どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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NARUTO 第四十二話

 アシュラの転生体として目覚め、六道仙術を会得したナルト。

 インドラの転生体として目覚め、輪廻写輪眼を開眼したサスケ。

 二人は六道仙人から託された想いを叶える為に、再び現実世界へと戻って来た。

 そして天から降り注ぐ巨石を目の当たりにし、新たな力にてその全てを破壊する。その力は以前のそれとは比べ物にならない程に高まっており、アカネをして驚愕する程であった。

 

「なんとまあ……。一体何があったんですか二人とも? 桁違いにパワーアップしてるみたいですけど」

「ちょっと色々あってな。なーに、後はオレ達に任せておけってばよ」

「そういう事だ。お前はもう休んでいていいぞ。残りはオレとナルトで片を付ける」

 

 互いの力と使命を果たすべく、ナルトとサスケはアカネを休ませて己達の力で全てを終わらせようとする。

 だが、その二人に反対したのはアカネではなかった。

 

「ちょっと待って。私も第七班の一員なのよ。忘れてもらっちゃ困るわ」

 

 そこに現れたのはサクラだ。サスケの治療に体力とチャクラを大きく消耗したが、それでも第七班として二人に置いてけぼりにされるつもりはなかった。

 百豪の術を最大限に活性化させ、イズナの眼力に怯まぬ胆力を見せ付ける。

 

「オレも参加させてもらう。次期火影として、仲間を守るのは当然の役目だからな」

 

 両目の写輪眼を取り戻したオビトもまた最後の戦いに参戦する。

 左の神威による絶対攻撃と、右の神威による絶対防御。その上両目の万華鏡を得た事により須佐能乎にも目覚めたオビトだ。その戦力はナルト達にも引けを取らないだろう。

 

「やれやれ。年寄り扱いされる年齢じゃありませんよ。まだまだ戦えますって」

 

 ナルト、サスケ、サクラ、オビト。そして未だ健在のアカネ。

 無限月読が世界を支配する中にあって、彼らはまだ絶望していない。それがイズナには理解出来ない。例え自分を倒したとしても、無限月読を解除する事は不可能――

 

「なに!? 貴様、その左目は!」

 

 無限月読を解除する事は不可能。そう考えていたイズナの目に、サスケの左目の紋様が映る。

 そこにあるのは確かに輪廻眼の紋様だった。しかも写輪眼の勾玉紋様すら入っているという、輪廻写輪眼に開眼しているのだ。

 

「サスケ、あなた輪廻眼を開眼したのですか!?」

「ああ。これなら無限月読も解除出来るはずだ」

 

 その言葉にアカネは希望を見出し、そしてイズナはその事実に歯噛みした。

 サスケを殺さなければ無限月読が解除される。それだけは許す訳にはいかない。ようやく実現した平和な世界なのだ。ここまで来て崩されてたまるか。

 イズナはサスケを確実に殺すべく、全ての輪墓イズナを差し向ける。だが――

 

「サスケ! 何かくんぞ!」

「何か? お前には見えないのか? オレにははっきりと見えるぞ」

 

 輪廻眼を有するサスケに輪墓による奇襲は奇襲足りえず、そして六道仙術を会得したナルトは輪墓イズナを見えずとも感知する事を可能としていた。

 それだけではない。六道仙術ならば、輪墓の世界にいる分身を攻撃する事も可能だったのだ。

 サスケに迫る四体のイズナの内一体を、ナルトは六道の黒い棒にて叩き付ける。

 

「ここか!」

 

 その一撃は防がれてしまうが、それでも輪墓イズナにダメージを与える事に成功した。

 サスケは口寄せした刀を輪墓イズナに投げつけ止めを刺そうとするが、それはすり抜ける事で無効化されてしまう。

 

「サスケ。その分身に通常の攻撃は通用しない……はずなんですが、ナルトの攻撃は当たっているようですね。あなたも輪廻眼を開眼してるし、この短時間であなた達に何があったんですか?」

「説明すると長くなる」

「じゃあ、後でいいですよ。イズナを倒した後で」

 

 アカネはそう言って、イズナに向かって直進する。一人の敵を相手にこれだけの強者で襲い掛かるのは好みではないが、世界の命運が懸かっているならば仕方ないと割り切る冷静さはアカネにもあった。

