どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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ダイの大冒険 第十五話

 メタルンとバーン。両者の激突は三界最強決定戦と言えるだろう。この戦いの勝者が神々すら含めた全存在の中で、最も強き者となるのだ。

 それだけの実力を両者は有していた。バーンの力は世界を作ったと言われる三神よりも大きく、そのバーンと互角以上の戦いを繰り広げているメタルンもまた、三神を上回る力の持ち主なのだ。

 そんな両者が力と力、技と技を駆使して戦い合って、周囲に影響が出ないわけがなかった。

 

「むん!!」

 

 バーンの拳が唸りを上げてメタルンに振るわれる。その一撃をメタルンは持ち前のスピードと読みを駆使して回避する。

 空を切った拳だが、そこに籠められた威力は直線上にある壁を破壊し、バーンパレスを貫いて地上にまでその衝撃を届かせていた。

 

「ピギィ!」

 

 そんな強力な一撃を回避したメタルンは、そのまま流れるようにバーンの左半身へと回り込み、体当たりを敢行する。

 

「はぁっ!」

 

 その体当たりをバーンは強烈な肘打ちにて防いだ。ぶつかり合うメタルンとバーン。その衝撃の余波だけでバーンパレスが砕けていく。たった二回の激突で、栄華を極めたバーンの宮殿は見る影もなくなっていた。

 当然メタルンとバーンの死闘を見届けているアバン達にもこの衝撃は届いている。バランとダイが竜闘気(ドラゴニックオーラ)で全員を庇っている為に無事だが、そうでなければ観戦するだけでダメージを負っていただろう。

 

「す、すげぇ……! これがメタルンと大魔王の全力なのか……!」

「なんて戦いなの……! 攻撃と攻撃がぶつかり合う衝撃波で目を開けるのも辛いなんて……!」

 

 ポップとマァムが眼前で繰り広げられる死闘を前に、そう零す。

 自分達も強いという自信があった。魔王軍を蹴散らし、大魔王に一度は敗れるも善戦し生き延び、更なる力をつけてここまでやってきた。

 だが、この戦いは文字通り桁が違うレベルだった。メタルンの、手を出すなという気迫は伝わったが、この戦いを見る限りその忠告は必要なかっただろうとポップは思う。

 なぜなら、手を出しようもない程に高次元の戦いなのだから。

 

「ピギギ?」

 

 ――この動き、見切れるかな?――

 

 メタルンが突如として動きを変えた。先ほどまでは凄まじい速度による連撃を繰り広げていたが、今の動きは質が違った。

 先ほどまでの動きを(どう)とするなら、今の動きは静だ。だが、遅いというわけではない。その速度はやはり高速ではあった。

 メタルンは高速にして滑らかな動きでバーンの周囲を回る。そして速度に緩急をつけることで無数の残像を生み出していたのだ。

 

「むぅ!?」

 

 ただ速いだけならば反応する事は出来た。だが、この動きは長い時を生きるバーンをして初めて経験するものだった。

 メタルキングという体の動作が分かり難いメタルンが、大地に接しながら肉体をピクリとも動かさずに高速で周囲を回転する。その上緩急つける事で残像すら生み出しているのだ。その動きを見切る事は至難の業だろう。

 

「こんな動きをするとは……!」

 

 メタルンと長い付き合いであるバランですら、こんな動きをするメタルンを見るのは初めてだった。それはつまり、自分を相手にするのにメタルンは本気ではなかったという事だ。

 それを悔しく思うが、大魔王バーンという強敵を相手にしている今はメタルンの底の知れない力が頼もしくもあった。

 

「くっ!」

 

 どこから来るのか全く予想出来ない。それがバーンの内心だ。つまり、バーンですら見切る事が出来ないという事だ。

 このままでは無防備に致命の一撃を受けてしまうやもしれない。そう危惧したバーンが取った打開策が、目に映る全てのメタルンを攻撃するというものだった。

 

「カラミティウォール!!」

 

