どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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ダイの大冒険 第二話

 ソアラが住む為に必要な家を拵えた後、バランはメタルンにソアラを任せてディーノ捜索の旅に出る。

 アルキード王国から最も近い港街へと訪れたバランはそこで聞き込みを開始し、有力な情報を元にディーノが乗っただろう船を捜す。

 だが、その船が到着しただろう港街には未だに到着の報せはなく、バランはいても立ってもいられず海上にて直接船を捜す事にした。

 

 しかしいつまで経っても船は見つからず、そして港街にも船が到着したという報せは来なかった。

 そして、バランはある情報を得た。それは、ディーノが乗せられた船の航路上の海域で、大きな嵐が通ったという情報だ。別の船乗りが海上で遠目から確認したらしい。

 全ての情報を統合すると、ディーノが乗った船は難破した可能性が高いという事が分かった。信じたくなかったが、バランの冷静な部分がそう断定した。

 

 最愛の息子を失い絶望したバランは、もう一人の最愛であるソアラの元に戻ってくる。

 そして、どうやって絶望の真実を打ち明けようかと悩みつつ、バランはソアラとメタルンが隠れ住んでいるはずの森の奥へとやって来た。

 そこでバランは見た。ディーノ捜索の旅に出かける前は家族三人が住むに当たって不自由ない程度の小屋が、いつの間にか十数人で住んでも有り余るような立派なログハウスに変わっているのを。

 

「……どうしてこうなった?」

 

 場所を間違えたのか疑問に思うバラン。だが、そう思った矢先にログハウスのドアが開き、中からソアラとメタルンが現れた。どうやら間違っていた訳ではないようだ。

 メタルンが余裕で通れる程の大きなドアに再び戸惑うも、明るい笑顔で迎えてくれたソアラに、バランも笑みを浮かべる。

 

「あなた! お帰りなさい!」

「ピギギィ!」

「ああ、ただいまソアラ。メタルン、ソアラの守りご苦労だったな」

 

 飛び込んできたソアラを抱きかかえ、メタルンに労いの言葉を掛けるバラン。

 そして、バランがディーノを連れていないのに気付き、笑顔に陰りが見えたソアラに対して、バランは悲しい真実を伝えた。

 

 

 

「そう……」

 

 ディーノを乗せた船の難破。ディーノも船員も全てが行方不明。それが、ディーノ捜索の結果だ。

 それを聞いたソアラは悲しそうに俯き、そしてすぐに笑顔をバランに見せた。

 

「大丈夫。ディーノは、あの子は生きているわ。私にはそう思えるの。きっとどこかで生きているはずって」

「ソアラ……」

 

 ソアラのその言葉に強がりはなかった。ソアラは何故かディーノが死んでいるとは思えなかったのだ。

 確証もない母親の勘に過ぎないかもしれない。だが、それでも息子が生きているとどこかで確信出来た。

 それを聞いて、バランは絶望の闇に閉ざされようとしていた心に一条の光が当たった気がした。

 生きる希望を与えてくれる太陽。バランはソアラに対してそう感じていた。

 

「……そうだな。私たちの子だ。きっと強く生きている! ああ、絶対にだ! 私も諦めず、ディーノを探し続けよう!」

「ええ! でも、今はゆっくり休んで。あなたも疲れたでしょうから。さあ」

 

 そう言ってバランに手を伸ばすソアラ。その手を取り、バランは気になっていた事をソアラに確認する。

 

「ところでソアラよ……。この立派な家は一体……」

 

 バランは出立前と後で総面積が五倍以上に膨れ上がった家について確認する。何がどうしてこうなったのかさっぱりである。

 

「これはメタルンが頑張ってくれたのよ。ねぇメタルン」

「ピギィ!」

 

 頑張った! とばかりに全身を反り返らせるメタルン。

 何をどう頑張ったらメタルキングが家をメタモルフォーゼ出来るのだろうか。バランの理解力が限界を超えようとしていた。

 

「メタルンが周囲の樹を切って運んできて、それを組み立ててこんな立派な家を建ててくれたの。ディーノが帰ってきたら、もっと家族も増えるだろうからって……」

 

 最後の台詞は顔を赤らめながらに発し、バランの理性に会心の一撃を与えるソアラ。

 もしディーノが見つかっていたら、来年にはもう一人の子どもが産まれていたかもしれなかった。

 

「ピギィピギィ!」

「え? 私も頑張ったって? うふふ。少し手伝っただけよメタルン。ほとんどあなたがやってくれたじゃない」

「なに? ソアラも手伝ったのか?」

 