 

「そっちに一体行ったぞアカネ!」

 

 アカネを足止めする為に向かわせた輪墓イズナを見たサスケがアカネに対して忠告する。

 それを聞いたアカネは距離感がつかめない最初の一撃だけは避ける事が出来ず、攻撃を受けてから身体を捻りダメージを抑える。

 そしてその後の攻撃は全て予測し、回避しながらイズナへと向かって行った。

 

「……見えてるのか?」

「経験と予測と勘ですよ」

「……そうか」

 

 アカネの非常識さを深く考えては負けだと悟っているサスケはそれ以上何も言わず、自分を殺す為に迫るイズナ本体に視線を向ける。

 

「貴様さえ死ねば!」

 

 輪廻眼を持つサスケさえ殺せば、そうすれば例え自分が死した所で無限月読は解除されない。自身の生死よりも勝利条件を満たす事を優先し、イズナはサスケを狙う。

 それに対してサスケは六道の陰のチャクラを籠めた黒い千鳥を作り出し、その千鳥を槍状に変化させて、離れた位置に転がっている石に向けて投擲した。

 瞬間、石があった空間にイズナが突如として現れ、千鳥がまともに命中し、その肉体を貫き穿つ事になる。そしてイズナが先程までいた空間に石が出現し、万有引力に従い大地へと転がった。

 

「なに!?」

 

 自身の位置が一瞬で入れ替わった事にイズナは気付き、そしてその効果も理解した。

 サスケが視認した一定範囲の空間にある存在や物体の、任意の空間座標を入れ替える。それがサスケの輪廻眼の瞳術、天手力(アメノテジカラ)である。

 サスケは天手力によって石とイズナの空間を入れ替え、石に向けて放っていた千鳥をイズナに命中させたのである。

 

「はぁぁ!」

 

 六道千鳥が命中したイズナに対し、百豪の術にて溜め込んだチャクラを解放したサクラが追撃を加えようとする。

 

「調子に乗るなよ塵芥め!」

 

 サクラを警戒に値しないと判断したイズナは、追撃を加えようとするサクラに対し虫を払うかのように錫杖を叩きつけようとする。

 だが、錫杖がサクラに触れる瞬間に、サクラはオビトの神威によって安全な神威空間へと移動していた。

 

――早い!――

 

 今までよりも遥かに早い神威の発動速度にイズナが舌を巻く。両目の写輪眼が揃った事により、神威自体の性能も大きく増したのだ。

 そして両目の万華鏡写輪眼が揃った事で、オビトは須佐能乎の力にも目覚めていた。

 

「行くぞ!」

 

 須佐能乎を発動したままにオビトはイズナに向けて突き進んでいく。それを輪墓イズナの一体が止めようとするが、その攻撃は神威の絶対防御によって意味を成さなかった。

 

「おのれ……! ある意味貴様がもっとも厄介だな!」

 

 オビトに宿る瞳力に幾度となく煮え湯を飲まされたイズナだ。その厄介さも理解していた。

 

――神威須佐能乎!――

 

 オビトは須佐能乎の剣に神威の力を籠め、それをイズナに向けて振るう。剣に触れた物体は全てが神威空間へと飛ばされる、防御不能の絶対攻撃だ。

 だが、仙術ではないその攻撃では六道イズナには通じない。それは神威だろうと変わりはなかった。オビトが仙術を扱えれば話は別だっただろうが。

 

「なら直接叩くだけだ!」

 

 術が通用しないなら体術で攻撃すればいい。それは当然の判断だが、オビトが自らの体術を披露する事はなかった。

 イズナの後ろの空間に神威を発動させ、そこから神威空間に送っていたサクラを呼び戻し、サクラに攻撃させたのだ。

 一撃の重さではサクラの方が圧倒的に上であり、そして奇襲を仕掛ける事も出来る連携攻撃だ。

 

「何度もその手が通じるか!」

 

 だが、流石にイズナも神威による奇襲は読んでいた。

 そして現れたサクラに向けて錫杖を突き刺そうとし――その錫杖はナルトの求道玉によって防がれてしまう。

 

「!?」

「しゃーんなろー!!」

 

 サクラは全力でイズナを殴り付ける。その一撃は、十尾の人柱力となり強靭な肉体を得たイズナに対しても、確かなダメージを与えていた。

 

