どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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BLEACH 第二話

 藍染は油断なくクアルソを見据え、そして帯刀してある斬魄刀を抜き放つ。

 鏡花水月。それが藍染の斬魄刀の名前だ。死神が持つ斬魄刀にはそれぞれ名前が有り、その名前を知る事で始解と呼ばれる力を発揮するのである。

 始解を会得した死神は護廷十三隊にて席官と呼ばれる地位に属する事が出来るようになる。即ち、始解を会得しているだけで死神として一定以上の実力を持っていると認められるのだ。それ程に、始解を会得した死神とそうでない死神の間には実力に差が生まれる。もっとも、例外というのはどこにでもいるものだが。

 

 始解の能力は斬魄刀によって大きく異なる。直接攻撃系・鬼道系・炎熱系・氷雪系など、様々な種類に大別されており、それらの種類の中で更に多種多様な能力が存在する。まさに千差万別と言えよう。

 そして、藍染の斬魄刀である鏡花水月の能力。それは完全催眠という、対象の五感全てを支配する絶対的な能力である。斬魄刀の中でも規格外の能力と言ってもいい。

 能力の発動条件は、鏡花水月の始解を対象が視ればいいだけだ。それだけで藍染は対象の五感を好きなように誤認識させる事が出来るのだ。

 

「さあ、この刀で君を屈服させてみせよう」

「……」

 

 既に鏡花水月は発動した。藍染ほどの死神になれば、始解を使用するのに掛かる手間は一瞬だ。

 クアルソの五感は藍染の掌の上であり、既にある幻覚を見せられていた。

 それは、藍染の部下である市丸ギンと東仙要の二人が、未だに藍染の両隣に立っているという幻覚であった。

 現実には二人は鏡花水月の術中に嵌っているクアルソ目掛けて斬り掛かっていた。だが、クアルソにはそれが認識出来ない。クアルソの視界には市丸も東仙も微動だに動いていないように映っているからだ。

 

 戦闘開始直後に鏡花水月を発動させた藍染は、それだけクアルソの事を警戒していた。クアルソの霊圧は並の虚はおろか、護廷十三隊の隊長格すら上回る代物だ。

 多くの虚を従え、多くの破面(アランカル)を造り出してきた藍染ですら想像を絶するほどの霊圧。比肩する者は藍染の記憶の中では、護廷十三隊の総隊長であり最強の死神として恐れられている山本元柳斎くらいか。

 藍染も山本元柳斎に劣らぬ霊圧を有している自負がある。だが、逆に言えばそれはクアルソが自身に匹敵する程の霊圧を持っているという事になる。そんな相手を前にして、警戒せずにいる訳がない。

 故に、初手にて最強の一手である鏡花水月を発動させたのだ。相手がどれほどの強者であろうと、完全催眠の術中にあっては勝利は覆らない。

 

 藍染は常に顔に貼り付けている余裕の微笑のままに、クアルソを見る。そして見た。見てしまった。クアルソの視線が、藍染よりも上に向けられているのを。

 

 ――何故、敵である私を見ていない――

 

 敵対者を見ずに、何を見るというのか。いや、クアルソは藍染を見ていない訳ではない。藍染()その視界にしっかりと収まっていた。

 ただ、他の敵をその視界に収める為に、僅かに視線を上に上げただけなのだ。その僅かな視線の動きに気付いた藍染の観察力は類稀なる物だと言えよう。

 

 ――まさか――

 

 藍染がクアルソの視線の動きの理由に気付いた瞬間、クアルソ目掛けて斬魄刀を振り下ろそうとした市丸と東仙は――何故か互いの肉体を斬り裂いていた。

 

「なっ……!?」

「ば、莫迦な……!?」

 

 いつの間にか、クアルソに向かっていた二人の体の向きは互いに向き合うように90度回転しており、そしてそれに気付くのが遅れた二人はそのまま互いを攻撃してしまっていた。

 市丸と東仙は藍染と共に尸魂界(ソウル・ソサエティ)から離反した死神だ。それもただの死神ではない。二人とも元隊長の座にあったという、死神でも上から数えた方が早い実力者だ。

 そんな二人が、全く気付く事なく、己の肉体を操作され、攻撃対象を誤った。そんな事が有り得るのだろうか。

 

 だが、藍染は見た。藍染だけが見る事が出来た。クアルソの信じ難い動きと技術を。

 クアルソは市丸達の攻撃が己の体に触れる直前に、高速で二人の間を通り過ぎる事でその攻撃を躱したのだ。しかも、躱すついでに二人の体の向きを二人に気付かせないようにずらすという所業も加えてだ。

 まさに神速。まさに神技。隊長格すら子ども扱いする恐るべき力だ。

 

 いや、市丸と東仙が油断していなければ。クアルソが鏡花水月の術中に掛かっている為に、反撃も回避もないと思い込んでいなければ。結果はまた変わっていたかもしれない。

 だが、それを踏まえても恐るべき力だ。並の隊長格ならば相手にすらならないだろう。

 

「何故……藍染様の鏡花水月が……」

 

