どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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ダイの大冒険 第十話

 全ての準備は整った。ポップはメドローアを習得し、ダイ達の武器は完成し、そして5人の輝聖石は確かな輝きを放つ。後は大魔王が待つバーンパレスの結界をミナカトールにて封じ、大魔王を倒しに行くだけだ。

 その為の最後の作戦会議が開かれた。と言っても、作戦という程のものはない。バーンパレスは現在カール王国の西側、ギルドメイン大陸西端の上空に浮遊している。あれから1週間何もせずに静観している様は不気味だが、少なくとも被害が拡大していないのは幸いと言えた。

 ともかく、勇者達と各国の精鋭達はギルドメイン大陸西端へと移動し、そしてバーンパレスの真下にてミナカトールの儀式を行う。それが成功すればバーンパレスの結界は封じられるだろう。

 だが、儀式の最中にアバン達は戦う事が出来ない。その間は各国の精鋭達が護衛する事になるのだが、そんな戦力では不安が残るという案がある人物から出た。

 

 その人物こそが、ダイ達の武器を鍛え直したロン・ベルクである。ロン・ベルクはダイとラーハルトの武器を鍛え直した後、勇者達と大魔王の戦いの結果が気になりダイ達に着いて来たのだ。

 ロン・ベルクの実力はラーハルトやヒュンケルに勝るとも劣らないものだ。護衛としての戦力は十二分と言えるだろう。

 

 そうしてロン・ベルクという頼もしい存在が味方をしてくれると決まった時、ロン・ベルクに近付く一匹のモンスターがいた。

 

「ピギィ……」

 

 そう、メタルンである。

 メタルンはダイ達によって各国の指導者達に紹介された。ずっと昔から一緒に住んでいる大事な家族であり仲間であり親友だと。メタルンは感動で泣いた。

 ともかく、ダイ達にそう言われては各国の指導者達もメタルンを受け入れざるを得なかった。何人かメタルンを見る目が怪しい者がいたが、幸い経験値欲しさに暴走する者は現れなかった。

 

 そんなメタルンだが、ダイとラーハルトの武器を見て驚愕した。自分が作った武器とは比べ物にならない完成された武器がそこにはあった。

 いや、攻撃力という点で言えば極端な差はない。だが、確実な差が見て取れた。同じ実力の者同士で互いの武器を使えば、ほぼ確実に新たな武器を持った者が勝つだろう。

 一体誰がそんな武器を! そう思い至ったメタルンはダイに詰め寄った。後ろの壁とメタルンに挟まれてダイが潰れかねないくらい詰め寄った。これも壁ドンであろうか。

 

「ふぉ、ふぉん・ふぇるふふぁんってふぃふぉばぁ」

「ピギギィ!?」

 

 ――ロン・ベルクさんって人なんだな!?――

 

 どっちもどっちの言っている事が理解出来ているのが不思議だなーと、その光景を眺めているポップが思ったり思わなかったりしたが、まあどうでもいいかと放って置いた。

 ダイからロン・ベルクの情報を手に入れたメタルンは、ダイを連れてロン・ベルクの元に訪れた。ダイを連れているのは通訳用である。ダイにとってはいい迷惑かもしれないが、それくらいで怒るダイではない。天使の息子もまた天使なのだ。戦鬼の息子でもあるのだが……。

 

 そうしてメタルンはロン・ベルクに近付いていく。そんなメタルンを見て当然ロン・ベルクは警戒した。

 

「何故こんな所にメタルキングが!?」

 

 そこでふと思い出す。メタルキングの素材を持ってきたダイが言った台詞。メタルキング素材ならたんまりある。確かにそう言った。

 まさか……いや、そんなはずは……。そう思うロン・ベルクは、恐る恐るとメタルキングに連れられたダイに訊ねた。

 

「ダイ……まさかと思うが、あのメタルキング素材は……」

「うん。メタルンから採れた物だよ」

「鬼か!!」

 

 生きたメタルキングを手懐け、生きたまま素材を剥ぎ取り続ける。まさに鬼の所業である。

 どうやって臆病で警戒心の高いメタルキングを手懐け、その上逃がさないように生きたまま素材を剥ぐかはロン・ベルクには分からないが、それでも恐ろしいと言わざるを得なかった。

