どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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BLEACH 第十四話

「目覚めろ――武神(マルシアーレス)

 

 破面(アランカル)の斬魄刀は死神のそれと違い、破面(アランカル)本来の能力の核を刀の姿に封じたものだ。そして帰刃(レスレクシオン)形態になる事で、真の能力と真の姿を解放する。

 つまり、今の姿こそがクアルソの真の姿という事になる。その姿とは――

 

「変わって、いない……?」

 

 帰刃(レスレクシオン)形態となったクアルソを見て、一護がそう呟く。そう、クアルソの見た目は殆ど変化していなかった。変化している点はたったの三つ。ほぼ無かった仮面の名残が完全に消えた事と、斬魄刀が消えた事、そして死覇装が袴を思わせる武道着になっている事、その三つだけだ。それ以外は何も変わっていない。

 角が生えただとか、腕が増えただとか、体が獣のようになっただとか、巨大になっただとか、そのような変化は一切ない。先程までのクアルソと全く同じ姿であった。

 

「これは……」

 

 藍染がクアルソの帰刃(レスレクシオン)形態を見て訝しむ。あまりにも変化が無さ過ぎる、と。

 帰刃(レスレクシオン)形態になって姿が変化しなかった破面(アランカル)は誰一人としていなかった。弱い破面(アランカル)だろうが、十刃(エスパーダ)だろうが、誰であれ何かしらの変化を見せた。そして、それに見合った能力の変化も同時に起こっている。

 例えば第1十刃(エスパーダ)のスタークは帰刃(レスレクシオン)形態になる事で、従属官(フラシオン)のリリネットと融合し、リリネットを銃の形に変化させる。そしてその銃から無数の虚閃(セロ)を同時に放つ事が出来るようになる。その連射力はクアルソでも真似する事ができない程だ。他にもそれぞれの能力に合わせた肉体や外見の変化が帰刃(レスレクシオン)する事によって起こる。

 そういった目立つ変化がないという事は、クアルソの帰刃(レスレクシオン)は大した能力の変化がないという事になる。そして、藍染のその予想は正しかった。

 

「落胆させたか?」

「――っ!?」

 

 藍染はクアルソの変化を感じ取った。それは外見の変化ではない。内面の変化をだ。

 クアルソから感じられる雰囲気が明らかに変化していた。今までの、戦いの最中にあっても感じられたどこか軽薄めいた空気が薄れている。今まで藍染に向けていた軽い口調が消えているのだ。

 それだけではない。大した能力の変化がない。藍染の予想だ。それは間違いではない。だが、帰刃(レスレクシオン)して強さが変わらない破面(アランカル)はいない。ならば、何が変わっているのか――

 

「霊圧か……!」

「そうだ。オレの帰刃(レスレクシオン)形態に能力的な変化はない。ただただ、圧倒的に霊圧が増すだけだ」

 

 そう、能力と敢えて言うならば、それがクアルソの帰刃(レスレクシオン)形態の能力だ。クアルソはあまりに強大過ぎる己の力の大半を、斬魄刀に封じ込めていたのだ。それを、藍染という今まででも類を見ない程の敵と戦う為に解放した。

 藍染が帰刃(レスレクシオン)形態となったクアルソの霊圧が高まったのを読めなかったのは、クアルソが霊圧を抑えていたからだ。そしてクアルソは今まで抑えていた霊圧を()()に高めていく。徐々に、だ。それは、浦原と一護に向けての警告だった。

 

「逃げますよ黒崎サン!!」

「えっ!?」

 

 浦原は一護の返事を待たずに一護を抱えて瞬歩にてこの場から消え去る。返答を待つ暇すら惜しい。そう思える程の圧力を、クアルソから感じ取ったからだ。

 浦原ではクアルソの霊圧を感じる事は出来ない。だが、霊圧が放つ圧力を感じる事は出来る。その圧力が結界越しに()()()()勢いで増していくのを感じ取り、浦原は一護を連れて逃げ出した。あの程度の距離では結界があった所で一護諸共死ぬと判断したのだ。

 

「これは……!」

 

 クアルソが放つ霊圧が更に、更に高まっていく。それを感じ取り、藍染は驚愕と歓喜の声を上げる。

 クアルソの霊圧は藍染と遜色ない程までに高まっていた。崩玉と完全融合し、幾度も進化を行い、斬魄刀と融合すらした今の藍染と、遜色ない程にだ。それがどれほど凄まじいことか。どれほど素晴らしいことか。藍染が誰よりも理解していた。

 

 藍染は仕掛けない。今すぐ仕掛けたいが、クアルソが藍染の闘志を受け流していた。その理由は藍染にも理解出来ている。クアルソは浦原と一護が戦闘区域から離れるのを待っているのだ。浦原の瞬歩にて既にかなりの距離を離れているが、藍染とクアルソの力を思うとまだ足りない。

 そして、浦原達が戦闘区域から脱したとクアルソが判断した瞬間、クアルソが藍染の闘志を受け止めた瞬間、藍染が咆哮する。

 

