ダイの大冒険 第一話
とある世界のとある国。その国にあるとある森の奥深くに、一体のモンスターが住んでいた。
そのモンスターは、ある理由から人間達から逃げ続けていた。そして、人間達はそのモンスターを見つけると、嬉々として狩ろうとする。
巨体で力もそれなりに高く、その身体はあらゆる攻撃を弾くと言われ、その上巨体に見合わぬ素早さを有し、魔法まで使えるそのモンスターは、地上世界では上から数えた方が早い程の実力を有している種だ。
それにも関わらず、人間達、主に冒険者と呼ばれる存在はそのモンスターを狩る事に必死だ。それは何故か。それは、そのモンスターが非常に珍しく、倒す事で多くの富と経験を得られると信じられているからだ。
メタリックなボディ。それでいながら柔らかい印象を与えるでっぷりとした体型。愛嬌たっぷりの表情。頭上に輝く王冠。
そう、そのモンスターの名こそ、全てのスライム族の頂点、メタルキングであった。
「ピギィ」
森の奥からのそりと姿を現すメタルキング。貼り付けた様なスマイル顔を更ににこやかにし、メタルキングは移動する。
その巨体に見合わぬ速度と、そしてそれ以上に気持ち悪いほどに音を立てない軽やかな動きで森を華麗に移動するメタルキングは、あるものを見つけて動きを止めた。
「ピギ!」
そして、その巨体が掻き消える程の速度で動いたかと思うと、数メートル離れた大樹が大きく揺れた。それと同時にその大樹から大量の果実が落ちてきた。
「ピギィ! ピギィ!」
どうやら食事を取る為に大樹を揺すった様だ。嬉しそうに声を上げたメタルキングは落ちてきた果実を口の中に入れ、もしゃもしゃと咀嚼する。
そうして十数個の果実を食べると満足したのか、まだ落ちている果実を器用に拾い、王冠の上に乗せていく。後々食べるつもりの様だ。なお、手も足もない丸いボディでどうやって果実を拾ったのか、深く追求してはならない。彼(彼女)は器用なのだ。
そうしてメタルキングが森の奥で生息する事数ヶ月。
「やっぱりいたぞ! 情報通りだ!」
「囲め囲め! 絶対に逃がすなよ!」
「毒針は持ったか!」
「聖水もオーケーだ!」
彼らはメタルキングを狙う冒険者だ。メタルキングは倒す事で大きな経験を得られると伝説で語られており、倒した事で一気に強くなったというまことしやかな噂が流れているモンスターだ。
その上極稀に非常にレアなアイテムを落とすとも言われ、見つけたら躍起になって倒そうとする冒険者や狩人は山ほど存在している。
そんな彼らがこの森までやって来たのは、ここにメタルキングを見たという目撃情報を聞いたからだ。
何でも崖から滑り落ちた山師が、足の骨を折って絶体絶命に陥っていた時、どこからともなくメタルキングが現れ、薬草を与えて怪我を治してくれたという。
何とも嘘臭い話だ。かつて地上世界の征服を目論んでいた魔王がいなくなって一年以上が過ぎた。魔王の影響がなくなった為にモンスターの攻撃性は減少したが、それでも人間にとって脅威である事に変わりはないし、モンスターの恐ろしさは多くの人々に刻まれていた。
そんなモンスターが人助けをするなど眉唾物だろう。だが、その嘘臭い話も何度となく聞かされると信憑性も増すというものだ。そう、メタルキングが人助けをしているという話は様々な地であったのだ。
どうしてそんな話が各地にあるのか。答えは簡単だ。このメタルキングが各地を転々として移動し、そして各地で人助けをしていたからだ。その度に、助けられた人が他人に経験談を語り、それが噂となって広がっていったのだ。
そして、その度にメタルキングを狩ろうとする様々な人間から狙われる事となり、その度に各地を転々と移動する。そういう循環が出来てしまっていた。
ならば、人が完全に寄り付かない秘境に赴けばいいじゃないかとなるが、このメタルキングはそうしなかった。
それは、このメタルキングが人間と仲良くなりたいと思っているからだ。人間と仲良くなりたいのに、人間が寄り付かない秘境に行ってどうしろというのか。
だからこそ、このメタルキングは何度も人を助けるし、何度襲われようとも人間に反撃せず、必死に仲良くしようとアピールする。
「ピギィ! ピギィ!」
「威嚇してきたぞ!」
「怯むな! 今度こそ逃がすなよ!」
まあ、言語が違うのでこれっぽっちも伝わらないのだが。
なお、果実を見つけた時の嬉しそうな「ピギィ! ピギィ!」と、ぷるぷる、わたしわるいメタルキングじゃないよ、という意味が籠められた「ピギィ! ピギィ!」では、人間が聞いても然したる差は解らない。アクセントが僅かに違うくらいである。これで解れと言う方が無茶というものだ。
「ピギィ……」
これが悲しそうな意味を籠めた鳴き声なのは大体理解出来るかもしれない。実際いつものスライムスマイルにも陰りがある。また解ってもらえなくて悲しいのだろう。
ボディランゲージや、地面に字を書いて伝えようとした事もあったが、大体スライムの奇行としてしか見られなかった。なお、あらかじめ地面に字を書いていた事もあったが、その場合はメタルキングではなく誰かの悪戯と看做された。
「喰らえ!」