 メタルンとソアラの会話(?)を不思議に思うバラン。

 ソアラはお世辞にも体力に秀でた女性とは言えない。生まれは王族で、力仕事をした事などほとんどないからだ。

 普通の王族の女性と比べれば、城から奇跡の泉に出向いたり、バランと駆け落ちして親子三人で暮らしたりと、バイタリティは圧倒的に高いが、それでも家を建てる手伝いが出来るかと言えばバランは首を傾げるだろう。

 

「ええ。ちょっと待っててねあなた」

 

 疑問を抱くバランに、ソアラはその疑問を解消する道具をログハウスの隣に設置されている物置小屋へと取りに行った。

 そして、小屋から出てきたソアラが手に持っていたのは、メタリックな輝きを放つ1本ののこぎりだった。

 

「こ、これは!」

 

 歴戦の猛者であるバランには一目で理解出来た。これは凄まじい切れ味を誇る武器だと。

 

「これはメタルンが作ってくれたのこぎりなの。これなら私でも簡単に材木が切れちゃうのよ」

 

 そう、これこそメタルンが自らの身体を削り取って作り出した一品。メタルキングののこぎり(こうげき力120)である。

 作り方は至って簡単。メタルンが闘気を利用して自分の身体から適量のメタルキング素材を切り取り、それを更にのこぎり型に闘気の刃で削り出すだけである。

 メタルボディを切り取る事が出来る圧倒的闘気量と技術。そして肉体の治癒すら闘気で行えるメタルンならではの作り方である。

 

「う、うおお……!」

 

 自らの武器である真魔剛竜剣には及ばずとも、地上なら伝説の武器と比べても見劣りしない攻撃力を誇るのこぎりに、バランも驚愕しかなかった。

 というか、のこぎりにしなければもっと攻撃力が高かっただろうと思うと戦慄も禁じえないだろう。

 だが、バランの驚愕はそれだけに留まらなかった。

 

「あとこれも。こののこぎりを使う時は、絶対にこれを装備しろってメタルンに言われたの。これを着けないと危ないからって」

 

 そう言って、ソアラは自分の手にはめている手袋を見せる。

 銀に輝くその手袋を凝視し、バランはその正体に気付いた。

 

「ま、まさかこれも!」

「そう。メタルンが作ったの。凄い器用よね!」

 

 それは、メタルキング素材を細い糸状に形成し、それを細かく手袋状に編んだ一品。メタルキングの手袋(しゅび力18)である。

 それだけではない。同じ素材で作ったメタルキングの服(しゅび力50、呪文ダメージ20%減)。メタルキングのスカート(しゅび力20、炎・吹雪耐性)。メタルキングのブーツ(しゅび力26、踊り耐性)。メタルキングの帽子(しゅび力31、眠り・即死耐性)など、全身の衣服全てがメタルキング糸で編み込まれた一品を、メタルンはソアラに用意していた。

 それら全てを装備したソアラのしゅび力は150を超える。そんなソアラに物理ダメージを与える事が出来るモンスターは地上では稀と言えよう。更に各種耐性もてんこ盛りの上、重さもそれ程ではないという至れり尽くせりだ。ここに鉄壁のソアラが誕生していた。

 

「ピギィピギギィ!」

 

 どうだ。褒めろ褒めろとばかりにバランの周囲を回るメタルン。呆気に取られつつも、バランはメタルンの頭を撫でた。

 

 ――本当にメタルキングなんだろうか?――

 

 内心ではメタルンの常識外れぶりにその存在を疑っていたが。これと同じだと言えばむしろ他のメタルキングに対して失礼な気がしてきたのだ。

 どこの世界に立派なログハウスを建て、自分の身体を削って武具を造り、その身体を自己治癒するメタルキングがいるというのか。

 バランはそう思いつつも、深く考えては駄目だと納得する事にした。

 

「さ、家に入りましょうあなた、メタルン。ちょうどいい時間だし、食事を作るから少し休んでいてねあなた」

「あ、ああ」

「ピギギィ!」

 

 そう言って家に入るソアラ。嬉しそうに後を着いて行くメタルン。そしてバランはそんなメタルンに向かって一言呟いた。

 

「……私の防具も作ってくれないか?」

「ピギ? ピギィピギィ!」

 