「クアルソ!」

「藍染!」

 

 クアルソ・ソーンブラと藍染惣右介。破面(アランカル)と超越者の、いや、超越者と超越者の真の戦いが始まった。

 

 

 

 藍染が空間転移を行う。今までにも何度も行っていた転移による強襲だ。だが、今までと同じ攻撃を藍染が繰り返す訳もなかった。

 クアルソの周囲に無数の空間の亀裂が走る。そしてその内の一つから、藍染の手刀が衝き出された。どこから攻撃が来るか予想も出来ない恐るべき空間攻撃だ。

 藍染の手刀はクアルソの左胸を狙って繰り出された。そしてその手刀から僅かに遅れてクアルソの頚椎を狙って別の穴からもう一つ手刀が放たれる。時間差を加えた上に死角も含める同時攻撃だ。眼に見える正面からの手刀に集中してしまえば、死角からの手刀に反応することは出来ないだろう。

 

 そんな藍染の小手調べの攻撃を、クアルソもまた小手調べの防御で返す。

 

「!」

 

 藍染の手刀が両方とも弾かれた。クアルソがその全身から高速回転する虚閃(セロ)を放ったのだ。その出力は通常状態の比ではない。こうして藍染の手刀を弾いているのがその証だ。

 クアルソは虚閃(セロ)の防御術にて藍染の手刀を防いだ後に、お返しとばかりに手刀を振るう。だが、藍染は未だに空間の亀裂から姿を現していない。ならばクアルソは何を狙ったというのか。

 

「ほう……!」

 

 クアルソが斬り裂いたのは空間そのものだ。空間に干渉するように力を整え、空間の裂け目に姿を隠していた藍染を通常空間へと戻したのだ。

 そして再びクアルソが手刀を振るう。対して藍染もまた手刀を振るい、互いの手刀がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 一方、浦原と一護は空座(からくら)町まで戻ってきていた。先程いたのは一護が藍染を空座(からくら)町に被害を与えないように移動させた場所だ。つまり、空座(からくら)町ならばあの超越者同士の戦いの余波も届き難いということになる。

 

「手荒くしてすみませんでした黒崎サン」

「いや……俺が足手纏いなのが悪いんだ。浦原さんは悪くねぇよ……」

 

 そう言う一護の顔色はかなり悪い。霊力を失いつつある影響だけでなく、足手纏いという事実が一護の心に重くのし掛かっているのだろう。

 そんな一護に対して浦原は何も言えなかった。下手な慰めは今の一護を更に傷付けるだけだからだ。

 

「黒崎サンは空座(からくら)町に居て下さい」

「……浦原さんはどうするつもりだよ」

 

 一護はそう問うが、答えは聞くまでもなく理解していた。

 

「クアルソさんが藍染サンを倒せるかどうか、それを確認しない限りはおちおち休む事も出来ませんからね」

 

 そう、それが浦原の答えだ。浦原が一護を連れてここまで来たのは、あれ程の規格外がぶつかり合う戦場で一護を護りきる自信がなかったからだ。

 だが、自分だけならば何とかなる。離れた場所で見守るだけならば、何とか生き延びる事が可能だ。ならば、それをしない理由は浦原にはなかった。

 

「黒崎サン。あなたは――」

 

 浦原が一護に何かを言い掛けた時だった。

 

『!?』

 

 両者が思わず振り返る程の衝撃が、あの戦場から響いて来た。クアルソと藍染の手刀がぶつかり合った結果がここまで届いたのである。

 

「無茶苦茶っスね……」

「ああ……」

 

 先の衝撃に続いて幾つもの衝撃が響いてくる。これだけの威力の攻撃を、両者が幾度も繰り出している証拠だ。

 

「黒崎サン。あなたは仲間の元に戻ってください。もう少ししたら他の死神達もこっちに来る筈っス。その時、彼らに状況を説明して空座(からくら)町を結界で少しでも護るように伝えてください。下手すれば、余波だけで空座(からくら)町に被害が出かねません……!」

「浦原さんが結界を張ればいいんじゃねぇのか?」

 

 浦原が強力な結界を張れる事は一護も知っている。それで先程まで護ってもらったのだから当然だ。

 だから他の死神に頼らずとも、浦原が結界を張ればいいのではと疑問に思った。その疑問には、浦原に対する心配も含まれていた。あの超越者の戦いに近付くという、危険極まる行為をしようとしている浦原を心配しているのだ。

 

「もちろん私も結界を張るっス。流石に空座(からくら)町全土に張る事は無理ですが。ですが、その後は……」

「……解った。頼んだぜ浦原さん」

 

 浦原の覚悟を見て、一護もそれ以上引き止める事はしなかった。そして、己の無力を内心で嘆く。

 だが嘆いてばかりでは何も出来ない事を一護は知っている。今やるべき事は嘆く事ではなく、少しでも空座(からくら)町の被害を少なくする事だ。

 