 まあ勘違いなのだが。それに気付いたダイが慌てて弁解をした。

 

「え? 違うよ! メタルンが自分から素材をくれるんだよ! ねえ、メタルン!」

「ピギィ! ピギピギィ?」

 

 ――その通り! あ、何だったらお近付きの印にいります?――

 

 ダイの言葉に頷きながら、メタルンは闘気の刃を作り出して自らの身を削り取り、それをロン・ベルクに差し出した。

 狂気の現場を見たロン・ベルクや各国の指導者達は目眩を覚えた。

 

「お近付きの印だって言ってるよロン・ベルクさん」

「お近付き、だと?」

 

 ダイがメタルキングの言葉が分かる事や、メタルキングが懐っこい事や、メタルキングが自分の体を削った事や、メタルキングが自分の体を削る事が出来るくらい恐ろしく高密度な闘気刃を形成した事はさておき、ロン・ベルクはお近付きという言葉にどういう意味があるのか訝しむ。

 

「ピギィピギギギィ! ピーギギィ!」

 

 何やら叫びつつ、ロン・ベルクに頭を下げるメタルン。そんなメタルンを見て、ダイが驚きの声を上げた。

 

「ええ! 本気なのメタルン!?」

「何を言っているのかさっぱり分からん! 自分だけ納得してないで通訳しろダイ!」

 

 各国の指導者達はロン・ベルクの言葉に頷いた。誰もがメタルンの行動に興味を惹かれているようだ。

 

「えっと、あなたの鍛え上げた武器を見させて頂きました。素晴らしい出来栄えです。私が武器の形に整えただけの物とは比べ物になりません。このメタルン感服いたしました! 武器を作る。そこにこれ程の高みがあると知り、黙っていられる程私は達観しておりません。是非とも! 是非とも私をあなたの弟子にしていただけませんか! この通り、伏してお願いいたします! と、言ってるよ」

「本当なのか!?」

 

 本当にそれだけの台詞が籠められていたのか? 本当にそう言ったのか? 本当にメタルキングがあの武器を作ったのか? 本当にメタルキングが鍛冶屋のオレに弟子入りするつもりか? ロン・ベルクの一言には、これだけの意味が籠められていた。さもありなん。

 

「ピギギィ!」

「私は本気です! ささ、どうぞこの素材をお受け取りください! 鍛冶屋には垂涎の代物だと自負いたしております! と、言っているけど……どうするのロン・ベルクさん?」

「メタルキングを弟子になんぞ出来るか! だが素材は置いていけ」

 

 非常に素直な魔族である。鍛冶屋の欲は抑えられないのだ。

 

「ピギィ……?」

「今は少量の素材ですが、私を弟子にすると毎日大量のメタルキング素材が手に入りますよ……? と、言っているよ」

「くっ……こいつ!」

 

 そう、メタルンが削り取り差し出した素材は、武器を作るにしても短剣すら出来ない程少量だ。これではむしろない方がマシだろう。あると武具を作りたくなる衝動が抑えられないのに、満足の行く武具を作る程の量はない。そういうジレンマに陥る事になってしまうのだ。

 それを理解してか、メタルンは少量しか素材を切り出さなかった。いや、理解しているのだろう。メタルンの言葉が理解出来ないロン・ベルクにも、今のメタルンがニヤリと笑っているのが理解出来た。大体いつものスライムスマイルなのだが。

 

「ええい! いいだろう! お前を弟子にしてやる! ただし、見込みがないと分かれば弟子を止めてもらうからな!」

 

 ロン・ベルクは負けた。鍛冶屋の本能に負けたのだ。毎日毎日メタルキング素材で武具が打てる。それは何と素晴らしい事だろうか。そのうち同じ素材ばかりで胸やけしそうだが。

 こうして、魔界の名工はメタルキングを弟子にしたのである。

 

「ピギギィ!」

「ありがとうございます師匠! と、言っているよ。……あれ? 弟子入りしている間はオレが通訳しないといけないとかないよね?」

 

 ダイのその呟きを聞いた者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 紆余曲折あったが、現在アバン達はギルドメイン大陸西端、上空に浮かぶバーンパレスの真下に到着していた。

