どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ
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NARUTO 第七話

「ふっ!」

「ちぃっ!」

 

 懐へと接近しようとするアカネに対して自来也は忍法・針地蔵にて自分の髪の毛を鋭い針に変化させ、それで全身を覆う事でアカネに触れられるのを防ぐ。

 日向の体術は触れるだけで対象の経絡系を攻撃し内臓に直接ダメージを与える防御不可能な柔拳だ。触れられたが最後、自来也と言えどダメージは免れられない。

 ならば初めから接近戦は捨てるまでだった。触れられさえしなければ柔拳は発動しない。中距離から遠距離を保ち忍術などの遠距離攻撃にて仕留める。それが日向への一般的な対応法だ。

 初手を針地蔵にて防ぎ、次に距離を取る。それが自来也の選択だった。

 

 だが、その選択がすでに間違いだった。

 

「はぁっ!」

「ぐふぉおぉっ!?」

 

 アカネは鋭い針の山に何ら躊躇する事なく拳を叩きこんだ。普通ならその拳は無数の針によってズタズタになっているだろう。

 だが針山に叩きこんだ拳には傷一つ付いていなかった。そればかりか針地蔵にて防御していた自来也が吹き飛んでいく始末だ。

 

(な、なんちゅう馬鹿力! こりゃあ綱手と同じ攻撃か!)

 

 三忍の綱手は医療忍術のスペシャリストだ。そして医療忍術には非常に高度なチャクラコントロールを必要とする。

 そのチャクラコントロールを応用し、攻撃する箇所にチャクラを集中する事で攻撃力を跳ね上げる技術がある。それを綱手は得意としていた。

 綱手がその気になれば指一本で大地を割る事も出来るほどだ。拳を叩き込めば大地は広範囲に渡って砕け散るだろう。

 その綱手と遜色ないレベルの攻撃をアカネは放っていたのだ。もし針地蔵がなくまともに今の一撃を受けていれば、それだけで勝負は決していただろう。

 アカネの拳が傷一つ付いていないのもチャクラを集中して防御力を高めていた為だった。

 

(こうして吹き飛んでいると綱手に全力で殴られた時の事を思い出すわい……)

 

 若干のダメージを受けて勢いのままに吹き飛ばされながら、自来也はかつての死の恐怖を思い出す。

 若かりし頃に女湯の綱手の覗きをした事がばれて綱手から全力で殴られ、両腕と肋骨六本の骨折及び内臓破裂という重傷を負い死の境をさまよった時の事を。

 もしこれで死んでいれば三忍として最も最低な死に方をした忍として別の意味で伝説になっていただろう。生きていて良かったものである。

 

「それにしても……」

 

 優に100mは吹き飛んだか。ようやく地面に降り立った自来也はある疑問をアカネにぶつけた。

 

「お前本当に日向か!? 日向が剛拳なんぞ使うんでないわ!」

 

 剛拳とは肉体を用いて直接攻撃にて対象の外部を破壊する攻撃。一般的にはこちらの攻撃方法が肉体による直接攻撃では基本だろう。内部破壊を主とする柔拳の方が珍しいのだ。

 だがその珍しい武術を基本戦術として取り入れているのが日向なのだ。白眼との相性も非常に良く、日向の長き歴史に渡って練り続けられた技術と言えよう。

 言うなれば日向の誇りの一つと言えるのが柔拳だ。だというのに思いっきり剛拳を放ってくるアカネに自来也も驚愕だった。

 

「失礼な。柔拳も剛拳も等しく敵を倒す為の技術。状況によって使い分ける事も必要でしょう。そもそも、日向が剛拳を使って何が悪い!」

「お前に日向の誇りはないんかのぉッ!?」

「…………もちろんありますよ?」

 

 絶対ない。そう確信した自来也であった。

 

「ええい! まあこうして距離を取れたから良しとしよう! ここからが本番よ! もはやお前を女子供とは思わん! 全力で相手をしてやろう!」

「わたし、かよわい、おんなのこだよ?」

「やかましい! どこの世界に人間を100mも殴り飛ばすか弱い女子(おなご)がおるっ!?」

 

 自来也は極当たり前の正論を吐きながら指を僅かに噛み切った。

 これは口寄せの術を使用するのに必要な行為である。血を地面や巻物などに擦り付ける事で術式が発動するのだ。もちろん必要な印と相応のチャクラを必要とするが。

 そして自来也が口寄せしたのは、巨大なガマ蛙であった。流石は自分の事を蝦蟇使いというだけの事はあるだろう。口寄せされたガマの大きさは50mほどもあった。

 

