どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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NARUTO 第二十九話

 兄が死んで呆けているサスケに向けて、デイダラは新たな起爆粘土を放つ。呆けている。少なくともデイダラはそう思っていたし、この一撃で終わりだとも思っていた。

 サスケが先の奇襲で生き延びたのはイタチの助けがあったからだ。それが無くなった今、サスケに起爆粘土を防ぐ術はないだろう。まともに命中すれば必ず死ぬ。それは間違いではないだろうし、そしてサスケがデイダラの起爆粘土を避ける事はなかった。

 

「喝っ!!」

 

 言葉と共に爆音が響き渡る。デイダラ曰く芸術作品の完成だ。それと同時に、この場に新たな存在がやって来た。

 

「サスケェェ!!」

 

 仙人モードの感知力でサスケに迫る危機を察知したナルトは全速力でここまで駆けつけた。だがナルトがサソリと対峙していた位置から木ノ葉の外れまでは遠く、僅かに間に合わなかったようだ。

 

「おいおい。最終目標がわざわざ目の前まで来てくれるとはな。邪魔者も一気に始末出来たし、オイラはついてるな。うん」

「サスケ……! イタチ兄ちゃんまで……! てめぇよくも!!」

 

 サスケと長い付き合いであるナルトは当然イタチとも知り合いであった。サスケによる兄の自慢を聞いた事があるナルトからしてもイタチは良い兄であり、ナルトに対しても優しく接してくれた存在だった。

 弟の友達になってくれてありがとう。イタチにそう言われた事をナルトは思い出す。自分にも兄がいれば。イタチを見てそう思った事すらあった。そんなイタチが物言わず倒れている。そして今またサスケまでも。

 これで怒りを顕わにしないナルトではない。目の前でヘラヘラと笑っている敵を全力で殴りつけてやろうとして――

 

「ナルト……下がってろ」

『!?』

 

 サスケの言葉で、その行動を停止した。

 これに驚愕したのはナルトだけでなくデイダラもだ。あの爆発でどうして生きている? どうやって防いだ?

 疑問は募るが、その答えはすぐに理解できた。爆発による煙が晴れたそこにあったのは……写輪眼とは異なる紋様を怒りと共に浮かべた瞳をデイダラに向け、その身を須佐能乎のチャクラで覆っているサスケの姿だった。

 

「さ、サスケ!」

 

 サスケの無事を喜ぶナルトだが、同時に彼が抱く怒気に気付き無意識の内に唾を飲む。そしてサスケの怒りの深さに納得する。

 当然だろう。ナルトですらイタチの死にここまで怒ったのだ。仲の良い兄弟であり尊敬する兄を失ったサスケの怒りはどれ程の物か。

 

「こいつはオレがやる……邪魔をするな……」

「……」

 

 そんなボロボロの体で何を、等とはナルトには言えなかった。自分がサスケの立場だったらどうしていただろうか。きっとサスケと同じ事をしただろうという自覚がナルトにはあった。

 師である自来也が死んだと、殺されたと聞いた時、今のサスケと同じ気持ちを仇であるペインに対して抱いたのだから。

 

「お前は兄さんを……兄さんを守ってやってくれ。もうこれ以上、傷つかないように……」

「……分かった」

 

 死んだ人間を守ってほしい。それがどれだけ感傷的で、どれだけ戦場で無意味な行動かは二人とも理解している。

 だが、それでもそうしてほしいとサスケは願い、ナルトはそれに応えた。二人の立場が違っていれば同じ事をナルトは願い、そしてサスケは応えていただろう。

 

「……はっ、ははは! 死体を守ってほしい? どれだけ強くてもやっぱガ……キ……」

 

 サスケの感傷を子ども故の物だと馬鹿にしようとするデイダラ。だがその言葉は最後まで発する事が出来なかった。

 魅入ってしまったからだ。デイダラの言葉を聞いて、憎き敵の存在のみに意識を集中させて殺意を放つサスケに。

 兄が死んだ悲しみと、そうさせた原因である自身の弱さの後悔と、そして兄を殺した敵への憎しみ。その全てがサスケに万華鏡写輪眼を開眼させる切っ掛けとなった。

 両目の万華鏡写輪眼を開眼した事によりサスケは須佐能乎を開眼する条件も満たしていた。先の起爆粘土を防いだのも開眼したばかりのサスケの須佐能乎だ。

 

 開眼したばかりだというのに何故かサスケは自身の新たな力を把握していた。左目に宿っているのは天照。そして右目にはそれを自在に操る加具土命。

 更に須佐能乎も開眼したてだというのにこうして自在に発動していた。いや、それどころではない。サスケの怒りはデイダラという明確な敵を目の前にして更なる成長を遂げていた。

 

 須佐能乎には幾つかの段階がある。第一段階は巨大の骸骨の様な形となって術者を覆いその身を守る鎧となる。これは須佐能乎を開眼したばかりの術者に共通する形だ。

 そして第二段階。ここから術者によって様々な形に変化していく。イタチの場合は天狗の様な顔に三種の神器を装備した形で現れた。そしてサスケの須佐能乎もまたこの第二段階へと変化していく。

 サスケの溢れんばかりの殺意に須佐能乎が応えているのだ。巨大な骸骨は更にチャクラを纏っていき、陣羽織を羽織った武者の様な姿へと変化した。

 

 万華鏡に変化した瞳に殺意を乗せ、破壊の権化である須佐能乎を纏うサスケ。それは神や仏を殺そうとする悪魔や修羅の様にも見えて、デイダラはそこに自分とは違う芸術を見出した。

