どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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ダイの大冒険 第十四話

 バーンが左腕を天に、右腕を地に向けた構えを取る。それを見て、全員の空気が一変した。その構えを見て、その構えから発せられる圧力を感じ、誰もが息を呑む。

 バーンが構えを取った瞬間に理解したのだ。バーンの取った構えはただの構えではない。恐るべき何かを秘めた構えなのだと。

 

「流石は地上最強の勇者達……この構えの恐ろしさを理解したか」

 

 そう、アバン達が感じ取った事は間違いではない。この構えはバーンの最大最強の奥義に繋がる構えだ。バーンが真に強敵と認めた相手のみに使用する構えであり、この構えを見て生き延びた敵は一人としていない恐るべき奥義なのである。

 

「これを天地魔闘の構えと呼ぶ。メタルキングとはいえスライム族にこの構えを取る事は屈辱だが、お前はそれに値する強者よ、メタルン」

「ピギィ……」

「天地魔闘……なるほど。攻防一体の構え……いや、魔という文字が表す通り、攻防魔に関する必殺の攻撃を同時に放つ構えと見た。とメタルンが言っているよ」

 

 メタルンがバーンの構えとその名を知り、その構えに籠められた意味を解説する。そしてその解説をダイが通訳する。それを聞いてバーンが「ほぅ」と感嘆の息を吐く。カオス。

 

「ふ、名前と構えのみでそこまで見抜くとはな……。余がこの構えを取った敵は数少ないが、その強者達の誰も初見で理解する事は出来なかったぞ」

 

 もっとも、その者達はこの構えを二目と見る事は出来なかったがな。とバーンは続けた。

 そんなバーンの称賛の言葉に対し、メタルンも一言返した。当然ダイの通訳付きでだ。

 

「ピギィ」

「なに、私も似たような構えを取った事はあるからな。当時の私は魔法力など持ち合わせていなかったから、天地闘法の構えと言った所かな? と言っているよ」

「ほう、貴様も……うん?」

 

 メタルンの言葉に一度納得しかけ、そしてその内容のおかしさに気付いてバーンが首を傾げた。当然メタルン以外の全員もだ。

 

「いや、待て……お前が天地魔闘の構えと似た構えを取った事がある……だと?」

「ピギィ」

「うん。と言っているよ……うん?」

『いやそれはおかしい』

 

 通訳をしてくれているダイも含めて総突っ込みが入る。当然だ。手足がないメタルキングが何をどうすればバーンと同じ構えが取れると言うのか。

 

「ピギィギィ」

「まあこう見えても元人間ですからね。とメタルンがえぇぇぇ!?」

『なん……だと!?』

 

 軽いノリでとんでもない発言をするメタルン。当然だが誰もが理解不能という反応を示した。さもありなん。メタルキングが元人間だったなどとどうして思えようか。誰よりも長い時を生きたバーンですら想像の範疇を超えた発言である。

 

「ピギィ?」

「あれ? 言ってなかったっけ? と言っているよ……初耳だよメタルン……」

 

 そんな爆弾発言を一度でも耳にすれば絶対に忘れるわけがないだろう。念の為、父と兄を見やるダイだが、両者とも呆然とした表情で首を大きく横に振っていた。

 いきなりの重大事実にアバン達が呆然としている中、バーンがふとある伝説を思い出した。

 

「元人間……!? そんな馬鹿な事が……いや、まさか進化の秘法!?」

 

 魔界に伝わる伝説の中に進化の秘法というものがある。その秘法を用いれば生物本来の進化の道とは異なる進化を得られるという。

 ただの力なきモンスターが強大な魔王に進化したり、人が魔族に進化する事すら可能と伝えられる進化の秘法。その力を用いれば人間がメタルキングになる事も不可能ではないだろう。そうバーンが語った。

 

「ピギィ?」

「え? 普通に転生しただけですけど? と言っているよ」

「普通!? 普通に転生とはどういう意味だ!?」

 

