どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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NARUTO 第三話

 さて、またも女性として産まれたアカネであったが、まあ何事もなかったかのようにすくすくと育っていった。

 そもそも彼女の起源は男性であるかもしれないが、すでに最初の人生の何倍もの時間を女性として過ごしているのだ。もう中身は殆ど女性といっても過言ではなかった。

 彼女の根幹にあったとある目的の為には男性に生まれなければいけないが、まあ気長に待とうと言えるくらい達観していた。それくらいの長き人生を歩んできたのだ。

 

 そんな彼女の苗字だが、なんと前世と同じく日向であった。これにはアカネも驚いた。

 転生の度に異世界に行く事が多いアカネが、二度続けて同じ世界で生まれた事は数える程しかない。というかこれが二回目だった。

 そして前世と同じ一族として生まれたのもまた驚きだった。多くの一族が住まう木ノ葉にて連続で日向で生まれるなどどれだけの確率なのか。

 もっとも、転生自体が珍しいというレベルではないので他と比較する事など出来はしないが。

 そもそもこの世界には多くの国があるのだから木ノ葉で産まれたこと自体が珍しいと言えよう。

 

 だが、アカネは知らない事だがこれには一応の理由があった。

 それはアカネの内蔵するチャクラの量に関係している。

 アカネは幾度もの生を経て、膨大なチャクラを生まれながらにその身に宿している。

 その為転生をするには器となる肉体がそのチャクラに耐えられる素養を持ってなければならないのだ。

 もし素養のない肉体に生まれ変わっていれば、アカネは数年と持たずに死んでいただろう。下手すれば産まれてすぐに死亡していた可能性もある。

 それを防ぐ為に無意識に魂が強い肉体を求めた結果、再び日向一族に生まれ変わったのだ。

 

 もっとも、確率で言えば日向に生まれ変わるのが低かった事は確かだ。

 アカネの転生体としての候補に上がる一族には、千手一族・うずまき一族・うちは一族などが日向以外にあった。もちろんこれら以外にも幾つか候補はあっただろうが。

 その中でもっとも器として理想的なのが千手一族とうずまき一族だ。この二つは特に生命力が強い一族として知られているからだ。

 この候補はあくまで候補であり、転生時に選んでいる訳ではない。日向に生まれ変わったのは完全に運である。なので、低い確率を引き当てた事に間違いはなかった。

 

 まあそんな事はアカネには知った事ではなく、とりあえず今の人生を楽しむ事にしようと考えていた。

 アカネはこれでも転生のベテランである。……アカネ以外にそんな存在がいて、それをアカネが知ればすぐにでも友達になりに行くだろうが。

 とにかく、アカネが転生してからまず最初にする事がある。前世は前世、今世は今世と頭を切り替える事だ。

 

 前世を引きずったままでは今世に色々と面倒事を持ち込むことになるからだ。

 前世はああだった。前世は良かった。などと考えるのは今世に対して失礼だろう。特に産んでくれた父母に対して一番失礼だ。

 前世の両親の方が良かったなどとは口が裂けても言えないし、思うこと自体が失礼だ。なので、頭を切り替えるわけだ。

 

 そうする事で新しい人生を楽しむ事も出来る。子ども時代も慣れれば楽しいものなのだ。ベテランは切り替えが早かった。

 ……流石に赤子の内にされる(しも)の世話だけは永遠に慣れる事はなかったが。

 

 さて、頭を切り替えたアカネだったが、日向一族に転生した事は少々頭が痛い思いだった。それは日向一族の特異体質・白眼が原因であった。

 白眼は相手のチャクラを色で見分ける事が出来る。そしてチャクラの色は個人個人で違う。

 似ているチャクラ性質をしている者は色も似ているが、それでも瞳力の強い白眼ならば見分ける事が出来るだろう。

 そしてアカネのチャクラの色は前世であるヒヨリの色と瓜二つ……というか完全に同一の物だった。まあ魂が同一人物なので当然と言えば当然だ。

 