 

――これは、芸術だ――

 

 サスケが作り出した生きた芸術。それに魅入られたデイダラは、サスケが放った攻撃に対して僅かに反応が遅れてしまった。そして、それが全ての明暗を分ける結果となった。

 

「はっ!?」

 

 デイダラがそれに気付いた時には遅かった。サスケの須佐能乎は左腕に弓を携えており、右手から作り出したチャクラの矢を弓にて高速で撃ち出したのだ。

 その矢の速度は放たれてから避けるのは遅すぎると言える程に速かった。これを回避するには仙人モードに匹敵する程の感知力や反射神経を持たなければ不可能だろう。

 そのどちらもデイダラは有していなかったし、そもそも反応するのが遅すぎた。

 

 まさに呆気ない幕切れと言えよう。その一撃で、イタチを死に追いやった張本人であるデイダラは死亡した。

 最大の破壊力を持つC3や、切り札であるC4など使う暇もなく、その胴体を巨大な矢で貫かれて即死したのだ。苦しむ暇がなかったのはデイダラにとって幸いと言えよう。

 いや、自身とは違う形の芸術の美しさを見せ付けられ、それを否定する事も出来ずに死んでいったのはデイダラとしては不幸だったのかもしれないが……。

 

 だが不幸なのはデイダラではなくサスケなのかもしれない。仇を打った。それもいとも容易くだ。そこに至る達成感も苦労も何も感じないほどに容易くにだ。

 それが逆にサスケを(さいな)めた。こんな奴に、こんな呆気なく殺せる奴に兄さんは殺されたのか。こんな奴を相手に守られなければならない程自分は弱かったのか。

 いっそ死闘の末に倒す事が出来た方がサスケにとっては良かったのだろう。それが自分を慰める言い訳にも使えたのだから。これほどの敵だったならば仕方なかった、と。

 

「ふざけるな……ふざけるな! お前が! お前なんかが! 兄さんを! おお、おおおおお!!」

 

 サスケは怒りのあまりにデイダラの遺体を須佐能乎で掴み、そのまま大地に幾度も幾度も叩き付ける。

 地面に叩き付けられ続け、須佐能乎の力で握り潰された事でデイダラの遺体は細切れと化した。それでもサスケは止めなかった。いくら死体に当たっても、大地を削っても、サスケの心が晴れる事はなかった。

 

「もう止めろサスケ! もう、やめろ……!」

「はぁ、はぁ!」

 

 ナルトの言葉を耳にしてようやくサスケは動きを止めた。この状況にあってもナルトの言葉は何故かサスケに届いていた。それを不思議と思う事もなく、サスケは次の目標を見つける。

 サスケがその類稀なる力を持つ瞳にて見たのは、宙に浮かぶペインの姿だ。あれが木ノ葉を滅茶苦茶にした元凶だ。あれが攻め込んできたからイタチは死んだのだ。

 

「殺してやる……暁は、どいつもこいつも皆殺しだ!」 

 

 サスケは殺意高らかに叫びつつペインの元を目指そうとし、そしてその場で膝を突いた。

 

「ぐ、ぅ……」

 

 どれ程サスケが力を振り絞ろうとも既に限界なのだ。感情が爆発した為と、万華鏡に開眼したが故に一時的にサスケは消耗を無視して戦えた。だがそれも一時の誤魔化しに過ぎない。

 むしろ無茶をした反動によりサスケの消耗は限界に達しようとしている。そればかりか須佐能乎の使用にその急激な成長だ。元々リスクの高いその力は確実にサスケの肉体を蝕んでいた。

 

「ゴホッ!」

「サスケ!?」

 

 突如として吐血したサスケを心配してナルトが近付く。だがそんなナルトの手を弾いてサスケは前に進もうとする。

 

「邪魔を、するな! 邪魔するなら……お前も……!」

 

 今のサスケにあるのは復讐。それだけであった。それさえ叶うなら自分の身がどうなってもいい。悪魔に売り渡してもいいと言えただろう。

 その復讐の邪魔をするなら例え親しい友といえど容赦はしない。それだけの意思を籠めて、サスケはナルトを睨む。

 だが――

 

「邪魔すんなら、どうだってんだ?」

「な――ぐぁっ!?」

 

 ナルトがサスケを殴る。突然のその行動にサスケは反応すら出来ずに吹き飛んで行った。

 

「て、めえ……何しやがる……!」

 

 ナルトの突然の行動にサスケは更に怒気を籠めて睨み付けた。だがそんな怒気などナルトは意に介せず、逆にサスケを怒鳴りつけた。

 

「何しやがるだって? お前こそ何しようと思ってた! あんな攻撃も避けられねぇ奴が! ペインを相手にどうしようってんだ!」

「決まってる! 殺してやるのさ! イタチをあんな目に合わせた奴の仲間なんざ皆殺して――がぁっ!」

 

 サスケを怒鳴りつつ、ナルトはサスケの言葉を遮って更に殴った。殴りながら、サスケを怒鳴り続けた。

 

「お前が! 今生きてんのは誰のおかげだ! 誰が守ってくれた! イタチの! イタチの兄ちゃんだろうが! それを、イタチ兄ちゃんが! 命を懸けて守ってくれたお前の命を! 無駄に散らすのがお前のする事なのかよ!!」

「――!」

 

