どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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BLEACH 第二十一話

 黒崎一護は死神の力を取り戻してから、時折現れる(ホロウ)を退治して空座(からくら)町を護りつつ、高校生としての日常を謳歌する日々を送っていた。

 新たに空座(からくら)町担当となった二人の死神と出会い、その片割れの死神の情けなさに少しばかり心配する事もあったが、概ねその生活に変わりはなかった。

 護る力を取り戻した事で、一護は以前よりも活き活きと過ごす事が出来ていた。その一護の姿に仲間や親友達は安堵し、彼と共に日常を過ごしていた。

 だが、その日常を崩す危機が、現世ではなく尸魂界(ソウル・ソサエティ)にて起こっていた。

 

 

 

 現世で瀞霊廷の異変に一番に気付いたのはもちろん浦原喜助だった。浦原は以前クアルソに忠告された事を頭の片隅に常に置いていた。そして、念の為に幾つかの手を打っていた。

 旧知の仲である技術開発局員に連絡用の機器を渡しておき、瀞霊廷や尸魂界(ソウル・ソサエティ)に何らかの異常があれば連絡するように頼んでおく。これで何かあれば連絡が入るだろう。

 更に念の為、尸魂界(ソウル・ソサエティ)にとある装置を設置しておいた。その装置は常に微弱の霊波を浦原の持つ機器に発信していた。万が一、尸魂界(ソウル・ソサエティ)と現世の通信が妨害された場合、それを直に察知する為だ。つまり技術開発局員からの通信が妨害される恐れを考えていたのだ。

 

 そして浦原が店番をしている時、その機器が鳴り響いた。この反応は通信が途絶えた時に起こるものだ。つまり、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に何かしらの異常が起きたという事である。

 

「……涅隊長の妨害ならいいんスけどね」

 

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)に秘密裏に設置していた装置が涅マユリに発見され、破壊されたとかなら良いだろう。結局は身内同士でのごたごたで終わるだけだ。

 だが、それは希望的観測に過ぎないと浦原は気を引き締める。そして確認の為、浦原商店の地下に潜りそこで穿界門を開き――

 

「――ッ!」

 

 突如として穿界門の奥、断界から自身に向けて降り注ぐ光の雨を察知し、その場から離れた。

 そして自身に突然の攻撃を仕掛けた襲撃者を見て、冷や汗を流しながら浦原は話し掛ける。

 

「やれやれ……ちょっとせっかちじゃないっスかね? ……滅却師(クインシー)さん?」

 

 浦原の言葉を聞きながら、襲撃者は穿界門を通って現世へと姿を現す。

 

「襲撃早々私の正体に気付くとは。流石は浦原喜助。陛下が仰っていた特記戦力の一人なだけありますねぇ」

 

 滅却師(クインシー)。浦原は襲撃者に対してそう言った。そう、浦原を襲撃した男の正体は滅却師(クインシー)だった。

 更に言えば、滅却師(クインシー)の中でも幹部格の戦闘要員。星十字騎士団(シュテルンリッター)の一人、“J”の聖文字(シュリフト)を与えられた者。監獄(ザ・ジェイル)のキルゲ・オピーであった。

 

「浦原喜助。このタイミングで穿界門を開いたという事は、どうやら貴方は瀞霊廷の異変を察知したようだ」

「ッ!」

 

 やはり滅却師(クインシー)が瀞霊廷に仕掛けて来たのかと浦原は確信する。こうして自身を足止めしている以上、瀞霊廷はかなり危険な状態にある可能性が高いと浦原は予測した。足止めに戦力を回す余裕が敵側にはあるということだ。

 瀞霊廷の危機を打破する為に多くの戦力が必要だろうと浦原は考える。現世にいる戦力だと黒崎一護がその筆頭だ。黒崎一護の力は現世と尸魂界(ソウル・ソサエティ)の中でもトップクラスであり、その潜在能力は計り知れない。幾度も困難を乗り越えてきたその実力は確かなものがある。

 一護の協力を得られれば滅却師(クインシー)打倒の大きな力となってくれるだろう。そして、一護の性格上間違いなく協力は得られるだろう。

 

 だが、そんな事は当然キルゲも理解している。なので浦原が一護を呼ぶ前に始末しようと動き出した。

 

「貴方は非常に厄介なので……黒崎一護が来る前に速やかに死んでもらいますよう! 浦原喜助!!」

「くっ!」

 

 キルゲが浦原に向けて再び光の矢を放つ。滅却師(クインシー)の基本的な攻撃方法である神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)だ。現世に残った石田家の滅却師(クインシー)は弓のみを使いそれを誇りとしているが、見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)に潜んだ滅却師(クインシー)達は更なる強さを得る為に弓以外の武器も使用する。キルゲもまた同様であり、手にした剣から神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を放っていた。

 

「破道の八十八! 飛竜撃賊震天雷砲!」

 

 光の矢を躱した浦原は、即座に反撃の一撃として上級破道である飛竜撃賊震天雷砲を詠唱破棄にて放つ。掌から放たれたその一撃は、確実にキルゲへと命中した。

 