 全身で頷くそぶりを見せるメタルンを見て、どうやら了承してくれたようだとバランは思う。

 ソアラの装備を見て、バランも自分用のメタルキング防具が欲しくなったようだ。何せ現在の自分の防具よりも、ソアラの服のしゅび力が高いとなればそうも思おう。

 こうして、武器にオリハルコンの神剣である真魔剛竜剣。防具に全身メタルキング装備という、史上最強の竜の騎士が誕生する事となった。後の魔王軍の命運や如何に。

 

 

 

 

 

 

 ディーノが生きているというソアラの言葉を信じたバランは、メタルンと協力体制を取ってディーノ捜索に当たっていた。

 ずっとバランだけがディーノを捜索していると、バランとソアラが共に過ごす時間が少なくなり過ぎるだろうとメタルンが気を利かせたのだ。

 

 ディーノの風貌はバランとソアラから細かく聞き出したし、見つけるのに時間が掛かり成長したとしても、二人のオーラの質に似通った子どもを見つければいいのだろうと、メタルンは自信満々に二人に説明する。

 オーラで人物判断出来るとか、そんな事で今更バランは驚かなくなった。本当に今更だからである。

 そうして、バランは人間と変わらぬ見た目を利用して国や街などを、人の居る場所は捜索出来ないメタルンが人気のない場所を捜索する様になった。

 

 

 

 ディーノ捜索中には様々な出来事が起こった。

 バランは人間に迫害される魔族と人間のハーフの子、ラーハルトを保護し、ソアラと話し合って二人の養子とした。

 家族が増えた事を素直にバランもソアラもメタルンも喜び、戸惑っていたラーハルトも二人と一匹に徐々に心を開いていった。

 今ではバランとソアラを父母と呼び、人間にもソアラの様な心優しい者がいると僅かに歩み寄れるようになった。まあ、それでも大多数の人間は嫌っているのだが。

 なお、メタルンは家族兼ライバルである。槍を武器とし高速戦闘を得意とするラーハルトだったが、未だにメタルンに掠り傷一つ与えられない事を気にしているようだ。

 

 メタルンもまた波乱に満ちた探索の旅をした。

 メタルンは様々な場所に足を運んだ。山を越え、海を越え、空を飛び、ディーノを捜し続けた。

 念には念だとばかりに捜索しても意味なさそうなかつての魔王ハドラーの城であった地底魔城まで赴き、地底の迷宮を破壊しながら調べ尽くしたりもした。

 決して人間と魔物の溝を深めたハドラーに恨みがあったからではない。メタルキングの巨体で迷宮をくまなく調べるには、どうしても仕方がなかったのだ。だからメタルンは悪くない。それで地底魔城が崩壊したとしてもだ。

 地底魔城は崩壊したが、代わりに魂の貝殻と呼ばれる面白いアイテムを発見した。死にゆく者の魂の声を封じ込めると言われるアイテムだ。

 その中には既にとある者の魂の声が入っていた。ヒュンケルという少年に向けられたそのメッセージを聞き、メタルンは魔王ハドラーが生き延びているという情報と、大魔王バーンという更に強大な存在がいる事を知った。

 

 ――むう、大魔王バーン。どうやら地上の平和は仮初のものか……――

 

 未だに地上の平和は薄氷の上に立っている事を知り、シリアス風味にスライム顔をきりっとさせるメタルン。

 三秒もすれば満足したのか元のスライムスマイルに戻っていたが。

 

「ピギギ!」

 

 ――ま、地上を攻めるってんなら相手になってやんぜ!――

 

 大魔王バーンがいずれ地上征服に乗り出すというのなら、その時には全力で相手をしようと思い、とりあえずメタルンは魂の貝殻を頭上の冠内に入れてディーノ捜索の続きを行う。いずれヒュンケルという少年に出会ったら、この貝殻を渡して上げるつもりだった。

 その次の日、メタルンはヒュンケルと出会いましたとさ。

 

 

 

 それはメタルンがディーノ捜索している最中の事だ。激流に流される一人の少年を見つけたのだ。

 助けなければ。そう思ったメタルンだが、その前に一人の魔族がその少年を激流から拾い上げた。

 そこまでなら喜ばしい事だ。魔族だからと邪険に扱うつもりはメタルンにはない。だが、その魔族がその少年、ヒュンケルに向ける感情は、決して善性の物ではなかった。

 

