どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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ダイの大冒険 第五話

 ダイ達はデルムリン島から旅立ち、大魔王バーン率いる魔王軍の魔の手から人々を救おうとする。その前に、ダイ達は全員がデルムリン島で装備を充実させていた。装備を整えるのはRPGの基本なのである。

 

 ダイはメタルキングのつるぎを装備した。メタルキングのとういを装備した。メタルキングのこてを装備した。メタルキングのズボンを装備した。メタルキングのひたいあてを装備した。メタルキングのくつを装備した。メタルキングのマントを装備した。ソアラのおまもりを装備した。

 バランは真魔剛竜剣を装備した。メタルキングのよろい(軽鎧・全身)を装備した。メタルキングサーコートを装備した。ドラゴンファングを装備した。ソアラのおまもりを装備した。

 ラーハルトはメタルキングのやりを装備した。メタルキングのよろい(軽鎧・全身)を装備した。メタルキングのマントを装備した。ソアラのおまもりを装備した。

 アバンはメタルキングのつるぎを装備した。メタルキングのとういを装備した。メタルキングのこてを装備した。メタルキングのズボンを装備した。メタルキングのくつを装備した。メタルキングのマントを装備した。

 ヒュンケルはメタルキングのつるぎを装備した。メタルキングのよろい(重鎧・全身)を装備した。

 ポップはかがやきのつえを装備した。へんなベルトを装備した(していた)。メタルキングのたびびとのふくを装備した。メタルキングのマントを装備した。

 

 旅立ちの勇者一行とは思えない装備の充実ぶりである。そんな装備で大丈夫か? そう聞かれたら誰もがこう答えるだろう。大丈夫だ問題なさ過ぎる。

 しかも、これらの装備はメタルンが十数年に渡り磨き上げた技術で作られていた。ソアラに贈った装備から始まり、女性が装備するには味気ないメタリックカラーをどうにか出来ないかと幾度となく改良を繰り返された現在のメタルキング糸製の衣服は、市販の衣服とそん色ない見た目とバリエーションを得るに至っていた。

 それだけではない。メタルンの闘気を混ぜながら加工することで、ただ装備の形に形成するよりも遥かに頑強に、そして柔軟になったのだ。特殊な機構を作り出す事にも成功し、バランが竜魔人に変身すると鎧もそれに合わせて変化するようになっている。匠の拘りの一品であった。

 

「それじゃ、行ってくるね母さん!」

「身体に気をつけるのよダイ」

 

 旅立ちの前にソアラと挨拶を交わすダイ。そしてソアラに抱きしめられ、少し照れくさそうに笑う。

 

「ラーハルト。ダイが無茶をしないように見てあげてね」

「ご心配されるな母上……。ダイは必ずやオレが守ります」

「あなたも無事でいるのよ」

 

 そう告げて、ソアラはラーハルトを優しく抱きしめた。そして次にバランと向かい合う。

 

「あなた……」

「ああ……」

 

 ――2人をお願い――

 ――任せておけ――

 

 長い言葉は必要ない。それが2人の絆を示していた。

 バランはソアラを抱きしめ、そしてメタルンに向かって念を押した。

 

「留守を頼んだぞメタルン。ソアラを絶対に守れよ」

「ピギギィ!」

 

 ――任せとけ! ソアラには毛ほどの傷もつけさせないぜ!――

 

 何を言っているのかは細かくは分からないが、流石に長年の付き合いか力強い瞳で頷いているのは理解出来た。

 メタルンを信頼しているバランはそれだけで十分に納得し、ダイと共に魔王軍を打ち倒す旅に出る。

 

「先生……」

「どうしたんですかポップ?」

「オレ達、こんな装備を貰っていいんですかね……何と言うか、初っ端から装備するもんじゃない気がするんすけど……」

「言いたい事は分かる……分かるぞポップ……」

 

 ポップの言葉にヒュンケルが珍しく同意する。旅に出るならと、いつの間にかアバン達一行の分の装備を拵えていたメタルンにメタルキング一式装備を渡された時の何とも言えない感覚。

 本来なら嬉しい事だ。戦士として、強い武器は歓迎すべきものだ。身の丈に合わぬ装備は強くなったと勘違いして身を滅ぼすが、彼らは十分な強さを持っているので問題ないだろう。

 だが違うのだ。こんな凄まじい、伝説の武具と言っても過言ではない装備をあんなにポンポンと、しかも魔王軍との戦いが始まる前に渡されてしまっては、感慨というものがなくなってしまうのだ。

 戦力の充実は望ましい事なのだが、どうしても納得出来ない何かが彼らの心中に渦巻いていた。

 

「メタルンの奇行に驚いていては身が持たんぞ」

「父上の言う通りだ。それにだヒュンケルよ。身の丈にあった武具を持つのも戦士の務め。お前ほどの戦士が市販の武具を装備しているなど、むしろ興ざめだったぞ」

「……あれでも世に出回っている中では早々お目にかかれない代物だったのだがな」

 

 ラーハルトの言葉にそう返すが、今まで装備していた武具と今の武具を比べるとその差は歴然だ。そしていつにない充実感を感じていた。自分が振るうに値する武器を手にする事が出来た戦士の昂揚感だ。

 そんな昂揚感を実感しているヒュンケルに対し、アバンが念を押す忠告をした。

 