「なっ……!」

「無駄です。所詮は悪逆なる死神の技。聖なる執行者である私に通用する筈もない」

 

 だが、浦原の攻撃はキルゲに何の痛痒も与える事はなかった。星十字騎士団(シュテルンリッター)が修めている防御術、静血装(ブルート・ヴェーネ)で防ぎ切ったのだ。

 

「さあ、これで終わりです!」

 

 浦原が自分の能力の対抗策を編み出す前に一気に勝負を決めようと、キルゲが浦原に攻撃を仕掛けようとする。だが、その行動は新たな乱入者によって妨げられた。

 

「!?」

「悪りぃな浦原さん。緊急っぽかったから壁を壊させてもらったぜ」

「いえいえ。助かりましたよ黒崎サン」

 

 そう、新たな乱入者は黒崎一護だった。一護の出現にキルゲは驚愕する。あまりにも早すぎる、と。

 

 ――馬鹿な。戦闘開始して間もないというのに――

 

 キルゲは霊圧を抑えて戦っていた。開幕の奇襲攻撃も、その次の攻撃も、霊圧を巧妙に隠していた。霊子を隷属させ吸収する事が出来る滅却師(クインシー)は、その力を上手く使えば周囲に霊圧をばら撒かずに戦う事も可能としていた。浦原が破道を放った為にその霊圧は感知されたかもしれないが、それにしても早すぎる到着だろう。一体どうして一護はこんなにも早く浦原の危機に駆けつける事が出来たのか。

 その答えを想像して、キルゲは忌々しそうに浦原に目をやった。そして、浦原がいつの間にか持っていた何かしらの装置を見つける。

 

「あ、これっスか? 緊急連絡用の装置っス。黒崎サンには常に持ち歩いてもらってるんスよ。……念の為、ね」

 

 そう、浦原はキルゲの奇襲攻撃を受けた瞬間に、一護に対して助けを求めていたのだ。それに気付いた一護は即座に浦原の霊圧を探り、浦原の霊圧が明らかに戦闘状態にある事を察知する。そして緊急事態だと察してこうして駆け付けたのだ。

 

「……おのれ!」

 

 小賢しい真似をするとキルゲは浦原に憎々しげな視線を向ける。だが、直に思い直した。どうせ浦原喜助も黒崎一護も、両名共に現世に足止めをしろとユーハバッハから命じられていたのだ。

 厄介な敵が二人になったのは面倒だが、二人同時にその動きを封じる事が出来れば一石二鳥というものだ。陛下に与えられた聖文字(シュリフト)にかけて、命を賭してでも敵の足止めをするという気概を籠めて、キルゲは一護と浦原に向かってその力を揮い始める。

 

 キルゲを倒さない限り、一護は瀞霊廷に駆けつける事が出来ない。そればかりか一護と共に戦った仲間が、一護の危機を救ってくれた仲間が、死の危機に瀕している事も知らないままだった。

 そして、彼らの危機に一護が間に合う事はなかった。キルゲ・オピーは一護と言えど容易く倒せる程に弱くはなく、そして厄介極まる能力を有していたからだ。一護が瀞霊廷に駆けつけるのはまだ先の事だった。

 

 

 

 

 

 

 隊長格の多くは劣勢にあった。それも当然だ。自身の最大戦力である卍解を使わずに、強大な敵と戦う事を強いられているのだ。

 卍解使用時の死神の戦闘力は一般的に通常時の五倍から十倍に上昇する。つまり、現状の隊長格は最大時の五分の一から十分の一の実力で戦っている訳だ。苦戦するのも当然の話だろう。

 

「ふざけた話やでほんま……!」

 

 五番隊の隊長の座に就いた――戻ったというべきか――平子真子が悪態を吐く。その体は既に傷だらけだ。星十字騎士団(シュテルンリッター)の一人、“K”のBG9(ベー・ゲー・ノイン)を相手にして、どうにか致命傷を負わずに済ませていた辺りは流石だったが。

 

「何もふざけてはいない。我々の力がお前達死神を圧倒していただけの話だ」

 

 どこか機械染みた音声を発するBG9は、その音声の通り機械人形だった。機械にすら霊圧を発生させ、意思を持たせる事に成功している事から、滅却師(クインシー)の技術力の高さが窺えるだろう。

 そしてBG9は平子にとって最悪の相性を持つ敵だった。平子の斬魄刀、逆撫(さかなで)の能力は対象の神経を操作し、対象が認識する上下左右前後、更に見えている方向と攻撃される方向も逆にするというものだ。

 この能力を受ければ相手の攻撃をまともに認識する事は出来なくなり、敵の攻撃を回避する事も防ぐ事も困難になるだろう。非常に厄介な能力と言えた。

 だが、この能力は対象に逆撫から発する特殊な匂いを嗅がせる事が発動条件となっている。そして、BG9は機械人形だ。匂いを感知するセンサーは付いているが、匂いを嗅ぐ機能は付いていない。つまり、BG9に逆撫の能力は通用しないという事になる。

 

 ――くそっ! こいつ何で逆撫が効かへんねん!――

 

