どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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NARUTO 第三十六話

 両軍あわせて二十万近い忍達が争う第四次忍界大戦は、忍連合軍の優勢で進んでいた。

 里や国の垣根を越えて手を取り合った忍達は、自軍よりも数多い暁の軍勢に真っ向から立ち向かい、そして撃破していた。

 強大な力を誇る穢土転生の忍達には手を焼かれていたが、現代にも過去の傑物に勝るとも劣らぬ忍が存在する。そんな彼らが率いる軍勢は、過去の忍にも負けじと対抗していた。

 そして何より、数の有利という物を覆す存在が忍連合軍にいた事も、忍連合軍が優勢に事を進められている要因だろう。

 

――水遁・八卦水壁掌!――

 

 点ではなく面を重視した忍術により、数千という白ゼツ達が消し飛んで行く。

 地上を行く者はことごとく蹴散らされる。ならば地下からこの化け物をやり過ごし、別の部隊を叩く。それが白ゼツ達の判断であった。

 だがその考えは、白ゼツ達が化け物と称する者相手には無意味な考えであった。

 

「地下を通り過ぎるつもりか……無駄な事を」

 

 白眼にて地下を透視出来るこの存在に対し、その行動は容易く見透かされる。

 そして、出て来ないならばそれでいいと言わんばかりに、化け物はその力を振るった。

 

――土遁・螺旋土流削!――

 

 印を組み大地に手を当てる。それでこの忍術は発動した。

 地下の土や岩を螺旋状に操作し、そのまま高速で乱回転させるという忍術だ。当然、その場に潜んでいた白ゼツ達はミキサーに掛けられたが如くにすり潰されていく。

 

「ちょっとちょっと! アカネちゃん一人で片付けないでくれよ!」

 

 アカネが個の力にて数を圧倒しているのを傍目で見ていたオビトは、自分が何もせずとも敵が全滅していく事に焦りを覚えた。

 オビトもアカネの強さを理解しているが、それでも自分より一応は年下の少女が活躍し、自分は何もしていない等というのは我慢出来ないようだ。

 そうしてオビトもその力を発揮する。影分身を作り、アカネの土遁で出来た大穴に向けて術を放つ。

 

――風遁・真空大玉!――

――火遁・豪龍火の術!――

 

 修行により新たに会得した風遁と、うちは一族として元より備えていた火遁。その二つを影分身によって完全に同等のチャクラ比で合わせ、強大な業火と化して敵を焼き尽くす。これがオビトの大軍用合体忍術の一つ、豪炎乱舞である。

 豪炎乱舞はアカネの土遁の範囲外にいた白ゼツ達に降りかかる。風の勢いを備えた炎は、岩の隙間や穴に入り込み、生き残った白ゼツ達を飲み込んでいったのだ。

 

「よし! どんなもんよ!」

「ええ。素晴らしい一撃でしたよ」

 

 修行の成果は本番で発揮出来てこそ意味がある。その点で言えばオビトは十分にアカネの中で合格点であった。

 既にアカネとオビトだけで万を超える白ゼツを倒している。これだけで他の忍連合軍の負担は非常に減るだろう。

 だが、アカネの本命はあくまでマダラ、そしてイズナだ。その二人が出てこない今、全力で戦場を動き回る事は難しい。

 だからと言って敵を放置する訳にも行かず、消耗しない程度に無理せず敵を間引いていたのだ。まあ、今程度の消耗では消耗とも言えないのだが。それでも敵が強大な上に未知数なので、どうしても全力を出す訳にはいかなかった。

 

「さて、イズナはいつ出てくるつもりなのか……。高みの見物でもしているのでしょうね、全く。……ん? これは……!」

 

 アカネがまだ動かぬイズナに対し僅かに不満を零した時、アカネが何かに反応した。

 

「どうしたんだアカネちゃん? まさかナルトに何かあったのか?」

 

 アカネの反応にオビトも気が付く。そして問題のナルトに何か変化があったのかと心配していた。

 オビトがナルトの事を心配している理由は、ナルトが現在この戦場に向かっているからだ。ナルトに何があったのかは分からないが、ナルトが木ノ葉隠れや雲隠れの監視を超えて島を抜け出したのをアカネが察知していたのだ。

 アカネはこうなる事を予想していたらしく、ナルトが飛び出したのを少しだけ困った風に、そして嬉しそうに笑っていた。オビトとしてもナルトの気持ちは理解出来る。皆が命を懸けている中、自分だけのうのうと安全な場所で過ごすなど出来る訳がない。

 だが、この戦争はナルトを守る為の戦争でもあるのだ。ナルトとビー、つまり九尾と八尾が暁に捕らえられたら、その時点で戦争は負けに等しい。そうなる訳には行かず、オビトがナルトの安否を確認するのは当然と言えた。

