Fragment of the planet   作:えっこ

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灯りに揺らめき雨が降る

ベンチに腰かけ、買ってきた商品を膝においていただきます、彼と視線を交えてわらう。彼もうれしそうに私と視線を揃えてわらった。焼きそばを口に入れて久しぶりの濃い味にこれこれと頷きながら箸が止まらなくなっていく。いつもカカシさんの家では薄味をこころがけて作っているので、濃い味がたまに恋しくなる。あの家で焼きそばなんて作る機会はそうそうないので、久しぶりの味を噛み締めた

 

タオルで何度も口を拭きながら箸をどんどんすすめ、カラになった焼きそばをみて満足感に浸る

お祭りに売られている物はそこまで量が多く入っていない。私のおなかはまだ入りそうだったのでたこ焼きを袋から取り出し、その美味しそうな色に笑顔が綻ぶ。家ではなかなか作れないものだ。その姿を見ただけで笑んでしまう。

 

 

突然背中のバックが暴れだした。驚いてたこ焼きを落としそうになるのを防ぎ、バックを下ろしてやるとその中から猫が出てくる。「なんかうまそうなにおいでやんす!」人ごみが嫌といってバッグに隠れていた猫は匂いにつられて飛び出て来た。食べ終えた焼きそばのパックにたこ焼きを置いて少し広げる。猫は恐る恐る近づいてそれを食べると嬉しそうに鳴いた。

 

5個入りのたこ焼きを3分割して、1つだけ口の中に入れる。とても熱くてこれもまた家では味わえない味だった。「とても美味しいですよ」あまりの美味しさに共感を得たく、テンゾウさんの分のたこ焼きを彼が食べていたパックに分ける。それを彼は口に入れてあまりの熱さに涙目になっていた。その姿が面白くて笑ってしまった。

楽しそうに声を弾ます自分にひどく安堵し黙り込んだ。

 

 

「…この前の事が嘘のようです」

非現実的なあの出来事を思い出して思わず口に出していた。変わらず進んでいく穏やかな時間にあれが夢であったような錯覚に陥る。でも蘇る恐怖に現実と知らしめられる。護衛までついて話が大事になってしまった事に息を漏らす。

 

 

「僕がいるから大丈夫ですよ」

 

私の声のトーンとは違う頼もしい声に驚く。ここまで自信ありげに言った彼に1つの勘違いをしていたような気がした。優しそうな顔をしていながらも任務をこなす一人の忍であり、一人の男である。不安を与えぬように気を配る姿に睫毛を揺らした。…そういえば私はテンゾウさんについてカカシさんの後輩ということしか知らない。同様に彼らも私を深く知っている訳無いのに、私を護衛する。それが忍の仕事であるから。その奇妙な関係に思わず眉を顰めてしまう。忍のシステムに。

 

「カカシさんは確かにかなりの腕前ですが僕も一応上忍ですから。」

「それは、、凄いのですか」

「うん、一応すごい…筈…」

 

先ほどの自信は何処へ言ったのやら、弱々しく言葉を吐いていた。

上忍というものがどれほど凄いものなのか全然わからない自分に歯がゆく感じる。記憶がないといってもいま起きている世界の状況を把握しなければならないと心に決めた。

 

 

彼は突然目を伏せた。暗い顔に少し驚きながら小さく声をかけた。そ、そんなに落ち込ませてしまったのだろうか。手に持っているたこ焼きはまだ熱そうで、美味しそう。しかしソレを食べないで彼は何かを考えていた。その表情は暗く何かを後悔しているような顔だった。その表情に思わず自分の言葉が失言だったと思い反省する

 

「テンゾウさん」

落ちそうになったたこ焼きを救い、慌てて声をかける。そっと腕に触れると彼は我に返るように私を視界に入れて、曖昧に笑った。彼の悲しそうな表情に思わず心配になる。「どうかしました?」私の言葉に彼は曖昧に笑ってみせた

 

 

「最初に視えたのが僕だったら良かったのに、って」

 

浮かべる笑顔は作った笑顔だった。隠せていない少し悲しそうな表情に私は言葉をさがす。ボクが最初だったら良かったのに。そう言ってくれた言葉は僅かなる羨望。私を少しでも求めてくれた言葉に何といっていいかわからず黙ってしまう。

