どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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NARUTO 第三十八話

 戦場に、忍連合軍のどよめきが響き渡る。誰一人として大声は出していないが、それでも万を超える人数が動揺しざわめくと、それだけで戦場に響き渡るというものだ。

 忍連合軍が動揺している理由。それは、日向アカネとうちはマダラの戦いが突如として終わりを告げたからだ。

 あれほど激しい戦いを繰り広げていた二人が、今は何故か静かに向かい合っている。しかもそこに敵意は感じられない。これは一体どういう事なのか。

 

 忍連合軍の疑問は、総大将であるエーにオビトからの伝達が伝わった事で解消された。

 オビトの伝言を受け取ったエーは即座に本部へと通達し、マダラの現状を全部隊へと通達させたのだ。

 

――うちはマダラは穢土転生の縛りを破り味方となった!――

 

 その通達を聞いた忍達は、まず沈黙してその言葉の意味を噛み砕こうとする。

 そしてどう解釈しても答えは一つだと理解し、通達から数瞬後に爆発的な歓声が湧き上がった。

 

「おおおお!」

「あのうちはマダラが味方に!?」

「すげー! どうやって穢土転生を破ったんだ!」

「流石はうちはマダラだ!!」

「いや、日向ヒヨリの力じゃないのか!?」

 

 様々な憶測が飛び交うが、真相はうちはシスイの別天神である。だがその真相を知る者がそれを広めようとする事はない。

 別天神という力は出来るだけ知られない方がいいのだ。下手すれば新たな混乱を呼び起こす事になるかもしれないのだから。

 

 とにかく、忍連合軍の士気は大幅に上がった。先ほどまで圧倒的な力を見せ付けていた敵が、その力のままに味方になったのだ。

 そして同等以上の力を持つ日向アカネもいる。初代三忍の内の二人が味方として戦場に立っている。その事実に興奮しない者は殆どいなかった。

 

 

 

 忍連合軍が沸き立っている中、アカネとマダラは再会の喜びを噛み締めあっていた。

 二人が再会したのは暁による木ノ葉崩しの最中であったが、あの時はイズナに操られていた為にその意思に反して敵対関係にあった。

 だが今は違う。別天神によって自由を取り戻した事により、アカネとマダラは真の再会を果たす事が出来たのだ。

 

「マダラ……」

「ヒヨリ……」

 

 ああ、マダラが帰って来た。終生の友が、平和を目指した同志が、共に高め合った好敵手が帰って来たのだ。

 アカネは感動のあまりに僅かに涙ぐみ、マダラへと駆け寄っていく。そして勢いのままに抱きつこうとして――

 

「ふん!」

「あがぁ!?」

 

 マダラに拳骨を落とされた。

 

「な! ま、まさか別天神が効かなかったのか!?」

 

 これに驚愕したのはシスイだ。別天神が発動したというのに、マダラがアカネに攻撃を加える。

 作戦は失敗だったのか。そう悲観し、臨戦体勢を取るシスイ。だが、真相はシスイが聞けば馬鹿馬鹿しく思う程度の物だった。

 

「な、何をするマダラ!?」

「やかましい! 貴様! 木ノ葉外れの森でアレ(・・)を叫んだ事を忘れたとは言わさんぞ!!」

 

 シスイはどうも様子がおかしいことに気付く。別天神が失敗したにしては雰囲気が妙だった。

 敵同士というより、互いに理解し合っている悪友というべきか、とにかくそんな雰囲気だったのだ。

 

「え……? ま、まさか、聞こえていたのか!?」

「当然だ! 操られている時も意識はうっすらとあったわ! だからお前への須佐能乎の攻撃を止められたんだろうが!」

「で、ですよねぇ」

 

 マダラの言葉を聞き、アカネは冷や汗を流していく。

 マダラはあの時の出来事をネタにされる事を非常に嫌っている。そうと知りつつも年単位で時間を置き、たまに弄っていた当時の柱間とヒヨリだったが、当然その度に制裁が加えられていた。

 それを鑑みるに、当然今回も……。マダラの怒りを抑えるべく、アカネは慌てて言い訳を口にする。

 

「だ、だが待ってほしい! あれのおかげで私はイズナの正体に気付けたと思えば、そこまで悪い事ではなかったんじゃなかろうか!?」

「もっと別のやり方があるだろうがぁぁぁぁ!! イズナが知らずにオレ達だけが知ってる話とか、あるだろうがあぁぁぁぁ!!」

 

 マダラの叫びは激しく正しい。だが、あの時アカネの脳内に咄嗟に浮かんだのがモロチ……アレ(・・)だったのである。

 だってあの記憶が一番アカネの印象に残っていたのだから仕方ない。仕方ないったら仕方ないのだ。

 