 バーンパレスが同じ場所で静観しているのはモンスターによる襲撃がある為と予想していたのだが、今の所はそれもないようだ。

 

「では、ミナカトールの準備を始めます」

 

 アバンがそう言いながら、大地に正義の五芒星の元となる光の円を描く。

 呪文を使うのはあくまでアバンだ。だが、輝聖石を持つ5人が魂の力を高める事で、ミナカトールは最大限の効力を発揮する。

 そうしてアバンを含む5人が五芒星に立ち、各々の魂の力を高めていく。

 

 アバンの正義の光から始まり、ダイの純粋、ヒュンケルの闘志、マァムの慈愛、そしてポップの勇気の光が立ち並ぶ。

 ポップは自分の光が立ち昇った事に感動を覚えたりしない。何故なら、これは自分と仲間を信じた結果だからだ。ならば、自分の心に勇気が湧かないはずがなかった。

 今のポップは心の壁を乗り越えたことで、魔法使いとしての壁も乗り越えていた。マトリフの修行により数多の契約をしていたが、実力不足の為か会得する事は出来なかった呪文の数々。それらが今のポップには自在に使えるようになった。

 それは魔法使いの呪文だけではない。僧侶の呪文も含めてだ。今のポップは賢者と言える存在になったのだ。だが、ポップは己を賢者とは名乗らない。

 今のポップに相応しい称号はただ一つ。そう、師マトリフと同じ大魔導士だけである。

 

 勝てる。ダイとラーハルトの武器が鍛えなおされ、不死身のミストバーンを攻略するメドローアを会得し、誰1人欠ける事無く、更に仲間まで増えた。これで二度も負けてたまるか。

 絶対にオレ達で大魔王を倒す。そういった思いがポップにはあった。だが、ポップは理解していなかった。この世には、どう足掻いても越えられない壁がある事を……。そして、それをポップは直に理解することになる。

 

 

 

 全ての魂の力が発揮され、後はアバンがミナカトールを発動させるだけになった。

 その時、バーンパレスに異変が起こった。五芒星の真上、バーンパレスの中央部の底が開き出したのだ。

 

「あ、あれは!?」

「まさか!!」

 

 それを見た瞬間、アバンは作戦は失敗だと理解した。それは、バーンパレスがこれから行おうとしている事を理解したためだ。

 真下に敵がいる状況で底を開くなど、侵入される恐れがある仕掛けを無駄に発動するはずがない。そんなアバンの予測を裏付けるように、バーンパレスの底から巨大な塔のような物体がせり出してきた。

 

 ――や、やはり!――

 

 全員逃げるのです。そう叫ぼうとしたアバン。だが、全ては遅かった。その瞬間、バーンパレスから塔が発射された。

 たった今バーンパレスから発射された塔。これこそ、バーンパレス究極の兵器。ピラァ・オブ・バーンである。

 その破壊力は命中した大地周辺を一瞬でクレーターに変える程だ。一つの国程度ならば簡単に消滅するだろう。もっとも、その真価は単純な威力ではなく、ピラァに設置された悪魔の超兵器にあった。

 

 そう、ピラァなどよりも遥かに凄まじい破壊力を秘めた超兵器。かつて魔界でも、デルムリン島の上空でもその力を発揮した、黒の核晶である。

 しかもピラァに設置された黒の核晶はデルムリン島上空で爆発した物の十倍以上の大きさだ。黒の核晶は無尽蔵に魔力を吸収する性質から、その破壊力は大きさによって決まる。つまり、この黒の核晶はデルムリン島で爆発したものよりも遥かに凄まじい破壊力を秘めているということだ。

 これと同じ黒の核晶がバーンパレスには後五つ存在している。それぞれがピラァに設置された核晶を利用し、バーンは地上そのものを消し去ろうとしていたのだ。

 

 本来なら、バーンパレスが姿を現したと同時にピラァは世界中に六芒星を描くように落とされる予定だった。

 だが、アバンとバランという厄介者が生きている状況でそんな事をすれば、ピラァに設置してある黒の核晶に気付かれる恐れがあった。そうなっては面倒な事になるやもしれないと、バーンはピラァの投下を見送ったのだ。

