どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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ダイの大冒険 第十一話

 今、バーンパレス天魔の塔付近はカオスに陥っていた。

 

『ピギィ!!!』

 

 ――我ら! ハドラー親衛騎団(ブローム)!!――

 

「何言ってんのかさっぱりわかんねーよ!!」

 

 意味不明の軍団に対しポップが全員の思いを代弁してくれた。突っ込みたくても性格上突っ込めないヒュンケルとしてはポップを褒め称えたい思いだった程だ。

 そしてポップの叫びのすぐ後に誰もがメタルンを見た。どう考えてもこいつが原因だと理解しているのだ。

 

「ピギィピギィ!」

 

 ――ちょっと待ってよ! これを作ったのはハドラーだよ!? 私は素材をあげただけだもん!――

 

「と、言っているけど……」

「メタルキングの素材を使えばピギィとしか喋れなくなるのかよ!?」

 

 全くである。だが、親とも言えるハドラーをして、原因は理解出来ていない。禁呪法に失敗はなかったので、やはり原因はメタルンにあるんじゃないかなとハドラーは思っていた。メタルンを思ってそれを言及する事はなかったが。けっしてお仕置きが怖かったからではない。

 

「ピギィ……?」

「母上を悪くいう事は許しませんよ……? とアルビナスが言っているよ」

「ピギィ!」

「私は子どもを作った覚えはありません! とメタルンが言っているよ」

「ピギィ……」

「母上は我らが疎ましいのだろうか……。とシグマが言っているよ」

「ピ、ピギィ?」

「いや、別にあなた達が嫌いなわけではないのですよ? とメタルンが言っているよ」

「ピギィ」

「だったらいいじゃねーか。お袋も頑固だなぁ。とヒムが言っているよ」

「ピギィ」

「勝手に母親扱いされるのが嫌なんです。とメタルンが言っているよ」

「ピギィ」

「致し方あるまい。母者が納得してくださるまで、私たちは待つのみよ。とフェンブレンが言っているよ」

「ピギィ!」

「納得しませんからね! とメタルンが言っているよ」

「ピギィ」

「ブローム。とブロックが言っているよ」

「ピギィ……」

「あなたの言葉は私にも分かりませんねぇ……。とメタルンが言っているよ……ふぅ」

 

 ダイが律儀にメタルンと親衛騎団の会話を通訳する。流石にいつもの六倍の人数の翻訳となると疲れが見えていたが。

 

「メタルキングが母親ってなんだよ!? やっぱメタルンがこいつらが喋れない原因じゃねーのかよ! 最後のデカブツに至っては翻訳すら出来ねーじゃねーか!」

 

 突っ込みたい事を全部突っ込んでぜぇぜぇと息を荒げるポップ。そんなポップをアバン達は尊敬の目で見ていた。代弁者がいるというのはこれ程頼もしいものなのかと実感しているようだ。

 

「ピギィ……!」

「ブロックが喋れないのを馬鹿にするとは……! とアルビナスが言っているよ」

「ピギィ!」

「言って良い事と悪い事があるだろ! とヒムが言っているよ」

「ピギィ」

「ヒムの言う通りだ。とシグマが言っているよ」

「ピギィ!」

「人の身体的特徴を(あげつら)うとは! とフェンブレンが言っているよ」

「う……わ、悪かったよ」

 

 思わず突っ込みを入れてしまったが、確かに言葉がまともに話せないというのは本人にとってどうしようもない事であり、論うべきではなかったとポップは反省する。

 

「……ブローム」

『!?!?』

 

 そんなポップの言葉が気になったのか、ブロックがまさかのピギィ以外の言葉を発した。これにはダイ達どころかハドラー含む親衛騎団までもが驚いていた。

 

「ちょ、いま何て言ったんだあいつ!?」

「えっと、ごめん。メタルン語は慣れているから分かるけど、さっきのは良く分からない……」

「それもどうなんだダイ!?」

 

 ダイの翻訳能力にいまいち納得のいかないポップ。ダイはモンスターと一緒に長きに暮らしたおかげかモンスターの気持ちがある程度理解出来るのだが、実際にモンスターの言葉を翻訳出来る訳ではない。