 深手を負った東仙がたどたどしく疑問を口にする。何故? 何故鏡花水月の術中に嵌っていないのか。

 今までにも藍染に抵抗する虚はいた。だが、その悉くが鏡花水月の前にひれ伏した。虚圏(ウェコムンド)の王を名乗る強大な虚の作り上げた軍を一蹴した事すらあった。

 だと言うのに、まるで現実の世界が見えているかのように動いたクアルソに対し、東仙は疑問しか湧かなかった。

 

「どうやら、その刀は何かしらの力の(キー)のようだな。それとも、そう見せかけて他に力を使ったか。まあ、どちらでもいい。どちらにせよ、オレには無意味だ」

『!?』

 

 鏡花水月が通用しない。その言葉に、市丸と東仙は驚愕する。

 誰であっても、死神も虚も区別なく、最強の死神である山本元柳斎ですら、鏡花水月の術中に嵌っていた。唯一の例外は東仙だが、それは生来の盲目ゆえに鏡花水月の能力発動条件を満たす事が出来ないためだ。

 だがクアルソは違う。発動条件を満たしているにも関わらず、鏡花水月が通用しないというのだ。

 

 鏡花水月の能力から逃れる唯一の方法。それは、完全催眠の発動前から鏡花水月の刀身に触れている事だ。

 だが、クアルソはそうではない。完全催眠その物が効かなかったのだ。それは何故か。

 それは、クアルソがクアルソとなる遥か前。一人の人間であった頃に作り出したある能力のおかげであった。

 術者に作用するあらゆる特殊な効果を持つ力を無効化する能力。その能力を、クアルソもまた引き継いでいたのだ。

 

 その能力は数多の世界に転生する度に、その世界の力に対応するように細かな変化を行っていた。

 それはこの世界でも変わらない。霊力を用いた能力にて、直接術者を傷つける攻撃系能力以外の特殊な能力を無効化する。そのように変化していた。

 つまり、対象の五感を操る鏡花水月の能力は、クアルソの前では意味を成さないという事であった。

 もっとも、無効化する為には無効化した能力に相応する霊力を消費するデメリットもある。そういう点でいえば、全く意味を成さなかった訳ではない。

 だが、ここで重要なのは霊力が消費された事ではなく、完全催眠が効かなかった事だ。完全催眠と言う最強の一手を封じられた今、藍染に勝ち目はない――などという事はない。

 

 完全催眠はあくまで藍染の持つ力の一つ。比類なき強力な力だが、それを封じられたからと言って藍染の全てが封じられた訳ではない。

 その証拠に、完全催眠を無効化された事で驚愕する市丸と東仙を他所に、藍染だけはその表情から笑みが失われてはいなかった。

 

「素晴らしい……! どういう理由(わけ)か、君には鏡花水月が効かないようだ。是非ともその理由(わけ)を知りたいものだ」

 

 藍染のクアルソへの興味は更に引き立てられていた。ただ強いだけでなく、鏡花水月を無効化する何かを持っている。

 鏡花水月を無効化する方法は、実はもう一つだけ存在する。それは、鏡花水月の力を遥かに上回る霊圧を以ってして、その能力を封じ込める事だ。

 死神同士の戦いは霊圧の戦い。例えどのような素晴らしい能力を持っていようと、どのような恐ろしい能力を持っていようと、相手との霊圧に格段の差があればその力は抑え込まれる。そして、それは死神と虚の戦いに置いても同様だ。

 だが、藍染とクアルソの霊圧の差は殆どない。相手の能力を抑え込む程となると、数倍もの霊圧差がなければ不可能だろう。つまり、クアルソが鏡花水月を無効化したのは霊圧以外に何らかの手段や能力があるから、という事になる。

 そして、藍染が惹かれているのはその能力だけではない。藍染は市丸と東仙を互い討ちにさせたその技術にも興味を惹かれていた。あれだけの技術、身に付けるのにどれほどの鍛練が必要か。虚がそこまでの技術を身に付けている理由もまた、藍染の好奇心を擽っていた。

 

 ――彼ならば、いずれ崩玉と融合した私に恐怖を与え、進化を促してくれるのでは――

 

 ――彼にならば、いずれは進化した私の力を思う存分に振るう事が出来るのでは――

 

 藍染が興味を持っているとある死神と同じく、この虚もまた、破面(アランカル)に進化し更なる力を得れば、後々の己の糧とする事が出来るかもしれない。

 多くの破面(アランカル)に失望している藍染は、クアルソの力に一つの可能性を見出していた。

 

 もっとも、その可能性も未来も、全ては藍染がクアルソを従えてこその物だが。

 

「要」

「はっ!」

 

 藍染はある目的の為に、傷つき倒れている東仙に命令を下す。

 名を呼ばれただけで、藍染に心酔している東仙には藍染が何をさせたいのか理解した。

 同様に、東仙が何をしようとしているのか理解した市丸は、傷ついた身でありながらも瞬時にその場から離れる。

 

「卍解! 清虫終式(すずむしついしき)閻魔蟋蟀(えんまこおろぎ)!」

 

 卍解。それは、死神として頂点を極めた者のみに許される斬魄刀戦術の最終奥義。始解を習得した死神ならば、誰もが――例外は存在する――次の段階である卍解を会得しようと夢見るだろう。夢で終わらせぬようひたすら努力する者も多いだろう。

 だが、死神にあって卍解を習得出来る者は極僅か。習得した者はいずれも尸魂界(ソウル・ソサエティ)の歴史に永遠にその名を刻まれる程に、卍解習得者の存在は稀であり、そして強大であった。