「あなたには意味のない説法かもしれませんが、装備の強さを自分の強さと勘違いしてはいけませんよ?」

 

 そう、身の丈にあった武具を持つのも戦士の務めとラーハルトが言ったが、逆に言えば身の丈に合わない装備をして、装備の強さを自分の強さと勘違いしてしまえばどうなるか。

 そんな者は近いうちに痛い目に合うだろう。それが痛い目で済めばいいのだが、下手すれば命を失うばかりか、仲間まで危険に晒してしまう可能性すらある。そうならないよう、アバンはヒュンケルにそう言ったのだ。

 アバンの忠告にヒュンケルは頷いて応える。その忠告は分かりきっている事だが、それでも口に出して注意する行為は大事な事だとヒュンケルも理解していた。

 

「では行きましょう。まずはデルムリン島の北にあるロモス王国へ!」

 

 アバンの掛け声と共に全員がデルムリン島から旅立った。アバンとポップがルーラを発動させると、2人の身体に触れている者全てが一緒になって飛んで行った。

 ルーラは術者が思い描いた場所へと自動で飛行移動する呪文だ。その際、術者の身体に触れている者も一緒に移動させる事が出来る。トベルーラと違って移動の自由度はないが、その速度はルーラが圧倒的に上だ。

 そしてアバンは世界中を旅しており、世界中にある国々へとルーラで移動する事が出来る。ルーラで移動出来る場所を増やす為にアバンによって世界各地を案内されたポップも同様だ。

 そうしてアバン達は一瞬にしてロモス王国へと移動したのであった。

 

「行っちゃったわね……」

「ピギィ」

 

 ――うん。まあダイ達なら心配しなくても大丈夫だよ。その内大魔王を倒して普通に帰って来るって――

 

 ダイ達がルーラで飛び立った後を心配そうに見つめるソアラに、メタルンが安心しろと声を掛ける。

 その言葉にソアラも頷き、夫と息子の無事を祈ってから、今後の己の仕事をこなそうとするのであった。

 

「さあ、それじゃあハドラーさんとでろりんさん達の修行をしましょうか」

「ピギィ! ピギギィギィ! ピーギギピーギギピギィ! 」

 

 ――うむ! 時は待ってはくれん! 一刻も早く強くならねばならん! その為にハドラー、お前に紹介する人物がいる! 私の親友のソアラだ! 彼女には修行の効率の為に私の言葉を翻訳してお前達に伝えてもらう事になっている!――

 

「と、言っているわ」

「お、おう」

 

 メタルンの言葉が理解出来るというのも驚きだが、元魔王であり多くの人間を苦しめてきた自分に気兼ねなく話し掛けるソアラにハドラーは動揺する。

 

 ――この女、このオレが恐ろしくないのか?――

 

 魔王の名も舐められたものだな。そう思ったハドラーは少しばかり脅してやろうかと考えた。

 

「ピギギィ……ピギィ」

 

 ――なお、ソアラに僅かでも危害を加えたら……こうなる――

 

 そう言って、メタルンはその場から消え去った。その動きを見切る事が出来ず、思わずメタルンを探すハドラー。

 そしてハドラーは見た。巨大な岩が突如として空中に吹き飛び、その巨体が徐々に徐々に削れていく様を。よく目を凝らすと超高速で動く何かが岩の周囲にいる事に気付く。恐らくメタルンだろうとハドラーが思っていると、巨大な岩がある形になって大地に落ちてきた。

 全長5mはあった岩は、立派なラッキョヘアーを携えたとある魔族の彫像へと変化していた。鏡などで見覚えのあるその姿にハドラーは目を瞠るが、次の瞬間に戦慄する事となる。

 出来上がったばかりの彫像の上にメタルンが急降下してきたのだ。メタルボディとただの岩。どちらが硬いかなど言うまでもなく、ラッキョヘアーをしたとある魔族の彫像は木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

「ピギィ? ピギギィ」

 

 ――理解したな? 忠告はしたぞ――

 

「と、言っているわ」

「毛ほどの傷もつけんと誓おう」

 

 それはそれは立派な宣誓だったそうな。

 

「もうメタルンったら。そんなに脅したらハドラーさんが可哀想よ?」

「ピギギィ。ピーピギィ」

 

 ――念には念を入れないとね。ソアラに何かあったらバラン達に合わす顔がないよ――

 

 などとソアラとメタルンは楽しげに会話しているが、ハドラーやでろりん達は恐怖に慄いていた。

 修行中に間違ってもソアラに攻撃の余波が行かないようにしなければならない。魔族であるハドラーと人間であるでろりん達の心中が一致した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 ハドラー達が地獄の修行を開始した頃、アバン率いる一行はロモス王国へと到着した。

 アバンはすぐにロモス王の下へと移動した。魔王ハドラーを討ち世界を平和に導いた勇者アバンの名は有名だ。それにアバンは来る魔王軍襲来に備えて各国の指導者と懇意になっていた。

 そのおかげでほとんど顔パスでアバン一行はロモス王と面会する事が出来た。そしてアバンは伝えた。新生魔王軍が動き出した事を……。

 

 幸いと言っていいのか。魔王軍は本格的な活動を始めていなかった。大魔王バーンがハドラーの帰りを3日間は待った上に、魔軍司令の異動による軍事関係のゴタゴタがあって軍団が一時的に麻痺していたのだ。