「ええ。黒崎サンも空座(からくら)町を頼みますよ」

「ああ!」

 

 そう言って、両者は別々の方向へと動き出した。一護は空座(からくら)町の中に向かって、浦原は戦場に向かって。互いに為すべき事を為す為に。

 

 

 

 

 

 

 クアルソの蹴りが藍染の側頭部に放たれる。それを上半身を仰け反る事で躱した藍染はその流れのままにクアルソに蹴り返す。

 返って来た蹴りをクアルソが受け流し、そして藍染の足首の関節を一瞬で外す。更に関節を捻って砕こうとするが、そこまでさせる程藍染の反応は鈍くはない。

 関節を外された足を即座に引き戻し、その反動を利用して逆の足で蹴りを放つ。クアルソの体を真下から両断するかのように蹴り上げられたその一撃を、クアルソは半身をずらして回避する。その間に藍染の外れた関節は元に戻っていた。恐るべき回復速度である。

 

 クアルソが拳を振るう。一撃ではなく何十、何百も。その全てを藍染は数千枚もの薄い障壁を張ることで防ぐ。クアルソの連撃により障壁は砕かれるが、その度に新たな障壁が生み出され一向に藍染には届かない。

 その結果を見たクアルソは連撃を止め、右手に薄く研ぎ澄まされた霊圧を纏わせて障壁に向かって振り下ろす。右手の霊圧は目に見えない程の小さな刃状に変化しており、その刃が高速で回転していた。そしてその切れ味で藍染の障壁を斬り裂いていく。

 

 その斬撃を藍染は触れずに避ける事に専念する。触れれば危険だと判断したのだ。そして避ける動作と攻撃する動作を一つにし、最短の距離でクアルソに向けて拳を衝き出す。

 顔面目掛けて衝き出されたその拳を、クアルソは僅かに横にずれる事で回避する。そして藍染の拳が頭部の横を通り過ぎる瞬間、頭部と肩にその拳を挟む事で固定し、藍染の右腕を掴んで肘関節を捻り折ろうとする。それと同時に藍染の顔面に蹴りを放つ。

 藍染は回転する事で腕を護る――などとはせず、腕から霊圧を放出する事で腕を掴むクアルソの手を弾いた。そしてしゃがみ込む事でクアルソの蹴りも回避し、霊圧を纏わせた手刀による衝きにてクアルソの胴を抉ろうとする。

 クアルソはその手刀を放った手首を右手で掴んで抑え、躱された蹴りをそのまま引き戻して再び藍染に蹴りを放つ。それを藍染は左腕で防ぐ。そして、両者共に一定の距離に離れた。

 

 この攻防は刹那の間に行われていた。全てを見て取れる者など世界広しと言えど何人いる事か。

 

「……強くなったな」

 

 藍染との攻防に一拍の間が置かれた時、クアルソが藍染にそう言った。

 

「当然だ。私は崩玉と融合し――」

 

 強くなったのも当たり前の話だ。崩玉と完全融合し、死神も虚も超えた存在へと進化したのだ。それで強くならない訳がない。

 そんな当たり前の事を訊くクアルソを不思議に思いつつ、藍染がそう返そうとするも、その言葉はクアルソによって遮られた。

 

「そうじゃない。そうだな……巧くなったな、というのが正確か。……あれから修行を積んだな藍染」

「……」

 

 クアルソの言葉に対し、藍染は笑みを浮かべるだけで返す。そう、クアルソの言う通り藍染は修行を積んでいた。あの時、クアルソと初めて出会った時、藍染とクアルソは戦った。その戦いは途中で終わったが、その時藍染は接近戦の腕がクアルソに劣っている事を理解していた。

 そして、それを良しとする藍染ではない。劣るならば鍛えればいいだけの話だ。藍染は超然とした態度を取っている為に、修行をしている光景を想像するなど誰も出来ないかもしれない。だが、いくら天才と言えど修行もせずに強くなれるわけがないのだ。

 確かに崩玉を御せば更なる力は手に入る。だがそれは力だけだ。技術は手に入らない。技術は本人の努力によってしか磨かれないのだ。才能はその努力が実りやすくなる為の力に過ぎない。そう、藍染とて努力し、修行し、今の力を身に付けているのだ。初めから強い者などいる訳がなかった。いるとしたらそれは化物と呼ばれる存在なのだろう。

 

「だが、やはり接近戦では君に劣るようだ。悔しくもあり、嬉しくもある。不思議な気持ちだよ」

 

 そう言って藍染は己の右肘を見る。クアルソに掴まれ捻り折られようとした時、クアルソの手を弾くのが僅かに遅れて肘の靭帯が傷付いていた。既に完治しているが。足首の関節が外されたのもそうだ。一見互角の攻防に見えるが、藍染はそう思っていなかった。他人からすれば本当にごく小さな差なのだが。

 

「同等以上の存在がいる事は恥でもなければ苦でもない。むしろ励みにすべき事だ。悔しいと思う感情も、嬉しいと思う感情も、どちらも大切にすべきだよ藍染」

 