 日向一族とて常時白眼を発動している訳ではないが、それでもアカネを白眼で見る機会が全くないという事はまずないだろう。

 そしてその白眼の持ち主がヒヨリのチャクラ性質を良く知る者であったら……その時は、アカネ=ヒヨリという図式が出てくるかもしれない。

 そうなればまず間違いなく面倒事が起こるだろう。

 

 もし完全にばれた場合何かの実験台にされる、とかは別にいい。逃げ切る自信はあるからだ。

 だが敬われた場合、これが困る。新しい人生で楽しみたいのに最初から敬われるなどたまったものではない。

 そして敬われるだけの土台がある事はアカネも理解していた。何せヒヨリは木ノ葉では伝説と謳われた三忍の一人にして、日向では最強の長として尊敬と畏怖を集めていたのだ。

 

 まあそこまではいい。許容範囲と言えた。だが、アカネにとって最も恐ろしい事は、今世の父と母に忌み嫌われる事だった。

 自分の子どもが前世の記憶を持っており、すでに大人顔負けの知識や実力を有している。

 産みの親として、育ての親として、これを容易に受け入れる事は難しいのではないだろうか? 人によっては自分の子ではないと捨てる者もいるだろう。

 そしてアカネはこれまでの経験でそれを良く知っていた。だからこそ恐れるのだ。

 

 もちろん両親がそう言った人柄ではないと理解しているが、だからばれるのが怖くないという事にはならない。

 だからと言って出来る事はアカネにはなかった。ばれたくないからと言って逃げ出す訳にもいかないのだ。

 今は事態が動くまでは二人の子どもとして甘えさせてもらうだけだった。

 

 

 

 そして、早くも事態が動く切っ掛けが起きてしまった。

 それはアカネが一歳の時に起きた事件が原因だった。

 

 九尾の封印が解けたのである。

 

 

 

 

 

 

 四代目火影・波風ミナトの妻・うずまきクシナ。彼女は九尾の人柱力だった。

 九尾とは尾獣の一体である。尾獣はその名の通り尾を持っており、それぞれ一本から九本の尾を持つ九尾を含めて九体が存在している。

 そして尾獣を封印術により体内に封じられた者が人柱力と呼ばれる存在である。

 

 人柱力は忍の里にとって非常に重要かつ繊細な立ち場にある。

 強大なチャクラの塊である尾獣をその身に宿すのだ。その戦力は小国など容易く滅ぼす事が出来るだろう。

 それだけの力を誇る人柱力は里にとって重要な切り札となる。

 

 だが、尾獣という強大な力を宿すのだ。当然リスクは高かった。

 人柱力となった人間はその身に宿る尾獣により常に不安定で暴走の危険性を孕んでいるのだ。

 そしてそんな人外とも言える力を身に宿している人柱力は恐れられ遠ざけられる事が多い。

 里としても強大な戦力である人柱力は最重要機密の存在であるため、他里に見つからないように隔離や軟禁、幽閉をしている場合もある。

 

 国を左右する程の戦力である人柱力。その一人であるうずまきクシナは妊娠していた。もちろん赤子の父親は波風ミナトである。

 人柱力の妊娠、そして出産。これは非常に危うい可能性を孕んでいた。

 人柱力が出産を行う際、尾獣の封印式が弱まり封印が解ける可能性が高まるのだ。

 

 九尾の復活は里にとって危険極まりない事件である。

 そうはならないように封印術に長けた忍が護衛を務め、木ノ葉の里より離れた場所にて結界を張って慎重に出産が行われるようになった。

 

 そして出産最中、九尾が封印から抜け出そうともがく事があったが、出産自体は無事に成功した。

 

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

「元気な男の子ぞえ!!」

 

 出産に立ち合っていた三代目火影の妻・ビワコが産まれたての赤子を取り上げる。

 

「ハハ……! オレも今日から父親だ……!!」

 

 出産という女性にしか分からない偉業を傍で見守り、痛みに叫ぶ妻の声を聞き続け、そうして産まれてきた我が子にミナトが感動し涙を流す。

 