 バーンは自分を中心にして周囲360度にカラミティウォールを放つ。これならばメタルンがどこにいようが問題ないだろう。

 もちろんこの程度の攻撃でメタルンを倒せる等とはバーンも思ってはいない。天地魔闘の構えですら致命傷を与える事が出来なかったのだ。集団用の技と言えるカラミティウォールではダメージらしいダメージすら与えられないだろう。

 だからこそ、バーンは追撃の一手を放つ準備をしていた。メタルンならばカラミティウォールを突き破るなど容易いだろう。だが、突き破る瞬間に、闘気の壁は一瞬だが盛り上がるなり裂けるなりの変化を見せるはず。

 そこを狙って全力のカラミティエンドを叩きつける。それがバーンの策だった。

 

 僅かな変化すら見逃さない。その気迫を以ってしてバーンは全力でカラミティウォールに意識を向ける。

 カラミティウォールの速度はバーンの力加減一つで変化する。メタルンの全速力と比べると遅いと言えるかもしれないが、全力で放つとかなりの速度になる。

 それでもメタルンが高速移動していた位置まで辿り着くのに数分もの時間を要した様な気がした。それほどまでにバーンは全神経を集中させていたのだ。

 

 ――どこだ? どこから来る?――

 

 そうして実時間にして待つ事僅か数秒。メタルンがいたはずの位置をカラミティウォールが通り過ぎるが、メタルンが闘気の壁を突き破って来る事はなかった。

 疑問に思うバーン。カラミティウォールに吹き飛ばされた? そんな弱者なわけがない。カラミティウォールを避けた? その場合、闘気の壁よりも遥か高くに跳躍した事になる。

 そう考えて慌てて上を見やるバーン。だが、メタルンはそこにもいなかった。ならば一体どこに?

 

 深まるバーンの疑問。だが、その疑問はすぐに氷解する事になる。

 

「がはっ!?」

 

 突如としてバーンが天高く吹き飛んだ。自ら飛んだのではない。何者かに吹き飛ばされたのだ。

 そして、今のバーンにそんな事をする者など、一人……いや、一匹しかしなかった。

 

「め、メタルン……!!」

「ピギィ?」

 

 ――油断大敵だぜ?――

 

 一体どうやってカラミティウォールから逃れたのか? 一体どこから攻撃したのか? そんなバーンの疑問はあるものを見て氷解された。

 カラミティウォールが過ぎ去ったバーンパレスの床。その一部に大きな穴が空いていたのだ。そう、メタルキングが通る事が出来るくらいの大きさの穴が。

 そしてバーンが立っていた足元にも同じ様な穴が空いている。そう、メタルンはバーンパレスの床を突き破り、下の階層に移動する事でカラミティウォールから逃れ、そしてバーンの足元の床を突き破ってそのままバーンを攻撃したのだ。

 バーンはメタルンの動きに対抗するべく360度全方位を攻撃したつもりだが、それは平面における360度だ。三次元における全方位とは、そこに上下も加わってくる。つまり、メタルンの動きを捉える為には前後上下全てにカラミティウォールを放たなければならなかった事になる。

 もっとも、その場合必殺技を四発同時に放つ事になるので、天地魔闘の構えを以ってしてもバーンには不可能な所業だったのだが。

 

「くっ!」

「ピギィ!」

 

 空中を吹き飛ぶバーンにメタルンが追撃を加えようとする。大きく吹き飛ばされるバーンに闘気の放出による高速移動で追いつき、そのまま体当たりを敢行しようとする。

 

「ええい! 吹き飛べ!」

 

 そんなメタルンに対し、バーンは準備していたカラミティエンドを放つ事で迎撃しようとする。空中という不安定な場所だが、トベルーラが使えるバーンならば特に問題を感じない。

 そうしてメタルンの攻撃を逆にカウンターしてやろうと必殺の一撃を放つが、その攻撃は完全にメタルンに読まれていた。

 

「ピッ!」

 

 ――ふっ!――

 

 メタルンは闘気の放出を微調整し、流れるような動きでカラミティエンドを躱す。そして左腕を咥え、その力を利用して地に向けて投げつけた。

 

「なに!?」

 

 力が吸い取られるような感覚がバーンを襲う。これもバーンの長い経験の中で初めてのものだった。

 攻撃した時の勢いそのままに地に投げつけられたバーンは凄まじい速度でバーンパレスの床へと叩きつけられる。床を突き破らなかったのは、バーンがトベルーラにて勢いを軽減したからだ。