 だというのにメタルンの言葉が翻訳出来る理由は、やはりメタルンにも原因があるのだろう。元人間だった事が原因なのか、その意思を伝えやすいのかもしれない。まあ、それでも翻訳出来るのは人間ではダイとソアラくらいなのだが。

 なお、先程のブロックの言葉を翻訳すると「ピギィ」となる。結局発する言葉と内容が入れ替わっただけのようだ。

 と、そんな風にピギィピギィとしていたところで、いい加減に我慢の限界に来た者がいた。

 

「ピギィピギィと喧しいわぁっ! 我輩いつまで待っていればいいのかね、んん!?」

 

 そう、親衛騎団の名乗りからここまでの茶番をしっかりと見守り、攻撃する事なく待ってくれていた律儀な(キング)・マキシマムさんである。

 ちなみに魔界のモンスター達も攻撃する雰囲気ではないと悟って待っていてくれている。何と空気が読めるモンスター達であろうか。

 

「あ、わりぃ忘れてた。何かインパクトが薄くてさ」

「インパクトが薄い!? 我輩が!? 無敵のオリハルコン軍団が!? ホワイ!?」

 

 ポップのあまりの言い草にマキシマムも愕然とする。だが仕方ない。仕方ないのだ。常であったならば、オリハルコン軍団とそれを率いる濃い外見と性格のマキシマムは印象深いのだろうが、今回ばかりは相手が悪かった。

 

「というか攻撃してこなかったんだな。正直奇襲仕掛けてくるものかと……」

「我輩だってそうしたかったわ! お前らがあまりにぐだぐだしとるからその気もなくなってしまったがなぁ!!」

 

 まことに申し訳ない事をしたと、ダイ達は反省した。そして、改めて戦いの構えを取る。それを見てマキシマムも気を取り直し、配下の軍団に指示を与えようとする。

 だが、戦いの構えを取ったダイ達の前に立つ者達がいた。そう、ハドラー親衛騎団である。

 

「ピギィ」

「お待ちを。我々はハドラー様にお呼ばれし参上しました。ここは我らハドラー親衛騎団にお任せを。とアルビナスが言っているよ」

「ピギィ」

「そう言うこった。この不出来な人形共に教えてやらなきゃな。ハドラー様に作り出されたオレ達の方が優秀だって事をよ。とヒムが言っているよ」

「ピギィ」

「ふ、戦士と駒の差を教えてさしあげよう。とシグマが言っているよ」

「ピギィ」

「所詮は意思なき駒。我ら戦闘のプロフェッショナルに敵う訳がないわ。とフェンブレンが言っているよ」

「ピギィ」

「ブローム。とブロックが言っているよ」

「お前も律儀だなダイ……」

「癖なんだ……」

 

 ピギィと聞くと祖父(ブラス)や父や兄の為に翻訳してあげなくてはならないという癖。メタルンとの長きに渡る共同生活によって身に付いた、あまりにむごい習性である。

 

「あー、もういいかな? 攻撃しても?」

「あ、はい。どうぞどうぞ」

「うむ。ゴホン。では……ゆけい我が無敵のオリハルコン軍団よ!!」

 

 マキシマムが指を鳴らす。それがオリハルコン軍団への指示の合図だ。オリハルコン軍団は意思を持たない人形の兵隊。ゆえに(キング)であるマキシマムの指示無しでは動く事さえ出来ないのだ。それは、マキシマムが危機に陥った場合でもだ。

 苦痛もなく、感情もない。一個の戦闘兵器としては正しい在り方かもしれない。だが、敵との性能に差がない時、真の戦士相手には柔軟性のない機械では相手になるわけがなかった。

 

「ピギィ!」

 

 ヒムが向かって来る無数の兵士(ポーン)を相手取る。どうやら同じ駒同士で戦うつもりのようだ。だが、相手の兵士(ポーン)は八体。こちらは一体。果たしてヒムに勝ち目はあるのだろうか。

 だが、感情がない兵士(ポーン)の動きは単調極まっていた。そして、禁呪法にて命を与えられたヒムは接近戦のエキスパートと化していた。

 その速度足るやまさに接近戦のエキスパートたる兵士(ポーン)に相応しいだろう。圧倒的な速度から生み出される運動エネルギーにより、次々とオリハルコンの兵士(ポーン)は砕かれていくのであった。