 その上アバン達がデルムリン島を出立したのはハドラーが魔王軍から離反した次の日であり、ルーラにより移動時間はほぼ皆無。つまり未だに世界中のどの国も魔王軍に襲われていない状況だった。

 

 当然ロモス王国も魔王軍の脅威に晒されていない。危機に陥っていない人間は、これから危険が迫ると言われてもそう簡単には信じないものだ。

 だが、ロモス王は心優しく民思いで、そして愚王ではなかった。勇者アバンの言う事ならば真実なのだろうとアバンの説明に納得し、国を挙げて魔王軍に対応する決断を取った。

 王国の兵士を動員して混乱が起こらないように民に魔王軍の説明と説得をする。アバンの助言により勇者アバンの勇名も利用した事で、民の混乱は最低限に抑えられた。これはロモス王が名君であった事も要因だろう。民を想う優しい王だと民からも理解されていたのだ。その王が言う事ならばと民も納得したのだろう。

 

 そうしてロモス王国の準備が整ったのを確認したアバンは、他の国々にも魔王軍始動の報告をしにルーラで飛んで行った。

 アバンが各国を回り説得したおかげで全ての国が対魔王軍の準備を取る事が出来た。と言っても、軍を動かすには非常に手間が掛かる。全ての準備が整うまで魔王軍が動かないか、それは然しものアバンも分からなかった。

 そうしてアバンが各国との間で色々と準備を整えた後。とうとう魔王軍が世界各国に向けて侵攻を開始した。

 

 ロモス王国には獣王クロコダイン率いる百獣魔団が。パプニカ王国には不死将軍デスカール率いる不死騎団が。オーザム王国には氷炎将軍フレイザード率いる氷炎魔団が。ベンガーナ王国には妖魔司教ザボエラ率いる妖魔士団が。カール王国には魔影参謀ミストバーン率いる魔影軍団が。リンガイア王国には超竜将軍ベグロム率いる超竜軍団が。

 魔王軍が誇る六大軍団と、それらを率いる恐るべき軍団長が人間達に恐怖と絶望を振り撒く為に動き出したのだ。

 

 

 

 一方その頃。ハドラーはメタルンを相手に全力で戦っていた。

 

「オレの火炎(メラ)は地獄の炎……! 貴様を焼き尽くすまではけっして消えん!」

 

 ハドラーはメラをとなえた!

 メタルンにはきかなかった!

 

「な、ならばこれだ! 消えうせろォォーーッ!!」

 

 ハドラーはイオナズンをとなえた!

 メタルンにはきかなかった!

 

「バ……バカな! 極大爆裂呪文(イオナズン)が……!!?」

「ピギィ!? ピギーギギィピギギィ……!!」

「忘れたのか!? この私のメタルボディはいかなる攻撃呪文も受けつけんことを……!! と、言っているわ」

 

 この世界とは違う、極めて近く限りなく遠い世界で、どこかの誰かがラッキョヘアーからオールバックに進化した魔軍司令に向かって放った台詞をハドラーに向かって吐くメタルン。

 いくらメタルキングが攻撃呪文を弾くとはいえ、自分の極大呪文ならば僅かにも通用すると思っていたのか、あれだけの爆発の中から無傷で現れたメタルンにハドラーは戦慄を隠しきれなかった。

 

「ピギギィ! ピギィーー!!」

「覚悟しろ! ハドラァーー!! と、言っているわ」

「させんわい!」

 

 ハドラーをフルボッコしようとしたメタルンに向かってまぞっほがヒャダルコを放つ。キラーマシンにやったようにメタルンの表面だけでも凍りつかせ、動きを阻害しようとしたのだろう。

 そして動きが止まった瞬間をでろりん達が狙う。でろりん達はまぞっほがヒャダルコを放った瞬間にメタルンに向けて駆け出していた。

 

「ピギギギィ! ピギギィギギィ!」

「ヒャダルコではなぁ! この私を凍結しようという気概は認めるが、せめてマヒャドを覚えてからにするんだなぁ! と、言っているわ」

『ぐわあああぁぁっ!?』

 

 ソアラが翻訳し終わる前に、メタルンの超高速攻撃によってハドラー達はまとめて吹き飛ばされた。それにしてもこのソアラ、ノリノリである。結構翻訳が楽しいようだ。

 

『つ……強すぎる……』

「ピギギィ!」

「まだまだ修行が足らん! と、言っているわ。さて、そろそろ時間だから休憩にしてお昼ご飯にしましょう」

「ピギィ!」

 

 ――大盛で!――

 

「分かっているわメタルン。さ、ハドラーさんもでろりんさん達も、一緒に食事にしましょう」

「ふん! 勝手に食ってろ! オレは1人で修行している! そもそもだ! 魔族のオレが人間なんぞと一緒に飯など食えるか!」

 

 ソアラの誘いをハドラーはそう言って拒絶する。そんなハドラーに対してメタルンが何か言おうとするが、それをソアラはそっと制した。そしてハドラーに向けて優しい笑みを浮かべて言う。

 

「分かったわ。でも、修行ばかりしても効率が悪いと聞いた事があるわ。せめて食事だけでも食べた方がいいから、ここに持ってくるわね」

 