 クアルソのその言葉は実体験を含んでいた。自身と同等以上の存在など、一体どれ程出会えていないか。クアルソはかつての好敵手(とも)達を思い出す。彼らは本当に得がたい好敵手であり、仲間であり、気の置けない親友であった。

 そういった存在と出会える事は素晴らしい事なのだ。そして、そういった存在に負けたくない、負けて悔しいと思う事は何ら恥ずかしい事ではない。その想いが自身を更に高める栄養となるのだから。

 

「そもそも、数ヶ月にも満たない修行期間でそれだけ接近戦の技術が向上したんだ。十分過ぎるだろう」

「同等以上の存在を悔しいと思う感情は大切にすべきなのだろう? 私は君に劣っている事が非常に悔しい。例え接近戦だけとはいえ、ね」

「まるで接近戦以外なら勝っていると言っているように聴こえるな」

「そうか、なら君の脳も耳も正常だ。良かったなクアルソ」

『……』

 

 互いに言葉を交わし、声を出さずに笑い合う。そして、同時に鬼道の詠唱に入った。

 

『滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ――』

 

 接近戦だけならクアルソに劣る。藍染はそう言った。つまり、他の全てでは負けているつもりはないということ。だが、それをクアルソは認めない。故に、接近戦ではなく鬼道や術を用いた戦いが始まったのだ。

 そして、両者が最初に選んだ攻撃方法は、完全詠唱した黒棺だった。 

 

『破道の九十・黒棺!』

 

 そして同時に詠唱が終わり、黒棺が互いに放たれる。一護と戦った時に放っていた黒棺とは比べ物にならない威力のそれが、クアルソと藍染の周囲に発生した。

 時空が歪み狂いかねない程の重力の奔流。その中から、龍の形をした霊力の塊が飛び出した。それも、クアルソと藍染の両方からだ。

 破道の九十九・五龍転滅。それが、完全詠唱されて黒棺を突き破って現れたのである。そして、両者の五龍転滅がぶつかり合う。その結果は――完全に互角であった。

 

「やるではないか!」

「お前もな藍染!」

 

 クアルソと藍染が重力の奔流から脱し、五龍転滅がぶつかり合った結果を確認する。そして、互いの実力を褒め称えた。

 

「だが、長期戦では私が有利のようだな」

 

 そう言って藍染は傷を回復させる。クアルソの黒棺は藍染に確かなダメージを与えていたが、その程度の傷では崩玉の力で容易く治癒してしまうのだ。

 当然クアルソも藍染の黒棺でダメージを受けている。傷が再生する藍染と再生しないクアルソでは、長期戦で藍染に分があるのは確実だった。だが、そんな藍染の言葉をクアルソは真っ向から否定する。

 

「なに……?」

「回道、だったか。治療術ならオレも会得している」

 

 そう、クアルソには回道という治療術があった。卯ノ花から見て取った術だが、その技術は卯ノ花に匹敵する程だ。

 今までは手札の一つとして見せていなかったが、ここに来て出し惜しみする必要はない。クアルソは惜しみなく回道を発揮する事で、傷付いた体を完全に癒した。

 

「なるほど。破道が可能なら回道も可能か。当然の事だな」

 

 そう、破面(アランカル)が破道を憶えられるなら、回道も憶えられて当然だ。むしろ藍染が気になったのはその会得速度だ。黒棺と五龍転滅は藍染が見せたが、回道を見る機会はかなり少ないはず。あってもごく最近、虚夜宮(ラス・ノーチェス)で戦う死神が使用していたのを見たか、現世で使用しているのを見たかのどちらかだ。

 そこからの短期間でこれ程の技量の回道を会得するなど、藍染でも不可能だ。その会得速度に藍染が感心と称賛の言葉を内心でクアルソに送る。まあ、多くの前世の経験が生かされたなどと、流石の藍染も想像出来ない話だった。

 

「だが、回道での治癒には限界がある。崩玉の再生能力には及ばない」

「そうだな。だが、ようは限界を超えるダメージを受けなければいいだけだ。そして、崩玉でも再生し切れない程のダメージを与えればいい」

「やってみせるがいい!」

「やってみせよう!」

 

 そう叫び、両者の戦いは更に加速し高まっていく。

 

龍虚閃(セロ・ドラゴーン)!」

 

 五龍転滅と虚閃(セロ)を融合させた攻撃を、クアルソが一瞬で発動させる。五龍転滅を発動させるのに詠唱も術名も破棄したのだ。藍染がやった事と同じ芸当を、即座に真似したのだろう。

 藍染に向けて龍の形をした虚閃(セロ)が凄まじい勢いで向かっていく。

 

「千龍天滅!」

 

 対する藍染は五龍転滅と破道の九十一・千手皎天汰炮を融合させた新たな破道を作り出し、それを放った。千手皎天汰炮は無数の光の矢が目標目掛けて放たれる高位破道だ。その光の矢の全てが、龍へと転じてクアルソに向かっていく。