「……ガマブン太か」

「ブン太まで知っとるとはのォ……」

「なんじゃい自来也ァ! 久しぶりにわしを呼んだと思うたらこないなガキを相手にさせる気かワリャ!」

 

 煙管を咥え、腹にはサラシを巻き、法被を着て、そしてこの言動。まさにヤクザそのものと言えるこの赤い巨大ガマこそ、自来也が契約しているガマでも最強最大のガマ蛙、ガマブン太である。

 扱い辛い性格をしており、ガマブン太を口寄せ出来るのは現状自来也以外にはいない。それくらい気位が高いのだ。気に入った人間でないとその頭の上には乗せようとはしない。

 だがその力は確かである。巨体故の破壊力、水遁系の術、ガマ特有の生物としての力などを有しており、全力で闘えば地形が変わるほどだ。

 

「気を抜くなよブン太! 見かけで判断すると痛い目を見るぞ!」

「ああん!? ……ん? あいつ何処かで見た事ありゃせんか?」

 

 自来也の言葉にアカネを注意深く確認したブン太。そこでブン太はアカネに対して既視感を覚えた。

 見た目も多少はある。だがそれ以上にアカネのチャクラをかつて何処かで感じた覚えがあるのだ。

 

 確かにブン太とアカネは面識があった。正確にはブン太とヒヨリに面識があったというべきか。

 ブン太は妙木山と呼ばれる秘境に住むガマであり、この秘境にすむガマは仙術と呼ばれる特殊な力を使用する事が出来る。

 仙術とは自然エネルギーを利用した術の事だ。自然エネルギーを取り込む事で感知能力が高まるのである。

 

 今はまだ仙術チャクラ――本来のチャクラに自然エネルギーを加えたもの――を練っていないが、それでも自然エネルギーを感じ取れるブン太は感知能力もそれなりに高い。

 そんなブン太がアカネのチャクラに反応している。つまりはかつて感じた事のあるヒヨリと同質のチャクラに反応しているという事だ。

 まだアカネがヒヨリである事に気付いていないが、いずれ気付く可能性もあった。

 まあアカネは自来也には自分の正体を教えるつもりなので何の問題もなかったが。

 

「ふふふ、ブン太が相手なら私も口寄せをしましょう!」

「なに!?」

「はん! どがいな相手じゃろうがわしの敵じゃあないわ!」

 

 アカネも自来也と同じ様に指に傷を作り、そして印を組んで……莫大なチャクラを練り込む。

 

「な、なんというチャクラ……! あやつは人柱力か何かか!?」

「チャクラに尾獣の気配はないわい! ありゃああのガキだけのチャクラじゃあ!! あない馬鹿でかいチャクラ練りこんで何呼ぼうっちゃうんじゃあ!?」

 

 自来也とブン太が驚愕するほど莫大なチャクラを練り上げて口寄せされる物。それは一体何なのか。

 大地に手を置く事で口寄せの術式が広がる。そして莫大なチャクラを消費してある生物が口寄せされた。

 

「……あれ? 綱手様ではないのですか?」

 

 それはとても可愛らしい声だった。そして、とても小さかった。

 それは、人間が一般的にナメクジと呼んでいる生き物で、人間が一般的にナメクジと認識出来る大きさだった。具体的には小指くらいの大きさである。

 

「……」

「……」

「……あ、わりゃカツユか?」

「あらブン太さん。お久しぶりですね」

 

 口寄せされたのはカツユ。妙木山と同じく秘境と呼ばれる湿骨林に住む巨大ナメクジ……そのほんの切れ端の様な分体であった。

 ちなみにブン太とカツユの会話から分かるように、二人――二匹?――は知り合いである。結構古い仲であった。

 さて、口寄せされたカツユは召喚主であろうアカネへと向き直る。小さなナメクジが一生懸命に体を方向転換している様はどこか可愛くもあるかもしれない。

 

「あのー、あなたが私を口寄せしたのですか?」

「……はい」

「この口寄せ……私を口寄せ出来て、かつこの程度の大きさしか口寄せ出来ない……まさかあなたは!」

「い、言わないでぇ……」

 

