どうしてこうなった? 異伝編   作:とんぱ

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BLEACH 第三十五話

 狛村と東仙のコンビとバンビエッタとジゼルのコンビの戦いに割って入った破面(アランカル)、ルピ・アンテノール。彼の放った言葉は、死神と滅却師(クインシー)の両方を驚愕させていた。

 

「助けに――」

「来た、だと……?」

破面(アランカル)のあんたが?」

「死神を?」

 

 狛村も東仙も、破面(アランカル)が死神を助けに来るなどと想像だにしていなかった。破面(アランカル)と敵対していた狛村は当然として、破面(アランカル)の統括官という立場だった東仙は尚更信じられなかった。

 破面(アランカル)は誰も彼もがエゴの塊だ。やりたい事だけをして、やりたくない事はしない。好きなように食べ、好きなように戦い、好きなように殺し、好きなように生き、好きなように死ぬ。それが破面(アランカル)、ひいては(ホロウ)という存在なのだ。

 破面(アランカル)を率いた藍染という存在があったからこそ、彼らは一応の纏まりを見せ、組織として成り立っていた。だが、藍染がいない今、彼らは己のやりたいように生きている筈なのだ。

 そんな破面(アランカル)が、どうして死神を助けに来ると想像出来るのか。しかも東仙が見た限り、瀞霊廷の各地に生き残ったと思われる十刃(エスパーダ)全員が散らばっていた。ルピの言う事が真実ならば、その全員が死神を助ける為に来た事になる。

 

「有り得ない……何を企んでいるルピ……!」

 

 あのグリムジョー・ジャガージャックにヤミー・リヤルゴという、粗忽者という言葉がそのまま当てはまるような者達まで来ているのだ。それでいながら目的が死神の救援などと、有り得る訳がない。

 そんな東仙の疑問の声を聞いたルピは、東仙を見て懐かしそうに声を掛けた。

 

「あれぇ? 東仙統括官じゃない。ひっさしぶりー。元気だった? あ、ごっめーん。その様子だとあまり元気そうじゃないねー」

 

 東仙の姿を一目見れば満身創痍なのは瞭然だろう。それを理解していながら、ルピは厭味を放ったのだ。自分よりも弱い立場と認識した者には上から目線になるのがルピの悪癖だ。

 クアルソの監視下にある虚夜宮(ラス・ノーチェス)では鳴りを潜めていたが、久しぶりの明確な敵との戦闘を前に悪癖が解放されたようである。クアルソから、「死神に一泡吹かせてやれ」と言われたのも関係しているのかもしれない。クアルソから煽っても大丈夫というお墨付きをもらったと思ったのだろう。

 

「質問に答えろ、ルピ・アンテノール……!」

 

 質問に答えるどころか、厭味を返すルピに東仙は苛立ちを募らせる。だが、そんな東仙の苛立ちと怒りの視線を浴びても、ルピは飄々とした態度を崩さなかった。

 

「ああ、さっきは思わず昔の癖で統括官とか言っちゃったけどさ。今は僕達の上司でも何でもないんだから、命令しないでくれる?」

「くっ……!」

 

 ルピの言い方はともかくとして、言っている事自体は正しい。かつては統括官として破面(アランカル)の規律を正していた東仙だったが、敗北し死神に捕えられた東仙に役職などない。十刃(エスパーダ)はおろか、弱い破面(アランカル)にさえ命令する権利などないのだ。

 

「貴様! いきなり現れて好き勝手ほざきおって!」

「ん? ああ、ごめんねー。別に死神に喧嘩を売るつもりはないからさ。そんな事すればクアルソ様にどやされちゃうよ」

 

 東仙を馬鹿するかのようなルピの口調に狛村が声を荒げるが、対するルピは狛村の怒気よりもクアルソに怒られるところを想像して肝を冷やしていた。

 

「クアルソ様……だと……?」

 

 ルピが放った聞き逃せない一言を耳にして、東仙は今まで感じていた疑問を解消する。

 藍染が敗北し、王を失った破面(アランカル)はそれぞれが自由に生きているものと東仙は思っていた。だが、ルピの口振りからあのクアルソ・ソーンブラが破面(アランカル)を率いている事が窺えたのだ。

 クアルソ・ソーンブラ。あの藍染惣右介が唯一警戒した破面(アランカル)。そしてその警戒は正しく、クアルソは藍染をたった一人で真っ向から打倒するという離れ業を成し遂げた。

 そんなクアルソならば、確かに破面(アランカル)を統べる力があるだろう。あのクアルソがそんな事をするとは東仙には思えなかったが、それならば十刃(エスパーダ)達がこうして纏まって動いているのも頷けるというものだ。

 

「悪かったね。本当に君たちと敵対するつもりはないんだ。僕の目的は……彼女達だよ」

 

 そう言って、ルピは視線をバンビエッタ達に向ける。その視線にはどこか悦に浸ったものが籠もっていた。

 久方ぶりの敵との戦い、そして、その敵は見目麗しい女性ときた。これに興奮しないルピではなかった。

 

「へぇ。急に現れて死神を助けるとか、何をとち狂った事を宣う破面(アランカル)かと思えば……あんた、本気で言ってるんだ?」

 