 その魔族の名はミストバーン。その名の通り、バーンに仕える側近中の側近であった。

 そんな彼が何故ヒュンケルを救ったのか。それは、ヒュンケルが類稀なる素質を持つ戦士だったからだ。

 魔王ハドラーを倒し、父の仇と思い込んでいる勇者アバンに憎しみを抱き、そして同時に憧れも抱いているヒュンケル。

 そんなヒュンケルは暗黒闘気と呼ばれる負の闘気の才能が非常に高かった。幼い内から自らの暗黒闘気に馴染む最高の肉体を育て上げれば、いずれ何かあった時に素晴らしい器となるのでは。

 そう、邪悪な意思を籠めてヒュンケルを見つめるミストバーンだったが、邪悪な意思を発したのが失敗となった。

 

「ピギィ!」

「ぐはっ!?」

 

 突如として、ミストバーンは吹き飛ばされた。そしてその勢いのままに岩肌へと叩き付けられる。

 一体何事かと思い見上げると、そこには宙に静止している一体のメタルキングがいた。

 

「き、貴様……!」

 

 そのメタルキングはミストバーンも既知の存在だった。空を飛ぶメタルキングなど、ミストバーンの知る限りで一体しかいない。他にいてたまるものか。

 そう、主である大魔王バーンとミストバーン、そしてミストバーンと同じくバーンの側近のキルバーンの三人で伝説の竜の騎士を部下にすべく監視をしていたところで、その竜の騎士と戦いあしらったという理外のメタルキングだ。

 

 このメタルキングのせいで、人間を憎むようになったはずの竜の騎士が今一歩の所で踏みとどまり、スカウト自体が出来なくなったという苦い記憶をミストバーンは思い出す。

 一体何故そのメタルキングがこの場にいるのか。そう疑問に思ったミストバーンは、メタルキングが口に咥えている存在を見て驚愕する。

 

「なっ!?」

 

 いつの間にか、ミストバーンが抱きかかえていたヒュンケルをメタルキングが奪い取っていたのだ。

 ミストバーンを吹き飛ばす勢いでぶつかっておき、それと同時にミストバーンからヒュンケルを奪い取る。まさに常識の理外にあるメタルキングだ。

 

「ピギギィ! ピーピギピギィ!」

 

 そこのお前さん。この子に何をしようと企んでたんだ? ただで助けたとは言わせねーぜ? しかも、その身体から闇の闘気は感じるが、生命力自体は何故か感じ取れない。お前は一体何者だ! もしや大魔王バーンと関わりのある者か? 答えてもらおうか!

 

 という意味合いを籠めた言葉だが、まあ当然通じるわけもなく、ミストバーンは無言を貫くしかなかった。

 

「……」

「……」

 

 互いに無言で見つめ合う。両者共に相手の動きを待っているようだ。そして、ミストバーンが先に行動した。

 その動きは、大魔王バーンの元に帰還するというものだった。ヒュンケルという器は惜しいが、完成した器というわけでもなく、この理外のメタルキングと争ってまで手に入れなければならない程ではない。

 むしろこのメタルキングと争ってしまった場合のデメリットが大きすぎる為に、ミストバーンは撤退を選んだ。

 

 リリルーラと呼ばれるルーラの一種を用い、瞬間移動して消え去るミストバーン。様子を見ていたメタルンに対処出来る訳もなく、メタルンはミストバーンを見逃す事となった。

 

「ピギィ……」

 

 ――不気味な存在だったな。しかも、かなり強いと見た――

 

 ミストバーンに対してそういった感想を抱きつつ、メタルンは口に咥えている少年に目をやる。

 どうやら気絶しているだけで無事なようだ。そう安堵すると、メタルンは周囲を飛び回り人がいないか確認する。

 激流を遡り、上空から地上を眺めていると、川辺の崖で呆然と佇む一人の男性を見つけた。少年に関して何か知っているかもしれないと思い、メタルンはその男性に声を掛ける。

 

「ピギ!」

「はっ!? め、メタルキングが空を飛んでいる!?」

 

 例によって例の如く言葉は理解されないし、例によって例の如く空を飛ぶという奇行に驚かれる。メタルンにはもうお馴染みの反応である。

 

「ああ! ヒュンケル!」

「ピギ?」

 

 男性が少年に向けて名を叫ぶ。心配そうな気配と、安心している気配の二つを感じ取り、どうやら彼は事情を知ってそうだとメタルンは男性の前に降り立つ。

 口に咥えていた少年を離すと、男性は慌ててその少年へと駆け寄った。

 

「う……」

「無事ですかヒュンケル!?」

「ピギギ?」

 