 どうやらアカネの正体に気が付いた様子のカツユ。ヒヨリとカツユが口寄せ契約を結んでいたのでそこから気付くのも当然の帰結である。

 ちなみに正体に気付いたのはアカネがほんの切れ端の様な小さな分体しか口寄せ出来なかったからだ。そう、かつてのヒヨリもそうだったのである。

 そう……ヒヨリは、アカネは口寄せが……というより時空間忍術全般が非常に苦手であった。もう完全に適正がなかった。

 アカネとしてはヒヨリの肉体ではないのだから適正も変わっているのではと思って試しに口寄せの術を使ってみたのだが、結果はご覧のあり様であった。

 ちなみにアカネが言わないでと言っているのは正体について言わないでほしいではなく、この程度の大きさしか口寄せ出来ないという点である。

 

「どうして生きているのですかヒ――」

「解!」

 

 口寄せの術を解除したと同時に、白い煙と同時に音を立ててカツユ(超ミニ分体)は湿骨林へと還っていった。

 

「……」

「……」

「……」

 

 三者三様の意味が籠められた沈黙が場を支配する。

 訂正しよう。三者二様であった。一人と一匹の思いは同じだからである。

 

「……おい。こがいな阿呆がほんまに強いんか?」

「……ワシも自信がなくなってきた。さっきのは幻術でも見せられてたのかのォ……」

「……私にだって、苦手な事くらい……ある」

 

 扉間やミナトが得意としていた飛雷神の術や、様々な契約動物を呼び出せる口寄せの術などの時空間忍術の事をアカネは気に入っていた。

 ヒヨリ時代から空いた時間があればそれはもう練習していた。そうして会得出来たのが、馬鹿でかいチャクラで適正のなさを強引に振り切ったカツユとの口寄せである。

 それでも微々たる大きさのカツユしか呼び出せないのだが。ちなみに三忍の一人である綱手は数十メートルはあるカツユ(同一ナメクジ)を呼び出す事が出来たりする。

 

「さあ勝負の続きと行きましょう!」

「おお! 掛かって来いひよっこがぁ!」

「優しいのぅ自来也。見なかった事にしてやるんかい」

 

 あまりの哀れさに取り敢えず先の事を見なかった事にしてあげた自来也である。やはり彼はフェミニストなのだ。

 

「やかましいブン太! この屈辱を怒りに変えてお前達にぶつけてやる……!」

「完全に逆恨みだのぉ……。まあ良い! ブン太! あ奴から離れるように動いてくれ! 綱手ばりの馬鹿力で殴られるでのォ!」

「なんじゃいわしゃただの足がかりかい! 振り落とされんようにしろよこの阿保がぁ!」

 

 自来也がブン太を口寄せしたのは単純な戦力としてではなく、アカネを近づかせないようにする為だった。

 巨大なガマ蛙が移動するのと、人間が移動するのでは当然歩幅が違い過ぎる。しかもブン太は蛙らしく跳躍が得意であった。

 一度の跳躍で一気に距離を取り、遠距離から自来也が攻撃をする。

 

――蝦蟇油弾!――

 

 自来也の口から可燃性の高い油が一気に放出される。当たれば体は油で(まみ)れ動きを多少なりとも阻害されるだろう。

 そして油で塗れた体は火遁の術で焼き払われる事になる。蝦蟇油弾と火遁の相性は抜群だ。その火力は骨も残さない程だ。

 まあ当たればの話だが。遠距離からの攻撃は確かに近接主体の忍には有効だが、距離があれば攻撃は避けやすくなるものだ。

 ましてや相手は日向ヒヨリの生まれ変わりのアカネだ。遠距離攻撃をアカネに当てたいならば超広範囲の術か超高速の術を使わなければならないだろう。

 

 蝦蟇油弾を躱したアカネは自来也に接近せず、遠距離戦に付き合う事にした。

 日向にも中・遠距離用の術はある。それに接近戦はヒアシとヒザシを相手に十分な修行を積んでいた。ならば遠距離戦もたまにはこなすかというのがアカネの考えだ。

 修行相手にされている自来也としたらふざけるなという考えかもしれないが。

 

――八卦空掌!――

 

 八卦空掌。掌からチャクラによる真空の衝撃波を放つ柔拳の遠距離攻撃である。白眼を用いれば遠方の敵の急所を的確に射抜く事も可能だ。

 威力に関しては個人個人で違う。要は籠められたチャクラとチャクラを放出する技術によって威力が変化するわけだ。

 アカネの威力に関してはまあ自来也の反応を見れば分かりやすいだろう。

 

