どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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ダイの大冒険 第十三話

 ハドラーとミストバーンの戦いが開始されて、僅か一分足らず。だが、既に戦況は片方に傾いていた。

 圧倒的に押しているのはハドラーだった。身体能力ではミストバーンが圧倒している。だが、ハドラーはその差を光と闇の闘気の同時運用によって身体能力を高める事で埋めていた。それでもミストバーンの身体能力はハドラーを上回るのだが、先程から繰り広げられている格闘戦はハドラーが押していた。

 元々呪文も格闘もこなせる万能戦士だったハドラーだが、メタルンとの修行によって格闘戦は更に伸びていた。だが、ミストバーンもハドラーに負けず劣らず格闘戦をこなせる男だ。両者がまともにぶつかり合えば、身体能力で圧倒しているミストバーンが有利だろう。

 だが、両者には圧倒的な違いがあった。それこそがハドラーの真必殺技である聖魔滅爪撃である。

 ハドラーのミストバーンへの相性は抜群だった。聖魔滅爪撃はメドローアと違い、常に爪に宿っている。メドローアであればフェニックスウイングで跳ね返す事が可能だが、聖魔滅爪撃ではそうもいかない。

 いや、フェニックスウイングで防ぐ事は出来るが、その場合防げるのは片方の爪のみ。残る爪がミストバーンの喉元を貫こうと襲ってくるだろう。そして、フェニックスウイングで地獄の爪(ヘルズクロー)を砕いたとしても、地獄の爪(ヘルズクロー)は再生可能な生体武器だ。あまり意味があるとは言えなかった。

 そもそもだ。僅かでも命中すればミストバーンはダメージを受けてしまう。本体は問題ないのだが、この肉体にこれ以上の傷をつける訳にはいかない。そのためミストバーンの戦い方はどうしても回避が中心となり、攻撃に躊躇いが生まれてしまうのだ。

 そんな中途半端な攻撃では、メタルンの修行を乗り越えたハドラーには通用しなかった。いや、下手な攻撃では聖魔滅爪撃によってガードされてしまう。そうすれば、聖魔滅爪撃に触れた箇所は消滅する事になる。それを避けたいが為に、ミストバーンの攻撃は回避を前提をしたものとなる。そんな攻撃が今のハドラーに通用するはずがなかった。

 余談だが、ハドラーの呪文に関する成長は据え置きである。呪文が効かないメタルンを相手にしていたのだから、まあ仕方ないというものだ。メタルンも呪文と格闘のどちらか一つに絞った方がいいと判断して、そういう修業にしていた。何せ両方鍛える時間がなかったのだ。

 

「温いぞミストバーン!」

「ぐっ!」

 

 ミストバーンの掌底を回避し、そのまま身体を捻って回し蹴りを放つハドラー。両爪に全ての注意を向けていたミストバーンはその蹴りをまともに受けてしまう。

 光と闇という相反する闘気がせめぎ合うことで、二つの闘気は互いに負けまいと高めあっていた。今のハドラーの身体能力は竜の紋章を発動させたバランに匹敵するだろう。そんな一撃を受ければ、然しものミストバーンも体勢を崩す事となる。

 そして、体勢が崩れた瞬間は大きな隙となる。そこを狙ってハドラーの爪がミストバーンを貫かんとする。

 

「うおおお!?」

 

 その一撃をミストバーンは全力で回避した。どうにか身体を捻り、大地を転げる事でハドラーの攻撃範囲から逃れたのだ。最早体裁など捨てた必死の回避だ。それ程にこの肉体がこれ以上傷つく事をミストバーンは恐れていた。

 

「……ハドラーの勝ちだ」

 

 2人の戦いを見てバランがそう呟いた。聖魔滅爪撃が命中する事を恐れて全力を出し切れないミストバーンと、新たな力を全力で揮うハドラー。2人の差は明白と言っていいだろう。

 このまま戦闘が進めばいずれミストバーンは追い詰められ、全てを消滅させる恐るべき一撃にて貫かれるだろう。そう、このまま戦闘が進めば……。

 