「だったら何であの時に怒らなかったんだよ!?」

「何で逆切れしてる!? あの時はそれどころじゃなかったから保留にしてやったんだよ!!」

「なら今回も保留にしよう。今は戦争中だからそれどころじゃないし。ね?」

「むかつく正論を吐きおって……!」

 

 シスイは確信した。やっぱりこれ悪友同士の会話だ、と。別天神は失敗した訳ではない様である。

 そしてシスイはアカネの態度の差に気付く。マダラと接する時のアカネは、今まで見た事がない程に楽しそうなのである。

 別段ナルト達との付き合いが嫌だとか、楽しそうでなかったとかそういうのではなく、やはりマダラという存在がアカネにとって特別なのだろう。

 

「まあいい。今回は勘弁してやる。それと……すまなかった」

 

 マダラは先ほどまでの空気を一変させ、そして心底申し分けなさそうに謝罪した。

 そしてアカネもまた真面目な態度に戻り、マダラの謝罪に対して首を横に振る。

 

「お前は悪くない、悪くないんだ。だから、謝る必要なんてない」

「……全ての責任を負う事など傲慢かもしれん。だが、オレがイズナの変化に気付いてやれれば……そう思うとな」

「お前の言う通り、傲慢だよそれは。人はどれだけ強くなろうとも神にはなれない。例え家族でも、完全に理解してやる事なんて出来ないんだ」

「そうか……」

 

 アカネの慰めの言葉はマダラにも理解出来る。

 だがそれでもマダラは納得出来なかった。自分がイズナを止める事が出来ていれば。そう考えるのを止める事はマダラには出来なかった。

 しかし、先ほどアカネが言った様に今は戦争中だ。後悔を捨てる事は出来ないが、気持ちを切り替える事は出来る。

 

「そこの同胞よ。名は何と言う?」

「はっ。シスイと申します。お初にお目に掛かれて光栄ですマダラ様」

 

 気持ちを切り替えたマダラは己の意思を取り戻させてくれたシスイへと意識を向ける。

 そしてシスイは偉大なる先祖とこうして出会えた事に感動し、礼を正して名を告げた。

 シスイにとってマダラとは尊敬すべき偉大な先祖なのだ。うちは一族の歴史においてマダラ以上の存在など記録に残っていない。一族の幼い者は誰もがマダラの伝説を読み聞かされ、マダラに憧れ、マダラみたいになりたいと一度は夢見るのである。それはシスイとて例外ではなかった。

 

「そう畏まる必要はない。失敗し、お前達に多くの問題を残してしまった不甲斐ない先祖だ。それよりも、此度の尽力に感謝する。よくぞオレの自由を取り戻してくれた」

「勿体無いお言葉です。ですが、あまり御自分を卑下なさらないでください。あなたは我々にとって英雄だ。それは今でも変わりません」

「そうか……」

 

 シスイの言葉に、マダラは救われた思いになる。現代の同胞がかつての己を誇りに感じてくれている。

 それは、自分がしてきた事は無駄ではなかったのだと実感出来たからだ。見返りを求めたつもりはないが、それでもこうして目の当たりにすると感慨深く思うのは、マダラも人の子だったという事だろう。

 

「ヒヨリ……オレ達のしてきた事は……」

「ああ、無駄でも、間違いでもなかったよ」

 

 戦乱を収める為に多くを殺した。多くを失った。憎しみを飲み込み、同胞を、家族を殺した一族と手を組んだ。その全ては……無駄ではなかったのだ。

 

 

 

 マダラはアカネとシスイと共に忍連合軍の元に移動する。

 忍連合軍には他の戦場からもやって来た援軍も辿りついて、誰もが静かにマダラを見つめる。ナルト達もまた神威空間から現実空間に戻り、同じ様にマダラの行動を見守っていた。

 

 そしてマダラは現代の忍達を前で、ゆっくりと頭を下げた。

 

「迷惑を掛けた。その上で、恥を承知で頼む。……イズナを止めたい。力を貸してくれ」

 

 まさか素直に謝罪されるとは思ってもいなかったのだろう。マダラのこの行動にアカネ以外の誰もが驚愕する。

 うちは一族の歴史上最強とまで恐れられた人物だ。もっと傲慢な人間だという思い込みがあったようだ。イズナに操られている時の態度も影響しているのだろう。

 

「言われるまでもない! 忍の世の為にも、イズナは必ず倒す!」

「そういう事じゃぜ。あなたこそワシらに手を貸して貰うぜうちはマダラ」

「ええ。今や忍界は一つになろうとしています」

「この戦争が終われば、これを機に争いは収まる」

「ならば! 絶対にこの戦争に負ける訳にはいかん!」

 

