東方幻想郷巡り   作:北風北

5 / 8



きょうもにとりがかわいいなっ!


俺とにとり

 

 

たどり着いた先にはにとりから聞いた通りの小屋があった。見た感じでは人里にある建物と何ら変わらない感じなのだが、本当に妖怪がよってこないのだろうか。

 

そもそも妖怪に襲われたことのない俺に言わせてみれば、にとりなんかはただの女の子だ。少し怖い雰囲気を出すこともあるけど、それを抜けば本当に人間の女の子と変わらない。こんな女の子でもこの山に住めるという事は理性のない下級の妖怪なんてものはあまり存在せず、にとりのような人の姿をした妖怪がほとんどだということだろうか。

 

そうなるとますます人里で話に上がっている『里の外に行ったら危険な妖怪に襲われる』という話は半分嘘なんじゃないかと思えてくる。

 

でも今ここでそんな考察をしていてもあまり意味は無いと思う。

里から出て少ししかたっていないが里の外という新鮮な空気を吸っているうちに、当分帰らなくてもいいか、なんて考えが出てきてしまう。なんというか、里の中の空気は重すぎたのだ。閉鎖的というか外とのつながりをすべて拒絶しているような······

 

と、ここまで考えたところである人物に呼ばれていることに気づく。まぁ、当然にとりなのだが。

 

 

「盟友! 盟友! 何やってるのさっ! 玄関なんかに突っ立ってないで早く中にきなよ!」

 

 

にとりはさっきまでの間俺が全く反応しなかったせいか、両手を振りながら奥でピョンピョン跳んでいた。思わずその姿を見て可愛いな、と苦笑してしまう。俺はロリコンじゃないけど。

 

 

「むー、なんで笑ってるのさ!」

 

 

そう言って俺の傍まで歩いてくるにとりがなんだか可愛くてつい頭を撫でてしまう。

里の中では基本的に引きこもっていた俺だが何も根っからの引きこもりという訳では無い。相手と場所にもよるが、普通に社交的に接することも出来る。里にいる人たちには悪いがにとりは接しやすい方だ。出会って今までの短期間で結構仲良くなったと思うし、何より話しやすい。対して里の中の重苦しい空気と言ったら··········

 

まぁ、それはいいとしてそろそろにとりの話を聞かないと怒られそうだ。

にとりは少し言いにくそうにしながら、部屋に入り腰を下ろす俺を見ると話しかけてきた。

 

 

「そう言えばなんで盟友はあんなところにいたんだい?」

 

 

当然聞かれるだろう質問の答えに俺は思わずつまってしまった。もともと、慧音さんの依頼を受けるという事で危険な里の外まで来ている事にはなっているのだが、俺個人としては可愛い彼女を探すという目的の方が上だったのだ。そのため、にとりの純粋なただの質問の答えに困ってしまったというわけだ。

しかし、こうやって頭の中で冷静に考えると簡単な話で、単に慧音さんの依頼の方を話せばいいのだ。

 

そして、慧音さんから聞いた里の人間の行方不明者が出ている、という事とその調査のためにこうして暇な俺が駆り出された、という事を伝えるとにとりは目を見開いて驚いていた。

 

 

「いやいや、それは少しおかしいと私は思うんだけど……」

 

 

考え込むにとり。その様子を見ながら俺も考えてしまう。

 

 

「まぁ、確かに失踪している人がいるのはおかしいと思うけど……」

 

 

いや、だから、と深刻そうな顔で言葉を区切ったにとりの表情は見る見るうちに深刻そうな表情になっていく。

一体どうしたんだろう、俺がそう言葉を発するよりも速くにとりが口を開く。

 

 

「そうじゃなくって、なんでそんな里の危機をただの人間の君に任せたのかって話だよ。見たところ盟友は霊力なんてホントにあるのか分からないくらいの量だし、妖力や、ましてや神力なんてものは微塵も感じられない。最近の人里は何か変だと思っていたがまさかここまでとはね……」

 

 

流石は河童でかなりの力を持つだけはあるにとりだ。里の外からでもやはり閉鎖的な里の態度は怪しく思っていたようだ。

 

 

「もしかして盟友を送り出したのは慧音だったりする?」

 

 

俺が自分の、本当に言葉通りの無力さに少々ガックリと肩を落としていると不意ににとりの方からそんな質問がかけられた。慧音さんの名前が出たという事はにとりと慧音さんは知り合いなのだろうか? 何にせよ里の守護者、というだけあって里の外にも慧音さんの顔は知れ渡っているのか。

 

 

「……え? あぁ、慧音さん? まぁ、確かに俺にその話を持ちかけたのは慧音さんだけど……」

 

 