 巨大な虚閃(セロ)の龍と無数の光龍が激突する。虚閃(セロ)の龍は無数の光龍によってその威力が激減し、藍染の前に到達するも腕の一振りで払われてしまう。

 無数の光龍もその大半が虚閃(セロ)の龍に食い破られ、幾つかはクアルソに向かうも容易く回避された。

 

「はっ!」

 

 クアルソが同時に無数の虚閃(セロ)を放つ。流石に連射速度ではスタークが上だが、一つ一つの虚閃(セロ)の威力はクアルソが圧倒しているだろう。その無数の虚閃(セロ)が全て藍染に向かう。

 だが藍染は空間転移によってそれを回避し、クアルソの真上に出現して霊圧弾をクアルソに向けて放つ。高密度の霊圧で作られたその霊圧弾は、最後の月牙天衝を使っていた一護と戦った時にも使っていた技だ。だがその時とは違うところがあった。それは、霊圧弾が乱回転している事だ。クアルソの技術を取り込んで新たな技を作ったのだ。

 

「ちぃっ!」

 

 クアルソが乱回転する霊圧弾に対して乱回転する虚閃(セロ)をぶつける。だが、威力は藍染の方が上らしく、クアルソの螺旋虚閃(セロ・エスピラール)を突き破ってクアルソの元までその威力が届いた。

 

「まだだ! っ!?」

 

 クアルソに更に追撃をしようとした藍染だったが、背後から迫る虚閃(セロ)に驚愕し、それを回避する為に追撃を取り止める。

 一体誰が虚閃(セロ)を――藍染がそう疑問に思う暇も与えない速度で、クアルソが反撃する。

 

王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)!」

「くっ!」

 

 空間転移による回避も間に合わない速度で王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)が放たれる。そして藍染に直撃した。

 クアルソはそれで攻撃を止めず、更に帰刃(レスレクシオン)形態による王虚の重閃光(グラン・レイ・セロ・グラベダド)を放つ。

 

王虚の重閃光(グラン・レイ・セロ・グラベダド)!」

「破道の九十・黒棺!」

 

 藍染は黒棺を発動させ、それを放たずに霊圧で作り出した剣に融合させる。そして、それを王虚の重閃光(グラン・レイ・セロ・グラベダド)に向けて一気に振り下ろした。

 激突する二つの力。その衝撃により大気が弾け、大地が砕け、空間が裂け、時空が歪んでいく。そして、尸魂界(ソウル・ソサエティ)全土を揺るがしていく。そして、ようやくその衝撃が収まった。

 

「ふぅ……」

「はぁ……」

 

 クアルソと藍染が互いに息を吐く。その姿は両者共に傷だらけであった。だが、その傷も互いが持つ治癒能力にて癒えていく。そして再び傷一つない姿へと戻った。

 

虚閃(セロ)をあそこまで自在に操るとはな……」

「自分の霊力だ。操れない道理はないだろう?」

 

 そう。あの時、クアルソに追撃を放とうとしていた藍染を攻撃した虚閃(セロ)は、クアルソがその前に藍染に向けて放っていた虚閃(セロ)の中の一つだ。クアルソは直線上にしか飛ばない筈の虚閃(セロ)を遠隔操作し、その軌道を曲げて藍染に奇襲攻撃を仕掛けたのだ。

 

「そちらこそ、高圧縮した霊圧の刃に鬼道を融合させるなんてな」

「鬼道と虚閃(セロ)を融合させている君を前にしているのだ。それくらい出来なくてはな」

 

 そう言い合い、互いに笑みを浮かべる。クアルソも藍染も、この戦いを楽しんでいた。どんな攻撃も必殺になり得ない。どんな攻撃が来るかも予測しきれない。そんな戦いはクアルソにとって久しぶりであり、藍染にとっては初めてですらあった。

 

「さあ、続きだ!」

「ああ。行くぞ!」

 

 死闘の続きが始まった。接近戦、遠距離戦と来たら次は何か。両者の総合力での戦い……つまり、純粋な強さ比べである。

 

「しっ!」

 

 クアルソが無数の虚弾(バラ)を放つ。それもただの虚弾(バラ)ではない。虚弾(バラ)の一つ一つが小さく圧縮された上に乱回転する事で威力を高めたものだ。それが虚閃(セロ)を遥かに上回る速度で藍染に飛び交った。

 

「ちぃ!」

 

 初手の数発が藍染に命中する。そして小さく抉られたような傷が幾つも出来た。流石の藍染もこれ程までに小さく圧縮され、無数に放たれた虚弾(バラ)を初見で躱す事は出来なかったようだ。

 

「はぁっ!」

 

 藍染は続けて迫り来る無数の虚弾(バラ)を巨大な霊圧の塊をぶつける事で相殺する。小さく捉え難い程速いならば、巨大な壁で塞き止めればいいのだ。

 藍染のその目論見通り、無数の虚弾(バラ)は全て霊圧の壁によって防がれた。虚弾(バラ)が霊圧の壁にぶつかる事で凄まじい衝撃が周囲に響く。そして藍染が背後に振り返りそのまま霊圧の刃を振るう。