 

「ピギィ!」

 

 シグマと二体のオリハルコンの騎士(ナイト)が対峙する。その名に相応しい速度で戦場を飛び交う三体の騎士(ナイト)達。

 だが、速度という点でメタルキングに勝てる存在がいるだろうか? いやいない。ならば、メタルキングで出来たシグマにオリハルコンの騎士(ナイト)が勝てる道理もない。

 その速度足るやまさに盤上を飛び交う騎士(ナイト)に相応しいだろう。圧倒的な速度から繰り出される槍の一撃により、一体のオリハルコンの騎士(ナイト)は容易く貫かれるのであった。

 

「ピギィ!」

 

 フェンブレンが二体のオリハルコンの僧正(ビショップ)と切り結ぶ。全身これ武器とばかりに研ぎ澄まされた肉体から繰り出される斬撃の数々は、そこに存在する如何なる物も切り裂かんばかりだった。

 だが、フェンブレンの繰り出す斬撃はオリハルコンと違いまさに神速と呼ぶべき速度だった。やはり意思を持って放たれる攻撃の一つ一つに気合が籠められているのが要因だろう。

 その速度足るやまさに戦場を切り裂く僧正(ビショップ)の動きに相応しいだろう。圧倒的な速度から放たれる斬撃により、一体のオリハルコンの僧正(ビショップ)はバラバラになるのであった。

 

「ピギィ!」

 

 ブロックと二体のオリハルコンの城兵(ルック)がぶつかり合う。その巨体同士のぶつかり合いは全てをなぎ払わんばかりである。

 だが、ブロックの体裁きはオリハルコンの城兵(ルック)とは一線を画すものだった。戦士と兵器の違いが如実に出たのである。

 その速度足るやまさに動く城砦と呼べる城兵(ルック)に相応しいだろう。圧倒的な速度から突き出された豪腕により、一体のオリハルコンの城兵(ルック)は吹き飛んで行くのであった。

 

「ピギィ!」

 

 アルビナスとオリハルコンの女王(クイーン)が交差する。その動きはまさに最強の駒に相応しいものだ。

 だが、アルビナスの動きは全てにおいてオリハルコンの女王(クイーン)を凌駕していた。女王(クイーン)ともなれば当然色気が必要だ。だが、意思なきものに色気などあるわけがない。ならばこの差は必然なのである。

 その速度足るやまさに縦横無尽の動きを見せる女王(クイーン)に相応しいだろう。圧倒的な速度から時折チラリズムする細長い手足により、オリハルコンの女王(クイーン)は粉砕されるのであった。

 

 まあ、色々と意味の分からない説明がなされていたが、彼らに共通する事は唯一つだ。

 

「何か滅茶苦茶はえー!?」

 

 以上である。

 

「ば、馬鹿なぁっ!? む、無敵のオリハルコン軍団が!?」

 

 この結果には無敵()のオリハルコン軍団を率いるマキシマムも慌てふためいた。だが、これも当然の結果なのだ。オリハルコンとメタルキング素材。この二つには共通した特徴がある。非常に硬く、そして呪文を受け付けない。この二点だ。この二点だけならば同等と言える二つの金属だが、禁呪法として命を与えられた場合、二つの金属には大きな違いが生まれた。

 それこそが速度だ。誰もが知っている通り、メタル系のスライムの動きは速い。メタルキングともなると目で追う事も至難となるだろう。そして、禁呪法にて命を与えられた存在は、元となった素材の特徴を引き継いだ性能になる。つまり、メタルキング素材から生まれた彼ら親衛騎団が、メタルキングに相当する速度を身に付けているのは当たり前の話なのだ。

 練度で圧倒的な差があり、そして速度でも圧倒的な差がある。ならば、オリハルコン軍団如きに負ける親衛騎団ではない。

 

「ピギィ? ピギィ」

「無敵でも何でもなかったという事でしょう? さあハドラー様。ここは私達が引き受けます。どうぞお進みください。と言っているよ」

「うむ。親衛騎団よご苦労。それとダイだったか。オレに通訳は必要ない。一応喋っている事は理解出来るからな。一応……」

 