 そしてその事実は平子も気付いていた。まさか完全な機械人形である等とは、流石に初見で想像出来なかったようだが。

 とにかく、BG9は平子にとって最悪の相性の敵だ。それでも平子がどうにか善戦出来ていたのは、平子が仮面の軍勢(ヴァイザード)であったからだ。虚化した平子の霊圧、身体能力は通常時よりも格段に上昇している。虚化によって、平子はどうにかBG9と渡り合えていたのだ。

 隊長となってからは外聞もあって虚化の力を使用する事を控えていたが、今はそんな事を言っていられる状況ではないだろう。外聞のみを気にして自分が死ぬだけならまだしも、それで瀞霊廷が滅んでは本末転倒というものだ。

 

「虚化か。確かに戦闘力の向上が見られる。だが、虚化は持続時間に問題があるというデータがある。お前はどれだけの時間、虚化が可能だ?」

「答える思とるんかいボケェ!」

 

 平子が痛いところを衝かれたとばかりにBG9に虚閃(セロ)を放つ。その虚閃(セロ)飛廉脚(ひれんきゃく)――霊子に乗って移動する滅却師(クインシー)の高速歩法――にて回避したBG9は、平子に向けてガトリングガンを掃射した。

 

「ちぃっ! けったいなもん仕込みおって!」

 

 秒間100発以上も放たれる強大な威力を秘めた弾丸を躱すも、平子はBG9に対して攻めあぐねていた。

 こちらの能力は効かず、敵はこちらを殺傷しうる兵器を思う存分に使用してくる。しかもこちらの情報は筒抜けだ。あらゆる攻撃に対して適切な対処を取られている。まさに八方塞がりというやつだ。

 だが、それで勝利を諦めるなら、平子は隊長になどなっていないだろう。護廷を司る死神の部隊の隊長とは、そんな軽い看板ではないのだ。

 何としてもここを切り抜け、そして他の隊長達を援護する。虚化という力を有する自分や元仮面の軍勢(ヴァイザード)の仲間であった二人の隊長達ならば、少しは抗う事が出来るだろうと平子は思っていた。

 

「虚化を含む戦闘データは受け取った。次のデータを求める」

「ふざけんなボケが……! 破道の――」

「遅い」

「!?」

 

 平子はBG9に勝つ事を一旦諦め、他の隊長達と合流しようとする。逆撫の能力が効かないBG9を相手にするよりも、協力して他の敵を倒して数を減らした方が戦術的に正しいと判断したからだ。

 そうして平子は虚化し、破道を牽制に使用してBG9から離れようとするも、破道を放つ前に右腕を伸縮自在の鋭い触手に貫かれた。

 

「戦闘データは受け取ったと言った筈だ」

「この……!」

「むっ」

 

 平子は素早く右腕から触手を抜き、接近していたBG9に逆撫を振るう。その一撃を右腕で防御したBG9だが、予想以上の威力に後方に勢い良く吹き飛ばされていく。

 

「ふむ。訂正する。虚化のデータは不十分だったようだ。パワーの向上を修正する必要がある」

「修正でも何でもせぇや……! そのたんび修正させたるわ……!」

 

 半分は強がりだが、意地を見せるかのようにそう叫んだ平子。だが、次の瞬間に何かに気付いたように視線が僅かに右に逸れた。

 それを察知したBG9は、その行動をフェイントの類かと予測するも、搭載している優秀なセンサーが平子の行動の理由を突き止めた。

 

「どうやら勝負が付いたようだ。この反応は七番隊隊長狛村佐陣と十番隊隊長日番谷冬獅郎か」

 

 そう、平子が敵を前にして僅かにも視線を逸らしたのは、その方角で戦っていた狛村佐陣の霊圧が大きく減少したからだ。恐らく大きなダメージを受けたのだろう。

 そしてそれとは別の場所では日番谷冬獅郎の霊圧も減少していた。こちらも狛村同様に致命のダメージを受けたと思われた。

 

「まだ死んでへん……!」

「時間の問題だ。卍解を奪われた隊長格が我等星十字騎士団(シュテルンリッター)に勝てる道理はない」

 

 平子の言う通り、まだ死んではいない。霊圧は下がっているが、消えてはいないのだ。

 だが、BG9の言う通り時間の問題でもあった。狛村と日番谷の霊圧は減少し、両者と戦っている星十字騎士団(シュテルンリッター)は殆ど消耗していない。どちらに軍配が上がるかなど、言うまでもないだろう。

 他にも多くの隊長達の霊圧が下がっているのを平子は感じ取る。まだ生きているが、これから先はどうなるか解ったものではない。いや、解っていた。このまま行けば――

 

「くそっ……! ……っ!?」

 

 このまま行けば必ず隊長格からも戦死者が出る。そうなったらジリ貧だ。この現状を覆す手段があったとしても、それを実行するだけの戦力がなくなったら話にならない。

 そう思い、焦燥に駆られていた平子は減少し続ける狛村と日番谷の霊圧を感じ取りながら……この場には存在しない筈の霊圧を感じ、思わずその霊圧の持ち主がいる方角に振り向いた。狛村や日番谷の危機にもBG9から完全に視線は外さなかったというのにだ。それ程に、この霊圧の持ち主()がこの場にいる事に驚愕したのだ。