 しかし今の状況ならば話は別だ。ここでピラァを投下すれば、厄介者は全て葬る事が出来る。いや、バランとダイの竜の騎士親子だけは生き延びるだろうが、その2人だけならば排除も容易いというものだろう。

 故に、バーンは何の躊躇いもなく、アバン達に向けてピラァ・オブ・バーンを投下した。

 防がれた。

 

『――!?』

 

 言葉もないとはこの事か。バーンの魔力によって真下の状況を映して見ていた幹部含む3人は、ピラァを投下した瞬間に起こった出来事を目にして声を失っていた。

 バーンパレスからピラァが発射された瞬間。ピラァが大地に到達する前に、渦巻く闘気の壁によって弾かれたのだ。そして、弾かれたピラァは誰もいない遥か彼方の大地へと落ちていった。

 

「ば、馬鹿な……!」

「ピラァが……防がれた?!」

「あ、あれは!!」

 

 バーンもミストバーンも、予想だにしなかった光景に目を向き出しにする中、キルバーンが一匹のモンスターを見つけて指を指し叫んだ。

 

「まさか……!」

「い、生きていたのか……!」

「メタルキング……!」

 

 そう。バーン達は見た。見つけてしまった。この世界に生まれた究極のバグ生命体。生きる理不尽。そう、メタルンを。

 メタルンはピラァの投下に合わせて闘気を高速回転させて壁を作り出していたのだ。そして、高速回転する闘気の壁とピラァがぶつかり合った結果、ピラァはメタルンの闘気を突き破る事が出来ず、敢え無く弾かれる事となった。

 

「ピギィ……」

 

 ――アブね。戦いもせずに勝とうだなんて、やってくれるねほんと……――

 

 戦争という点で見れば正しい行為、正しい作戦なのだが、それをさせるほどメタルンも甘くはなかった。

 メタルンも大魔王には借りがある。出会う前に爆弾を頂いたお礼をしなければ夢見も悪いというものだ。そういう意味を籠めた含み笑いを、メタルンはこちらを覗き見るバーン達に見せつけた。

 

「……良かろう。生きていたというのならば、ここで確実に殺すまでよ」

 

 それを見て、バーンは先の笑みがメタルンの挑戦状だと理解し、それを受け取った。

 

 

 

 

 

 

「ピギィー」

「今の内だよー。と、言っているよ……」

「そ、そうですね……」

 

 あわや絶体絶命の危機をあっさりと弾き返したメタルンに、誰もが呆気に取られていた。長年の付き合いがあるダイですらだ。正確にはバラン以外は全員呆気に取られていた。バランはドルオーラが防がれた事からこれくらいでは驚かないのだ。

 

「あがが……と、とんでもねぇ」

「メタル……キング?」

「マァム。それはメタルキングに失礼というものだ。あれはメタルンであって、メタルキングでは断じてない」

 

 アバンの使徒達が何やら失礼な事を言っている気がしたが、メタルンは気にしないでいた。メタルンの心はその見た目のふくよかさと同じくらいおおらかなのだ。

 

「で、では、改めていきますよ! ミナカトール!」

 

 アバンが呪文を発動したと同時に、五芒星から強大な光の柱が立ち昇る。そして光の柱はそのまま天まで伸びていき、真上にあったバーンパレスに直撃した。

 

「今ですポップ!」

「ルーラ!」

 

 アバンの言葉に従い、ポップがルーラで移動する。そして、バランはラーハルトを連れてルーラを使用し、メタルンもまた闘気を放出する事でバーンパレスへと移動する。

 そんな彼らを見て、フローラや各国の指導者達が祈る。どうか、大魔王を倒して無事に帰ってきてくれ、と。

 その時、指導者達は見た。勇者一行がバーンパレスに飛び立った少し後、彼らを追いかけるように飛んで行く一条の光を。

 その光が何だったのか、彼らに分かる由もなかった。

 

 

 

 バーンパレスに到着した勇者一行は、その場に敵が1人もいない事を確認して安堵する。

 そして、全員到着した事を確認したアバンが皆に声を掛ける。

 