 律儀にアルビナスの言葉を翻訳するダイだったが、禁呪法にて親衛騎団を生み出した彼らの親とも言えるハドラーは、当然彼らの言葉が理解出来ていた。

 だが、これは言葉を翻訳出来ている訳ではなく、あくまで禁呪法で魂の一部が繋がっている故の結果であり、メタルンの言葉をハドラーが理解出来るようになったわけではない。

 そうして残るオリハルコン軍団を親衛騎団に任せ、ハドラーやアバン達は前に進もうとする。だが、それを許すマキシマムではない。

 

「ええい! 我輩の駒はオリハルコン軍団だけではない! これだけの数の魔界のモンスターを相手に勝てると思っているのか!? いけい!」

『グオオオオオッ!!!』

 

 マキシマムの命令に、アバン達の背後に控えていたモンスターの群れが動き出した。その数は軽く数えても数百、下手すれば千に届かんばかりの群れだ。

 前方にはまだ残っているオリハルコン軍団。後方から魔界の屈強なモンスターの群れ。如何に一人一人の実力はアバン達が圧倒していても、前後に挟まれた状態でこれだけの数に攻められればひとたまりもあるまい。そう、マキシマムは確信していた。

 

「ここはオレが――」

 

 ここはオレが引き受けよう。そう言って後方から迫る敵の前に立とうとしたヒュンケルを制した者がいた。

 

「いや、お前は大魔王の元にいけ。雑魚はオレが散らしてこよう」

 

 そう、ヒュンケルに敗れ人の強さを知る事で改心し、メタルンの元で強くなって帰って来た獣王クロコダインである。

 その全身は硬く分厚いメタルキングの鎧に包まれていた。動きやすさを重視したラーハルトの軽鎧どころか、防御力と動きやすさを両立させたヒュンケルの重鎧でもない。まさにメタルキング塊と言える程の密度を持った鎧である。

 このクロコダインの鎧の体積はメタルキング一匹分に相当していた。メタルンが日々少しずつ切り取って溜めていたメタルキング素材を惜しげもなく利用して作られた、クロコダイン専用の超重鎧である。

 そして、その鎧の後ろに備え付けてあった戦斧をクロコダインがその手に持つ。この戦斧もまた、巨大なメタルキング素材の塊であった。その全長はクロコダインの身長に匹敵するほどだ。

 

 そんな戦斧を見てヒュンケルは気付いた。以前戦った時は真空の斧という魔法の武器を使っていたクロコダインが、メタルキング製の斧に装備を変えた。それはいい。自分もした事だ。

 だが、今のメタルキングの戦斧には真空の斧にはあった魔宝玉がついていないのだ。魔法玉は魔法の武器の命とも言うべき核だ。例え武器が破壊されたとしても、魔宝玉さえ無事ならば別の素材を利用して再生する事が可能だ。

 これを利用すればメタルキングの戦斧を魔法の武器にする事も可能なはずなのだが、どうやらそうはなっていないようだ。メタルンが魔宝玉の特性を知らなかったのだろうかとヒュンケルは思う。

 そこでヒュンケルは思い直した。魔法や魔法を利用した技術に詳しいハドラーが一緒にいて、果たしてそんなミスをするのだろうかと。あのキラーマシンを作り上げたハドラーがいたのだ。ならば魔宝玉の特性を説明していても可笑しくはない。

 そんな疑問を抱いたヒュンケルだったが、その疑問はすぐに解ける事になった。

 

「ヒュンケル。オレの後ろは少々危険だぞ。下がっていろ」

「なに……?」

 

 何が危険なのだろうか。そう思うヒュンケルだったが、クロコダインの言葉を信じてその場から移動する。そしてクロコダインは自身の真後ろに誰もいない事を確認し、魔鎧(・・)の力を発揮するのであった。

 

「唸れ真空よ!」

 

 その叫びとともに、クロコダインの鎧の背部から衝撃破が発生する。そしてクロコダインは真空波が発生するとほぼ同時に大地を力強く踏みしめ、全力で前進していた。

 

『!?』

 