「もうよいミストよ」

「!?」

「こ、この声は……!」

 

 ミストバーンが追い詰められていた時、突如として戦場に声が響き渡った。その声に一番に反応したのはミストバーン、そしてハドラーだ。

 この2人が誰よりも反応する声の持ち主。そんな者はこの世に一人しかいない。そう、大魔王バーンである。

 

「ば、バーン様……! 私はこのお身体を……! この罪は私の死を以ってして必ずや――」

「――よい」

 

 ミストバーンの罪の告白を、バーンは一言で遮った。そして、そのまま己の側近に言葉を紡ぐ。

 

「お前の罪ではない。その肉体が傷つく可能性は余も考慮していた事だ。問題ではない。だが、それにはアバンが関わると思っていたのだが……まさか、お前がそれを成し遂げるとはな……。思ってもいなかったぞハドラーよ」

「大魔王……バーン!」

 

 バーンの言葉が放たれる対象がミストバーンからハドラーへと変化する。

 己を捨て駒にした張本人の声に、ハドラーもやや興奮しているようだ。いや、緊張していると言うべきか。やはりかつて感じていた恐ろしい力の持ち主と敵対している事実を改めて実感し、少々気圧されているようだ。

 

「お前が余に反するのも当然というものよ。だが、その上で聞こう……。余の下に戻らぬか? 今のお前の力はまさに魔王と呼ぶに相応しい代物よ。離反したままにするにはちと……いや、正直に言おう。かなり惜しい」

 

 それは魅惑の台詞だった。大魔王がそのカリスマを以って発せられる言葉はハドラーを魅了するに足る力が籠められていた。

 あの強大な力の持ち主が、惜しいと言ったのだ。その力を自らの為に欲しいと言っているのだ。それに魅力を感じない者はほとんどいないだろう。それは、善なる存在でもだ。それ程にバーンのカリスマは絶大だった。

 だが――

 

「断る」

 

 ハドラーは、たった一言でバーンの魅惑の誘いを切り捨てた。

 ミストバーンにはそれが信じられなかった。人間や地上で生きた者ならばともかく、魔族であり、バーンの力とカリスマに一度ひれ伏したハドラーが、バーンの誘いを断れるとは思わなかったのだ。

 

「オレがただ強くなっただけならば……恐らくその誘いに乗り、オレは再びあなたの下に跪いていただろう……。だが! 今のオレにはあなたの……いや、お前の言葉に魅力など感じはせん! 甘言で誑せばオレが従うと思っていたのか! オレをなめるなァッ! 大魔王ォッ!!」

 

 ただ独りで強くなっていれば、ハドラーはバーンの言葉に従っていたかもしれない。大魔王バーンという強大な存在に認められる。それは何と甘美なことか。

 だが、今のハドラーは独りではなかった。共に強くなった者達がいる。支えてくれた者達がいる。鍛えてくれた者がいる。そんな存在に触れてきて、光の闘気を身に付けるまでに心変わりしたハドラーにとって、バーンの言葉は滑稽にすら聞こえてきた。

 そんなハドラーの気迫は遠く離れたバーンにまで届いていた。それを感じ取ってバーンはなおさら思う。惜しい、と。今のハドラーにならば、来る神々との戦いの全軍を任す事すら出来るというのに。それを切り捨てた己のかつての行為を失態とすらバーンは認めた。まあ、当時のハドラーはとてもではないが神々との戦いの場に出す事は出来なかったが……。

 あの鼻垂れ魔王からたったの一ヶ月と少しでここまで成長すると、どうして思えようか。

 

 ――これもあのメタルキングの力か……――

 

 ハドラーの急成長を見て、バーンはより一層メタルンの得体の知れなさを感じる。一体このメタルキングは何者なのか? 神々が大魔王を倒す為に遣わした存在だと言われても、バーンは納得するだろう。そんな事を言われれば、神々としては遺憾の意を表する所存だろうが。

 

「ミストよ。長年預けていたその肉体……今こそ返してもらうぞ」

「……はっ!」

 