 

「ぐはぁっ!」

 

 軽減したとはいえ、勢い良く床に叩きつけられたことでバーンの肺から空気が漏れ出す。痛みと息苦しさに僅かに身もだえするが、バーンはそんな己の状態を無視してその場から即座に飛び退いた。

 そしてバーンが飛び退いた瞬間に、バーンが叩きつけられた床にメタルンが勢い良く降り立っていた。

 

「ピギィ!」

 

 ――良く避けたな!――

 

「舐めるな!」

 

 バーンは眼前に降り立ったメタルンにカラミティエンドを叩きつけようとする。だが、攻撃しようとする左腕がまともに動かない。

 どうしたことだとバーンが己が左腕を見ると、その左腕はまるで操り人形のように肘から先が地に向かってぶら下がっていた。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

 いつの間にか、バーンの左肘の関節が外されていた。いったいいつ関節を外されたのかとバーンが逡巡する。そして、思い当たる節は一つしかなかった。

 

 ――カラミティエンドを避けられた時か!!――

 

 そう、カラミティエンドを回避し、その腕を咥えて合気を仕掛けた時。その時に同時に関節を外していたのだ。

 例えメタルキングの肉体になったとしても、元は合気柔術の達人。メタルキングに生まれ変わって十余年もすれば、この肉体でも合気や関節技の一部を再現する事は可能であった。

 

「ピギィ」

 

 ――やっぱり関節があるなら外せて当然だよね――

 

 バーンの肉体を借りていたミストバーン相手では不発だった関節技が決まって満足そうなメタルン。当然満足して終わりではなく、関節が外れて驚愕しているバーンに更に攻撃を加える。

 

「グゥッ!?」

 

 バーンはその攻撃を咄嗟に残る右腕でガードしつつ、後方に大きく跳ぶ事で距離を取る。それと同時に単体回復呪文としては最高の呪文であるベホマにて全身の傷を癒す。

 ベホマは確かに回復呪文の最高峰ではある。だが、その効果は使い手によって大きく異なる。未熟な者は傷の治療と体力の回復を同時に行う事は出来ず、そして治療にも相応の時間を必要とする。

 だが、バーンの超魔力に掛かればこの限りではない。傷と体力の同時回復は当然として、その回復速度も並外れている。まさに瞬時という言葉に相応しい速度でバーンの傷が癒えていく。

 外れた関節すらベホマによって元に戻る。凄まじいのは回復呪文の理か。それともバーンの超魔力か。

 

 今までメタルンが与えたダメージも全て回復している。勝負は振り出しに戻ったと言えるだろう。

 しかしメタルンはそんな事を気にしてはいなかった。相手が回復したならば、再びダメージを与えればいいだけの話だ。それも、回復が追いつかないレベルでだ。

 

「ピギギィ!」

「フェニックスウイング!!」

 

 メタルンの強烈な体当たりをバーンはフェニックスウイングで弾き返そうとする。だが、メタルンはフェニックスウイングが命中する前に、全身を高速回転する闘気で覆った。

 

「ぬぐっ!?」

 

 全ての攻撃を弾き返すフェニックスウイングと、メタルンが誇る絶対防御がぶつかり合う。

 そのぶつかり合いはメタルンに軍配が上がろうとしていた。両者の差は回転。その一言に尽きるだろう。超高速の掌底も、超高速で回転するオーラの渦が相手では若干分が悪かったようだ。

 

「カラミティエンド!!」

 

 全てを防ぐはずの防御技が逆に弾き返されそうになったバーンは、即座にカラミティエンドを放つ事でメタルンの防御壁を突き破ろうとする。

 一点に集中させた斬撃ならば貫けると思ったのだろう。そして、その考えは間違いではなかった。

 

「はああっ!!」

 

 凄まじい抵抗を感じながらも、バーンの手刀はメタルンの防御壁を貫いた。そのままメタルンにも手刀を叩きつけようとするバーン。だが、闘気の渦が消えた時、そこにメタルンの姿はなかった。