 これに驚愕したのは魔界のモンスター達だ。鈍重そうなクロコダインが前に立ち塞がったと思ったら、いきなり眼前にその巨躯が迫っていたのだ。

 予想と遥かにかけ離れたその接近に誰もが対応出来ないでいた。そんな烏合の衆に向けて、クロコダインは勢い良くメタルキングの戦斧を叩きつける。

 

『ぐわあああぁぁっ!?』

 

 その一撃で数十、いや、百に昇ろうかというモンスターが吹き飛んで行く。メタルンの修行を乗り越えて鍛えられたクロコダインの全身の力とバネ、そして技術が籠められた一撃に圧倒的加速が加わったのだ。その威力足るや如何ほどか。

 

「あ、あれは!」

「ふ、あれこそオレとメタルンの合作魔鎧よ!」

 

 そう、クロコダインの装備している鎧。これこそメタルンとハドラーの技術の合作。クロコダイン専用の究極の魔鎧である。

 クロコダインがメタルンの修行を受けるとなると、当然装備も相応の物へと変えられた。真空の斧はクロコダインが使うには少々身の丈に合わないと考えられ、クロコダインが振るうに相応しい大きさの斧へと変更する予定となった。

 それはいいが、真空の斧の魔宝玉をどうするかについてメタルンとハドラーは話し合った。当然ソアラの通訳付きでだ。

 

 戦斧にそのまま取り付けたところで大した意味はない。何故なら攻撃力という点では真空の斧の効果など大したものではないからだ。雑魚相手ならばともかく、強者相手では役に立たないだろう。魔宝玉の力を使うくらいならメタルキングの刃で切りかかった方が遥かに良い。

 だからと言って捨ててしまうのも勿体ない。何とか活用出来ないかと考えて生まれたアイディアが、鎧に組み込むというものだった。魔宝玉が武器じゃないと効果を発揮しないと誰が決めた。そんな訳はない。ちゃんと組み込めば鎧だろうが盾だろうが効果を発揮出来るはずだ。

 そして、鎧の背部に設置する事でクロコダインの動きを加速させる効果を生み出す。そう、攻撃ではなく補助の為に真空の斧の魔宝玉を利用したのだ。

 そうして完成されたメタルキングの魔鎧を使いこなす訓練をこなし、クロコダインは今や自在に魔鎧を扱える様になったのだ。

 

「むぅん!」

 

 多くの訓練と検証の果てに完成した魔鎧を自在に使いこなすクロコダイン。可変式のブースターとなった魔宝玉から衝撃破が発生し、クロコダインの巨体を天高く舞い上げる。

 更にブースターは角度を変更し、次にクロコダインは敵の真っ只中に向けて急降下した。そして、天から巨大な斧の一撃を振り降ろす。

 

『ぐわあああぁぁっ!?』

 

 まるで隕石が落ちてきたかのような一撃に、無数のモンスターが吹き飛んで行く。だが、魔界のモンスター達も負けてはいない。

 例え質は劣ろうとも数ではこちらが有利。そう言わんばかりに降り立ったクロコダインを囲み、そして一気に攻め込んだ。

 

「甘いわぁ!!」

 

 だが、メタルンの地獄の修行を乗り越えたクロコダインがその程度でぐわああぁぁとなる訳がなかった。

 クロコダインは戦斧に闘気を籠め、そして魔鎧のブースターを発動させる事でその場で高速回転し、その斧を思い切り振るった。

 その勢いやまさに竜巻。凄まじい切れ味を誇る竜巻は周囲のモンスターを一瞬で壊滅させたばかりか、そのまま移動して更に他のモンスターをぐわらせていく。

 

『ぐわあああぁぁっ!?』

 

 まさに八面六臂の活躍で大半のモンスターを蹴散らしたクロコダイン。その活躍を見てポップが呟いた。

 

「つ、つえー! お前良くこんな奴に勝てたな!?」

「ああ。今戦えば果たして勝てるかどうか……ふ、恐ろしくも頼もしい味方が増えたな」

 

 ポップの言葉にそう返すヒュンケル。実際に戦えば小回りと技術の差でヒュンケルが有利かもしれないが、メタルキングの塊があの速度で突貫してくると思えば相当なプレッシャーとなるだろう。