 普通とは何なのか。常軌を逸した存在である大魔王がとくと語りたかった。

 だが、メタルンの奇行やとんでも発言は今更だ。そんなメタルンに慣れているバランがいち早く正気に戻ってメタルンに質問をする。

 

「転生……竜の騎士の命が尽きる時、その魂はマザードラゴンに回収され、いずれ新たな竜の騎士として生み出される……それと同じ様なものなのか?」

「ピギィ。ピギピギィ?」

「私の転生は記憶も力も引き継ぐから多分違うと思う。バランは歴代の竜の騎士の経験は蓄えられていても、記憶は同一じゃないでしょ? と言っているよ」

「そうだな……」

 

 メタルンの説明を聞きながらバランは考える。記憶と力を引き継ぐ転生。なるほど。確かにそれならば納得が出来るというものだ。

 メタルキングにあるまじき知性。実力。人懐っこさ。これら全てが元人間という情報を裏付けていた。

 

「メタルンが元人間……そう言えばメタルンが母上に料理を教えていたが、そういうわけだったのか」

「そこはもっと疑問に持とうぜ!?」

 

 ラーハルトが何やら納得したように呟いた言葉にポップが反応する。メタルキングが料理をする姿に疑問を抱かないのはどうなのだろうか。

 

『メタルンだぞ(よ)?』

 

 だが、バラン一家のその返答で全ては収まった。だってメタルンだし。おかげでソアラの料理のレパートリーは異世界の料理も含めて数百は下らない。バラン一家の食卓は明るい。

 

「ピギギィ?」

「そんな事より早く戦わない? いい加減待ちくたびれたんだけど? と言っているよ……」

『そんな事ってお前……』

 

 元人間だの転生だのと、普通ならば有りえない事をさらりと持ち出しておいての発言である。これにはダイも呆れ顔だ。

 だが、唯一メタルンの言葉に同意する存在がいた。そう、メタルンと死闘を繰り広げようとしている大魔王バーン本人である。

 

「いや……そなたの言う通りよな。下らぬ事に時間を費やしてしまった。この場にあるのは勝者か敗者かのみ! 元が人間だのメタルキングだのと、全て些事よ!」

「ピギィ」

「いいね。そういう分かりやすいのは嫌いじゃない。と言っているよ」

 

 メタルンのその返事を聞き、バーンはにやりと笑みを浮かべる。それに合わせてメタルンもスライムスマイルを浮かべた。いつもと変わらないなどと突っ込んではならない。

 

 

 

 先ほどまでの弛緩した空気は消え去り、両者の間に再び緊張感が発生し、膨大な圧力が周囲に吹き荒れる。

 死闘は開始の合図も掛け声もなく始まった。アバン達は誰もが目を凝らし、この戦いを欠片足りとも見逃さないようにメタルンとバーンを注視する。だが次の瞬間、メタルンの巨体がアバン達の視界から消え失せた。

 

『!?』

 

 それを視認出来ていたのはアバン一行(・・・・・)の中ではバランだけだ。バランの中に脈々と受け継がれてきた歴代の竜の騎士達の経験。そして幾度となくメタルンと戦ってきた経験。

 その二つの経験のおかげで、バランはメタルンの動きを僅かながらも視認する事が出来た。そうでなくては真の竜の騎士たるバランと言えど、メタルンの動きに反応する事すら出来なかっただろう。

 だからこそ、大魔王バーンの異質さが際立った。竜の騎士ですら反応する事が困難な速度による攻撃。通常のメタルキングを遥かに上回る速度に、膨大な闘気を乗せた神速にして最強の一撃。それを、大魔王バーンは迎撃しきったのだ。

 

『なっ!?』

 

 その叫びはアバン達ほぼ全員の叫びだった。バラン以外は誰も見切る事が出来なかった一瞬の攻防。メタルンが消えたと思ったら、そのメタルンがいつの間にか吹き飛ばされ後方の壁を貫き、バーンパレスの床に倒れ伏していたのだ。

 一体何が起こったのか。アバン達のその疑問が先の叫びとなったのだ。

 メタルンが敗れた? あのメタルンが? そんなまさか? 死んでいるのか? 大魔王バーンはどうなったんだ?