 バーンのその言葉は全員に衝撃を与えていた。肉体を返してもらう。その言葉が意味する事は一つ。ミストバーンが操っている肉体は、本来はバーンのものだということだ。

 それはつまり、ただでさえ強かったあの大魔王バーンが、更に強い肉体に戻り圧倒的な強さを手に入れる……いや、取り戻すという事に他ならない。

 

 アバン達がその事実に驚愕する中、ミストバーンもまたバーンの言葉に衝撃を受けていた。

 ミストバーンは当然だが自分の肉体がバーン本来のものだと理解している。つまり、ミストバーンの受けた衝撃はアバン達とは異なるものという事だ。

 その衝撃は……お前では余を守る事が出来ないと、絶対の主から告げられたに等しい発言を受けた事だった。それは、バーンを守護する事のみに己の存在意義を見出すミストにとって、耐えがたい程のショックを与えていた。

 

 だが、それでもミストバーンは……いや、バーンの影であるミストは、バーンの言葉に従った。

 大魔王様のお言葉は全てに優先する。それが、ミストの守るべき最大の言葉だからだ。

 

「お返しいたします。天地魔界にて最強と謳われた……この真の大魔王バーンの肉体をっ……!」

 

 そうしてミストは今まで操っていたバーンの肉体を解放した。ミストから解放された肉体は一瞬にしてその場から消え去り、バーンの下へと移動する。

 そして、アバン達がいるここから更に上。天魔の塔の上にあるバーンの居城にて、数千年ぶりにバーンは完全な肉体を取り戻した。

 天をも震わせる魔力。大地を粉砕する肉体。その両者が合わさった時、魔界にて神と称される最強の存在が蘇ったのであった。

 

「ピギィ……」

 

 ――感じる……これが大魔王の真の力……――

 

 ダイがメタルンの言葉の通訳を忘れる程の力の波動が届いていた。

 今まで出会った敵とは比べ物にならないプレッシャーをアバン達が感じ取る。通常の大魔王バーンも、無敵の肉体を操るミストバーンも、どちらも信じがたい力の持ち主だった。

 だが、今から戦おうとしているのはその二つを併せ持つ存在だ。果たして自分達が勝つことは出来るのだろうか。

 そんな風にバーンのプレッシャーに押されているアバン達を奮起させたのは、誰あろうかつての強敵――アバンにとってのみだが――ハドラーだった。

 

「ふん。今更何を怯えているのだ。バーンが元の肉体に戻ったという事は、それは無敵ではなくなったということ。強くなろうとも、先程のミストバーンよりはダメージを与えられるだけマシだと思えばいい」

「ピギギィ!」

「お、ハドラーにしては良いこと言うじゃないか。見直したぞ! と言っているよ」

 

 メタルンが茶化すように言うが、真実メタルンはハドラーの言葉に感心していた。ハドラーは気付いていないかもしれないが、先のハドラーの言葉にはアバン達を気遣う感情が籠められていたのだ。

 あの鼻垂れ魔王が、あのラッキョヘアー魔王が、よくもここまで成長したものだと、メタルンはしみじみ感動していた。

 

「……そうでしたね。いやぁ、私とした事が少々気圧されていましたよ。皆さん、ハドラーの言う通りです。今の大魔王バーンの力は想像を絶します。ですが、私達ならば必ず倒す事が出来ます。私達もまた、大魔王の想像を幾度も超えてここまで来たのですからね。今回もそうしてあげましょう」

 

 そうやって笑顔で語り掛けるアバンを見て、アバンの使徒達もプレッシャーから解放されたようだ。これならばバーンと対峙して力を出し切れないという事態には陥らないだろう。

 バランやラーハルト、メタルンに至っては緊張すらしていなかった。バランは今までの経験からプレッシャーに打ち勝っており、ラーハルトは敵が神だろうが大魔王だろうが、己の全てを叩きつけるのみと達観している。