 ナルトは泣いていた。サスケを殴りつつ、怒鳴りつつ、ナルトは泣いていた。それはイタチの死による悲しみではない。いや、泣きたいと思うほど悲しかったのだがこの涙はそうではない。

 悔しかったのだ。自分の友が、怒りに全てを忘れて闇に進もうとしている様を見た事が。イタチの死に怒るあまり、どうしてイタチがその身を挺してまでサスケを守ったのかを理解していないサスケを見た事が。悔しかったのだ。

 

「イタチ兄ちゃんがお前を助けたのは! お前に生きていてほしかったからだろうが! それを! それを!」

 

――ああ、オレもこんな顔だったのかもな――

 

 サスケはナルトを見ながら怒りを忘れて少し前の過去を思い起こしていた。

 あの時、自来也の死を知った後の不甲斐なさを見てナルトを殴っていた自分も、今のナルトの様に怒りと悲しみを混ぜ合わせたかの様な顔をしていたのだろうか、と。

 

「はぁ、はぁ……!」

「……貸しだ」

「え?」

 

 殴るのを止めて自身を睨んでいたナルトに対してサスケはそう呟く。その意味が理解出来ずにナルトは呆けた声で聞き返した。

 

「これは……貸しだ。全てが終われば、殴り返してやる……」

 

 そう言ってサスケは自分の服を掴んでいたナルトの手をそっと外し、そしてゆっくりとイタチの元へと戻って行く。

 その行動をジッと見ていたナルトに向けてサスケは僅かに振り向いて言葉を放った。

 

「何してやがる……さっさとペインを止めてこいウスラトンカチが……お前が、自来也の仇を取るんだろう?」

 

 これからペインと戦うから今は殴るのは勘弁してやる。先ほどの言葉がそういう意味だと理解したナルトは嬉々として返事を返す。

 

「っ! ああ! とっとと終わらせて来るってばよ!」

 

 振り向いたサスケの瞳は先ほどまでとは違い冷静さを取り戻していた。悲しみや憎しみは無くなった訳ではないだろうが、それでもいつものサスケが戻って来た事がナルトには嬉しかった。

 そしてナルトは宣言通り早く全てを終わらせる為にペインの元へと駆ける。後に残されたのはサスケと、物言わぬイタチのみだ。

 

「これで良かったのか……兄さん……」

 

 その言葉に応えてくれる者は誰もいなかった。

 

「良く耐えましたね、サスケ」

 

 いや、応えた者がいた。それは――

 

「お前は――」

 

 

 

 

 

 

 万華鏡写輪眼を開眼したオビトとカカシ。二人は新たな力に戸惑う事無く、まるで予め知っていたかの様にその力の使い方を理解していた。

 

「……親しい者を殺したオレが憎いか? それが痛みだ。その痛みを世界中が知って初めて世界は平和の道を歩み始めるのだ」

 

 ペインの言葉など今の二人には戯言にしか聞こえず、ただただやるべき事のみに集中していた。

 やるべき事。すなわち……リンを殺した敵を殺す事だ。

 

「おおおおお!」

 

 叫びと共にオビトは駆け出した。鉄材が突き刺さっていた右足だが、今のオビトは痛みなど凌駕していた。そんな傷などなかったかの如くにペインに向かってオビトは駆け寄っていく。

 対してカカシはその場から動かずにペインを、それもリンを殺した修羅道を睨み付けていた。まるで視線のみで敵を殺せるとばかりに。

 そして、まさにその言葉通りとなった。カカシの視線の先にあった修羅道のいる空間が突如として歪み出したのだ。

 

「なに!?」

 

 空間を歪める程の力の先にあるのがカカシの左目だとペインは気付いた。カカシの左目の万華鏡写輪眼。その力は時空間忍術の類である。

 神威と名付けられるこの瞳術は術者の視界の任意の範囲内を別空間に転送するという能力を有している。その本質は言うなれば時空間移動の能力だが、それを応用する事で攻撃用の忍術として扱う事も出来る。

 カカシは今、修羅道の胴体部分のみを別空間――神威空間とも言われる――へと転送しようとしているのだ。空間を歪めて任意の空間のみを神威空間に移動させるこの術に対して耐えるという防御法は通用しない。

 攻撃に利用すれば回避は可能だが防御不能という圧倒的殺傷力を持つ術へと変化する。それがカカシ(・・・)の神威であった。

 

 神威の効果を理解し切る前に、修羅道は回避もままならずにまともに神威を受けてしまう。その結果、修羅道の胴体部分は神威空間に飛ばされ、この世界に残された上半身と下半身の一部が大地に転がった。

 

「これは……!」

 

 カカシの瞳力の凄まじさに驚愕するペイン。だがすぐに新たな脅威が間近に迫っていた。

 

「おおおおおっ!!」

 

 凄まじい殺気を隠す事もなくペインに迫るオビト。そんなオビトに対してペインは修羅道に最期の仕事をさせる事で対処しようとする。

 上半身の一部となった修羅道だがまだ完全に破壊されたわけではなく、最期の足掻きとしてオビトに向けて頭部からレーザーを放ったのだ。

 そしてそのレーザーはオビトに確実に命中しその体を貫き――

 

「おおおおおお!!」

「なっ!?」

 

 貫き、だがオビトにダメージを与えるには至らなかった。これがオビトの右目に宿った万華鏡写輪眼の力、オビト(・・・)の神威である。

 そう、オビトの万華鏡もまた神威という名称だった。それは二人の写輪眼が元々は一人の、つまりはオビトの写輪眼だった事に起因する。この二つの神威は元は一つだったのだ。カカシがそれを有しているのはオビトの写輪眼を譲り受けたからに過ぎない。