 藍染の背後には響転(ソニード)で移動していたクアルソが居た。虚弾(バラ)はまだ藍染が作り出した霊圧の壁を攻撃し続けているというのにだ。未だに放たれている虚弾(バラ)の正体は、クアルソが設置した霊圧球にあった。その霊圧球から自動的に虚弾(バラ)が放たれ続けているようだ。流石に乱回転も圧縮もされていないが。

 それに気付いた藍染はクアルソの響転(ソニード)による移動を見逃す事無く、背後に現れたクアルソに向けて刃を振るったのだ。その洞察力は流石と言えた。

 

「むん!」

 

 迫り来る霊圧の刃に対し、クアルソもまた霊圧の刃を作り出して斬り結ぶ。尸魂界(ソウル・ソサエティ)にある全ての斬魄刀と比べても、切れ味において勝るものはない刃同士が幾合とぶつかり合う。

 

「斬術も出来るか!」

「それなりにな!」

 

 得意なのは無手なのでクアルソからすると武器術はそういう自己評価になる。だが藍染が出来ると言うだけあって十分過ぎる技量であった。

 刃と刃が触れ合う度に空気が切り裂かれていく。未だに互いの体に刃は触れていない。それ程に両者の技術は拮抗していた。その拮抗を崩すべく、藍染が一手仕掛ける。

 競り合いの最中にクアルソの眼球に向けて小さな霊圧の塊が飛来する。破道の一・衝だ。最下級の破道だが、藍染が放てば並の上級破道に匹敵する威力となる。それだけの威力が籠められた小さな衝撃が眼球に命中すればどうなるか、言うまでもないだろう。

 当然そのダメージは看過できるものではないので、クアルソは首を傾ける事で回避する。その時に出来た僅かな、本当に僅かな隙を狙って藍染が刃を振るう。それを捌き切る事が出来ず、クアルソの胸に一筋の斬り傷が生まれた。そこから更にクアルソを追い詰めようとして――

 

「っ!」

 

 藍染が突如として首を傾ける。クアルソが仕返しとばかりに圧縮した虚弾(バラ)を無拍子で放ったのだ。もちろん藍染の眼球目掛けてだ。

 そしてそれを回避した事で生まれた隙を狙い、藍染の肩を斬り裂く。そして更に追撃しようとクアルソが藍染に迫り――空間転移によって距離を取られる。

 だが、クアルソもいつまでも藍染の空間転移に良いようにさせるつもりもなかった。藍染が空間転移したと同時に、クアルソも空間を裂いて移動したのだ。

 

「なに!?」

「何度も見せれば憶えもする!」

 

 通常空間に現れた藍染の真後ろにクアルソが現れる。そしてそのまま藍染の背後から胴体を刃にて貫いた。首を狙わなかったのは藍染が首の後ろに凄まじい硬度の障壁を張っているのを見抜いていたからだ。胴を薙ぐという選択もあったが、衝くよりも薙ぐ方が動作が大きく、藍染に防がれてしまう可能性がある。故に衝いたのだ。

 この程度で致命傷になるとはクアルソは欠片も思っていない。霊力の高い死神や(ホロウ)破面(アランカル)は普通の人間が死ぬような傷でも生き延び、動く事すら可能だ。ましてや今の藍染がこの程度でどうにかなるわけがない。

 クアルソはその一撃で満足せず、更なる追撃を加える。藍染を貫いた霊圧の刃を爆散させたのだ。

 

「ぐはっ!」

 

 藍染の胴部に大きな穴が出来た。その穴からは止め処なく血が吹き出ている。そしてそのまま大地へと落ちようとしていた。だがまだだ。まだこの程度では藍染は再生してしまう。故にクアルソは大地に落ちる藍染に近付き、その力の根源である崩玉を奪おうと手を伸ばし――

 

「おおおっ!!」

「くっ!?」

 

 崩玉に触れた瞬間に、崩玉から発生した霊圧によってその手を弾かれた。そして、藍染が霊圧の刃から極大の斬撃を飛ばしクアルソを攻撃する。

 

「ぐぅっ!」

 

 クアルソはそれを乱回転させた虚閃(セロ)で全身を護る事で防ごうとするが、あまりの威力にその防御を超えてダメージを負った。そして、即座に回道にて回復する。

 クアルソが完治した時、藍染もまた再生によってあれだけの傷を完治させていた。まさにイタチゴッコだ。実力が拮抗しており、どちらにも傷を治す術がある限り、どちらかの霊力が尽きるまでこの戦いは終わらないだろう。

 そう思い至ったクアルソは周囲を見渡す。見る影もない程に傷付いた大地がそこにはあった。尸魂界(ソウル・ソサエティ)の辺境であり、近くに誰も――一定の距離に死神がいるが――いないとはいえ、これ以上の被害は流石にまずいと言えた。地形が変わるだけならともかく、両者の力が凄すぎて尸魂界(ソウル・ソサエティ)全土に影響が出る可能性もあった。