 自分に視線を向けられた上に、敵対意思まで叩き付けられたバンビエッタは、むしろそれを面白そうに受け止め笑っていた。

 それもそうだろう。破面(アランカル)が死神を助ける為に滅却師(クインシー)に立ち向かうと言うのだ。それを笑い話と言わず何と言うのか。

 

「知ってるわよ? 破面(アランカル)って死神に負けた奴らでしょ? それが死神を助けに来るなんて、負けた犬は尻尾を振るのが得意なのねぇ?」

 

 そんなバンビエッタの嘲笑に対し、ルピは平然と返した。

 

「死神に負けたのは他の破面(アランカル)だよ。僕は戦っていないからね」

「トップが負けたら同じでしょうに。まあいいわ。敵が多少増えようが、全部あたしの爆撃(ジ・エクスプロード)で粉微塵にしてあげるから!! 纏めて掛かって来なさい!!」

「え? じゃあ僕は戦わなくてもいいのバンビちゃん?」

 

 死神と破面(アランカル)に纏めて掛かって来いというバンビエッタの言葉を、バンビエッタ一人で戦うと受け取ったジゼルがそんな事を口にする。

 だが、当然それを許すバンビエッタではなかった。

 

「そんなわけないでしょ! あんたはちゃんとあたしのサポートをしなさい!」

「はーい……」

 

 バンビエッタに怒鳴られ、ジゼルはわざとらしく(しな)を作って涙を見せる。

 

「雑魚がいくら群れようが雑魚って事を教えてあげるわ! 行くわよジジ!」

「了解バンビちゃん」

 

 敵意剥き出しのバンビエッタに、そのバンビエッタに追従するジゼル。ルピが乱入した事で一時的に休止していた戦闘が再び開始する事を察した狛村は、ルピに対して助言を放った。

 

「そこな破面(アランカル)! かつてはともかく今は共に戦うと言うならば、かつてのいざこざは忘れよう! その好戦的な女に気を付けろ! その者が放った霊子に触れたモノは何であれ爆弾と化し、爆発してしまう! 決して受けるな!」

 

 狛村はそう叫んだ後、黒縄天譴明王を奮い立たせ戦闘態勢を取る。東仙を貶した事は気に食わないが、現状はそうも言っていられない程窮している。破面(アランカル)が何を企んでいるかは解らないが、滅却師(クインシー)と敵対するというのならばここは協力して戦うべきだと判断したのだ。

 清だけでなく、時には濁も併せ呑む。護廷を護る死神として、一時の恥よりも結果を優先しようとしたのだ。

 だが、そんな狛村の決意を、ルピはさらりと否定した。

 

「ああ、忠告どうも。助かるよ。でも、彼女達は僕一人で戦うよ。君の助けはいらないから、そこで東仙統括官……じゃなかった。東仙を護ってあげてれば? その人、もう限界だよ?」

「!?」

「くっ……!」

 

 ルピの言葉に狛村が東仙を見やる。するとそこには、大地に膝を突き、刃を衝き立てる事でどうにか倒れそうになっている肉体を支えている東仙の姿があった。

 ルピの言う通り、東仙は限界だった。たった一人でバンビーズ五人を相手に立ち回ったのだ。いくら虚化による超速再生があったとはいえ、霊力には限界がある。

 東仙は超速再生で底を突きかけた霊力を更に振り絞り、狛村をサポートしていたのだ。そのサポートがなければ狛村はバンビエッタの前に敗れていただろう。ここまで狛村を支えてきた東仙の貢献は非常に大きかった。

 だが、もはや東仙に残された霊力は極僅か。気絶する一歩手前の状況になるまで、狛村を支え続けたのだ。これ以上の戦闘行為は不可能だろう。気を失ってない事が不思議な程だった。

 

「と、東仙……!」

「も、問題ないよ狛村……私はまだ、戦える……」

 

 狛村を心配させまいとそう言うが、明らかに戦える体調ではないのは一目瞭然だ。

 

「……東仙統括官って、あんなキャラだったっけ?」

 

 ルピは狛村を気遣う東仙を見てそんな事を思う。ルピが知る東仙は何よりも規律と正義を重んじる、冷徹な統括官だった。虚夜宮(ラス・ノーチェス)にて定まっていた規律を破る者には、例え相手が十刃(エスパーダ)であれ容赦なく刑を執行した男。それがルピの知る東仙要なのである。

 あのグリムジョーもかつて規律を乱したとして、東仙の手に掛かり左腕を奪われたのだ。そのせいで、グリムジョーは第6十刃(セスタ・エスパーダ)の座を剥奪されたのだ。

 それを思い出して、ルピは東仙に対する態度を改めようと思った。東仙のおかげであのグリムジョーは失脚し、自分に第6(セスタ)の座が巡って来たのだから。感謝すべき存在である。

 

「まあいいや。さっきはごめんね東仙さん。ちょっと僕があの二人を倒してくるからさ。少し休んでなよ。そっちの犬の死神さんは東仙さんを護ってあげてね」

『……?』

 

 ルピの突然の変わりように狛村も東仙も呆気に取られる。先程までとはまるで違う対応である。

 だが、呆気に取られている二人よりも、ルピの態度に対して遥かに激しい反応をした者がいた。

 