 

「いえ、ナルトに変化はありません。ビー殿と一緒にそのまままっすぐ戦場に向かっていますよ」

「なら何があったんだ?」

 

 ならば先程の反応は何だったのか。それが気になるオビトだが、アカネはそれに対して難しそうな表情で考え込み、そして急に笑顔を見せた。

 

「ふ、ふふふ。ああ、いえ、すみません。少し、いやかなり嬉しい事があったものでして。ふふふ」

 

 急に機嫌良く笑い出したアカネにオビトは怪訝に思うが、アカネはその真相を話す事はなかった。

 

「さあ、敵の数は減っていますが油断は禁物ですよ。穢土転生で復活した忍は強敵揃いですからね。これから他の部隊の救助に行きますよ」

「おう!」

 

 アカネの変化は気になるが、アカネが何も言わないならば問題はない事だろうとオビトは判断し、アカネの言う様に次の戦闘に向けて気を入れ直す。

 そうして二人は別の戦場へと飛び立った。この時のアカネの反応がどういう意味を持つのか、それは後ほど判明する事となる。

 

 

 

 時の流れが緩やかに感じる戦争という極限の環境。だが、それは戦争を体験している者達の主観であり、例えどんな環境だろうとも時間は等しく流れる。

 既に戦争が始まって半日以上が経過しており、周囲は夜の闇に覆われていた。そして戦争もまた、夜に合わせて変化するのであった。

 

 忍連合軍は医療部隊を中心として組み立てた陣地にて負傷者の手当てを行い、交代しながらの休息を取っていた。

 だが、夜になったからと言って戦争が終わらない限り、争いもまた終わる事はない。油断する事なく警戒を強め、感知能力の高い忍による警戒網を構築していた。

 しかし、白ゼツの能力はその警戒すら超えるものであった。

 

 白ゼツは対象に触れる事で、その対象のチャクラを吸収する能力を持っている。だが、白ゼツの真価はその能力ではない。

 白ゼツは吸収したチャクラの持ち主と完全に同一の見た目に変化する事が出来るのだ。しかも、そのチャクラ性質まで完全に一致する程の変化だ。まさに忍界一の変化の術と言えよう。

 忍連合軍は変化の術を代表とする術に対して、チャクラ性質を見極める事で敵か味方かを判断する様にしており、陣地へと入るにはその検査を通らなければならない。

 事前に登録されたチャクラ性質と合致しなければ、その瞬間に敵と見なされて拘束される事になるだろう。

 それだけ厳重な警戒だが、白ゼツには通用しなかった。チャクラ性質まで完全に真似るという変化の術の前では、感知タイプの忍の検査も意味を成さないのだった。

 

 忍連合軍の忍に変化した白ゼツは、易々と連合軍の陣地に侵入し、そして闇に紛れて静かに、そして確実に連合軍の忍を暗殺していく。

 例え死体が見つかり侵入を察知されても、白ゼツの変化の術を見抜く事は出来ない。事が大きくなっても、白ゼツは悠々と連合軍の忍を殺して行くだろう。……そこに、理不尽に人の皮を被せた存在がいなければ、の話だが。

 

 

 

 白ゼツは変化の術を駆使し、さも味方の様に連合軍の忍に近付いていく。

 陣地の中にいるのは味方。その常識が連合軍の危機感を奪い、殺気を隠して近付いてくる白ゼツに胸襟を開いて対応してしまう。

 警戒心のない者を殺す事など白ゼツには容易い。周囲に多数の目がない場所にいる忍は、白ゼツにとって格好の得物だった。

 そして今また、白ゼツによって新たな犠牲者が……出る瞬間に、白ゼツの動きを止めた者がいた。

 

「なっ!?」

「お、お前! 何をする気だ!?」

 

 動きを止められた白ゼツと、そして仲間だと思っていた者に奇襲を受けそうになった忍が驚きの声を上げる。

 そしてアカネは白ゼツの驚きを無視して、そのまま白ゼツを無力化する。

 

「ふっ!」

「があっ!?」

 

 一瞬で宙に浮き逆さとなり、大地に叩き付けられる白ゼツ。そしてその衝撃で、白ゼツの変化の術は解けてしまった。

 

「こ、こいつは!」

 

 突如として仲間から敵に変化した光景を見て、暗殺されそうになった忍は驚愕する。これだけの警戒網を超えて敵が侵入しているとなったらそれも当然だろう。

 

「ば、馬鹿な……ボクの変化の術は忍一だ……。どうやって見抜いた……?」

「あなたの変化の術は確かに忍一かもしれません。ですが、私も感知能力はそれなりに高いと自負しています。チャクラ性質はそっくりですが、悪意や殺意は消す事は出来ていませんよ。次があれば意を消す修行に専念するんですね」