 五影の意思を聞き、忍連合軍もその意気を高める。それを見てマダラは笑みを浮かべた。かつての夢がここにあると理解したのだ。

 

――柱間よ。ここにオレ達の夢がある。見逃すと損だぞ――

 

 マダラは心の中で柱間に語り掛ける。そして再び口を開こうとして――

 

『ッ!?』

 

 突如として起きた異変に驚愕した。マダラだけではない、アカネも、五影も、忍連合軍の誰もが、それ(・・)の突然の出現に驚愕していた。

 

「ば、馬鹿な!?」

「いつの間に!? 口寄せされたのか!?」

 

 エーと綱手が驚愕の声を上げる。だが、それはアカネとマダラによって否定された。

 

「違う! 口寄せではない! こいつは――」

「十尾は前触れなく現れた!」

「グオオオオオオオオオォォォォォ!!」

 

 十尾出現。それは一切の前触れなく起こった。口寄せの術ならば術者の発動なり、召喚時特有の煙なりと口寄せ特有の前触れがある。

 だが十尾にはそれがなかったのだ。一切の感知も出来ず、いきなりこの場に出現したのだ。まるで瞬間移動でもしたかのように。

 

「まさか飛雷神の術か?」

「可能性は……あるな! 十尾の上を見ろ!」

 

 瞬間移動に匹敵する時空間忍術の存在に思い至り、もしやとマダラは考える。

 それを肯定する様に、アカネは十尾の上に立つ存在を指差した。

 

「イズナ……!」

 

 十尾の上にはイズナがいた。何やら仮面を被っているが、その正体は顔を見ずとも理解出来る。この世で十尾をコントロール出来るのは、イズナくらいなのだから。

 そして先ほどの十尾の出現が飛雷神だと想像した理由だが、飛雷神の術は術者が触れている対象も同時にマーキングした場所へと移動する事が可能だからだ。

 イズナが飛雷神の術の使い手ならば、マダラを操っている時にマーキングをして、十尾と共にこの場に瞬時に移動する事も可能だろう。

 

「マダラ、イズナは飛雷神の術を?」

「……分からん。オレですら今のイズナの力を把握してはいない」

 

 イズナが飛雷神の術を会得していたかどうかをアカネが確認するも、それは、マダラですら知り得ぬ情報であった。

 そして突然の出来事に動揺する忍達に向けて、イズナはその口を開いた。

 

「まずは称賛しよう。まさか五大国の忍がここまで協力する事が出来るとは、な。正直驚いたぞ」

 

 それは嘘偽りない称賛の言葉だ。単にここまで勝ち抜くだけならば、日向ヒヨリ一人でも可能なのはイズナが良く知っている。

 だが、忍の世が一つに纏まろうとしているのはイズナの予想外な出来事だった。忍連合軍と言っても、所詮は形だけであり、連携や信頼などない烏合の集だと思っていたのだ。

 しかしそれは間違っていた。忍達は国や里の垣根を越え、かつては殺し合った者同士で手を組み、助け合って困難を乗り越えここまで来たのだ。

 それをイズナは素直に驚き、そして称賛したのである。

 

 イズナの言葉を聞いたマダラは、一縷の望みにかけてイズナに語り掛ける。

 

「なら分かったはずだイズナ。人は分かり合える。時間は掛かるがいつかは手を取り合い、協力して平和を実現させる事が出来るのだと。もう、こんな事は終わりにするんだ」

 

 どうかこんな愚かな行為は止めてほしい。マダラの想いが籠められたその言葉は……イズナには届かなかった。

 

「無理だよ兄さん。確かに今は協力している。だが、それはいつまで続く? 一年か? 十年か? それとも百年経っても千年経っても協力していられるのか?」

 

 イズナの問いにマダラは答えられなかった。人間とは忘れる生き物だ。十年や二十年ならばいい。だが、百年もすればこの戦争も記憶ではなく記録になってしまう。

 そうなれば、人は忘れる。個としての人ではなく、種としての人が忘れてしまうのだ。かつての戦争で受けた痛みを……。

 忘れてしまえば再び起こりうる。それが争いであり、その果てが戦争だ。永遠の平和などない。それをマダラは理解していた。

 

「無理だろう? だから! オレが平和を作り出す! 兄さんにも! 千手柱間にも! 日向ヒヨリにも無理ならば! このオレが作る! 永遠の平和を! 誰も傷つかず! 誰も騙されず! 誰もが幸せになれる世界を!」

 

 そこには確固たる信念が存在していた。歪んでいるが、それでも他人では曲げられない信念が。

 

「最後通告だ! 貴様らにも平和を享受する事は許されている! オレに協力しろ! これに従わないならば……邪魔者全てを消して無限月読を実行するまでよ!!」

 