「あんた……黙って聞いてれば言ってくれるじゃない……! あんた一人で、あたし達二人を相手にするですって!」

「あれ? そう聞こえた? 良かったねぇ。君の耳、どうやら正常のようだよ」

「!!」

「あらら。あの破面(アランカル)馬鹿だなぁ。バンビちゃんを怒らせちゃった」

 

 そう言いながら、ジゼルはバンビエッタから徐々に離れて行く。共闘するとは言ったが、怒り狂い見境がなくなったバンビエッタの傍で戦うなんて自殺行為だ。

 サポートは離れた位置からでも出来るし、そもそも破面(アランカル)一体程度を相手に、バンビエッタをサポートする必要があるとはジゼルには思えなかった。

 

「あれ? そっちのおねーさんは一緒に戦わないの?」

「戦うよー? 必要あるかどうかは解らないけどね」

「必要あるわけないでしょう! こんな奴あたし一人で十分よ! 骨も残さず消し飛ばしてやる!!」

 

 ジゼルとバンビエッタの言葉にルピは肩をすかしつつ、その口を開いた。

 

「いいの? 2対1じゃなくて……じゃあ、遠慮なく行くよ? ……縊れ。蔦嬢(トレパドーラ)

『!?』

 

 ルピが放った解号と共に、ルピの体が変化する。刀剣解放したルピの上半身は鎧のようなものに覆われ、その背には8本の触手を生やした円盤が付いていた。

 この8本の触手を自在に操り戦うのがルピの帰刃(レスレクシオン)蔦嬢(トレパドーラ)の能力である。

 

「ほら、だから言っただろ? 2対1で良いって。……ア、ごめーん。2対8だっけ?」

「嘗めないでよね! たかが触手が8本ある程度が何だってのよ!!」

 

 8本の触手があるからといって、実際に8人分の働きが出来る訳ではない。確かに手数の多さは脅威だろうが、手数で言うならバンビエッタも負けてはいなかった。

 

「食らいなさい!」

 

 バンビエッタは既に完聖体となっている。その全力の力で、無数の霊子球を生み出してルピに向けて撃ち放った。

 どれか一つでも当たれば当たった箇所が爆弾と化してしまう、恐るべき霊子球が、文字通り雨霰の如く撃ち放たれる。回避も防御も不可能と言える程の弾幕を、ルピは慌てる事なく対処した。

 

虚弾(バラ)!」

 

 ルピは8本の触手から同時に無数の虚弾(バラ)を撃ち放った。バンビエッタに負けず、こちらも虚弾(バラ)の弾幕と言えるほどにだ。

 当たった箇所が爆弾と化してしまうなら、当たらないように撃ち落とせば良いだけの話だ。敵の能力を戦う前から知れた事にルピは狛村に対しても多少だが感謝する。敵の能力を暴く事が戦いの第一歩と教わった身としては、戦う前から敵の情報を得られる事は僥倖と言えた。

 

「どうしたの? 僕を骨も残らず消し飛ばすんでしょ? 全然届いてないよ?」

「うるさいわね!!」

 

 ルピの挑発に容易く乗せられたバンビエッタは、ルピに向かって全力の神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)を作り出す。それもただの神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)ではない。内側には爆撃(ジ・エクスプロード)の力を、外側を通常の神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)で覆った特別製だ。

 これならば虚弾(バラ)程度の攻撃に触れた所で爆発する事なく、虚弾(バラ)の弾幕を突き破ってルピに届く事が出来るだろう。

 

「死になさい! 神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)!!」

 

 特別製の神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)がルピに向かって放たれる。その攻撃はバンビエッタの予想通り、ルピの虚弾(バラ)の弾幕を突き破って突き進んでいく。だが、当然ルピもそれを黙って見ている筈もなかった。

 

虚閃(セロ)!」

 

 8本の触手全てから虚閃(セロ)が放たれる。8本の虚閃(セロ)はその全てが高速で迫る神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)に交差するように命中する。

 八方からの虚閃(セロ)を浴びた上に、その全てが一点で纏まった虚閃(セロ)はバンビエッタの神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)を容易く穿ち、内部の爆撃(ジ・エクスプロード)に触れて爆発する結果となった。

 

「へぇ。すごい威力だね。当たらなければ意味はないけど」

「こ、の……!」

 

 自分の攻撃を悉く無力化しただけでなく、その後に憎まれ口を叩くルピにバンビエッタの怒りは留まる事を知らなかった。

 

「大丈夫おねぇさん? 怒りで前しか見えてないんじゃない?」

「はぁ!? 何を言って――」

「バンビちゃん! 下!」

 

 何を言っているのか解らないルピの言葉に対する疑問の声は、後ろから聞こえたジゼルの声で遮られた。

 ジゼルの声に反応したバンビエッタは思わず下を見るが、その時には遅かった。

 

「なっ……!?」

 

 空中に立つバンビエッタの足下に、ルピの触手が迫っていた。ルピは伸縮自在の触手を操り、怒りでルピしか見えなくなったバンビエッタの死角を突いて攻撃したのだ。

 

「ぐぅ!?」

 