 ハドラーにそう告げて、ソアラは食事の準備に取り掛かる。メタルンも少しだけハドラーを見つめ、その後すぐにソアラの後を追った。でろりん達も悪名高いハドラーの傍にいるよりはメタルンの方がマシと思ったのか、その場から離れて行く。

 

 

 

 しばらくして、ソアラから食事を受け取ったハドラーは腕を組みながら、自分に気安く接するソアラに忌々しい感情を抱いていた。

 

「人間の女が調子に乗りおって」

 

 そう言いつつも、魔族も人間も時間が経てば腹が減る事に変わりはなく、仕方なくハドラーは食事を口に運ぶ。

 

「ぬ! ……う、うまい……」

 

 自然と口に出たその言葉に気付き、ハドラーは人間如きの食事などと思いながらも、残る食事全てを食べきったのであった。

 

 

 

 

 

 

 ハドラーがベタな人間への歩み寄りをしようとしている中、ダイ達は魔王軍と死闘を繰り広げていた。

 

 ロモス王国を襲った魔王軍の恐るべき六大軍団の一つ、百獣魔団。

 凶悪極まりない獣たちの群れは底知れぬパワーを振るい、その進軍は無人の野を行くが如しだ。

 しかもそんな凶悪なモンスターを率いるのは全ての獣を統べる王。それが獣王クロコダインだ。その膂力は六大団長随一と恐れられ、鋼鉄のように頑強な肉体と強靭な生命力を誇るリザードマンだ。

 

 恐るべき実力を持つ獣王が、恐るべきモンスター達を率いて一国を攻める。人間がこの侵攻をどれだけ耐え凌げるか。クロコダインはロモス王国に強者があってくれと願って出陣した。強者がいない国を攻めたところで面白くもなんともないからだ。

 そうしてクロコダインは、ロモス王国の城下町手前の草原にて、念願の強者に討ち取られた。

 

「ぐわあああぁぁっ!?」

「流石は軍団長というべきか。ここまでタフな敵は初めてだったぞ」

 

 ヒュンケルの剣技の前に沈むクロコダイン。他のモンスター達もアバンやポップによって多くが蹴散らされ、ロモスの兵士達も2人が倒し損ねた敵を相手に奮闘し街を守っていた。

 

「アバンストラッシュ!」

「ベギラマ! そんでもってマヒャド!」

「うおお! 勇者殿達に続けぇ! ロモスはオレ達が守るんだ!」

 

 ここに勝敗は決した。主を失い統率が乱れた百獣魔団は、アバンと共に人々を守ると決意した兵士達には敵わなかった。

 敗れ倒れていく自軍を見てクロコダインは信じ難そうに呻く。 

 

「ば、馬鹿な……人間ごときにこの獣王が……無敵の百獣魔団が……!」

「……人の団結する力を侮ったな。その心がある限り、例え何度戦おうともオレ達には勝てんぞ!」

「!?」

 

 ヒュンケルの言葉にクロコダインは悟った。強者に人間も魔族もモンスターもない。人間が脆弱だと侮るその心こそが、最も恐るべき敵なのだと。

 だが、それでも負けたままでいる訳にはいかない。自分は誇り高い魔王軍の軍団長なのだから。気合を籠め、クロコダインは重傷を押して立ち上がり、ヒュンケルに斧を向けて戦う意思を見せる。

 

「何故その傷で戦おうとする……死ぬぞ?」

「お、オレは魔王軍に、バーン様に忠誠を誓った身! 死よりもその忠誠を疑われる方が恐ろしいわ!!」

 

 その並ならぬ忠誠心にヒュンケルも圧倒される。重傷の身でありながらここまでの気迫を放てるクロコダインに、ヒュンケルは一種の尊敬を抱いた。

 それだけに惜しかった。彼がバーンに忠誠を誓っている事が……。

 

「そのバーンが、忠誠を誓う部下を切り捨てる外道だとしてもか?」

「な、なんだと!? 貴様! バーン様を侮辱するとは!!」

「魔軍司令ハドラーの真実……その様子では聞かされていない様だな」

 

 主を侮辱されて激昂するクロコダインに対し、ヒュンケルはハドラーの身に起こった真実を告げる。

 そう、黒の核晶を知らずに埋め込まれ、そして敵を道連れにする爆弾代わりに使われた事を。

 

「ば、馬鹿な! そ、そんな事あるわけがない! 出鱈目を抜かすな!!」

「……」

 

 ヒュンケルの言葉を出鱈目と決めつけ、斧を突きつけるクロコダイン。だがヒュンケルは何も言わず、ただじっとクロコダインを見つめるだけだった。

 そんなヒュンケルの瞳を見てクロコダインはうろたえる。戦った相手だからこそ、その剣を自らの身で受けたからこそ理解出来る。この男は安易な嘘を言う様な輩ではない、と。

 

「ほ、本当なのか……!」

「事実だ。ハドラーは現在バーンに屈辱を晴らすべく、デルムリン島で修行している。疑うならばその目で見て来るといい」

「う、うう……」

 

 次々と放たれるヒュンケルの言葉はどうしても嘘だとは思えなかった。デルムリン島に出向けば簡単に分かる嘘を言うはずもないし、勝者であるヒュンケルが敗者である自身を騙す理由もない。