 どうやら少年の名はヒュンケルというらしい。そして、メタルンはその名に聞き覚えがあった。

 そう、先日手に入れたばかりの魂の貝殻でその名を聞いたのだ。

 

「こ、ここは……」

「ヒュンケル、良かった……目覚めたんですね」

「はっ!? アバン! く……覚悟!」

 

 気絶から目覚めたヒュンケルは、自分を心配そうに見つめるアバンに向かって攻撃し出す。もっとも、武器もない状況では子どものヒュンケルにまともな攻撃など出来はしないのだが。

 

「お、落ち着きなさいヒュンケル! 私の話を――」

「うるさい! 何故オレを助けた!? 哀れんだつもりか!!」

 

 どうやらヒュンケルはアバンに助けられたと勘違いしたようだ。命を狙った相手に助けられる、まさに屈辱と言えるだろう。

 アバンへの怒りを更に募らせたヒュンケルは、アバンの言葉に一切の耳を貸そうとしなかった。

 どうすればいいのか。そう思っていたアバンだったが、思わぬ所から助け舟が来た。そう、メタルキングである。

 

「ピギ!」

「がっ!?」

「な、なんと!?」

 

 メタルキングが暴れるヒュンケルに頭突きをかましたのだ。あまりの激痛にヒュンケルは思わず頭を抑え涙を滲ませる。

 気絶も許さず、かと言って致命傷も与えず、それでいて激しく痛いという絶妙な加減での頭突きにアバンは思わず目を見張った。彼の感性も大概可笑しいのかもしれない。

 

「ピギギィ! ピギピギピギィ!」

 

 ――へい坊主。一度落ち着いて話を聞きな――

 

「うぐぅ……な、何だこのでかいスライムは!?」

 

 メタルンが何を言っているのか理解出来ないが、あまりの痛みにアバンに食い掛かるのを取り敢えず止めたヒュンケルは、そこでようやくメタルンの存在に気付いた。

 そうしてメタルンに驚愕するヒュンケルに、メタルンは王冠の中に忍ばせておいた魂の貝殻を渡す。身体を一瞬上下に揺らし、飛び出た魂の貝殻を口に咥え、ヒュンケルに向けて差し出したのだ。

 

 ――き、器用ですねこのメタルキング……――

 

 一連の動きの無駄の無さにアバンが驚愕する中、ヒュンケルはいきなり差し出された貝殻に戸惑っていた。

 

「な、なんだこれは……?」

「これは……魂の貝殻ですね。死にゆく者の魂の声を籠めると言われているアイテムです」

「そ、そんな物をオレに渡してどうしろと言うんだ!」

 

 何が何だか分からないヒュンケルは、メタルンに向けて怒鳴り散らす。だが、メタルンはそんなヒュンケルの癇癪を無視し、ヒュンケルに向かってずずっと近付き、咥えていた貝殻をその手に乗せる。

 

「聞いてみてくださいヒュンケル。きっとこのメタルキングは、あなたに伝えたい事があるのです。それが、この貝殻に籠められているのだと思います」

「……」

 

 アバンの言葉など無視したいヒュンケルだったが、モンスターに育てられた経験を持つヒュンケルとしては、メタルキングの想いを無碍にする事は憚られた。

 そうして恐る恐る魂の貝殻を耳に当てるヒュンケル。そこで彼は、育ての父の遺言を耳にした。

 

「こ、これは!!」

 

 その遺言を聞き、ヒュンケルはアバンが父の仇ではないのだと知った。

 父が自身をアバンに託したという真実。アバンが父に止めをささなかった真実。父に止めをさしたのがハドラーだという真実。そしてハドラーの背後にいる大魔王の存在。

 全てを知ったヒュンケルは、アバンに向けて叫んだ。

 

「な、何故だ! オレが父さんの仇とアンタを恨んでいるのを知ってて、どうしてここまで育ててくれたんだ!?」

「あなたを人のぬくもりの中で育ててほしい。それがバルトス殿との約束でしたから。もっとも、私がぬくもりを与えるまでもなく、あなたはバルトス殿から多くのぬくもりを貰っていたようですが」

 

 ここから先は巻いてお送りいたします。 

 

 先生……オレは……!――

 いいんですよヒュンケル――

 ピギィピギィ――

 先生……メタルキング――

 ヒュンケル。今のあなたなら、きっと真の戦士になれます。もはやあなたに邪気など感じられませんから――

 先生! ハドラーはまだ生きてます! それに大魔王という存在まで――

 何ですって――

 オレをもっと鍛えてください。オレは、先生の下でもっと強くなりたい――

 ヒュンケル――

 先生――

 ピギィ――

 