「ナルト……やっと会えた……」

 

 想像以上の痛みに、女として母として耐え抜き、ようやく出会えた愛しい我が子の名を呼んでクシナは喜びの声を上げる。

 

 だが、感動も喜びも二の次にしなければならない。こうしている間にも弱まった封印から九尾が抜け出そうとしているのだ。

 九尾を完全に押さえ込んで再び強固な封印術にて縛らなければならない。

 ミナトがそうしようとした矢先の事だった。

 

「ああああぁあぁぁぁぁぁあ!?」

「これは!?」

「いかん! 九尾が出てこようとしてるぞえ!」

 

 今まで以上の勢いで九尾が封印から抜け出ようとしていたのだ。それはミナトや監視役のビワコも予想外の出来事だった。

 それはまるで外から九尾を引っ張り出そうとしている力が働いている様だった。

 

「は、早く封印式を強化するのじゃ! このままではまずいぞえ!!」

「はい! クシナ、もう少し頑張ってくれ!」

 

 慌て、しかし冷静に忍達は対処する。

 だが全ては少しだけ、本当に少しだけ遅かった。

 

「!? 結界が破られた!」

 

 出産場所を守る為に仕掛けていた結界が破られた。それはつまり何者かがこの場に侵入して来た事を意味する。

 九尾が急激に封印を破ろうとしている事、そして何者かの襲撃。この二つが偶然な訳がない。

 

「何者だ!?」

 

 気配を察知したミナトが苦無を投げる。だが侵入者はその苦無をいとも容易く回避した。

 

「……」

 

 侵入者は全身をマントで、そして顔を面で隠した明らかに不審人物と言える容貌だった。

 声も発しない侵入者の狙いは九尾、すなわちクシナだろうと判断してミナトはクシナの前に立つ。

 

 だが、侵入者が最初に狙ったのは九尾を宿すクシナではなく……産まれたばかりの赤子・ナルトだった。

 

 ――火遁・豪火球の術!

 

 侵入者はナルトと、そしてナルトを抱き上げていたビワコに向けて強大な火遁の術を放った。

 九尾の封印式を強固にする為の邪魔になるのでナルトをビワコがクシナから遠ざけていたのがミナトにとって最大の不幸だった。

 ミナトがナルトを守る為にはどうしてもクシナから離れなければならない。だが、ミナトにとって産まれたばかりの我が子を見捨てる訳にもいかない。

 二者択一。ミナトが選んだのは……今何とかしないと死んでしまうナルトだった。

 

 ミナトは黄色い閃光との異名が付くほどの忍である。その名に恥じない速度でナルトへと近づき、そしてナルトを抱くビワコもろとも飛雷神の術を発動し、その場から消え去った。

 飛雷神の術とはチャクラを用いて付加したマーキングへと一瞬にして跳躍出来る時空間忍術である。

 あらかじめ用意していたマーキングへとミナトはナルトとビワコを連れて避難したのだ。

 

「くっ!」

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

「す、すまぬミナト! じゃが、このままではクシナが、九尾が!」

「分かっています!」

 

 ビワコの叫びにそう返しつつ、ミナトは焦りながらも冷静に思考していた。

 あの侵入者は何者なのか。あの豪火球の術は並の豪火球と比べて桁違いの威力と大きさだった。

 普通の忍が使う豪火球の術ならばミナトは容易く対処出来るだろう。だが、先の豪火球はその威力ゆえに飛雷神の術で回避する以外には対処しようがなかったのだ。

 咄嗟の判断を要されていたのも原因だった。あと少し、本当に一瞬とも言える間があれば豪火球を時空間結界にて別の場所に飛ばすという対処も出来たのだが……。

 とにかく、侵入者の狙いが九尾なのは確か。一刻も早くにクシナの元に行かねばならない。

 

「ビワコ様! ナルトをよろしくお願いします!」

「うむ! 任された!」

 