 信頼していた大魔王バーンの真実。部下を容赦なく切り捨てる冷酷さは魔王軍のトップとしては相応しいのかもしれない。だが、情に厚いクロコダインにはどうしても受け入れられない事実だった。

 葛藤するクロコダイン。そして、迷いを晴らしたかのように目を開き、クロコダインはヒュンケルに最期の頼みをする。

 

「最早魔王軍に戻る気にはなれん! 元より敗北した身よ、戻った所で居場所などないだろう。ならば! 最後にお前の様な戦士と戦い、満足して死のう……!」

 

 戦士として戦い死ぬ。その覚悟にはヒュンケルに有無を言わせぬ気迫が籠められていた。

 

「いいだろう……!」

「最期に聞いておきたい。貴様の名は?」

「アバンの使徒ヒュンケル!」

「そうか。オレは獣王クロコダイン! 行くぞヒュンケル!」

「来いクロコダイン!」

 

 クロコダインは残る全ての力を闘気に変え、自身最強の必殺技である獣王痛恨撃を放つ。腕に闘気を籠めて放たれる闘気の渦は、大地を破壊しながらヒュンケルに向かっていく。

 それに対し、ヒュンケルもまた己の奥義で応えた。

 

「アバンストラッシュ!」

 

 大地を斬り、海を斬り、空を斬り、全てを斬る。アバン流を極めた者に使える必殺技だ。

 その一撃は獣王痛恨撃を切り裂いていき、そしてクロコダインの鋼の肉体すら切り裂いた。

 

「ぐふっ! み……見事だ」

 

 アバンストラッシュをその身に受けて片膝を地につくクロコダイン。それを見てヒュンケルは感嘆していた。

 

 ――アロータイプとはいえ、重傷を負った身で耐え抜くとはな――

 

 アバンストラッシュには二つのタイプが存在している。それがアロータイプとブレイクタイプだ。

 アロータイプは闘気を敵に放つ遠距離タイプであり、ブレイクタイプは闘気を籠めた武器の一撃を突進と共に敵に叩き込む近距離タイプの一撃だ。

 それぞれ一長一短あり、連射速度と射程はアロータイプが、威力はブレイクタイプが圧倒している。

 だが、アロータイプの威力が低いとはいえそれでも十分な威力を秘めているのがアバンストラッシュだ。それを受けてなお健在なクロコダインは恐るべき肉体の持ち主という事になる。

 

「さ、さあ……止めをさせヒュンケル……」

 

 それが勝者の役目だとばかりに言うクロコダインの言葉を、ヒュンケルはばっさりと切り捨てた。

 

「断る」

「な、何故だ……!?」

 

 血反吐を吐きながら叫ぶクロコダイン。敵対する者の命を奪わない。それが不思議でならないクロコダインに向けて、ヒュンケルは理由を口にする。

 

「オレが、お前に死んでほしくない……そう思っただけだ」

 

 そう言ってクロコダインに手を伸ばすヒュンケル。その言葉を、その行為を、クロコダインは理解しきれずに逡巡する。

 

「も、モンスターのオレに手を差し伸べるというのか……!」

「戦い、認め合った戦友に、人間もモンスターもない」

「!?」

 

 その言葉にクロコダインは衝撃を受けた。先程人間達の奮闘を前にして感じた思いと似た言葉だったからだ。

 そんな言葉を、自分が認め自分を倒した強者から聞かされる。その感動たるや如何ほどか。クロコダインは涙を流しながらもヒュンケルの手を取った。

 

 こうしてロモス王国と百獣魔団の戦いは終わりを告げた。獣王クロコダインは勇者の仲間となり、百獣魔団はクロコダインの命令により森の奥へと帰って行く。

 クロコダインはアバンに傷を癒してもらい、そしてヒュンケル達と一時の別れを告げた。今のままではヒュンケル達の足手まといとなると思い、鍛え直してから合流する事になったのだ。

 

 勇者達の快進撃はまだ続く。

 

 

 

 

 

 ハドラー達の修行は続く。休憩時間はあれど、休息日など欠片も存在しないのだ。何せ時間はない。ハドラーから聞いた魔王軍の実力を考えると、急がないと間に合わないのだ。

 今のダイ達の実力では、とてもではないが魔王軍が持たない。下手をすれば一ヶ月と掛からずにダイ達はバーンの下に到達してしまう可能性もある。そうなる前にハドラーをバーンに通用するレベルまで引き上げねば。メタルンはその使命に燃えていた。

 

「オレの地獄の爪(ヘルズクロー)で貫けぬものなどこの世にないわっ!!」

 

 ハドラーはそう言いながら己の手の甲から長い爪を伸ばす。魔法が無理なのはもう理解した。だが、物理攻撃ならばどうだ。

 例え相手がメタルキングだろうとも、鋼鉄すら容易く斬り割く己の爪ならば文字通り爪跡くらい残せるはず!

 若干ハードルが低いが、ハドラーは果敢にメタルンに攻撃を繰り出した。そして、メタルンはそれを敢えて避けずにその身で受けた。

 

 ハドラーのこうげき!

 ミス! メタルンはダメージをうけない!

