇った? 決まっている。オレが弱かったからだ。兄さんを守れないくらい、逆に兄さんに守られる程に弱かったからだ。

 兄さんが須佐能乎で自分を守れなかったのは何故だ? 決まっている。オレと兄さんの距離が離れすぎていたからだ。オレを須佐能乎で守った事で、自分の守りが薄くなったからだ。オレが兄さんを突き飛ばさなければ、オレと兄さんが離れていなければ、オレが余計な事をしなければ何の問題もなかったはずだ。

 いや、オレを庇った理由は何だ? 決まっている。オレを庇う必要があったからだ。オレを、オレ達を攻撃した奴がいるからだ。

 

 どうしてどうしてどうしてどうしてどうして――オレが弱かったから敵がいたからオレが突き飛ばしたから敵が攻撃をして来たから――サスケの感情は昂ぶり続けやがて最高潮へと達した。その瞬間――

 

 

 

 

 

 

 オビトの目の前で凄まじい爆発が起こった。それは、オビトを庇う為にリンが自らの肉体を盾としてミサイルを受けた為に起こった爆発だ。

 その爆風は直撃していないオビトにも向かい、オビトはその衝撃で吹き飛ばされた。

 

「リン! リンーーッ!!」

 

 だがオビトはそんな衝撃など気にも止めず、全身の痛みなどなかったかの如くにただただ叫ぶ。叫び、リンの安否を確認する。

 そんなはずない。リンが死ぬはずない。きっと生きてる。いやそんな訳ない。あの威力が直撃して生きているわけがない。そんな事はない、リンが死ぬ訳ない、だから生きている。

 リンが生きていると根拠もなく叫ぶ自分と、そんな訳ないと冷静に現実を見る自分。相反する二つの意思がオビトを支配する。

 

 分かっているのだ。忍として高い実力と判断力を持つオビトは現実を直視出来る冷静さを持っている。今の攻撃でリンが生きている可能性は限りなく零に近いのだと理解しているのだ。

 だがそれを認めたくないオビトがいるのも確かだった。リンはオビトにとって何よりも大切な人だ。幼い頃から思いを募らせ、今に至るまで慕い続けてきた最愛の人なのだ。

 死んでいるわけがない。きっと生きている。少しでも生きていれば、医療忍術できっと癒せる。そう、信じている。信じたかった。

 

「リン! オビト!」

 

 カカシもまた二人の安否を気遣っていた。カカシにとってこの二人は最も親しい友だ。

 幼い頃のトラウマから、カカシは忍に必要なのは掟を守る事であり、感情を優先して行動する事は忍として最も愚かな事だと思っていた。

 だがそれはオビトによって間違いだと気付かされた。確かに掟は重要であり、この世界で必要だ。それを守る事が出来ない忍はクズ扱いされる。

 だが仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ。カカシはオビトからそう教わったのだ。忍としてはオビトは間違っているだろう。だが人間としてオビトはカカシよりも遥かに上だった。少なくともカカシはそう思っている。

 オビトのこの言葉を、この思いを、カカシは自分の生徒へと伝えている。伝えようとするあまりカカシが担当した下忍はナルト達第七班以外がアカデミーに戻されているが、それでもカカシはこの思いを伝える事を止めようとはしないだろう。

 

 かつてクズだった自分を慕ってくれたリンと、クズだった自分を正してくれたオビト。掛け替えのない二人の親友。その命が危ぶまれようとしているのだ。カカシが冷静なままでいられる訳もなかった。

 

 やがてカカシはオビトの姿を見つけた。今もリンを探して叫び続けているオビトを見つけるのは容易かったようだ。

 だがリンの姿はどこにもない。リンからの返事も一切がない。カカシもオビトも、心を潰さんばかりの絶望と、僅かな希望を胸に抱いてリンを探し続ける。

 そして二人はすぐにリンを見つけた。爆風によって吹き飛ばされたのか、リンはオビトよりも後方にて倒れていた。リンはミサイルの直撃を受けてもどこも欠損をしていなかった。あの威力のミサイルが直撃したにしては奇跡とも言えるだろう。……その全身から止め処なく血を流していなければ、だったが。

 

『リン……!』

 

 二人の声にピクリとも反応しないリンを見つめて、オビトとカカシは絶望する。写輪眼でも死んでいるとしか判断出来ない有様だ。傷ついた肉体からは欠片もチャクラは感じ取れず、流れる血は命がそのままに流れ落ちていくかの様に見えた。

 二人は今までにも幾度となく今のリンと似た状態の者達を見てきた事がある。そう、それは戦場で、助ける術もなく死にゆく者達。敵と味方の区別もなく、死にゆく者達を数多く見てきた。それとリンが重なって見えた。つまりもう――

 

――ああ、リンは助からない――

 

 何よりも信じたくないその現実を、心の中でどこまでも冷静であろうとする忍の部分が、そう告げていた。そしてその現実を受け止めた時……受け止めてしまった時、二人の感情は振り切れた。その瞬間――

 

 

 

 

 

 その瞬間――サスケの両目が、オビトの右目が、カカシの左目が、万華鏡写輪眼となった。

 どの様な偶然か。この日この時、同じタイミングで、三人の忍が万華鏡写輪眼に目覚めた。

 

 

 








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