 

その言葉を私は嬉しく思ってしまった。

あの一件から私は毎日が恐ろしく、視え始めていた事を後悔していた。しかし彼は違った。私を視て後悔していない様子だった事に私は喜んでしまう。彼の優劣にこだわる理由は今の私には理解できなかったけど、

 

「それでも今、視てくれるのが嬉しいです」

 

私を視えた事を受け入れてくれる彼に安心した。視られて良かった事もあったのだと気づかされた。私の言葉に驚いて、テンゾウさんは参ったなと頭を掻いた。その様子に笑みを浮かべると彼はその笑顔に眉を落として「…そうですね」笑った

 

突然の冷えた空気に身を堅くした。テンゾウさんは私よりも先にナニカに気づいて周りを警戒しながら私をうしろに庇った。その背中に隠れながら猫を抱き上げる。先ほどまで食べていたたこ焼きが無惨に転がっていた。

 

「場所を変えます。捕まってください」

「え、ちょ」

 

躊躇う私の声が風と流れていく。あっという間に抱き上げられてしまい、初めてのお姫様抱っこに私は言葉を無くした。思わず不安定なバランスに彼に寄り添う。地面から離した足が違和感を得る。心中パニックになりながら動き始めた彼に振り落とされないようにしっかりと彼にしがみつき、猫も落とさないようにしっかりと抱える。自分の髪がかぜに遊ばれうしろに流れていく。はやい風に目を開けるのも難しく、しっかり目を閉じる。見なくてもわかる殺気に私は身体が震えそうになり、テンゾウさんと猫をしっかりにぎった。

 

 

「あの、重たくありませんでしたか」

「全然平気でしたよ」

ようやく足を下ろして私はやっとうまく息ができた気がした。彼は私の問いにあっけらかんと答えて少し安心して息を吐く。良かった。

木々に囲まれたひらけた場所に彼は足を降ろし、私を後ろに庇った。

 

 

 

さほど時間を要さず暗闇から現れたのはあれから何度も夢に出て来たあの男だった。はっきり覚えている姿に、そう日が経っていなかった事に気がつく。男にあってからは長い時間怯え続けていたような気がしていた。

 

「この瞬間を待ちわびたぜ」

ひどく低い声で私をなめるように見た彼に私は竦む。その殺気だった瞳に私はまた簡単に捕われ動けなくなってしまった。

 

男はゆっくりと近づいて来て口を開いた。

猫又一族はかなり稀な一族として有名であり、いわゆる幻術と似たチャクラを使いそのシッポを隠し他の猫とまぎれる。一歩一歩ゆるりと近づいてくる男にテンゾウさんは僅かに砂利を足で擦るようにして男の様子を見ながら言葉に耳を傾ける。

 

「見つけるの、苦労したぜ」

 

男の言葉に驚いて猫を見やる。チャクラというものが何なのかさっぱりわからなかったけれどそんな不思議な一族の猫だとは思わず、信じられない気持ちだった。顔色から伺うように、猫はこの事を隠しているようだった。

そして自分の推測通りしらたまが男の目的であるのは間違いなさそうだった。

 

テンゾウさんは彼の言葉を聞きながらクナイを構えて、微動だにせず口を開いた。

猫又一族は本部にも研究班でさえも情報が全くない。捉えられた猫は皆息絶えミイラ化し解剖して何も見つからない。一族の情報を漏らさない謎の一族と言っても過言ではないと噂の一族だ

 

はっきり言ったテンゾウさんの言葉が信じられずと恐る恐るしらたまに聞いた。「本当…?」私の問いにしらたまは耳を下げてしょげくれていた。そんな様子のしらたまになんと言ってあげればいいのかわからなく口を真一文字にしめた。こんなにも辛そうにしている友にかけてあげられる言葉が見つからない。

 

男は見るのもはばかれるような厭らしい笑みを浮かべて、言葉を吐き出す。

その猫にはコアなファンが多くてな。そいつらから情報を貰った。そしていつも傍にいた紅眼のお前までたどり着いたわけさ。

 

男がべらべらと喋るけども、ここまでに珍しい猫に執着する本心がわからない。私は猫を抱え一歩後ろに下がる。何としてでも黒猫を守らなくてはならないとは思うものの、足がうまく動かなかった。男が私を鋭く見つめ、恐怖で足が震えそうだった。その様子に気づいた男が一層笑みを濃くした。