 そしてオビトの神威の能力、それは敵の攻撃や物体に接触する瞬間に被弾する部位を時空間に転送し接触を回避する事が出来るというもの。しかも意識せずとも発動させる事が出来るという、まさに絶対回避の能力だ。

 他者を転送するカカシの神威と対を成す、自身を転送させる神威である。最強の矛であるカカシの神威と最強の盾であるオビトの神威。二つの神威がペインに牙を剥く。

 

 修羅道のレーザーを神威にて回避したオビトはその勢いのままに修羅道に向かう。

 そして螺旋丸を作り出し、死に損なっている修羅道に向けて叩きつけた。これで完全に修羅道は破壊された。地獄道が復活させない限り行動は不可能だろう。

 オビトは修羅道を破壊してすぐに標的を残るペインへと向ける。こいつらがリンを殺した。愛する女性を殺したのだ。ならばこの怒りをぶつけずしてどうするというのか。

 

 次の狙いとして定めたのは地獄道だ。地獄道がいる限り敵は延々と復活し続ける。怒りに身を任せても忍として冷静な部分が効率的な動きをオビトにさせていた。

 当然それを阻止しようとペインは残る六道にてオビトを攻撃し続ける。人間道と餓鬼道は黒い棒にてオビトを突き刺し、畜生道は新たに口寄せした動物でオビトを叩き潰す。

 だがそのどれもがオビトにダメージを与える事はなく、全てをすり抜けてオビトは地獄道へと迫り、そして螺旋丸を叩きつけようとする。

 

「させん!」

 

 それを天道は神羅天征を地獄道に放つ事で防いだ。地獄道は神羅天征の威力で吹き飛ばされるが、螺旋丸が直撃するよりはマシだろう。

 そして天道の予想通り、神羅天征でもオビトはびくともしていなかった。まるで攻撃の全てがすり抜けるように無効化されている。

 いや、神羅天征を無効化した時は他とは違う現象が起きていた。オビトの肉体が完全にこの空間から消えていたのだ。オビトの体に神羅天征の斥力が触れた瞬間、オビトの体が消えるのを天道はその輪廻眼にて確実に見ていたのだ。

 斥力という全身に触れる攻撃を受けたが故に、オビトの全身が神威空間に飛ばされたのだ。一部ならすり抜けるように見えるが、全身ともなるとそうは行かない。これによりペインはオビトの能力の一端を見抜いた。

 

――何らかの時空間忍術による回避。厄介だな――

 

 天道が神威に関して大まかに予測するが、それどころではない事態が天道を襲う。

 

「これは! くっ!」

 

 天道の周囲の空間が歪んでいるのだ。これが何の能力なのかも、どういう効果を持っているかも最早言わずとも天道は理解していた。

 なので必死になってその場から離れようとする。この肉体は特別な物。他のペインとは違い替えがあるものではない。簡単に失う訳にはいかないのだから。

 そうして天道は畜生道が口寄せした動物を自身に体当たりさせる事で強引にその場から離れた。代わりに口寄せ動物はカカシの神威によって引き千切られ、消滅する事となったが。

 

――あの二人、厄介過ぎる――

 

 一人一人でも警戒に値する敵だが、二人揃って戦えば面倒極まりない存在だ。

 ペイン六道もかくやと言わんばかりのコンビネーションに、この強力な瞳術だ。疲弊している今仕留めなければ後に厄介な敵となるだろう。

 なのでペインは温存する事を捨てて、全ての力を解放して敵を滅する事を選んだ。

 

 天道は畜生道を神羅天征にて木ノ葉の外まで吹き飛ばす。そしてすぐに畜生道に自分以外のペインを口寄せさせた。

 もう少しで地獄道を破壊出来る寸前まで追い詰めていたオビトは、目の前で消えた地獄道に歯噛みするが、すぐに狙いを天道に変えて駆けつける。

 そんなオビトを嘲笑うかの如く、天道は空へと昇っていく。斥力の力を応用して宙に浮いているのだろう。

 

「お前だけでも逃がすか……! ぐぅっ!?」

 

 カカシは天道に対して再び神威の照準を当てる。だが強力すぎる万華鏡の反動によりカカシは膝から崩れ落ちてしまう。

 強大な力にはそれに伴うデメリットも存在する。カカシの神威は強力無比な攻撃術になる代わりに、オビトの神威よりも消耗が激しいのだ。

 それだけではない。どれだけアカネの訓練で写輪眼に体が慣れようとも、万華鏡ともなると話は別だ。うちは一族ではない上に消耗し切っている体でこれ以上の神威の連続使用は命に関わる危険すらあった。

 

「それだけの力だ。代償はあったか」

 

 ペインにもその代償は理解出来る。彼もまた大きな代償を払いこの力を振るっているのだから。

 

「待て! てめぇは絶対に逃がさねぇ!!」

 

 宙に浮かんでいくペインに向かってオビトが跳躍する。だが、やはりどれだけ痛みを無視していても右足が傷ついている事に変わりはないのだ。

 そんな状況でまともに飛べる訳もなく、オビトはペインに届かずに大地へと落ちていく。そんなオビトやカカシを見やりながらペインは呟く。

 

「まだ理解出来ないならば教えてやる……これが、神の力だ」

 