 ビワコにナルトを託し、ミナトは飛雷神の術で再びクシナの元へと瞬間移動する。

 クシナに施された九尾の封印式には飛雷神のマーキングが書き足されているのだ。これによりミナトはいつでもクシナの元へと移動する事が出来た。

 だが、全ては僅かに遅かった。

 

「クシナ!」

「う……ミナト……」

 

 クシナがナルトを産む為に用意された場所は木の葉の里から場所にある離れた大きな岩をくり抜いて作られていた。

 その岩場がすでに崩れ去っていた。そしてクシナは全身から鎖を出して、岩場の外に出ようとしている九尾を縛り付けていた。

 

「九尾が! ……危ないクシナ!」

 

 ミナトはクシナへと向かってくる豪火球の術を時空間結界にて別の場所に飛ばす。

 豪火球の術を放ったのは言うまでもない。全身を覆い隠した不気味な侵入者だ。

 一体何者なのか。ミナトがそう思っていた時、クシナがある情報を口にした。

 

「ミナト……早く……九尾が口寄せされようとしている」

「っ! それでか!」

 

 ミナトは出産を終えた時の急激な九尾の復活に得心がいった。九尾が口寄せされた為である。

 本来ならば口寄せの術で口寄せされたところで九尾が封印から抜け出る事はまずない。

 だが、出産時に封印が弱まっていれば話は別だ。それならば口寄せの術で強引に召喚出来なくはないだろう。しかしそれは一つのある事実を示していた。

 口寄せの術で召喚出来る生物は、その生物との契約を交わした術者以外には不可能なのだ。

 つまりこの侵入者は九尾と契約を交わしているという事である。そしてこれまでの情報を全て統合すると、ミナトの脳裏に一人の忍の名が浮かんできた。

 

「お前は……うちはマダラなのか?」

 

 桁の違う豪火球の術、出産時に九尾の封印が弱まる事を知っている、九尾を口寄せでき、木の葉の結界に引っかかる事なく出入りする事が出来る忍。

 そんなものはうちはマダラくらいだろうとミナトは見当したのだ。

 だが、うちはマダラは初代火影と戦い死亡したはず。そう思いミナトは考え直す。

 

「いや、そんなはずはない……彼は死んだ」

「……」

 

 それに対しても仮面の男は何も返さない。無言で攻撃をしようと印を組んで……しかしその動きが何故か止まってしまった。

 

「?」

 

 突如として動きを止めた男を不審に思うも、今が好機と判断してミナトは反撃に転じようとする。

 だが、男は音を立てて煙と共にその場から消え去って行った。

 

「これは! ……あの男、口寄せされていたのか?」

 

 男が消えた時の独特の消え方が時空間忍術の一つ口寄せの術で召喚された者が消える時と同じ現象だった事からミナトはそう見抜いた。

 それはつまりあの男には協力者か、男を裏で操る黒幕的存在がいるという事である。

 九尾を狙う不穏な影を危険に思うが、今はそれどころではなかった。

 

「うう!」

「クシナ!」

「グルルルルル!!」

 

 九尾がクシナの封印を無理矢理引き千切ろうとしているのだ。

 今はまだクシナの体から出ている鎖状の封印術が九尾を縛り付けているが、それも時間の問題だ。

 九尾を、尾獣を抜かれた人柱力は死んでしまうのだ。クシナが未だ存命なのはクシナがうずまき一族と呼ばれる生命力に溢れた一族の末裔だからだ。

 だがそれにも限界はある。クシナの命はまさに風前の灯火と言えた。そしてクシナが死ねば九尾は自由となり、封印されていた怒りと憎しみを周囲にばら撒くだろう。

 一番最初に狙われるのは……この場から最も近く大きな里、木ノ葉だろう。

 

「ミナト……ナルトは……?」

「無事だ! 今はビワコ様が守って下さっている! それより!」

「私なら、もう駄目よ……」

 

 クシナも自らの死を悟っていた。尾獣を抜かれて死なない人柱力はいないのだ。もう残された時間は僅かだろう。

 

「このまま私は……九尾を引きずりこんで……死ぬわ」

 