 

「はぁ、はぁ」

「ふぅ、ふぅ」

 

 互いに息を切らせるが、数呼吸しただけで息は整う。両者共にスタミナの回復も並外れているのだ。まだまだ戦いは長く続くだろう。それはクアルソにとってあまり都合が良いとは言えない結果を生み出すことになるだろう。それを防ぐ為に、クアルソは奥の手を切ることにした。

 

「仕方ない、か」

「……なに?」

 

 クアルソの呟きは藍染にも聴こえた。だがその意味が理解出来ない。一体何が仕方ないというのか。

 

「これだけは本当に使いたくなかった。だが、そうも言ってられんようだ」

「……まだ何かあるというのか」

 

 クアルソの言葉からして、まだ隠し玉があるのだろうかと藍染は驚愕する。藍染は全力を出している。その結果が現在の拮抗状態だ。そこから更にクアルソが力を上げるとなれば――

 

 ――いや、そんな馬鹿な……まさか!――

 

 これ以上の力の増大などある訳がない。そう思った、いや、思いたかった藍染は、しかしその明晰な頭脳にてある事を思い出した。帰刃(レスレクシオン)形態の破面(アランカル)が、更にパワーアップする方法を。

 

「これを使う事になるほど、お前は強い……」

 

 それは藍染に向けた最後の称賛の言葉だった。これで終わりだとクアルソが確信する程の力を解放するつもりなのだと、藍染は理解する。そして、先程思い出した力の名を言葉にした。

 

刀剣解放(レスレクシオン)第二階層(セグンダ・エターパ)……!?」

 

 刀剣解放(レスレクシオン)第二階層(セグンダ・エターパ)。それはかつて一護を追い詰めた破面(アランカル)、ウルキオラ・シファーのみが辿り着いた境地。帰刃(レスレクシオン)の二段階目の解放。

 ウルキオラは藍染にすら見せた事がないと言っていたが、藍染を相手に隠し事をするなど藍染の部下の身では不可能に近い。それを知っていた藍染は、クアルソが二段階目の解放をするのではと思い至ったのだ。

 そして、それは正しかった。

 

「そういう名前があるのか。では次からはそう呼ぼう」

 

 クアルソはそう言って霊圧を更に高めていく。そして――

 

「させるものか!」

 

 藍染がクアルソに向けて様々な破道を放つ。黒棺、五龍転滅、千手皎天汰炮。そしてそれらが着弾するのに合わせて空間転移による斬撃を放とうとする。それ程までに、藍染は焦っていた。クアルソが強くなる事を、拮抗状態が終わる事を、クアルソが遠ざかる事を。だが――

 

「眠れ――」

 

 藍染の攻撃がクアルソに命中する前に、藍染はクアルソの口から零れた新たな解号を耳にした。そして――

 

 

 

 

 

 

「……これは」

 

 超越者の戦いを遠く離れた位置で見張っていた浦原がそう呟く。今まで止まる事なく響いていた衝撃が、突如として止まったのだ。

 そして、圧倒的な圧迫感が小さくなっていくのを感じた。未だに両者の霊圧は感じられないが、戦いが終息しようとしているのだと浦原は推測する。

 今が好機か。浦原はそう思う。どちらが勝ったのか浦原には分からない。クアルソが勝ったのかもしれないし、藍染が勝ったのかもしれない。もしかしたら両者共倒れしている可能性もある。

 だがどれにせよ、浦原はこの戦いの結末を確認しなければならなかった。それが少しでも尸魂界(ソウル・ソサエティ)を護る事に繋がるのだから。

 

 そう判断した浦原は瞬歩にて戦場へと近付いて行く。そして元隊長に恥じない速度にて、僅かな時間で戦場に佇む二人の元にやって来た。

 そして、全身から血を流し、息を切らせて喘ぐ藍染の姿を見た。

 

「はぁっ……! はぁっ……! く、クアルソ……!」

「……もう終わりにしよう藍染」

 

 対するクアルソは無傷だ。それどころか帰刃(レスレクシオン)形態を解いて元の姿に戻っている。斬魄刀と仮面の名残、そして武道着が死覇装に戻ったこと以外は然して変わっていないが。

 両者のこの結果から、浦原はクアルソが藍染に勝ったのだと驚愕と歓喜と共に理解した。

 

「まさか本当に……」

 

 本当に勝てるなんて。それが浦原の素直な感想だ。少しでも藍染を消耗させてくれたら御の字と思って連れて来た破面(アランカル)が、まさかの切り札になるとは浦原も思ってもいなかったようだ。本当に、どんな備えが役に立つか分からないものだと浦原は思う。そして、これからも千の、いや、万の備えを用意しておこうとも。

 

「まだだ……! まだ私は戦える……! クアルソ……! さ、先程の姿に戻れ……! その力を打ち砕き、私は更なる進化を遂げてみせよう……!」

 