 その言葉を最後にペインは一気に空高くへと飛び上がって行く。最早跳躍してどうにかなる距離ではないだろう。今のペインをどうにかする方法をカカシもオビトも有してはいなかった。

 

「くそ、くそぉっ! オレは! リンの仇も取れないのかよ……!」

「オビト……」

 

 オビトの絞り出す様な叫びにカカシも何も言う事は出来なかった。カカシもまた己の無力さを噛み締めているのだ。

 何の為にあれだけの修行をこなしてきたのか。こうならない為だったのに、結果は無様な物だった。助けたい人を助けられず、倒したい敵を倒す事も出来ない。無力な自分という現実しかこの場には残っていない。

 

「二人とも、こっちに来るのじゃ……!」

 

 己への無力感に絶望している二人にヒルゼンが声を掛ける。二人の想いは分からんでもないが、今はそれどころではないのだ。

 いつまたペインが襲来してくるかも分からない今、木ノ葉の最大の戦力とも言える程になったオビトとカカシをこのままにしておくわけにも行かないだろう。

 

「こちらに来い。綱手が里の忍全てにカツユを寄越してくれた。これで回復が出来るじゃろう」

 

 ヒルゼンのその言葉に二人が振り向くと、そこにはリンに張り付いているカツユの姿があった。

 

「っ! カツユ様! リンは、リンは助かるんですか!?」

 

 リンに張り付いているカツユを見てオビトとカカシは僅かな希望を抱いた。カツユは綱手の力を受けて遠隔で医療忍術による回復を施す事が出来る。

 こうしてリンに張り付いているならば、まだ可能性は残っているのではないかと希望を抱いてしまったのだ。

 

「……お二人とも、早く私の分身を連れて下さい」

 

 だが、カツユから返って来た言葉は二人が望んだ言葉ではなかった。下手な希望は持たせたくないとばかりに告げられたその言葉は、僅かとはいえ希望を抱いた二人を更なる絶望に落とすには十分過ぎる程だった。

 カツユは黙り込む二人に声を掛ける事はなく、そのまま黙って二人に自身の分身を貼り付けた。これで傷ついた二人も多少は回復していくだろう。

 

 そしてそんな地上の出来事など些事とばかりに天高く浮かび上がった天道は、その恐るべき力の全てを解放する。

 

「ここより世界に痛みを」

 

――神羅天征――

 

 制限していた力の全てを解放し、神羅天征が木ノ葉の里の全てに向けて放たれた。

 

 

 

 

 

 

 アカネとマダラの戦いは一瞬たりとも止まる事無く続いていた。

 アカネが僅かでも動きを止めると完成体須佐能乎の一撃は木ノ葉の里を襲うだろう。そうするわけにもいかず、アカネは反撃の機会を得る事も出来ずにただただ須佐能乎の攻撃を捌き続けなければならない。

 イズナが操るマダラがその動きを僅かでも止めるとアカネはその一瞬で反撃の一手を打つだろう。そうするわけにもいかず、イズナはマダラの攻撃の手を一切緩める事が出来ないでいる。

 

 マダラの完成体須佐能乎は両手に持った刀を間断なく振るい続けてどうにか拮抗を保っている状況だ。

 一振りで幾つもの山を断ち、大地はおろか天も海も裂く攻撃を雨あられの如くに放ち続け、ようやく拮抗を保っているのだ。

 その拮抗もアカネに木ノ葉を守る気があるからこそだ。そうでなければアカネはとっくの昔に穢土転生のマダラ如き叩き潰しているだろう。

 木ノ葉を守る為に須佐能乎の衝撃を完全に空へと逃がす。その余計な行為がアカネから反撃の暇を奪っているのだ。

 

――このままでは――

――このままでいい――

 

 アカネとイズナ。二人の思惑は完全に対立していた。

 遠く離れた里の被害をその優れた感知能力にて感じ取っているアカネはどうにかして木ノ葉に救援を送りたく、イズナは当然それを阻止すべく動いている。

 

 アカネは次々と消えていく命を感知してしまっている。このままでは更に犠牲者が増えていくだろう。だが、アカネが焦る事はない。いや、焦っているのだが、それが表に出る事がないと言うべきか。

 修行に修行を重ね、千年を超える修行という本来の人間では辿り着けないだろう境地に至っているアカネは外部の影響により精神が乱れる事はほぼないと言っても良いほど完成されている。

 どれだけ里を大事に思っていても、どれだけ大事な人が傷つき倒れても、それで怒りはすれど動きに支障が出る様な事はないのだ。それは武人としては長所なのだろうが、人間としては短所だろうとアカネは思っている。

 

 だがいくら動きや技に支障がないからと言って焦らない訳ではないのだ。アカネは今も消えゆく命を思い、この状況を打破したいと願い続ける。

 そう、願っている。願う事しか今のアカネには出来ないのだ。それほど詰みとも言える状況にアカネは追い込まれているのだから。

 この状況を打破する為にアカネが動けば木ノ葉は須佐能乎の攻撃に巻き込まれ壊滅する。それでは本末転倒だろう。だから、この状況を一変してくれる第三者の手を待つしかないのだ。

 

「マダラ、どうにかして動きを止める事は出来ないのか!?」

 

 アカネの悲痛な叫びにマダラは悔しそうに顔を背け、そして答えた。

 

「すまん……無理だ。オレの意思を縛っていない分、イズナはその力をオレの体の操作のみに回している。これほど強固な縛りを破る事はオレでも出来ん……」

 