冒険者達が一斉に聖水をメタルキング向けて投げつける。聖水は高い防御力を持つメタルスライム系統のモンスターに小さいが確実なダメージを与えると言われている。毒針も同様だ。
液体故に、素早いメタルキングにも当たりやすい上に、地面にばら撒かれてその上を移動すると、それだけでダメージが与えられる寸法だ。
だが、このメタルキングは他のメタルキングとは一味も二味も違っていた。
「ピギ!」
冒険者達が一斉に攻撃を仕掛けるが、次の瞬間にメタルキングの姿を見失う。メタルスライム族特有の素早い動きかと辺りを見渡すが、複数人の目を以ってしても見つける事が出来ないでいた。
「ど、どこ行った!?」
「あの巨体だぞ! いくら速くても見逃す訳が……!」
「あ……! い、いたぞ! う、上だーーッ!!」
一人の仲間の声に、全員が釣られて上を見る。そして、冒険者達は見た。空中に浮遊する一匹のメタルキングを。
「嘘だろ! ほんとに飛びやがった!!」
「この噂は出鱈目だと思っていたのに……!」
そう、メタルキングが空を飛んで逃げるという噂はこの冒険者たちも聞いていた。だが、流石にそれはないだろうと一笑していたのだ。
だが噂は真実だった。闘気を放出させてその勢いで浮遊するという、理不尽極まりない性能を持つ唯一無二のメタルキングは、そのまま悲しそうに彼方へと消え去って行った。
後に残されたのは呆然とした冒険者達だけであった。
◆
冒険者達が何の成果も得られずにとぼとぼと最寄の町へ戻っている頃、メタルキングもまたとぼとぼと大地を這っていた。
「ピギィ……」
――また駄目だったかー……――
という意味を籠めた鳴き声を放ちつつ、彼(彼女?)はため息を吐く。
いきなりだが、このメタルキングは実は転生者である。かつては人間だった記憶と経験を持つメタルキングは、だからこそ人間と仲良くなりたいと願って行動していた。
世界征服を企む魔王が勇者により討伐され、モンスターは魔王の支配から解き放たれた。凶暴だった者達も大人しくなり、人間とは争わず静かに暮らす者も多くなった。
そんな今だからこそ、人間に歩み寄れるかと思っていたが……。どうやら人間のモンスターに対する恐怖の爪跡はそう簡単にはなくならない様だ。
まあ、メタルキングでなかったらもしかしたら既に仲良くなれていたかもしれないのだが。寄って来るのが欲深いタイプの人間ばかりなので、仲良くなりようもなかった。
「ピギギィ!」
――ま、その内何とかなるさ!――
長い経験を持つゆえか、圧倒的なポジティブシンキングを発揮したメタルキングは、新天地を求めて移動する。
次に出会う人とは仲良くなれたらいいなと前向きに考えつつ、行き先は棒を投げて適当に決める。その先に待つ国は、人は、どの様な出会いをメタルキングにもたらすのか。
「ピ、ピギィィ……」
国が消滅しました。
何を言っているのかメタルキングも分からないが、移動した先にある国が、到着目前に消滅していた。これには長い経験を持つ彼(彼女?)も吃驚である。
メタルキングが向かった先にあるのはアルキード王国と呼ばれる国だった。その国の外れのどこかで適当に静かに暮らし、モンスターに対する恐怖が薄まったくらいで人間と出会う算段でも立てようかと思っていた矢先の事だった。
視界の先で巨大なキノコ雲が発生。同時に凄まじい衝撃波が飛んで来るも、それはチートメタルボディでダメージを無効化した上で、闘気を放って衝撃破に吹き飛ばされるのを防ぐメタルキング。
そして何が起こったのか確認しようとしたメタルキングの視界に映ったものは……大地ごと消滅したアルキード王国のなれの果てであった。
「ピ、ピギギ!」
一体どうしてこの様な事になったのか。魔界と呼ばれる世界から新たな魔王でもやって来て、王国を滅ぼしたのだろうか。それにしても凄まじい破壊だが。かつての魔王ハドラーでは到底起こしえない破壊だろう。
このメタルキングとハドラーの間に面識はないが、それでも彼(彼女?)がそう思ったのは、単にこれだけの破壊が成せるならばとっくに世界征服出来ていただろうという予想からだ。
もしも新たな魔王が現れたとなれば、人間とモンスターの間の溝は更に深まる事になる。そうなっては自分の野望(人間と仲良くなって幸せに暮らすぞ!)成就は大幅に遠ざかるだろう。
そうする訳にはいかない。そう思ったメタルキングは真相を調べるべく、上空からアルキード跡地へと近付いて行く。
なお、彼(彼女?)に魔王によるモンスター支配は効果がない。圧倒的な意思力により魔王の支配など跳ね除けてしまうからだ。故に、モンスターでありながら魔王に歯向かう事も可能であった。
「ピギギィ!」
――ハドラーとやらは倒すのが間に合わなかったけど、新しい魔王が出たんならさっさとやってやんよ!――
えらく物騒な事を考えつつ、元アルキード上空にやって来たメタルキングが見たものは……一人の女性を抱えて涙を流す壮年の男性であった。
◆
竜の騎士。それは、遥か昔に人間の神・竜の神・魔族の神が協力して生み出したという、人の心と竜の戦闘力と魔族の魔力を併せ持った究極の戦士である。
竜の騎士は、野心を抱き世界のバランスを崩す者が現れた時に、その者を討ち滅ぼし争いを治める事を使命とする。今代の竜の騎士もまた、世界の支配を目論む恐るべき存在と相対し、そして見事に討伐に成功した。