「くっ!」

 

 吹き飛ばされつつも、イズナは空中で姿勢を制御し体勢を整える。

 そして眼下に映る光景を見た。そこでは自分の分身である輪墓イズナの内、二体がナルトの六道仙術によって動きを封じられていた。

 もう一体はアカネの足止めをしている。と言ってもアカネは余裕の表情で見えざる攻撃を当たり前の様に回避し、弟子たちの戦いぶりを観察していたが。

 残る一体は自分と同化させており、いざという時に身代わりにして致命的な攻撃を避ける予定だ。

 

 だが、ここに至って勝ち目が非常に低くなった事をイズナは悟った。

 封印された輪墓イズナは輪墓の効果時間が切れたとしても、元に戻る事はないとイズナは直感した。

 つまりあの封印を解かない限り、イズナの呼び出せる分身は二体が限度となる。その数で、輪墓を視認出来るサスケ、輪墓を感じ取り攻撃と封印をする事が出来るナルト、そして見えずとも輪墓の攻撃を回避するアカネ、輪墓ですらダメージを受けないオビト。この四人を相手に戦って勝てるとは、流石のイズナも思えなかった。

 

 そして輪墓の効果時間が切れ、アカネを攻撃していた輪墓イズナも本体と同化する。

 それとほぼ同時にアカネの動きも止まる。輪墓の効果時間すら完全に把握している様子に苛立ちと恐怖をイズナは抱く。

 

 ここに至っては逃げるのも選択の内か。六道の力を手に入れた今、やろうと思えば無限月読は月さえあれば可能となった。

 この世で無限月読を解除出来るのは自分を除きサスケのみ。今は無理だが、いずれサスケを殺す事が出来ればそれで問題はなくなる。大国主の力があれば暗殺も容易だろう。

 そう思い立ったイズナはここは逃走の一手を取ると苦渋の決断をし、大国主の力を発動する為に大地に降り立とうとし――

 

「がっ!?」

 

 顎に大きな衝撃を受けて上空へと吹き飛んだ。

 

「逃がしませんよ。あなたのあの瞬間移動、大地に触れていなければ使用出来ないのでしょう?」

 

――そこまで見抜くか!――

 

 何度も同じ術を使えばカラクリを見抜かれて当然だ。

 大国主の発動条件を見抜いたアカネは、天使のヴェールで不可視となったチャクラをぶつけ、イズナを大地に触れさせない様にしたのだ。

 

「アカネ。あいつを地面に降ろさないようにすればいいんだな?」

「ええ。そのサポートは私がしましょう。あなた達は全力で戦いなさい」

「よっしゃ! いくぜサスケ!」

「行く必要はない。オレに向かって術を打て。動きを封じる術がいい」

 

 サスケの策に従い、ナルトは己の中にある尾獣の内、封印術を得意とする一尾(守鶴)の力を借りた術を発動させる。

 サスケもまた六道の力による黒い千鳥を発動させ、そして天手力を使用した。

 

 ナルトがサスケに、そしてサスケがナルトに向けて同時に術を放つ。その間の空間に天手力で空間ごと転移させられたイズナが現れ、両方の術を同時に受ける。

 イズナはその攻撃を保険としていた輪墓イズナを身代わりとする事で回避し、そしてどうにか大地に触れようと足掻く。

 だが、それはことごとくアカネによって遮られた。見えざるチャクラの攻撃は、イズナにはどうしようもなかったのだ。いや、餓鬼道にてどうにか吸収しようとはしたのだが、アカネはそれすら見抜き、見えざるチャクラを放出して衝撃波を作り、それをイズナに叩き付けていた。それでは然しもの餓鬼道でも吸収する事は出来なかった。

 

 大国主を封じられたイズナはアカネの攻撃を逆に利用し、そのまま空中へ逃れようとする。

 そこに神威から現れたサクラとオビトが先回りしていた。二人では決定打に欠けるが、僅かな時間が稼げればそれでいい。その時間でナルトとサスケがイズナの元に辿り着き、そして攻撃を加えていく。

 