 

「嘘やろ……!?」

「これは……」

 

 平子と同時に、BG9もその霊圧を感知したようだ。そして二人共に悩んだ。この霊圧の持ち主は、敵か味方か、果たしてどちらなのか、と。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……!」

「オー! 大したもんだ。その傷でまだ動けるってのは流石は隊長ってところか」

 

 バズビーが日番谷に称賛の言葉を送る。その称賛の通り、日番谷の全身は傷だらけだった。

 腹部や手足にはバーナーフィンガー(ワン)で貫かれた傷が何箇所もあり、肩からは袈裟切りにされた大きな傷が付けられていた。これはバーナーフィンガー(ツー)によって付けられた傷である。バズビーが二本の指から鉤爪状の炎を作り出し、それで日番谷を斬り裂いたのだ。

 

「たい、ちょう……」

 

 立っているのもやっとの日番谷だったが、乱菊に至っては立つ事さえ出来ないでいた。尤も、その傷自体は日番谷よりも浅い。もちろん重傷ではあるが。

 魂魄は霊圧が高ければ高いほど、その生命力も高くなる。日番谷が乱菊よりも霊圧が高い為、乱菊よりも大きなダメージを受けながらもまだ立っていられるのだ。

 

「だがまあ、終わりだな氷の隊長さんよ」

「く、そ……」

 

 バズビーの言う通り、日番谷にバズビーに対抗する手立てはなく、もう終わりが近付いていた。始解の状態でどうにかバズビーを食い止めようと日番谷は必死に抗った。小細工も含め、持ちうる手段を使いきった。だが、バズビーに何の痛痒も与える事が出来ず、こうして敗れようとしていた。

 藍染の乱で、藍染に何も出来ずにいいようにやられてから、日番谷は必死に修行してきた。卍解を修めてから然程の年月が経っていない日番谷の卍解はまだ未熟だ。その未熟さを埋めるため、必死に努力してきた。真の卍解と呼べるまで鍛え上げた。

 だが、その卍解を発揮する事も出来ず、奪い取られた上に、こうして敗れようとしている。己の不甲斐なさに怒りが湧くほどだ。

 

「それじゃあな! お前の卍解は、機会があれば有用に使ってやるぜ! 機会があればな!! 横で転がってる副隊長と一緒に燃え尽きろ!! バーナーフィンガー(スリー)!!」

 

 バーナーフィンガー(スリー)。三本の指から出た炎が、大地を融解させマグマへと変じさせる。恐ろしいまでの熱量を生み出す技だ。その技によって日番谷達をマグマの海に沈めようとして――

 

「!?」

 

 突如として放たれた何者かの攻撃を避ける為に、日番谷達への攻撃を止めてその場から離れた。

 

「てめぇ、何もんだ!?」

 

 自分の邪魔をした何者かに対して、バズビーがそう叫ぶ。だが、その叫びを馬鹿にしたかの如く、乱入者は蛇のような笑みを浮かべながら、返した。

 

「なんや、この状況で何者もあらへんやろ。君の邪魔をしてるんや……敵に決まってるやん」

 

 そう、この状況にあって邪魔をしてくる者など、敵以外に他ならない。そんな訊くまでもない質問をするなど、馬鹿のする事だとこの乱入者は言外に言っているのだ。

 

「お前は……!」

「うそ……どうしてここに……!?」

 

 日番谷と乱菊が乱入者を見て驚愕する。その乱入者は、この場にいる筈がない者だったからだ。

 そして、彼と同じくこの場にいる筈がない者が、別の場所に現れていた。

 

 

 

 

 

 

「頑張るねワンちゃん! それに他の死神もさあ!」

「当然だ……! 護廷の為にも、我らが敗れる訳にはいかんのだ!」

 

 バンビエッタの言葉にそう返す狛村だったが、戦況は芳しくなかった。

 狛村率いる七番隊の隊士は既に半数が脱落している。脱落した者のうち、更に半数は死んでいるだろう。残りの半数も治療を受けなければ死に至る重傷だった。

 脱落していない者達も誰もが傷ついている。特に隊長である狛村の傷は誰よりも重く深い。それでも動く事が出来るのは狛村の霊圧が高い証拠であり、そして肉体面でも死神の中でトップクラスだからであった。

 

「護廷の為とか何とか、ご大層な事言ってるけどさ……死んじゃったら意味ない事じゃん!」

 

 狛村や隊士達の覚悟をそう言って嘲笑いながら、バンビエッタは戦いを愉しむ為に使わなかった力を解放する。

 バンビエッタの聖文字(シュリフト)は“E”。“爆撃(ジ・エクスプロード)”のバンビエッタ・バスターバインだ。その力は、球状の霊子を放ちその霊子に触れたあらゆる物質を爆弾へと変えるというもの。

 

「そぅら!!」

 

 バンビエッタが複数の霊子球を周囲にばら撒く。それに触れた物は何であろうと爆弾へと変化し、そして爆発していく。

 瓦礫だろうと、衣服だろうと、魂魄だろうと、バンビエッタの霊子球に触れた物質は全てが爆弾になるのだ。それを防ぐ手立ては彼らにはなかった。

 