 

 アカネにも白ゼツの変化の術を見ただけで見抜く事は出来ない。だが、完全に対象を真似る事が出来ても、その心まではそうではない。

 アカネは白ゼツの忍連合軍に対する悪意や殺意から、その正体はともかく不審人物だと確定したのだ。そして気配を消して後をつけ、その犯行の寸前を確認したという訳だ。

 

「この白ゼツはどうやらチャクラすら真似て変化できるようです。恐らくチャクラを吸収した対象に化ける事が出来るのでしょう。その旨を本部へと通達してもらえませんか?」

「わ、分かった!」

 

 大蛇丸から得た白ゼツの情報から、アカネは白ゼツの変化の術の詳細を大まかに予測する。

 外れているか当たっているかはともかく、結果として白ゼツは完全なる変化の術を成している。ならば、その結果が重要であり、その情報が必要なのだ。

 本部に通達されればその対応も早く成されるだろう。影分身のアカネ一人では出来る事に限りがある。まあ、各部隊に一体の影分身が配置されているので、被害は抑えられるとは思うが。

 

 

 

 連合本部では現場の混乱に頭を悩ませていた。現場の仲間が闇討ちされている中、その犯人は欠片も正体を見せていないからだ。

 夜襲の動きはなく、防壁を張り、感知タイプの忍を置いて、それでもなお敵が見つからない。正体が分からないままでは対応のしようがなく、敵の正体に想像を重ねるしかなかった。

 そんな中に医療部隊から連絡が入る。敵の正体は白ゼツの変化だと本部にも伝わったのだ。だが、問題なのはその対応策だ。敵味方の区別がつかないこの状況をどうすれば切り抜けられるか。

 忍連合軍一の切れ者である奈良シカクは悩み、だが冷静に思考する。何か手はあるはずだ、と。その時だ。新たな情報が連合本部へと送られてきた。

 

「……待て、また連絡が入った! ……どうやら、各部隊に配置されている日向アカネが敵の変化を見破れるようだ……」

「なに! その方法はなんだ!? 白眼か!?」

 

 闇の中に光る一筋の光明にシカクが声を荒げる。白ゼツの変化を見破る方法が全体に通達されれば、被害は最小限に抑えられる。その方法を一刻も早く知りたいと思うのは当然だろう。

 

「……白ゼツの悪意や殺意を感知した、だそうです」

「……なるほどその手があったか。その方法を全部隊に通達って……出来るか!!」

 

 冷静なシカクですら思わず突っ込んでしまったようだ。アカネ以外にそれが出来る存在がいてたまるかと、アカネの正体を知るシカクは内心で叫んだ。

 だがその時、シカクの脳内にある閃きが走った。次の瞬間にシカクは九尾とその人柱力に関する資料を漁り、情報を調べ出す。

 

 そして十数分。シカクはとうとう目的の情報を見つけ出した。それは、九尾の力を自在に操れる様になった人柱力ならば、敵の悪意を感知する事が出来るという物だ。

 シカクにはアカネの感知がどの程度の精度かは分からない。情報として記録に残っている九尾の人柱力の力ならば、より明確に白ゼツの変化を見抜ける可能性は高い。

 そう判断したシカクだが、それは本末転倒だとも気付いている。ナルトを守る為の戦争にナルトを投入する。完全に目的と手段が滅茶苦茶である。

 

 だが、そのシカクの悩みも無意味なものであった。

 島亀から脱出したナルトとビー。その二人を取り押さえる為にエーと綱手が向かっていた。ナルトとビーが暁に捕らえられてからでは遅いのだ。総大将であるエーと綱手が出向くに値する重要案件だろう。

 当然ナルト達は綱手達の言葉に反対する。誰に言われようと、自分を巡る戦争を他人任せにする事などナルトには考えられないのだ。

 

 互いの意見は平行線であった。そしてナルトは強引にでもこの場を突破しようとし、エーはナルトを殺してでも止める決断をした。

 九尾の人柱力であるナルトが死ねば、同時に九尾も一時的にだが霧散する。いずれはチャクラが集合し元の尾獣へと戻るが、それまでにはしばらくの時間を必要とする。その間はイズナの目的を防ぐ事が出来るという判断だ。

 流石の綱手もそれには反対を示す。だがそれは、総大将として戦争を勝利に導く責任があるエーの耳には届かなかった。

 

 そんなエーに真っ向からぶつかったのがビーだ。殺すならばナルトではなく自分を殺せとまでビーは言う。それ程までにビーはナルトを信頼していた。

 だがエーとしては人柱力として完成されているビーの方が、ナルトよりも戦力として安定しているという判断で、ビーを生かそうとする。そこに兄としての私情は挟んでいないだろう。必要とあらばビーを殺す覚悟すら固めているのだから。