俺がそういうと同時に、にとりは深くため息をつくと人を安心させるような微笑みを浮かべて俺を見る。

 

 

「盟友。盟友はさ、今の幻想郷についてどのくらい知ってる?」

 

 

いきなりの質問に少し戸惑う。それに今の幻想郷についてと来た。俺は幻想郷に来てまだ1年ほどしか経っていないし、そもそもだいたいを家の中で過ごしていたので幻想郷の様子など分かるわけもない。それをにとりに話すと頷いて話を続けてくれた。

 

 

「今の幻想郷はね、前とは少し違うんだ。前と言っても数年前からなんだけど、今じゃあ弾幕ごっこをやってる妖怪なんてほとんどいないんだ。」

 

 

弾幕ごっこ。聞いたことくらいある。確か幻想郷のバランスを保つためだとか、人と妖怪を平等にする為だとか、そんな感じでつくられたルールなはずだ。

 

 

「なら、今の幻想郷はそのルールが適応された状態じゃあないってこと?」

 

 

俺が聞いた弾幕ごっこの説明が正しかったならば、今の幻想郷は人も妖怪も無差別に争っていることになる。

 

 

「うん、そうなるね。でも、なにも幻想郷が無法地帯になった訳じゃないんだ。現に私は外を歩いてたわけだしね」

 

 

「ん? じゃあある程度の力を持った妖怪や人なら外を歩いても襲われる心配はないってこと?」

 

 

人里は言葉の通り人間の里であるため、言ってしまえば力を持たない者達の集団である。妖怪の方が持っている力は大きいから、人間たちは自己を守るために弾幕ごっこがなくなった幻想郷では閉鎖的になるしか無かった、ということなのか。で、里の外をうろつける人間は元々かなりの力を持った人間か、特殊な力を持った人間に限られるということになる。

 

 

「うん、少々襲われても平気ってくらいの力を持ってるならの話なんだけど、さっきも言った通りなんの力も持ってない盟友を慧音が外に送り出したってのが気掛かりなんだ。」

 

 

「……まさか、本当の理由は引きこもりで大して里の役にもたってないからとかじゃ……」

 

 

うーん、慧音に限ってそんな事はー……とか何とかいいながら考えているにとりを今はよそに置いておいて俺も考え始める。にとりは幻想郷が無法地帯になった訳じゃないと言っていたけど、それはつまりにとりのような人間に対して好意的な、尚且つ力を持った妖怪が幻想郷を警戒してくれているからなのかもしれない。

慧音さんが俺を外に出した、もとい調査に選抜した真偽は定かではないが俺にとって、又は里か慧音さんにとっての何か利益となる事があるのか…………まぁ、俺みたいな凡人がいくら考えたところで分かるわけもないのだけど俺が最初に思い浮かんだ里の利益になっていない人間だからという理由だったらマジで泣ける、いや死にたくなる。

 

 

「……あっ、そう言えば失踪してる人間もいるんだって?」

 

 

にとりからそう言われてハッとする。すっかり忘れていた。調査調査とばかり言ってしまって肝心の失踪者の存在が頭から消えかかっていた。

 

 

「あー、そうだ。慧音さんから聞いた話によると何人か居るらしんだけど……」

 

 

「ん? 盟友はその人間達を知らないの?」

 

 

ああ、引きこもってたから里の奴らなんてほとんど憶えてない、失踪してるやつも漏れなく!……なんて言えるはずもない。妖怪相手と言えど小さい女の子相手に俺は引きこもってました、とは言えない。いや、にとりに限らずなるべく他人に話したくない。普通に恥ずかしい。

 

 

「ああ、恥ずかしながら俺自身里で顔が広かったわけでもなかったから失踪者についてはどこの誰かっていうのは把握してないんだ。」

 

 

「ふーん、そうなんだー……」

 

 

「ん? なんかきになることでもあった?」

 

 

にとりが言っていたことだが人間と河童は盟友らしい。なのでにとりの反応を見る限り人里に知り合いでもいたのだろうか、なんて思ってしまう。思ってしまったのはしょうがない、気になったのでその事についてにとりに聞いてみた。

 

 

「人里に知り合い……? ああ、いや知り合いっていう知り合いはいなかったよ。今は幻想郷にいないけど、私がよく覚えている人間は1人だけだからね!」

 

 

ああ、なるほど。人里や人間の話をしていたらその大切な人を思い出してしまっていたと言うことかな。自慢げに話すにとりが可愛かったのでついつい微笑んでしまう。

 

 

「にとりはその人が余程好きなんだな〜」

 

 

「す、好きって…………そんな、まぁ、好きなのかな? えへへ」

 

 

頭を撫でようかと思ったが、好きでもないやつに撫でられるって俺だったら嫌だな、そう思いやめておくことにした。最も男を撫でるやつなんていないと思うが。

 

 

「あのね、その人はね! 川で溺れてた私を助けてくれたんだ!」

 

 

河童が川で溺れるとはこれ如何に、そう思うが口に出さずに話の続きを黙って聞くことにする。

 

 

「勇敢でカッコイイんだよ!………………でも」

 

 

……? 何かあったのだろうか?