「ぎゃああ!」

「うわあぁぁぁ!!」

 

 バンビエッタの“爆撃(ジ・エクスプロード)”に為す術なく爆殺されていく七番隊達。その死傷者の数は加速度的に増えていく。

 

「止めろ!」

 

 それを黙って見ていられる狛村ではなく、自身の斬魄刀である天譴(てんけん)をバンビエッタに向けて振るう。

 その能力によって巨大な剣撃が具象化され、バンビエッタを押し潰さんばかりに振り下ろされる。だが、その一撃をバンビエッタは左手一本で容易く受け止めた。

 

「無駄だっつぅの。何度もやってるんだからいい加減解るでしょーに」

 

 静血装(ブルート・ヴェーネ)による防御で天譴の一撃を防いだのだ。卍解なくしてこの防御を突破する事は狛村には困難だった。

 そして、いい加減この戦いを終わらせようとしてバンビエッタが右手を狛村に向け、霊子を放とうとして――その右腕に、無数の棘状の刃が突き刺さった。

 

「!?」

「これは……!」

 

 その攻撃に見覚えがあった狛村は、まさかと思いつつも攻撃が飛んできた方角に眼を向ける。そして、そこに無二の友の姿を見つけた。

 

「狛村の一撃を防ぎながら、この程度の攻撃で負傷する。どうやら、その防御は攻撃と同時には発動出来ないようだな」

「あ、あなたは……!?」

 

 隊長の危機を救った人物を見て、射場が驚愕の声を上げる。そして、狛村がその男の名を叫んだ。

 

「と、東仙! 何故貴公がここに!?」

 

 元九番隊隊長東仙要。第六地下監獄焦熱に投獄された筈の彼が、何故ここにいるのか。脱獄などすれば、その罪は更に重くなる。減刑を受けての投獄なのだ。これ以上罪を重ねては、死刑になる恐れもあるだろう。

 それは東仙も理解している筈だ。なのに何故、何故脱獄などしたのか。狛村のその疑問に対し、東仙は率直に答えた。

 

「友の為。その為ならば、私はいかな罪も背負おう」

「東仙……!」

 

 そう、東仙が脱獄してまでこの場に現れたのは、正義の為でもなければ瀞霊廷の為でもない。堕ちた己をいつまでも案じてくれた友と部下の為だった。その為ならば、東仙はどのような罰を受けようとも悔いはなかった。

 東仙のその言葉に狛村が感動のあまり涙すら流しそうになる。そして誓った。この戦いが終わり、東仙が更なる罪に問われるならば、己も共にその罪を背負い償おうと。

 だが、ここは戦場。感傷に浸る暇はない。戦いの後の事を考えるのは、戦いを無事に切り抜けてからだ。

 

「力を貸してくれるか東仙!」

「勿論だよ狛村」

 

 そうして、狛村と東仙という隊長格二人が力を合わせてバンビエッタに立ち向かう。

 その姿を見て、隊士達も意気を取り戻して行く。隊長格が二人揃えば勝てるかもしれない、と。

 

 

 

 

 

 

「思い出したぜ……! テメー確か藍染惣右介の部下だった野郎だろ? そんな負け犬がのこのこ現れて今更なんの用だ!? 市丸ギンよぉ!!」

 

 そう、狛村の危機に駆け付けたのが東仙ならば、乱菊の危機に駆け付けるのはこの男をおいて他にはいないだろう。

 元三番隊隊長市丸ギン。第三地下監獄衆合に捕らえられていた市丸だったが、世界で最も護りたいと思っている乱菊の危機に現れない訳がなかった。

 

「ギン! あんたどうして……!」

「なんやこわーいお人を見かけてな。これはあかんと思うてちょっと出てみたら、案の定やったわ」

 

 ちょっと出ると言って出られたら地下大監獄はその意味を為さないだろう。だが、市丸は用心深く用意周到だ。何かあった時に脱獄出来るよう、ある程度備えておいたのだ。監視の目を盗むくらい、藍染の側にいた百年余りを思えば大した苦労ではなかった。

 その備えもあって、市丸はどうにか地下大監獄から脱出する事が出来た。そしてそのまま瀞霊廷に出ずに、更に地下に潜り込んで東仙を監獄から脱獄させたのだ。瀞霊廷が予想以上の危機に陥っていた場合、少しでも戦力が多かった方が良いとの判断だ。

 東仙もまた、監獄の中に居た時に恐ろしい化け物のごとき存在を察知した。あのような存在が瀞霊廷に攻め込んでいると理解した瞬間、東仙は最後まで己を心配してくれた友と部下の無事を祈った。そして、例え無駄に終わったとしても、その無事を確認したいが為に市丸の誘いに乗って脱獄したのだ。

 

 こうして二人は地下大監獄を脱獄した。皮肉にも地下大監獄に侵入した化物のおかげか、外に出る事は容易だった。そして、地上の霊圧を感知して、大切な者を護る為に駆け付けたのだ。

 