 解り合う二人。涙するメタルキング。ハドラーの復活、その裏に潜む大魔王バーン、新たな魔王軍の脅威、それらに対抗する為にも、二人で精進しつつ世界中の有望な若者を育てよう。

 そういうことになった。

 

 目下の目標としてヒュンケルがアバン流刀殺法を極めるまで修行し、その後世界各地の有望な若者をスカウトしようという流れになり、二人はメタルキングに向かって礼を述べる。

 

「感謝しますよメタルキングさん。あなたのおかげで私たちの蟠りはなくなりました」

「ああ。オレからも礼を言わせてくれ。父さんの言葉を届けてくれてありがとう」

「ピギギィ!」

 

 ――いいってことよ!――

 

 メタルンはスライムスマイルを更にスマイルにして、二人の礼に応える。二人もメタルンが良い意味で受け取ってくれたと理解したようだ。言葉の意味は分からないが。

 

「ピギギィ! ピィギギィピギィ!」

 

 ――それじゃ、頑張ってね! 大魔王と戦う時は共に往こう!――

 

 そう告げて、メタルンは空の彼方へと去って行く。彼にはディーノを捜し出すという使命があるのだ。

 空に消えたメタルンを見つめ、二人はどちらとなく喋り出す。

 

「行っちゃいましたね……」

「はい。空を飛んで行きましたね……」

「先生……メタルキングってルーラ使えるんですね」

「いえ……あれはルーラじゃありません。魔法力ではなく闘気の放出の勢いで飛んでいるようでした……」

「そうなんですか……」

「そうなんです……」

 

 二人は、しばらく呆然とメタルンが消えた空に向かって呆けていた。修行の再開は後日となったらしい。

 

 

 

 

 

 

 メタルンは走る。大地を、空を、海を。世界中を駆け巡り、家族となった者達の息子を捜し続ける。

 そうしてバランと共にディーノを捜索し続けて早四年。ついにメタルンはディーノと思わしき少年を発見した。

 

「ピギィ……!」

「わあ! おっきいし、ゴメちゃんと違う色だけどきれいなスライムだね! ねえ、ボクのトモダチになってよ!」

 

 その少年は、メタルンを見て目を輝かせて巨大なメタルキングに近付いてきた。何も疑う事のない純粋性を持つ少年の様だ。

 そして、ソアラに似ている少年の瞳を見て、ソアラに似ている顔つきを見て、ソアラに似ていながらもその内にバランそっくりのオーラを秘めているのを見て、メタルンはこの少年こそがディーノだと確信した。

 

「ピギィピギィピギピギィ!!」

 

 メタルンは喜んだ。苦節四年。ようやく目的の少年と思わしき人物を見つけ出したのだ。これでソアラとバラン、そしてラーハルトに最高の報告が出来る。家族全員がようやく揃うのだと、全身で喜びを表現した。

 何度も何度も飛び跳ね、秒間百回転ほどの速度で回転し、摩擦熱で地面から煙が出始めた所でようやくメタルンは落ち着いた。

 そんなメタルンを見て少年はドン引きする……事はなく、むしろメタルンが喜んでいる事が分かって少年もまた喜んでいた。

 

「そんなにうれしいとボクもうれしいよ。ねえ、こっちにおいでよ。いっしょにあそぼう!」

「ピギィ!」

 

 ――ま、まさにソアラの子ども! 聖者かこの少年!?――

 

 ソアラと同じく太陽の様に暖かな心を持つ少年を見て、メタルンはますます彼こそがディーノだという確信を深める。

 こうしてはいられない。少年の誘いを断るのは辛いが、ずっと息子との再会を待っているあの二人を思うと、一刻も早くこの報せを届けなければとメタルンは思う。

 

「ピギギィ! ピーギギピギィ!」

「え? いまはダメなの? またきてくれるの? ……わかった。ボク、まってるからね!」

 

 メタルンの言葉の意味を理解しているその様は、まさにソアラそのものだ。

 メタルンはその事実を嬉しく思いつつ、全速力でバラン達が待つ家へと飛んで行く。

 

 

 

 海を越え、山を越え、森を越え、そうして帰り着いた我が家。

 そうして帰って来たメタルンは全速力のままにドアに直撃し、メタルキング型の穴を開けてそのまま家の中に入り込んだ。

 

「な、何事だ!?」

「母上! お下がりください!」

 

