どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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BLEACH 第十話

 勝ち目がない。多くの死神達がそう思い始めていた。特に隊長達の戦いを見守っていた副隊長達はその思いが顕著だ。

 

「嘘だ……隊長達が束になっても傷一つ付けられないなんて……!」

 

 三番隊副隊長の吉良イズルが思わず呟く。隊長格による先程の集中砲火は凄まじい規模の爆発を起こしていた。それを受けて無傷で現れる藍染を見て、吉良は絶望しか感じなかった。

 

「まだじゃ……! まだ終わっとらん! ワシらが隊長達を信じんでどないするんじゃ吉良!!」

 

 絶望のあまり大地に膝を突いた吉良に、七番隊副隊長である射場鉄左衛門が檄を飛ばす。だが、それは自分自身を鼓舞するかのような檄であった。

 

「待て……今の藍染からは霊圧を感じない……! もしかしたらあれも鏡花水月による錯覚なんじゃ……!」

 

 その言葉は九番隊副隊長の檜佐木修兵から放たれた。今の藍染は明らかに死神とは一線を画す化物になっている。しかも隊長達の総攻撃を受けて無傷と来た。そんな事は普通なら有り得ない。

 霊圧も感じない事も相まって、今全員の目に映っている藍染は鏡花水月による錯覚なのではと思ったのだ。

 それは希望的観測だった。そうであれば、あれだけの総攻撃を受けても無傷である理由が納得出来る。ただの圧倒的実力差であると理解したくない檜佐木の希望が、そのような推測に至らせた。

 だが、その希望的観測はかつての隊長によって覆された。

 

「ち、違う……あれは崩玉と完全に融合した藍染様だ……霊圧を感じられないのは……私達とは異なる次元の霊圧を有した事によるものだ……」

「と、東仙隊長……!」

 

 喉を裂かれ傷ついた身体で、どうにか声を振り絞る東仙の絶望の言葉を訊いて、檜佐木の希望は萎んでいく。

 

「藍染様は全てを超越してしまった……最早藍染様に勝てる者はどこにもいない……」

 

 そう呟きながら、東仙はある一人の破面(アランカル)を思い浮かべた。

 あの男ならば、もしかしたら今の藍染様にも対抗しうるかもしれない。そう考えるがここにいない男の事を考えても詮無き事だと思い直す。

 その時東仙は妄信していた藍染に対して対抗策を見出そうとしている事に気付いていなかった。友と部下の命懸けの対峙と言葉が、東仙の心に変化を与えたのだ。

 

 だがその変化も、ここで藍染を倒せなければ無意味なものとなるだろう。藍染が目的を果たした時、それはこの場の存在の大半の命が失われているかもしれないからだ。

 

「そんな……だったらどうしたら……」

 

 檜佐木が東仙の言葉によって更なる絶望に包まれた時だった。

 

「あれは!」

「総隊長!」

 

 偽空座(からくら)町の一角に天高くまで届く火柱が立っていた。そしてその炎の中から山本元柳斉重國が現れる。

 護廷十三隊総隊長の座を設立時から千年もの間、守り通している男。それが山本元柳斉重國だ。それは山本元柳斉より強い死神が千年に渡って生まれていないからだ。死神最強。それこそが山本元柳斉重國なのだ。

 そんな男が満を持して現れた。今まで何をしていたかは副隊長達には解らなかったが、最も頼れる死神の参戦に誰の心にも希望が湧いていた。山本総隊長ならばきっと藍染に勝ってくださる、と。

 

 

 

「ようやくお出ましか。山本元柳斉」

「堕ちたか藍染惣右介」

 

 異形へと変化しつつある藍染を見て山本が言う。だが、その言葉は藍染の心に何の痛痒も与えなかった。

 

「堕ちた? 違うな。高みに昇ったのだ。貴様達では足を踏み入れる事の出来ない高みにな」

 

 山本と藍染の間にある見解は真逆だった。藍染は自身の現状を進化と捉え、山本は堕落と捉える。両者の差は死神である事に対する矜持の差であろう。山本は死神である事に誇りを持ち、藍染は死神に固執せず更なる進化を求めた。その差であった。