 平子とBG9が市丸達を敵か味方か悩んでいたのは、平子は当然二人が藍染の部下だった事から、BG9は二人の主であった藍染をユーハバッハが勧誘しに行っていた為だ。もしかしたら藍染がユーハバッハの部下となり、それで市丸達も藍染と共に解放されたのかと思ったのだ。

 

「……この戦いが終わったら、無事じゃすまねーぞ市丸」

 

 ただの囚人が脱獄した事とは訳が違う。地下大監獄に投獄されるという事はそういう事なのだ。当然それを理解している市丸だったが、暗い未来など感じさせないようないつもの笑みを浮かべ、日番谷に向かって言った。

 

「そん時は庇ってや、十番隊長さん」

「……それで貸し借りなしだ。いいな!」

 

 日番谷は市丸に対して個人的な恨みがある。日番谷は市丸のせいで大切な女性を傷付けざるをえなかった事があったのだ。

 だが、その恨みはここにあって発揮するものではない。今は恨みを呑み込んででも瀞霊廷の為に戦わなければならないのだ。そしてその為の力は、傷付いた日番谷よりも市丸の方が高いのは当然であった。

 

「取引成立や」

 

 うすら暗い取引を笑顔で行いながら、市丸はバズビーに向けて己の斬魄刀、神槍を向ける。そしてバズビーに攻撃を仕掛けず……日番谷に大事な質問を行った。

 

「ところで十番隊長さん。卍解、奪われてるんやない?」

「……気付いてやがったか。ああ、敵は俺達の卍解を奪う手段を持ってやがる……! お前も絶対に卍解を使うんじゃねぇぞ!」

 

 そう、市丸は星十字騎士団(シュテルンリッター)が卍解を奪う事を知っていた。ここに来るまでに市丸は瀞霊廷の霊圧を感じ、隊長格の殆どが卍解を使っていない事に気付いていた。卍解を使用しているのは副隊長の雀部のみだ。

 そればかりか、明らかに敵と思わしき霊圧の持ち主が、隊長格の卍解と思わしき力を発揮しているのも感じ取っていた。これらの事から、市丸は敵が死神の卍解を奪い取る手段を有しているのだと予測したのだ。そしてそれは東仙も同様だった。

 

「厄介やなぁ。それでも護廷の為、気張らなあかんか」

「はっ! 瀞霊廷に反旗を翻した奴が何を言ってんだか! 卍解を使えない隊長と、卍解を使わない元隊長なんざ、何人増えたって意味がないって事を教えてやるぜ!!」

「卍解無しとはいえ、隊長格二人相手に強気やなぁ。なら、ちょっと僕の本気を見せてあげよか」

 

 気炎を上げるバズビーに対し、市丸が普段とは違う真剣な表情になりバズビーを睨みつける。そこから発せられた圧力は星十字騎士団(シュテルンリッター)のバズビーをして油断ならないと思わせる程であった。

 

 ――たった三人で瀞霊廷に反旗を翻したのは伊達じゃねぇか。おもしれぇ――

 

 日番谷と乱菊相手では少々物足りないと思っていたところだ。バズビーは市丸に対する意識を改め、卍解を使わずとも厄介な敵という認識に至る。

 

「ほな、行こか十番隊長さん」

「ああ!」

「来いよ! 二人纏めて俺の炎で――」

 

 市丸と日番谷が闘志を高めるのに対し、バズビーもまたその闘志に応えるように全身から炎を吹き出して――瞬歩で遠ざかって行く市丸達を見て呆気に取られた。

 

「……あ?」

 

 護廷の為にだの、本気を見せてやるだの言っておきながら、まさか敵を前にして全力で逃げ出すなどとは思ってもいなかったバズビーは、正気に戻るのに少々の時間を要した。

 

「ああ!? あの野郎!!」

 

 そして正気に返った時には遅かった。市丸達は既に遠く離れた場所に逃げており、その霊圧を隠していた。こうなってはバズビーと言えど捜し出すのは困難だろう。

 それを理解したバズビーの怒りは頂点に達し、周囲の瀞霊廷をその炎で吹き飛ばした。隊長たちが戦っている戦場のため、この場には誰もおらず建物以外の被害は出なかったが。

 

 

 

 一方、市丸達はバズビーから離れた場所で一息ついていた。尤も、日番谷は市丸に対して食って掛かっていたが。

 

「おい市丸! 何で逃げ出した!?」

 

 そう、逃げ出したのは日番谷の意思ではなかった。市丸が隣に立っていた日番谷を無理矢理抱え、そして残る片腕で素早く乱菊も抱えて逃げ出したのだ。

 日番谷に逃げるつもりは毛頭なく、何としてでもバズビーを食い止めるつもりだった。その闘志があったからこそ、バズビーを騙す事が出来たのだ。騙すのが得意な市丸の嘘をバズビーが見抜く事は出来なかったようだ。

 

「今のままやったら勝ち目はなかったわ。今は生き延びる事が先決や。死んでしもうたら何もかもお終いや」

 

 そう、敵から卍解を奪い返す方法、最低でも卍解を奪われないようにする方法を突き止めなければ勝ち目はない。そう考えた市丸は、まずは日番谷と乱菊を連れて逃げる事に専念したのだ。