 

「猫から情報を奪えないなら、人間から取り出すまでだ!」

その言葉を合図に男はクナイを持って地面を蹴り上げた。私の眼には見えない速さで迫ってくる男に成す術無くその眼球に竦む。首筋に汗が流れていくのを感じた

 

「させるかよ」

派手な金属音が森の中で響いた。テンゾウさんは私の前に立ちはだかり、男が手にしたクナイを払い除ける。少し空いた間に間髪入れず男が手裏剣を投げ、ヤマトさんはそれを持っていたクナイで2つ薙ぎ払った。一般人の私には全く見えない動きで何をしているかさえわからない状態だった。

 

「お前が俺に勝てるとでも?」

強気な言葉に私はごくりと唾を飲んで彼の背中を見つめた。背中から感じとれるテンゾウさんの自信に少しの希望が見えてくる。初めて繰り広げられる目の前の戦いに情けなくも眉を顰め怯えながら祈る事しかできなかった。

 

「そんな事言ってられる余裕があんのか?えぇ?」

乱暴で自信に満ちあふれた声に不信感を得る。テンゾウさんがどれくらい強いかわからないけれども、いくつもの戦いをくぐり抜けて来た経験の数を感じさせるその微動だにしない姿は圧巻ものだ。その彼にさえ上回る自信とはなんなのか、不信感を持った。

 

 

先ほどまで普通に立っていた筈のテンゾウさんが突如膝を折った。その様子に私は瞠目した。

彼は荒い息をしながら「…毒か」傷ついた自分の足を見た。

 

私を庇いながら交戦するテンゾウさんが足を負傷していた。先ほど飛ばして来た手裏剣の1つをよけきれずそれに塗ってあった毒が彼を苦しめているようだった。辛そうな彼を見て私は拳を強く握った。

 

「あなた達に渡すような情報はありません!記憶が無いのです」

私はしっかりと男を見据え大きな声で抗う。しかし私の小さな反発もまるでものともしない余裕の笑みを浮かべた。

 

「こっちには策がある。」

その笑みに私は背筋がぞくっとするのを感じた。その策というものがどんなに恐ろしいのか考えたくもない。どんどん近づいてくる距離に私は怖じ気づきながらも、睨み返す。友であるしらたまを易々と渡すわけにもいかないし、私も簡単に捕まるわけにはいかない。

しかし、呼吸を乱すテンゾウさんを見て不安がよぎる。この人は大丈夫だろうか、毒というものは死ぬのではないだろうか。そう考えて息を殺した。死ぬ、?

 

テンゾウさんは手で素早く先日一度見せてもらった印と呼ばれるものを組むと、突然木が何本も連なる壁を男との間に作り上げた。その膨大な大きさに私は息を飲んだ「…凄い」これが、忍術。その強固でありながら連なる暖かい木に私は感嘆の息を漏らした。

 

「カカシさんを呼んできてください。あなたを庇いながら戦えない」

テンゾウさんが振り返って荒い呼吸をしながら私に小さく言った。その顔色はあまりにも辛そうで自分が普通に息をするのさえ惜しかった。わたしを庇って、怪我をしてるなんて考えるだけでも辛い。何も出来ない私には出来る事が限られている。後ろ髪引かれながら私は全速力で走った。今日は祭りで里が明るい。その方向に向かって私は足を動かした。

 

 

猫が私の腕から離れ、共に走る。暗闇の中走り、木の根に何度かもつれては転びそうになる。自分の呼吸が森に響いて周りに誰もいない事を実感させる。傷ついたテンゾウさんの姿を脳裏に思い出しながら足を動かす。

沢山の情報に私は頭が混乱していた。

それでも今私の足を動かしているのはテンゾウさんと、カカシさんの2人だ。

 

駆けて乱れる髪の毛を振り払い、乱れた呼吸も気にせず私は涙が溢れそうになる。どうか、テンゾウさん。呼吸を荒くした辛そうなテンゾウさんが何度も脳裏に浮かぶ。今視てもらえるのがよかっただなんて彼によくも私は言ったものだ。私と出会った所為であんな目にあっている彼を想って眉を顰めた