 そうすれば九尾の復活時期を延ばす事が出来る。そう言ってクシナはミナトやナルトを救う為に最後の力を振り絞ろうとする。

 人柱力がその身に尾獣を宿したまま死亡した場合、宿っていた尾獣は一旦チャクラへと分散し、そして再び元の尾獣の形に戻る。

 だが尾獣が元に戻るのには数年程の時間が出来るのだ。そうすれば九尾の脅威からは一時的に逃れられるだろう。

 

「今まで……色々とありがとう」

 

 クシナの、今生の別れの言葉にミナトの感情は激しく渦巻いた。

 

「クシナ、君がオレを……四代目火影にしてくれた! 君の男にしてくれた! ナルトの父親にしてくれた! それなのに……!」

 

 守る事が出来なかった。今もなお死を以って自らと子どもを守ろうとしてくれる愛しい女性を、守る事が出来なかった。それがミナトを(さいな)める。

 

 だがクシナはそんなミナトを慰めた。

 こんな状況でも、ミナトに愛されて嬉しいと、愛する我が子が産まれて嬉しいと、もし生きて家族三人で暮らしている未来を想像したら幸せだと、そう言って今を肯定したのだ。

 心残りがあるとしたら、大きくなったナルトを見てみたかった。クシナのその言葉を聞いて、ミナトは決意した。

 

「クシナ……君が九尾と一緒に心中する必要はないよ。その残り少ないチャクラはナルトとの再会の為に使うんだ……!」

「え? ……どういうこと?」

 

 ミナトはクシナを九尾ごと連れて飛雷神の術で移動する。行き先は……ナルトのいる場所だ。

 正確には最初にナルトとビワコを避難させた場所だ。当然そこには飛雷神のマーキングがしてある。

 そうして辿り付いた場所ではビワコがナルトを抱きかかえてあやしていた。

 

「おぬし達! 九尾! 封印は解けたのかえ!!」

 

 突如として現れたミナトとクシナ、そして何より九尾にビワコは驚愕する。それによりビワコにあやされて泣き止んでいたナルトも再び大声で泣き出した。

 

「ビワコ様、ナルトをこちらに」

「どうするつもりじゃ?」

「九尾をナルトの中に封印します」

『!?』

 

 ミナトの言葉はクシナにもビワコにも信じがたいものだった。

 九尾の持つチャクラ、力は膨大の一言に尽きる。それは人柱力に九尾を押さえ込める特別な力を有するうずまき一族の人間を選ぶ事からも伺えるだろう。

 並の人柱力では九尾を封印する事など出来るはずがない。それだけの力を九尾は有していた。九尾一体で他の尾獣の数体分の力を持っているかもしれない程だ。  

 そんな九尾を産まれたばかりの赤子に封印すればどうなるか……。封印は遠からず破壊され、確実に九尾が復活する。そしてその時人柱力であったナルトは……言うまでもないだろう。

 

「そんな事をしたらナルトが!」

「大丈夫だ。九尾のチャクラを陰と陽に分けて、陽のチャクラだけをナルトに封印する。八卦封印でね」

「……確かに、それならばまだ可能じゃ。この際……致し方あるまいえ」

「ビワコ様まで!」

 

 ミナトの案にビワコは賛同する。それにクシナは納得が行かないが、ビワコの考えは木ノ葉の里を思えば当然の帰結なのだ。

 尾獣は忍の里の軍事バランスとなっている。各里にはそれぞれ尾獣とその人柱力が存在し、それが牽制しあって戦争や政治的なバランスを保っている。

 だが、九尾ほどの尾獣が木の葉から無くなってしまえばどうなるか。木ノ葉が弱体化したと考え、多くの他里が木ノ葉に戦争を仕掛けて来るやもしれなかった。

 しかも数年たって九尾が復活した場合、どこでどの様な被害が出るか計り知れない上、他里に九尾を奪われるとより厄介な結果となるだろう。

 ミナトは火影として、里を守る長としてそれを認める訳にはいかなかったのだ。

 

「大体、どうやって九尾のチャクラを半分に……!」

 