 そう日番谷に言いながら、市丸は乱菊に応急手当を行う。止血は何とかなったが、やはり日番谷共々重傷だ。出来れば四番隊舎に連れていき治療を頼みたいところだ。

 

「それでも俺達は瀞霊廷の為に――」

 

 市丸の言い分に納得出来ない日番谷は尚も食って掛かろうとするが、それを市丸が口元に指を当てる事で抑えた。

 

「静かに。ばれたら元も子もないやろ。……大丈夫や。こわーいお人らが暴れてるのが解らへん? 今はこの人らに任せとこ。巻き込まれたら……僕らも死ぬで?」

「なに……これは……!」

 

 市丸の言葉に日番谷は冷静さを取り戻し、瀞霊廷の霊圧を探ってみた。そして……凄まじい霊圧が暴威を振るっているのを感じ取った。

 

「怖いやろ? 藍染隊長すら警戒した二人や。このままやられっぱなしでいる訳がないわ」

 

 そう言って、市丸は一筋の汗を流しながらその霊圧が放たれている方角に目をやった。この強大な霊圧を相手にする敵に対して憐れみすら感じる程だ。

 

「さて、それじゃあ僕は行くわ。他の隊長さんも助けなあかんしなぁ」

「……他の奴らを頼む市丸」

 

 市丸の言葉に、日番谷はそう言って僅かだが頭を下げる。市丸に対して思う所がある日番谷が、僅かとは言え市丸に頭を下げる事は業腹だっただろう。それでも、日番谷は死地にいる他の隊長達を助けに行ける市丸に頼むしかなかった。今の自分が手助けに行った所で、死にに行くだけだと理解しているからだ。

 

「……気にしな。僕が勝手にやるだけや。恩を売っておけば恩赦が出るかもしれんしなぁ。代りに、乱菊を頼むわ日番谷隊長」

「ああ」

 

 そう言って互いに笑い合い、二人はそれぞれ為すべき事を為す為に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 藍染惣右介が警戒した二人の死神。その一人である更木剣八が、星十字騎士団(シュテルンリッター)相手に猛威を振るっていた。

 

 最初に剣八と戦ったのは星十字騎士団(シュテルンリッター)“R”。“咆哮(ザ・ロア)”のジェローム・ギズバットだった。

 ジェロームはその能力名の通り、咆哮を上げる事で敵を倒す事が出来る星十字騎士団(シュテルンリッター)である。ただの咆哮と侮るなかれ。近距離で喰らえば並の死神なら頭部が破裂するだろう。音なのである程度の範囲攻撃にもなる。

 だが、剣八相手には意味の為さない攻撃であった。剣八は飛んでくる音を斬り裂き、そのままジェロームを脳天から縦に裂いた。

 

 次に剣八と戦ったのは星十字騎士団(シュテルンリッター)“Q”。“異議(ザ・クエッション)”のベレニケ・ガブリエリだ。

 ベレニケは剣八に対してその全てに異議を問う等と言い、己の能力を説明しだした。そして戦いの最中にあって攻撃もせずにベラベラと話すだけのベレニケに対し、最後まで聞く必要がないと判断した剣八はその首を一瞬で斬り飛ばした。

 

 その次に現れたのが星十字騎士団(シュテルンリッター)“Y”。“貴方自身(ジ・ユアセルフ)”のロイド・ロイドだ。

 ロイドの力は相手の姿形、そしてその力と技術の全てを真似る事が出来るというもの。つまり敵が強ければ強いほど、ロイドも強くなるのだ。

 その力を剣八に向けて使えば、この場に剣八が二人存在する事になる。今の剣八が剣八とぶつかり合えば、瀞霊廷に凄まじい被害を及ぼす可能性があった。

 だが、その通りにはならなかった。剣八の力と技術をコピーしようとしたロイドだったが、突如として全身が破裂して死んでしまったのだ。剣八の力が強すぎた為、ロイドの体がその力に耐え切れずに自滅してしまったのだ。

 その結果に呆気に取られたのは剣八だった。強い敵を求めて瀞霊廷をうろついていたというのに、その敵が勝手に自滅しているのだから話にならないというものだ。

 

「これなら長次郎と戦ってる方がよっぽど愉しいぜ……。まあいい、次だ」

 

 そうして剣八が次の獲物を探して動き出した時、新たな敵が剣八の前に姿を現した。

 

「よぉ。てめぇが特記戦力の一人、更木剣八だな?」

「特記なんちゃらってのはしらねぇが、更木剣八は俺だ。てめぇが誰だかは興味ねぇが、さっきの奴らみたいに拍子抜けしない事を祈ってるぜ」

「だったら直に興味を持てるようにしてやるぜ! 俺の名前はシャズ・ドミノ! 陛下に与えられた聖文字(シュリフト)は“Ϛ(スティグマ)”! その能力は――てめえで確かめな!」

 

 無駄に大きな声を上げるでもなく、能力をベラベラと説明するでもなく、闘志と共に叩き付けられたその言葉に剣八は笑みを浮かべる。

 

「良い吠えっぷりだ! せいぜい俺を愉しませろ!!」

 