 

「しかし、少々遅い登場だったな。私が崩玉と完全に融合する前に君は出てくるべきだった」

 

 炎と共に現れた山本総隊長に対し、藍染が告げる。それは完全な勝利宣言でもあった。そんな藍染に対し、山本総隊長も意気軒昂と言葉を返す。

 

(おご)るなよ小童。貴様程度の力でこの儂を斬れると思うてか」

「斬れるなどとは思っていないさ。既に斬っている」

 

 両者共に傲岸不遜とも言える言葉を応酬する。だが、それが赦される程の実力を両者共に有しているのだ。

 

「ほざけ!!!」

 

 山本のその言葉を合図に藍染が斬り掛かる。その動きを捉えられた者は死神達にはいない。ただ一人、山本総隊長を除いて。だが、見切った筈の斬撃を山本は敢えてその身で受け止めた。

 

「なるほど……そういう事か」

 

 藍染は山本に致命傷を与えるつもりはなかった。そこには他の隊長格に対して手加減していたのと同じ理由がある。

 一つは崩玉が完全に馴染むまでの間、程よい運動相手になってもらう為だ。今の藍染は崩玉と融合した事で肉体を進化させているが、それはまだ完全ではない。今は羽化する前の蛹のようなものだ。蛹籃の時が終わるまで生かしておいた方が都合が良いと思っているからだ。

 そしてもう一つの理由。いや、むしろこちらの方が本命と言える理由。それは――

 

 とにかく、藍染は山本に致命傷を与えずにあしらうつもりだった。崩玉と融合し進化した今の自分ならば、戦闘力だけならば自分を超えていると見ていた山本総隊長を相手にしても、それくらいの余裕はあると見做しているのだ。

 だが、そんな手加減した攻撃を山本は敢えてその身で受けた。そこにある意味を藍染は理解し、嘲笑する。

 

「愚かだな。君達如きを相手にするのに鏡花水月の能力を使う必要などないというのに。無駄な傷を負っただけだぞ山本元柳斉」

「抜かせ。貴様の言葉を信ずる者が我らの中にいると思うてか」

 

 そう、山本が藍染の攻撃をその身で受け止め、今もなお鏡花水月の刃をその身で抑え込んでいる理由。それは、眼前の藍染が本物である確証を得る為であった。

 如何に鏡花水月の五感支配が優れていようと、その身で受け止めた霊圧を読み間違える事はないと山本は踏んでいた。こうして腹部にて鏡花水月を受け止め、藍染の腕を力強く握り締め自身から離れられないようにする。これならば間違いなく藍染を逃さずに攻撃が可能だろう。

 この時、山本は偶然にも鏡花水月の能力から逃れられる唯一の手段を取っていた。鏡花水月の術中にあってその効果から逃れるには、鏡花水月本体に触れていなければならないのだ。腹部を貫かれ、それを維持し続けている事で山本は鏡花水月の術中から逃れられるようになっていた。つまり、山本の目の前にいる藍染は粉う事なき本物という事である。

 もっとも、当人が言っているように藍染は鏡花水月の五感支配を使用するつもりはなかったので、無駄と言えば無駄かもしれなかったが。それは結果論と言えよう。

 

「さあ、これで終いじゃ」

「……ほう」

 

 山本の言葉と同時に藍染と山本を囲むように巨大な火柱が複数出現する。

 

「炎熱地獄。お主の今迄の戦い、その全てがこの為の隙となったのじゃ」

 

 これこそが山本が今まで戦いに殆ど参加せず準備していたもの。山本の最強最古の炎熱系斬魄刀、流刃若火の力を注ぎ込んだ全てを滅する炎の結界である。

 この炎熱地獄の内にあって生き延びられる者などいない。敵も味方も、そして己自身もだ。ここで藍染を離さなければ己自身をも巻き込んでしまうが、それすら承知の上で山本は炎熱地獄を発動させていた。

 

退()がれ皆の者!!」

 