 

「あの雑魚どもはクロコダインに任せれば良かろう。さあ、オレ達は大魔王の元に向かうぞ!」

 

 そう言ってハドラーはこの場の敵を親衛騎団とクロコダインに任せて先に進む。

 後から参加してきたハドラーが仕切る事にいまいち納得がいかない面子もいたが、先に進む事には賛成だったのか文句は言わずに全員が移動する。

 

「あ、ちょっ! ま、待たんか!」

「ピギィ!」

「ハドラー様の邪魔立ては許しません! と言っているよ」

「ええい邪魔をしおって! それとそこのぼうず! 翻訳ご苦労である! だがちょっと律儀すぎやせんか!?」

 

 わざわざアルビナスの言葉を翻訳する為にちょっとだけ戻って来たダイに、マキシマムも律儀すぎだろうと突っ込みを入れる。

 癖なのである。

 

 

 

 

 そうしてアバン達は敵の包囲網を抜け出し、天魔の塔の入り口まで到着した。だが、そこにはアバン達の行く手を遮る巨大な門が待ち構えていた。

 

「で、でけぇ!」

「これは……」

 

 その門はあらゆる者の侵入を拒むように強固に閉ざされていた。押せども引けども叩けどもその門が開く事はない。

 これこそ、魔宮の門と呼ばれる天魔の塔への侵入者を阻む門。竜の騎士の力を以ってしても砕く事が出来ないと言われる最硬の門である。

 なお、同じ門が死の大地の海底、いわゆるパーンパレスの入り口に当たる場所にあったのだが、こうして天に浮かぶバーンパレスに侵入するのにわざわざ入り口を通る理由がない事からその門はスルーされている。誰にも気付かれず、ずっと開かずの門のままあるのだろう……。

 

「こんなもんぶっ壊せるのかよ?」

 

 あまりの強固さにそう呟くポップだったが、メタルンは外に出てから空飛んで上の窓とかテラスっぽい所から入れるんじゃね? と思った。だが、用意された道を通るのは様式美なので言わないでおいたが。

 

「ふん。竜の騎士に壊せぬ物など……」

 

 そう言いながら門を破壊しようと前に出るバランだったが、それを制する者がいた。そう、我らがチートアバン先生である。

 

「いえ、バラン。あなたの力は全て大魔王に費やすべきです。ここは私にお任せを」

 

 そう言って前に出るアバン。アバンの力では門の破壊は不可能だろうとバランは考えるが、アバンはけして力だけの男ではないと考え直してここはアバンの言う通りにした。

 そうしてアバンはゴールドフェザーを使い五芒星を描き、ある呪文の力を極限まで高める。そう、扉を開く呪文――

 

「アバカム!!」

 

 その言葉と共に放たれたアバカムの呪文により、古より閉ざされていた魔宮の門はゆっくりと開いて行く。

 力だけが全てではない。まさにその言葉を具現化したような存在がアバンであった。力づくで全てを解決するのは間違っている。そう教えられているような気がして、アバンの使徒達はどこか誇らしげに感じていた。

 

「ピギィ……」

 

 ――適切な力を適切な場面で使う。うむ。素晴らしい!――

 

 一方メタルンもアバンへの評価を上昇させていた。アバンの様な存在は人類に必要不可欠だろうとさえ思っていた。平時にあれば竜の騎士より有用だろう。

 だが、一方で現状は一定以上の力が必要とされているのも事実。そういった強大な力を上手く使うタイミングが今なのだ。

 

 

 

 魔宮の門を突破したアバン達は更に進む。道中には幾重にも張り巡らされたトラップがあったが、それもアバン(チート)の手に掛かればお茶の子さいさい。マァムを触手責めにした気概はどこにいったのか、哀れキル・トラップは活躍の見せ場なく消滅していった。

 そうして大魔王目指して進み続けるアバン一行を、天魔の塔の更に上、自らの居城にてバーンと2人の配下が覗き見ていた。

 

「バーンパレス最大最強の掃除屋も奴らに掛かれば形無しだな」

「所詮は掃除屋です……奴ではあれが限界でしょう」

「しかも彼らの戦力は減ってないんですよねぇ」

 