 バンビエッタの足下まで伸びた触手から虚閃(セロ)が放たれる。無音の、構え無しの虚閃(セロ)だ。威力は多少下がるが、攻撃速度は音声ありの比ではない。

 虚閃(セロ)に呑み込まれたバンビエッタは静血装(ブルート・ヴェーネ)を起動させる事で耐え抜き、虚閃(セロ)の奔流から抜け出す事に成功する。そして自分をおちょくったむかつく敵を見やろうとして――

 

「ちょ――」

 

 自分の周囲を囲む触手の檻に目を見開いた。

 

「これも耐えられるかな? 王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)!」

 

 いつの間にかバンビエッタを囲んでいた8本の触手全てから、僅かに血が流れていた。ルピが触手から伸びる棘を利用して自ら付けた傷だ。何故そのような事をしたのか、その理由は王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)の使用条件にあった。

 王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)は血を触媒として放たれる最強の虚閃(セロ)だ。その威力は次元を歪ませる程に高い。そんな最強の虚閃(セロ)が、8本の触手全てから放たれたのだ。まともに受ければ骨すら残らないだろう。

 ルピは王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)を放った瞬間に触手の檻を解放する。触手をそのままにしていれば自分が放った王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)の余波でダメージを負ってしまうからだ。

 

「あははははは! ちょっとやりすぎちゃったかな!?」

 

 王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)が放たれた中心点で起こった巨大な爆発を見て、ルピが高笑いする。そして反省した。敵を倒すには少々過剰火力だったかと思ったようだ。

 だが、次の瞬間にルピは己の慢心を諌めた。過剰火力? とんでもない。まだ足りなかったようだ。

 

「へぇ……あれで生きてるなんて、やるじゃないか……!」

「はぁ、はぁ……!」

 

 そう、バンビエッタは生きていた。あれだけの火力を叩きこまれながら生き延びていたのだ。

 バンビエッタは王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)を放たれた瞬間に、全身から爆撃(ジ・エクスプロード)を放ち周囲を爆発させたのだ。そしてその威力で王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)を軽減させ、どうにか生き延びたのである。

 だがその代償は大きかった。あまりにも至近距離で爆撃(ジ・エクスプロード)を発動させたせいで自分自身も爆発によるダメージを受けた上に、その爆発すら突き抜けて王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)はバンビエッタを攻撃していたのだ。軽減したとはいえ、そのダメージは非常に大きかった。

 

「くそ……! じ、ジジ……!」

 

 大地に落ちて行くバンビエッタが、ジゼルに向けて治療を要請する。ジゼルはそれを無視してバンビエッタを殺し、バンビエッタをゾンビにしようかと一瞬模索する。

 ジゼルの能力で滅却師(クインシー)をゾンビにするには、一度殺す必要があるのだ。死神ならばその必要はないが、滅却師(クインシー)に対してはそうも行かないようだ。

 女性だけの部隊であるバンビーズにあって、ジゼルは実は女性ではなく男性だ。いわゆる男の娘という奴だ。そんな性別男なジゼルは、バンビエッタを性的な意味で気に入っていた。殺してゾンビにして可愛がってあげたいと常々思うほどにだ。非常に歪んだ愛情である。

 だが、この状況ではそうもいかない。ゾンビになれば大抵の傷を受けても問題なく動く事が出来るようになるが、単純な性能は落ちてしまう。今戦っている敵は間違いなく強敵だ。仲間の戦力を低下させて勝てるような敵ではないだろう。

 そう判断したジゼルはいち早くバンビエッタの治療を開始する。既に治療の準備自体は整えていた。ルピの強さを見たジゼルはバンビエッタの負傷を予想してあらかじめ近場の死体から肉を引き千切っていたのだ。

 

「はいはーい」

 

 そうしてジジは死体から千切った肉をバンビエッタに移植する。それを見て余裕の態度で戦闘を進めていたルピも驚愕していた。

 

「ええ? 何あれ気持ち悪っ!」

「奴らは死体を利用して肉体の損傷を再生させるのだ! 長期戦は不利だぞ!」

「そういう事は先に言ってよね!」

「す、すまぬ!」

 

 ルピに怒鳴られた狛村が思わず謝罪する。仲間でも何でもないので謝る義理はないのだが、律儀な性格のようだ。

 

「いい子ねジジ……。あんた、さっきは良くもやってくれたわね……!」

 

 ジゼルの治療を褒めた後、完全に回復したバンビエッタはルピに向かって怒りの表情を浮かべて吠える。

 そんなバンビエッタに対し、ルピは何度目かの挑発を行った。これ程挑発し甲斐がある相手はグリムジョー以来であった。

 

「お仲間に助けてもらえて良かったね、おねーさん? だから二人で掛かっておいでって言ったのに。人の忠告を無視するから痛い目にあうんだよ?」

「こ、こいつ……!!」

 

 ルピの挑発に怒り心頭になるバンビエッタは、思わずルピに向かって飛び掛ろうとする。だが、それを後ろにいたジゼルが食い止めた。

 

「ていっ!」

「つぅ! な、何すんのよジジ!?」

 