 山本はこの場にいる隊士全員に撤退するよう命じる。隊士達が動く事が出来ない傷を負っていれば諸共に自爆するつもりではあった。一死以って大悪を誅する事こそが護廷十三隊の意気なのだ。

 だが、隊長達の誰もが消耗はしているが、まともに動く事が出来る程度の傷しか負っていない。副隊長や仮面の軍勢(ヴァイザード)の中には重傷を負っている者もいるが、他の者の力を借りれば逃げる事は可能だろう。

 ならば、無駄に犠牲になる必要もなし。藍染という大悪をのさばらせ、その悪事を止める事が出来なかった老骨のみが犠牲となればそれで良い。それが山本の考えだった。

 

「山爺!」

「総隊長!」

「ジイさん!」

 

 誰もが山本の犠牲覚悟の行動に声を荒げる。だが、その声を山本は一瞥しただけで黙らせた。

 それを見て、誰もが山本を止める事が出来ないと理解する。そしてその意を汲んで炎熱地獄から脱しようとする。それを確認した山本は全員が脱するまで藍染を逃すまいとして――

 

「ア~~~~~~……」

「!!」

 

 ――突如として山本の背後に現れたワンダーワイスに対し、山本は流刃若火を振るった。

 だが、その一撃は容易くワンダーワイスに受け止められた。それだけではない。流刃若火が纏っていた炎が全て消えている。そればかりか炎熱地獄の炎までもだ。

 

「!?」

 

 その事実に驚愕した瞬間の隙を衝かれ、山本はワンダーワイスの一撃をまともに受けて大地に叩き付けられる。

 だが、流石は最強の死神か。その程度の一撃では少々のダメージはあれど、殆ど無傷で済んでいた。その内心は僅かに動揺していたが。

 

 ――何故、流刃若火の炎が消えた?――

 

「やれやれ。今の私ならばあの程度の炎を封じる必要はなかったのだが。まあ、そうするように私が造り上げたのだから、仕方ない事か」

 

 山本の疑問を晴らすヒントは藍染の口から出た。炎を封じる。そうするように造り上げた。その二つの言葉から、この結果には藍染が関わっている事は明白だろう。

 

「炎を、封じるじゃと?」

「そう。彼、ワンダーワイスは唯一の改造破面(アランカル)。そして彼の帰刃(レスレクシオン)名は【滅火皇子(エスティンギル)】」

 

 炎熱地獄の火柱を見た瞬間、ワンダーワイスは帰刃(レスレクシオン)化していた。そしてその能力で――

 

「君の流刃若火を封じる為だけに創られた破面(アランカル)だ」

 

 ――流刃若火の炎を封じ込めたのである。

 

 流刃若火は最強の斬魄刀だ。それは藍染も認める事実である。だが、他の全ての能力を棄ててただ一点のみに特化させれば、その最強にも対抗しえた。

 その証こそがワンダーワイス・マルジェラだ。言葉も、知識も、記憶も、そして理性すら失い、それら全てと引き換えに手にした能力の前に、流刃若火の力は封じられたのだ。

 

「しかし、これならば連れてこなかった方が良かったかもしれないな……。いや、彼が来る前に蛹籃の時が終わればまた別だが……」

「何を……」

 

 藍染の呟きが山本には理解出来ない。別に藍染も理解されたいが為に呟いた訳ではないが。

 藍染としては山本の力が封じられ、このまま予定通り(・・・・)に斃れるのは少々不都合になる可能性があるのだ。

 もう少し早く()が来ていれば問題はなかったが、それはそれで別の問題も出てきたかもしれないので、痛し痒しと言えた。

 

「私も全てを思い通りに動かす事は出来ないという訳だ。たった一人の為にここまで警戒しなければならないとは……彼の存在は全く以って面白い……」

「だから何をほざいておる!!」

 

 藍染の不理解な言葉に山本が苛立ち、藍染に攻撃を仕掛けようとする。だが、そんな山本の前にワンダーワイスが立ちふさがった。

 

「ふん! 流刃若火を封じれば儂を討てると思うたか!」

 