 イズナの平和を実現したいという想いは嘘ではない。誰もが幸せになれる世界。この誰もがには、敵対する忍も含まれていた。

 邪魔する者には容赦はしないし、平和実現の為に利用出来る物は利用する。だが、それでも多くの者に平和をもたらそうという考えは持ち続けていた。

 

 イズナの覚悟と信念、そして振るわれずとも理解出来る圧倒的な力に忍連合軍が気圧される。

 その中にあって、この場で誰よりも若い三人の忍が、イズナに真っ向から立ち向かった。

 

「ふざけんじゃねぇ! 未来の事なんざ分からなくて当たり前だろうが! それでも皆で頑張って、少しずつ前に進んでんだろう! それをテメー一人の勝手で邪魔してんじゃねー!!」

「お前一人が作る未来が平和である保証がどこにある。そんなに未来が怖ければ自分だけ妄想の中に引き篭もってろ。オレ達を巻き込むな負け犬が」

「あなたがしようとしている事は逃避よ! 辛く困難な平和への道から逃げて、安易な偽りの平和に逃げたのよ! まるで子どもね!」

 

 ナルト、サスケ、そして二人に合流したサクラがイズナの語る理想を否定する。

 多くの大人が気圧される中、自らの信念を曲げずにナルト達は全力でイズナの気迫に対抗していた。

 

「ふ、ふふ。見たかマダラ」

「ああ……あの少年達を見ると思い出すな、昔のオレ達を」

 

 アカネ達の瞳には、ナルト達がまるで過去の自分達の様に映っていた。

 何者にも曲げられない信念を持ち、未来を信じて前を見続けている。そんなナルト達を見て思う事は一つだ。

 

「二代目三忍はいるのだし、三代目とでも言うべきかな」

「なら、先輩として後輩に負ける訳にはいかないな」

 

 三代目三忍という称号に相応しいまでの成長を見せるナルト達を見て、アカネとマダラも前に立ち、イズナと敵対する意思を見せる。

 それだけではない。五影や他の忍達もまた、若い忍が覚悟を見せている中で尻込みする事を恥じ、誰もが戦意を高めてイズナを睨み付けたのだ。

 

「……兄さんもオレの邪魔をするのか」

「ああ、今のお前は間違っている。だから、それを止めるのが兄であるオレの役目だ。あの時止められなかったオレの罪を、ここで雪ぐ」

「……分かったよ。ならば! 止めてみせようちはマダラよ! そして忍達よ! 十尾の力に絶望せよ!!」

 

 イズナの叫びと共に、イズナの体からは柱間細胞の管が生え、十尾へと繋がっていく。これにより十尾をよりコントロールし易くしているのだ。

 そして十尾がその姿を変化させていく。今の十尾はまだ不完全なのだ。それでもなお、十尾の力は凄まじかった。

 十尾の口に巨大な尾獣玉が作られていく。その威力は並の尾獣が放つ物とは比べ物にならないだろう。眼下に放てば、それだけで忍連合軍が壊滅する事は必至。

 

 だが、それを見るアカネやマダラ、そしてナルトに焦りはなかった。

 アカネとマダラは躱す必要がないと確信し、ナルトもまた暖かなチャクラを感じて不安に思わなかったのだ。

 

「イズナよ。三忍の力を舐めるなよ」

 

 アカネの言葉と同時に、十尾が巨大な尾獣玉を発射しようとし、忍連合軍はそれを防ぐ為の用意をどうにか整え、そして――

 

――木遁秘術・樹界降誕――

 

 そして、十尾が尾獣玉を放つよりも僅かに早く、十尾の足元に巨大な樹海が生み出された。

 それによって十尾はバランスを崩し、尾獣玉は天高く飛んでいく。そして遥か彼方、誰も存在しない荒野に着弾した。

 半径数百kmは消し飛んだだろうか。その恐るべき威力に忍達は恐れを抱く。だが、それでも防ぐ事は出来た。ならば対抗する事は不可能ではない。

 そう思い至り、そして木遁を使用したマダラへと感謝する。だが、木遁を使用したのはマダラではなかった。マダラは両腕を組んで見守っていただけで、何もしてはいなかったのだ。

 ならば、誰が木遁を放ったのか。木遁を使用出来るのはマダラ以外ではヤマトのみ。ならばヤマトなのか? だが、それもまた違っていた。

 答えは、木遁の最初にして最強の使い手。木ノ葉の誇る初代火影にして初代三忍――

 

「遅れてすまぬな二人とも!!」

『遅いぞ柱間!』

 