 様々な疑問がアバン達の中に一瞬で浮かび上がる。そんな彼らを正気に戻したのは、敵であるバーンの声だった

 

「ふ、ふふふ……この天地魔闘を以ってして、余にここまでのダメージを与えるとは、な……」

 

 バーンのその言葉に反応し、メタルンを見つめていたアバン達はバーンに目を向ける。そして、右腕が大きく歪んでいるバーンの姿を見た。それだけではない。左手もまた歪んでおり、それぞれ大量の血が流れ出ていた。

 

「い、一体何があったってんだ!?」

 

 メタルンとバーン。両者の有様を見て、あの一瞬で何が起こったのか理解出来なかったポップがそう叫ぶ。

 それに答えられる者はメタルンと対峙したバーンと、唯一全てを見る事が出来たバランのみだった。

 

「天地魔闘……いや、奇しくもメタルンの言った様に、天地闘法の構えか……恐るべき奥義よ」

「ほう、流石は竜の騎士。あの刹那の攻防を見切ったか。神々が作り出した究極の戦闘生命体の名は伊達ではないな」

 

 そう言ってバランの観察眼を褒め称えつつ、バーンは膨大な魔力と魔族としての再生能力を駆使して砕けた右腕と左手を一瞬で再生させる。魔族の中でも飛び抜けた再生能力。これもまた大魔王バーンが規格外な存在である証だ。

 

「ああ……!」

「め、メタルンが与えたダメージが一瞬で……!」

 

 驚愕するアバン達を見やりながら、バーンは天地魔闘の構えの種明かしをする。

 

「天とは攻撃。地とは防御。そして魔とは無論魔力の運用を指す。もっとも、如何に余の魔力と言えどメタルキングに呪文は効果を及ぼさん。故にバランの言う通り、呪文ではなく闘気を用いた攻撃を転用したがな」

 

 そう、それこそが天地魔闘の構えの真相だ。攻撃・防御・魔法。三つの動作を一瞬で行うバーン最強の奥義。しかもその動作に用いられるのは全てがバーンの必殺技だ。

 防御を担当するフェニックスウイングはあらゆる呪文を弾き返す超高速の掌撃だ。呪文であるならば例えメドローアですら弾き返す事が可能であり、呪文以外であっても大抵の攻撃を弾き返す事が出来る。下手に攻撃すれば防御技であるはずのフェニックスウイングで返り討ちにあうだろう。

 攻撃を担当するカラミティエンドは純粋な攻撃力で言えばバーン最強の攻撃技だ。渾身の力と闘気を籠めた手刀はオリハルコンの武器すら上回る最強の武器と化す。

 そして呪文はバーンの魔力の象徴とも言えるカイザーフェニックスだ。その実体はメラゾーマだが、バーンの桁外れな魔力により全てを焼き滅ぼす不死鳥と化している。

 もっとも、今回バーンはカイザーフェニックスを用いなかったが。理由はバーンが言った様に、メタルキングは大抵の呪文を弾き返すからだ。故に、今回バーンは呪文ではなく、闘気を用いた攻撃であるカラミティウォールを放っていた。

 

 あの一瞬。メタルンが攻撃を放った一瞬。バーンは全神経を集中させてメタルンの動きを見切った。そして、メタルンの超高速の体当たりにフェニックスウイングを叩きつけた。

 その瞬間にバーンの右腕は砕け、大きく歪んでしまった。あらゆる攻撃を防ぐ鉄壁の守りを以ってしても、メタルンの攻撃を受け止め切れなかったのだ。

 だが、メタルンの攻撃の勢いは確実に落ちた。そこにバーンは間髪入れず、カラミティエンドを振り下ろした。

 

 メタルンが闘気で強化したメタルキングボディと、バーンが全身全霊を籠めた手刀がぶつかり合う。その結果、オリハルコンの武器すら凌駕する手刀は見るも無残に砕け散った。

 だが、メタルンも無傷では済まなかった。そのメタルキングボディは切り裂かれ、小さいが確かな亀裂が生じていた。

 そして、メタルンの攻撃の威力も大きく減少する結果となった。そこにバーンの第三の必殺技が炸裂した。メタルンの特性に合わせて魔力ではなく闘気による攻撃、カラミティウォールを放ったのだ。