「いいですか。この先には多くの罠とモンスターが待ち構えています。それを乗り越えて、私たちは大魔王を倒さなければなりません」

 

 そう、前回のようにバーンが自ら現れてくれるわけがない。恐らくバーンパレスの中央に見える巨大な城、その最上にて待ち構えているだろう。

 その道中に罠とモンスターが多く配置されているのは子どもでも出来る予想だ。つまり、出来るだけ被害を抑えて大魔王の元に辿りつかなくてはならない訳だ。

 

「道中のトラップは私が引き受けます。罠を見破る装備もアイテムもばっちりです。そして、モンスターはダイ・バラン・ポップ。あなた達以外で引き受けます」

 

 アバンの言葉に反論する者はいなかった。ダイとバラン。この2人はパーティーの最大戦力だ。彼らがバーンを倒す一刀になるとアバンは信じていた。

 そしてポップ。彼にも重要な役割があった。不死身のミストバーンという、大魔王バーンを超える厄介さを持つ敵。彼を倒すにはポップの存在が必要不可欠なのだ。

 最後に、アバンは不可思議生命体に目を向けた。

 

「えっと、メタルン……。あなたは自由に動いていいですよ」

「ピギィ!」

「了解! と、言っているよ」

 

 メタルンの存在はアバンですら読めない。強いのは分かる。善なる存在なのもまあ、分かる。だが、意思疎通が難しい上に、何をするか分からないとあっては、どう動かしていいのかも分からないのだ。

 

「さあ、出発しますよ!」

「ピギギィ!」

 

 いざ大魔王退治に出発。そういった所で、メタルンが待ったを掛ける。

 

「どうしたのメタルン?」

「ピギィ……」

「え? そろそろ来るはずだって? 誰が来るの?」

 

 そう聞き返すダイだったが、次の瞬間にはその答えが自らやって来る事となる。

 トベルーラにてバーンパレスにやって来たそれは、アバン達の前に降り立った。そして、メタルンとバラン以外の全員が彼らを見て驚愕する。

 

「ああ……!」

「て、てめぇは!」

「は……ハドラー!」

「それに、クロコダインか!」

 

 そう、アバンの前に降り立った2人。それこそ、デルムリン島(地獄)での修行を終えたハドラーとクロコダインであった。

 

「待たせたなアバン。オレのパワーアップは完了した……! 今度はオレが大魔王と戦おう!!」

「久しぶりだなヒュンケルよ! 約束した通り、足手纏いにならんくらいには強くなったつもりだ。さあ、共に戦おう!」

 

 まさかの存在の参戦にアバンですら声を失っていた。いや、確かに強くなってバーンに意趣返しする的な話になっていたが、まさか本当にやって来るとは思ってもいなかったようだ。

 

「ピギギィ」

「この2人の強さは私が保証する。と、言っているよ」

「いや、確かに元敵のボスクラスだったからそれはいいけどさ。……裏切ったりしねぇよな?」

 

 メタルンに向けて、ハドラー達には聞こえないようにそう確認するポップだが、人間よりも耳のいいハドラーには聞こえていたようだ。

 

「ふん。オレを信用出来んのは当然だろう。だが、オレは最早お前達と敵対するつもりはない」

「オレもだ。ヒュンケルに敗れ、人の素晴らしさを理解したオレが、今更人間と事を構えるなどせん」

 

 そう言い切る二人。武人気質のクロコダインはまだともかく、一体全体何があったらあの魔王ハドラーがこうなるのだろうか。

 だが、アバンはハドラーの変化を理解した。元々ハドラーにも武人気質な点はあったのだ。メタルンとの修行によりそれが顕著になり、邪悪な意思が薄れたのだろう。

 

「ふふ。私とあなたが肩を並べて戦うことになるとはね。頼りにしていますよハドラー」

「ふん。オレが来たからにはお前の出番はない。せいぜい人間らしく短い余生を生きるんだな」

 

 互いに笑いあうアバンとハドラー。そこには好敵手同士の友情に近い何かがあった。

 それを見て、メタルンがうんうんと頷いていた。ピギィピギィとしか口から零れないが。

 

「さあ、今度こそ行きますよ!」

 