 そう、千手柱間その人である。

 なぜ柱間がここにいるのか。それを語るにはしばし時を遡らなければならない。

 

 

 

 

 

 

 第四次忍界大戦に多くの忍が参加している中、当然木ノ葉隠れの里も中忍以上の忍は出払い、残っているのは僅かな強者と多くの下忍達であった。

 最低限の守りはあるが、それでも平時と比べると圧倒的に守りが薄くなっているだろう。そのせいもあって、里の警備はより一層の警戒心を持って固められていた。少ない人数ならば、それを覆す様に警戒に当たっているのだ。

 だが、それは外からの襲撃に対してだ。里の内部にはそこまでの手が加えられていなかった。人が少ないから仕方のない事だろう。だが、そうして内部の警戒が薄れるのを待っていた者が、里の内側に存在していたのである。

 

 周囲に誰もいない事を気配で確認し、その人物は慎重に瞳を開ける。

 そして全身に絡み付いていたチューブなどの医療器具を外し、おもむろに立ち上がった。

 

「やはり、里の警戒が外に向いているわね。予想通り戦争が起こったようね」

 

 里の内部にて自身への警戒が薄れるのを待ち望んでいたのは、イタチのイザナミによって幻術に捕らわれていたはずの大蛇丸であった。

 大蛇丸はイザナミによって永劫終わらぬ幻術に苛まれていたが、数日前にようやく解放されたのである。

 だが、大蛇丸はすぐには動かなかった。目覚めた事が木ノ葉にばれれば、永遠に幽閉されるか、殺されるか、少なくとも何かしらの処置はあるだろう。それだけの罪を犯した自覚が大蛇丸にはあった。むしろ今こうして生かされているのが不思議なくらいだ。

 

「いえ……木ノ葉はそういう甘ちゃんだらけだったわね」

 

 かつての同胞や師を思い出し、大蛇丸は憎しみではなく懐かしそうな笑みを浮かべる。

 そしてすぐに行動を開始しようとする。あまり時間に猶予はないからだ。

 

「戦争が始まっているとしたら……急いだ方がいいわね」

「どこに急ぐのですか?」

「!?」

 

 一人独白する大蛇丸。だが、その独白を聞いていた者がいた。気配はなかったはず。そう動揺するが、声の主の正体を知って納得がいった。

 

「おはようございます大蛇丸。良く眠れたようですね。いい夢は見られましたか?」

「……これはこれはヒヨリ様。わざわざ私の目覚めに合わせて挨拶に来て頂けるとは光栄ですよ。……いつからお気づきで?」

 

 日向ヒヨリ。いや、日向アカネ。それが大蛇丸に声を掛けた人物だ。アカネならば自分が気配を見逃しても仕方がないと、大蛇丸も自分を慰めた。

 

「いつから、ですか。あなたが目覚めてからですよ。私はあなたの見張り専用の影分身ですので」

「……それはまた、随分と過大評価をされたようで恐縮ですねぇ」

 

 大蛇丸もまさか最初から気付かれていたとは思いもしなかったようだ。大蛇丸がイザナミから抜け出し、意識が目覚めた時の気配の変化、それにすらアカネは気付いたのだ。

 大蛇丸はその事実に冷や汗を流し、そして目論見が崩れた事を内心で悲観する。そんな大蛇丸にアカネは問い掛けた。

 

「さて、何をする為に急いでいたのですか?」

「……」

 

 アカネは真っ直ぐに大蛇丸の目を見ながら話し、大蛇丸もまたアカネの目を見つめ返す。

 しばしの無言が続き、そして大蛇丸は賭けに出た。正直に全てを話すという賭けにだ。

 

「戦争に参加しようと思いましてね」

「どちらの陣営として?」

「もちろん、木ノ葉の忍として」

「木ノ葉を裏切ったあなたが、何故?」

「うちはイタチに借りを返す為」

「借りとは?」

「かつての私の願いを……思い出させてくれたからよ」

 

 アカネの問いに、大蛇丸は流れる様に答えていく。その答えは大蛇丸を知る者ならば到底信じられないものだ。

 己の実験の為に木ノ葉にて多くの忍を材料とし、数多の人間の未来を歪め、師も同胞も裏切った最悪の忍。それが大蛇丸だ。そんな者が今更何を言おうと信じられるはずもないだろう。

 アカネは大蛇丸の答えを聞いても何の反応もせず、そして更に問いを続けた。

 

「かつてのあなたの願いとは?」

「……死んでしまった父と母。両親にもう一度会いたかったのよ」

 