 と言っても、従来のカラミティウォールとは少々異なる攻撃だが。従来のカラミティウォールは闘気に近い性質を持ったエネルギー衝撃破を光壁状に放つという、対集団用の技だ。もちろん個人に対して放つ事も可能だが、一点の破壊力ではカラミティエンドと比べると大きく落ちるだろう。

 故に、バーンはエネルギー衝撃破を光壁状ではなく、一点に集中させる事で爆発的な威力を引き出しメタルンに叩きつけたのだ。カラミティバーストとでも言うべき技である。

 バーンの恐るべき所はこのカラミティバーストを手ではなく足で放った事だろう。両手はメタルンの攻撃を食い止める為に破壊した為に、一瞬の判断で無事な足を用いてエネルギー衝撃破を叩きつけたのである。まさに魔界の神に相応しい実力と言えよう。

 

 瞬きすら不可能なほどの一瞬の間に、これだけの攻防が繰り広げられていた。その事実をバーンの言葉から実感したアバン達は驚愕に慄く。

 果たしてこの恐るべき存在に勝てる事が出来るのだろうか? これだけの人数でありながら、僅かにも優位に立てた気にならない。気を抜けばあっという間に全滅してしまうだろう。

 

「メタルン……!」

 

 ダイがメタルンを心配する声を漏らす。今すぐにでも駆けつけて安否を確認したいのだろう。

 だが、それをしてはならないと、ダイの危険感知能力が教えていた。迂闊な行動を取ればその瞬間に命を失うという事を、バーンの実力から理解しているのだ。

 

「メタルンが心配か? まだ死んではいないようだが……まあそれも時間の問題よ。余の攻撃は暗黒闘気を纏っている。暗黒闘気でつけられた傷は回復呪文を受けつけん。暗黒闘気の影響が消えるのはどれほど先か……。まあ、余が止めを刺す方が早いだろうな」

「そんな事させると思って……! ……ん? 回復呪文を受けつけない?」

 

 重傷を負ったメタルンに止めを刺すという言葉にダイが身構えるが、その前のバーンの言葉にふと疑問を抱いた。

 暗黒闘気によるダメージは回復呪文を受けつけない。回復呪文を受けつけない。つまり――

 

「まさかメタルン!?」

「……ピギィ、ピギーギィ」

「……追撃してくるならカウンターかまそうと思ってたのに、来ないのかよー。と言っているって、やっぱり!!」

 

 ダイがもしやと思いメタルンを見やると、重傷を負ったはずのメタルンが普通に起き上がった。しかも全身の傷は一つも残っていないおまけ付きでだ。

 

「馬鹿な……!?」

 

 これにはバーンも驚愕する。確かに暗黒闘気によるダメージを与えたはずだ。いかに攻撃呪文を受け付けないメタルキングとはいえ、生物である限り暗黒闘気の影響から免れる事は出来ない。

 だが、バーンはまだまだバグへの理解度が足りなかった。バグは回復呪文ではない自力再生くらいお茶の子さいさいなのだ。

 

「ピギィ?」

「回復呪文じゃなく、闘気による回復をしただけだよ? と言っているよ。良かった! 心配させないでよメタルン!」

「ふん。お前があの程度でくたばるとは到底思っていなかったがな」

「父上の仰る通りだ。ダイはメタルンを心配しすぎだ」

「ピギィ」

「お前らはもうちょっと心配しろよ。と言っているよ」

 

 あんな事を言っているバランとラーハルトだったが、その実内心は結構メタルンの心配をしていたりする。

 そんな風に和気藹々としているバラン一家やメタルンを睨みつけながら、バーンはメタルンが暗黒闘気の影響を受けていない事に驚愕していた。

 

 ――再生能力でダメージを癒した事はいい。だが、それで暗黒闘気の影響が完全になくなる訳ではない。しかし現に奴の肉体に暗黒闘気の影響は見られん……。まさか……光の闘気で余の暗黒闘気を打ち払ったとでも言うのか!?――

