諏訪子とかの設定では結構独自の解釈が入っているかもです。
私は、神と呼ばれる存在だ。しかも祟神という枠に入る私の存在は、民からはあまりいい印象は見受けられない。しかし、それこそが私のような神の居場所なのだと、そう思って今まで存在してきた。皆があまりここへ来ないのが信仰心によるものなのか、恐怖心によるものなのか……。どちらにせよその民の心により、私という一人の神が存在できているのだ。だから私はこれから何十年も、この国が続く限り一人でこの国を見続けるものだと思っていた。
だが、人間というものは不思議なもので、ある日私に近づく人間が現れた。どうやらその人間は神という存在を信じきっていなかったようで、最初の印象は神に対してなんと無礼な人間なのだろうと思ったくらいだ。
人間と話したのはいつぶりだったろう、鬱陶しい風を装って接していた私だったが、その人間が来て私に話しかける姿を見る度に私の心は暖かくなっていった。
その男は名をカナタと名乗った。覚える気など無かったが、やはりこれもすぐに頭に入ってしまった。毎日毎日来るのは流石に反則だと、笑って言ってやった記憶がある。
カナタが私の元に来て必ず一度は口にする話があった。それは人間も神も共に笑いながら暮らせる世界に行きたいという話。そもそもそんな世界はあるのか、とその時の私は思っていたが、現に私とカナタがこうやって会っているのだ。もしかしたらそんな世界、そんな場所があるのかもしれないと思った。そして本当にそんな場所があったら私も行ってみたい、そうカナタに言った。それを聞いた時のカナタはとても嬉しそうだったのをよく覚えている。
それから私はカナタと毎日話をした。どんな話でもカナタと話していたら楽しかった。そして私は信仰以外で人の暖かさを知ることが出来た。私の国の民のことも、もっと好きになっていった。
ある日、毎日来ていたはずのカナタが来なかった事があった。その日もたくさん話をする予定だった私は急に不安になった。もしかしたら何か事故にでもあっているのではないか、と。
次の日も、その次の日もカナタは来てくれなかった。流石に気になって仕方がなかった私は、その日カナタの元へ行くことにした。私はカナタの住む家に行ったことがなかったため、探すのには苦労した。カナタの纏う気は他の人間とは少し違うことを思い出した私は、その気を辿ってカナタの住んでいる場所を見つけた。
そこは家と言うよりかは物置小屋のような雰囲気だった。それほど、いや、全く大きくないその小屋は一人が住むのにも狭いのではないかと思えるほどのものだった。私は外から軽く声をかけてみたが中からは何も聞こえない。気を辿ってきたのだから、中に誰もいないということは無いはずだ。私は思いきって中に入ってみることにした。
中には案の定、カナタがいたのだがどうやら寝ているようだ。私の元に来るのをすっぽかして何を眠りこけているのやらと思い、起こそうとしたがどうも様子が変だった。苦しそうな寝息と真っ赤になった顔。熱を出しているのだ。誰か見てくれる人はいなかったのだろうか、周りの人達は何をやっているのか、と思ったがこのカナタの家がある場所は他の民家が固まっている場所と比べたらとても近いとはいえない場所だった。周りの人間たちに非はない。だが、そうなったら何でカナタはこんなところに住んでいるのかという点が気になった。
私はカナタが目を覚ますまで傍に居てあげようと思った。こんな場所に住んでいる理由もついでに聞こう。
カナタは目を覚ますとすごく驚いた顔をして私の事を見つめていた。普段カナタは私の事をこんな顔で見ないのでとても新鮮だった。だが、いつまでもこのまま固まっていても埒が明かない。私はカナタが来なかったのとどうやってきたのかを簡単に話す。ついでに先程思った疑問を聞いてみた。するとカナタは少し考えたあと、自分には良く分からないです、と答えた。よく分からないとはどういう事なのだろう。自分の意思でこんな場所まできたのではないのだろうか。まさか周りの人間達から避けられていたりしているのではないか、などとついそんな考えにたどり着いてしまう。だが、そんな私の思考を感じ取ったのかカナタは、違います、諏訪子様。周りの人達はいい人たちですよ。単純に、私が変わっているだけですから。と、そう答えた。
「カナタが変わっている? そんなことは無いよ。私が保証する」
「……違うんです、諏訪子様。私は自分のことを人形と思えて仕方が無いんです。私は自分で意思を変えることが出来ないんです」
「意思を、変えられない?」
一体どういうことだろう。意思を決めるのも変えるのも人は簡単に出来る。それが出来ないということは、何かしらの能力により常に上書きされているか、もしくはその者が人間ではないか……って違う! カナタは人間だ。そのことを知っているのは私自身ではないか。私は何を考えているのだろう。
「意思を固定されているというか、全く目的が変わらないんです」
「目的? その目的ってのは一体何なの?」
「……笑わないでくださいね?」
「うん、笑わない」
笑うはずが無い。カナタの真剣な悩みなんだから。
「それが、その…………諏訪子様に会いに行くことなんです」
「…………………………へ?」