 剣八はシャズの意気に応えるように霊圧を高め、そして両者の間にあった距離を一足飛びでなくし、一気にシャズに斬り掛かった。

 そしてその一撃をシャズは回避も防御もせずその肉体で受け止め、敢え無く袈裟切りに斬り裂かれた。

 

「ああ?」

 

 あまりの呆気なさに剣八が怪訝の声を上げる。先程の意気は何だったのかと言いたいくらいだ。だがその言葉を剣八が口にすることはなく、剣八はシャズに向けて更なる追撃を放った。

 

「ぐっ。油断していると思ったんだがなぁ」

 

 剣八が袈裟切りにしたシャズに追撃した理由は、シャズがまだ健在であったからだ。シャズは剣八に斬り裂かれながらも、明らかに死ぬほどのダメージを受けながら手に持ったダガーで剣八に反撃を加えようとしていたのだ。

 それを察知した剣八は反撃を避けるでなく、更なる追撃を放つ事でそれを防いだ。その追撃を受けてなお生きているシャズを見て、剣八は面白そうに哂う。

 

「ははは! 斬っても中々倒れねぇ奴はいたが……斬り殺しても死なねぇ奴は初めて見たぜ!」

 

 そう、シャズは確かに死ぬ程のダメージを受けていた。肩から袈裟切りにされて完全に斬り裂かれた上に、追撃で剣八の刃が首を貫通したのだ。それで生き延びる事など普通は出来ないだろう。

 だが、普通ではない存在の集まりが星十字騎士団(シュテルンリッター)だ。シャズ・ドミノは元々正式な星十字騎士団(シュテルンリッター)ではない。星十字騎士団(シュテルンリッター)の一人の力によって生み出された存在だった。

 星十字騎士団(シュテルンリッター)“V”。“夢想家(ザ・ヴィジョナリィ)”のグレミィ・トゥミュー。それがシャズを想像した星十字騎士団(シュテルンリッター)だ。その力は、想像したものを現実にするという、規格外の能力だった。

 シャズという存在すら想像するその力は、使い方を誤まれば敵ばかりか味方にも大きな被害を出してしまう能力だ。そしてグレミィはユーハバッハすら攻撃に巻き込む事を躊躇しない性格であり、その性格と強大な力もあって幽閉されていた。

 

 シャズ・ドミノはグレミィに実験的に想像された偽りの星十字騎士団(シュテルンリッター)だ。そしてグレミィの聖文字(シュリフト)である“V”に合わせて“生存能力(ザ・バイアビリティ)”という能力を与えられていた。それもグレミィの想像の力でだ。

 本来ならグレミィの想像の産物故にグレミィが想像する事を止めたらシャズはそこで消滅する運命だった。だが、グレミィが与えた能力によってシャズはその運命を変えた。

 

 シャズの能力“生存能力(ザ・バイアビリティ)”は、周囲の霊子を取り込む事で(ホロウ)の超速再生すら凌駕する程の再生能力を得るというものだ。

 シャズは騎士団での戦闘で傷付くたびにこの能力で再生を繰り返した。そうやって現実に存在する霊子を取り込み続けた事で、シャズはその肉体を想像の産物ではなく現実のものへと変化させていったのだ。そうして一個体としての存在を確立させたのである。

 そんなシャズに対し、ユーハバッハはどのような気まぐれか26の聖文字(シュリフト)とは違う“Ϛ(スティグマ)”という仮初の聖文字(シュリフト)を与えた。仮初とはいえ聖文字(シュリフト)聖文字(シュリフト)。シャズはユーハバッハに力を与えられたわけではないが、そういう者は星十字騎士団(シュテルンリッター)にも極僅かだが存在する。つまり、シャズは星十字騎士団(シュテルンリッター)の一員と認められたのだ。

 その事実にシャズは歓喜した。グレミィの想像の産物でしかなかった自身がその存在を確立し、そしてユーハバッハにそれを認められた事で自身の存在を肯定してもらえたように感じたのだ。

 この大恩に報いる為、シャズはユーハバッハの命令に対して何の異議も立てずに実行に移した。その命こそ、特記戦力の一人にして護廷十三隊でも最強の一人、十一番隊隊長更木剣八の足止めである。

 

「さあ! 掛かって来いよ更木剣八! お前の剣じゃあ、何度斬ろうとも俺は殺せないぜ!」

 

 幾度斬り殺されても絶対に死なない。それが剣八という称号だ。その剣八に対し、幾度斬られようとも死なないと吠える敵が相対する。

 

「おもしれぇ……! どれだけ死なないか試してやるぜ!」

「やってみな! 真の不死身がどちらか教えてやるぜ!」

 

 更木剣八とシャズ・ドミノ。瀞霊廷と見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)にあって互いに不死身と称される者同士が、戦いを開始した。

 

 




陛下「お前死なないからあの化物の足止めな」
ドミノ「うっす!」

 ロイドが剣八の力をコピーできなかった理由は独自解釈です。どんな力だろうとコピー出来るなら、ユーハバッハの力をコピーして暴れたら良いだけだと思って、それが出来ない理由としてロイドとかけ離れた力をコピーするとロイドが耐え切れない事にしました。

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