 単純な戦闘力ではイズナが最も高いだろう。一対一ならば、ナルトもサスケもイズナに勝てはしない。

 だが、小隊を組んで連携を取る事で、その力の差を逆転させているのだ。イズナはアカネのみを敵と見ていた。アカネ以外の存在を有象無象としか見ていなかった。だからこそ、イズナはこうしてナルト達に追い詰められていた。

 

 そうして、イズナを追い詰めるナルト達を見てアカネは微笑む。

 

――ああ、今の彼らには私も勝てないかもな――

 

 そこには弟子の成長を喜ぶ師としてのアカネと、新たな好敵手の誕生を喜ぶ武人としてのアカネがあった。

 

 

 

 もはやイズナに勝ち目はなかった。まだ余力は多く残っている。だが、イズナ一人ではナルト達の連携に対処する事は出来なくなっていたのだ。

 六道仙術を得たナルト。輪廻眼に目覚めたサスケ。その二人を攻撃力と回復力に秀でたサクラと、神威という凄まじい性能を誇る瞳術を持つオビトがサポートする。

 大国主で逃げようにも、それはアカネによって妨げられる。輪墓イズナも封じられ、六道イズナの全力もナルトとサスケのコンビを相手に決定打足りえない。

 

「お、おのれ……!」

 

 手詰まりだ。それがイズナにも理解出来てしまった。

 空中にて怒りと焦燥に駆られ、ナルト達を憎々しげに睨みつけるイズナ。だが、それで戦況が良くなる訳ではない。

 

 どうにかして逃げなければならない。その為の手段を講じなければならない。ここで死ねば今までの全てが無意味と化す。それだけは、兄を犠牲にしてまで進めた計画を今更無駄にする訳にはいかない。

 イズナは大国主を発動する為に、地爆天星にて大地を強引に隆起させる。大地に降りようとすれば邪魔が入るなら、大地の方を引っ張り上げる。大地から岩が離れないよう、それでいて地殻を変動させるほどの出力を調整し、無理矢理に大国主を発動させようとしたのだ。

 

 当然それを許すアカネではなく、イズナが隆起した大地に触れる前にイズナを攻撃しようとして――

 

「な――」

『!?』

 

 それよりも僅かに早く、大地から突如として出現した黒ゼツによって、イズナの胸が貫かれた。

 

 

 

 

 

 

 黒ゼツによって胸を貫かれたイズナは、謎の力によって動く事も出来ずにただ困惑していた。

 

「き、貴様……何故造物主であるオレに逆らう……!」

「造物主? 違ウナ。オレノ造物主ハ、オレノ母ハカグヤ(・・・)ダ」

『!?』

 

 突然の出来事と黒ゼツの言葉に誰もが混乱する。

 カグヤ。それはハゴロモがナルトとサスケに語った話の中での登場人物。遥か過去の存在だ。

 それがどうして黒ゼツの母となるのか。一体黒ゼツは何をしようとしているのか。

 疑問に思うアカネ達を見ながら、黒ゼツは笑みを浮かべながら話を続ける。

 

「輪廻眼ヲ四ツモ手ニ入レタ存在ハイズナガ初メテダ。母復活ニ下手ナ抵抗ヲサレル可能性ハ少シデモ減ラシタカッタトコロダ。オ前達ガイズナヲ消耗サセテクレタノハ好都合ダッタ」

「母復活?」

「カグヤ……まさか!?」

「グオオオ!!」

 

 黒ゼツの言葉とハゴロモとの会話から、ナルトは恐るべき可能性を頭に浮かべる。

 そして、その恐るべき可能性はイズナの絶叫と共に具現化していった。

 

 地中から膨大なチャクラが溢れ出す。無限月読に囚われ、神樹によって縛られている人々からチャクラを抽出し、吸収しているのだ。

 チャクラの吸収と共にイズナの身体が変化していく。膨大なチャクラの吸収に肉体が耐え切れず、膨張を始めたのだ。

 

「ナルト!」

「ああ! こいつが動き出す前に止める!」

 

 黒ゼツの企みを成就させてはならない。そして何より、このままではチャクラを吸収されている人々の命に関わるだろう。

 それを防ぐ為にナルトとサスケはイズナ――いや、イズナだったモノを封印しようとする。

 だが、それは黒ゼツにとっては好都合な行動だった。膨張を続けるイズナだったモノから、膨大な髪の毛の束が伸び、一瞬にしてナルトとサスケを捕らえてしまったのだ。

 そして二人からチャクラを吸収し始める。このままでは自分達も、そして人々も死んでしまう。そう焦る二人に対し、黒ゼツは無限月読に囚われている者達に命の別状はない事を告げる。