 山本は予備動作もなく攻撃を仕掛けてきたワンダーワイスの連撃を躱し、反撃の一撃を叩きつける。素手の筈の一撃で、ワンダーワイスの脇腹は消し飛んでいた。凄まじい威力の一撃である。

 総隊長の座は伊達ではない。例え斬魄刀が封じられようとも、この程度の敵を素手であしらうなど造作もない事だった。だが、ワンダーワイスに大きなダメージを与えた筈の山本に対し、八番隊隊長の京楽春水が制止の声を掛ける。

 

「駄目だ山爺! その破面(アランカル)は山爺の炎を封じているんだ! それを殺してしまえば!」

「!!」

 

 直弟子でもある京楽の声を訊いて山本も気付いた。

 そう、藍染は流刃若火の炎を封じた(・・・)と言った。消したのではない、封じたのだ。つまり、先程まであった炎熱地獄の炎は消滅したのではなく、どこかに封じられているという事だ。

 それがどこかと言えば可能性としては一つしか考えられなかった。

 

「流石は京楽春水。思慮深さでは山本元柳斉を上回っている。正直な処、瀞霊廷では山本元柳斉よりも君を警戒していたよ」

「そいつはどうも……とでも言えばいいのかな?」

 

 藍染の称賛の言葉に冷静に返しつつ、京楽は嫌な予想が当たっていた事に、苦虫を噛んだような想いをしていた。

 

「京楽春水の言う通りだ。もし君がワンダーワイスを殺していれば、ワンダーワイス自身に封じられた君の炎の全てが無差別に、一瞬にして炸裂した事だろう。そうなればどうなるか、想像出来ない君ではあるまい」

「くっ!!」

 

 藍染の言葉を素直に信じる山本ではないが、嘘と断言する事も出来ない。少なくとも、京楽が危惧しているのは確かだろう。

 もしワンダーワイスを殺した事で封じられていた流刃若火の炎の全てが解放されたら、この空間全てが灰燼と帰すだろう。いや、それだけでは収まらない。その破壊は転柱結界など容易く消し飛ばし、そのまま結界の外まで破壊を広げ、最終的に空座(からくら)町の何倍もの大地が灰となっただろう。

 それ程の威力を流刃若火は有しているのだ。

 

「皆! あの破面(アランカル)の動きを封じるんだ!」

「縛道の六十一・六杖光牢!」

「縛道の六十二・百歩欄干!」

「縛道の六十三・鎖条鎖縛!」

「縛道の七十五・五柱鉄貫!」

「縛道の九十九・禁!」

 

 京楽の言葉と共に過剰とも言える縛動がワンダーワイスの動きを封じ込める。如何に改造破面(アランカル)と言えど、複数の隊長や仮面の軍勢(ヴァイザード)から放たれたこれだけの縛道から抜け出す事は難しいだろう。

 

「アウゥ~~……!」

「斃す事が難しいなら封じる。私も山本元柳斉にした事だ。正しい対処と言えよう、京楽春水。だが、それでは山本元柳斉の力は封じられたままだぞ?」

 

 そう、ワンダーワイスを殺さずに封じ込めれば、流刃若火の炎が暴発する事はない。だが、ワンダーワイスをそのままにすれば山本の最大戦力である流刃若火の炎は使えないままだ。これでは山本の戦力の大半は封じれらたままという事になる。

 傷つき消耗した隊長達。戦闘力の大半が封じられた山本総隊長。そして、万全の状態どころか進化して強くなり続けてすらいる藍染惣右介。この戦いの趨勢がどちらに傾いているか、誰の目にも明らかであった。

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

「むん!」

 

 結界の外ではクアルソと雀部の戦いが続いていた。

 両者共に傷はない。クアルソはその技術と霊圧にて雀部の雷を全て防ぎ切り、雀部もまた卍解の力にてクアルソの攻撃を防ぎ続けていた。

 雀部の卍解、黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)はクアルソをして素晴らしい能力だと言えた。攻撃力では始解の更木剣八が勝るだろうが、総合力では確実に雀部が勝っているとクアルソは断言出来た。