 それが、大蛇丸の最初の願い。そして、大蛇丸を歪めてしまった願いでもあった。

 大蛇丸は幼い頃に両親を亡くしてしまった。それは大蛇丸の心に大きな傷を作り出した。それほどに、大蛇丸は両親を愛していたのだ。

 そして両親の墓の前にて、大蛇丸はある物を見つけてしまった。それは白蛇の脱皮した皮だ。大蛇丸は一緒に両親の墓参りをしていた師であるヒルゼンに、白蛇は幸運と再生の象徴だと教わった。

 両親の墓で白蛇の皮を見つけたのも、両親が生まれ変わり、いつかまた大蛇丸に会う為なのではないか。ヒルゼンは大蛇丸にそう言ったのだ。

 それはヒルゼンなりの気遣いの言葉だった。両親を失って落ち込む大蛇丸を慰めたかったのだ。だが、それは呪いの言葉になってしまった。

 

 大蛇丸は生まれ変わった両親に再会する事を夢見る様になった。そしてその夢は、いつしか永遠の命を手に入れる事に変わってしまった。

 両親が生まれ変わるのはいつなのか。それはヒルゼンにも分からないと答えられた。つまり、十年先か百年先かも分からないという事だ。

 ならば、例え何百年経っても生き続けていなければ両親との再会は叶わない。両親と再会する為には不死にならなければならない。その為には不死の研究をしなければならない。その為には多くの術理を知らなければならない。その為には世の真理を解き明かさねばならない。その為には不死にならなければならない。不死になる為には更なる研究を。研究、研究、研究。

 そうして多くの研究と人体実験を繰り返し、戦争にて多くの死を間近で見て行く内に、大蛇丸は歪んでいった。そしていつしか、幼い頃の純粋な願いは歪み、この世の真理を解き明かすという目的の為の手段が、目的へとすり替わってしまったのだ。

 

 だが、イザナミによってその歪みに気付けたのだ。かつての願いを思い出した大蛇丸は、まるで悪い夢から覚めたかの様に晴れ晴れとした気分になった。

 当然目的の為に手段を選ばないその精神は変わってはいない。だが、それでも本当の目的を思い出した大蛇丸に、木ノ葉やヒルゼンに対する恨みは消えてなくなっていた。

 

 大蛇丸の言葉に嘘はなく、その瞳は澄んで恨みや憎しみは無くなっている。アカネはそう判断した。

 

「分かりました。では、ここから出てもいいですよ」

「……感謝するわ。と言っても、結構な強度の結界が張られているんだけど?」

 

 そう、大蛇丸の周囲には非常に強固な結界が張られていた。当然大蛇丸を逃がさない様にする為の結界である。

 だが、その術者はアカネであり、その解除も容易であった。

 

「解! はい、これで問題ないでしょう」

「私が言うのもなんだけど……えらく簡単に私を外に出すわね」

「ええ、先ほどの言葉に嘘はないと思っていますから。それに、戦争には少しでも多くの戦力が必要ですからね」

 

 大蛇丸ほどの実力者となれば、戦争でどれだけ貢献出来るか。その貢献でどれだけの忍の命が助かるか。

 それを考えるならば、大蛇丸をこんな場所で遊ばせておくつもりはアカネにはなかった。もちろん、大蛇丸が味方になる確信があっての話だが。

 

「ですが、一応私も付いて行きますよ。少なくとも里の中で自由にさせるには、あなたは信用を失い過ぎていますので」

「ええ、当然ね。それじゃあ早速行きましょう。まずは戦力を集めなければね」

「戦力?」

「そうよ。必要なんでしょう? 戦争には、ね」

 

 そう言って大蛇丸は笑みを深め、アカネと共にある場所へと赴いた。

 

 

 

 そこは木ノ葉の外れにあるうずまき一族の納面堂だ。そこには無数の死神を模した面があり、大蛇丸はその中から一つを選び取った。

 

「これね」

「これがどうかしたんですか?」

「これは死神の面。屍鬼封尽によって死神の腹の中に封じられた者の魂を解放する為に必要な道具ですよ」

「屍鬼封尽だと? 何を考えている大蛇丸?」

 

 屍鬼封尽。それはアカネも名前と効力しか知らぬうずまき一族に伝わる封印の秘術だ。

 かつてはその術にて四代目火影であるミナトが九尾を封印し、里を救ったという。だが、九尾すら封印するその術の代償は、術者の命であった。

 屍鬼封尽にて呼び出された死神の腹の中に、術者と封印の対象が永劫封印され、そして永遠に苦しみ続けるのだ。

 

「まあ、少し離れてご覧になっててください。……!! グアアウウッ!!」

 

 そう言って大蛇丸は死神の面を被り、そして己に死神を憑依させる。

 そしてそのまま死神を操作し、死神の腹を裂いた。同時に大蛇丸の腹にも同じ傷が出来る。死神と憑依した者には、死神と同じ傷を受けてしまう様だ。

 裂かれた死神の腹の中から一つの魂が解放される。これで死神に用はない、大蛇丸は面を外し、そして腹から流れる血と、身体に刻んである術式を利用して口寄せの術を使用する。