 

「ば、馬鹿な……!?」

「ピギィ……。ピギギ! ピギギギィ!」

「確かに私も物理攻撃を無効化する事は出来ん……。だがな! このメタルボディを傷つけたいならばその十倍以上の威力で攻撃するんだな! と、言っているわ」

 

 ソアラの通訳が終わった所で、メタルンはハドラーに向かって攻撃を仕掛ける。

 

 メタルンのこうげき!

 ハドラーに180のダメージ!

 

「ぐわあああぁぁっ!?」

「ピギィ……。ピギィギギィ! ピギギギィ!」

「手加減はしておいた……。組み手が終わったらヘルズクローで岩盤掘りだ! 地力を磨かねば話にならないぞ! と、言っているわ」

 

 ハドラーがメタルンに吹き飛ばされたとほぼ同時に、海岸からでろりんが息を切らせながらやって来た。

 

「ぜぇ! ぜぇ! お、終わったぜ……」

「ピギギィ! ピギギィピギギィ!」

「デルムリン島五十周マラソン記録更新じゃないか! 成長してるなでろりん! と、言っているわ。おめでとうでろりんさん!」

 

 ソアラからそう言われるも、返事をする気力もないでろりんは倒れたまま手を僅かに上げてどうにか答える。

 そんなでろりんに対してメタルンが疲れが残りすぎない様にマッサージを開始する。メタルンがその巨体ででろりんの上に覆い被さる。そして肉体の一部を僅かに尖らせ、絶妙な力加減で全身のツボを押していく。

 

「あ、ああああああぁぁぁぁ……」

 

 全身にのし掛かりつつも、その体重を闘気の放出で完璧にコントロールする事で無茶な圧迫を避け、絶妙な力加減で行われるマッサージにでろりんが蕩けて行く。

 これで相手が美女ならばと思っていたりするが。残念ながらメタルキングなのである。

 

「ピギギィ」

「マラソンから皆が帰ってきたら食事にするのね。分かったわ」

 

 そう言って食事の準備に移動するソアラに対して、ハドラーが一言呟いた。

 

「……塩を少し多めにしておけ」

「え? はい。分かりました。汗をかいているから塩分が多く欲しくなるものね。アドバイスありがとうございます」

 

 ハドラーの言葉に笑顔でそう返すソアラ。そんなソアラに対してハドラーは怒鳴り散らす。

 

「貴様の料理が味気ないから言っただけだ! さっさと作って来い!」

「ええ」

 

 怒鳴っても笑顔を絶やさないソアラに苛立つハドラー。そんなハドラーに対してメタルンが呟いた。

 

「ピギィ……?」

 

 ――間男にはなるなよ……?――

 

 自分を怖がらない人間の女に徐々に惹かれていく魔族の男。どこぞの恋愛漫画でありそうな設定をそのまま持ち出しているようなハドラーの現状に、メタルンは一抹の不安を覚えた。万が一、ハドラーがソアラに恋慕の情を抱き、その上でソアラを襲おうとでもしたら……。その時は師として責任は取ろうとメタルンは決意した。

 メタルンの決意も言葉の意味も分からないハドラーは訝しげだったが。

 

 

 

 

 

 

 アバン達がロモス王国の危機を救っていた頃、ダイとラーハルトはパプニカ王国にてその力を振るっていた。

 ダイがパプニカの姫であるレオナが心配だと言い出し、ポップによってパプニカ王国に送ってもらったのである。

 ダイ達の戦力を一箇所に固めるよりは、数箇所に分けて魔王軍の六大軍団に対抗すべきだという案もあり、アバンもそれは一理あるとして受け入れたのだ。ぶっちゃけ竜の騎士が2人も固まっていれば過剰戦力にも程があったりする。少なくとも六大軍団程度では必要ないだろう。

 なお、バランは1人で超竜軍団が攻めるリンガイア王国に赴いていた。竜の騎士としてドラゴンの軍団に何か思うところがあったのかもしれない。

 

 パプニカ王国はダイとラーハルトを快く歓迎した。パプニカ王はレオナから何度もダイの話を聞かされており、アバンからも信頼出来ると2人を紹介されていた。

 それ故に魔族と人間の混血であるラーハルトも受け入れられていた。もちろん多くの人間は遠目から恐ろしげに見ていたが、パプニカ王とレオナ、そしてダイの必死の説得により少なくともラーハルトを追い出そうとする者はいなかった。

 

 そうしてパプニカ王国に不死将軍デスカール率いる不死騎団が攻めてきた。

 不死騎団は死を超越した戦士達の軍団だ。人間を地獄に送り込む殺戮の使徒達。生命なき彼らのしぶとさは計り知れないだろう。

 そんな恐るべき死の軍団を統べる将軍が不死将軍デスカール。邪教の神官であり、自らアンデッド化したという恐ろしい精神性を持つ不死の神官だ。様々な必殺技を操る器用さと実力を兼ね備えた恐るべき不死の軍団長が、不死の軍団を率いてパプニカを侵攻する。

 

「貴様らには勿体無いが、数を減らす為には致し方ないか! くらえ! ハーケンディストール!」

 

 ラーハルトが槍を高速で回転させて放った必殺の一撃は、無数のアンデッドを吹き飛ばしていく。その一撃で崩れた戦線を、パプニカ王国の兵士達が三賢者と呼ばれる者達と共に切り込んで更に傷口を広げていく。

 そして最奥にいた不死将軍デスカールを相手にダイが挑んでいた。ダイはバランの教えとアバンの教えを合わせた必殺技をデスカールに放つ。

 

「ライデインストラッシュ!!」

 

 ダイはライデインストラッシュをはなった!