 もし雀部と剣八が戦ったとしたら、相性の差によって雀部が勝利する確率の方が高いとさえクアルソは思った程だ。まあ、卍解と比べられる始解という時点で剣八の規格外ぶりが理解出来るのだが。

 

 クアルソが独特の歩法を加えた響転(ソニード)にて雀部の視界を惑わす。

 緩急をつける事で相手の視覚に錯覚による分身を映し出し、相手の死角を取って攻撃を加えようとする。

 

「甘い!」

 

 だが、分身に驚愕する雀部ではない。死神にも似たような技術は存在する。瞬歩に独特のステップを加えて分身を作り出す、隠密機動と呼ばれる特殊な部隊が得意とする技術だ。

 隠密機動が作り出す分身と比べてもクアルソが作り出した分身は圧倒的に多い。確かに本物を見抜く事は困難だが、その全てからの攻撃を防げば何の問題もないだろう。それが雀部の判断だった。

 

「はぁっ!」

 

 雀部は十一本全ての雷柱を防御に回す。己を雷柱の檻にて囲み、その檻を高速で回転させる事で全ての攻撃を弾こうとする。

 だが、クアルソはその防御を突き破ろうとした。自身も似たような防御法を有しているクアルソだ。その突破方法を思いつくのは容易かった。

 

虚閃(セロ)!」

 

 クアルソは全身から虚閃(セロ)を放ち、それを高速で回転させて身に纏う。そして雷撃を高速回転させている雀部の上空、回転の中心点を狙って一気に下降する。

 回転の弱点はその中心点だ。独楽を思い浮かべれば解り易いが、回転する独楽は中心点から離れれば離れるほどその力が強くなる。逆に中心点に近付けば近付く程、その力は弱まる。それと同じ理屈だ。

 乱回転させていれば話は別だが、ただの高速回転ではこういった弱点が生まれてしまう。そこを衝けば容易く、とまでは行かないが、周囲から突き破るよりも楽に突破が出来るだろう。

 

「甘いと言っている!」

 

 だが、その攻撃すら雀部は防いだ。否、回避した。

 クアルソの攻撃は確かに雀部の防御を突破した。防御の薄い回転の中心点を突き破り、雀部へと迫っていた。

 そしてクアルソの攻撃が雀部に命中する直前、雀部の姿が掻き消えた。クアルソの響転(ソニード)に勝るとも劣らぬ速度で移動したのである。

 

またか(・・・)。すごいなその瞬歩は。いや、他の瞬歩とは少し違うみたいだが。雷に乗っているのか」

 

 クアルソはあらぬ方角を見つめながらそう語りかける。

 破面(アランカル)響転(ソニード)にあたる死神の歩法、瞬歩についてもクアルソは学んでいる。そういった情報も藍染から頂いた資料に載っていたからだ。

 しかし雀部の瞬歩は他の死神のそれとは違うものだった。瞬歩を元に発展させた雀部のオリジナル歩法と言えよう。

 

「見抜くか……」

 

 クアルソが語りかけた方角にいつの間にか雀部の姿があった。恐るべき速度で元いた位置からそこへ移動していたのだ。そしてその速度と自身特有の瞬歩を見抜いたクアルソに内心で感嘆する。

 

 ――私の雷瞬を目で追えるとは――

 

 雷瞬。それが雀部の瞬歩である。黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)で生み出した雷に乗り、雷速の速さにて移動する瞬歩だ。速度で雀部に勝る者は尸魂界(ソウル・ソサエティ)には存在しないだろう。

 この雷瞬には流石のクアルソも手を焼いていた。雷の能力を利用し、電気信号を刺激して凄まじい反射神経を会得した者との対戦経験を持っているクアルソだったが、雷そのものの速度で移動する敵となると流石に捉える事は容易ではなかった。

 

 ――今の状態ではきついな……――

 

 今のクアルソは全力を封じていた。これ以上霊圧を強くすると現世への影響が出すぎるからだ。だが、加減した状態で相手出来るほど雀部は弱くはない。

 結界の一つや二つくらい会得していれば良かったとクアルソは思うが、それは仕方ない事だ。何せクアルソがこの世界に転生してからまだ半年も経っていない。自身の事にいっぱいいっぱいで、他の力の習得にまで手が回らなかったのだ。