 

額に流れた汗に、髪が張り付いて不快感を得る。

もっと、早く。速く。私は呼吸を乱しながら強く思った。

急いた気持ちと足が釣り合わない。なんと貧弱な自分の筋力に呆れてしまう。

通り過ぎていく木々の光景がだんだんスピードを落としていくことに、眉をしかめた。

 

突如風が私の髪を攫った。

 

「いちか!」

 

待ちわびた声を耳にして、幻聴だと思った。

頭上から聞こえた声に頭を上げ、降りてくる彼の姿を視界に入れる。正真正銘のカカシさんの姿に安堵し、すぐ傍にあった木々にもたれかかった。

「いちかねーちゃん!」その後ろに見覚えのあるナルト君の姿に、サクラちゃん、もう一人しらない黒髪の少年が現れた。この場に彼らがいる事に疑問を抱えるが今はそれどこではない。

 

呼吸を整える時間さえ惜しく、木々を支えにしてテンゾウさんがいる方を腕を大きく伸ばしゆびさすとカカシさんが口をひらく。

「ヤマトがいる、先に行け」

その声にナルト君達は見えない速さで向かう。その背中を見送り、束の間の安堵を味わう。

 

カカシさんは私をそっと支え大丈夫かと優しく声をかけてくる。彼の問いに頷きながらその温度にひどく安心した。

「ど、うしてわかったんですか?」私達が襲われていた事を何故知りここまで駆けつけていたのだろうか。荒れた呼吸の中必死に言葉を紡ぐ。見覚えのある袋がベンチで無惨に転がり料理が散らばっているのを見てなんとなく胸騒ぎがして。と言った。本当にこの人は抜け目が無いというか…

「お祭りの見張り、ちゃんとしてたん、ですね」

私が笑うと彼はその表情を静かに見つめた。次第に整っていく呼吸に自分を情けなく思う。全速力で走ったといえどこの距離だけでこんなにも息を乱してしまう非力な自分を情けなく思った。

 

「もう大丈夫だよ」

そんな私を守ってくれる彼に涙が溢れる。優しいその髪を撫でる仕草があまりにも心地よかった。先ほど私はちゃんと笑えていなかったのだろうか。見抜かれてしまうほどわかりやすい表情をしていたのだろう

 

私を優しく抱え本日2回目となるお姫様抱っこをされる。1回目の時のように慌てふためく余裕は今私は無かった。震える指で一人戦う彼に祈りを捧げる。どうか、無事で

風に私の涙が宙を舞った。

 

私が全速力で駆けた距離をさほど時間を取らず通り過ぎ、テンゾウさんがいる先ほどの場所まで戻ってきた。着地する為にカカシさんが浮いた。突然の浮遊感に驚き彼の服を力強く握る。目を閉じて、重力に耐える。なんともいえない感覚だった。

 

消えた重力にそっと瞳を開き目の前の光景に驚いた。地面に伏せたテンゾウさんにサクラちゃんが光輝く手を当て何かをしている。ナルト君と黒髪の少年は怒りを露にした男に対峙していた。その緊迫した空気に息を飲む。伏せたテンゾウさんを見て、強く手を握る。

 

「カカシ上忍もいたとはな。」

分が悪い事を感じ取り、ひきつった笑顔を浮かべていた。その余裕無い顔に唾を飲む。その表情に少し安堵する。そして何かがわかるかもしれない。淡い期待に鼓動が速くなる。

カカシさんはそっと私を地面に下ろし、男を見据えて目の色を変えた。私の前で男に立ちふさがり、低く構え戦闘態勢になる。後ろ姿からもわかるその緊迫した空気に息をするのを忘れそうになる。先ほど全速力で走ってしまった為足が思うように動かなくなってしまい、地面から離れなくなってしまった。

 

カカシさんはゆっくりと口を開く。「調べさせてもらった」男は眉を少しだけ反応させてカカシさんを見る。

 

 

「動物か何かに危害を加えられ病院おくりになった記録が残ってた。お前だな。」

 

カカシさんの言葉を素直に耳を傾ける。私の前で立ちはだかる背中からどんな顔をしているかわからない。声がいつもより低かった。カカシさんの言葉に今日出かける前の言葉を思い出す。彼は、準備があるからと言っていた。それはお祭りの準備ではなかったようだ。