 藍染はそう吠え猛る。まだ終わっていない。まだ戦える、と。藍染のその言葉に、願いに呼応するように、崩玉が藍染を再生させようとする。だが――

 

「な……に……!?」

 

 藍染の傷が再生する事はなかった。その結果に藍染が驚愕の声をあげる。

 

「……消耗しすぎたんだ藍染。崩玉とやらの力がどんなに凄くても、力は力だ。無限に湧き出る力なんてある訳がない。使い続ければいつかは尽きる」

「ばか、な……!」

 

 崩玉の力は確かに凄まじい。崩玉と完全に融合した藍染を殺す手段は尸魂界(ソウル・ソサエティ)にはないだろう。だが、どんなものにも限界というものはある。クアルソという藍染と伍する存在と死闘を繰り広げ、そして刀剣解放(レスレクシオン)第二階層(セグンダ・エターパ)によって藍染との力の差を広げたクアルソと戦った事で、崩玉の力が一時的にだが弱まったのだ。

 そう、一時的だ。時間が経てば崩玉は直に元の力を取り戻し、藍染に再び力を与えるだろう。今を逃せば藍染を倒す手段はなくなるかもしれない。そう判断した浦原は――

 

「ぐっ!」

「割って入らせてもらいますよクアルソさん」

 

 藍染に封印の術式を籠めた鬼道を放った。

 

「浦原……」

 

 浦原はクアルソの雰囲気の違いに気付くが、ここではそれを気にしている場合ではないと思い直す。

 

「すみません……これはクアルソさんの戦いを汚す行為っス。でも、尸魂界(ソウル・ソサエティ)の為に必要な事なんス」

 

 浦原はクアルソに藍染を殺す気がない事を見抜いていた。クアルソは藍染を気に入っていた。その強さを、その精神を、その在り方を。誰にも理解されない孤高の王を理解し気に入っていたのだ。だから、どうにかして藍染を止めたかった。止めて共に歩みたかったのだ。

 だが、尸魂界(ソウル・ソサエティ)側としてはそれをされては堪ったものではない。ここで藍染を逃せばいつまた同じ事を行われるか分かったものではない。しかも藍染を倒す程の破面(アランカル)も同時に野放しになってしまう。どちらか片方でも厄介に過ぎるというのに、両方ともなると尸魂界(ソウル・ソサエティ)のキャパシティを遥かに凌駕するだろう。

 

「う、浦原喜助……!!」

 

 藍染の全身が再び封印の楔に覆われていく。黒崎一護との戦いで消耗した時と同じ封印だ。ならばこの程度、あの時と同じように砕いてやろうと藍染が力を籠める。だが――

 

「な、何故砕けん……!」

「それはあの時の封印と似て非なるもの。あの封印を改良したものっス」

「改良、だと……!」

 

 そう、浦原は藍染に封印――九十六京火架封滅――が破られてからここに至るまでの間に、九十六京火架封滅を改良していたのだ。先程と同じ封印と思っていた藍染では、改良された九十六京火架封滅を打ち砕く事が出来なかった。

 消耗してさえいなければ容易く破壊できただろう。だが、それは意味のない話だ。消耗しているからこそ、浦原は改良した九十六京火架封滅を藍染に撃ち込んだのだから。

 

「おのれ……おのれおのれ! 浦原喜助! 邪魔を……! 貴様如きが邪魔をするな! 私とクアルソの間に割って入るなど――ッ!」

 

 藍染が己の思いの丈を籠めた叫びを浦原に叩きつける。ようやく見つけた理解者を、孤独を癒せる好敵手との時間を、貴様如きが邪魔をするな、と。

 だが、その叫びも最後まで言い放つ事が出来なかった。封印は更に進み、藍染の全身を更に覆っていく。

 

「く、クアルソ……! 私は……! まだ――」

 

 藍染がクアルソに向けて言葉を放つ。まだ戦える。まだやれる。だから、私を置いていくな、と。

 言葉にならぬその想いはクアルソに届く。だが、クアルソは藍染に手を伸ばしつつ――完全に封印された藍染を見て、思わず目を瞑った。

 

 こうして、尸魂界(ソウル・ソサエティ)虚圏(ウェコムンド)、そして現世をも巻き込んだ大戦が終局を迎えた。

 

 




 大変! ギャグが息をしてないの!!

 マルシアーレスはスペイン語で武道という意味。武神とか武術の神とか、そういった言葉でいい感じのがなかったので、武神と書いてマルシアーレスと読む事にしました。まあ蝙蝠のスペイン語(ムラシエラゴ)を黒翼大魔と訳しているからいいよね!

 なお、二段階目の解放にウルキオラは解号を必要としません。卍解も同じだし、そういうものなんでしょう。でもクアルソは完全な力を使う為に必要としています。一種の自己暗示みたいなものです。まあ戦闘描写は省きました。二段階目の姿はまだ秘密。女じゃないよ。

 藍染様が拗れました。どうしてこうなった?

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