 ハドラーとクロコダインという新たな仲間を加え、アバン達はバーンのいるだろう城を目指して移動する。道中の罠はアバンが破邪の迷宮で手に入れた、あらゆるトラップを見抜くミエールの眼鏡によって発見し、すべて破壊した。なお、見た目に関しては言及してはいけない。

 そして、城に繋がる天高く伸びた塔――天魔の塔と呼ばれている――の元に到着した時、アバン達が通って来た道目掛けて城から無数の光が飛びかった。

 

「こ、これは!」

「やはりこう来ましたか……」

 

 そう、アバンは予測していた。敵の本拠地に乗りこむ時に気をつけなければならないのは、立ちはだかる敵を倒すよりも後続の追い撃ちを断つ事。逆に言えば、敵は挟み討ちをするようにモンスターを配置すれば効果的という事だ。

 その例に洩れず、バーンもまた敵を配置していた。光の中から無数のモンスターが現れる。それも魔界原産の強靭なモンスターだ。

 地上とは比べ物にならない強さを誇るモンスターが数え切れない数でアバン達の背後に陣取る。

 

「な、なんて数だ……!」

 

 ポップの驚愕も当然だろう。バーンはアバン達の再戦を警戒して、魔界から無数のモンスターを集めていたのだ。元々バーンパレスに配備されていたモンスターを加えると、その数は計り知れないだろう。

 そして、敵はそれだけではない。前後で挟んでこそ挟撃になるのだ。当然前方にも敵は配置されていた。

 突如として、天から巨大なチェスの駒が落ちて来た。

 

「むぅ!?」

「あれは!?」

「ピギィ……」

 

 巨大なチェスの駒という意味の分からない存在に誰もが驚くが、その中にあってハドラー・クロコダイン・メタルンの驚きは大きかった。その反応に他の者が訝しむが、それを確認する前に敵が動きを見せた。

 チェスの駒が次々と天から降り立ってくる。その数は15体。キングを除いた全ての駒である。そして、チェスにおいて肝心要のキングがその姿を現した。

 

「ふはははは! 我こそはバーン様が本当の信頼をお寄せになっているバーンパレス最大最強の守護神! (キング)! マキシマム!!」

 

 マキシマムの登場に警戒を強めるアバン一行。その時、マキシマムや他のチェスの駒の見覚えのある輝きを見て、バランがその正体に気付いた。

 

「こいつら……オリハルコンで出来ているのか」

「はーはっはっは! その通りだ! 世界最強の金属オリハルコン! 分かるか? 呪文も効かず、耐久力も抜群! まさに無敵の軍団よ! そんな常勝不敗の軍団と、無数の魔界のモンスター達を同時に相手にして勝てると思っているのかね?」

 

 マキシマムの言葉は正しい。全身がオリハルコンで出来ているというだけで恐ろしい軍団だろう。それも、アバン達を上回る数が存在しているのだ。

 その上敵はオリハルコン軍団だけではない。オリハルコン軍団だけを相手にしていると、後ろから無数の屈強なモンスター達に攻撃されてしまうだろう。まさに鉄壁の布陣と言えた。

 

 なお、マキシマムは本来は姑息でずる賢く、まともに戦おうとしない男だ。今回の戦場も数の有利で攻めているが、本来ならば敵が万全の態勢である状況で前に出る事はまずない。1人になった敵や、すでに倒す事も容易な程に傷ついている敵の前にのみ現れ、確実な勝利を得ようとするのが本来の戦法なのである。

 今回も無数のモンスターと戦って疲弊した所を襲撃しようと考えていたのだが、それはバーン自らの命令により阻止された。当然だ。何の為に後方からモンスターを襲撃させると思っているのか。挟撃しないならば意味はないだろう。

 バーンもアバン達の戦力がここまで高まっていなければ、マキシマムの自由にさせていた所だが、流石に今回ばかりはそういった余裕も慢心もないようだ。

 

「ふぅ……」

「ふっふっふ。我輩の軍団の恐ろしさをよーく実感したようだな」

 

 溜め息を吐いたハドラーを見て、マキシマムはそう思った。だが、溜め息の意味は全くの別物だ。

 