その相手は、地上支配を目論んだ魔王ハドラー……ではない。ハドラーなど小物と切って捨てる程に強大な存在。魔界を二分する程の力を持つ冥竜王ヴェルザーであった。
ヴェルザーを討伐した今代の竜の騎士バランは、その代償として瀕死の重傷を負っていた。
どうにかして竜の騎士を癒す力があると言われる地上の泉近くまでやって来たが、泉に辿り着く前に力つき掛けてしまう。
そこに泉の水を持って来て、バランに与えてくれた存在が現れた。それこそが、後のバランの妻、アルキード王国の王女ソアラであった。
二人はその出会いを切っ掛けに惹かれあい、そして王宮に招かれソアラの父であるアルキード国王からも気に入られた。
邪悪な竜王を倒し、平和な世界で愛する人を見つけ、国王でありながら何処の馬の骨とも知らぬ自身を気に入ってくれ娘の夫として認めてくれる。まさに順風満帆な人生と言えた。
だが、成功を収める者がいれば、それを妬む者がいるのは世の常だ。そしてそんな人間の愚かな行為のせいで、バランの幸福な人生は終わりを告げた。
バランを妬む者が、国王に対してバランが人間ではない化け物だと囁いたのだ。事実無根のその言葉だが、ハドラーの恐怖が残されている地上において、それは大きな効果を得た。
一度バランを疑った国王は、バランや実の娘であるソアラの言葉に耳を貸さなかった。そしてバランは国王と争う事を良しとせず王国から去ろうとする。
だが、そこでソアラがバランにある出来事を告げた。それは、自身に新たな命が宿った事だ。そう、バランとの間に出来た子である。
その事実を知ったバランは、ソアラと共に駆け落ちする決意をした。そして潜伏中に息子であるディーノが生まれ、親子三人で幸せに暮らしていた。
だが、その幸せすら、アルキード国王は奪ってしまった。潜伏していた所をアルキード軍に発見されたバランは、妻と子を巻き込まぬよう二人の命の保証と引き換えに、アルキード軍に投降する。
国王も娘や、化け物の血が混ざっているとは言え自身の孫が死ぬのは忍びないと、バランの言葉に了承する。
そして、王国にてバランの処刑がなされた。
愛する妻と息子の幸せを祈り、バランは処刑を受け入れた。バランはこの地上世界で最強に相応しい実力者だが、力を抑えれば弱い人間の呪文でも死ぬ事が出来るだろう、と思っていた。
だが、バランを処刑する為の呪文はバランには命中せず、バランを庇ったソアラの身に降りかかった。
鍛えていない人の身であるソアラに、その呪文に耐え切る生命力はなく、僅かな会話に全ての力を使い果たし、ソアラはバランの腕の中で息絶えた。
バランがソアラの死に悲しんでいる最中、思いもよらぬ事態に激昂したアルキード国王は、化け物を庇った娘を罵倒した。
その言葉に、ついにバランは怒り狂った。最愛の妻を失ったが、それでもバランの理性は壊れなかった。その妻が、ソアラがそれを最期の最期まで望まなかったからだ。人間を恨まないでという、ソアラの言葉にぎりぎりで理性を保っていたのだ。
そんなソアラに対して吐かれたアルキード国王の、ソアラの実の父の罵倒は、最後に残されたバランの理性を砕くには十分だった。
そして、怒り狂った竜の騎士の力により、アルキード王国は一瞬にして消滅した。その大地ごと……。
「人間がこんなクズどもだと知っておれば……守ってやったりなどしなかった!」
アルキードの上空にて、ソアラを抱えたバランはそう叫ぶ。
こんなクズ共の為に命を懸けて戦い、死に物狂いで平和を勝ち取った訳ではない。バランの偉業を知る者は地上にはいない。褒めてほしいと、称えてほしいと思ってヴェルザーと戦ったわけではない。
だからと言って、クズの為に戦ったわけでもない。人間は守るべき存在だと思っていたから、戦ったのだ。その人間がクズだと認識した今、バランに世界のバランスを守る竜の騎士としての役目を果たすつもりは毛頭なかった。
そうして、アルキードの上空にてソアラを抱いていたバランは、一先ずその場から移動しようとする。何をするにも、ソアラをそのままにする訳にはいかなかったからだ。
せめてどこか静かな場所に埋めようと思い、ソアラを優しく抱きかかえて空を移動しようとするバラン。そして、そんなバランは突如として目を疑う存在を見た。
「……は?」
「ピギィ!」
空を飛ぶメタルキングである。空中に静止し、そしてこちらに向かって何やら叫んでいる。何を言っているのかさっぱりだったが。
「ピギギィ! ピィピピピギィ! ピーギギィ!」
「……」
バランは困惑した。先ほどまでの怒りが一時的に霧散するほどに、困惑した。空中で愛する妻を抱いて悲しみと怒りに暮れているとメタルキングに怒鳴られた。これは一体どういう状況なのだろうか。
とにかく、何か伝えたい事があるのだろうが、メタルキングの言葉など理解出来る訳がなく、バランはどうすればいいのか僅かに躊躇した。
その僅かな躊躇さえもどかしかったのか、メタルキングは急速にバランに近付いてくる。
「むう!?」
あまりの急接近に咄嗟にバランはメタルキングに蹴りを放ってしまった。長年の戦闘経験に基づく反射行動だ。
バランのこうげき!