 

記録にはどんな動物だったのか書いてはいなかったそうだ。

カカシさんのの言葉をゆっくり理解しようとする。しらたまの言う過去の記憶は私がしらたまを守っただけで男に危害を加えたりしていない。

それでも、動物に危害を加えられたというのは。私は驚きで手が震えそうになる

 

 

「その動物とは、猫又一族の事だな」

 

 

予想通りの言葉に声を失った。男がここまで猫又一族に執着する理由がようやくわかった。男のその暗い鈍く光るその瞳の奥で燃える光は、憎しみだ。味わった事の無い憎悪に恐怖を覚え、身を竦ませるのも当然のような気がした。男の憎しみは、本物だ。

 

男は囲まれた事に冷や汗を垂らしながら笑う。苦しい状況だとは本人も理解している筈なのにその殺気は依然変わらなかった。

 

「たった一匹の猫に俺は襲われ生死を彷徨う重傷を負った」

 

口を開くたびに彼の背負う憎悪が増していく。カカシさんが持って来た情報は本当だったようだ。先ほどの夕方の話を聞いてたったあの話だけで彼はどんな動物かもわからないその事件を調べにいったのだろうか。その事件は彼の頭の片隅にあったものなのか、この男の名を知って行き着いた情報なのかはわからないけれども断定させてしまう彼の洞察力に肝を抜く。あなどれない

 

 

 

「俺はお前らに復讐するために忍になったんだ!」

 

起爆札をつけたクナイを投げられカカシさんはそれを払いのける。同じように投げつけた爆薬玉が時間差で爆発していく。飛び道具を主体にして戦う忍のようだった。先ほどから近づいて来ようとはしなかった。

避けて飛び退いたカカシさんを眼で追った。

すると突然後ろから力強い力で乱暴に髪の毛を引っ張られる「きゃあ?!」その容赦ない力に眉を寄せて痛みに耐えた。視界の端でカカシさんはもう一人の男と戦っている。これは以前からカカシさん達から見せてもらっている影分身の術だ。そうか、こうやって実戦に使うものなのか。

 

カカシさんが捕まった私に気がつき近づこうとするが、またも投げられた起爆札に邪魔される「いちか!」彼の言葉を耳にしながら油断したと眉を顰めた。先ほどから近づいては来ないで飛び道具を使っていたのは恐らく最初から私が目的だったからということだ。痛みに耐え、負けじと彼を睨むもののさっきとは違う勝利を掴んだような笑みに私の睨みは効かない。

 

その眼球に負けたくない。なんとか男の拘束から逃れようと身をよじった。

暴れ回る私の首にクナイをあてがわれ小さく息を詰まらせる。小さく力を込めたクナイの先から血が滴る。そのピリっとした小さな痛みに身体が強張る。抗おうにも恐怖で身体がうまく動かない。

 

突然目眩がして、うまく呼吸ができなくなる。初めての感覚に動揺し、朦朧とした意識の中テンゾウさんと同じ毒かと冷静な自分が判断した

 

「策があると、言ったよな」

その厭らしく笑う唇が歪み、背筋が凍るのを感じた。身体がぐったりとして抗えない。男は手に何か力を溜めてから私の背中に押し付ける。

「うあ”っ…、!」その見えない力に身体の力が抜けていく。当てられた背中が痛いのではなく、頭の中をめちゃくちゃにされている感覚が走る。何を、しているのか検討もつかない。ただ、何か私の中に入れられたような感覚だった。私の頭の中を探るその感覚に吐き気を覚える

 

「虫酸が走るんだよその髪と眼にな」

 

物々しい男の言葉を耳にしながら私は遠い意識の中揺らめいていた。初めて私は見た事の無い映像のようなものを見た。私の奥底に眠っていたものなのか、男に押し付けられて見ているものなのかわからない。

沢山の目玉が私を見つめる。興味ありげに輝きを放つその瞳に背筋が凍る。気持ち悪さを覚え不快感を得て自分の指先が小さく震えだす。沢山の手が私にどんどん伸ばされる。髪の毛を、顎を、瞼に触れようとする指先に息を呑む。見た事あるようなその恐ろしい光景に口が勝手に動く。