 一般的に、同じ斬魄刀の始解状態と卍解状態での戦闘能力には五倍から十倍の差があると言われている。つまり卍解した今の東仙は、先ほどまでより格段に強くなっているという事だ。……もちろん、深手を無視すればの話だが。

 

 始解の能力が千差万別なように、卍解の能力もまた千差万別だ。同じ斬魄刀の始解と卍解で能力に関連性が全くない物はまずないが、その差は歴然のものとなる。

 東仙の斬魄刀の始解名は清虫。超音波を操り敵を攻撃する事が出来る能力を持つ斬魄刀だ。

 そしてその卍解、清虫終式(すずむしついしき)閻魔蟋蟀(えんまこおろぎ)。東仙の始解と卍解の能力には大きな差がある。その能力は、触覚以外の感覚を封じる空間を作り出すという物。藍染の鏡花水月と似たような鬼道系の能力だ。

 この卍解に囚われた者は霊圧知覚・視覚・聴覚・嗅覚が奪われ、まともな抵抗をする事も出来ずに東仙によって斬り殺されてしまう。この無明の地獄から逃れられる方法はただ一つ、卍解の本体である斬魄刀を握る事だけだ。

 つまり、それ以外の方法でクアルソが閻魔蟋蟀から逃れられたならば、それはクアルソに何らかの能力がある可能性が高まるという事になる。

 そう、藍染はそれを確認する為だけに、深手を負った東仙に卍解を強いたのだった。

 

 そして、卍解発動から瞬きもせぬ間に、閻魔蟋蟀はその形を失った。

 

 黒いドーム状の閻魔蟋蟀が消え去った後、その場に現れたのは傷一つ負っていないクアルソと、気を失い地に倒れ伏した東仙であった。

 

「……やはり、見えていたか」

 

 卍解習得者を圧倒し、悠然と立つクアルソに向けて藍染が言葉を放つ。

 その言葉を聞き、クアルソは先程の空間の効果を大まかに理解した。

 

「……ああ、視界を奪う能力だったのか」

 

 クアルソの返答を聞き、やはり閻魔蟋蟀も無効化したのだと藍染と市丸は悟る。

 閻魔蟋蟀が効果を及ぼしていたならば、視界を奪う能力などとは口にしないだろう。閻魔蟋蟀は触覚以外の感覚全てを奪う能力なのだから。

 

「しかし、見下げ果てた奴だ。部下を捨て駒にするとはな」

「君が殺さないと予測していたのでね。何せ、同士討ちをさせておきながら、その剣速を弱めるというお人好しだ」

 

 クアルソの侮蔑に対する藍染の返答に、クアルソは内心で感嘆する。

 

 ――見抜いていたか――

 

 そう、クアルソは同士討ちをさせておきながら、二人の剣速を弱めて瀕死に至る傷を回避させていた。

 その理由は、市丸と東仙の二人から同胞の匂いを感じ取ったからである。なお、同胞とは虚の事ではなく、童貞を指している。

 童貞のまま死ぬのは忍びない。かつての己の苦しみは出来るだけ広めたくないというクアルソの仏心であった。

 

 そんなクアルソのずれた仏心など藍染が知る由もなく、二人の部下を一蹴したクアルソを警戒して鏡花水月を構える。

 例え完全催眠が意味を成さなかったとしても、鏡花水月の刀としての性能に何ら変わりはない。その殺傷力は藍染の霊圧に比例し、例え最上級大虚(ヴァストローデ)と言えども容易く斬り裂くだろう。

 

 クアルソもまた刀を構えた藍染を警戒する。先の二人とは一線を画している強者だと、藍染を一目見た時からクアルソは警戒していた。

 

 ――こんな強者がゴロゴロしているのか。末恐ろしい世界だな――

 

 自分に敗れたとはいえ、市丸と東仙もクアルソから見て強者と言えた。そして、その主である藍染の力は計り知れない。

 生まれて一ヶ月あまりで出会ったのがここまでの強者とすれば、他にも多くの強者がいてしかるべきだろうとクアルソが考えるのも仕方ないと言えた。

 藍染クラスの強者がそこかしこに存在していれば、世界はとうの昔に今の形を失っていただろうが、それはまだクアルソの知るところではなかった。

 

 

 

 

 閻魔蟋蟀の範囲から逃げ、傷ついた身体の痛みに耐えながら、市丸は見た。藍染とクアルソ。二人の圧倒的な強者が対峙するその空間を。

 二人が放つ霊圧は、ただ放たれるだけで周囲の大気を震わせていた。それだけではない。二つの圧倒的な霊圧がぶつかり合う事で、空間そのものが軋んでいるのだ。

 

 ――藍染隊長もあの虚も、どっちも化けもんや――

 

 ある理由から目標にしている藍染の恐ろしさは理解していたが、その理解がまだ足りていなかったと市丸は内心で呻く。

 そして、その恐ろしい藍染を前にして、一歩たりとも退かずに同じ圧迫感を放っているクアルソに対しても、市丸は藍染同様の畏怖を抱いた。

 この両者の戦いがどうなるか。それは最強クラスの死神である市丸にも想像出来ない。一瞬たりとも見逃さないように目を凝らし、そして――市丸は両者の姿を見失った。

 