 

「な――がぁっ!?」

 

 メタルンの姿を見失った事に気付いたバーンは、メタルンの姿を探そうとする前に上空からの奇襲を受けてしまう。

 メタルンの闘気を操る技術は三界一である。そんなメタルンにとって、自身の周囲に闘気の渦を作り出し、それをその場所で維持したまま当人が別の場所へ移動するなど容易い事だった。

 つまりメタルンは闘気の渦を目晦ましと囮に使い、バーンの死角であった上空から奇襲を仕掛けたのである。

 

「はぁっ、はぁっ! ば、化け物め……!!」

 

 ――つ、強い! 強すぎる……!――

 

 どうにかしてメタルンから距離を取り、ベホマにてダメージを回復するバーン。既に全身の傷は癒えた。体力も問題はない。だが、バーンの呼吸は大きく乱れていた。

 流石のベホマでも、精神的な疲労から来るスタミナの消耗までは回復しないようだ。メタルンという圧倒的強者との戦いは、バーンに経験したことのない程のプレッシャーを与えていたのだ。

 

 それも仕方ないことだろう。バーンは強い。天地魔界にて敵となる者がいないほどにだ。冥竜王ヴェルザーという好敵手はいるものの、それは立場としての好敵手と言っていいだろう。バーンよりも実力的に劣るバランがヴェルザーを倒している事から、バーンとヴェルザーの実力関係は明白だ。

 もちろんバーンも生まれた時から最強だったわけではない。今の実力を得る為には相応の時間と努力が必要だっただろう。

 だが、今の実力を得てから今日(こんにち)までどれほどの年月が過ぎたか。バーンが真の肉体に戻る事が数千年ぶりなので、少なくともそれくらいの年月は経っているという事だ。

 そんなバーンが苦戦した事などどれほどぶりか。いや、自身以上の強者と戦った事などどれほどぶりか。永劫とも言える時が、バーンから苦戦という言葉を忘れさせていた。

 

 

 

「何故だ……。これ程までの強さを持ちながら、何故人間などの肩を持つ!?」

 

 突如として、バーンがメタルンに問い掛けた。それは純粋な疑問であった。

 

「人間は愚かだ。自分達と違う存在を認めようとせず、排斥する。例えそれが、自分達の恩人だとしてもだ!」

 

 バーンのその叫びに反応する者達がいた。ダイを代表として、そんな事はないと思う者もいる。だが、それはまだ世界の闇を知らない者の考えだ。

 事実、バーンの言葉に共感する者は複数人いた。人間の醜さを目の当たりにしたバラン。人間に迫害されたラーハルト。モンスターに育てられたヒュンケル。そして、迫害された事はなくとも人間の世界を良く知るアバンだ。

 彼らは知っている。人は時に何よりも残酷に、何よりも無情になれるという事を。

 

「お前が余を倒せば一時は感謝するやもしれん。だが、平和に慣れれば人間どもはお前は迫害し、追放するだろう! お前も知っておろう! 人間が人間以外にどれほど冷徹になれるかを! 知らぬ等とは言わさぬぞメタルン!!」

 

 バーンは知っていた。メタルンが人間に追い回されていた事を。メタルキングという超希少なモンスターを倒し、富と名声と強さを得ようとする人間に、執拗に追い回されていた事を。

 

「余と共に来いメタルン! お前の強さは天をも左右する力。その力を人間などという価値なき存在の為に費やす必要などない!!」

「そ、そんな事はない! 人間は――」

「余はメタルンに問うている! 世界の闇も知らぬ小僧は黙っておれ!!」

 

 バーンの言葉に反論しようとしたダイだったが、バーンの気迫に押されて思わず言葉を噤んでしまった。

 いくらダイが強くとも、やはり人生経験はまだ不足している。人生の殆どが人間の綺麗な部分しか見ていないのだ。ダイにとって最も悪党な人間がかつてレオナを暗殺しようとしていた小者では、人間の闇を知るには不十分だった。

 そんなダイでは、数万年もの時を生きて来たバーンの言葉に反論する事は出来なかった。

 

 そうして気圧されるダイに対し、メタルンが優しく語り掛ける。

 

