今の幻想郷は比較的過しやすい季節だ。真冬のように朝から寒さに震える必要も無く、夏のようなうだる暑さも無い。今の幻想郷は春である。なので目が覚めた俺はそういう気温的な、または気分的なものに邪魔されることなく俺用に割り当てられた部屋を出ることが出来た。
傍から見たら自然な動きをしているようだが、俺自身は結構体を重く感じていたりする。その事について先日聞いてみると、ただの人間が神の恩恵を直接受け取ると言うのはかなりの負担なのだという。それも俺の場合は体へのダメージが大きかったため尚更らしい。微かに頭が痛むのと体が重い。これだけ聞くと、熱でも出したんじゃないかと勘違いしてしまいそうだ。
そんなことを考えながら十歩程外に向かって歩く。軽く神社の建物を一望できる位置を探すため、更に神社を見ながら遠ざかる。まぁ、一望と言っても俺は飛べる訳では無いので見える景色は限られるのだが。丁度、守矢神社と書かれている文字を見ていたところで近くから声がした。
「わわっ! かなたさん! こんなところまで出てきて何やってるんですか!」
振り返ると早苗さんが慌てて声をかけてくる。
「あ、いや、特に何をしようという訳では無いんですど……。そうですね、あまり動いてはいけないようなので朝のいい空気でも吸うついでにこの神社の外観でも見ておこうかと」
思った通りのままに言ってみる。早苗さんたちからは砕けた話し方でもいいとは言われたが、神様が相手ということでかなり気が引ける。にとりのような相手ならともかく、俺にはそんな胆力は無い。
「とにかく次からは私たちの目を盗んでこんなところまで来ないようにして下さいね!」
「は、はぁ」
別に目を盗んでとかそういう訳ではなかったのだが……。丁度出会わなかっただけではないのだろうか、と思ったりするが口には出さない。
「神奈子様達にバレたら怒られますね〜」
う、それは嫌だな。神奈子さんと諏訪子さんのお二人、神奈子さんは普通に接することが出来るが、諏訪子さんの方がどうも俺にくっついてくるのだ。自意識過剰ではないと思いたいが。それに俺も、嫌われるより好かれたいとは思っていた。だが、いい意味で打ち解けるのがここまで早いとは思わなかった。正直、初日とその次の日は諏訪子さんにくっつかれる度にずっと心臓がバクバク言っていたと思う。小さい女の子相手に、なんて思うかもしれないがこればっかりはしょうがない。相手は神様兼美少女なのだ。ロリコンではなくてもあの可愛さは正直反則だ。なので、俺にくっついている時は大方俺をカイロか何かと勘違いしてるに違いない、そう思うことにしている。
「あっ、かなた」
目の前に神奈子さんと諏訪子さんが現れる。
「す、諏訪子さ……」
「ねぇ、かなた。どこかに行こうとしてたの……?」
「……いや、全くそんなつもりは無かったんですけど……」
「……ほんとに?」
諏訪子さんの雰囲気が何だか怖かった。俺は特に気に障るようなことはしていないはずなんだが……。少し考えた後に一つだけ頭に浮かんだことがあった。
「あっ、ここでは朝起きたら一度居間に顔を出すルールとかが……」
「あ、うん、……じゃあそうしようか!」
なんと言うか、守矢神社にこういう決まりは無かったようだ。何故に即決されたかは不明だが、そういう事なら次から守ろうと思う。
「かなた!早く中に入ろ!」
「す、諏訪子さん、そんなに引っ張ったらこけますって」
「うーん、諏訪子って呼んでほしいんだけどな……」
俺の右手をグイグイ引っ張りながら俺を神社の中へと引っ張り込む。先程から神様だとばかり言っているが、一度こういう姿を見てしまうと人間も神も関係ないんじゃないかって思ってしまう。まぁ、そんなことは当然ないのだが、そういう諏訪子さんの姿を見ていたら心があたたかくなる。
「諏訪子様〜、待ってください〜」
早苗さんの声を後ろに聞きながら、俺はこの不思議な感覚を心に刻んでおこう、そう決めたのだった。
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はるか昔、大和の国が生まれるより少し前。一人の神が治める国があった。
洩矢の王国、その名の通り洩矢諏訪子本人が王として国を導いていた。そしてミシャグジ様という、豊作や軍事などの祟り神の力を操れる存在も同時に神である諏訪子だけだった。
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「ミシャグジ様の事、少しでも蔑ろにいてはいけないよ」
私は、小さい頃からよくいわれたこの言葉を生涯忘れることはないだろう。それはこの国に住んでいるものなら皆、知っている事だ。私たちの住んでいる国、洩矢の国は、ミシャグジ様という神様がいる。少しでも蔑ろにするとあらゆる祟りを起こしてしまうこの神様の存在はこの国を守ってくれるものでもあり、民にとっては恐怖やそれに似た感情を起こしてしまうものでもあった。信仰心を持っている民たちであっても自ら進んで干渉しようというものはいなかった。
そこで私は何としても神の正体と民の統制法を確かめようとした。神など誰かの祭り上げた架空の存在で、裏で何をしているのか知りたくなったのだ。生まれてこのかた祟りなんてものを見たことがない。祟りはあった、なんて言っているのはお年寄りぐらいなものだ。
とにかくその日、私は神の領域とやらに干渉することにしたのだがその場所には何もいなかった。強いていうとすれば、蛇が一匹少しこちらを見つめて逃げていったくらいなものだ。また明日、いってみることにする。
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ある、一つの気配がした。人間だろうか。ゆっくり近寄って来るのがわかった。影から覗いてみると、案の定人間だった。それにあの人間、昨日私が見た人間と同一人物だ。昨日と今日と何をしに来たのだろう。毎日こられては面倒なので、警告しておくことにする。
「おい、人間。ここで何をしている」
私は人の姿をとって目の前の人間に話しかける。すると少し驚いた表情をするとこう言った。
「あ、女の子だ」
なんだこいつは。私の目の前の人間に対しての第一印象はそれだった。私は呆れた。その人間の様子を見る度に、私に害をなすものではないと分かったからだ。オドオドしてなにを話そうか頭の中で考えている様子だったからだ。まるで迷子の子供に対してかける言葉でも探しているような……
「あ、ごめんね。この国の神様を一目見ようと思ってここまで来たんだけど……。皆には内緒にしてくれると助かるな」
なるほど……………………………………私の事か。
「この、無礼者! ! 神を愚弄するのも大概にしろ!!!!」
私が力を少し出してしまった衝撃で、周りにいたはずの動物達が皆逃げていったようだ。そんな静かな空間で、一人の人間の笑い声が聞こえた。男は衝撃によって、先程までいた場所とは少し遠い場所まで飛ばされていたようだ。笑い続けている男の元に歩いていくと、笑いの止まった男がゆっくり起き上りこちらを見てこう言った。
「神様、実在したのか……。それにこんなかわいい女の子だとは」
どうやら男は神の存在を信じていなかったらしい。少し頭にきたが、もはやここまで来ると相手にするのも鬱陶しいので早々と姿を消して立ち去ろうとする。するとそこで男が私を呼び止める。
「私の名前は『カナタ』と言います。また、明日も来ていいですか?」
もう疑問は全てなくなったとでも言わんばかりの眩しい笑顔でそう言う男の顔を見ていたら、拒絶するタイミングを失ってしまった。返事もせずに消えてしまった私のいた場所に向かって、軽く手を振り続ける男の姿がその日は頭から消えなかった。
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最近寒すぎます……ガクガクブルブル
神様のお話、次話も少し入ります。