私の中の時間が止まった。私に会うことが変わらない目的? こんな告白を受けるなんて……ってそうじゃない。…………それってつまり、っていやいやそうでもない。何を動揺してるんだ。か、神様らしく振る舞わないと。らしくっていうか、本物なんだけど。
「そ、そうなんだ? それでその目的っていうのはどうなったら達成ってことになるの?」
「……よく、分からないんですが多分もう少しで達成できそうなんです」
……? どうやったら達成できそうなのかもわからないのにもう少しってことはわかるとはおかしな話だ。
この話について黙って考えていた私だったがどうしようにもわからなくなり、カナタに対して一つ提案をした。
「カナタはさ、私に会いたいんだよね。ならさ、ここじゃなくて私の場所に住みなよ? そうしたら、私たち一緒だよ?」
「……え? いいんですか?」
しばらく考えていたカナタだったが自分でもわからないこの謎に終止符を打つためか、結局私の神社に住むことに決めたようだ。まぁ、こんな小さな家と呼べるかわからないような場所で暮らすより、私の元にいたはずが断然いいはずだ。それにこれは恥ずかしくて言えないが、カナタが来てくれたら私も嬉しい。
◆
カナタが私の元に来て五年ほどたった。私は民と交流を深め、カナタは長年私と居たため神の使いのような存在だと言われ始めていた。元々ほかの人間との関わりが少ないカナタだったからこそだろう。私としてもカナタが私と同じ存在になっていくようで嬉しい。
でも一つ気になることがあった。カナタは最近よく一人で出掛けることがあるのだが、その帰りが遅かったりすることが結構ある。しかし、私が心配になって神社を出ようとするといつも丁度よく帰ってくるのだ。
「心配して損した〜」
私がそう言うと彼は困ったような表情を浮かべるだけだった。カナタはよく出掛けていき、帰ってくる時はいつも硬い表情だった。私にバレないようにしているつもりのようだが、私は早い段階で気づいていた。聞いてみようかと思った事もあったが、カナタがあんな雰囲気で居ることはまず無いので深刻な悩みでもあるのだろうと思っていた。
私はつくづく神であることを後悔した。人間であればカナタの気持ちを察することが出来るのではないかと。カナタの隣に立ち、共に成長しながら親愛や友愛や、そういった愛を共に育んでいけたのではないかと。
◆
ある日、出掛けたきりのカナタが帰ってこなかった。夕方になって帰ってくることはあったが、日をまたぐことは今まで無かったので私はやはり心配になった。カナタは私が神社を出るタイミングでいつも帰ってきた。今回はどうだろう、結果はだめだった。そこには私が一人で立っているだけだ。何か、あったのだ。カナタが行きそうなところをまわってみたいが外出していたカナタがどこに行っていたか私は知らなかった。出かける際について行ってもいいかとたずねた私の問いにひとりで行きたい、と言われてしまったからだ。何をしていたのかもわからない。
でも、私はカナタの気を辿れる。そうすればほぼ確実に辿り着ける。
と、思ったのだが。
「……カナタの気が、……ない……? 」
無い。無かった。すべての方角、上も下も調べた。どれほど遠くに行っていても、私ほどの力があれば関係なく察知できる。何度調べてもカナタの気は見つからなかった。でもそれは諦める理由にはならない。
だから探した、探し続けた。何日も何日も探し続けた。あの日々が、幻だったとでも言うのか。それは私にとってはあまりに辛かった。だから私は探すのを止めなかった。これからも一緒に暮らすはずだったから。頭の中に浮かぶ一つの可能性を否定し続けるために私は探し続けた。
でも、七日経っても、一月経っても、更に一年経っても彼を見つける事はついぞ叶わなかった。それからの私は全てに無関心で無気力になった。なぜカナタがいないのか、その事ばかり考えてしまっていた。
そうやって過ごしている途中、ほかの神から戦争を申し込まれた。信仰を獲得するための神どうしの戦争。カナタだったら、戦争なんてせずに話し合いで解決した方が手っ取り早いなんて言いそうなものだ。人や神が共に笑って暮らせる世界に行きたい、私はカナタがそう言っていたのを思い出した。確かその話を聞いたのは、熱を出したカナタの看病をしに彼の家に行く前だったか……………………ん? 家?
彼方を探している最中、彼の家には行っただろうか。いや、一度も行かなかった。何で、何で忘れていたんだろう。私は急いであの場所に向かった。
◆
「…………何で、言ってくれなかったのさ……」
そこには一人の神がいた。手には一つの手紙を持っており、目からは涙が溢れ、手紙を持つ手はふるふると震えていた。
「……相談くらい、してほしかった……」
「……生きてるんだよね? カナタ……。信じても、いいんだよね……?」
「……次は絶対、居なくなったりしちゃ嫌なんだから……」
◆
諏訪子さんへ
突然いなくなること、大変申し訳なく思っています。俺には、時間が無いので詳しく書くことは出来ません。ただ、お願いがあります。この先どんな事があっても自分と民の心を信じていて下さい。そして神や人が共に笑って暮らせそうな世界を目標にすすんでいってください。そして、そこでまた───
いつもより少し長かったですね 笑