 メタルンに至ってはいつものスライムスマイルを微動だにさせていない。これも修行の賜物なのだ。なお、ご飯が禁止された時以外はスライムスマイルな事は言ってはならない事実である。

 

 そうしてアバン達がプレッシャーに打ち勝った時の事だ。その場に更なる戦力が辿り着いた。

 

「おお、ここにいたのか。追いついてしまったな! グワァハハハハッ!」

「クロコダイン!」

「ピギィ!」

 

 ――お待たせしましたハドラー様! 我らハドラー親衛騎団。大魔王と戦う為の剣となり盾となりましょう――

 

「うむ」

 

 そう、魔界の精鋭達の足止めをしていたクロコダインと、オリハルコンのチェス軍団の足止めをしていたハドラー親衛騎団である。

 両者共に敵を全滅させたので、こうして先を行く皆を追いかけてきたのだ。ミストバーンとの戦いが長引いた為に無事追いつけたようである。

 なお、全滅とあるが、正確には一人だけ彼らから難を逃れた者がいる。戦況の不利を悟ってさっさと「ショアッ!」っと叫んで去って行ったマキシマムである。今頃はどこか辺境でアバン達の活躍を祈っているだろう。バーンが勝てば逃げた自分が処分されると理解しているからだ。がんばれ、勇者様。である。

 

 こうして戦力を増強させたアバン一行は先に進もうとする。だが、それを止めようとする者がいた。

 

 ――そうはさせん!――

 

 そう、バーンの肉体から抜け出たミストである。ミストは確かにバーンにその肉体を返上した。だが、それでこの場からおめおめと逃げるつもりは毛頭なかった。

 バーンはミストを罪に問わないと言った。だが、ミストはバーンの肉体を傷つけてしまった罪をどうにかして贖いたいと思ったのだ。そしてそれ以上に、バーンが少しでも有利になるように、勇者達の数を減らしておきたかったのだ。

 現在のアバン一行の戦力を数えよう。アバン・ヒュンケル・マァム・ポップ・ダイ・バラン・ラーハルト・ハドラー・ハドラー親衛騎団(五体)・クロコダイン・メタルンという、地上最強クラスの実力者が15人である。大所帯にも程があるだろう。戦隊物ですら10人を越える事はほとんどないというのに、こともあろうに勇者達が大魔王を15人で囲んでフルボッコにしようとしているのだ。訴訟物である。

 そんな事を大魔王の側近であるミストが許すはずもない。然しもの大魔王もこの面子にこの数で攻められては、万が一も有り得るとミストをして心配せざるを得なかった。

 

 ――この場の誰かを乗っ取り、撹乱してやろう――

 

 それがミストの狙いだ。ミストは暗黒闘気の集合体。いわばゴーストとガス生命体の中間のような存在だ。その為ミストには実体がなく、光の闘気を除きあらゆる物理攻撃が意味をなさない。

 魔界で数千年にも渡って繰り広げられてきた戦いの思念の中からミストは発生した。実体を失っても戦い続けようとする思念に動かされていたミストは、やがて他の生命体を操る事を覚えた。それを利用して、ミストはバーンの肉体を操っていたのだ。

 ミストは己に実体が存在しない事を疎ましく思っていた。自らの意思で自らを鍛え強くなる事が出来る生命体が羨ましかった。だからこそ、ミストはあまねく強者を尊敬していた。

 だが、こんな存在だからこそ、ミストはバーンの目に留まる事が出来た。バーンに仕える栄誉を賜る事が出来たのだ。それはミストにとって最高の誇りだった。

 だからこそ、ミストはバーンに存在の全てで尽くそうとする。ここで少しでも勇者達の数を減らし、バーンを僅かでも有利にしなければならないという思いに駆られたのだ。

 

 ――狙いは……やはりハドラーか――

 