「な――」

 

 目は凝らしていた。僅かたりとも姿を失わないよう注視していた。だが、一瞬だが確かに市丸は両者の姿を見失った。

 市丸が気付いた時には、藍染とクアルソは両者が対峙していた空間の中心にてぶつかり合っていた。

 離れた位置から目を凝らしていたにも関わらず、手足どころか肉体全てを見失う。まさに有り得ない速度と言ってもいいだろう。

 

 市丸が驚愕している間にも戦闘は激化する。

 藍染が刀を振るい、それをクアルソが霊圧を放出し作り出した防御壁を腕に纏って振るう事で防ぐ。

 鏡花水月の斬撃がその程度の防御で防がれる。これは市丸の記憶にはない出来事だ。本気で振るえば隊長格の死神だろうと、十刃だろうと斬り裂く事が出来た。

 それを破面ですらない虚に防がれる。その事実は藍染にとって屈辱――ではなかった。

 

「やはり君は私を楽しませてくれる……。さあ、どこまで高みにあるか、試させてもらおう!」

 

 藍染はこの状況を楽しんでいた。

 藍染は強い。強すぎた。天才という称号すら軽く見える程に、藍染は死神として他を隔絶していた。

 斬・拳・走・鬼。死神の基本戦術であるその四つの項目を高いレベルで習得し、若くして死神の限界強度にまでその強さを高めた。

 それは誰が聞いても羨む才能だろう。死神であれば誰もが同等の才を欲するだろう。だが、強さの代わりに藍染は孤独だった。あまりにも強すぎた為に、他者の弱さが理解出来なかった。そして、誰も藍染を理解出来なかった。

 

 ――何故この程度が出来ない? なぜこの程度で称賛される?――

 

 藍染に取っては取るに足らない所業一つ一つが、凡百の死神には困難となる。藍染に取っては取るに足らない所業一つ一つで、凡百の死神は驚嘆する。何をしても他者とのズレを感じる。それは藍染に取って苦痛だった。

 藍染に取って不幸なのは、そんな認識のズレすら理解し、他者との溝を作らぬように行動出来る程、藍染が優秀だった事だ。

 自分が他者と隔絶していると理解し、それを表に出し過ぎないように調整し、程々に優秀な死神として動く事を可能とし、そして誰にも悟られないように実行する。その全てを可能とする程に優秀過ぎた。それが、藍染の不幸だ。

 そこまで優秀でなければ。ただ強く賢いだけならば、藍染は己をさらけ出し、他の死神から畏怖されながらも、己を隠す事なく生きていけただろう。

 優秀過ぎたからこそ、尸魂界(ソウル・ソサエティ)でずっと己を隠し通せていた。優秀過ぎたからこそ、数多の死神を犠牲にしつつ、己の目的に邁進する事が出来た。優秀過ぎたからこそ、未だに自分を止める者は現れなかった。

 全てが掌の上で転がる。何もかも思いのまま。その上で傲慢になり過ぎず、全てを警戒し動こうとする意思を持つ。何もかもが規格外。だから、藍染は常に孤独だった。

 

 そんな藍染が、たった一体の虚を相手に苦戦する。

 斬拳走鬼を極めていると言ってもいい己が、死神の隔絶者が、たかが虚程度に苦戦しているのだ。

 それが藍染には楽しかった。苦戦するという感覚もどれほどぶりか。自分が死神の隔絶者ならば、相手は虚の隔絶者だ。互いにその存在は相反するが、共に高みに立っているという一点で、二人は同等の存在でもあった。

 

 刀を振るう。防がれる。それだけでなく、古武術らしき技を掛けられ地に叩き付けられる。追撃の踵を身を捻る事で躱す。弱い破道にて牽制し距離を取る。

 刀を振るってからの全てが初めての経験だ。防がれるだけならまだしも、地に叩きつけられ砂に塗れるなど、想像だにしていなかった事だ。

 だが、楽しい。この苦戦が、虚相手に苦戦しているという事実が、藍染には何故か楽しかった。

 

「破道の九十・黒棺!」

 

 距離を取った藍染は、詠唱破棄をした九十番台の破道を放つ。

 破道とは鬼道と呼ばれる死神が扱う霊術の一種であり、決まった言霊を詠唱した後に、術名を発する事で効果を発揮する攻撃用霊術だ。他にも防御・拘束・伝達などを行う縛道、回復・治療用の回道なる鬼道も存在する。

 鬼道の熟練者はその詠唱を破棄して鬼道を放つ事も可能だが、その場合は本来の威力を維持する事が著しく困難となる。しかも、鬼道は術に冠する番号が高くなれば高くなる程、威力と術の難度が高まる。

 鬼道に付けられた番号は一から九十九。つまり、藍染が放った黒棺は最大難度の九十番台の破道であり、その黒棺を詠唱破棄で放てる藍染はまさに恐るべき鬼道の使い手という事になる。

 

 術名と共に放たれた黒棺は、瞬時にクアルソの周囲の空間に発現する。

 クアルソの周囲に黒い立方体の塊が生み出される。それは膨大な重力の奔流だ。この中に捉えられた者は、その凄まじい重力の嵐によってその身をズタズタに裂かれるだろう。

 だが――

 