 

 バーンの推測が正しいならば、メタルンの闘気はバーンを遥かに上回っているという事になる。暗黒闘気の影響を完全に消し去るということはそういう事になるのだ。

 だが、その推測は間違っていた。メタルンは暗黒闘気の影響を光の闘気で消し去ったわけではない。そもそも初めから暗黒闘気の影響を受けていなかっただけである。

 意外と活躍するボス属性である。最初の世界の彼はどこへ行ったのか……。 

 

「予想を遥かに上回るメタルキングと思っていたが……まさかこれ程とはな」

「ピギィギィ」

「私も驚いているよ。あれほど完璧にカウンターを食らったのはどれ程ぶりか。魔界の神の名は偽りじゃないな。と言っているよ」

 

 天地魔闘の構えの特性は一目見て理解していた。だから、あれがカウンター技の一種であるとも知っていた。

 当然その対処法も理解していた。もっとも単純にして簡単な対処法は、攻めではなく受けに回り、バーンが天地魔闘の構えを解くまで待つというものだ。

 天地魔闘の構えはその性質上、構えを保ったまま己から攻撃を繰り出す事は出来ない。完全に待ちの奥義なのだ。

 

 それを理解してなおメタルンは己から攻撃を繰り出した。

 そこには天地魔闘の構えの恐ろしさをダイ達に見せたいという思いもあるのだが、一番の理由はバーン最強最大の奥義を破ってみたいという、武人特有の負けず嫌いだろう。

 まあ、一度は天地魔闘の構えの前に敗れてしまったが、そこは経験豊富なメタルンだ。ただで敗れるはずもなかった。

 

「ピギギィ。ピーギギィ!」

「まあ、もう一度やれば私が勝つけどね。天地魔闘の構え見切ったり! と言ってるよ」

「ほう……?」

 

 メタルンの言葉にバーンが僅かに眉をひそめる。未だかつて破られた事がない最強の奥義を、メタルキングが見切ったと言うのだ。

 天地魔闘の構えからのカウンターを放ち、倒せなかった敵は誰1人いない。だが、眼前のメタルキングは唯一の例外だ。その例外が見切ったと言えば然しものバーンも気にしない訳がなかった。

 

「ピギィ」

「天地魔闘の構え。それは相手の先手に対し、お前の持つ三つの必殺技を一瞬で放つ事で迎撃するという、まさに最強の奥義だ。だが、その為にお前は不動の構えを取り続けなくてはならない。三つもの必殺技をほぼ同時に放つには凄まじいエネルギーと集中力を要するのだろう。然しもの大魔王も動きながらに三つの必殺技を放つ事は出来ないようだな。その構えは三つの必殺技を放つ為に必要なエネルギーを蓄え、その上で敵に先手を取らせる為の待ちの構えだ。と言っているよ」

「ふ、見切ったというのも完全なハッタリではないよう……いや待て。先程のピギィにそこまでの意味が本当に籠められていたのか?」

「ピギィ」

「一見完全無欠に見えるこの奥義だが、唯一の弱点がある。私が天地魔闘の構えに吹き飛ばされた時、お前は追撃を行わなかったが……それは何故だ? 余裕か? それとも慢心か? あの攻撃で私が死んでいなかった事はお前が一番理解していたはずだ。追撃を放てば勝っていたかもしれないのに、何故そうしなかった? まあ、追撃されたらカウンターをかましていたけどね。と言っているよ」

「弱点だと!? いや、だから本当にピギィだけでそこまで通じているのかと聞いているんだ!?」

 

 メタルンとダイの理不尽にバーンが動揺している。さもありなんとアバン達が頷く。

 

「ピギーギィギギィ!」

「その弱点を突けば、私が勝つ! と言っているよ」

『さっきより長い台詞で内容は短いのはどういう事だ!?』

 

 アバン達とバーンの突っ込みが同時に放たれる。今この時、この瞬間だけだが、勇者達と大魔王の心は一つになっていた。

 