「まさか、このオレが二番煎じなる事をしようとはな……そう思うと情けなくて溜め息も吐きたくなるわ」

「しょうがあるまいハドラー殿。だが、どちらが強いか試してみるのも一興ではないか?」

「ふん! あんな魂も籠もっておらん人形に負ける訳がないだろう」

「何をごちゃごちゃと言っておる! 命乞いなら聞かんぞ?」

 

 何やら呟いているハドラー達にマキシマムが苛立ちを見せるが、そんなマキシマムをハドラーが一瞥する。そして、天に向けて手を伸ばした。

 

「まあいい。きさまには勿体ないが見せてやろう! これが魂を持った真の戦士だ! 来い! ハドラー親衛騎団!」

 

 ハドラーが叫んだ瞬間、天から五つの光が降り立った。その降り立った物体を見て、またもアバン達から驚愕の声が上がる。

 

「ま、またチェスの駒が!?」

 

 そう、新たに降り立った物体も、巨大なチェスの駒だったのだ。マキシマムのオリハルコン軍団と形はほぼ一緒。違いは唯一つ、駒の素材の輝きだった。

 

「この輝き……! こっちはメタルキングの駒か!」

 

 バランがまたもいち早く素材の正体に気付く。そう、これはメタルキングのチェス駒を利用して、ハドラーが禁呪法を用いて作り出した最強の親衛騎団なのだ。

 

 それは、メタルンとハドラーが修行の合間にチェスをしていた時の事だ。メタルンに修行でフルボッコにされ、せめてチェスで溜飲をと思ったハドラーだったが、チェスでもフルボッコにされた。メタルン曰く年季が違うとの事らしい。

 メタルキングがチェスをするという点もあれだが、メタルキングにチェスで負けた事にハドラーは激しく落ち込んだ。

 まあそれはどうでもいいとしてだ。ハドラーはこの時チェスの駒や盤がメタルキング素材で出来ている事に気付いた。娯楽が少ないデルムリン島に少しでも娯楽をと、メタルンが己の体を削って作ったらしい。

 いや、そこらにもっと加工しやすい木や岩がごろごろあるだろとハドラーが思ったが、それは言わないでおいた。けっしてお仕置きが怖かったからではない。

 

 そうしてメタルンとハドラーは修行・修行・食事・修行・修行・軽い休憩・修行・修行・食事・チェス・修行・修行・食事・睡眠的な感じでチェスをしていたが、チェスをしている最中にハドラーがある事を思いついた。

 このメタルキングの素材に禁呪法で生命を与えたら強くね? そんな発想から、ハドラー親衛騎団は生まれたのだった。

 

 そして、とうとうハドラー親衛騎団がその力を敵に揮う時がやって来た。

 全ての駒が変形し人型となり、そしてその口を開く。そう、マキシマムのオリハルコン軍団と違い、彼らには意思が宿っているのだ。

 

「ピギィ!」

 

 ――我らはハドラー様の忠実なる下僕、ハドラー親衛騎団! その行動を統括する女王(クイーン)……アルビナス!――

 

「ピギィ!」

 

 ――オレは兵士(ポーン)・ヒム! ハドラー様の敵は全てオレがなぎ払ってやるぜ!――

 

「ピギィ!」

 

 ――私は戦場を駆ける疾風の騎士(ナイト)・シグマ! 以後お見知り置きを――

 

「ピギィ!」

 

 ――我が名はフェンブレン! 親衛騎団の僧正(ビショップ)にして完全無欠の狩人よ……!――

 

「ピギィ!」

 

 ――ブローム――

 

「ピギィ」

 

 ――彼の名は城兵(ルック)・ブロック。残念ながら言葉を喋れないので私が代わって紹介します――

 

『ピギィ!!!』

 

 ――我ら! ハドラー親衛騎団(ブローム)!!――

 

 ここに、最強にして意味不明の軍団が現れた。

 

 




 北の勇者(おのれメタルキングがぁぁぁ! 出番も立場も奪っていきやがってぇぇぇ!)

 多くの人に予想されたメタルキング製親衛騎団登場。
 最初は将棋の駒を親衛騎団にしようかと思いましたが、いい感じの紹介や名前が思いつかなかったし数も多いので没にしました。無念。







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