ミス! メタルキングはダメージをうけない!
だが、相手はメタルキング。硬く素早くダメージを受けないで定評のある最高クラスにうざいモンスターだ。何と伝説の竜の騎士の一撃でさえ容易く回避し、バランの懐に潜り込んできた。
「貴様……!」
「ピギギ! ピピィピギィ!」
メタルキング風情に侮られたと思ったのか、バランは更に蹴りを放つ。
バランのこうげき!
ミス! メタルキングはダメージをうけない!
「こ、こやつ……!」
メタルスライム族特有の素早い動きに翻弄され、バランは怒りのボルテージを高める。
だが、今のままでは攻撃が当たる事はないとバランは直感した。ソアラを抱えた状態での制限された動きでは、このメタルキングを捉える事が出来ないのだ。
バランはルーラで逃げる事も考えたが、今のバランは普段とは大きくかけ離れた精神状態にあった。この愚か者を打ち倒す。そうする事で今の鬱憤が少しは晴れるだろうと思ったのか、バランは大地に降りて優しくソアラの遺体を降ろす。全力でメタルキングを倒そうとしたのだ。
だが、メタルキングは迎撃準備全開のバランではなく、大地に横たわっているソアラ目掛けて一直線に向かって来た。
そしてその動きは、戦闘経験豊富なバランに一瞬で気付かれた。
「貴様ぁぁ! ソアラに何をするつもりだぁぁぁ!!」
これ以上、自分から何かを奪うつもりか。死してなおソアラを侮辱するつもりか。
そういった怒りが、一瞬にしてバランを真の戦闘フォームへと移行させた。
それこそ、人の心・竜の力・魔族の魔力を持つ竜の騎士から人の心を除いた最強の戦闘形態。竜魔人である。
「ぐおおおお!」
人の心を捨て去り、敵を滅ぼす為の獣となったバラン。ソアラというリミッターもなくなった今、全力全開の攻撃がメタルキングに振るわれた。
竜魔人バランのこうげき!
ミス! メタルキングはダメージをうけない!
竜魔人バランのこうげき!
ミス! メタルキングはダメージをうけない!
竜魔人バランのこうげき!
ミス! メタルキングはダメージをうけない!
竜魔人バランのこうげき!
ミス! メタルキングはダメージをうけない!
「ちょ、ちょこまかと!」
だが、最強の戦闘生命体であるはずの竜魔人の攻撃はメタルキングには欠片も届かなかった。
メタルキングは硬く素早いが、実は耐久力自体はあまりない事はバランも知っている。当たりさえすれば、竜魔人の攻撃力ならばメタルボディ程度破壊出来るはずだ。そう考えていた。
だが、当たらない。圧倒的に速いその動きは、完全にバランが知るメタルキングのそれを上回っていた。
――い、いや、こいつはただ速いだけではない……! 私の動きを先読みしている!――
バランは見抜いた。メタルキングは自身の攻撃を見切り、そして攻撃を避けているのだと。
たかがメタルキング風情がその様な技量を持っているなど理解の範疇にない事だ。わなわなと驚愕するが、だからと言って理性をなくした獣が止まれる訳もなく、避けようがない一撃にて滅しようと決意する。
そう、アルキード王国を消滅させた大規模攻撃。竜の騎士だけに許された、
呪文とあるが、ドルオーラは厳密には呪文ではない。大量の魔法量を消費する為に呪文扱いになっているが、実際は竜の騎士だけが持つ
「消し飛べスライム風情がぁぁぁ!!」
膨大なオーラを圧縮し放たれたその一撃。地上から一つの国を消滅させるほどの威力と範囲を誇る、竜の騎士最強の攻撃だ。いくら素早かろうとも、ルーラを使わない限り逃げようもないだろう。
竜魔人バランはドルオーラをはなった!
ミス! メタルキングはダメージをうけない!