 自分の頭にチョップを叩き込んだジゼルにバンビエッタが文句を垂れるが、文句を言いたいのはジゼルの方だった。

 

「ちょっとバンビちゃん落ち着こうか? さっきから挑発に乗せられすぎじゃない? いい加減にしてくれないと、次はもう治さないよ? ねえ? 解った?」

「わ、解ったわよ……」

 

 ジゼルの思いもよらない迫力に気圧されたバンビエッタはその言葉に思わず頷いた。

 取りあえず暴走の心配はなくなったかと安堵するジゼルを見て、ルピは憐れんだように声を掛ける。

 

「仲間が猪だと大変だね、おねーさんもさ」

「そうなんだよねぇ。ほんと猪突猛進でさぁ」

「ジジ! あんたどっちの味方なのよ!」

 

 敵であるはずの破面(アランカル)と意見を合わせるジジに再びバンビエッタが怒り心頭になるが、流石に再びルピに突進しそうになる事はなかった。

 

「ジジ! 二人で()るわよ! 本気だしなさい!」

「はーい。ちょっと冗談言ってる場合じゃないみたいだしね」

 

 流石にこの状況で全力を出さない訳にも行かないとジゼルも理解しているようで、ようやく完聖体を発動させる。今までは疲れるから嫌だという理由で使っていなかったのだ。

 だが、敵はバンビエッタを一人で圧倒する強敵だ。このままでは自分も危ういと思ったジゼルは、全力を出してバンビエッタと協力してルピを倒そうと動き出した。

 

「行くわよ!」

「了解」

 

 完聖体となったジゼルとバンビエッタがルピに立ち向かう。一人一人が隊長格に匹敵、あるいは凌駕する実力者が、油断も慢心もなく二人掛りで向かって来るのだ。例え十刃(エスパーダ)と言えども分が悪いだろう。

 そう判断した狛村は今度こそルピに加勢しようとするが、それを察したルピが再び狛村を押し留めた。

 

「いいよ犬の死神さん。僕一人でやるって言ってるだろ?」

「何を言う! 貴公の強さは解ったが、あの二人を相手にしては貴公一人では!」

 

 貴公、などと呼ばれた事に新鮮さを感じながらも、ルピは破面(アランカル)の心配をする変わり者の死神の協力を拒否する。

 

「大丈夫だよ。言ったでしょ? 2対8だってさぁ!」

 

 そう叫んだと同時に、ルピは8本の触手を自在に操ってバンビエッタとジゼルを八方から攻撃する。

 だが、やはり8本の触手と言えど8人分の働きが出来る訳ではない。弱い敵相手ならばともかく、相手は滅却師(クインシー)でも屈指の実力者だ。手数で勝れども、手の内がばれれば対応されるのは当然だった。

 

「その伸縮自在の触手は確かに厄介だけど、それなら本体を狙えばいいだけの話だよねー」

「っ!」

 

 ジゼルが飛廉脚を駆使しながら触手を回避しつつ、神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)をルピに向けて放つ。

 ジゼルの言う通り、伸縮も操作も自在な触手が八方から変幻自在に飛び交ってくるのは厄介だ。だが、触手と違い本体は伸縮自在な訳がない。ならば触手の動きに捉われず、本体に攻撃を絞った方が良いだろう。

 触手はそれ自体が自立的に動いている訳ではなく、本体であるルピが操作している。つまり、ルピを止めさえすれば触手も止まるという事だ。自在に動かすにはそれなりの集中力も必要だろう。だが、ルピに攻撃を集中すればその攻撃に意識を向けざるをえなくなり、触手の操作が疎かになるだろうとジゼルは判断したのだ。

 

「やるね! そっちの馬鹿女よりも頭いいじゃない!」

「褒められてる気がしないんですけど?」

「あんたら! いい加減にしなさいよ!」

 

 戦いながらも自分を貶す二人にバンビエッタが何度目かの怒りを叩き付ける。当然叩きつける相手はルピだ。幾らむかついてもこの状況で仲間を攻撃する程バンビエッタは馬鹿でも直情でもなかった。

 

「死ね!」

「やだね!」

 

 バンビエッタが放った爆撃(ジ・エクスプロード)の弾幕を、ルピは虚弾(バラ)の弾幕で相殺する。両者の戦いの焼き回しのような光景が再び繰り広げられる。だが、確かな違いが存在していた。それはバンビエッタの援護をするジゼルである。

 ジゼルの能力である死者(ザ・ゾンビ)は、自らの血を浴びせた対象をゾンビにし自在に操るという恐るべき能力だ。だが、(ホロウ)が相手だと一時的にしか効果がないのが欠点であり、そして霊圧が高い対象だとより効果が出るまでに時間が掛かる。この状況ではルピをゾンビにする為に必要な血液を浴びせ、ゾンビになるまでの時間を確保するのは困難だろう。

 故にジゼルは、面倒だが死者(ザ・ゾンビ)ではなく滅却師(クインシー)としての基本戦闘技能でバンビエッタを援護した。

 

「これも防げるかな?」

 

 ジゼルの全力の力が籠められた神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)がルピに向かって幾数も放たれる。だが、ルピはバンビエッタの爆撃(ジ・エクスプロード)の対処に虚弾(バラ)を放っている所だ。