「ぬおお!?」

 

 自来也はブン太の上で思いっきり横っ飛びする。そして自来也のすぐ真横を八卦空掌が通り過ぎていった。

 その時自来也の耳に入った音は大砲の弾でも横切った様な音だった。

 ふと自来也が後ろを見ると大きな雲にどこか不自然な、しかし綺麗な大穴が空いていた。どうやら八卦空掌の軌道線上にあった雲のようだ。

 

「……殺す気か!」

「ははは。三忍ともあろうお方が何を仰る。死にはしませんよあれくらいなら。多分威力なら綱手の一発の方が上ですよ上。だから何とかなりますって。私はあなたを信じています!」

「そんな信頼いらんわ! ブン太ァ! 油だ!」

「もうお前加減する気ないじゃろ? まあええわい! こいつ相手に加減の必要はないじゃろうからなぁ!」

 

 ブン太が自来也の要求に応える。今から二人がする合体忍術は非常に強力かつ超広範囲の術だ。一介の忍にする攻撃ではないだろう。

 だがまあここまで来てアカネを一介の忍と判断するほど自来也は馬鹿ではない。

 ちなみにブン太もどうやらアカネの正体に気付いたようだ。これほどまでにチャクラを嫌というほど感じさせられたら気付きもするものだ。

 自来也ももしかしたら気付いているのかもしれない。そうでなくてはこの様な術を使いはしないだろう。……多分。

 

――火遁・蝦蟇油炎弾!!――

 

 小さな町程度なら軽く飲み込む程の巨大かつ強力な火遁がアカネを襲う。

 ブン太の口から出た大量の油と自来也の火遁が合わさった結果だ。

 その迫り来る死の炎に向かって、アカネは両手を突き出した。

 

――八卦空壁掌!――

 

 それは両手で放たれる八卦空掌だ。だが並の使い手では個人で使用する事は叶わず、二人以上の日向一族が同時に八卦空掌を放つ事で八卦空壁掌となる。

 これを個人で放つ事が出来る日向はアカネとヒアシとヒザシの三人だけだ。

 そして威力は八卦空掌の倍、どころではない。両手で放つ事でチャクラの放出量を増し、さらに放出面積を広げる事で術の範囲も大きく広げる事が出来る。もちろん面積を狭めて貫通力を上げる事も出来る。

 

 蝦蟇油炎弾と八卦空壁掌がぶつかり合う。範囲と量では蝦蟇油炎弾が、面積辺りでの威力は八卦空壁掌がそれぞれ勝り、やがて二つの術は互いに相殺し掻き消えた。

 

「ぬぅ、これすらも防ぐか! 流石は!」

「!? おいぃ! 奴はどこじゃあ!?」

「なに!?」

 

 ブン太の言葉に驚き炎が消え去った大地を見るが、アカネが元いた場所には誰もいなかった。

 そればかりか、どれだけ探そうともアカネの姿はない。

 

「ブン太! 仙術で探れ!」

「もうやっとるわい! じゃがあのガキのチャクラをとんと感じん! どないなっとるんじゃい!?」

 

 自然エネルギーを取り込み仙術チャクラを練り上げていたブン太は、仙人モードで感知能力を大幅に上げていた。

 だがそれでもアカネのチャクラを捉えることが出来ないでいた。気配も微塵も感知出来ない。一体何処にいったというのか。

 そんな二人の疑問はすぐに解決した。

 

「っ!?」

「な、なんじゃとぉ!?」

 

 二人がアカネに気付いた時には、すでにアカネは自来也の後ろを取ってそっと掌を自来也へと当てていた。

 アカネは八卦空壁掌を放ってからすぐに炎を目眩ましに上空へと跳躍したのだ。そしてチャクラを感知出来ないようにかつての能力である【天使のヴェール】を発動させた上でチャクラと気配を消している。これで仙人だろうが何だろうがアカネのチャクラを感知する事は出来ない。今のアカネを捉えるには目視か、アカネの気殺以上の知覚能力を有するしかなかった。

 

 柔拳使いに触れられている。それを意味する所を理解出来ない自来也ではない。

 

「……ワシの負けですのォ」

「ええ。私の勝ちです」

 

 素直に負けを認めた自来也を見て、そっと手を下ろしてアカネは微笑む。

 これにて、近くの街を大騒ぎさせた傍迷惑な勝負は終わりを告げる。

 巨大蝦蟇や雲を貫く衝撃波や蝦蟇よりも巨大な炎などを放っておいてばれないわけがなかった。

 