「嘘やろ……」

 

 市丸のその呟きは、戦いの最中にあって何故か藍染の耳に届いていた。

 市丸の驚愕の理由は単純明快だ。かつて、肉体の強さでは尸魂界(ソウル・ソサエティ)で一・二を争うだろうある隊長を、一撃で打ち倒した黒棺。それを、クアルソが腕の一振りで破壊したのを見たからである。

 当然の如く無傷で姿を現すクアルソ。だが、藍染はその程度で驚愕はしない。当然だ。予想していた結果を目の当たりにして、どうして驚愕しようか。

 

 ――知っていたさ。その程度では僅かな足止めにしかならない事は――

 

 だが、距離を取る事は出来た。不完全な、詠唱破棄の、本来の威力の三分の一にも満たない黒棺でも、距離を取る僅かな時間を得る事は可能だった。

 藍染は接近戦にてクアルソと戦う事が不利だと理解した。この短い時間での攻防だが、藍染はクアルソの近接戦闘能力が自身を上回ると悟ったのだ。

 死神として斬拳走鬼を高めた藍染だが、それでも上には上がいる。刀と素手の戦いで、こうもあしらわれ追い詰められては、眼前の敵がそうであると認めざるを得ないだろう。

 だが、他はそうでもない。近接戦闘能力では一歩劣るが、歩法に関しては互いに差はないと判断していた。

 

 瞬歩と呼ばれる死神独特の高速歩法にて、藍染はクアルソと一定の距離を保ち続ける。クアルソもまたこの世界に生まれてから会得した独自の歩法――後に響転(ソニード)と呼ばれる歩法と判明する――にて藍染を追う。

 だが、その距離は縮まらない。それは藍染の予測が事実である事を示していた。そして、藍染はクアルソと一定距離を保ったままに、言霊を詠唱し出す。

 

「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ――破道の九十・黒棺!」

 

 それは、完全詠唱によって真の力を発揮した黒棺。先程とは比べ物にならないほど巨大な黒い立方体がクアルソを覆う。

 ただ巨大となり範囲を増しただけではない。その威力も比べ物にならないほど高まっており、全てを崩壊させる程の圧力を放っていた。

 

 そんな黒い巨大な圧力の塊から、光が漏れ出した。

 それは霊力の輝きだ。黒棺の全てを飲み込む漆黒を背景とし、より鮮やかに輝く霊力の奔流が黒棺を破壊する。

 黒棺を破壊し現れたのは、虚閃(セロ)と呼ばれる大虚以上の虚が放つ事が出来る攻撃だ。霊圧を収束し放たれる破壊の閃光は、黒棺を砕いて藍染に向けて一直線に進んでいく。

 

「そうなる事も、予測の範疇だ!」

 

 だが、完全詠唱の黒棺すら時間稼ぎにしかならないと予測していた藍染は、ただの虚が虚閃(セロ)を放つという事実に然したる驚愕も抱かず、新たな破道を虚閃(セロ)に向けて放つ。

 

「破道の九十九・五龍転滅!」

 

 藍染の霊圧から作り出された巨大な龍が、クアルソの放った虚閃(セロ)と衝突する。

 拮抗する二つの破壊の象徴。だが、その力の天秤はすぐに傾く事となる。それも、藍染の側へとだ。

 藍染が後述詠唱と二重詠唱、二つの技術を用いた事により、五龍転滅の威力を高めたからだ。

 

 後述詠唱とは、詠唱破棄によって放った鬼道に本来の詠唱を追加し、その威力を強化する技術だ。

 そして二重詠唱とは、二種類の鬼道の詠唱を平行して行う事で、鬼道の連発を可能とする高等技術だ。

 藍染はその二つを組み合わせるという果てしない高度な技術を要する術を、九十番台の破道に用いたのだ。まさに死神の隔絶者に足る業であった。

 

 完全詠唱の力を得た五龍転滅はクアルソの虚閃(セロ)を突き破り、そのままクアルソ目掛けて直進する。そして、同じく完全詠唱された黒棺が再びクアルソの周囲を覆う。

 二つの強大な破道の同時発動。それは、クアルソの力を以ってしても防ぐ事は叶わなかった。

 黒い立方体に黄色の龍が絡み付く。そして、二つの力が混ざり合い、一気に収縮、直後に膨大な爆発を起こした。

 

「こら……終わりやろ」

 

 圧縮された力の解放。その中心点に在った者が無事であるわけがない。先の爆発を見て、市丸はそう思った。

 決着はついた。やはり藍染の勝利だ。藍染を殺す事が出来るのはこの世でただ一人。それは――

 

 市丸がそう思考していた所で、砂煙が徐々に晴れ渡り、爆発の中心点が視界に収められるようになる。

 そして市丸は見た。傷つき血を流してはいるものの、五体満足で大地に立つクアルソの姿を。

 

「……だろうね。あの程度では止めになりはしないと、知っていたさ」

 

 九十番台の鬼道の二重詠唱と後述詠唱の同時発動という大技に疲労し、若干の汗を流しながらも、藍染は笑みを絶やさずにそう告げる。

 そして再び鏡花水月を構え、激化するだろう死闘に備える。

 