 そうして口寄せされたのは、なんと三体の白ゼツであった。

 

「これは……」

「安心してください……これは私が白ゼツを培養して作ったクローンよ……意識はないわ。生きているけどね」

 

 そう、これは大蛇丸が柱間細胞を研究している時に生み出した白ゼツのクローンである。

 白ゼツの細胞を手に入れたのはいいが、研究する為には少ない細胞では足らない為に、培養して増やしたのである。

 生きてはいるが、意識はない。培養液に漬け続ければ生かしておく事が可能な命のストック。それは大蛇丸の不屍転生の材料として最適なのであった。

 

「クローンとはいえ命は命。それを……」

「確かにそうかもしれませんが、そもそも白ゼツ自体が千手柱間の細胞から作られた存在ですしねぇ。今更倫理を問うてもどこから問えばいいのやら……。それよりも、そろそろ意識が限界なのでこの白ゼツを使わせて貰いますよ」

 

 そう言って大蛇丸は不屍転生にてクローン白ゼツに乗り移り、その身体を自らの物とする。

 

「そのくらいの傷なら私が治せましたのに」

「それって再生忍術でしょう? 私は寿命をこれ以上減らすつもりはありませんので」

 

 そう言って再生忍術に掛かる事を拒否しつつ、大蛇丸は穢土転生の術を使用する。

 

――穢土転生の術!――

 

 大蛇丸が蘇らせたのは二人の人物だ。その人物とは――

 

「こ、ここは……クシナ!?」

「ミナト? 私たちは死んだはずなのに……どういう事なの?」

 

 四代目火影ミナトとその妻クシナであった。現状をまだ把握出来ていない二人を他所に、大蛇丸は更に口寄せの術を行った。

 

――口寄せの術!――

 

 そうして現れたのは二つの棺。厳重な封印が施された棺だが、その封印は大蛇丸によって解除され、中から二人の人物が現れる。

 棺にはそれぞれある文字が書かれていた。一つは“初”、もう一つは“二”。この二つはかつて大蛇丸がヒルゼンを狙った時の物と同じであった。

 

「柱間……! 扉間……!」

 

 そう、初代火影千手柱間と、その弟にして二代目火影千手扉間である。

 大蛇丸はこの二人の穢土転生を厳重に封印し、隠していた。決して穢土転生を解術せず、現世に留まらせ続け、その上で封印する。

 その理由は、マダラの裏にいるだろう何者かへの対抗策の為だ。マダラが穢土転生である事に大蛇丸は薄々だが勘付いていたのだ。ならば、マダラの裏にはマダラを利用する存在がいる。

 うちはマダラすら利用出来るならば、初代火影や二代目火影すら利用する事も可能だろう。そう判断した大蛇丸は、敵が柱間と扉間を利用出来ないように穢土転生にて縛り続けていたのだ。

 他の術者が穢土転生にて蘇らせた存在を、別の術者が穢土転生にて同時に蘇らせる事は出来ない。その法則を利用したのである。

 

「……ここは? おお!」

「また大蛇丸とかいう忍か……! ん?」

 

 意識を取り戻した柱間と扉間。現状の確認に一瞬の戸惑いを感じるが、すぐにアカネ(ヒヨリ)の存在に気付いたようだ。

 

「久しぶりだな二人とも!」

 

 アカネは久しぶりの旧友との再会に喜びの声を上げる。

 そして柱間もアカネと同じく友との再会を喜んだ。

 

「おお! 前回は迷惑を掛けたのヒヨリよ! オレにとってはほんの少し前だが、お前の姿を見る限りそれなりの時間が経っているようだのぅ」

「ああ。あれから三年は経ったな」

「そうかそうか」

 

 と、互いに笑い合う二人。そんな二人に対して、不機嫌そうに叫ぶ者がいた。

 

「何を悠長に笑っている二人とも! ヒヨリよ、これはどういう状況だ! 何故お前は今の世に新たな肉体で生きておる! 大蛇丸とやらと共にいる理由は! 全てを説明してもらうぞ!」

 

 凄まじい剣幕での怒鳴りにアカネも柱間もやや腰を引いている。

 馬鹿三忍――誤字にあらず――が何かをやらかした時には、こうして扉間が怒鳴り散らすのがかつての木ノ葉の日常だったのである。

 

「ま、まあまあ落ち着いてください二代目様」

「む? なんだ貴様は?」

「オレは四代目火影のミナトと言います」

「私はその妻のクシナです。よろしくお願いします初代様、二代目様」

 