 デスカールに488のダメージ!

 

「ぐわあああぁぁっ!?」

 

 デスカールをたおした!

 それぞれ17500ポイントのけいけんちをかくとく!

 

「よし! ラーハルト兄さん!」

「こちらも問題ない。ダイが敵将を討ち取ったためか、不死騎団の力は弱まった。後は残党を処理するだけだ」

 

 デスカールの暗黒闘気がなくなった影響か、デスカールが消滅した不死騎団の力は全体的に下がっていた。逆にパプニカ王国側はダイが敵将を討ち取った事で更に気迫を高め、国を守る為にモンスターの残党を打ち倒していった。

 

「しかし、アバンの言う通りに人間達と共に戦ったが、オレ達だけで十分だったな……。その方が人間達も無駄な犠牲を生まなかっただろうに」

 

 不死騎団の実力に対してラーハルトはそう零す。ダイだけが聞いていたが、他の人間が聞いたら一悶着あったかもしれない問題発言だ。

 だが事実でもある。バランとメタルンに鍛え抜かれたラーハルトとダイの実力は群を抜いている。たった一人でも六大軍団の一つくらい打倒するのは容易いだろう。

 この戦いで当然だがパプニカの兵士にも犠牲者は出ている。ダイとラーハルトだけならばそれもなかっただろうと思い、ラーハルトは先の言葉を零したのだ。

 

「確かにそうかもしれない。でもさ、そうした時彼らはオレ達を受け入れてくれたかな……?」

「む……」

 

 ダイの言葉にラーハルトは考え込む。周囲を見渡すとこちらに向かって全力で手を振っている者達が多くいる。国を守ってくれたラーハルト達に感謝を籠めているのだろう。

 だが、もしラーハルト達だけで戦ってしまえばどうだっただろうか。彼らは国に籠もったまま何の痛みも感じず、自分達で国を守ったという実感も湧かず、そしてたった2人で不死の軍団を滅ぼした2人を見て恐れ慄くだろう。

 人間とはそういうものだ。遠くから見ているだけでは理解出来ない事がある。そして、与えられた平和を受け入れるだけではいずれ堕落してしまうだろう。

 だが、自らの力で手にした平和は違う。人はそれを誇りに思い、そして共に戦った者に戦友として一定以上の尊敬と誇りを抱くだろう。今ラーハルトに向けて手を振っているのは魔族のハーフであるラーハルトを訝しんでいた者だ。

 手の平返しという者もいるかもしれない。だが、人が他人を理解するには何かしらの切っ掛けが必要なのだ。

 アバンはそれを狙って、犠牲が出る事を理解した上で国の兵士と共に戦う様にダイ達に指示したのだ。

 

「そうだな……」

 

 ダイの言葉に一応の納得をして、ラーハルトは手を振る兵士に僅かに手を上げるだけで応える。それでも満足出来たのか、手を振っていた兵士は笑顔で他の兵士達と去って行った。

 それを見てラーハルトは僅かに笑みを零す。そんなラーハルトに向けてダイが言った。

 

「ね? 人間だってそんなに悪くないでしょ?」

「……母上とお前がいる時点でそんな事は知っているさ」

 

 ――そして、本当の母さんもな――

 

 そう思いながらダイの頭を撫で、ラーハルトはダイと共に残る不死騎団を打倒する為にパプニカの兵士と動きを合わせるのであった。

 

 勇者達の快進撃はまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 今、デルムリン島には新たな修行者が訪れていた。

 

「おお! ハドラー殿!」

「く、クロコダイン!?」

 

 それはヒュンケルに敗れ勇者達の仲間となった獣王クロコダインであった。

 クロコダインはハドラーがデルムリン島で修行しているとヒュンケルから聞いた事を思い出し、ならば共に修行しようとデルムリン島に渡って来たのだ。なお、デルムリン島へはガルーダという部下の力を借りて飛んできていた。

 なお、アバンの結界を破ろうとする前にメタルン達に見つかり、現在クロコダインは結界の外からハドラー達と話をしている。

 

「ピギギィ?」

「ハドラー、知りあいか? と、言っているわ」

「う、うむ。かつてのオレの部下だった男だ。しかしクロコダインよ。何故この様な場所に……」

 

 もしやバーンの命令で自分を始末しに来たのか。そう訝しむハドラーに対して、クロコダインは事情を説明した。

 

 

 

「なるほどな……お前も大魔王に歯向かう事にしたか」

「うむ……ハドラー殿の真実を聞かされて、魔王軍に戻ることなど出来ぬ。それにオレは人間の強さと素晴らしさを知った。彼らと共に戦うのは吝かではない」

「……ふん」

 

 人間を素晴らしいなどと言い出すかつての部下をハドラーが鼻で笑うが、その行為に至るには若干時間が掛かっていたりする。

 ともかく、こうしてハドラー達の修行に新たなメンバーが加わったのであった。人間の割合が減っていく事にでろりん達は戦々恐々としていたのは言うまでもない。

 

 

 