 対するクアルソだが、藍染と違い疲労そのものはほとんどない。全身に無数の傷を負い、ダメージ自体は藍染よりも多いが、霊力の消費という点ではまだまだ余裕があった。

 だが、その実クアルソの内心にはそこまでの余裕はなかった。この戦いにおいて、クアルソは藍染に一歩も二歩も劣っていると自覚していたからだ。

 

 身体能力では両者に大差はない。霊圧も同じくだ。そればかりか近接戦闘の技術ではクアルソに一日の長があり、霊力量もクアルソの方が上と言ってもいいだろう。

 クアルソはこの世界では存在して一ヶ月ほどの新参も新参だが、長きに渡る転生人生によって積み重ねられた武術の腕前は他の何者にも勝っていた。

 しかし、やはりこの世界では新参である事に変わりはない。世界が違えば力の法則も違う。力の法則が違えば戦い方も違ってくる。藍染の放つ鬼道はクアルソにとって完全に未知の技術であり、霊圧や霊力を用いた戦いも不慣れだ。

 故に、藍染の立ち回り次第ではどうしても後手に回りかねない。この世界の法則に慣れ、力の使い方を身に付けていればまだしも、現状ではどうにも押し切れないというのがクアルソの本音だった。

 

 だが、それがクアルソには楽しかった。未知の力、未知の技術、未知の強敵。数多の世界を渡り、数多の経験を積んだクアルソにとって、未知は楽しみに通じる。それが戦いに関する事ならば尚更だ。

 次はどんな一手を打ってくる。次はどんな技術を用いる。次はどんな攻撃をしてくる。余裕はなくとも、クアルソの心は未知の何かを楽しんでいた。

 

 

 

 両者共に戦いに愉悦を感じ、そして死闘の続きを楽しもうとして――両者同時に冷水を浴びせられたかのようにその表情を曇らせた。

 

「……これは」

「ハリベルか……」

 

 互いに優れた霊圧知覚にて、遠くから高速で近付いて来る存在を察知したのだ。

 クアルソには何者か理解出来なかったが、藍染は近付いてくる霊圧が自分の部下の一人である事を見抜いた。

 そしてクアルソは藍染が闖入者の名を口にした事から、闖入者が藍染の知り合い、恐らくは件の配下の一人なのだろうと判断する。

 

 ――戦いに水を注されたか――

 

 それが両者の心境だ。クアルソは闖入者を敵の援軍と判断し、藍染も近付いてくる存在が自分に忠実なタイプの配下だと知っている為、戦いの邪魔になると予想した。

 

「まあ、殺し合いだ。多対一でも文句は言わんさ」

「それは勇ましい事だ。だが安心し給え。君は私一人の力で屈服させてみせよう」

 

 互いの言葉で笑みを浮かべる両者。クアルソは非童貞にしてはマシな部類だと藍染の評価を上昇させる。

 だが、それでも童貞として、持つべき者として、持たざる者に負ける訳にはいかないのだ。

 そうしてクアルソが戦いを楽しむ姿勢から、敵を打倒する姿勢へと意識を入れ替えようとした時――闖入者であるティア・ハリベルがこの場に姿を現した。

 

「藍染様! ご無事ですか!?」

 

 ティア・ハリベル。藍染配下の破面(アランカル)にして、破面(アランカル)最強の十人に数えられる十刃(エスパーダ)の一人だ。

 十刃(エスパーダ)は殺戮能力に優れた順に小さい数字を割り当てられており、数字が小さければ小さい程、十刃(エスパーダ)でもより強い存在だと見なされている。

 その中にあって、ハリベルは第3十刃(トレス・エスパーダ)、つまりは第3の数字をその身に刻む、上位十刃(エスパーダ)とでも言うべき強者であった。

 そして、藍染の強さに畏怖を抱き強制的に従っている多くの十刃(エスパーダ)と違い、藍染に一定以上の忠誠心を持つ十刃(エスパーダ)でもある。

 それ故に、藍染と、藍染に相対している何者かの恐るべき霊圧を感じ取った時、藍染の援護をすべくこうして駆けつけたのである。

 

「ハリベル。下がっているんだ」

「しかし……」

 

 呼んでもいない救援を受けた藍染は、邪魔者を払うかのようにハリベルに下がるように命令する。

 だが、そうは言われても恐るべき霊圧を放つクアルソという存在を看過し、藍染の窮地を見捨てるような真似はハリベルにはし難かった。

 そうしてハリベルがクアルソを睨み付けた時、クアルソもまたハリベルを凝視していた。もっとも、凝視の意味合いはハリベルとは掛け離れた物だったが。

 

 そしてハリベルを凝視した次の瞬間、クアルソが動きを見せた。

 

 藍染が気付いた時、クアルソは既に藍染の懐まで入り込んでいた。

 藍染がハリベルに僅かに気を取られた隙を突いての接近だ。それを卑怯などとは藍染は思わない。むしろ殺し合いの最中にあっては当然の行為であり、あの僅かな隙を突ける技量を称賛する程だ。

 だが、それでむざむざとやられる程、藍染も容易い存在ではない。ハリベルに気を取られていようと、藍染がクアルソの存在から意識を離す事はなかった。故に、この急速な接近にも反応し、瞬時に鏡花水月を横薙ぎに振るった。

 

 それをクアルソは大きくしゃがみ込む事で避ける。そしてそのまま地を這うかのように藍染の足元に近付き、そして――

 