だが残念。理不尽は残酷だった。
然しものメタルキングも、ドルオーラを喰らえば確実に死ぬ。だからこそ、メタルキングはドルオーラを相殺した。
そう、相殺したのである。メタルキングはドルオーラと同じ様に莫大な闘気を放出し、ドルオーラにぶつける事でその威力を激減させたのだ。
さすがに完全に相殺することは叶わなかったが、メタルキングの闘気砲を超えてきたドルオーラは、メタルボディを傷つける事が不可能な程に弱っていた。結果、ダメージを受けずにピンピンとしたメタルキングが上空に残された。
「ば、馬鹿な……!? は! しまっ――」
これにはバランも驚愕しかなかった。冥竜王にすら通用した最大最強の攻撃が、こうも容易くあしらわれるとどうして思えようか。
そうしてバランが驚愕した隙を突き、メタルキングはバランの懐に一瞬で飛び込んだ。バランが気付いた時には既に遅く、バランは敢え無くメタルキングの闘気砲によって彼方へと吹き飛ばされた。
「ぐぬぅぅっ!」
バランを吹き飛ばした闘気砲。いや、闘気弾と言うべきか。それは消える事なくバランを延々と遠くに吹き飛ばしていた。
ただの闘気砲ならばすぐにルーラで戻ってくる事が出来ただろう。だが、闘気弾は消える事なくバランを攻撃し続け、その身を吹き飛ばす。
「でぇい!!」
バランがその闘気弾を弾いた時、バランは元アルキードの大地から数十キロも離れた上空に飛ばされていた。
「おのれ……! そ、ソアラ!」
闘気弾から解放されたバランはメタルキングへの怒りを更に募らせるが、次の瞬間にメタルキングの狙いを思い出す。
そう、メタルキングはソアラを狙っていた。何ゆえ死したソアラをメタルキングが狙うのかはバランには分からないが、こうしてバランを遠くへ追いやったのも、メタルキングがソアラに何かしようと企んでいるからだろう。
ソアラの身にこれ以上なにかさせてなるものか! その一心で、バランはルーラを使用してすぐに先程の場所に戻る。
「ソアラーー!」
元の大地に戻って来たバランは、ソアラの身に寄りかかるメタルキングの姿を見た。
ソアラの身体に見た目上の変化はない。だが、それでもモンスターがソアラの遺体に何かをしているのは明白だ。
バランは怒りのままに、背から抜いた真魔剛竜剣にてメタルキングに斬りかかる。オリハルコンと呼ばれる世界で最も硬い金属で作られた神の剣だ。メタルキングの身体など、ドラゴニックオーラで強化された真魔剛竜剣に掛かれば容易く切り裂けるだろう。
そうして振るわれた一撃は、確実にメタルキングの身体を切り裂いた。そして、それに驚愕したのが攻撃を放ったバラン当人であった。
竜魔人バランのこうげき!
メタルキングは22のダメージをうけた!
「な、なに! 貴様……何故避けなかった!」
そう、バランは攻撃が命中した事に驚愕したのだ。悔しいが、このメタルキングは最強の竜の騎士の力を以ってしても、攻撃を当てるどころか掠らせる事すら叶わない実力を持っている。そう、バランは認めていた。
竜の騎士には代々の竜の騎士の戦闘の遺伝子ともいうべき物が備わっている。今までの竜の騎士が経験した事が、次代の竜の騎士に引き継がれるのだ。そうして積み上げられた経験を持つバランは相手の実力を把握する能力も高かった。
だからこそ理解出来た。今の一撃は、回避しようと思えば回避出来た事を。このメタルキングは、己に致命の一撃を与える攻撃を敢えて受けたのだ。
何故避けなかったのか。その答えを、バランはその目で見た。いや、見る前に、まず耳で聞いた。
「う、うう……」
「はっ!? こ、この声は!!」
メタルキングの身体の影から、小さな呻き声が聞こえてきた。メタルキングの声ではない。ピギィなどという訳の分からない鳴き声ではなく、もっとバランの良く知る声の響きだ。
まさかと思いつつ、バランはメタルキングの身体の前へと移動する。そして、確かに見た。死んだはずのソアラの表情が動き、弱々しいがかすかな呼吸を行っている姿を。
「そ、ソアラ!? まさか……生きてる……生き返ったというのか!!」
「ピ、ピギィ……」
驚愕するバランに、ソアラとは違う弱々しい鳴き声が聞こえる。そう、メタルキングだ。
思わずメタルキングを見つめるバラン。そんなバランに対し、メタルキングはにこりと笑った気がした。大体いつもスマイル顔だが。
「お、お前……い、いや、まずはソアラを!」
メタルキングの真意を訝しむバランだが、まずはソアラを優先する事にする。生き返ったとはいえ、傷が完治した訳ではない。回復呪文を掛けなければ再び死に陥ってしまうだろう。
負傷者の生命力が限りなく低い状態では回復呪文も意味をなさない。だが、今のソアラは何故か生命力に溢れていた。とても死に掛けとは思えない程にだ。
そんなソアラに回復呪文を掛けつつ、バランは真魔剛竜剣を抜くのに必死なメタルキングを見る。全身の肉体を振動させ、器用に真魔剛竜剣を身体から排除していた事に軽く驚愕したが。
「まさか、貴様がソアラに生命力を……?」
「ピギギィ!」
そうだと言わんばかりに頷くメタルキング。メタルキングの言葉は解らないが、こちらの言葉を理解してのそのジェスチャーに、バランも事実として受け入れるしかなかった。
そして、真魔剛竜剣を抜いたメタルキングは、全身から淡い光を放ったかと思えば、傷ついた肉体を完治させていた。