 マキシマムでは親衛騎団やクロコダインを抑える事も難しいと語るバーン達。そして、キルバーンが言う様に、親衛騎団やクロコダインを抑えた所でアバン達の戦力は減少したとは言い難い。

 何故なら、元々親衛騎団もクロコダインもバーンパレスで急遽参戦した存在だからだ。元々バーン達が想定していたアバン一行の戦力は欠片も減ってはいない。そればかりかメタルンやハドラーが増えている分大幅に増加したと言える程だ。

 

「バーン様……私が出ます。あのお力を使う許可を……」

「……1人で行く気か?」

 

 バーンの言う通り、ミストバーンは1人でアバン一行を殲滅するつもりだった。それはアバン一行を侮っての発言ではない。逆だ。アバン一行を最大限に警戒しての発言だ。

 確かに、バーンとミストバーンが揃って戦えば勝ち目は遥かに増すだろう。だが、それは同時にバーンの身を危険に晒すという事でもある。バランとダイが組めばバーンを脅かす事が可能なのは既に実証済みだ。

 そこにあのバグメタルキングやハドラーが加われば、更に危険は増すだろう。万が一、バーンを守りきれない場合があるかもしれない。ミストバーンはそう危惧していた。

 

「は……バーン様から授かったこの無敵の肉体があれば、奴らなど容易く殲滅してご覧に入れます」

「ふむ……」

 

 ミストバーンの発言にバーンは考える。確かに無敵のミストバーンが負ける事は有りえない。有りえないのだが、敵の中にはあのアバンが存在している。

 果たしてあの賢しき男がミストバーン相手に勝算もなく挑むだろうか? 否。勝算があるからこそ、こうしてバーンパレスに攻め込んで来たと考えるのが必然というものだ。

 そんな相手に対し、ミストバーンを1人で差し向けて問題がないだろうか。そう考えれば、バーンとて不安も残るというものだ。

 

「バーン様の危惧も分かりますよ。あのアバン君は正直厄介だ。ボクの死神の笛も、自慢のキル・トラップも台無しにしてくれましたしねぇ……。ここは一仕事しますかね」

「ほう……死神の本領発揮か?」

「フフフ……」

 

 キルバーンがアバンを狙うならば、アバンに対する懸念は減るだろう。それ程にキルバーンの暗殺技術は卓越していた。だが、それでも完全に懸念が消えないのがアバンの恐ろしさだが。

 アバン以外の者がミストバーンに対する対策を講じている場合もあるが、それはミストバーンが敵の策に陥ってしまった場合にバーンが救援に向かえばいいだけの話。ミストバーンとその肉体を失う訳にはいかないので、そこは十分に注意する予定だ。

 メタルンやハドラーといった不安要素の存在の力を測る事も出来るだろう。そう思考して、バーンはミストバーンの単独での行動に許可を下す。

 

「いいだろう。ミストよ、全力を許可する。見事勇者一行を倒してみせよ。キルにはあの厄介者の暗殺を任せる」

「ははっ!」

「了解。ふふ、それじゃあ頑張って暗殺しましょうかねぇ」

 

 快進撃を続ける勇者達を屠るべく、魔王軍最高幹部が出撃する。この2人を倒さない限り、バーンの元には何者も辿りつく事はないだろう。

 果たしてアバン達はこの強大な二体の魔族を倒す事が出来るのだろうか。

 

 




 人々を苦しめるバーン達を屠るべく、地上最バグのメタルキングが出撃する。このバグを倒さない限り、バーンの計画が成就する事はないだろう。
 果たしてバーン達はこの存在がバグのメタルンを倒す事が出来るのだろうか。



 帰って来たクロコダイン! 強いぞクロコダイン! 今のクロコダインは自己生産型ぐわぁ製造機ではない。雑魚強制ぐわぁ製造機となったのだ。
 あと、メタルンは親衛騎団が嫌いなわけじゃありません。母と言われて嫌なわけでもありません。ハドラーとの組み合わせが嫌なのです。あ、ハドラーが嫌いなわけではありませんよ。相方にしたいわけではないだけで。まあハドラーも同じなのですがねw





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