 どうやって九尾をチャクラを陰と陽に分けるのか。

 ミナトのその答えは、クシナにとってもナルトにとっても残酷なものだった。

 

「屍鬼封尽を使う」

「……! でも……あの術は術者が!」

「それはならんぞえミナト! 火影が里からいなくなっては里が……!」

 

 クシナとビワコが動揺する程の術・屍鬼封尽。それは術の効力と引き換えに術者の魂を死神に引き渡す、命を代償とする封印術である。

 術の発動と同時に術者と封印の対象にしか見えない死神が現れ、術者と対象の魂を喰らう。

 そして死神に喰われた魂は死神の腹の中で互いに絡み合い憎み合い永遠に闘い続け、未来永劫苦しみ続けるのだ。

 命を代償とし、死後すら地獄もかくやという苦しみを味わわされるだけに、この封印術は非常に強力だった。そう、九尾のチャクラを陰陽で分ける事が出来るくらいに。

 

「ビワコ様、申し訳有りませんがそれ以外に方法はありません。木ノ葉は……しばらく三代目に任せます。火影を引退したばかりで引っ張り出して悪いですけど……」

「……そうか。ふん、ヒルゼンならアチシが尻を引っぱたいてでも働かせてやるえ。心配はするなえ」

「ありがとうございます」

 

 ミナトとビワコが今後について話し終わるが、まだ納得がいかない者がいた。そう、ナルトに九尾を封印するという事に、ミナトが屍鬼封尽をするという事に納得のいかない者が。

 

「なんで……! なんでナルトに……! どうしてミナトが……!」

「君の言いたい事は分かる。でも――」

 

 ミナトは言う。かつてミナトの師から聞いた世界の変革の予言。そしてそれに伴って起きる災い。

 今回の襲撃者とその裏にいる存在は、必ず災いをもたらすとミナトは確信していた。

 そして、それを止める事が出来るのはナルトだと。ナルトが人柱力として未来を切り拓いてくれると何故か確信したのだ。

 

「この子を信じよう。何たってオレ達の息子なんだから!!」

 

 そう言って、ミナトは屍鬼封尽の術を発動した。

 

 そして、いくつかミナトとクシナは会話を交わし、ビワコにナルトを託した。そして九尾は両親の想いと共にナルトに封印された。

 

 

 

 

 

 

(九尾のチャクラが消えた……!)

 

 アカネは九尾のチャクラが消失したのを感じ取る。

 アカネの感知能力は全ての忍の中でもトップクラスだ。それ故に九尾が復活した瞬間に、木ノ葉の忍の誰よりも早くにそれを察知した。

 だが、それだけだ。察知しただけ、それ以上の事は何も出来なかった。

 当然だ。アカネがいかに転生者であり、前世の能力を引き継ぎ、優秀であろうとも、いまだ一歳の幼子なのだ。

 そのような歳でまともな力を発揮出来るわけがない。せめてあと三年も経っていればと歯噛みをしていたが、九尾は里の者に託す以外になかった。

 

 そうして焦燥していたが、九尾のチャクラは数分足らずで消失した。封印に成功したのだろうかと気になるが、今それを知る(すべ)はアカネにはない。

 今はただ情報が入るのを待つしかなかった。

 

 

 

 九尾復活の情報はアカネには一切入ってこなかった。父親も母親も、それらしい事は言わずに何事もなく生活をしている。

 九尾が復活して暴れていれば甚大な被害が出ているだろうが、その気配も微塵も感じられない。やはり九尾は再び封印されたのだろう。

 そして代わりに入ってきた情報が、四代目火影ミナトとその妻クシナの死去であった。

 

(……ミナトとクシナが逝ったのか)

 

 ミナトはアカネが知る限りでも優秀と言える忍だった。才能だけでなく、思慮深く里を想う良き忍だった。だからこそ火影となれたのだろう。

 そしてクシナ。彼女は里の問題児だった。幼少期は特徴的な見た目によって馬鹿にされており、その馬鹿にした男子を返り討ちにしたという曰く付きだ。赤い血潮のハバネロという異名まで付いたくらいだ。

 だが、良い子だったとアカネは思っている。そうでなくてはミナトが見初めるわけがない。

 そんな二人が亡くなってしまった。悲しくあるが、アカネは九尾の復活が原因である事はまず間違いないと考える。

 九尾の人柱力であったクシナは九尾の封印が解けた為に死んだのだろう。そしてミナトは九尾から里を守る為に死んだのか。その辺りはアカネには詳しくは分からなかったが。

 

 次にアカネが考えるのが何故九尾の封印が解けたのか、である。

 

(……出産か?)