 エーの意思に反対するビーに対し、エーは人柱力とは国や里のパワーバランスであり、力の象徴であり、特別な存在だと諭す。個人の感情で好き勝手に動いていい存在ではないのだ、と。

 だが、ビーは人柱力にも人としての心があると反論する。それを無くしたら、人柱力はただの兵器に陥ってしまうのだと。

 

 それでも己の意思を変えないエーに対し、ビーもまた己の意思を見せ付けた。

 互いの得意技である雷犂熱刀(ラリアット)をぶつけ合う二人。この体術は敵を中央に挟み、互いに同等の力で敵の首に放つ事でその首をねじ切るという荒業である。

 だが、このぶつかり合いでビーはエーに勝利した事はなかった。完全に互角の威力を出してこそ、初めて雷犂熱刀は真価を発揮する。なのでビーは過去に宣言していた。いつかはエーを追い抜くと。エーが自分に合わせるのではなく、自分がエーに合わせるようにしてやるという意気込みだった。

 

 そして今この時、ビーはその発言を真実に変えた。そう、ビーの雷犂熱刀がエーの雷犂熱刀を凌駕したのだ。

 いつの間に自分を追い抜いたのか。そう驚愕するエーに、ビーは告げる。力だけが人柱力ではない。もっと強い力の(もと)が入っているから、信じるものがあるから、強くなれるのだと。

 ビーのいう信じるもの。それはかつてエーがビーに対して告げた言葉だ。「お前はオレにとって特別な存在。オレ達は最強タッグだ」、それがエーの言葉だ。それを信じて、ビーは強くなろうとし続けたのだ。

 それをようやくエーも思い出した。雷影となり、ビーを対等な相棒という立場から、里にとって重要な人柱力として見るようになってしまったエーが忘れてしまったかつての言葉。それをビーは片時も忘れていなかった。

 

 ビーの言葉にエーも揺らいでいた。そして綱手に至っては、ナルトの覚悟と想いを聞きナルトに賭ける事にした。ナルトならば必ずや忍の皆を守る事が出来ると信じたのだ。

 だが、それでも簡単に考えを改める程に、エーの頭は柔らかくなかった。エーにとって覚悟とは力だ。力のない覚悟などなんの意味も持たない。故にエーは、己の全力をもってナルトの力を確かめた。

 雷遁の鎧のマックス状態。その速度は忍一とも言われている。その力にて、ナルトを殺すつもりでエーは全力で攻撃した。

 そしてその一撃を、ナルトは完全に見切って躱しきった。その速度はナルトの父であるミナトの異名、“黄色い閃光”を綱手が思い出す程であった。

 

 ナルトの覚悟と、そしてそれを裏付ける力を見たエーは、ナルトを信じる事にした。

 総大将であるエーに完全に認められて、今ここにナルトが戦争に参戦した。

 

 

 

 

 

 

 エーからの信頼を得たナルトは戦場へと向かい、そして早速八面六臂の活躍を成す。

 九尾チャクラモードと呼ばれる状態となったナルトは、その感知能力にて敵の悪意を感知する。例え白ゼツが完全に変化をしていたとしても最早無意味であった。

 元々アカネによって数を減らされていた白ゼツ達は、ナルトによって更に数を減らす事になる。

 更にナルトはまだ戦場で暴れている穢土転生体の封印にも一役買っていた。ナルト自体に封印術はないが、その圧倒的な力で穢土転生の忍を打ち倒し、再生する前に他の忍が封印していったのだ。

 

 そしてアカネはそんなナルトの活躍を遠くから感じ取り、やはりこうなったかと苦笑する。あのナルトがいつまでも大人しくしている訳がないのだ。そんな事は短くない付き合いで理解していた事だ。

 だが、ナルトをこのまま放置する訳にはいかなかった。九尾のチャクラを引き出せる様になったナルトは今までよりも遥かに強さを増している。それでもなお、マダラ相手だと勝ち目は薄いと言えるレベルであった。

 いや、マダラを相手に僅かでも勝ち目がある時点でナルトを褒めるべきだろう。弱冠十七歳足らずでは破格の強さと言える。このまま成長すればいずれは、とさえ思わせる成長速度だ。

 しかし問題は未来ではなく今なのだ。今のナルトではマダラを相手に勝ち目は薄い、それが重要なのだ。ナルトとビーが捕らえられればその時点で終わりに等しい、そうさせる訳には行かないアカネはナルトの傍へと移動する。

 アカネの作戦上でもその行動は間違ってはいない。マダラはイズナの持つ戦力でも最上級。ならばナルトとビーを捕らえる為に動かす可能性は高いと言えた。

 