 虚弾(バラ)程度の攻撃力では神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)を止める事は出来ないだろう。相殺するには虚閃(セロ)クラスの威力が必要だ。それはルピも理解している。

 だが、神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)を相殺する為に触手の何本かを使うと、今度は爆撃(ジ・エクスプロード)を相殺する事が困難となる。それだけの弾幕をバンビエッタはばら撒き続けていたのだ。

 

「ちぃっ!」

 

 どちらかを防ごうと思えばどちらかが防げない。それを察したルピは咄嗟の判断で触手を短くし、響転(ソニード)でその場から移動して向かって来た攻撃を間一髪で回避する。

 そしてバンビエッタ達の上方へと移動し、バンビエッタ達に向けて8本の触手から同時に虚閃(セロ)を放った。

 

虚閃(セロ)!」

「しゃらくさいわね!」

「疲れるなーもう」

 

 ルピが放った虚閃(セロ)に対し、バンビエッタ達も神聖滅矢(ハイリッヒ・ブファイル)で対抗する。三者が放った霊圧の塊は空中でぶつかり合い、凄まじい衝撃が周囲に広がった。

 

「ちっ。二人なのにやるね。おねーさん達」

「あんたは八人掛かりでその程度なの?」

「バンビちゃん。相手の言葉尻を捕えて勝ち誇っているつもりかもしれないけど、相手は一人だからね?」

 

 ジゼルの言う通り、いくらルピが触手を数に数えた発言をしたとはいえ、実際には2対8ではなく2対1な事に変わりはない。つまり、バンビエッタ達はたった一人の破面(アランカル)を相手に勝負を決める事が出来ないでいるという事になる。勝ち誇れる事ではないだろう。

 

「う、うるさい! 勝てばいいのよ勝てば!」

「うわぁ。小物っぽい。そういうとこも好きだよバンビちゃん!」

「君達、余裕だね……」

 

 夫婦漫才を繰り広げる二人を見てルピが呆れるが、その実ルピは()()()()では勝ち目が低い事に気付いていた。

 バンビエッタ達は仲間同士で上手く互いの欠点を補うように動いていた。バンビエッタに足りない冷静さをジゼルが、ジゼルに足りない火力をバンビエッタが。どちらか片方に対処すればどちらか片方の対処が困難になる。複数の敵を相手にすれば当然の事だが、手数で負けるつもりがなかったルピとしては誤算だった。

 最大の誤算はやはりバンビエッタの能力だろう。霊子に触れただけで物体が爆弾と化すという、防御不能の恐るべき能力だ。それを放置する事が出来ず、どうしても虚弾(バラ)の弾幕を張らざるを得ない。それがこの二人を相手にする上でのネックになっていた。それがなければもっと攻撃によった戦術が取れるのだが。

 

「はぁ、仕方ないよね。ここで使うつもりはなかったんだけどなぁ」

 

 そう言って、ルピはここから少し離れた場所で戦っているグリムジョーがいる方角に目を向ける。

 

「あっちも戦いに集中しているから気付かれない……わけないよなぁ」

「何をぶつぶつ言ってるの? 念仏でも唱えているのかしら?」

 

 ルピの小声が聞き取れなかったバンビエッタは嘲笑しながらそう言い放つ。どうやら二人掛りならば負ける事はないと確信し始めたようだ。

 そんなバンビエッタに対し、ルピは嫌らしい笑みを浮かべて返した。

 

「念仏? 唱えてあげようか? 君達の為にね! あはははははははは!!」

「な、なにこいつ……」

「うーん? 狂っちゃった? それとも最初から狂ってたりして。死神助けに来る破面(アランカル)だし」

 

 ルピの突然の高笑いに呆気に取られるバンビエッタ達だったが、次のルピの言葉を聞いて二人の思考は真っ白となった。

 

「ねえ知ってる? 僕達の帰刃(レスレクシオン)が……死神の始解にあたるって事をさ!!」

『……は?』

 

 破面(アランカル)が死神と同じように斬魄刀を持ち、死神と同じように斬魄刀の力を解放する事は二人とも理解している。

 死神とは違い、破面(アランカル)の斬魄刀は破面(アランカル)の力の核を刀の姿に封じたものだ。その解放とは破面(アランカル)の真の姿と真の能力の解放を意味する。それは、二人とも理解している。

 だからこそルピの言葉の意味が一瞬理解し切れなかった。理解し切るのに、僅かな時間を要した。

 

 死神が始解する事で斬魄刀の力を引き出し、卍解によって真の力を解放する。この場の誰もが知っている周知の事実だろう。

 そして破面(アランカル)帰刃(レスレクシオン)は、今まで死神の卍解にあたるものだろうと何人かが予測していた。浦原喜助もそう考えていた程だ。

 だが違った。極限られた破面(アランカル)のみだが、帰刃(レスレクシオン)した後に更に刀剣解放を可能とする者がいたのだ。それがかつての第4十刃(クアトロ・エスパーダ)ウルキオラ・シファーと破面(アランカル)の王クアルソ・ソーンブラである。

 そして、クアルソに鍛えられた十刃(エスパーダ)達が、二段階目の解放を教えられてない訳がなかった。もっとも、会得した者は殆どいないが。

 