 

「やめて!!」

 

自分の声に驚いて眼を開いた。

蒼い光が弾けたのを僅かだけど視界に入った。

男は私から手を離し突然の解放に反応できず、倒れいく。自分の身体が熱くなっているのを感じた。地面に伏せる前にカカシさんが私を抱きとめたのを感じた。荒い呼吸の中男を眼だけで追う。

 

視界に入れた男は腹部に一線の傷が大きくあった。

その傷を押さえ、苦しそうに呻く姿に声を失う。突然怪我を負った彼に瞠目した。

 

なにがあったのか、理解できていなかった。

私を支えるカカシさんを見上げると彼の初めてみる左目に言葉を無くした。瞼の上に走るその大きな傷の下に私と同じ紅い、瞳。何かの音に気がついてつられて見ると、カカシさんの手には男のものであろう血が滴っていた。血と混ざりながら蒼い光が彼の手の回りを弾けていく。初めてこの眼でたしかに見る紅い鮮血に驚きながらも私はどんどん力が抜けていくのを感じた。

毒がまわって世界が回り始める。意識が遠のきそうになるのを冷や汗を垂らしながらなんとか堪えた。

 

 

布が何か擦れた音がしたかと思うと私の首元にカカシさんは唇を這わせた。その薄くて柔らかな感触に息を小さく吸う。不謹慎にも鼓動が早くなっていくのを感じる。混乱しながら音をたてて吸っていくのを羞恥心で目をきつく閉じその音を聞く。彼のやわい唇の感触に毒の目眩とはちがうものを感じながら、めがまわっていた。な、なにをしているのかそう問いたくも身体がいうことを効かない。

 

彼の唇が離れ、何か地面に吐き捨てた。彼が唇で触れた場所は先ほどクナイで傷つけられ毒がまわった箇所だ。口で毒を取ったのだろう。毒のせいなのか先ほどからどんどん身体が熱くなっていく。首の僅かな小さな痛みを感じながら意識がどんどん朦朧としていき私の世界はシャットアウトした

 

 

 

 

 

 

 

目がさめると、見たことのない天井があった。

もうろうととする頭で視線を彷徨わせて無機質で簡素なまっしろいカーテンで仕切られた世界に、幾分か時間をかけて病院かなとぼんやりかんがえる。

 

まどから聞こえる鳥のこえをききながら、天井をみつめる。夕方のすこし涼しくなったかぜがカーテンをゆらし私の頬を撫ぜる。首になにか違和感をかんじ、手を添えるもなにかわからない。何か貼られているような感触を得た。見たくとも首はじぶんでは見えそうにない。

そこにふれて小さな痛みに、意識を失う事の前の事を思い出し飛び起きた。

 

「っいた、!」

突然身体を起こした為に、左手につながれていた何かの管を引っ張ってしまって派手に倒してしまった。その倒れた管から私に繋がる針が深く刺さってしまいその痛みに涙目になる。…これは点滴?点滴のはりってこんなにいたいの?長い管に引っ張られ成す術無く困ってしまった。自分が管に引っ張られてしまい身動きが取れずその引っ張られている針が腕をえぐっている様を見るのも痛い。

 

 

派手な音に気づいたのか誰かの足音が近づいてくる

 

「いちかさん!?」

「いちか?!どうし…」

 

「あ、あわわわ…」

 

血相変えて飛んで来たサクラちゃんとカカシさんの剣幕に怯えながら私はベッドから乗り出し床に左手をめいっぱい伸ばす哀れな姿を見られてしまった。

 

私の姿にサクラちゃんとカカシさんが目が点になっていた。

状況を把握したサクラちゃんが溜め息を吐いて点滴の棒を立ててくれた。自分のまたもやなる失態に眉を下げてしまうしかなかった。お恥ずかしや…

カカシさんはやれやれと大きく溜め息を吐いた

 

「お加減どうですか?」

気遣う彼女に大丈夫と首を縦にふる。彼女はベッドの傍においてあった書類になにかを書いていく。その仕草に、もしかしてサクラちゃんって看護婦さんなのかなと思う。私は繋がれている点滴を見上げて、これってどんなものだっけ…私何か足りてなかったんだろうかなんてぼんやり思う。

 

「カカシさんとサクラちゃんは怪我ありませんでしたか?」

私の問いに二人は困ったように眉を下げた。なにか、変な質問でもしただろうか。その表情に目を瞬いた。「なんともないよ」カカシさんはポケットに手を突っ込んで言葉を吐く。サクラちゃんは困ったように眉を落として「わたしたちより、いちかさんですよ」と咎めるようにいった。わたし?