 

 だが、それは人間として無事という意味ではなかった。

 無限月読。それはイズナが信じたように、人々に永遠の安寧をもたらす術ではない。その本来の用途は、カグヤの兵を生産する為のものであった。

 無限月読に囚われた人々は、いずれその肉体を変化させてカグヤの従順な兵士と化す。その成れの果てが、白ゼツなのだった。

 

「オビト!」

「分かってる!」

 

 オビトが神威須佐能乎にてナルトとサスケを捕らえる髪の毛を切り裂こうとする。

 アカネが仙術チャクラを取り込ませる事で十尾の人柱力にも通用する様にした神威須佐能乎は、その髪の毛を確実に切り裂いた。

 解放されたナルトとサスケは即座にその場を離れ、そしてイズナの変化を見届ける。

 

 イズナだったモノは更に膨張を続け、そして一定の大きさから急速に縮小し始めた。

 そして、一つの存在が現れた。十尾を取り込んだイズナに、無限月読で囚われた人々からチャクラを吸収する事で封印から目覚めた者。

 額に二本の角、その中央に輪廻写輪眼を、両目には白眼を有する女神。それこそが、かつてハゴロモによって封印された大筒木カグヤだった。

 

 大筒木カグヤ。その正体は異空間からこの星に渡ってきた異邦人だ。

 カグヤはかつて神樹――十尾の正体――を追い、この地へとやってきた。そして神樹になったチャクラの実を喰らい、圧倒的な力を手に入れたのだ。

 いや、チャクラの実を喰らう前から、カグヤは恐るべき力を有していた。だが、カグヤはその力を慈愛と平和の為に使っていた。この地を治めていた時、民からは女神と崇められてすらいた。

 それが神樹の実を喰らった事で変わってしまった。カグヤの性格は徐々に変化し、そしていつしか多くの民から恐れられる様になったのだ。

 

 そして愛していた二人の息子も離反し、カグヤは全てのチャクラを己に取り戻す為に二人の息子と争った。そして、ハゴロモによって封印されたのである。

 だが、カグヤは封印される前に最後の足掻きとして黒ゼツを生み出していた。第三の息子と言うべき黒ゼツは、母復活の為に動き始めた。

 その為に黒ゼツはハゴロモが残した石碑を改竄する。それにより、うちは一族は石碑に記された言葉を間違った意味で捉えてしまい、その傲慢と暴走の一助としてしまったのである。

 

 ハゴロモの子どもであるインドラがアシュラと争った裏にも黒ゼツの影があった。黒ゼツはそうして長き年月を掛けて、カグヤが復活する土壌を整えていたのだ。

 その中で、黒ゼツはマダラという最高の素材を見つけた。マダラならばいずれ輪廻眼に開眼し、カグヤ復活の計画を進める事が出来ると期待したのだ。

 だが、その期待は裏切られた。事もあろうに、インドラの転生体であるマダラは、アシュラの転生体である柱間と友となったのだ。それも、インドラとアシュラの因縁による憎しみすら超える程の友に。

 その功績が日向ヒヨリにあったのは言うまでもない。だからこそ、黒ゼツはイズナ以上に日向ヒヨリを憎々しく思っていた。

 

 マダラと柱間は互いに裏切る事のない無二の親友となった。だが、それでも黒ゼツは諦めなかった。彼にとってカグヤ復活は、例え何千、何万年経とうとも成し遂げなければならない悲願なのだ。

 そして黒ゼツは、マダラを罠に嵌めるべく動き出した。そう、イズナに狙いを付けたのである。永遠の万華鏡写輪眼の情報を気付かれぬ様にイズナに与え、そして千手一族や木ノ葉隠れに対する憎しみを煽っていく。

 イズナは黒ゼツの予想通りに、いや予想以上に踊ってくれた。別天神に目覚め、マダラを操り、柱間の細胞を手に入れてマダラが輪廻眼を開眼する条件を整えるばかりか、自らが輪廻眼に開眼する。黒ゼツにとっては大金星と言える活躍だ。