 そう、マダラにはこの現状を打破する力はなかった。むしろこうして意識を保っていること自体が奇跡と言えよう。

 長年に渡って抵抗して来たマダラを御する為に、イズナは幾度となく穢土転生の縛りを強固に改良して来た。そしてマダラが最後にその意思を見せた十六年前、あの九尾事件で更なる強化を重ねる事で、完全にマダラの意思を封じる事となった。

 最も面倒な尾獣である九尾を捕らえる機会を潰されたのだ。イズナは二度とその様な事がない様に徹底的に穢土転生の縛りを強めていた。

 マダラはそれすら破ってこうして意識を浮上させたのだ。アカネの危機とはいえ、その精神力はまさに桁違いと言えよう。

 だが、それもイズナが意思と肉体の両方を操っていたからこそだ。こうして肉体の操作のみに力を注げば、流石のマダラと言えど抵抗のしようもなかった。

 

「マダラ、頼む……! このままでは、木ノ葉が、皆が……!」

 

 泣きそうな程に顔を歪ませるアカネの懇願に、マダラは何も答える事はなく、ただ悲痛の表情で顔を背けるしか出来ないでいた。

 そして世界のどこかでアカネのその顔を見て、イズナは悦に浸っていた。あの日向ヒヨリが、伝説の三忍の一人が、最強の忍が懇願しているのだ。その力が及ばずに他人に助けを求めているのだ。これが愉快でなくて何だと言うのか。

 今イズナがこうして兄であるマダラを操っているのも、兄が心変わりをして千手一族への憎しみを捨てたのも、全ては千手柱間と日向ヒヨリのせいだとイズナは決め付けている。

 そんな元凶の一角がこうして己の無力に嘆くしかないのだ。イズナにとってはまさに痛快とも言える見世物だろう。

 

「せいぜい苦しめ……だがその程度オレの苦しみと比べたら些細な物だ」

 

 どことも知れぬ場所にてイズナは一人呟く。このまま木ノ葉が壊滅して行く様を、背中越しに味わい続けるアカネがどうなっていくかを思い描き、顔を愉悦で歪めながら。

 だが、イズナの思い描く光景は現実になる事はなかった。

 

「なに!?」

 

 突如としてイズナが操るマダラの攻撃が止まったのだ。何らかの攻撃を受けた事でマダラが吹き飛ばされたためだ。

 アカネが攻撃をしたわけではない。そんな事が出来る状況ではなかった。仙人モードのアカネに対抗すべく、マダラの完成体須佐能乎は木ノ葉の里への攻撃のみに集中していたのだ。あの状況ではいかにアカネと言えど反撃出来る訳がない。

 そう、イズナの言う通りこれはアカネの仕業ではない。もちろんイズナに完全に操られていたマダラの仕業でもない。つまり、第三者による仕業という事。

 

「何者だ……!」

 

 いくらイズナがマダラを操作する事に注力していたとはいえ、いくらアカネの反撃を封じる為に攻撃のみに注力していたとはいえ、それでもイズナに気付かせずにマダラを攻撃出来る者はこの忍界に数える程しかいない。

 こんな化け物と化け物の戦いに割って入るのは一体何者なのか。イズナは疑問に思うが、次の瞬間にマダラの操作へと意識を戻す。だが、それは遅すぎる判断だった。

 

「もう遅い!」

 

――仙法・影分身!――

 

 イズナが気付いた時にはアカネは既に影分身を生み出していた。そしてその影分身を木ノ葉の里へと向かわせる。

 更に本体のアカネはそのままマダラに攻撃を仕掛けて来た。イズナはマダラを操りその攻撃をどうにかして凌ぐ。

 そして次のアカネの言葉を聞いて先ほど邪魔に入った第三者の正体をイズナは理解した。

 

「遅いですよ自来也! もう少し早く来なさい!」

「無茶を言うな! こんな怪獣大決戦にほいほい割って入ればこっちが死ぬわ!」

 

――自来也だと!? 馬鹿な!?――

 

 二代目三忍の一人自来也。それはペインによって殺されたはずの人物だ。

 穢土転生かとも考えるが、今の自来也に穢土転生の特徴である黒ずんだ目はない。つまり完全に生者だと言う事だ。

 ペインが嘘を吐いたとはイズナには思えないし、そもそも自分の腹心であるゼツが自来也の最期を見ている。ならば一体どういう事なのか。

 

 イズナの疑問はもっともだろう。死んだはずの人間が生きている。これに疑問を覚えない者がいるだろうか。

 だが答えは簡単だ。単に自来也はあの時死んでいなかった。ただそれだけの話なのである。

 

 

 

 

 

 もう少し詳しく説明しよう。あの時、自来也が水中で蝦蟇結界を張りペインの一人をどうにか倒した時の事。

 ペインの秘密にもう少しで辿り着けると確信した自来也は無茶をしてでも情報を得ようとする。

 止めようとしたフカサクとシマも強情な自来也に折れてしまい、フカサクに至っては自来也と一緒に残って戦おうとする始末だ。

 そして自来也が二人――二匹?――の蝦蟇仙人に内心で感謝をしている時、急に自身の持つ忍具入れからチャクラを感じ出した。

 

 突如として感じた新たなチャクラに自来也は驚愕する。

 ペインが新たな能力で結界の中に侵入でもしたのか。そう思い警戒する自来也だったが、次の瞬間にはハトが豆鉄砲を食らったかの様な顔になっていた。

 

「よっと。お疲れ様です自来也。大分苦戦しているようですね」

『……』

 