「……まあ、良い。貴様の理不尽さにいちいち反応するのは面倒だ」

 

 そう言ってメタルンの理不尽を無視する方向に決めたバーンを見て、バランとラーハルトが唸った。

 

「むぅ……」

「メタルンの対処法をこの短時間で見切るとは……流石は大魔王か」

 

 こんな嫌な称賛は初めてだと、バーンは苦虫を噛み潰したような表情をしながら思った。

 とにかく、周囲の雑言は振り払い、バーンは再び天地魔闘の構えを取ってメタルンと対峙する。

 

「弱点がどうとか言っておったが……。余の天地魔闘の構えは完全無欠の奥義よ。破れるものなら破ってみせよ!!」

「ピギィ!」

「この世に真の完全無欠など存在しないということを教えてやろう! と言っているよ」

 

 メタルンとバーンの間に再びプレッシャーが渦巻いて行く。それを見て、ダイの脳裏に先程の攻防が浮かび上がった。と言っても、それ自体は目視出来なかったので、その結果を思い出したのだが。

 

「ねえメタルン。オレ達も一緒に戦った方がいいんじゃ……? 天地魔闘の構えに弱点があるなら、オレ達も一緒になってその弱点を突けば大魔王に勝つことだって……」

 

 そう、バランやラーハルトはあんな事を言っていたが、やはりダイはメタルンが心配だった。いくら強いとはいえ、先の攻防を見れば分かる通り、メタルンも傷つきはする。傷つくという事は、死ぬ可能性も当然あるという事だ。

 ダイはそれが嫌だった。戦いに来てこんな事を思うのは我侭かもしれないが、仲間の誰一人として死んでほしくない。ましてやメタルンはずっと一緒に暮らしてきた家族の一員なのだ。それが死ぬなんて、絶対に許せる事ではなかった。

 そんなダイの言葉からダイの優しさを理解したメタルンは、しかしその言葉を拒否した。

 

「ピギィ」

 

 ――いや、気持ちは嬉しいが、バーンとは私一人で戦わせてくれ。大丈夫、負けやしないさ。何せ帰ったらソアラがパインサラダを作って待ってくれているからね――

 

「何か良く分からないけどそれは駄目な気がするよメタルン!?」

 

 メタルンの台詞にダイが突っ込みを入れつつ嫌な予感を膨らませていた。まあ気のせいだろう。フラグは圧し折るもの。

 

「ピギィ!」

「行くぞバーン! と言っているよ。メタルン頑張って!」

「来いメタルン!」

 

 間に通訳が挟まる事で激しくシリアスを失っているが、それでも戦っている当人達はシリアスそのものである。多分。

 アバン達が再び始まろうとしている二人の戦いに注視する。今度こそ戦いの過程、そして結果を見逃さないように、全力でだ。

 だが、やはりというべきか……全ての過程を見切る事が出来たのはバラン、そして一度目の激突を経験として糧に出来たダイだけであった。これには語弊があるが、けして他の者達が先の一戦を糧に出来ていなかったという訳ではない。単にダイの成長速度が早すぎるだけなのだ。

 

 スタートダッシュからほぼマックススピードに達するメタルンの攻撃を見切る事が出来ず、大半の者達がメタルンを見失った。

 そして、メタルンを見失った彼らが次に目にしたのは、大きく吹き飛ばされていくバーンの姿であった。

 

『おおっ!』

 

 その結果にアバン達から歓声が上がる。何が起こったのかは理解出来なかったが、それでもメタルンがバーンを吹き飛ばしたのは理解出来る。

 それはつまり、メタルンが天地魔闘の構えを破ったという事に他ならない。

 

「す、すげぇ! すげぇぜメタルン! 一体何をしたんだ!?」

 

 最初の体当たりでは天地魔闘の構えを破る事は出来ず、敢え無く迎撃されてしまった。

 だが、次の攻撃は見事に天地魔闘の構えを破った。一体メタルンは何をしたというのか。

 そんなポップの疑問に、全てを見ていたバランが答えた。最近解説役が板についてきているかもしれない。

 