 すわ何者かの襲撃かと、バランとラーハルトが迎撃体勢を取りながらソアラを庇える位置に移動する。流石の動きである。

 だが、目の前に現れたのがメタリックデップリスマイルなのを確認すると、バランもラーハルトもすぐに警戒を解いた。

 

「なんだメタルンか。全く、驚かすんじゃない」

「父上の言う通りだ。ドアまで壊しおって……。ほら、手伝ってやるからさっさと直すぞ。このままじゃ母上が風邪を引いてしまうだろう」

 

 メタルンをライバルと思っていながらも、何だかんだ家族として認めているラーハルトがツンデレを発揮する。

 普段なら、このツンデレめ! とラーハルトをからかう所――意味は伝わっていないが、おちょくられている事は伝わりラーハルトは激怒する――だが、そんな場合じゃないとばかりにメタルンは鳴き叫ぶ。

 

「ピギピギィ! ピギィ! ピギィ!」

「ええ!? ディーノを発見したですって!?」

「な、何だとぉぉ!!」

「そ、それは本当かメタルン!」

 

 例によって例の如くソアラがメタルンの言葉を翻訳すると、その内容に誰もが驚愕した。

 バランとソアラは当然として、実の息子ではないラーハルトですら二人の子どもであるディーノの発見を待望していたのだ。そこに発見の報告があれば驚愕して然るべきだった。

 

「ど、どこだメタルン! 連れてこなかったのか!? 何をしているんだ!!」

 

 四年間探して見つからなかった息子が見つかったという突然の報せに興奮し、バランは何故この場に連れてこなかったのかとメタルンに詰め寄る。

 そんなバランに対し、メタルンは事情を説明した。翻訳はソアラだったが。

 

「ピギギィ。ピーギギィ」

「連れてきたかったけど、もし人違いだったら人攫いになってしまうから、まず私とあなたの二人に見て貰うのが先決だと思って、こうして帰って来た……ですって」

 

 もう言葉の意味が何となく理解出来るとか、そんなレベルではない完璧な翻訳をこなし、ソアラはバランにメタルンの言葉を伝える。

 

「そ、そうか……そうだな。ああ、すまなかったメタルン……ディーノが見つかったと聞いて、つい興奮してしまったようだ」

「ピギギィ」

 

 ――気にするなよ。気持ちは分かるさ――

 

 その言葉は翻訳されずとも理解出来たのか、バランはメタルンの優しさに素直に感謝する。

 

 そうしてバランが落ち着いた所で、メタルンがディーノと思わしき少年の居場所までバランを案内する事が決まった。

 バランがその場所まで辿り着きさえすれば、後はバランがその場所にルーラで移動出来るようになる。そうすればバランがルーラでソアラ達を連れてくる事も簡単になる訳だ。

 

 そうと決まれば善は急げだ。バランはメタルンを急かし、急ぎディーノの元へと飛んで行こうとする。急かされたメタルンの全速力に着いて行けなくなったが。

 そうして僅かなハプニングはあったが、バランはようやくその少年がいる場所。怪物島と呼ばれるデルムリン島へと到着した。

 そして、ついに親子の再会を果たしたのであった。

 

 

 

 

 

 

「あ、かえってきてくれたんだね! あれ? おじさんだれ? もしかしてにんげん? わあ! ボク、じぶんいがいのにんげんってはじめてみた!」

「お、おお……!!」

 

 メタルンの姿を発見し、約束どおり帰って来てくれたと喜ぶ少年。そして、メタルンの隣に立つバランの姿を見つけ、自分と同じ人間を見たのは初めてだと無邪気に喜ぶ。

 そんな少年を見てバランは震え、そして咽び泣いた。間違いない。大きくなっているが、彼こそが自分とソアラの息子――

 

「ディーノ……!」

 

 そう、ディーノであった。

 

「でぃーの? だれそれ? ボクのなまえはダイだよ」

 

 バランの呟きに対して彼はそう答える。どうやら生まれた時に付けられた名前は覚えておらず、この島に来てから付けられた名前を自分の名前と思っているのだろう。

 無理もない。生まれたばかりの記憶など残っている訳もなく、物心ついた頃からダイと呼ばれて育てばそうもなろう。

 

「ダイ……いや、お前の名は……」

 

 ダイではなく、自分の息子であるディーノだと主張しようとしたバランは、しかし咄嗟に口を噤む。

 子どもであるダイにそんな事を強いた所で理解されるはずもなく、反発を生むだけだ。そうなっては折角の親子の再会が台無しになってしまうだろう。

 それを理解したバランは、今は幼いディーノに詰め寄るべきではなく、ディーノをここまで育てただろう存在に話を伺おうと決める。

 