 メタルンを狙うという発想はない。確かに竜の騎士すら超える存在だが、何か存在がバグ過ぎて乗っ取る事が出来ない気がしてならないのだ。ミストの勘は冴え渡っていた。

 アバンもない。確かに恐るべき存在だが、光の闘気の持ち主には抵抗される可能性が高いのもあるが、それ以上に戦力的には乗っ取ったところですぐに鎮圧されるだろう。

 ダイとバランもない。戦力的には十二分だが、竜闘気(ドラゴニックオーラ)の力で自身が弾かれてしまう可能性が高いだろう。

 ポップも駄目だ。魔法使いとしては人間で最高峰だろうが、肉体が他と比べると脆弱だ。これではすぐに壊れてしまうだろう。ミストにダメージはなくとも、すぐに壊れるようでは使い道がない。

 ヒュンケルも危険だ。光の闘気の使い手としてはアバンを超える力の持ち主だ。下手すれば自身が消されかねない光の闘気を秘めているだろう。

 クロコダインも却下。確かに驚くほどのパワーアップを果たしたが、その力を自身が上手く活用できるようになるには時間が掛かるだろう。あの魔鎧は使いこなす為にかなりの技術が必要だ。

 親衛騎団は論外だ。生物ではないので乗っ取りようがないのだ。そもそも、バグから生まれた存在にミストは入りたくなかった。

 ラーハルトも却下だ。避けられそうでならない。

 マァムは有力候補と言えた。光の闘気は微々たるもので、その実力はかなり高い。だが、それ以上に乗っ取るべき存在がいたので保留となった。

 それこそがハドラーだ。竜の騎士に匹敵せんばかりの実力は確かなもの。光の闘気も使えるが、やはり暗黒闘気に比べればまだ未熟、己を弾くなど出来ないだろう。その上ハドラーを乗っ取れば上手くすればハドラー親衛騎団を手駒にする事も可能だ。主の命を盾にすれば已む無く命令も聞くだろう。その力でアバン達を足止めしたり、戦力を減少させる事も出来るはず。

 

 ハドラーを人質にするような行為はミストには似つかわしくないものだ。だが、己の矜持を曲げてでもやらなければならない。いや、バーンの為に何もかもを成す事が、ミストの真の矜持なのかもしれない。

 そうしてミストは実体のない己の特徴を利用して床に隠れ潜み、ハドラーがその上を通り過ぎようとしたところで、ハドラーを乗っ取ろうと動き出した。

 

 メタルンの闘気砲!

 ミストに763のダメージ! ミストをたおした!

 

「――!?」

 

 哀れ、ミストは声を発する暇もなく、メタルン以外の誰に気付かれる事すらなく、この世から完全に消滅した。

 

「おい、どうしてオレの足元に向かって闘気砲を放った!?」

「ピギィ?」

「いや、蝿がいてね? と言っているよ」

「蝿を殺す為に闘気砲を撃つ馬鹿がいるか!?」

「ピギギィ!」

「命の恩人に何てことを! と言っているよ」

「蝿なんぞに殺されてたまるか! あと、お前は人ではなくてスライムだろうが!」

「ピギィ?」

「あん? やんのかコラ? と言っているよ」

「ぐっ……い、今は大魔王を倒す事が先決だ……! この場は引いてやる……!」

 

 メタルンの凄み溢れるピギィにすごすごと引き下がるハドラー。勝ち目のない戦いをするのはただの愚か者なのだ。なお、この後彼は大魔王と戦おうとしているのだが、それに関してはどう思っているのだろうか。ミストが生きていれば小一時間問い詰めているだろう。

 ともあれ、メタルンのおかげで気付きはしなかったがハドラーは窮地を脱した。後は大魔王との戦いに向けて気合を入れるだけだ。

 まあ、メタルンはハドラーが大魔王とまともに戦えるとは思っていなかったが。もっとも、その予想が予想外の方向で正解するとは、文字通りメタルンも想像していなかったが。

 

 

 

 

 

 

 やがてアバン一行は大魔王の待つ間へと辿り着いた。扉一つを隔てた間には大魔王が待ち構えているだろう。だが、アバン達は己の勝利を信じて、大魔王と直に出会う恐ろしさのあまり開く事も憚られる巨大な扉を開いた。