 ……ちなみにそれを知った二人は脱兎の如く別の街へと逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんでした!」

 

 今、街道から僅かに逸れた森の中で一人の大男が少女に対して土下座していた。

 大男の名は蝦蟇使いの仙人・自来也。そして少女はもちろん日向アカネであった。

 

 どうしてこうなったか。それはまあ、アカネの正体に自来也が気付いたからに他ならない。

 というか、実は先の戦闘中に自来也はアカネの正体がヒヨリである事には気付いていた。と言っても気付いたのはかなり後半だったが。

 見た目が違い過ぎる――老女と少女――し、そもそもヒヨリが死んでいるのでアカネがヒヨリであるとは思考の端にもなかったのだ。

 だが流石にあれだけ闘えばそのチャクラからアカネがヒヨリである事に気付いたのだ。

 

 自来也にとってヒヨリとは言うなれば木ノ葉の下忍にとっての自来也と同じだ。

 自分が子どもの頃から三忍と謳われ今の木ノ葉の礎を築いた伝説の忍相手に、小娘だのひよっこだのと言い放ったのだ。まあ(こうべ)を垂れもしよう。

 

「気になさらずに。今の私は所詮は礼儀知らずな小娘のひよっこ。三忍にして斉天(さいてん)敵わぬ白髪童子蝦蟇使(はくはつどうじがまつか)い、泣く子も黙る自来也様にその様に畏まられると恐れ多いですよ」

 

 ニヤニヤしながら心にもない台詞を吐くアカネ。完全に自来也の反応を楽しんでいるようだ。歳を取ると性格が悪くなるのかもしれない。

 

「し、しかし、その件に関してはワシとて言い分がありますぞ。ヒヨリ様は確かに亡くなられたはず。それがどうして生きて、しかも若く別の肉体でいるのですか?」

 

 これに関しては自来也も詮索しなければならない重要な件だ。もしかしたら他者の肉体を乗っ取るという非常に凶悪にして外道な術を用いて今も生き永らえているのかもしれないのだ。

 いくらヒヨリが木ノ葉の伝説とは言え、その様な外道に落ちれば里の為にも倒さねばならなくなる。今までのアカネの言動に怪しいモノを感じていないが、だからと言って油断出来る相手ではない。

 

 そんな風に自来也に怪しまれているアカネはと言うと、何故か遥か過去に外道な事をしたような気になって心にちくちくと刺さる物を感じていた。

 まあ身に覚えはないので気のせいだろうと思い、自来也の疑問に答える。無知とは時に己を助ける術となるのだ。何もかも知ればそれで良いという物でもない。

 

「これは私がかつて作り出した術による結果ですね。言うなれば新たに生まれ変わる術、輪廻転生を果たしたわけです。だから正真正銘この体は私の生まれ持った体ですよ」

「なんと! 輪廻転生……その様な術を……。ッ!? もしやヒヨリ様は輪廻眼を持っておられるのですか!?」

 

 輪廻転生と輪廻眼。輪廻という共通の言葉を持つそれに自来也はもしやと勘ぐる。

 輪廻眼とは、白眼・写輪眼と同じ三大瞳術の最後の一つにして最も崇高な瞳術と言われている。

 他の二つの瞳術と違い血継限界として引き継がれる物ではなく、その開眼方法は明らかになっておらず、そもそも誰が開眼するかも知られていない伝説の瞳術だ。

 だが自来也はその輪廻眼に見覚えがあった。もっとも、その持ち主も今では死んでしまったという話を自来也は耳にしたが。

 

「いえ、輪廻眼なんてとんでもない代物は持ってませんし、私でも今まで見た事ありませんよ。この術は私オリジナルの私にしか使用出来ない秘術です。瞳術や血継限界ではありませんよ」

「……そうですか。しかし、生まれ変わりとはまたとんでもないですのォ。あのヒヨリ様がこんなピチピチギャルになるとは……」

 

 すでに老境の身であったヒヨリを思い出しながら今のアカネと見比べ、どこかいやらしい目付きをしている自来也。

 誰であろうと変わらないその姿勢には一貫した物を感じる。まさに(おとこ)である。

 

「剛と柔。どちらがいいですか?」

「空が青いですなぁ。お、鳶ですぞ」

 