「ほんとはグリムジョーとの再戦の時に見せつけてやるつもりだったんだけどね! 特別に見せてあげるよ! これが僕達破面(アランカル)にとっての卍解! 刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)だ!!」

 

 ルピが叫んだ瞬間、ルピの体が変化した。8本の触手はなくなり、代わりに無数の蔦が周囲を覆う。蔓の数は数え切れず、そして覆い尽くす範囲もまた広大だった。

 

「な、なによ……これ!」

「聞いてなかったの? 刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)。僕達破面(アランカル)の二段階目の解放だよ。クアルソ様以外でこの姿を見るのは君達が初めてなんだ。光栄に思ってもいいよ?」

 

 バンビエッタの驚愕に対し、ルピはにこやかな笑みを浮かべて丁寧に教えてあげる。そこにあるのは、圧倒的な戦力差を得た勝者の笑みだった。

 

「さぁ、戦闘再開と行こうじゃないか。でもごめんねぇ? 2対8じゃなくて……2対無数になっちゃったよ。あはははははは!!」

「っ! この! 数が増えたくらいで! 的が増えたようなもんでしょうが!!」

 

 バンビエッタはルピの変化に驚愕しつつも、それを押し隠すように強がりを放つ。そして周囲に向けて出鱈目に爆撃(ジ・エクスプロード)の力を放ちまくった。

 照準をつけなくてもどこに撃っても命中する程に、ルピの蔦は周囲を覆い尽くしているのだ。もはや蔓による巨大な檻と言えよう。

 そうして強がりと共に放たれた無数の霊子球は、バンビエッタの想像通り出鱈目に放っても広大に拡がる蔓へと命中した。

 

「はっ! 数を減らせばその内刈り尽くせ……え?」

 

 確かに霊子球は命中した。ならば、次に来るのは爆発だろう。そう思っていたバンビエッタは、いつまで待っても起こらない爆発にその顔を青ざめさせる。

 

「な、なんで……なんで爆発しないのよ!?」

 

 防がれる事はあれど、爆発しないという結果は今まで一度足りともなかった。自分の能力が不発に終わった事など見た事も想像した事もなかったのだ。故に、バンビエッタは恐怖した。得体の知れない力を発揮したルピに恐怖し出したのだ。

 

「その顔……いいね。どこぞのマッドみたいだけど、そそられちゃうなぁ」

 

 バンビエッタの恐怖に歪む顔を見てルピが悦に浸る。クアルソから解放されたルピは趣味嗜好全開にしてのやりたい放題だった。

 

「あんた……一体何したのよ!?」

「え? なんでそんな事敵に教えなきゃならないの? 馬鹿じゃない君?」

 

 バンビエッタの疑問に対し、当然ルピが素直に答えるはずもなかった。敵に自分の能力を教える等と愚の骨頂。そんな事をすればクアルソからどんなお仕置きをされるか解ったものではないだろう。まあ、能力を使った上でばれるのは仕方ない事だが。

 

「バンビちゃん……! 多分、その蔓は霊力を吸収してる!」

「え? きゅう、しゅう……?」

 

 バンビエッタの疑問に答えたのはジゼルだった。ジゼルはルピの能力の詳細を暴こうと、バンビエッタの攻撃とルピの対応を事細かく観察していたのだ。

 そしてジゼルは見た。バンビエッタの霊子球がルピの蔓に触れた瞬間、いや、触れる前から霊子球の霊力を吸収して取り込んだのを。

 

 ジゼルの推測は正解だった。これがルピの刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)の能力。無数の蔓で敵を覆い尽くし、その蔓で内部の霊力を吸収するという魂魄の戦闘において厄介極まる能力である。

 あたかも植物が水を吸うように、無数の蔓は霊力を吸い上げる。その速度は凄まじく、バンビエッタの爆撃(ジ・エクスプロード)が発動するよりも早くに霊子球を吸収し尽くしたのだ。霊力が吸収されてしまえば、然しもの爆撃(ジ・エクスプロード)と言えども爆発する事は出来なかった。

 

「バンビちゃん! あの蔓に触れたら駄目だよ! 僕達の霊力まで吸い取られる!」

 

 ジゼルが焦りながらバンビエッタに的確な指示を出す。ジゼルの言う通り、ルピの蔓に触れれば凄まじい勢いで霊力を吸い取られるだろう。

 だが、ジゼルの指示は的確ながらも間違っていた。ジゼルはルピの能力を警戒しつつも、まだその警戒が足りなかった事に気付いていなかったのだ。

 

『!?』

 

 そしてその事にバンビエッタとジゼルは同時に気付いた。蔓に触れていないというのに、自分達から霊力が吸い上げられているのだ。

 

「ふ、ふざけないでよ! 触れていなくても霊力が吸い取られてるじゃない!」

「あはははは! どうしたの? 何をそんなに焦ってるの?」

 

 ルピの刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)は蔓の内部にある限り、その全ての霊力を吸い上げる。そこらにある霊子で出来た物質すら分解し霊力にする程の吸収力だ。それはある意味では滅却師(クインシー)の霊子の従属と似たような能力だった。