 初対面であるミナトとクシナが自己紹介をする。柱間と扉間は紹介せずともこの場の誰もが知っているので必要ないのだ。

 

「ほお! 四代目とな! うむうむ、里も長く安定しておるようだな!」

「今は綱が五代目をしていますよ」

 

 自分が死した後も里が潰える事なく続いている事に柱間は素直に喜びを表し、そしてアカネの言葉で素直に落ち込んだ。

 

「綱か……今、里は大丈夫ぞ?」

 

 初孫だった綱手を柱間は大層可愛がり、甘やかし続けていた。果てには柱間の好きな賭け事まで覚えてしまう始末だ。

 そんな孫が無事に里を運営出来ているか不安だったのだ。

 

「安心してください。きちんと火影をしていますよ」

「そうか! それなら良かったぞ!」

 

 そう言ってアカネと柱間は互いに笑い合い、そして扉間の怒りが再び落ちた。

 

「無駄話をせずさっさと説明せんかぁぁぁ!!」

『すいませんでした!』

 

 扉間の怒りを収める為にもアカネは迅速に状況を説明する。

 自身が転生した事、大蛇丸が改心した事、そして、イズナによって忍界に危機が訪れている事を。

 

「……そうか。イズナだったのか……そうか」

「柱間……」

 

 全てを知った柱間は納得したように呟く。

 かつて、柱間はマダラと死闘を繰り広げた。最大の友との望まぬ死闘。それが柱間の心をどれほど痛めた事か。

 だが違った。マダラは自分達を裏切ってはいなかったのだ。今でも友として自分達を思ってくれているのだ。

 イズナがしてきた事は到底許される事ではなく、柱間にも怒りは湧いている。だが、それ以上にマダラの真実を知れた事が柱間には嬉しかった。

 

「うちはイズナが引き起こした戦争に勝たなければこの世の未来はなくなります。力を貸してもらえませんか初代様、二代目様」

 

 大蛇丸は自身の術である穢土転生の存在に対して、命令ではなく頼み込む。

 それを見たミナトは大蛇丸の変化に驚いた。四代目火影の座に固執し、自分が選ばれなかった事に恨み骨髄だった大蛇丸が、こうも変わるとは想像も出来なかった様だ。

 

「……ワシらの縛りを無くしておる様だな」

「はい。その力も出来る限り生前に近づけています。あなた達がやろうと思えば、私など一瞬にして殺せるでしょうね」

 

 そう、大蛇丸は柱間達を縛ってはいなかった。今の柱間達は己の意思で自由に行動する事が可能であり、大蛇丸を殺して完全な自由を手に入れる事も可能なのだ。

 

「なるほどな……」

 

 扉間は大蛇丸を見つめ、そして柱間とアカネに目をやり、二人が頷いたのを確認してため息を吐く。

 

「相変わらずお人好しが過ぎる……。まあよい。戦争を止める事はワシも不本意ではない」

「そういう事だ大蛇丸とやら! 安心するが良い。オレも全力でイズナを止めようぞ!」

「ナルトが頑張っているんだ。父親として手伝ってあげなきゃね」

「母の強さをイズナって馬鹿野郎に教えてやるってばね!」

 

 全員の答えは一致していた。ならば、後はやる事は一つ。

 

「柱間。私と、そしてきっとマダラも待っています……早く来ないと私達が全部終わらせちゃいますよ」

 

 そう言って、影分身であったアカネは柱間達に後を任せて消滅する。

 この時、戦場にいるアカネの本体はこの情報が伝わり、戦場から確認出来た柱間のチャクラに納得し、敵としての復活でなかった事に安堵し喜んでいた。

 

 

 

 アカネの言葉を理解した柱間は、友と再び力を合わせる事が出来る事に笑みを浮かべ、自らの顔岩の上で守るべき里を眺めつつ、気合を入れて叫ぶ。

 

「いつの世も戦いよ……だが、戦争もこれで最後ぞ! 行くぞ!!」

『はっ!』

 

 こうして、柱間率いる最強の援軍が、戦争に参戦したのであった。

 

 




 イズナが突然現れたのは飛雷神の術ではありません。

 大蛇丸復活。そしてクシナも参戦。原作でクシナを穢土転生で復活させなかったのは何でだろう? うずまき一族の封印術は便利だと思うんだけどな。

 なお、三十六話でアカネが何やら呟いていた理由が今回の話。大蛇丸が柱間を呼び出す→戦場のアカネがそれに気づくが、敵味方どちらの立場で蘇ったのか分からず悩む→影分身のアカネが消滅し、その情報が還元されて事実判明→ハッピーうれぴーよろぴくねー。となってました。







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