 ハドラーが何度目か分からないメタルンとの戦いに挑む。

 ハドラーが両の手の甲から地獄の爪(ヘルズクロー)を伸ばし、そして叫んだ。

 

「両手の地獄の爪(ヘルズクロー)で1ハドラーパワー+1ハドラーパワーで2ハドラーパワー!!」

「ピギィ!?」

 

 いきなり謎理論を言い出したハドラーにメタルンが僅かに気圧された。稀有な事件である。

 

「そして跳躍する事で通常の倍の、2ハドラーパワー×2の4ハドラーパワー!」

 

 ジャンプすれば威力が二倍になるとはどこぞの竜騎士――竜の騎士にあらず――だろうか。

 

「今だクロコダイン!」

「うおおお! 獣王痛恨撃ィィィ!!」

 

 宙に飛んでメタルンに向かうハドラーの背に向けて、クロコダインが獣王痛恨撃を放つ。

 一体どういう事なのか。メタルンの疑問はハドラーが確りと説明してくれた。

 

「そして! 獣王痛恨撃をその身に受けて高速回転する事で3倍! 4ハドラーパワー×3の! メタルン! 貴様を上回る12ハドラーパワーだーっ!!」

「ピギィ!?」

 

 ――つまり、どういうことだってばよ!?――

 

 あまりの謎理論にメタルンも目眩がした程だ。だが、理論はともかくその勢いは凄まじいものがあり、そして実際に威力も上がっているのは確かだ。その証拠か、高速回転をしながらメタルンに向かってくるハドラーの姿は金色に輝いていた。

 まあ12ハドラーパワーとやらがメタルンを上回るパワーなのかは分からないのだが。だが、前回メタルンが言った、十倍以上の威力で攻撃しろというのをハドラーなりに試しているのはメタルンにも理解出来た。

 故にメタルンはハドラーの覚悟と熱意に敬意を表し、その力を解放した。

 

「ピギギィ!」

「いつもの2倍の闘気を解放する事で2メタルンパワー! と、言っているわ」

 

 謎理論には謎理論で対抗する。それがメタルンの判断であった。そして、ハドラーの理論で12倍の威力が出る保証はないが、いつもハドラーと組み手をしている時の2倍の闘気をその身に纏ったメタルンの攻撃が2倍の威力になっている保証は、少なくともハドラーの理論よりは高いだろう。

 そうして黄金に輝くハドラーと黄金に輝くメタルンがぶつかり合う。その瞬間、観戦していた者達は無数の破壊音と、最後に生肉が壁にぶつかった様な音を聞いた。

 

「……」

『は、ハドラーァァァ!!?』

 

 もはや「ぐわあああぁぁっ!?」と叫ぶ事すらなく吹き飛び、無数の木々や岩を突き破って最後に岩盤に叩きつけられたハドラーを見つけ、でろりん達とクロコダインが思わず叫んだ。

 どうやら、12ハドラーパワー>1メタルンパワーかどうかは分からないが、2メタルンパワー>12ハドラーパワーなのは間違いないようだ。

 

 なお、その日の修行はこれまでとなり、やりすぎた為にメタルンの食事は抜きになったり、メタルンから治療を受けて生き延びたハドラーが、更にソアラから手厚い看護をされて少しずつ(ほだ)されたりしたそうな。

 

「ピ、ピギィ!」

 

 ――やらせはせん、やらせはせんぞ!――

 

 そんな2人を見て何やらぼやくメタルキングがいたが、そのぼやきは誰にも理解されなかった。

 

 

 

 

 

 

 リンガイア王国を侵攻する超竜軍団。それはドラゴンやヒドラといった竜系のモンスターで構成された軍団だ。ドラゴンはモンスターの中でも最強と言われる種族。つまり、超竜軍団は六大軍団で最強の軍団ということになる。

 そんな恐るべき軍団を率いるのが超竜将軍ベグロムだ。ガーゴイルのドラゴンライダーで、その力はドラゴンの群れを率いるにふさわ――

 

 バランのこうげき!

 ベグロムに344のダメージ!

 

「ぐわあああぁぁっ!?」

 

 ベグロムをたおした!

 弱すぎてバランの経験にはならなかった!

 

「これでドラゴンを率いる将とはな……」

 

 ベグロムのあまりの弱さにバランはため息を吐いた。そしてベグロムが敗れてうろたえるドラゴン達を一睨みする。

 

『!?』

 

 それだけでドラゴン達は萎縮し、リンガイア王国を攻めていたドラゴン達は文字通り尻尾を巻いて逃げ出した。

 当然の結果だろう。人間の神と竜の神と魔族の神が作り出した究極の戦士が、たかがドラゴン如きに負けるはずがないのだから。

 

 リンガイア王国の人々もバランのあまりの強さに恐れ慄くが、アバンから前もって伝説の竜の騎士の話を聞かされたので、むしろ納得していた。

 そして今は安堵していた。これならば魔王軍の脅威にも対抗する事が出来ると。

 

 バランは人間の都合の良い対応の仕方に若干不満を持つが、それも人の弱さ故と認める事にした。そういった弱さと、全てを包み込むような愛。相反する感情を内包するものが人間だと理解したのだ。

 それを教えてくれた者達を守る為に、バランはその力を振るうのであった。

 

 勇者達の快進撃は続く。

 

 








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