 流石にマダラの輪廻眼すら移植したのは少々予想外だったが、それでもこうしてカグヤ復活に至った今では些細な事だった。

 こうして、千年に渡り忍界の裏で暗躍した黒ゼツにより、大筒木カグヤが復活を果たしたのだ。

 

「……」

 

 カグヤは白眼を発動させ、その視線をナルトとサスケに向ける。

 そして二人のチャクラからインドラとアシュラの転生体である事を見抜き、そして陰と陽のチャクラからハゴロモが術を渡した事も見抜いた。

 

「……」

 

 次にカグヤはアカネにその視線を向けた。そして徐々にその表情を険しくしていく。

 

 アカネもまた、白眼にてカグヤを見る。そしてその圧倒的な力を見抜く。今のカグヤは六道イズナすら超えるチャクラを有しているのだ。もはやアカネですら比較にならない程のチャクラ量である。

 切り札を切ってなお、勝ち目は薄い。だが、なくはない。それに、ナルト達がいれば可能性は劇的に上昇する。そう考えるアカネに対し、カグヤは口を開いた。

 

「貴様は危険だ。そのチャクラ、ワラワの系譜ではない。だというのに、それだけの力……」

「なに?」

「どういうことだってばよ?」

 

 カグヤの系譜ではないチャクラ。その意味はナルト達には理解出来ない。

 元々この世界の人々はチャクラという力を有してはいなかった。いや、生物である以上なくはないのだが、一般人と同じくチャクラを操る術を有していなかったのだ。

 この世界に忍と呼ばれるチャクラを操る存在が現れたのは、チャクラの化身とも言えるカグヤから世界中に広がったからだ。カグヤの血を引く二人の息子からその子に、更に次の子に。そうして世界中に広がりながら、忍と呼ばれる存在は増えていった。

 つまり、大元を辿れば忍のチャクラはカグヤに辿り着く事になる。だが、アカネは違う。アカネの、ヒヨリのチャクラは数多の人生にて築き上げたアカネだけの物。言うなれば、別の世界から運ばれた力だ。それがこの世界でチャクラと呼ばれる力に適応変化したのだ。

 だからアカネのチャクラから、カグヤのチャクラに繋がるものは欠片も感じ取れない。それがカグヤの警戒を上昇させた。

 

「ハムラの子孫のはず……だが、この力はワラワのものではない……。まさか、一族の仕業か?」

「一族?」

 

 カグヤの独白はアカネにも理解は出来ない。チャクラに関してはどことなく理由は推測出来たが、一族とは何なのか。

 カグヤの言う一族とは、大筒木一族の事を指す。だがそれは、大筒木ハゴロモや大筒木ハムラの子孫を指すのではない。それはカグヤがこの星に渡る前、カグヤが別れた大筒木一族の事を指していた。

 大筒木一族は神樹の実を求めて星々を旅する一族だ。そして今のカグヤは、その大筒木一族と敵対していた。白ゼツを量産しているのも、いずれ来るであろう大筒木一族に対抗する為であった。

 カグヤは、アカネの事を大筒木一族が自分達に対抗する為に作り出した存在なのでは、と勘違いをしたのだ。

 

 十尾に迫るという、人間では有する事が不可能と言えるチャクラ量。大筒木一族が有する白眼。そして今こうして己の邪魔をする行動。これらから、カグヤがそう勘違いするのはあながち間違いとも言えなかった。

 

「ここで消えよ」

「!!」

 

 カグヤはアカネに向けて、突如としてチャクラの塊を叩きつけようとする。八十神空撃(やそがみくうげき)、掌にチャクラを籠めて放出する体術の一種だ。八卦空掌と似た様な体術だが、その規模と破壊力は桁違いと言えよう。

 アカネはここに来て切り札を切る。と言ってもそれはアカネ固有の能力という訳ではない。アカネは努力によって力を付けてきた存在だ。それ故に、努力によって身に付けられる力ならば大抵習得している。

 まあ、流石に八門遁甲の陣は習得していないが。理由としては解放する程の潜在能力が殆どないからだ。つまり、八門遁甲を使用した所でアカネには意味を成さないのである。

 

 アカネの切り札。それは綱手やサクラと同じ百豪の術である。アカネが長年額に溜め込んだチャクラを解放し、全身に行き渡らせる。多くの戦いで消耗したチャクラが回復し、通常時以上のチャクラとなってアカネの力を底上げした。