 時間が出来たら必ず結界術を会得しようと決めたクアルソは、それはさておいて雀部との戦いに集中する。

 

 一方雀部もまたクアルソの力に舌を巻いていた。どれほど雷撃を放っても霊圧の渦にて防御されるか、雷瞬に劣らぬ程の響転(ソニード)で避けられる。実際には単純な速度では雷瞬の方が上だが、クアルソの読みの高さと初動の速さが相まってそう感じられるのだ。

 

 ――命中させる事が至難な上に、命中したとしても効果がない。ならば――

 

 命中しても無意味ならば、どれだけ命中させても意味がない。ならば、例え命中させる事が更に困難になろうとも、攻撃力を上げる他ない。それが雀部の下した結論だった。

 

黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)・雷刃閃!!」

 

 雀部は防御を棄てて攻撃に力を注ぐ。十一本の雷柱の内一本のみを雷瞬用に残し、残る十本全てを束ねて一振りの刃を作り出す。

 全てを斬り裂き焼き焦がす雷の刃。あれだけの規模の雷を、たった一振りの刃に凝縮しているのだ。その威力ならばクアルソの防御を突き破る事が可能だろう。

 攻撃範囲が非常に狭まる為に命中は困難になるだろうが、そこは雷瞬の速度で補うつもりのようだ。

 

「そうきたか……」

 

 雷刃閃を見てクアルソは雀部の狙いを理解した。そして、それが悪手である事も。

 

「――ッ!」

 

 雀部は雷瞬にて一気にクアルソに近付き、そして雷刃閃を振るう。全てを斬り裂く一撃が雷速でクアルソに迫る。だが、雷刃閃がクアルソに命中する直前、雀部は雷瞬にて軌道を変更し、クアルソの背後へと瞬きの間に移動した。

 単純な速度での攻撃はクアルソに見破れる可能性があると示唆した雀部は、雷瞬によるフェイントを混ぜた攻撃を放ったのだ。そしてあまりの速度のフェイントに反応出来ていないクアルソの背後から雷刃閃を振るい――

 

「ガッ!?」

 

 ――クアルソの一撃が雀部の顎に突き刺さっていた。

 クアルソがしたのは単なるカウンターだ。雀部の胴を横薙ぎする背後からの一撃を弧を描く動きで躱し、そして通り過ぎようとしている雀部の顎に拳を突き入れたのだ。

 雀部の戦法は間違ってはいない。攻撃が当たっても無意味だから、威力を上げて攻撃する。それ自体は正しかった。問題はその手段が接近戦であった事だ。

 クアルソの真骨頂は接近戦にある。クアルソが修めた技術の大半が、接近戦にてその真価を発揮するものだ。そんなクアルソを相手に接近戦を挑むのは無謀と言えた。

 もちろん雀部も接近戦を不得意としている訳ではない。ただ単に互いの技量に大きな差が有り過ぎただけだ。雀部の卍解の真骨頂が中距離から遠距離にあるのも理由の一つだろう。

 

 そしてもう一つ、雀部は間違いを犯していた。

 雀部の目的はクアルソを倒す事ではない。クアルソを結界の中に入れない事が目的だった。もちろん倒す事が出来ればそれに越した事はないのだが、雀部は時間を稼ぐだけでも良かったのだ。護廷十三隊の面々が藍染を打倒するまでの時間を。

 そうしていれば後は護廷十三隊の総力を以ってして、クアルソを倒す事に集中出来ただろう。まあ、護廷十三隊が藍染を倒す事が出来ればの話だが。

 

「悪手だったな。確かにお前の瞬歩は速い。だが、お前そのものは雷速ではない」

 

 そう、雀部の雷瞬はあくまで雷に乗って移動しているに過ぎない。雀部そのものが雷速を有している訳ではないのだ。

 つまり、接近してからの雀部本体の動きは雷速ではなく、雀部本来の速度でしかないのだ。もちろん雷速で移動している事は間違いないのだが、接近しさえすればクアルソならば捉える事は不可能ではなかった。