 そしてアカネの予想は半分だが当たっていた。イズナもまたナルトのチャクラを感じ取り、そして穢土転生から得た情報もあってその位置をより正確に特定していた。

 当然イズナはナルトとビーから尾獣を奪う為に戦力を繰り出す。いくら代用品があるとはいえ、やはり本物の尾獣を捕らえた方がより確実なのは間違いないのだ。

 そしてアカネの予想の外れた半分。それは繰り出す戦力にあった。イズナはここにあってもマダラを温存し、マダラ以外の強力な戦力をナルトとビーにぶつけたのだ。

 それがかつての人柱力達であった。

 

 

 

 暁に捕らえられて尾獣を抜かれ、死した後も六道の力にて操られ利用される。この所業にはビーすら怒りを覚えた。

 輪廻眼を植えつけられ、イズナの六道と化した六人の人柱力達。しかも彼らは蘇った後に再び尾獣を封印されていた。つまり、生前と同じ、いや輪廻眼のおかげでそれ以上の力を振るえるという事である。

 

 そして今のイズナの力は、六人の人柱力全てに六道の力を付与し、その上尾獣化させてなお余裕があった。

 輪廻眼の視界共有と六道の力を持つ六体の尾獣化した人柱力。対してナルトとビーは二人。しかも尾獣化を可能としているのはビーのみだ。いかに九尾が最強の尾獣であり、ビーが完全なる人柱力と言えど、これは分が悪すぎた。

 

「この!」

 

――風遁・螺旋手裏剣!――

 

 九尾チャクラモードにより、影分身を使わなくとも螺旋手裏剣を作り出せる程にナルトは成長していた。

 だが敵は六道人柱力。餓鬼道の力を持つ者が螺旋手裏剣を吸収する事で容易く難を防いだ。

 

「こいつら全員長門のと同じかよ!?」

 

 これにはナルトもうろたえた。これだけの力を持つ者達が、その上ペイン六道と同じ力を有しているとなると厄介この上ない。

 一対一なら、いや二体でも今のナルトならば勝ち目はある。だが敵は六体。ビーも尾獣化をして対抗しているが、それでもこの戦力差を覆す事は出来ないでいた。

 

「はっきり言って無茶苦茶やばいぜバカヤロー! コノヤロー!」

 

 あまりの戦力差にビーも泣き言を呟く。ラップ調を出しているが、流石にこれはまずいと考えているようだ。

 だが、そんなビーに対しナルトは笑みを浮かべて言った。

 

「問題ねー! こんな戦力差、すぐにひっくり返るってばよ!」

「根拠ない自信! だが信じる自身!」

 

 やっぱり結構余裕があるのかもしれない。そう思わせるビーに、ナルトの自信の理由が映った。

 

「根拠は、あるってばよ!」

 

――須佐能乎!――

 

 ナルト達に迫っていた尾獣の内、二尾と六尾がチャクラの刃によって吹き飛ばされる。

 そのチャクラの刃の正体は須佐能乎の刃。そして須佐能乎は二体その場に存在していた。須佐能乎の使い手は限られている。そしてナルトに味方する二人の須佐能乎の使い手。となれば答えは一つ。

 

「おせーぞサスケ!」

「うるさいウスラトンカチが」

「無事で何よりだナルト」

 

 そう、サスケとイタチ。永遠の万華鏡写輪眼を得た、うちはの誇る最強の兄弟である。

 互いに交換した万華鏡に馴染んだ二人は、その力を戦争に役立てようと動き出していた。そこで感じたのがナルトのチャクラだ。感知タイプではないサスケ達だが、それでもナルトのチャクラは感知出来る程に大きかった。

 保護拘束されているはずのナルトが戦場にいる事を疑問に思い、二人はこうして駆けつけて来たのだ。

 

 そしてほぼ同時に別の援軍が到着した。そう、アカネとオビトである。

 

――螺旋丸!――

 

 オビトが複数の影分身と同時に大量の螺旋丸を三尾に叩き込む。巨体を誇る尾獣も、流石にこれだけの螺旋丸を同時に喰らえば吹き飛ばされてしまう。

 そしてアカネが七尾に向かって拳を叩き込もうとする。だが、その七尾は天道の力を有していた。最強の六道とも言える天道、その力の一端である神羅天征によってアカネは吹き飛ばされ――る事はなく、神羅天征に耐える事で逆に七尾をその反動で吹き飛ばすのであった。

 

「一度見た術が何度も通用するとは思わない事です」

『お前だけだそんなん出来るのはよ!』

 