「貴様……本当にメタルキングか?」
規格外にも程があるその能力に、バランも思わずツッコミを入れる。
「ピギィ! ピピピギィ!」
失礼なとばかりに抗議の鳴き声を上げるメタルキング。そして同時にずずいっと再びソアラに近付く。
一瞬バランが警戒する。当然だ。人間を丸呑みして有り余る巨体が近付いたのだ。警戒もするだろう。
だが、相手に敵意がないと判断したのか、バランはその警戒を解いた。そして、メタルキングは再びソアラに生命力を注いでいく。
「これは……闘気を生命力に変換し、ソアラに与えているのか……! いや、確かに理論上は可能だが……しかし」
バランはソアラが息を吹き返した理由を知った。このメタルキングは己の闘気を生命力に変換し、他人であるソアラに与えたのだ。それにより、死にはしたが肉体的な損傷はすくなかったソアラは息を吹き返したのだ。
確かに理論上は可能だ。元々闘気とは生命力から発せられるもの。生命なき物に闘気を生み出す事は出来ない。生命なき物に闘気を与え、操る術は存在するが。
だが、その闘気を他人の生命力に還元出来る程に自在に操り、死者を蘇らせる。それは竜の騎士であるバランにすら不可能な所業だ。
バランに流れる竜の騎士の血を分け与えれば、死者を蘇らす事はバランにも出来る。だが、それは血を与える者に強い心と肉体が必要だった。ソアラは強い心を持っていたが、肉体は有していなかったのだ。
ともかく、ソアラを蘇らせる事はバランにも出来なかった。だが、目の前のメタルキングはそれを成し遂げたのだ。
今も優しい力がソアラに流れている。ソアラの肉体を破壊せず、傷を癒し生命力を与えるだけの繊細な技術だ。
そして、バランの回復呪文とメタルキングの蘇生術により、ソアラは完全に息を吹き返し、また峠も越した。もう回復呪文も生命力譲渡も必要ないだろう。
「……感謝するメタルキングよ。そして……すまなかった」
いつの間にか、バランは竜魔人から元の人の姿へと戻っていた。怒りにより敵を殺さなければ止まる事はないと言われる竜魔人になったバランだったが、それを上回る感情の変化により元に戻ったのだ。
そして、最愛の妻の命の恩人であるメタルキングに向けて、感謝と謝罪を告げる。感謝は当然ソアラの命を救ってくれた事に関して。謝罪はメタルキングを傷つけた事に関してだ。
「ピギギィ……。ピィピギピィ……」
それは気にするなと言っているようにバランは感じた。だが、その鳴き声には力が籠もっていなかった。
当然だとバランは思う。生命力を直接他人に譲り渡したのだ。下手すれば自分が死ぬかもしれない行為だ。命の剣と呼ばれる技があるが、それは生命力を直接闘気に変換し、武器を形成するという技だ。だが、これを使用した者は急激に生命力を失い、下手すれば死んでしまう恐れすらあった。
生命力を利用する技術は諸刃の刃なのだ。それを、見ず知らずの赤の他人の為に用いたメタルキングに、バランは感謝しかなかった。
◆
――いやあ、上手くいって良かったよほんと――
ソアラの蘇生が間に合い、そしてバランとの和解が成り立ってメタルキングはほっとしていた。
一国の消滅に魔王でも関与しているかと思えば、破壊跡地で見たのは女性の死に嘆き悲しみ、そして怒りに狂った一人の男性だった。
その感情の爆発は遠目から見ても理解出来た。刺激しない方がいいとは思っていたが、そうも行かなかった訳がある。
そう、女性の命の灯火は完全には消えていなかったからだ。死んではいたが、脳や内臓を損傷する様な傷はなく、どうやらダメージを受け過ぎた事によるショック死だとメタルキングは判断した。
あれならまだ間に合う。そう思ったメタルキングは、バランに向けて女性の蘇生をさせてくれと嘆願する。
まあ、例によって例の如く理解されなかったが。
仕方ないので、メタルキングは実力行使に出た。時間が掛かれば掛かるほど、蘇生の確率は下がっていく。それも加速度的にだ。一分一秒でも早く、ソアラに蘇生術を掛けなければならなかった。
そうして行われた激闘だったが、正直メタルキングもバランの実力に驚いていた。まさか変身し、しかもここまで強くなるとは思ってもいなかったのだ。
結果的にノーダメージであしらっていたが、どの攻撃も当たれば自分に大ダメージを与える事は必至であった。硬さに比べ意外と脆い事を自覚している身として、こんな超攻撃力の一撃を喰らうわけにもいかず、それなりに綱渡りの攻防だったのだ。
特に最後の一撃はソアラの蘇生の為に避ける訳にも行かず、どうにか持ち前の闘気で防御力を底上げし耐え抜くしかなかった。ソアラに生命力を譲渡していなかったらもう少し防げていただろうが。
そうして現在、バランとメタルキングは眠りにつくソアラを連れて泉の畔で休んでいた。
バランがソアラを落ち着ける場所で休ませてあげたいと思い、初めて出会った想い出の場所にルーラで移動したのだ。その際に、恩人(恩スライム?)であるメタルキングも連れてきたのである。
「その泉の水を飲むといい。竜の騎士の力を癒す奇跡の泉だ。人間にも効果があるし、モンスターであるお前にも体力の回復を助ける効果くらいはあるだろう」
「ピギィ」
バランに言われ、メタルキングは試しとばかりに泉の水を飲む。喉も渇いていたしちょうど良かったとも言える。