「ディ……だ、ダイよ。お前を育ててくれた者は近くにいるか?」

「じいちゃんのこと? こっちにいるよ!」

「そうか。案内してくれるか?」

「ピギィピギィ!」

「うん!」

 

 人を疑う事をまだ知らない純粋無垢な少年は、バランとメタルンの申し出を快く受ける。

 そんな風に育ってくれた事を嬉しく思いつつ、バランは息子の育ての親と緊張の対面を果たす。

 

 果たしてその緊張の対面は、非常に穏やかな結果に落ち着いた。

 

 ディーノを拾い、ダイという名を与えて育て上げた存在。それはブラスと呼ばれる鬼面道士、すなわちモンスターであった。

 モンスターだが、魔王の支配からは自由となり、多くのモンスター達と共に人間と争わぬ様にデルムリン島に移り住んだ心優しい鬼面道士。それがブラスだ。

 そんなブラスがデルムリン島で暮らしていると、デルムリン島の海岸に一艘の小船が浮かんでいるのを見つけた。気になったブラスがその小船を確認すると、そこには赤ん坊が一人だけ乗っていたのだ。

 その赤ん坊こそがディーノであった。と言っても、赤ん坊の名を記す文字はあるにはあったが、頭文字のD以外は擦れて読めなくなっていた。そこでブラスは、せめて頭文字だけでも同じ名前がいいだろうと、赤ん坊にダイと名付けたのだった。

 

 その方が赤ん坊の両親も喜ぶだろうというブラスの言葉に、心意気に、バランは深く感謝した。

 そんなバランからの説明を受けて、ブラスもバランがダイの本当の父親だと理解した。ディーノが遭難した時期、ダイの年齢。そしてバランの必死の想いが籠められた説明。

 それら全てを見て、バランの言葉を疑う気持ちはブラスには生まれなかった。

 

 ブラスの納得を得て、ダイがディーノだと確信したバランはすぐさまルーラでソアラとラーハルトの元に飛んだ。

 そして二人を伴ってデルムリン島に再び移動し、親子三人が感動の再会を果たした。

 

「ああ、ディーノ……!」

「おねえさん……だれなの?」

 

 自分はおじさんでソアラはおねえさんな事に若干のショックを受けるバラン。まあ、髭親父と十代後半から二十代前半の見た目の美女では仕方ない反応である。

 ソアラと出会い、そしてバランも交えてダイは知らずに親子の会話を繰り広げる。そして、徐々に二人が自分の大切な人だと実感し出した。

 純粋そのものの少年故に、二人の言葉に嘘がないと理解してきたのだ。そして、ダイは遂に二人に向かってある言葉を紡いだ。

 

「と、とうさん……かあさん……」

「おお……!」

「ディーノ……!」

 

 バランとソアラは涙してダイに抱きつく。それを嬉しそうに、ダイもまた二人に抱きつくのであった。

 そして、3人はしばしの間泣きながら抱き合うのであった。そんな三人を眺めつつ、ラーハルトも感動の涙を人知れず流す。人ならぬメタルンには見られていたが。

 

 そうして感動の対面がなされた後、各々で今後の話し合いが行われた。

 

「あなた。この子の名前はダイでいいんじゃないかしら」

「……そうだな。ブラス殿が付けてくれた立派な名前だ。この子もその方が嬉しいだろう」

 

 ソアラの提案に、バランは若干ディーノの名に心残りを抱きつつも、賛成の意を示した。

 そんな二人の心遣いに、ブラスも深く感謝する。

 

「ワシの想いまで汲んでくださるとは……ありがとうございます」

 

 ここから先は巻いてお送りいたします。

 

 ねえあなた、ラーハルト。どうせなら皆でここに引っ越すというのは――

 ふむ……それもいいかもしれんな――

 よこしまな気配もない良い島です。オレも賛成です母上――

 ピギィピギィ――

 あら、あの家をここまで運んで来てくれるの? ありがとうメタルン――

 家を運ぶってどういうことじゃ?――

 ボクむずかしいことわかんない――

 

 ダイがブラスや島の友達と別れる事がないよう、バラン達がデルムリン島に引っ越す。森に建てた家はメタルンが壊さないよう担いで持ってくる。

 そういうことになった。

 

 こうして、バラン達のデルムリン島での新たな生活が始まった。

 

 








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