 さすがは長年の付き合いと言うべきか。ナルトとサスケの突っ込みは完全に一致していた。

 ともかく、四人の援軍によって迫り来る尾獣の数は一気に減る事になる。残る四尾と五尾をナルトとビーがそれぞれ相対し、数の上での有利不利は完全になくなる事となった。

 

「一人一体ずつか。尾獣に対するノルマとしてはおかしい気がするなおい」

 

 オビトがそう呟くが、確かに間違ってはいない。本来尾獣とは一個人で相手をする存在ではないのだ。そんな化け物六体と忍六人が相対するなど、火影を目指すオビトも考えた事もなかった光景だ。

 

「強敵だな。いけるなサスケ」

「当然だ。ナルトよりも早く倒してやるさ」

「残念だったなサスケ。オレってばすっげー強くなってっから負ける気はしないってばよ」

 

 だが、そんな化け物と相対する忍達に恐怖心はなかった。この場にいる誰もが忍界屈指の強者だ。その力は尾獣に勝るとも劣らぬ者達ばかりである。

 

「よし! 皆いく――」

「ちょいとストップですナルト」

 

 いざ決戦と意気込むナルトにアカネがストップを掛ける。急に言われても止まる事が出来ず飛び出す寸前だったナルトは、アカネが合気にて動きの流れをコントロールする事でどうにか止まる事が出来た。

 

「何だってばよアカネェ!? 急に止めるなよ吃驚するだろうが!」

「だったら急に飛び出すなこの馬鹿が」

「んだとこのヤロー!」

「やるかウスラトンカチが!」

 

 尾獣を前にして仲間割れが出来るこの二人は状況を把握出来ていない馬鹿か、それとも大物かのどちらかだろう。後者である事を期待したイタチであった。

 そんな馬鹿二人に拳骨を落とし、静かになった所でアカネが白眼にて尾獣達を見つめる。

 

「ふむ。鎖で縛られているのか……大元は首筋の杭……。なるほど」

「いってぇ……鎖? 杭? どういうことだってばよ?」

 

 頭をさすりながらもアカネの呟きを聞き逃さなかったナルトがその意味を問う。

 

「ええ。尾獣達はペイン六道と同じ様に操られています。その受信機となるあの黒い棒が杭の様に首筋に埋め込まれているようです。それを抜けばあるいは……」

 

 尾獣を解放する事も可能かもしれない。そうなれば戦況は一気に有利となるだろう。十尾復活に必要な尾獣をこちらが確保出来れば言う事はない。

 鎖に関してはアカネは何も言わなかった。どうやら尾獣を縛る鎖を見る事が出来るのは自分だけだと悟ったからだ。アカネの白眼が並外れて優れているからこそ、外道の力に縛られる尾獣の姿が映ったのである。

 

「あん時と一緒か! よーし!」

 

 ペイン六道との戦いを思い出したナルトは今度こそ尾獣に向かって進み出す。流石にアカネもそれを止める事はなかった。もうナルトも理解しているだろうと判断したからだ。

 

「ったくあの馬鹿が」

 

 サスケもまたナルトに負けじと別の尾獣へと駆け出した。それに続き残る者達もそれぞれ相対する尾獣の元へと動き出す。

 全員の狙いは首筋にある杭だ。それを抜き取れば尾獣が解放される可能性がある。僅かな可能性だとしても、やる価値があるならばやるまでだ。

 

 

 

 ナルトが相手をしているのは四尾だ。四尾には人間道の力が与えられていた。

 ちなみに四尾に人間道の力が与えられたのには理由がある。人間道の能力は対象の頭に触れる事でその記憶を読み取るというもの。

 そして四尾の姿は巨大な猿だ。つまり人間と同じ様に手足があるので、他の尾獣よりも人間道の力が使いやすいだろうという、まあそれだけの理由だ。イズナとしては少しでも合理的にと思っただけで、実際に人間道の力を尾獣化の状態で使わせるつもりはあまりなかったりする。

 

 ともかく、他の面倒なペインよりも比較的楽な相手だと言うのが原因か。ナルトは九尾チャクラモードの力もあって四尾の攻撃を掻い潜り、誰よりも早く四尾を縛る杭の元に辿り着いた。

 数の不利があった時はともかく、一対一ならば尾獣を相手にしてもここまで戦える程にナルトは強くなっていた。

 

「よっしゃ! これだな!」

 

 そしてナルトが杭を抜こうと触れた瞬間――ナルトはいつの間にかある空間へと移動していた。

 そこは四尾の深層心理とも言うべき空間か。ナルトはそこに移動したのではなく、精神だけが四尾の深層心理へと入り込んだのだ。人柱力だからこその何らかの共鳴があったのかもしれない。

 