 アカネがイズナ戦にて切り札を切らなかったのは、文字通り切り札であるからだ。この切り札を切ってなお、イズナに隠された一手があれば抗う術を失うかも知れない。それを恐れ、アカネはイズナの底を見るまでは切り札を封じていたのだ。

 もっとも、底を見た後にナルト達が増援として現れたので、切り札を切る必要もなくなったのだが。だが、今こそ切り札の切り時だとアカネは確信した。圧倒的なチャクラ量を有するカグヤを相手に、切り札を温存し疲弊したまま戦う余裕はないと判断したのだ。

 

「はあっ!」

 

 アカネは八十神空撃(やそがみくうげき)に対して八卦空掌で対抗する。八卦空掌よりも規模と破壊力が上ならば、八卦空掌の規模と破壊力を上げればいいだけの話だ。

 力とチャクラに任せて攻撃を繰り出すカグヤと、劣る能力を技術にて埋めるアカネ。ぶつかり合う二つの力の塊は完全に互角であった。

 無数にぶつかり合う二つの力。その衝撃は大気を震わせ、当たらずとも大地を大きく砕いていく。

 

「きゃあ!」

「冗談だろ……!」

 

 人外とも言える二つの存在の衝突にサクラは思わず目を瞑り、オビトも戦慄する。

 

「お前のチャクラは吸収出来ずともよい。滅びよ」

 

 カグヤは己の骨を変化させ、あらぬ空間に向けて放つ。共殺(ともごろし)灰骨(はいこつ)と呼ばれる、カグヤの特殊な体質を利用した攻撃だ。

 共殺(ともごろし)灰骨(はいこつ)は対象に突き刺さると同時に、対象もろとも崩壊していく。一撃必殺の術だ。それをカグヤは時空間を操る事で、アカネの背後に出現させた。

 

 だが、アカネは廻天によって灰骨を弾く。そして灰骨が現れたと同時にその時空間に八卦空掌を放ち、逆にカグヤに攻撃を返した。

 

「ぐっ!」

「母さん!」

 

 アカネの思わぬ反撃に、カグヤの右袖口に同化した黒ゼツが心配の声を上げる。そしてアカネを睨みつけ、後悔する。ここまで面倒な存在になる前に消すべきだった、と。

 いや、消す為にイズナをけし掛けた結果が、かつての三尾と戦争を利用したヒヨリ殺害に繋がるのだが。こうして転生して復活するなどとどうして思えるか。

 

「母さん。こいつは絶対に殺すべきだ。ナルト達も含めて別の世界に連れて行こう。そこならここよりももっと戦いやすいし、何よりこの世界を傷つけずにすむ」

「……そうね」

 

 黒ゼツの言葉にカグヤは賛成する。この地、すなわちこの星は、カグヤにとって大切な苗床だ。

 無限月読にて人間を白ゼツという兵にしつつ、人間が滅びないように一定数の人々は術から解放する。そしてその数が増えると再び無限月読にてチャクラを吸収し、白ゼツにする。苗床とはよく言ったものだ。

 その大切な苗床をこれ以上傷つけるつもりはカグヤにはない。アカネというイレギュラーな存在に思わず力を振るったが、殺すならばより効率的な世界がある。

 

 天之御中(アメノミナカ)。それがカグヤの輪廻眼の固有瞳術だ。

 自分と周囲にいる存在を瞬時に別空間へと強制移動させる時空間忍術の一種で、移動先に設定されている六つの空間は、どれも人間には戦いづらい環境となっている。

 そこで全ての決着をつけるべく、カグヤは天之御中(アメノミナカ)を発動し、この場の人間のほとんど(・・・・)を強制移動させた。

 

 アカネのチャクラは減った。

 

「……」

 

 どうしてこうなった。誰もいなくなった周囲を見渡し、どれほどぶりかにその心境に至ったアカネであった。

 

 




 アカネ (´・ω・`)
 ボス属性「主を敵の強制移動から守るオレってやっぱ能力の鑑」

 最終ボス戦にアカネの出番はなし。この落ちを予想していた方もいたでしょう。はい、こうなりました。仕方ないよね、だってボス属性だもん。

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