メタルキングの喉の渇きが癒えた。
メタルキングの体力は回復しなかった。
メタルキングの闘気が消耗した。
「ピギィ……」
「どうした? モンスターには逆効果だったのか? そんなはずはないのだが……」
邪悪な魔族ならともかく、ただのモンスターであるメタルキングにそんな効果はない筈だがと悩むバラン。
だが、悩んでも答えが出るはずもなかった。これはこのメタルキング固有の能力により、泉の特殊効果を無効化してしまっただけだからだ。闘気の消耗はその代償だ。
――相変わらずのデメリットだなボス属性!――
メタルキングは内心で自身の能力に向かって憤る。自分が作った能力に怒りを向けるなどと馬鹿げているのだが。
「う、うぅん……」
「ソアラ!?」
泉の効果を訝しんでいたバランだったが、最愛の妻の呻き声を聞いてそちらに注意を向ける。
彼にとって、ソアラ=ディーノ>>家族の壁>>メタルキング>>恩人の壁>>泉>>>>どうしようもない壁>>>>>>>人間、という等式が成り立っており、メタルキングや泉の事なんかよりもソアラの方がよっぽど大事なのである。
「ここは……私は死んだはず……」
「ソアラ! ソアラ……! 良かった……お前を失えば、私は……!」
バランは意識の目覚めたソアラを見て涙を流す。峠を越えた事は理解していたが、それでも再びソアラが動いているのを見て、その声を聞けた事でソアラが生きているという実感が再び湧いて来たのだ。
「あなた……私は一体……」
「ああ……実はな――」
目覚めたばかりで困惑しているソアラに対し、バランはある程度の説明をする。この時、バランはアルキード王国の消滅に関しては説明から省いた。目覚めたばかりで弱っているソアラに、大きなショックを与えたくなかったからだ。
そうして一通りの説明を受けたソアラは、傍で二人を見守っていたメタルキングに向けて礼を述べた。
「ありがとうございますメタルキングさん。あなたのおかげで私は再び生を謳歌する事が出来ます……。本当に、感謝しています」
深々と頭を下げ、誠意溢れる感謝の意を告げるソアラに、メタルキングも自然と嬉しくなって笑顔で返す。
「ピィピギィ!」
――どういたしまして!――
まあ、どうせ意味は通じていないのだろうが。そう思っていたメタルキングは、次の瞬間に驚愕する事になる。
「どういたしましてですって? まあ、謙虚なんですねメタルキングさんは」
「ピギ!?」
「なに? ソアラ、このメタルキングの言葉が理解出来るのか?」
今まで自分の鳴き声を理解してくれた人間はいなかった故に、メタルキングはまさかと驚愕する。
同時にメタルキングが何を言っているのかさっぱりなバランもだ。
「言葉は分からないけど、何を言いたいのかは何となく伝わったわ」
「ピギィ! ピギィ!」
――マジでか! やば、超嬉しいんだけど!――
「喜んでもらえると私も嬉しいわ」
「ピッピギィ!!」
――おお! 喜んでいる事が伝わっている! この人聖女か何かか!?――
「そんなに感動されると照れるわメタルキングさん」
「……さっぱり分からん」
言葉だけでは何を言ってるのかさっぱりなバランは置いてけぼりだ。
だが、メタルキングが喜んでいるのは次第に理解出来た。メタルキングがその巨体で飛び跳ねたり、ギュインギュインと音を立てながら回転したりしているからだ。
「あれは喜んでいるな」
「ええ」
そう判断したバランだが、何も知らない第三者が見ればあらぶる巨体のモンスターである。どうやらバランもメタルキングへの理解が徐々に深まってきたようだ。
言葉が発せない分、全身を使って一通り喜びを表現してから、メタルキングはようやく落ち着いた。どうにもメタルキングとなった為か、前世よりもかしこさが下がっているようだ。
落ち着きを取り戻したメタルキングはバランとソアラに向けてこれからどうするの、という意味を籠めて鳴き声を出す。
「ピギィ?」
「これから……そうね。あなた……アルキード王国は、どうなったの?」
「そ、それは……」
メタルキングの意思を理解したソアラは、自分が死んだ後にアルキード王国がどうなったか気になり、全てを知っているはずのバランへと確認する。
そして、バランの反応を見て薄々とだが理解した。いや、最初から何となくそうだろうと、ソアラは思っていた。
バランが生き返ったばかりのソアラに説明をした時、アルキード王国については一言も説明しなかった事で勘付いていたのだ。
「そう……ごめんなさい、あなた」
「な、何故ソアラが謝る必要がある! 悪いのは人間共だ! 奴らは、私と人間を庇ったお前に向かって……!!」
バランに向けて謝罪するソアラに、バランは人間が悪いとソアラの謝罪を否定する。
「でも、私が死にさえしなければ、あなたは今も人を信じられたのに……!」
「確かに、私は人を信じたまま自らが死に、お前やディーノさえ生きていれば良いと思っていた。だが、もうそれも無理だ。人間如きとお前達を比べる事など出来る訳がない!」
ここから先は巻いてお送りいたします。
でも、私も人間よ――
う、し、しかし奴らとお前は――
人間の一面だけを見て、それが全てだと思わないで――
ピギィピギィ――
ソアラ……メタルキング――
人間の全てを嫌わないで。どうか、彼らの弱さを認めてあげて――
私は……お前を失いたくなかった――