 

 九尾の封印式は非常に強固だ。その封印を解いて人柱力から九尾を抜き出すには万全の準備が必要だし、そして時間が掛かる。

 だが、アカネが知る限り一度だけ九尾の封印が破られそうになった事がある。それが九尾の前人柱力・うずまきミトの出産である。

 その時は危うくも封印が破られる事はなかったが、今回はそうならなかった。ヒヨリの中ではそう予想された。

 

(となると、二人の子どもは……)

 

 ミナトとクシナ以外に亡くなった人の話はアカネも耳にしない。つまり死んでいないのか、そもそも生まれなかったのか、それとも……その存在を隠されているかだ。

 もし存在を隠しているのだとして、四代目火影の子どもを隠す理由。それはその子どもが非常に重要な立場にあるという事だ。他里はおろか、木ノ葉の者――もしかしたら大人は皆知っているかもしれないが――にも隠すほどの理由。

 

(……人柱力か?)

 

 アカネの行き付いた結論がそれだ。だがその結論はすぐに霧散した。

 何故ならいくらうずまき一族の血を引くとはいえ、赤子では九尾のチャクラを抑えきれないと考えたからだ。

 

 それからも色々と推察してみるが、所詮推察は推察だ。見てもいないのに全てを理解する事は出来ない。

 今はまだこの状況を甘んじるしかないだろう。だが、いつまでもそれでは駄目かとアカネは思う。

 

(全く。転生しても忍はゆっくり出来ないな。前世では立場上のしがらみがあった分色々と遊ぼうと思っていたのに)

 

 九尾の復活。それに伴う火影の死。これが出産の不手際であるとはアカネも思ってはいない。

 あのミナトや三代目火影である猿飛ヒルゼンがいるのだ。そんな不手際を起こす様な下手な真似はしないだろう。

 ならば第三者の存在が介入したはずだ。木の葉の結界を超えて、厳重な警護を敷かれていたであろう出産場所を襲い、火影を出し抜いて九尾の封印を解く。

 並大抵の忍では不可能な所業だ。つまり大物が関与しているわけだ。それは木ノ葉を揺るがす大きな災いとなる可能性もあった。

 

(木ノ葉は私と柱間と、そしてマダラの夢の里。そして私の子の様な存在でもある。それに仇なすならば……!)

 

 アカネの前世、ヒヨリに子どもはいない。そもそも結婚自体をしていなかった。

 それはかつての兄との契約による結果だったが、アカネはそれを後悔はしていない。

 代わりに木ノ葉の里という大きく素晴らしい子を作る事が出来たからだ。そしてその里に住む者達も皆ヒヨリが、アカネが守りたいと願う者達だ。

 

 ならばそれを害する事を許すわけにはいかない。いかなる難敵であろうとも木の葉を守る為ならば立ち向かう所存だった。

 

 その為にはいずれ日向の当主と長老に自分の正体を告げる必要があるだろう。

 今のままでは年齢と分家という立場が足かせとなり、自由に動く事が出来なくなるだろう。

 その上ヒヨリである事を教えるのが遅くなれば遅くなるほど信用されにくくなる。幼い内に教えた方が信憑性が増すのだ。

 成長すれば出来て当然でも、幼少時ではまず不可能という事は多くある。それらを幼い内に見せつけ、更にチャクラ性質の色を見せればヒヨリを良く知る長老は納得するだろう。

 そして現当主である日向ヒアシ。彼ももちろんヒヨリと面識がある。というかヒアシの祖父がヒヨリの兄なのだ。面識があって当然である。

 ……ちなみにヒヨリが兄から当主の座を譲ってもらう為に交わした契約は、子孫を残さぬ事と、兄の子が次期当主となる事の二つである。

 