 アカネの脅しを聞いて空を飛ぶ鳶を見ながらそう言ってすっとぼける自来也。

 

「全くあなたは。まあいいです。私の事はヒヨリではなくアカネと呼んで下さい。もちろん敬称も敬語も必要ありませんよ。今の私に肩書きなど下忍くらいしかありませんからね」

「しかし、そう言うわけには……」

 

 自来也としては先人にして憧れでもあるヒヨリにその様な態度を取る訳にはと思っている。

 だがアカネとしては自来也程の忍に畏まられる所を誰かに見られると色々と勘ぐられるし、フレンドリーに接してくれた方が色々とやりやすいというものだった。

 

「私は気にしないので、あなたも気にしないで下さいな」

「そうですか? それじゃあ普段通りにするかのォ。改めてよろしく頼むぞアカネよ」

 

 自来也の順応性の高さは三忍一なのかもしれない。この態度の変化には流石のアカネも驚いていた。

 

「え、ええ。それで結構です」

「いやぁ、元々敬語は苦手でのォ。そう言ってくれると助かるわい」

 

 かつては里の狂気と恐れられた事もある自来也である。そんな男が敬語を得意とするわけがなかった。

 まあ流石の自来也も人によっては敬語を使うのだが、相手が使わなくて良いと言うなら遠慮なく甘えるだけだった。

 

「ところで、色々と疑問は解けたが……あの口寄せはどういうことなんだ?」

「……恥ずかしながら、私は時空間忍術が苦手でして」

「それでもアレはないぞ? どうしてあれだけのチャクラを練り込んであの程度のカツユしか呼び出せんのかさっぱり分からんわい」

 

 自来也としては最早時空間忍術の適正がないときっぱり言われた方が納得が行くレベルであった。

 なまじわずかばかりでもカツユを口寄せ出来た事から全く適正がないわけではないだろうが、通常のチャクラでは恐らくカツユの欠片たりとも口寄せ出来ないだろうから、アカネのチャクラが膨大でなければ確実に時空間忍術の適正は零という烙印を押されていただろう。

 

「なにを! 私がその気になればもっと大きなカツユを口寄せ出来るという所を見せてあげましょう!」

「お、おい?」

 

 そう言ってアカネは四方に結界を作り出す。しかもその結界は多重結界となっていた。これならアカネが全力でチャクラを練っても結界は壊れる事もなく外に漏れる事もないだろう。

 そう、全力でチャクラを練っても、だ。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「お、おお! ちょ、ちょい! ちょい待て! アカネ! いや、アカネ様! あんた国でも破壊する気ですかいのォ!?」

 

 自来也が慌てて敬語になり、慄いてそう口走る程に馬鹿げたチャクラをアカネは発していた。

 あまりのチャクラに空間が歪んで見えるほどだ。結界も相当なレベルの結界を多重に展開しているというのに軋んでいるようだ。

 そしてアカネは狼狽する自来也の言葉など気にもせずに更にチャクラを高めていった。そして、カツユを口寄せした。

 

「口寄せの術ぅぅ!」

 

 音と共にカツユが現れた。その大きさは先のアカネの口寄せとは比べ物にならないほどだ。

 まさにナメクジと牛くらいの差があるだろう。

 

「はぁ、はぁ、よし!」

「ああ、やはりヒヨリ様! 姿は違えどあなたはヒヨリ様ですね!」

 

 口寄せされたカツユは召喚主であるアカネに擦り寄って問い詰める。

 だがアカネはそれどころではないようだ。どうだ、と言わんばかりに胸を張って自来也に向けてドヤ顔を見せていた。

 

「確かにでかくなっとる。ただ……同じチャクラを綱手が使えるなら、恐らく湿骨林にいるカツユ全てを口寄せしてなお余っていたであろうなぁ」

 

 だがまあ自来也の感想としてはそんなものだった。

 湿骨林にはカツユの本体が存在し、綱手をして口寄せ出来るカツユの大きさは本体の十分の一にも満たない大きさだ。

 アカネの口寄せしたカツユなど数千分の一あるかどうかが良い所だろう。

 

「……私に時空間忍術を教えてくれませんか?」

「……ワシにだって、出来ない事くらい……ある」

 

 三忍であり四代目火影を育てた自来也も、あれだけのチャクラを籠めておきながらこの程度の口寄せしか出来ない相手に時空間忍術を教え込むのは不可能というものだった。

 