 その空間では四尾が鎖に繋がれて自由を奪われ、そして侵入者であるナルトに吠えたけていた。またも己の力を奪おうとする輩が来たのか、と。

 だがナルトと会話をする内に、ナルトが他の人間とは違うという事に四尾は気付いた。尾獣に対する憎しみや恨みなどの気持ちがなく、尾獣を下に見ずに対等な立場として接する。そんな人間は四尾には初めてだった。

 ナルトと会話を続ける内に、四尾は徐々にナルトを認める様になる。ビーと八尾の関係が羨ましく思え、尾獣と友達になりたいとナルトは言う。それが本気の発言だと四尾は気付いたのだ。

 そして、その言葉を聞いていたのは四尾だけではなかった。九尾もまたナルトの言葉を聞いていたのだ。いや、九尾はずっとナルトの声を、その行動を見てきた。だからこそ、ナルトが本気でそう思っている事を誰よりも理解していた。

 

 そんなナルトに対し、九尾は語るだけでは本心は伝わらないと考える。だが、それは九尾がナルトを良く知っているという証拠でもあった。

 ナルトならば言葉だけでなく、行動によって証明する事を知っているのだから。

 

 九尾の思い通り、ナルトは行動で示し証明してみせた。深層心理から元の世界へと意識を戻したナルトは、四尾を縛る鎖の元である外道の杭を抜き取ったのだ。

 これで四尾は鎖から解放されて自由になる――わけではなかった。例え全身を縛る鎖がなくなっても、四尾と外道魔像を繋げる鎖はそのままだ。何故なら、その鎖は外道魔像を介しているからだ。四尾を解放するには外道魔像をどうにかするしか方法はなかった。

 それでも、行動を以って証明したナルトを四尾は真に認めた。そしてナルトにある物を託し、四尾は外道魔像の中へと戻って行った。

 

 四尾に認められたナルト。だが、認めたのは四尾だけではなかった。九尾もまたナルトを認めたのだ。

 ナルトのこれまでの行動。その全てが、九尾の中の人間への憎しみを払拭させたのだ。もちろん全ての人間を無条件に信じる事はないだろう。だがナルトならば信頼出来る。そう九尾は思えたのだ。

 ナルトは、四尾の中で知ったとてつもなく大切な情報を思い出す。尾獣には尾の数に適した呼び名ではなく、ちゃんとした名前がある事を。

 四尾の名は孫悟空。そして九尾の名は――

 

「行くぜ九喇嘛(クラマ)!」

 

 九喇嘛。それが九尾の本当の名前。互いに名を呼び合う友となったナルトと九喇嘛。それはナルトが真に人柱力として完成した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 サスケが相手をしている尾獣は二尾。尾獣という強大な敵を相手に、永遠の万華鏡の試運転としては不足のない相手だとサスケは考える。

 不遜とも言えるその思考。だが、それでこそうちはサスケとも言えた。

 

 先手を取ったのは二尾だ。二尾には修羅道の力が与えられており、尾獣化した全身から機械の身体を口寄せし、そこから大量のミサイルやレーザーを放つというとんでもない攻撃を仕掛けてきた。

 人間サイズならまだしも、尾獣という巨体にて修羅道の力を発揮する。まさに兵器の面目躍如と言わんばかりの火力である。

 そんな圧倒的火力に対し、サスケは万華鏡写輪眼にて対応する。

 

 天照にて空間に黒炎を生み出し、それを加具土命にて網目状に変化させる。それだけでミサイルの全てを迎撃せしめた。

 網の目を潜り抜ける様にレーザーがサスケに迫るが、それすら須佐能乎にて完全に弾かれる。

 そしてそれらの力を使った反動を確認し、サスケは不敵な笑みを浮かべた。

 

「ふ、これが永遠の万華鏡か」

 

 万華鏡写輪眼のリスクが無くなるとはあらかじめ聞いていた。だが、聞くと体験するとでは大違いだ。それをサスケは身を以って実感した。

 これだけの強大な力を振るいつつも、代償となっているのは多少のチャクラのみだ。サスケが浮かれるのも仕方ないと言えよう。

 だがサスケは直に自戒する。強くなっても上には上がいるのだ。ここで調子に乗ると痛い目を見るのは過去の経験からも明白だった。

 

「まあいい。さっさと終わらせてもらうぞ化け猫!」

 

 今は敵に集中すべきだとサスケは思考を切り替える。そして二尾が口から放った炎を、それ以上の黒炎にて焼き尽くしていく。

 そのまま黒炎は二尾に燃え渡りその視界を炎に染める。そこに更に須佐能乎の弓を放ち、両足を大地に縫い止めた。後は首筋にあるという杭を抜くだけだ。

 そうしてサスケが二尾に突き刺さっている杭を抜こうとした時、サスケはナルトのチャクラが一気に増大したのを感じ取った。

 