「うむ。メタルンは――」

 

 メタルンは、天地魔闘の構えに対して真っ向から体当たりをかました。それは一見最初の攻防と変わらないように見えるだろう。

 だが、実際は違っていた。最初の体当たりと二度目の体当たり。その速度自体はほぼ同じだが、籠められた威力は半分程度しかなかったのだ。

 なぜその様に加減した攻撃を放ったのか。それには天地魔闘の構えの仕組みと似たような理由があった。

 全身全霊の一撃を動きながら複数放つ事はバーンにも出来ない。せいぜい二発が限度だろう。

 それはメタルンも同じだ。最初の全身全霊の体当たりを連続で放つのは二回が限度だろう。反動を気にしなければ三回はいけるかもしれないが、その場合大きな負担が掛かり、メタルンの肉体にもダメージが返って来るだろう。それでは例え天地魔闘の構えを破る事が出来たとしても、互いに受けるダメージとしては大した差がない結果となってしまう。

 だが、一撃の威力を落とせばどうだろうか。

 つまる所、メタルンは攻撃威力を落として攻撃回数を増やしたのだ。

 天地魔闘の構えにおける三つの必殺技を受けたメタルンは、三つの必殺技の威力を把握していた。

 最初に防御の要であるフェニックスウイングと同等の威力の体当たりを放ち、フェニックスウイングを相殺する。次に即座に腰――だと思われる――を捻転させて威力を増加させた零距離体当たりを放ち、カラミティエンドを相殺。更にもう一度腰――だと思いたい――を捻転させて威力を増加させた零距離体当たりを放ち、カラミティバーストを相殺。

 そうしてバーンの必殺技を全て相殺したところで、追撃に腰――という事にしよう――を捻転させて威力を増加させた零距離体当たりを放ち、バーンを彼方へと吹き飛ばしたのだ。

 

「結局全部体当たりじゃねーか!」

「うむ。基本的にメタルンの攻撃は体当たりだ。時折良く分からん攻撃をする事もあるが……」

 

 さもありなん。何せメタルキングゆえに……。

 

「う、ぐ……」

『!?』

 

 バランの解説にポップが突っ込みを入れていると、遠く離れた場所から呻き声が聞こえてきた。即座に全員が反応しそちらを見やると、バーンが立ち上がっている姿が見えた。

 

「バーン!」

「ま、まさか……あのような力技で天地魔闘の構えを破るとはな……」

 

 信じ難いものをみる目でメタルンを見るバーン。どうやらダメージ自体はほぼほぼ回復しているようだ。倒れている間に再生させたのだろう。だが、精神的なダメージはかなり受けているようだった。

 無理もないだろう。未だかつて破られた事がない、完全無欠だと思っていた奥義が破られたのだ。それも弱点も何も関係ない、力づくでだ。

 三つの必殺技を同時に放つからこそ、天地魔闘の構えは最強と言われていた。だが、その必殺技を真っ向から防がれ、そして天地魔闘の構えの三回行動を上回る四回行動にて吹き飛ばされたのだ。これを敗北と言わずしてどう言えばいいのか。

 そんな風に精神的に衝撃を受けたバーンだったが、流石は魔界最強か。転んでもただでは起き上がらなかった。

 

「認めよう……貴様は神々すら上回る最強にして最悪の敵よ。だが……貴様のおかげで天地魔闘の構えの弱点は理解したぞ。貴様が追撃しなかった理由もそれであろう?」

「……ピギィ」

「……流石に気付くか。と言っているよ。どういう事なのメタルン!?」

 

 そう、メタルンがバーンに追撃しなかったのには理由があった。それはバーンがメタルンを追撃しなかったのと同じ理由だ。

 メタルンが言った通り、天地魔闘の構えはバーンの必殺技を三つも同時に繰り出す奥義だ。三つの必殺技を受けた者はその大半が命を落とすだろう。メタルンの様な例外は極稀なのだ。