 尤も、流石に接近する速度は雷速だった故にクアルソも躱し切る事は叶わず、雷刃閃にて脇腹を斬り裂かれていたが。内臓には届いていないが、反応が僅かに遅れていれば重大なダメージを負っていただろう。

 

「まだ、だ……!」

 

 雀部は雷瞬にてその場から離れようとする。確かにダメージは受けたが、まだ終わってはいない。一旦離れてから呼吸を整え、再びクアルソを足止めすればいい。

 接近戦が不利であると雀部は悟った。クアルソのあの動きから、凄まじいまでの技量を感じ取ったのだ。だが、離れてさえいればクアルソの動きに対処出来る。遠距離ならば技量の差は埋め易くなる。

 そして倒すではなく時間を稼ぐ事に力を入れようとするが、その判断は既に遅かった。

 

「く……!」

「逃がさん!」

 

 クアルソが雀部の顎を攻撃したのはその脳を揺らす為だ。死神も人間と同じように脳や内臓という器官が存在する。ならば、顎に強い一撃を受ければ脳が揺れ、まともに動く事は困難になるのは道理だった。

 脳震盪が回復する時間をクアルソが与える筈もない。雷瞬はクアルソをして手間だと思わせる程の速度だ。こうして捉える機会を得たならば、それを逃すなど有り得なかった。

 

「しっ!」

「ぬぐおぉぉっ!!」

 

 クアルソは雀部がまともに動けずとも無理矢理雷瞬を発動させて逃げられる可能性を考慮し、攻撃速度重視の虚弾(バラ)を連射する。

 雀部に向けて無数の虚弾(バラ)が放たれる。点ではなく面を制圧するように放たれた虚弾(バラ)の大半が雀部を捉える。虚弾(バラ)の威力は確かに虚閃(セロ)に劣るが、これだけの数が命中すればそのダメージは相当なものになるだろう。

 更にクアルソは虚弾(バラ)によって吹き飛ぶ雀部に響転(ソニード)で追いつき、その腹部に掌底を叩き込む。それと同時に内部に浸透するように更に虚弾(バラ)を放った。

 

「がはぁっ!!」

 

 零距離からの、内臓に直接叩きこまれたかのような虚弾(バラ)を受け、雀部が大量に吐血する。

 

「ぐ、うぅ……」

 

 最早戦闘に回す余力等、雀部に残されてはいなかった。その証拠とばかりに雀部の卍解は解け、斬魄刀は元の形に戻っていく。卍解はその力の高さに比例して展開していれば大量の霊力を消費する。それを維持し続けるのは困難であり、完全に卍解を操るには会得してから更に数十年の修行を要すると言われている程だ。

 もちろん二千年もの永きに渡って卍解を鍛え続けた雀部ならばその制御も維持も完全ではあるが、ここまでの重傷を負っては流石に卍解を維持し続けるのは雀部をして不可能だった。

 

 ――む、無念……!――

 

 闘志はある。欠片も萎えていない。尊敬する山本元柳斉の為に、命を賭して戦う意思は溢れていた。

 だが、それに身体が応えてくれない。精神が肉体を凌駕する事はあるが、その精神を凌駕するダメージを雀部は負っていた。そういう類のダメージをクアルソが狙って与えたのだ。

 

「申し訳……ありませぬ……元柳斉殿……!」

 

 山本元柳斉の役に立つ為だけに卍解を会得し、山本元柳斉の役に立つ為だけに卍解を鍛え続け、山本元柳斉の役に立つ為だけに卍解を使わずにいた。

 その卍解を初めて敵に披露し、敗れたのだ。今までの努力は何の成果も得られなかった。いや、そんな事よりも山本元柳斉の役に立てなかった事の方が悔しく、不甲斐なかった。

 

 そうして悔やみながら大地へと落ちて行く雀部。そしてその身体が大地に叩き付けられる瞬間――

 

「な……!?」

 

 敵である筈のクアルソに抱き止められた。そして優しく大地へと降ろされる。

 

「貴様……何を……」

 