 そこは玉座の間だ。バーンパレスのどの場所よりも荘厳な玉座の間に、一人の男が立っていた。端整な顔立ちに、立派な二本の角。優雅な佇まいと王の風格を漂わすその男こそ、魔界を震撼させる神にして、地上を破壊せんとする大魔王バーンである。

 

「よくぞここまで来た。歓迎するぞ地上の勇者達よ」

 

 アバン達を歓迎する言葉がバーンから放たれる。何の変哲もないはずのその言葉には今まで以上の力が籠められていた。

 それを感じ取り、誰もが実感した。これこそが、真の大魔王バーンなのだと。

 

「こ、これが……!」

「真の……!」

「大魔王……!」

「ピギィ……!」

「バーン……! と言っているよ」

「そこは締めろよ!」

 

 だが、大魔王バーンが作り出した強大なシリアスも、メタルンの存在一つでぶち壊された。存在がバグは伊達ではないのだ。

 

「ふ、ふはぁっはっはっはっ!!」

「……お、おい。大魔王が受けてるぜ……」

 

 バーンの突如とした高笑いにポップが呆気に取られる。それ程に先程のやり取りが面白かったのだろうか。

 

「ふふふ……余が真の姿に戻るなど、実に数千年ぶりの事よ。それを笑い話に変えてしまうのだからな……」

 

 そう、バーンは心底楽しくて笑ったのだ。これほどまでに笑ったのはどれほどぶりだろうか。

 

「凍れる時間の秘法は解けた。次の皆既日食が訪れる数百年後まではこの姿でいるしかない。余の不老の時間を数百年間も奪ったお前達の罪は重い。故に、お前達には余を精一杯楽しませる義務があるのだが……先程のやり取りは十分にその価値があったぞ」

 

 大魔王を前にしてコント染みた芸当をするなどと、キルバーンですら出来なかった偉業だ。その事実にバーンは愉快そうに笑い声をあげた。

 

「ピギィ?」

「まじで? こんなので良ければいくらでもやるよ? と言っているよ」

「ふ、余を相手に軽口を叩ける者などお前が初めてだぞメタルキング……いや、メタルンだったかな。くっくっく」

 

 長い時を生きるとはいえ、メタルキングの固別名を覚えるなどとは思ってもいなかったなと、またもバーンが笑い声をあげる。

 そんな上機嫌なバーンを見て、ポップはどこか拍子抜けしていた。もっと殺伐とした殺し合いが始まると思っていた矢先の出来事だ。ポップが呆れるのも仕方ないだろう。

 だが、当然そんな笑い話だけで終わるわけがなかった。

 

「さて、一頻り楽しませてもらったところで……そろそろ始めるとしよう」

『!?』

 

 バーンのその発言でアバン一行の緊張が高まる。そう、相手は魔界にて最強と謳われた真の大魔王バーン。ミストバーンのような無敵さはないが、老バーンとミストバーンの力が総合された今の真バーンは、今までで最強の敵と言えるだろう。

 それを目の前にして、いつまでも緊張感を無くしたままでいられるはずもなかった。

 こちらから攻めるべきか。それとも相手の動きを待った方がいいか。アバン達が僅かに悩んでいると、ふとバーンが思い出したかのように口を開いた。

 

「ふむ。しかし少々数が多いな。ここまで来たからには誰もが実力者であろうが……果たしてどれだけ残るかな?」

 

 そんな、アバン達には意味が理解出来ない言葉を発して、バーンは額にある第三の瞳の力を発動させた。

 メタルンの闘気が減った。

 

『!?』

 

 その瞬間、床に掌に収まるくらいの宝玉が転がった。その数は……一つだ。

 