 だからこそ、バーンは気付いていなかった。天地魔闘の構えを放った後、ほんの僅かだが肉体が硬直して動かなくなることに。

 全霊を籠めた奥義故に、その反動で一瞬だが体が動かせなくなるのだ。それが天地魔闘の構えの唯一の弱点であった。

 メタルンも四回行動という常軌を逸した攻撃をした為に、僅かに硬直してバーンが回復する時間を与えてしまったのである。これがただの四回行動なら問題はないのだが、バーンの必殺技を防ぐ威力を籠める必要があった為に、然しものメタルンもその反動を受け、それ以上動く事は出来なかったのだ。

 

 メタルンがそこまでの説明をした所で、誰もがバーンの攻略法を思いついた。

 メタルンが天地魔闘の構えを破ったところでメタルンは一瞬硬直してしまい、バーンに止めを刺す事は出来ない。そしてバーンはメタルンが硬直している一瞬でダメージを回復させてしまう。

 メタルンが天地魔闘の構えに破れた場合も同様だ。バーンは一瞬硬直してしまい、メタルンに止めを刺す事は出来ず、そしてメタルンは一瞬でダメージを回復させる。

 天地魔闘の構えを基点として両者が戦った場合、千日手となってしまう。だが、そこに第三者が加わればどうだろうか?

 

 ――天地魔闘の構えによる一瞬の硬直、その隙を狙って一斉攻撃する!――

 

 それが全員の見解だ。そう、全員。そこにはバーンも含まれていた。

 

 ――そうなった場合、余が敗北する可能性は高いな――

 

 “瞳”の魔力を弾く強者が13人――メタルンは除く――だ。無防備な一瞬にその一斉攻撃を受けて、無事で済むとはバーンも思えなかった。

 必勝のはずの天地魔闘の構えは敗北への道しるべとなってしまった。これならば肉弾戦にてメタルンと戦った方がいい。その方が確実に来る一瞬の隙をアバン達に与えない分マシだろう。

 だが――

 

 ――勝てるのか? 余が、呪文を抜きで、このメタルキングに――

 

 三界最強の魔力もメタルキングが相手では意味をなさない。天地魔界にて最強と謳われた身体能力だが、闘気と速度、そして防御力はメタルンが上とバーンは見ていた。

 力は勝っているのか? 手足がある分技術は勝っているのか? 勝ち目はどれ程あるのか? 例えメタルンを倒せたとして、残る勇者達を相手に戦える余力は残っているのか? いや、そもそも勇者達がメタルンと共闘した場合は?

 バーンの脳裏にそんな考えがいくつも浮かび上がり、そしてその全てをバーンは脳裏から蹴散らした。

 

「余は大魔王バーンなり!!」

 

 その気迫はアバン達を圧倒するに足るものだった。例え敵が何だろうと、どれほど多勢だろうと、逃げる事は出来ない、許されない。どんな敵だろうと戦い、そして勝つ。それが大魔王という名に課せられた使命にして、矜持なのだ。

 そんな、バランですら後ずさりしそうな程のバーンの気迫に対し、メタルンが笑みを浮かべて応える。

 

「ピギィ!」

 

 ――決着をつけようバーン! 誰も手を出すなよ! これは私とバーンの決闘だ!――

 

 メタルンの言葉を翻訳する余裕はダイにはなかった。ダイが気圧される程に、バーンもメタルンも鬼気迫る圧力を放っていたのだ。

 だが、ダイが翻訳せずとも、メタルンの言葉は全員に伝わっていた。誰も手を出すなというオーラがメタルンの全身から放たれていたからだ。

 当然バーンもそれを理解していた。そして言葉には出さず、内心で圧倒的有利を捨ててまで一対一に拘るメタルンに感謝する。

 

 ここに、三界最強の肉弾戦が始まった。

 

 




 ラストの引きが前回と同じような気がするのは気のせいです。

>「そんな事より早く戦わない? いい加減待ちくたびれたんだけど? と言っているよ……」
 次にあなた達はお前が言うな、という……すいません石投げないで下さい! 大変長らくお待たせしました!
 いやあ、スパロボとダクソ(初代)とその他もろもろは強敵でしたね……。







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