 違いがあるとすればただ一つ――

 

「こうなったら、こっちも全力で霊子を分解して吸収するわよ!」

「うん!」

 

 バンビエッタ達はルピの霊力吸収に対抗すべく、完聖体で底上げされた霊子の従属を全力で発動させる。

 滅却師(クインシー)にとって(ホロウ)の霊子は毒だが、一度分解しさえすれば問題なく吸収する事が出来る。だが、それには分解というプロセスを挟む必要がある。それがルピと滅却師(クインシー)の霊力吸収の違いであった。

 

「だ、駄目……追いつかない! 僕達の方が先に干からびるよ!」

 

 滅却師(クインシー)の力では一度霊子を分解する必要がある。だが、霊子強度が高い物質を分解するには時間が掛かる。そして、周囲にあるのは殆どがルピの蔓だ。その霊子強度は並大抵ではなかった。

 対してルピは一々分解などせずにひたすら周囲の霊力を吸い上げる。広大な砂漠が水を吸収するように、あたり一帯の霊力をどんどん吸い上げていくのだ。

 

「バンビちゃん! あいつを殺すよ! それしか方法はないから!」

「う、うう……」

 

 ジゼルはこの状況を打破する最適にして唯一の手段をバンビエッタに伝える。だが、当のバンビエッタは怯えていた。ルピの圧倒的な力に、自身に迫り来る死に怯えていたのだ。

 バンビエッタが戦う理由の大半は、死にたくないからという理由で占められている。見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)では役立たずが生きる場所はない。死にたくないから強くなり、死にたくないから戦い、死にたくないから勝利し続けてきたのだ。

 だが、今まさに死を目前とした事でバンビエッタからいつもの勝気な性格が消え、臆病な性格が浮かび上がっていた。あるいはこれがバンビエッタの素の性格なのかもしれない。いつもの勝気な態度は本心を隠す鎧のようなものだったのかもしれない。

 だが、そんな事情はジゼルには関係ない。ジゼルとて死にたくないのだ。その為には、この状況を打破するには、バンビエッタの協力が必要不可欠なのだ。

 

「バンビちゃん! 何してんの!? 早くあいつを殺さないとバンビちゃんを殺してゾンビにするからね!?」

「ひっ! ご、ごめんなさい! やるから……! あいつ殺すから怒らないで……!!」

 

 いつもと違うジゼルの恫喝に身を震わせたバンビエッタは、死にたくない一心でルピに向かって突撃する。敵を倒せば生き残れる。あのままだと敵に殺される。そればかりかジゼルに殺される。そう判断したバンビエッタは、ルピを倒す事のみに集中する事で恐怖を抑えたのだ。

 

「ふーん。中々に歪んでるね君達。まあいいけどさ。ところでさ……2対無数って言ったの覚えている?」

「え?」

「な……」

 

 ルピに突撃していたバンビエッタも、その後ろからルピの隙を衝こうとしていたジゼルも、ルピの言葉と周囲の蔓の変化にその身を震わせる。当然、恐怖と驚愕でだ。

 今まで周囲を覆うだけだった蔓が、一斉に動き出したのだ。そして、四方八方から一斉にバンビエッタとジゼルに襲い掛かった。

 

「あはははは! 動かせないと思った? そんなわけないじゃないか! この蔓は僕の触手が変化、いや、進化したものなんだよ!? 自在に操れて当然だろう!」

「あ、ああ……!」

「こんな……! 死なない……! 僕は、こんなところで……!」

 

 無数の蔓に絡め取られたバンビエッタ達は身動き一つ取れないでいた。そして、急速に霊力を吸収されていく。このままでは霊力が枯渇し、気絶してしまうだろう。そうなれば待っているのは確実な死だ。

 どうにかしなければならない。バンビエッタは体から爆撃(ジ・エクスプロード)の力を放とうとし、ジゼルは口を噛み切って血を流し、ルピの蔓を何とかゾンビ化出来ないか試みる。

 だが、それら全ては徒労にもならなかった。ルピは、バンビエッタ達が何かをする前に、一瞬で決着をつけたのだから。

 

「じゃあね。虚閃(セロ)

『――!?』

 

 バンビエッタ達を絡め取っていた蔓とは別の無数の蔓から、無数の虚閃(セロ)が放たれた。敵の霊力を吸収し尽くすまで待っても良かったが、何かしらの手段でこの状況を引っくり返されても面白くない。

 下手に余裕を見せると敵に逆転の隙を与えるだけだとクアルソから教わった事を思い出したルピは、バンビエッタ達が抵抗する前に勝負を終わらせたのだ。

 そうしてルピが放った虚閃(セロ)は無防備なバンビエッタ達に直撃する。二人は静血装(ブルート・ヴェーネ)を全開にして耐えようとしたが、それだけでルピが放った無数の虚閃(セロ)を耐え抜く事が出来る筈もなく、敢え無くその意識を奪われる事となった。

 

 




 ルピの戦闘シーンが一番長くなるとは……。このとんぱの目をもってしても見抜けなかった(節穴)。

 というわけで出てきたルピ君の二段階目の解放。これでグリムジョーをぼっこぼこにしてやるぜ! というのがルピ君の意気込み。

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