「どうかそちらの素敵なお嬢さんを紹介してください!!」

「……は?」

 

 等という事を勢い良く土下座しつつ宣った。これには藍染も呆然である。先程までの緊張感溢れる死闘は何だったのか。

 

 

 

 ――褐色金髪巨乳美人! トリプル役満だとぉっ!?――

 

 クアルソは鍛え抜かれた眼力を以ってして、ハリベルの戦闘能力を瞬時に見抜いた。

 そびえたつ巨乳。褐色の肌。零れ落ちそうにはみ出る下乳。肌の色に映える黄金の髪。豊満な胸。抜群のプロポーション。

 顔の下半分はマスクに覆われて見えないが、それでも端整な顔立ちである事が窺える。まごう事なき美女である。おっぱい。

 

 クアルソは考える。この美しい女性は一体どこのどなたなのか。

 いや、藍染の配下である事は理解している。だが、それならば虚ではないのか。先の二人のように人間――クアルソは死神という存在を未だに知らない――なのか。

 だが、藍染達とは違う霊圧を放っている。個々の霊圧の違いとは一線を画す、種としての霊圧の違いだ。故に、ハリベルが藍染達とは違う種族なのだとクアルソは判断した。

 どちらかと言えば自身に近い霊圧の種だ。そう、虚に近い――

 

 ――まさか!――

 

 そこまで考察して、クアルソは真実を見抜いた。

 (ホロウ)が進化したという破面(アランカル)。それが目の前の存在なのではないか、と。

 藍染の同胞という言葉を童貞と受け止めていたが、それが種としての同胞という意味ならば、この推測は恐らく正解しているだろう。というか普通は先にそっちを思いつく。これだから童貞を拗らせた馬鹿は駄目なのである。

 この推測があっているならば、(ホロウ)が進化して破面(アランカル)になれば、目の前の美女のように人間に近しい姿になれるという事ではないか。

 つまり、自分の目的を達成する為には、破面(アランカル)になる必要がある。いや、破面(アランカル)にならねばならない!

 

 一瞬にしてそこまでの思考を繰り広げたクアルソは、破面(アランカル)化の鍵を担っている藍染に向けて近付き、非礼を詫びて仲間に入れてもらうよう頼み込もうとする。

 誇り(プライド)? 武人としての矜持? そんなもの、脱童貞の前では小さな事だ。……いや、流石に小さくはないが、それでも数千年間の悲願の前では一時的に誇り(プライド)を引っ込める事を選択したクアルソであった。

 

 

 

 藍染が現実逃避している間にも、クアルソは横目でちらちらとハリベルを見ながら藍染に向けて口を開く。

 

「あー、違った。つい欲望が先に出てしまった。そうじゃなくて、是非とも(わたくし)めを破面(アランカル)へと至らせてください!」

 

 そう叫び、クアルソは再び藍染に深く深く頭を下げる。

 

「……君は、私の下で破面(アランカル)に進化するのを拒んだはずでは?」

 

 冷静沈着、神算鬼謀の藍染をして、クアルソの態度の変化に混乱していたが、どうにか思考を巡らせてクアルソの真意を読み取ろうとする。

 

「いやぁ、少し勘違いしてたみたいでして。破面(アランカル)って、こちらのお嬢さんみたいに(ホロウ)から人間みたいになる事ですよね?」

「正確には(ホロウ)の死神化だよ。(ホロウ)と死神。相反する二つの存在の境界を取り払い、更なる高みに昇り詰めた存在。死神の力を手に入れた(ホロウ)。それが破面(アランカル)だ」

 

 そうして藍染が破面(アランカル)に関して説明するが、クアルソにとってはまたも謎の単語が現れた。

 

「死神?」

「……死神を、知らないのかい?」

 

 藍染は疑問に思うが、生後一ヶ月であるクアルソが死神の存在を知らなくても何ら不思議ではない。

 

「知りません。オレはこの世界に生まれて一ヶ月程度しか経っていませんので。まあ、実際に一ヶ月かどうかは昼のないこの世界では曖昧だけど」

 

 そもそも一ヶ月の単位が同じなのかさえクアルソには解らない。それはさておき、藍染の疑問に対するクアルソのその答えに、藍染は衝撃を受ける。これほどの衝撃は藍染の人生でも片手で数えられる程だろう。まあ、常に冷静沈着な藍染が驚愕すること自体が数えられる程度しかないのだが。

 

「なん……だと?」

 

 (ホロウ)となって一ヶ月。その言葉に、藍染は素直に驚愕した。

 自身と互角の強さを誇る(ホロウ)が、僅か一ヶ月程度しか生きていない事など藍染の想像の範疇にある訳がなく、当然クアルソは(ホロウ)として長きに渡り生きているだろうと藍染は思い込んでいたのだ。

 それが蓋を開けてみれば、まさかの発生したばかりの(ホロウ)だと言う。多くの才に溢れている藍染は、相手の嘘を見抜く力も高い。だが、クアルソが嘘を吐いているようには見えない。

 

(ホロウ)となったばかりで、これ程の……。(ホロウ)の生前に興味はないが、君は別だよ。どんな人生を歩んで来たのか、是非とも教えてほしいものだ」

 