「ふむ。一つだけか。やはり素晴らしい強者の集いよ。だが……ふ、はぁっはっはっは! まさかお前が最初に脱落しようとはな……ハドラーよ!!」

「ぴ、ピギィ!」

「は、ハドラー様! とアルビナスが言っているよ」

「ピギィ!?」

「てめぇハドラー様に何をした!? とヒムが言っているよ」

「ピギィ……!」

「元に戻らぬなどと口にしてみろ……! とシグマが言っているよ」

「ピギィ!」

「ただで済むと思うなよ! とフェンブレンが言っているよ」

「ピギィ!」

「ブローム! とブロックが言っているよ」

「ピギィ!」

「あんだけ大魔王を倒すと意気込んでて速攻脱落とか! オレをなめるなァッ! 大魔王ォッ!! だってさ!! ぽんぽが痛いよー! とメタルンが笑っているよ」

 

 バーンの脳内に「おのれメタルンーッ!」というハドラーの叫びが聞こえたが、バーンもハドラーに若干同情した。

 

「ハドラーは余の魔力によって“瞳”と呼ばれる宝玉にされたのだ。もはやハドラーには“見る”“聞く”“考える”の三つの行いしか許されない。これは余と戦う資格を持つに値しない者のみに効果を発揮するのだが……まさかハドラーが脱落するとはな」

 

 それがバーンの第三の瞳の魔力だ。この力で“瞳”にされた者は動く事も叶わず、ただただ眼前の光景を眺め、思考する事しか出来ない。

 そしてその思考は全てバーンに流れ込むようになっている。その恐怖と絶望の感情を感じ取り、愉悦に浸ろうとするバーンであったが、今回のハドラーには愉悦以上に同情を感じたようである。

 

「ピギィー」

「なるほどね。ハドラーの聖魔滅爪撃は強いけどその分消耗が激しいからね。ミストバーンとの戦闘でずっと発動しっぱなしだったから誰よりも疲弊してたんだよねー。とメタルンが言っているよ」

 

 そう、それがハドラーがバーンとまともに戦えないとメタルンが考えた理由だ。

 聖魔滅爪撃は確かに強い。凶悪な性能を有している必殺技だ。それ故に欠点もまた存在していた。それが消耗の激しさだ。光と闇の闘気を融合させるどころか、更に炎と氷の闘気までもを融合させる荒業なのだ。それを制御ないし維持しようとすれば、相応の消耗をしてしかるべきだろう。

 これはメドローアに通じる欠点と言えた。メドローアもまた術者にとてつもない消耗を強いるのだ。それが魔法力か闘気かの違いはあるが。

 

「ピギィ!?」

「ハドラー様は元に戻るのですか大魔王!? とアルビナスが言っているよ」

「ふ。余を倒せばそれも叶うだろう。だが、戦いに巻き込まれて“瞳”が壊れてしまった場合にどうなるかは……まあ、言うまでもないだろう」

 

 その場合は当然“瞳”となった者……この場合ハドラーは死んでしまうという訳だ。

 つまり、ハドラー親衛騎団は絶対に“瞳”となったハドラーを巻き込む訳にはいかないという事である。

 

「ピギィ!」

「全員防衛陣形を! とアルビナスが言っているよ」

 

 アルビナスがそう叫んだ瞬間、“瞳”となったハドラーを抱えたアルビナスを中心に、ハドラー親衛騎団が集結する。ハドラーを守るアルビナスを他の4人の親衛騎団が守る事でハドラーを完全に守りきる防御陣形だ。

 

「ピギィ」

「申し訳ないのですが、大魔王を倒すのはあなた方のみでお願いいたします。まあ、母上がいらっしゃれば問題ないでしょうが。とアルビナスが言っているよ」

「ピギィ……」

「だから母親じゃないと……まあ今はいいでしょう……。とメタルンが言っているよ」

 

 今は大魔王を倒す事が先決だ。こうして馬鹿なやり取りをしている暇はないのだ。いや、随分と馬鹿なやり取りをしている気がしなくもないが。

 ともかく、ハドラー親衛騎団は参戦不可となった。当然だがハドラーも戦力外だ。肝心な時に役に立たないから鼻垂れ魔王と言われるのだと、メタルンが内心でボロカスにハドラーをこき下ろす。

 

「ピギィ」

「さ、戦おうか大魔王バーン。その真の力をとくと見させてもらおうか。とメタルンが言っているよ……メタルン、一人で戦う気なのかい?」

 