「ピギィ……」

 

 ――ダイ。私の言葉を通訳してくれないか――

 

「え……うん。分かったよ」

 

 そうしてダイに再び通訳をお願いし、メタルンはバーンに向き直って言葉を紡ぎ出した。メタルン語だが。

 

「ピギィ。ピギピギィ」

「人間の愚かさも醜さも良く理解しているさ。それなりに経験は積んでいるつもりだからね。と言っているよ……め、メタルン……」

 

 バーンの言葉を肯定するようなメタルンの言い回しに、ダイが心配そうにメタルンを見つめる。だが、次のメタルンの言葉を聞いた瞬間、ダイは嬉しそうな笑顔を見せた。

 

「ピギィギィ。ピーギギィ」

「だが、それと同じくらい人間の素晴らしさと優しさも良く理解している。第一、魔族にだって人間を愛する者もいれば、自分以外の存在を餌とする者もいるだろう。結局はその者それぞれだという事だ。物事の一点だけを見て、全てを理解したように語るのは愚かだぞバーン。と言っているよ。メタルン!!」

 

 満面の笑みを浮かべるダイと対象的に、バーンは怒りを顕わにした表情でメタルンを見つめる。

 

「余とて魔族の全てを肯定するわけではない。同時に、人間の全てが愚かだとも思わん……。そこにいるアバン達を見ればそれくらいは理解出来る。だが! それはお前たちが強者だからこそよ! 多くの人間は弱者であり、そして弱者は大多数の意思を己の意思とし、周りの意思に流されて異端者を排斥するのだ!! 相手が強者であろうとそれは変わらん!! 種としてそこまで愚劣極まる存在は人間くらいよ!!」

 

 自分の意思を貫ける者はそれだけで強者と言えるだろう。だが、大多数の人間は強者ではない。日々を流されて生き、常識という大多数の意見を己の意思としている者が殆どだろう。

 そして、大多数の人間にとっての常識が、モンスターは悪。モンスターは恐ろしいというものなのだ。

 それだけでなく、時には同じ人間ですら異端として排斥する。モンスターを庇った。魔族と愛し合った。理由は様々だが、そうした自分達の常識から外れた者は、例え相手が善人であろうとも排除する事もある。それが人間だとバーンは語る。

 

「余は違う。余はいかなる種族だろうと強者を差別はせん。人間を愚かと言ったが、ここまで来る事が出来たアバン達には敬意を抱いておる」

 

 その言葉に嘘はないとメタルンは理解した。バーンはあまねく強者に敬意を抱いているのだと、バーンの言葉から実感出来たのだ。

 そして同時に、強者以外には興味がないという事もメタルンは理解した。

 

「ピギギィ。ピギィ?」

「力が全てか? バーン。と言っているよ」

 

 メタルンの言葉はバーンの問いに対する答えではなかった。むしろ逆にメタルンがバーンに問い掛ける形となる。

 質問に対して質問で返すのは失礼だが、その内容はバーンの琴線に触れた。故に、バーンは己の信条を語り出した。

 

「その通りだ。力こそ全て。力こそ正義だ」

 

 そう、それこそがバーンの信条だ。力だ。力がなければ何も出来ない。力があれば何をしても許される。力こそが正義なのだ。

 そんなバーンの言葉にダイ達は反論しようとするが、バーンはそれを許さずに更に言葉を紡いだ。

 

「神々は魔族や力ある魔物を魔界に追いやり、人間どもに地上という豊かな大地を与えた。そのような愚挙が許されたのは何故だ? 神々が何よりも、誰よりも強かったからだ!」

 

 力だ。力こそ全てだ。この世の理は全て強大な力から始まった。世界を作り出したのは神々の力だ。世界の基準を決めたのも神々の力だ。正義の定義を作り出したのも神々の力だ。神々が強いからこそ、全ての理を決定する権利があった。

 人間や動物、脆弱なモンスターに地上という豊かな大地を与え、強大な力を持つモンスターや魔族は魔界という太陽の光も射さない過酷な世界に追いやる。そんな事が出来たのも、神々が強いからだ。