 永遠の童貞王として過ごしてきました。表の人格は基本的に女性でしたがとっても人生楽しんでいました。

 口が裂けても言えないクアルソであった。

 

「まあ、色々。色々ですよ……」

 

 哀愁と実感の籠もったその言葉に、藍染は今はこの話題を置いておこうと判断する。ちなみにクアルソは未だに土下座している。

 

「まあ、いい。死神とは私や、君が先に倒したあの二人のような存在だ」

 

 そうして藍染は死神について簡易的な説明をする。

 現世を荒らす悪霊・虚から現世を護り、尸魂界と現世にある魂魄の量を均等に保つことが役目の調整者。それが死神だ。

 虚とは相反する存在。だからこそ、虚と死神の境界線を討ち砕き、死神の力を手に入れる事で虚は破面(アランカル)と化し、強大な力と共に死神のように人間と酷似した姿を手に入れるのだ。

 尤も、確実に人間同様の外見を得る事が出来る者は最上級大虚(ヴァストローデ)のみ。それ以下の最下級大虚(ギリアン)中級大虚(アジューカス)では破面化の際に少なからず虚を思わせる特徴を残す場合がある。

 藍染がそこまで説明した所でクアルソが問い掛ける。ちなみに土下座はしていない。藍染が普通にしていいと言ってくれたからだ。

 

最上級大虚(ヴァストローデ)……。オレは何級なんですか?」

 

 少なくとも最下級大虚(ギリアン)以上ではあるだろうとクアルソは思う。最上級大虚(ヴァストローデ)を従える藍染と互角に戦えたのだ。欲を言えば最上級大虚(ヴァストローデ)くらいの格はあるだろうと考えた。

 だが、そこに藍染の無慈悲な答えが返ってくる。

 

「残念だが、君はただの(ホロウ)だ。大虚(メノス)どころか、巨大虚(ヒュージ・ホロウ)ですらない。ただの(ホロウ)だ」

「なん……だと? ……え? いや、だって、人間大の大虚(メノス)最上級大虚(ヴァストローデ)なんでしょ?」

 

 そう言って、クアルソは自分の身体を見回す。身長は約170cmほど。服はないが裸でも違和感がない程に白く、どこか人外を思わせる肌。胸に空いた孔に、顔を覆う仮面。

 間違いなく化け物だが、それでも最上級大虚(ヴァストローデ)の条件を満たしているのは間違いないだろう。

 だが違うのだ。藍染の言うようにクアルソは最上級大虚(ヴァストローデ)どころか大虚(メノス)ですらなく、ただの一介の(ホロウ)なのだ。

 

「いや、君はただの(ホロウ)だ。大虚(メノス)のように無数の(ホロウ)が重なって生まれた存在ではなく、君だけの、一個の霊として存在する(ホロウ)だ。だからこそ、私が興味を惹かれたのだがね」

「……じゃあ、オレが破面(アランカル)化しても、人間のようにはなれないという事ですか?」

 

 それはクアルソにとって絶望の答え。例え破面(アランカル)に進化したとしても、例えより強い存在に成れたとしても、人外の外見であるならば意味はないのだ。

 クアルソにとって必要なのは人の外見だ。人間の女性とコミュニケーションを取り、恋をして愛してくれる見た目だ。

 美形になりたいなどと贅沢は言わない。ただ人並みであればいい。そう、人並み。平凡。世界ではありふれた存在。だが、クアルソにはそれこそが果てしなく遠かった。

 

 希望が見えた矢先の絶望にクアルソが堕ちていく時、藍染から救いの言葉が放たれた。

 

「恐らくは、君ならばまともな人間の容姿を持った破面(アランカル)になれるだろう。今の君の外見がそうであるように、高い霊力を有する(ホロウ)ほど、外見は人型に近付く傾向がある。最上級大虚(ヴァストローデ)がそうなのも同じ理由だろう」 

 

 最上級大虚(ヴァストローデ)破面(アランカル)と化して確実に人間体を得るように、同等以上の力を持つクアルソならば最上級大虚(ヴァストローデ)同様の結果となるはず。

 藍染のその言葉に、クアルソは再び希望を抱く事が出来た。

 

「おお……! じゃあ、さっそく破面(アランカル)にしてください! あと、隣のお嬢さんを紹介してください!」

「……ティア・ハリベルだよ」

 

 完全に敵対の意思を放棄し、藍染に服従の意思を見せつつ、その上でまたもハリベルを紹介してくれと宣うクアルソに、藍染はどうしてこうなったと思いつつも、取り敢えずハリベルを紹介してあげるのであった。

 なお、ハリベルはクアルソが土下座をしつつも自分の下乳を見上げているのに気付き、侮蔑の視線をクアルソに送っている。果たしてクアルソはこのマイナス状態の好感度をプラスに持っていく事が出来るのであろうか。

 

 




 市丸ギンと東仙要が童貞というのは独自設定。でも、ギンは乱菊に惚れてて童貞貫いてそうというイメージと、東仙も同じく死に別れた友人の復讐とかに気を取られて童貞のままでいそう。勝手なイメージですけどね!
 藍染の孤独というのは、原作で一護が藍染と戦い終わった後に藍染の心象を察していった事。実際にそれが当たっているかは分かりませんが、ここではそれを採用して過去を捏造しています。







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