 

「あれから3日も寝てましたよ」

「み、三日…」

その言葉を聞いて私は驚きを隠せない。寝すぎる事は多々あったけれども流石に3日まで寝た事はない。「一応いちかさんは健康体でしたけど、3日食事できなかったので点滴してます」私は点滴を見つめながらこれ、本当にどんな役割するやつだかな…と頭を悩ます。

 

「あの男はどうなったのですか?」

「今暗部で…尋問しているよ」

 

カカシさんが少し間を開けたのが気になりながらもあの後意識を無くした後どうにかなったことに安堵の溜め息を吐いた。サクラちゃんは私の腕に繋がる点滴の針を見て、少し強く刺さっていたのを緩めて刺し直しそのまま動かなくなってしまった。

 

その伏せたまつげが綺麗で魅入ってしまう。彼女は口を真一文字にして「何かあったら呼んでください」とそそくさと出て行ってしまった。どことなくよそよそしい彼女を見て違和感がした。

 

その後ろ姿をぼうと見ながら、苦しむテンゾウさんの顔を思い出した。「テンゾウさんは、?!」カカシさんを見ると落ち着けとでもいうように肩にそっと手を置く。「大丈夫だよみんな無事」その言葉を聞いて私は今度こそ本当に安堵する事ができた。

 

「いちかは大丈夫なの?」

椅子を引いて、カカシさんはそこに腰を下ろした。首もとを触って頷く。

「ちょっと痛いくらいなので大丈夫そうです」

ふと、意識を無くす前に唇で触れられた感触を思いだす。そのぞわりとした感覚に身を堅くした。だから、不謹慎だってばわたし!頭を振って邪念を払う。

 

「元気そうでよかったよ」

優しく笑う彼を見て私はどうか心の中で思っていた事がバレませんようにと強く願った。

 

カカシさんはわたしの髪の毛にいつものようにふれようと手を伸ばした。その感覚が何かとリンクして怯えた瞳で彼の手をみつめていた。心臓が先ほどとはちがう嫌な動きをしているのに気づきながらその指先をみつめる。眉を顰めた私に気づいた彼はその手をすぐに離した。

 

 

3日寝たというのはどうやら本当らしい。思考が随分と遅く、この前の出来事を思い出すのに時間を要していた。あの映像のような光景を今更ながら思い出した。私は指先が血が通わなくなるような感覚に陥った。指先が冷たく、震える。吐き気を催し、思わず口で手を覆った。

 

沢山の怪しく煌びやかに光る瞳と蛇のように動めく沢山の腕。人の声が各々にそざわめいて沢山の声が聞こえる。その声が耳にこびりついて離れない。その声が1つずつ大きくなっていく。

 

 

 

「いちか」

彼に呼ばれて肩を大きく揺らした。動揺した私の瞳を見つめられ、思わず目を逸らし自分のおでこを小突いた。こびりついてしまった映像が現実か夢なのか定かにならないほどに混乱していた。否、これは現実だったのか。…記憶なのか。冷や汗が首を通って行くのを感じ思考するのをやめてそとをみつめた。

 

鳥のこえが響き、かぜでざわめく葉の音が耳にとどく。その静かな音に落ちつきを取り戻していた。油断するとあのこえがまたきこえてきそうだった

カカシさんが私の様子を見て、背中をさすってくれたのに気づいたのは落ち着きを取り戻してからだった

 

 

「いちかさん、目が覚めたんですね」

安堵しながら入ってきた突然の客人に瞠目しながら、テンゾウさんが元気そうなのを見てほっと安堵の溜め息を吐いた。「…ご無事で何よりです」「それは僕の台詞ですよ」優しく笑んだ顔を見て笑おうとしたがうまく笑えなかった。その表情を驚くように見つめられ、私は瞬くと一筋涙が溢れてしまった、

 