私もよ……あなたがいない世界なんて嫌だった――
そうか。私が間違っていた。お前とディーノだけ生き延びればいいと思っていたが、残される者の辛さを理解していなかった――
あなた――
ソアラ――
ピギィ――
抱き合う二人。涙するメタルキング。人間への怒りは消えないが、理解する心は忘れない。罪を忘れず、償いながら生き、それでも幸せになる事を捨てずに生きていこう。
そういうことになった。
目下の目標として、二人の息子であるディーノを見つけ出す事になった。アルキード国王がどこかに流刑したのだが、その手がかりはアルキード王国が消滅した今不明のままだ。
「ディーノを見つける為にも近くにある街を調査しよう。何か手がかりがあるかもしれん」
「ええ、お願いねあなた」
バランがディーノ探索に出る中、ソアラは泉の畔で待つ事となった。
今のソアラはまだ万全の体調ではなく、あまり体力を消耗させる訳にはいかないからだ。
本当ならバランが傍にいてあげたいが、ディーノを探す事も先決だった。早く見つけなければ人間に何をされるか分かったものではないと、まだ人間を疑う気持ちが残っているバランとしては気が気ではないのだ。
それに、ソアラには心強い味方が傍に残る事になった。
「ピギ!」
ソアラは任せておけ、とばかりに反り返るメタルキング。彼(彼女?)の強さはバランが嫌というほど理解している。それに、ソアラの恩人でありソアラ自身も信用している事もあり、安心して任せる事が出来た。
「任せたぞメタルキングよ」
「ピギィ!」
――おうよ! 任せとけ
互いに熱い視線を交わすバランとメタルキング。そこには確かな信頼関係があった。
と、そこにソアラが声を掛けた。
「ねえ。いつまでもメタルキングさんを種族名で呼ぶのはどうかと思うの。あなた、名前とかないのかしら?」
そうメタルキングに問うソアラだが、メタルキングはぷるぷると首――もとい全身を振るって否と答えた。
残念だが、メタルキングに名前はなかった。複数のメタルキングが現れても、メタルキングA・メタルキングBと表記される事だろう。所詮はモンスターなのである。AとBの差は別種族とばかりに圧倒的に開いているが。
「そうなの……良ければ私達が名前を付けてもいいかしら?」
「ピギギィ!」
「それなら良かった。ねえあなた。どんな名前がいいかしら?」
了承の意が返ってきた事を喜び、ソアラとバランはメタルキング命名の為に頭を捻る。
「ふむ……メタルキング故に、メタリンか?」
それは別の次元のメタルスライムに名付けられてそうだと、メタルキングは全身を振るって拒否する。
「じゃあ、笑顔が可愛いからスマイルってどうかしら?」
それは別の次元のメタルキングに名付けられてそうだと、メタルキングは全身を振るって拒否する。
「ならば単純に略してメタキ――」
それは駄目だ。メタルキングはバランの口に身体をぶつけて次の言葉を塞いだ。
「じゃあ、メタルなモンスターで、メタモ――」
それも駄目だ。メタルキングはソアラの口にそっと身体を添えて次の言葉を塞いだ。
「私との扱いの差が大きくないか?」
気のせいだと、メタルキングはぷるぷる震える。
「なら、メタルンというのはどうかしら? 可愛くて素敵だと思うんだけど」
「ピギー……。ピギィ!」
「そう、良かったわ。なら、これからあなたの名前はメタルンね」
そういうわけで、色々と危なかったがメタルキングの名前が決定した。これからはメタルキング改めメタルンとして、彼(彼女?)はこの世界を生きていく事になる。
メタルンの大冒険が、いま始まる!
竜の騎士をスカウトしようと覗き見ていた大魔王面々。
大魔王(何だあのメタルキング……)
影(何だあのメタルキング……)
死神(何だあのメタルキング……)
ダイの大冒険風ステータス表記
――めたるん――
めたるきんぐ
せいべつ:???
レベル:???
――つよさ――
ちから:150
すばやさ:255
たいりょく:30
かしこさ:72
うんのよさ:2
さいだいHP:66
さいだいMP:20
こうげき力:150
しゅび力:メタルボディ
EX:9999999(これ以上表記出来ません)
――そうび――
――じゅもん――
ベギラマ
メタルキングのメタルン。ステータスは同属よりもやや高め。力は若干上がっている程度だが、HPは三倍強も高くなっている。通常のモンスターからしたら中堅所よりも低い程度だが、メタルスライム系統のモンスターと考えると詐欺に近いHP。
メタルスライム系統特有のチート特性・メタルボディを備えており、ほぼ全ての呪文に耐性がある上に、殆どの攻撃をノーダメージで抑える。そればかりか、前世から引き継いできた力が闘気に変換されており、控えめに言っても化け物の様な闘気量を誇る。竜魔人も吃驚である。
その闘気で戦闘力を底上げする事が可能であり、実際の戦闘力は数値以上となっている。闘気でガードしているメタルンにダメージを与えるには最低でも竜魔人クラスの攻撃力が必要。その上、当たらなければどうという事はないを地で行く回避性能を有している。大魔王様もバグじゃないかなと疑う存在。だが残念。理不尽は残酷なのである。
大魔王「ば……化物……め!」
メタルン「ピギギギィ……(その通りだバーン……)。ピギピギィッ……!!!(おまえ以上のなっ……!!!)」