………………空気がぬるい。
やぁ、俺の名前は坂崎奏太(さかざき かなた)。
歳は19。イケメンかどうかと聞かれれば迷わずイケメンではないと答えてしまうだろう。それもそのはず、今まで生きてきた中で一度も彼女という存在がいなかった男なのだから…
ま、まぁそれはそれで別に構わない。なにせそれは幻想郷の外での話だからだ。しかし俺はこの幻想郷にきてしまったのだ(少し里を見回っただけでも可愛い娘が多い)。ここで可愛い彼女をつくらなくて何をしろというのだ!イケメンではないにしろ彼女の一人くらいすぐにできるだろう…
と、ここに来た当初はそういう考えを持っていた。
…だがその考えもすぐに捨てることになる。
俺とほぼ同時期に幻想入りした外来人…名前はAとしておこう。そいつが幻想郷にきて一週間程度で彼女をつくりやがったのだ。初めのころは俺も「お、おめでとう」なんて言ってたが、今ではリア充爆発しろ!としか思えない。
まぁ、大体わかったと思うが俺には未だに彼女たる存在がいない…幻想郷には女の子が多いはずなのに!一年もたつのに!……………はぁ。
そんなこんなで俺は今自宅にてAのようなモテ男になるための作戦、というか、そんなものを練っていた。
―――コンコン
集中している俺の耳へ、来客を告げる音が聞こえてくる。
誰だよ、いま忙しいんだけど…そう思うが、声には出さずに静かに家の戸を開ける。
「元気か?心配だったから見にきたんだ」
そう言って入ってきたのは、里の守護者、上白沢慧音さんだった。
里に居る人達が安心して暮らせるのはこの人がいるから、といっても過言ではないと思う。
「なんで慧音さん自ら来るんですか、俺なんかのところにきてもなんの面白みもないでしょうに」
そう冷たく当たってみるが、彼女は関係ないといった様子で家に上がってきた。
その際、綺麗な青のメッシュの入った銀髪につい見惚れてしまうが、そうもいかない。彼女ほどの美人な女性なら周りの男どもは常に目を光らせているはずだ。それに噂によると、彼女はすでに想い人がいるらしいのだ。そんな人に対して変な考えを持つわけにもいかない。
ということで、うっかり『俺が』惚れてしまわないように冷たく接することにしている。
彼女がここに来た理由は大体検討がついている。
畑仕事が苦手な俺はほとんどが自宅で内職のようなことをやっている。―――苦手なだけであって本気を出せば楽勝、いやむしろ余裕、なはず。
そのため中々家から出ない俺を心配して来てくれてるとか。うれしいのか、帰ってほしいのか変な気分だ。
まぁ、いいか。
考えるだけ無駄だ。そんなことに時間を使うなら引きこもっていたほうがまだましだ。
彼女の分のお茶を用意すると目の前に座る。さて、今回はどんな話だろうか。彼女が来て話すことといえば初めは毎回違うが、最終的には外に出て働け、という内容におさまってしまう。美人を前に贅沢は言えないが退屈な時間である。
しばらく二人とも茶をすすっていたが、ふと慧音さんが口を開いた。
「あぁ、そうそう……今回も畑仕事以外の仕事をいくつかもってきたから紹介しようと思っていたんだが……」
そういって何か言いづらそうな表情を浮かべる。
「……?…慧音さんにしてはえらく歯切れが悪いですね」
慧音さんは寺子屋の先生をしていたり里の大事な会議みたいなものにもよく出席しているらしい。そのため、もっとはっきりものを言う人だと思っていた。
「ふふ、君はよく私のことを見ているな、観察力に優れている、とでも言ったほうが良いか…」
いやいや、つまるところ何を…
自分でも気づかないうちにしかめっ面になっていたようだ。いかんいかん。
「まぁ、そう焦るな。君が引きこもってる間に一つ悪い事件があってな…
内容なんだが里に住んでいる者が三人も失踪している」
「失踪?原因はわかっているんですか?」
慧音さんは首を横に振る。
「この突然の失踪には十中八九妖怪が絡んでいるはずだ」
…突然の失踪?妖怪?なーんかいやな予感がする。
「そこでだ!」
うおっ!びっくりした…
「君にこの幻想郷を巡って原因を調べてきてほしいんだ!たのむ!」
………………………………………………………は?
訳がわからず一瞬思考が停止してしまった。
空気が凍ったような、時間を止められる能力を持った奴がいるとしたら毎回こんな感覚を味わっているのだろうか………ゾッとしねぇな。
「い、いや何言ってるんですか!何か特殊な能力を持った人間ならいざしらず俺なんて凡人も凡人、歩くだけで息切れするような凡人の鏡ですよ!」
「ふふっ!歩くだけで息切れなんて可愛いことを言うんだな君は。そんな人間じゃないことは君が一番よく分かっているはずだが?」
うっ…
ま、まぁ確かに人里の中で俺はかなり体を鍛えている部類に入っていると思う。
里に入った当初、畑仕事を頑張る事と女の子にモテるというたったそれだけのために半年以上鍛えてきた。
幻想郷に来る前も運動はできていたほうだし、割となんでも器用にこなすことができた。
だがモテない、やはり顔なのか……
「里のおっさんたちにはごつさでは負けますけどね。というかそんな話おっさん連中に頼んでみたらどうです?俺なんかよりよっぽど頼りになるはずですよ」
「うむ、君はそう言うが彼らにもそれぞれ役回りというものがある。そういったものを背負ってなくて円滑にこなせそうなのは君しかいないんだ」
「………………」
成程消去法ですか。まぁ、慧音さんは俺が里にきてから色々と世話になった相手でもある。
こんなにお願いされてるんだから聞いてやってもいいんじゃないか?…俺。
つまらない、ありもしないプライドなんて捨てて里の外に…………どうせ消去法だし。
………………ん?里の外?
「あー!その手があったか!」
「む?どうかしたのか?」
「俺、受けますよその話!里の中で彼女ができないなら幻想郷を巡って探せばいい!」
こうすることで俺は慧音さんの頼みを聞いてついでに幻想郷にいる(かもしれない)運命の相手を探せるのだ。
地図なんかはモテ男Aに頼んでもらえばいいし、心配なことは特にない。
そもそも里の外という危険地帯に行かなくても彼女ができるのはAぐらいなもんだろう。
「受けてくれるのか!?…それよりさっき彼女がどうとか聞こえたんだが…」
「ええ!受けます!その、彼女がどうとかの話は忘れてください、恥ずかしいので」
「わかった、本当に助かるありがとう。この後は色々と用意するものもあるだろうから私の部屋に…」
「いえいえ、用意するものなんて地図くらいなもんですし、あとはこの身一つで何とかやっていきますよ」
善は急げとはよく言ったもので、もう俺は慧音さんと話しながらも用意という用意はほとんど終わっていた。俺の今の目標は幻想郷の探索と彼女探し、どちらが善かなんてものは言うまでもないが。
「ちょ、ちょっと待て今の君では下級の妖怪でも…」
慧音さん、心配してくれるのは嬉しいけど、
「そういう心配は慧音さんが本当に好きなやつにだけ向けてやってください」
俺の精神衛生上にもよくないから、そうと決まればとっとと行くか。
「だ、だから私は本気で……!」
「大丈夫ですよ、慧音さん。俺、逃げ足だけは最高に速いんで!」
そう言って俺の幻想郷巡りの旅が始まった。
よろしくです。