 だからこそバーンは力だけを信じた。必ずや神々よりも強くなり、奴らを打倒し、自らが神の座につく。そうして初めて魔界という暗黒の世界に光が灯されるのだ。

 

「お前も理解しているだろうメタルン! 魔界の惨状を! 魔界がどれほど荒んだ世界かを! メタルキングとして生まれたお前ならば……! 魔界出身(・・・・)のお前ならば理解しているはずだ!!」

『なっ!?』

 

 バーンの言葉にダイ達が驚愕の声を上げる。メタルンが魔界出身だなんて初耳だったからだ。バーンの言葉が真実だったならばの話だが。

 だが、バランとアバンの二人はバーンの言葉に信憑性があると見ていた。メタルキングは魔界に住むモンスターという知識を二人は有しているのだ。

 

「ピギィ。ピギィピギィ」

「そうだな。私は魔界で生まれた。だから、魔界がどういった世界なのかは理解しているよ。と言っているよ……」

 

 そう言って、メタルンはバーンの言葉を肯定する。

 地上にはメタルキングは存在しない。メタルキングは魔界に住む超希少モンスターなのだ。故に、メタルキングとして生まれ変わったメタルンが、魔界にて生まれ落ちたのは当然の話だ。

 

「ピギィ……。ピーギィ……」

「常闇の世界、不毛の大地、溶岩の川、毒の沼……。とても人が住める世界じゃなかったな……。と言っているよ……」

 

 懐かしそうに、そして悲しそうに語るメタルンを見て、思わずダイも魔界という世界に想いを馳せる。

 地上が楽園だとダイは思っていない。それはダイだけではない。平穏に生きる者は、今ある環境が楽園であるなどとは思わないだろう。あって当然のものだからだ。

 だからこそ、バーンとメタルンの言葉で自分がどれほど恵まれているか理解した。地上で生まれた。それだけで既に恵まれているのだと。

 

「神々を滅ぼし、魔界に太陽を与える! その為に余はここまで来たのだ!! 数が多いだけの弱者が蔓延る偽りの世界ではなく、強者が理解される真の世界を作る為に!!」

 

 それが、数万年もの時を生きるバーンの目的だ。魔王軍を使っての地上征服など、真の目的に至るまでの道程に過ぎなかった。

 スケールが違い過ぎる。誰かがそう思った。神々を滅ぼすなどと、魔界に太陽を与えるなどと、いったい地上の誰が考えつくと言うのか。

 これが大魔王バーン。これが魔界の神と称されるほどの男だった。

 

「もう一度言おう。余と共に来いメタルン! お前とならば、必ずや神々を滅ぼし、魔界に光を灯す事が出来よう!!」

 

 そう言ってバーンはメタルンに手を差し伸べる。ここまでのバーンの言葉に嘘はない。それどころか、魔界の統治をメタルンに託す事すらバーンの思考の内にあった。

 力こそ全てだ。力こそ正義だ。ならば、メタルンにこそ魔界を統べる資格がある。ここまでの戦いでバーンも内心は認めていた。メタルンが己を凌駕する化け物であると。

 ここまでの戦いで、バーンがメタルンを傷つける事が出来たのは戦闘開始時に放った天地魔闘の構えによる攻撃のみだ。対してバーンは幾度となくメタルンに傷つけられている。この差は誰が見ても歴然だろう。

 

 メタルンもバーンの言葉に嘘はないと理解していた。その上で、メタルンはバーンに更に質問を投げ掛けた。

 

「ピギィ。ピギギィ。ピーギィギギィ?」

「魔界に太陽の光を与える。それ自体は素晴らしい事だと私も思う。だが、そこに至るまでにどれ程の犠牲が出る? と言っているよ」

 

 メタルンの言葉を聞き、バーンはこれ以上は無駄だと理解した。バーンの目的を果たす為には、メタルンが許容できない程の犠牲が出ると理解しているからだ。

 それでも、バーンは最後まで己の成すべき事を説明した。それが己を超える強者への礼儀だと思っているからだ。

 

「黒の核晶にて地上全てを破壊する。そうしなければ、魔界は太陽を得る事など出来ん……!」

 