 何の目的があって敵を助けるのか。それが雀部には解らなかった。

 だが、クアルソの目的は初めから一貫していた。いや、少しだけ雀部との戦いを愉しんでいたが。少しだけなので問題ない。

 

「何って、お前を殺すつもりは初めからない。オレは藍染様を止めたいだけだからな。だから、お前にはこの結界をどうにかしてもらわないと困る」

「!?」

 

 破面(アランカル)が死神を殺すつもりがないとはどういう事なのか。結界を抜けたければ強引に抜ければいいだけの話だ。それが出来るだけの実力を有している事くらい雀部も理解している。雀部がいなくて困る理由がどこにあるというのだ。

 だが、事実目の前の破面(アランカル)は雀部を殺そうとはしていない。そればかりか礼を失さずに頼み込んですら来た。

 

「頼む。結界を通してくれ。この結界を壊す訳にはいかないだろう? オレも現世に余計な影響を与えたくない」

「貴様……本気なのか……!?」

 

 現世に対して配慮する破面(アランカル)など訊いた事も見た事もない。破面(アランカル)は元(ホロウ)であり、彼らにとって現世とは人間という餌がいるだけの世界の筈だ。

 だが、ここに至って目の前の破面(アランカル)がそうではない事は確かだった。クアルソが藍染の味方ならばここまで現世や雀部に配慮する必要はない。雀部を殺して結界を破壊し、藍染の味方をすればいいだけだ。

 そうせずに雀部を殺さずに無力化し、結界を通してほしいと頭を下げて頼み込む。ここまでされては雀部もクアルソが本当の事を言っているのではないかと思い始めた。

 

「ああ。藍染様を止める。あの人には恩も義理もあるけど、目的の為に無関係な人々を犠牲にするやり方は認められないからな」

「……!」

 

 破面(アランカル)から放たれた言葉でなければ素直に信じられる言葉だ。だが、相手は破面(アランカル)。人間の魂を喰らう悪霊だ。そんな存在の言葉を信じるなどどうして出来ようか。

 だが、不思議と雀部はクアルソの言葉を信じてしまった。それを不思議と思いつつも、雀部は悪い気持ちにはならなかった。

 

「……行け」

「! ありがとう!」

 

 雀部の言葉を訊いて、その真意を理解して、クアルソは歓喜の表情を浮かべて感謝の言葉を返す。

 雀部はクアルソに賭けてみた。クアルソと戦う前に確認していた結界内の戦いは護廷十三隊と仮面の軍勢(ヴァイザード)の不利に進んでいた。あのままでは敗北必至だろうとも思えた。山本元柳斉を信じてはいるものの、それでも妄信してはいない雀部は状況を打破する一打としてクアルソに賭けたのだ。

 もしクアルソが嘘を吐き、藍染の味方をするつもりだったとしても、結界を壊されるよりは中に入れた方がまだマシという思いもあった。

 そうして雀部は結界の一部に穴を開け、内部への道を作り出す。

 

「それじゃあな雀部長次郎忠息。次の機会があればまた()ろう!」

「ふ……その時は私が勝つ。二度目の勝利はないと思えクアルソ・ソーンブラ……!」

 

 雀部はクアルソの言葉にそう返しつつ、結界の中に消えるクアルソを見送り、そして結界を再び閉じた。これで外からの侵入は困難になるだろう。

 

「ふぅ……」

 

 雀部は傷ついた身体を横たわらせて一息吐く。そして敗北した身でありながら気分が高揚しているのを感じた。

 戦って心地よいと思った敵など二千年間でも数える程だ。それが破面(アランカル)という死神の大敵なら尚更だ。

 クアルソという破面(アランカル)らしからぬ破面(アランカル)は、雀部に忘れる事の出来ない衝撃を与えていた。

 

 




 着実に原作キャラの好感度を稼ぐオリ主の鑑(棒)
 雷瞬も雷刃閃もオリジナル技です。実際の長次郎君がこんな事が出来るかは解りません。山本総隊長も認めた長次郎君が強くあってほしくて勝手に作りました。
 ネーミングセンス? 私に期待しない方がいい。師匠のオサレセンスには脱帽である。







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