 

 

 

 

 尾獣化したナルト。その姿は他の人柱力の尾獣化とは少々異なっていた。

 他の尾獣化は完全に尾獣の姿になるのに対し、ナルトの場合は九尾を形取ったチャクラを纏っている様に見えるのだ。

 この理由は九尾が陰と陽のチャクラに分けられている事が原因なのかもしれないが、詳しい事は判明していない。だがそれは問題にはならないだろう。何故なら、例え完全でないにしても、ナルトと九喇嘛が手を組んだその力は他の人柱力を凌駕するからだ。

 

「皆! こいつらの杭、オレに抜かせてほしいってばよ!」

 

 尾獣達を攻撃する仲間にナルトはそう叫ぶ。彼らも尾獣から杭を抜く為に攻撃をしているのは理解しているが、孫悟空と対話をしたナルトは尾獣の解放は自分がしなければならないと何故か思ったのだ。

 

「ナルトついにやったのか!? 尾獣化!?」

「これがナルトの……」

「すごいな。九尾の力を完全にコントロールしているのか」

「こりゃ巻き込まれない内に離れた方がいいな」

「あなた、ナルトの攻撃もすり抜けられるでしょうに。……ふむふむ。今のナルトならマダラ相手でも大分粘れるか……強くなりましたねぇ」

 

 ナルトの尾獣化に誰もが驚愕する。アカネは何やら感慨深そうにしているが。

 そんな風に皆がナルトの尾獣化に気を取られていた隙に、尾獣達は最大の攻撃である尾獣玉を放とうとする。

 然しものサスケ達も五体同時の尾獣玉には肝を冷やした。そんな中、アカネは平然としてナルトに確認をする。

 

「ナルト、あなただけで防げますか?」

「ああ。問題ねーってばよ!」

 

 その言葉と同時に、ナルトは一瞬で全ての尾獣玉を弾き飛ばした。

 

「速い!」

「写輪眼でも見切るのが限界か!」

 

 万華鏡写輪眼で強化された動体視力でも僅かしか見切れないその速度。

 そして一つの街を容易く破壊出来るだろう尾獣玉を弾くその力。

 まさしく桁違い。これがナルトと九喇嘛の力であった。

 

 だが、初めての尾獣化ゆえに欠点はあった。まだ完全にナルトと九喇嘛がリンクする事が出来ないので、尾獣化の持続時間はせいぜい五分が限界だったのだ。

 もっとも、五分もあればナルトには十分だった。

 

 今のナルトに六道の力で効果が期待出来るのは天道くらいだ。いや、その天道とて神羅天征は吹き飛ばされずに耐える事ができ、地爆天星も吸い寄せられる前に容易く破壊する事が出来る。

 まあ、イズナ本体が人柱力六道から離れすぎている為に、その力もかなり制限されているという理由もあったが。それを差し引いても尾獣化したナルトの強さの賜物だろう。

 五対一という圧倒的不利な人数差もナルトには程よいハンデだった。そしてナルトは尾獣達それぞれの杭の位置を確認し、チャクラを伸ばしてそれを抜き取ろうとする。

 

 その瞬間、ナルトは再び尾獣達の深層心理の世界へとやって来た。いや、九喇嘛とリンクを果たした為、ナルトは先程よりも更に深い深層心理へと到達していた。

 その証拠が人柱力の存在だ。ここには尾獣だけでなく、その人柱力も同時に存在していたのだ。

 彼らはナルトに対して初めから好印象だった。それは孫悟空(四尾)が外道魔像に吸い込まれる前に、他の人柱力と尾獣達にナルトの事を伝えていたからであった。

 

 そしてナルトは、人柱力と尾獣それぞれと名を交し合った。尾獣の真の名を知る人間。ここにいない一尾は除くが、それ以外の全ての尾獣の名を知った者は六道仙人を除きナルトが初めてであった。

 全ての尾獣から名と、そしてチャクラを託されたナルト。この時、ナルトは全ての尾獣から認められたのだった。……ただし、一尾は除く。

 

 




 原作ではオビトは人柱力に六道の力を付与していません。理由は対策が割れている能力を無駄な力を割いてまで使う必要はないとか、瞳力だけで六体の尾獣をコントロールするのは難しいからとかありますが、イズナ君にはそんなの関係ありません。余裕っすよこれくらい。もっとも、所詮は本体では無い上に、本体から離れすぎていたので六道の力は最低限でしたが。
 あと、ビーのラップ?調の会話を作るのが難しすぎる……。私には才能がないのじゃ。おかげでビーのセリフが少ない少ない。
 なお、マダラとイズナはうちはが誇れない最強の兄弟。マダラはとばっちりである。

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