 そう、それしかなかった。魔界は地上の遥か地下に存在する。そんな魔界が太陽を得る為には、地上という蓋を取り除く以外にはないのだ。

 そしてそれは、地上に住む全ての存在の死と同義であった。当然それを許容できるアバン達ではない。

 

「ふ、ふざけんな! 魔界の事は同情するけどよ、だからといって地上を破壊されてたまるかよ!」

「そうよ! そんなこと絶対に許すもんですか!」

 

 ポップとマァムがバーンの圧力に負けじと気迫を見せる。ここで負けてしまえば地上全てが終わるのだ。ならば、退く訳にはいかなかった。

 だがそんな彼らの気迫を、バーンは涼風を受けたかのように受け流し、そして言った。

 

「人間などという愚かな存在が蔓延る大地など、この世に必要ない」

『!!』

 

 地上の人間を虫けら程度にしか、いや、それ以下の害虫としか思っていない者の言葉だ。その傲慢とも言える言葉に、アバン達は一時言葉を失う程の衝撃を受けた。

 

「ピギィ」

「地上の破壊を許容する訳にはいかないな。と言っているよ」

 

 やはりか。メタルンの返答を聞き、バーンはそう思った。こうなるとは理解していた。メタルンが地上の破壊を許容できないと、これまでのメタルンを鑑みてバーンは理解していた。

 それを理解してなお、バーンはメタルンを勧誘したのだ。メタルン程の実力の持ち主が、自分を超える最強の存在が、地上の人間如きに良いように使われる事が我慢ならなかったのだ。

 だが、一縷の望みを懸けた誘いは予想通りに断られた。ならば、大魔王であるバーンが取るべき方針は唯一つ。戦って勝つ! それ以外にはなかった。

 

「これは……!」

「むぅ……!」

 

 バーンの行動を見てアバンとバランが驚きの声を漏らす。それは二人だけでなく、バーンの行動を見た全ての者が同じ様に驚愕し、動揺していた。

 

「天地魔闘の構え……!」

 

 そう、バーンは天地魔闘の構えを取ったのだ。既に攻略された奥義だ。それをこの場面で使う理由がアバン達には分からず、思わず動揺してしまったのだ。

 天地魔闘の構えでバーンがメタルンに打ち勝ったとしても、バーンは天地魔闘の構えを放った後の硬直によりメタルンを追撃する事は出来ない。つまり、勝利する事は出来ないという事だ。

 逆もまた然り。メタルンがバーンに打ち勝ったとしても、メタルンは攻撃直後の硬直によりバーンを追撃する事は出来ない。

 

 だが、どちらにせよ天地魔闘の構えを放った後にバーンに大きな隙が出来る事は確かだ。そこをアバン達が狙えば……どうなるかはバーンも理解しているだろう。

 それを理解してなお、天地魔闘の構えを取る。そこにあるのは己の奥義に対する信頼か。それとも奥義と共に玉砕する気か。はたまた他の思惑があるのか。それはアバン達には分からない。

 ただ、メタルンだけは理解していた。バーンに勝負を投げるつもりは毛頭ないと。必ずや勝利を得る為に全力以上を尽くそうとしているのだと。

 

「決着をつけようメタルン……! 余は、力で以って最大の障害であるお前を排除する……!!」

「ピギィ……! ピギィ!」

 

 ――力が正義などと言うつもりはないが、決着をつけることに異論はない……! 行くぞバーン!――

 

 両者の気迫に、ダイは再び通訳を忘れる程のプレッシャーを受ける。

 だがそれでも問題はないだろう。なぜなら、戦いが終わるまで通訳など必要としないからだ。

 決着は、近い。

 

 




 ○○○○さん「シリアスは滅びぬ! 何度でも蘇るさ!!」
 ○○○さん「シリアス満つる処にギャグは在り。ギャグの門開く処にシリアス在り。シリアスとギャグは表裏一体。例え今はシリアスでも、ギャグから逃れる事は出来ないのだ……!」

 ダイ大世界ではドラクエ3までに登場しているモンスターは地上産、ドラクエ4で初登場のモンスターは魔界産という設定があります。なので、ドラクエ4から登場したメタルキングは魔界出身とさせていただきました。







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