(ヒアシと長老への報告は私に呪印を刻む時がいいか。確か三~五歳くらいになったら刻まれるはず。そのくらいの年齢なら今よりも多少の力は発揮出来るだろうし)

 

 呪印を刻むとあるが、日向の分家の生まれは必ず額に【籠の中の鳥】を意味する呪印を刻まれる掟となっている。

 この呪印は日向宗家と、そして白眼を守る為に作られたシステムだった。

 白眼は三大瞳術の一つに数えられ、忍にとって非常に有用な能力である。それ故に白眼を有する日向一族は繁栄していたのだ。

 だからこそ、白眼は他の忍から狙われていた。白眼を奪い取り別の忍に移植すれば、例え日向一族の忍でなくても白眼の能力を得る事が出来るのだ。

 

 それを防ぐ為に作られたのが呪印である。呪印を刻まれた分家の忍が死す時、呪印はその者の白眼の能力を封印して消えてなくなるのだ。

 それだけではない。宗家の者が秘印を結ぶと呪印は効果を発揮し、分家の者の脳神経を簡単に破壊する事が出来る。これは分家が宗家を裏切る事がない様に仕組まれた物だ。

 もっとも、白眼を守るという意味でなら呪印も認めていたが、宗家が分家の命を物理的な意味で握っているこの効果はアカネは好きではなかった。

 もちろん好き嫌いで判断し、私情を持って動く事は忍としても日向の長としても失格であると理解していたが。

 

 ちなみに四~五歳で多少は力を発揮出来るとアカネは考えているが、それは何もおかしな事ではなかった。

 この世界では優秀な者は齢六歳くらいで忍者アカデミーを卒業し、下忍として働きだす事もままあるのだ。まあ戦時下や里の戦力補強が急務である時のみの話だが。

 ヒヨリであれば四~五歳くらいで上忍並の力は発揮出来るだろう。

 

(ま、呪印を刻むと言っても、私には呪印とか効果ないんですけどねー)

 

 そう、アカネに呪印は効果を及ぼさない。それは日向一族に伝わる秘術ではなくアカネだけの特異体質だった。正確にはアカネの二度目の人生で作り出したある能力が作用した結果だが。

 その能力により、アカネは呪印や幻術といった能力が無効化されるのだ。もっとも無効化には術の効果に見合ったチャクラが消費される為、無尽蔵に無効化出来るわけではなかったが。

 まあ無尽蔵と言ってもおかしくないチャクラ量を有しているので、この世の大抵の呪印、幻術、封印術、その他陰遁等の術の大半は無効化出来るのだが。

 つまりアカネを倒すには物理的なダメージを与えるしかないのであった。幻術使いは涙目である。

 

 気になるのは呪印が刻めない事が問題となるかもしれない事だ。

 前世がどうあれ今のアカネは日向の分家の生まれだ。宗家を敬う立場の分家に呪印が刻めないとなったら色々と体面が悪いだろう。

 

(うーむ。まあヒアシや長老に考えさせるか)

 

 ヒヨリ時代と相変わらずの丸投げであった。果たして彼女は成長をしていると言えるのだろうか。

 まあかれこれ千年以上は生きているので、逆に言えばこれ以上精神的には成長しないのかもしれない。

 百に満たない人生でアカネ以上に精神的に成長している人間もいる事を考えると情けない限りである。悲しいが、これが彼女の人間としての器の限界なのだろう。

 下手に長く生きすぎてあまりに強い力を手に入れてしまっているので大抵の困難が力づくで切り抜けられるのが原因の一つかもしれない。強いというのも考え物だった。

 

 




 日向は木ノ葉にて最強をやりたいのだ。なので日向のままなのです。ヒアシコラを真実にする時が来たのだ!







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