 メタルンの言葉を翻訳しながら、ダイがメタルンを心配そうに見つめる。

 如何にバグメタルキングことメタルンと言えども、完全無欠の存在となった今の大魔王バーンに勝てるだろうか。

 父や兄や自分、そして仲間達と一緒に戦った方がいいのではないか。そう思っての言葉だ。

 そんな優しいダイに対し、メタルンは言った。

 

「ピギィ」

 

 ――真の力を取り戻した大魔王を相手に事前情報もなく戦うのは危険だよ。ここは私がバーンの全貌を少しでも明かす為に戦った方がいい――

 

 何やらもっともらしい事を言ってダイを説得するメタルン。本音は黒の核晶ぶっぱされた恨みを晴らす事なのは秘密である。

 自分はともかく、他の者達は確実に死んでいただろう。物語が始まる前に終わらそうとした優秀な大魔王には相応の礼を返さねばならないのだ。

 

「だ、だけど!」

 

 それでもダイはメタルンが一匹……一人で戦う事に納得出来なかった。ダイにとってメタルンは家族も同然の存在だ。幼い頃から一緒なだけでなく、自分と父母を再会させてくれた恩スライムでもあるのだ。そんな存在に一人重荷を背負わせるなど、納得できるわけがなかった。

 そんなダイに対し、バランが優しく語りかけた。

 

「ダイ……メタルンだぞ?」

「そう言えばそうだった。メタルン頑張ってね!」

「ピギィ?」

 

 ――納得いかない納得の仕方なんだけど?――

 

 バランの一言でダイはあっさりと納得した。何を心配していたのか。大魔王バーンが魔界最強ならば、メタルンは三界最バグだ。どれだけ強かろうとも、システムを無視するバグに勝てるわけがないのだ。

 何やら第四の壁を超え掛けているダイはさておき、メタルンとバーンが互いに対峙した。大魔王とメタルキング。まさに世紀の一戦の始まりである。史上でも初の一戦だろう。

 

「ふ……まさか余がメタルキングと相対するとはな……夢にも思っていなかったぞ」

「ピギィ」

「私はこうしてお前と戦うのを夢見ていたぞ。あの時の黒の核晶の礼はさせてもらおう。と言っているよ」

 

 翻訳されたメタルンの台詞を聞きながら、バーンはダイを殺すのはメタルンを殺した後にしようと決めた。然しもの大魔王もメタルンの言葉を翻訳する事は出来なかったようだ。

 

「そう言えばそうだったな。あの時お前を倒せなかったのは余の痛恨の失態よ。ここでその失態のつけを払うとしよう」

「ピギギィ?」

「ふ……出来るかな? と言っているよ」

 

 互いに笑みを浮かべるメタルンとバーン。メタルンは元からだが。

 バーンはメタルンをメタルキングだとは思っていない。これがメタルキングならば魔界に存在する全メタルキングに失礼というものだ。

 目の前にいるのは神をも上回る最強の敵だ。己の長き生においてこれ程の強敵には出会った事すらないだろう。そう、好敵手と認める冥竜王ヴェルザーですら、比べる事も出来ない敵だ。

 ならば、手加減の余裕も慢心する暇さえもない。故にバーンは己の最強の奥義にてメタルンを迎え撃とうとする。

 バーンのその動きを見て、メタルンの目の色が変わる。僅かな動きからバーンの奥義の恐ろしさを理解したのだ。

 

 両者の間には凄まじいプレッシャーが渦巻いていた。その奔流は天高く浮かぶバーンパレス全域に響き渡るばかりか、地上の隅々にまで届いていた。

 大地が震え、天が鳴き、海が荒れる。ここに、メタルキングと大魔王の死闘が始まろうとしていた。

 

 




 マキシマム(……がんばれ、ゆうしゃさま)

 なお、マキシマムは禁呪法によって生まれたモンスターではなく魔界産のオリハルコン金属生命体という超希少モンスターです。なので、バーンが倒されたとしてもマキシマムが死ぬ事はありません。







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