 

 

「……あの人、私を助けた時に大怪我しちゃったんだ」

 

 

「それって命に関わるような怪我だったのか?」

 

 

「うん、結構危なかったんだ。だから応急処置だけ施した後に私達河童の住処まで運ぼうと思ってたの。そして、連れていっている最中にあの人は消えちゃったんだ。」

 

 

消えた、外の世界に飛ばされたのだろうか。だがそんな話は聞いたこともないし、そもそも、俺の知ってる限り外の世界に帰るためには博麗神社に行くしか方法はなかったはずだけど……

 

 

「あれから十年かぁ、また会いたいなぁ…………………………。」

 

 

そう言うにとりを見ながら部屋の空気が沈んでいくのがわかった。相手は河童の妖怪とはいえ女の子なのだ、こういう時に気の利いた一言を言えない自分に腹が立つ。と、その時。

 

 

グゥゥゥ〜

 

 

腹が鳴る。当然俺の腹である。おいおいマジか、勘弁してくれ。今はそういう空気じゃない。と言うかそもそも最初は幻想郷について話していたからこういう空気じゃ無かったんだ。やはり俺みたいなのが女の子の事情に色々口を出すものじゃないって事をよく実感する。ついでに腹の音も出てこないで欲しかった。

 

 

「…………あっ、ごめんね!すぐご飯用意するから先にお風呂に入ってて!」

 

 

おっ、風呂に入らせてもらっても良いのかな。それにご飯も作ってもらえるとは、新婚夫婦みたいだ、なんて今は口が裂けても言えない。今じゃなくても絶対言わないが。

 

 

「ありがとう、じゃあお先に失礼するね。」

 

 

にとりに礼を言うと教えてもらった通りに部屋の通路を進み、風呂場へと到着すると上着から脱ぐ。にとりに悪いので普段よりも静かに風呂に入る。自分ひとりだったら何も気にしないのたけど。

 

 

 

風呂から上がると鼻歌を歌っているにとりが居た。もうご飯は出来ているようで、座って待っていた。メニューは白ご飯と、キュウリの漬け物、キュウリのサラダ、キュウリと魚の丸焼き、って丸焼き!? いや、魚はいいけど、キュウリ!? 少なくとも俺は食べたことは無い。まぁ、そんな感じてキュウリのオンパレードだった。作ってもらった身で色々言いたくはないが、机の上にキュウリを使った料理がこんなに並んでいるのは初めて見た。でも、なんと言うか、今からご飯だからかわからないけどにとりめちゃくちゃ機嫌よくなってる。やっぱり笑顔が一番だ。

 

 

「見ず知らずの俺にご飯まで作ってくれてありがとう。本当に感謝だ。」

 

 

自分になにかしてくれた相手に対して礼を言うのは基本だ。俺はにとりの反対側に座る。

 

 

「見ず知らず……? もぅっ!冗談が好きなんだね! か、かなたっ!」

 

 

顔を真っ赤にしながらそんなことを言ってくるにとり。…………………………ん?俺、にとりに名前教えたっけ?いやまぁどっちでもいいんだが問題はそこじゃない。

 

 

「にとり……? 俺のこと名前で呼ん……」

 

 

「か、かなたはかなたでしょっ!私、何も間違ったこと言ってないよ?」

 

 

いや、それはそうなんだけど……

色々とにとりの雰囲気がおかしい。

 

 

「いや、だから……」

 

 

「かなたは私と一緒に暮らすのは、いや?」

 

 

……暮らす!? 何をどうやったらそこまで話が発展するのかわからない。泊まらせてはもらったとしても、ここで暮らす気は無い。

 

 

「俺はここで暮らす気は……」

 

 

「無い、なんで言わないでね。かなたからそんな事言われたら、私、消えちゃうかも……。」

 

 

そう言いながら近寄ってくるにとり。訳もわからないまま俺は動けず、俺はにとりに抱きつかれる。にとりの手のひらが服越しに俺の背中を探り始める。

 

 

「あっ、あった。この傷、あの時はずっと看てられなくてごめんね。もうこれからはずっと一緒だよ。こんな幻想郷でかなたを守れるのは私しかいないんだから……」

 

 

ドォォォン!!

 

 

「!?」

 

 

瞬間、起きた爆発の衝撃に俺の意識は掻き消された。





今回は多かったです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。