 忍具入れから飛び出した苦無がいきなり年頃の少女に変化する。あまりの出来事に誰もが言葉を失っていた。

 

「はっはっは。助っ人参上! ……あれ? どうしたんですか自来也?」

「どうしたもこうしたもあるか! いきなりお前が現れて驚かんわけがないじゃろうが!」

 

 さっきまでの悲壮で覚悟を決めた空気は何処へ行ったのか。結界の中の空気はがらりと変わってしまっていた。

 そんな自来也の様子の変化にどうやらこの少女が敵ではない事を二大蝦蟇仙人は悟る。そして仙人モードになっている二人はアカネの正体を勘ぐる内にそのチャクラの持ち主に行き付いた。

 

「こ、これは……!?」

「父ちゃんも気付いたか……! なしてこげん姿で生きとんじゃヒヨリちゃん!?」

「あはは。お久しぶりですフカサク様、シマ様。お元気そうで何よりです」

 

 アカネはヒヨリであった時に妙木山に赴いた事があるのでこの両仙人とも顔見知りなのである。

 そしてアカネは簡潔に自分が転生した事を説明し、この現状をどうするかを確認する。

 

「自来也はもう一度ペインの前に出て行くつもりなのですね?」

「ああ……奴の秘密を理解せん限りには、勝ち目は……勝ち目は…………アカネ、お前なら勝てるか?」

 

 勝ち目は無い。そう思っていた自来也だったが目の前の理不尽の権化を見てその考えを改めて確認をする。

 だがそれに対するアカネの応えは否だった。

 

「奇襲が通用すればともかく、真っ向勝負では無理ですね。あなたの忍具に入ってずっと外を視ていましたが……影分身の私ではあの斥力の様な力に抗う事は難しいです」

「……そうか」

 

 影分身は一撃でも攻撃を受ければ消滅してしまう。その一撃に強い弱いはない。攻撃を受ければ例え掠り傷だろうとも消滅してしまうのだ。

 そしてあの斥力の様な力はペイン天道を中心として予備動作もなく広がっていく。影分身には相性の悪い攻撃方法だろう。まさに攻防一体の凄まじい能力であった。

 

「あの威力と範囲、あれ以上になろうとも予想を遥かに超えていない限り私の本体であればどうとでも出来るでしょうが」

「……そうか」

 

 まあ、それも予想出来ていたことなので今更驚く事はない。

 問題なのは今だ。そして未来だ。例えアカネがペインに勝てるとしても木ノ葉がそうとは限らないし、アカネがどうとでも出来ると言っているのはペイン天道の話だ。

 ペイン六道は天道含む六体でペイン六道なのだ。天道を倒しても地獄道に復活させられては意味がないし、天道が予想以上の力を持っている可能性もないわけではない。

 

「やはりペインの秘密は手に入れるべきですな」

「ヒヨリちゃんと二人でなら逃げ出す事も出来るんじゃないか?」

「そうじゃのう」

 

 アカネがいる事で自来也がペインと再び相対しても生き延びる可能性が増えた。

 そう思ったフカサクとシマは明るい表情になる。だが、自来也の次の言葉に再び表情を曇らせた。

 

「いや、やはりワシ一人でペインの元へ向かいましょう」

「な!?」

「どういうことじゃ自来也ちゃん!?」

 

 アカネが来た事でせっかく生き延びる可能性が見えたというのにそれを拒否するとはどういうつもりなのか。

 憤慨する両仙人に対して自来也は自分の考えを述べる。

 

「アカネがいるのならば一芝居打つ事も可能かと思いましてのぅ」

「……ああ、なるほど。ここで死んだ事にするつもりですか」

 

 自来也の考えを読んだアカネは納得して頷く。アカネの言葉を聞いて両仙人も自来也の狙いが理解出来たようだ。

 

「お二方はアカネと共にここから離れて逃げてくだされ。アカネならばペインに気付かれずに水中から逃げる事も可能じゃろう」

「まあ、出来ますね」

「そしてペインの感知が届かぬ地まで離れたら白眼にてワシを確認し続けてくれ。そしてワシはペインに殺られたフリをして水中に落ちていくので――」

「そこをワシが逆口寄せをすればいいんじゃな?」

 

 これがアカネが加わった事で自来也が思い付いた作戦だった。

 このままアカネの力を借りて逃げ帰るよりも、敵に死んだと思わせた方が後の油断を誘えると判断しての作戦だ。

 

「ですが危険は伴いますよ。あなたが殺られたフリをする前に本当に殺されるかもしれません。私がそれを見抜いてフカサク様に逆口寄せを願っても間に合わないかもしれません。それでもやりますか?」

 

 生き延びるだけならばそんな危険を冒す必要はない。暗にそう告げるアカネの言葉に対し、自来也は首肯する事で応えた。

 そうして自来也はこの作戦を決行した。その結果、ペインの攻撃により喉を潰され黒い棒に貫かれるが、それでも致命傷は避けてどうにか水中に沈む様に死んだフリが出来た。

 後はその様子を見ていたアカネが十分に沈みペインを騙すことに成功した自来也をフカサクに頼む事で逆口寄せしてもらい、その傷を癒す為に力を注いだのだ。

 流石にかなりの重傷だった故に影分身のアカネでは完治までに時間が掛かり、その間にフカサク達には先に木ノ葉へとペインの情報を伝えに行ってもらった。

 