「……そろそろ私にも説明してもらえないでしょうか?」

 

 カツユの寂しげな声が辺りに響いた。

 

「そうでしたね。これは他言無用ですよカツユ」

 

 アカネは忍術・かくかくしかじかを使った。

 まるまるうまうま。カツユは全てを理解した。

 

「なるほどそうだったのですか。ヒヨリ様……いえ、アカネ様と再び会えて嬉しいです」

「私もですよカツユ。再びこうしてあなたをベッドにして横になる事が出来るとは、嬉しいですねぇ」

 

 アカネは牛ほどの大きさのカツユの上に乗って寝転がっていた。

 これが意外とプニプニして柔らかくて気持ちいいらしい。アカネ(ヒヨリ)談であるので諸説あり。

 

「シュールな光景だの……」

 

 傍から見たら巨大ナメクジに埋まりかけている少女である。ちょっとしたホラーだろう。自来也の感想も(むべ)なるかな、である。

 

「いつまでもこうしていたいですが、口寄せには制限時間がありますからねぇ……私の全力で呼べるのがこの大きさですから、そう何度も呼ぶ事は出来ませんし……」

「アカネ様……」

 

 口寄せの術で呼び出された口寄せ動物は一定時間になると元の場所へと戻るのだ。

 アカネとカツユは別れを名残惜しそうにしながら二人……一人と一匹で抱き合っていた。

 

 そうしてカツユが湿骨林へと戻った後、アカネと自来也は本題へと戻った。というか、閑話が長すぎである。

 

「というわけで、大蛇丸の情報について私が知る事に異論はありませんね?」

「もちろん」

 

 アカネの実力を嫌というほどに知った自来也だ。今更大蛇丸を追うなとは言えなかった。

 それに九尾を狙う者を追えば自然と大蛇丸にも行きつくのだ。自来也は今まで自分で集めた情報からその可能性が高いと見ていた。

 そうして自来也は大蛇丸に関して、そして大蛇丸が所属する組織に関して知ってる限りを話した。

 

 

 

「暁……ですか」

「うむ。ワシも奴らに関しては多くは知らぬ。知っているのは各地で様々な術を集めている事と、組織の構成員の殆どがビンゴブックに載ってる一癖も二癖もあるS級犯罪者というくらいだ」

「その中に大蛇丸が?」

「そうだ。そして奴らの狙いは恐らくだが――」

「九尾……いや、九尾を含む尾獣か」

「……そうワシは睨んでおる」

 

 それが自来也の知る暁の全てであった。あまりにも少なく、だと言うのに危険性を感じる情報だ。

 暁が何の為に各地から危険な術を集めているかは分からないが、犯罪者集団のやる事が世界平和であるはずがない。

 アカネも自来也も当然そう考えている。……実は暁には世界平和を目的とする人物も何人かいたりするのだが、まあ方法が方法なのでこの二人が受け入れる事はないのだろう。

 

「なるほど……それで、暁のアジトは?」

「いや、そこまではワシも……もし知っとったら?」

「そりゃさっさと襲撃して潰しておこうかと」

 

 面倒な事は纏めて終わらせるに限る。力一杯にそう言うアカネに呆れるしかない自来也であった。

 

「無茶苦茶な……大蛇丸が下に付くほどの組織だぞ? まあ奴の事だから何か目的があるんだろうが。それでも大蛇丸が一構成員という豪華千万な組織だ。その目的も知らずに事を進めるといくらお主でも痛い目を見るやも知れんぞ?」

 

 などと言う自来也だが、言っておいて何だがこの化け物に勝てる奴っているのかのぉ? 等と考えていた。

 まあ、お前実は尾獣じゃねぇの? というチャクラを見せられればそうなるかもしれない。

 

「うーん。そうですね。急いては事を仕損じるとも言うか。自来也もいる事だし、じっくり暁について調べるとしよう」

「え? ワシも一緒になのか?」

「え? それはまあ、あなたが一緒なら色々と捗るでしょう? 一人より二人とも言いますし。敵も複数いるようですし。あなた強いですし。修行相手に持ってこいですし」

「最後ちょっと待て」

「さあ行きますよ! 取り敢えず次の街で英気を養いましょう。全力でチャクラ練ったから疲れましたし」

「人の話を聞かんかぁ!」

 

 こうしてアカネと自来也の珍道中は始まったのであった。

 道中自来也の実力が否が応にも伸びた事は言うまでもない。








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