 当然自来也が生きている事はアカネを送り込んだ綱手以外には伏せられていた。多くの忍が知ればそれは木ノ葉の里に広まり、そして暁に伝わる可能性もある。それを考慮しての判断である。

 ナルトが精神的に傷付く事も予測されたが、アカネや綱手は逆に成長してくれる事を願ってナルトを信じて自来也の生を隠したのだ。

 

 そうして命からがら生き延びた自来也は影分身のアカネから治療を受け、完治した後は何らかの情報がないかアカネの影分身と共に身を隠して行動していた。

 だが影分身のアカネから告げられた情報を聞いて自来也は即座に木ノ葉へと舞い戻った。暁襲来の情報である。木ノ葉に残していたアカネの影分身が須佐能乎の攻撃を防いで消えた時に、その時の情報が自来也に付いていた影分身にも還元されたのである。

 そして影分身のアカネは自来也にある頼み事をした。それは、本体がマダラによって動きを封じられているので、気付かれない様にマダラに近付いて強力な一撃を与えて隙を作ってほしいという頼みだ。

 その頼みを自来也が承諾した後に、影分身のアカネは自らをチャクラへと還元させて本体に情報を持ち帰った。その情報を知ったアカネは出来るだけイズナの気を自分に引く様に、イズナが気に入りそうな演技を見せていたのである。

 

 そして自来也は気配を消してマダラへと近付き、渾身の極炎螺旋丸を完成体須佐能乎に叩き込んだのだ。

 然しもの完成体須佐能乎も火遁と螺旋丸の組み合わせである強力な忍術に耐え切れず吹き飛び、その鎧の大部分が破壊されていた。

 それでも中身であるマダラの身にダメージが入っていないのだから完成体須佐能乎の防御力の高さが伺えるというものだろう。

 だがそこで出来た隙は果てしなく大きかった。アカネが仙術チャクラを籠めた影分身を作り出す事も容易い程に大きな隙が出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

「全く。泣きそうな面をしておると思えば、やっぱり可愛げのない女子じゃのぅ!!」

「はっはっは。覚えておくといい。女性は皆女優だと言う事を!」

 

 自来也とアカネの会話から、アカネのあの慟哭も表情も全ては自分を騙す演技なのだと気付いたイズナは激昂し、完成体須佐能乎の攻撃をアカネに振るう。

 

「ふっ!」

 

 だが全ては遅いのだ。攻守は逆転した。今までとは逆にアカネの攻撃を防ぐ為にイズナは全力を尽くさねばならなくなったのだ。

 アカネが作り出した巨大な螺旋丸により須佐能乎の攻撃は初動で食い止められ、その威力に押されて一気に後退する事になる。

 近付いて来るアカネを吹き飛ばそうと神羅天征を放つが、それはアカネにとって既に初見の攻撃ではない。ならば以前と同じ様に吹き飛ばされる事もなかった。

 

「来ると分かっていればこの程度!」

「な……!」

 

 全てを弾き飛ばす斥力の力を受けてもアカネは微動だにせず、それどころか斥力を無視するかの如くマダラに向かって進んでいた。

 そうして対象が吹き飛ばずにいる事で逆にマダラの肉体が後ろに向かって吹き飛んで行く。これにはイズナどころかマダラも、そして神羅天征の力をその身で味わった自来也も驚愕した。

 

『本物の化け物だな……ん?』

 

 台詞が完全に被ったマダラと自来也は同時に互いを見やり、そして分かりあった。

 

「これは初代三忍うちはマダラ様。お初にお目に掛かります。あなた達の通り名を襲名した二代目三忍自来也と申します」

「ああ、話は聞いている。名ばかりかと思っていたが中々どうして。イズナを欺きオレの完成体須佐能乎をあそこまで破壊する……大した奴だ。その名に恥じぬとオレが認めよう」

「それはありがたいですな。ところでやはりアレ(・・)は昔からああなので?」

「決まっているだろう。アレ(・・)のせいで昔からどれだけ苦労したか……」

「心中お察ししますぞ……」

「……何でお前らそんないきなり分かりあってんの?」

 

 人間共通の話題があればそれだけで分かり合えるものなのだ。目の前に化け物……もとい共通の話題があれば人は協力し合えるのである。

 

「まあいい。自来也、ここは私に任せて木ノ葉に行け」

「うむ。だが、残る戦いにワシは何もせん」

 

 木ノ葉の忍が聞けば信じられないだろうその言葉を、アカネは否定しなかった。

 

「ああ……残る敵はペインのみ。ならば――」

「ナルトに全てを託し、ワシは信じて待つ。ナルトならば、必ずやペインを……長門を止めてくれる。ワシはそう信じておる!」

 

 アカネも自来也も仙人モードによる感知力で木ノ葉の現状を理解している。残る敵はペインのみだという事も。ならば、自来也に出来る事は愛弟子であるナルトを信じる事だけだった。

 ナルトならば必ずや長門を、かつての愛弟子を正してくれると信じて。

 

 アカネもまたペインをナルトに託し、自身の影分身達を傷付き倒れる木ノ葉の忍の救援に向かわせていた。

 今ならばまだ間に合う者も多くいるのだ。見知った者も倒れているが、それでもアカネならばまだ間に合う。木ノ葉の命運をナルトに託し、アカネもまた自身に出来る事を成す為に全力を尽くすのみだった。

 

 

 




 気付いている人は多かったかもしれませんが、自来也は無事生きています。自来也とペインの戦闘話でも伏線は張っていました。
 次で暁編も終わりかな。







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