おもわず溢れてしまった涙にしまったとおもいながら顔を背けた。堰を切って流れはじめた涙を見られたくなくて声を押し殺すと、肩が揺れてしまった。シーツを握りしめながら、濡れていく布を見つめた。

胸がはりさけるほど痛くて、唇を噛んだ。

 

「よしよし」

「お辛かったでしょう」

 

頭をそっとカカシさんがやさしく撫で、私の背中をテンゾウさんがさすってくれる。その暖かな温度に私の涙腺はどんどんと緩んでいく。幾分かそれを繰り返してくれて、少しだけ落ち着いた。寂しそうに鳴く夕方の鳥のこえがすぐそばで聞こえた。

「…怖かったです、」

私を慰めようとした彼らの手が止まった。その温度にひどく胸を痛めながら自分の掌を握った。

 

 

「みんなが私の為に傷つくのが、こわかった…!」

 

おおきな雫がどんどんシーツを濡らしていく。いつもの事ながら本当にわたしは泣き虫だとおもう。涙を流す事が恥だとは思っているのに、意思とは関係無しに現れてくる。流す涙は皆を想っての涙だ。あんな事があってすぐの事だったので止まろうとして止まるものではなかった。

目が覚めたときに誰もいない時に泣いてしまえばよかったと後悔した。

しかし、慌てて駆けつけてくれたサクラちゃんとカカシさんを思い出して眉を顰めた。

 

 

「私は死んでるから、まもってもらう必要なんて本当はない、!」

 

震える掌を反対の手で掴み、止めようと試みる。あの無惨に地面に伏すテンゾウさんの姿が、危険とわかっていながらも私の為に動いてくれる彼らの姿が私の胸を痛めた。本当はこんな病院に入れてもらう必要だってない。助けてもらう必要なんてない。それなのに関わりを持ってしまった事によってみんなを巻き込んでしまった。

悪戯をしてからかうあの幽霊の少女より自分の方がタチが悪いかもしれない。皆をここまで傷つけた事を深く後悔した。

 

先ほどのサクラちゃんのよそよそしかった姿を思い出す。恐らく、本当はカカシさんの遠い親戚ではなく、幽霊でカカシさんの監視の対象であることを聞いたのだろう。先日あの場にいたということはその任務の事も聞いたであろう。彼女は不思議そうに私の腕を彼女は見ていた。本当に、存在しているという眼差しだった事に今気づく

 

 

「…バケモノ…なんですっ」

 

先日言われた言葉をかすれた声で吐き捨てた。ナルト君が私をバケモノではないと言ってくれた言葉は撤回されるかもしれない。あの時彼は私を化け物だと知らされていなかったからだ。化け物と言われ強い彼を想い私は涙する。あの少年は、わたしが化け物と聞いたらどんな反応するのだろうか。生きていなかったとしられた時彼はどんな反応するのだろうか。そこまで知って、裏切られた気持ちになった彼ら達に胸を痛める。

 

「ごめんなさい…」

 

私の小さな謝罪は小さく響き、流れる涙をシーツで拭う。嘘をつかれ、存在しない本当の化け物を救った彼らはなんと思うのだろうか。生きていない自分に傷ついた事をなんと思うのだろうか

「テ、ンゾウさん、カカシさん、…ごめ、んなさい」2人は生きていない私を護衛し、傷ついた事を私は子供のようになきじゃくり、肩を揺らした。

 

わたしの所為で彼らを巻き込んでしまったことを悔いていた。

あの映像が本当に記憶だったとしたら、昔から化け物だった事は間違いなく猫又一族と私がだけの話だったのにこの里の人を巻き込んでしまった。傷つけてしまった。

化け物であったと知らされた彼らの戸惑いに、申し訳なさを感じた。

 

「まったくお前は」

 

突然肩を引かれ、彼のおおきな掌がわたしの後頭部を引きよせられて気づくと私は彼の胸に納められた。繰り返す彼の暖かさに私は涙腺がもうボロボロになっている。「ほんといちかさんは」呆れたような溜め息を吐いてしゃがみ込んだテンゾウさんは私の手をそっと絡めとる。その一本一本確かめるような動作に涙がどんどんこぼれていく。

人の温度はこんなにも心地のいいものだとわからせてくれたのは彼らだ。

巻き込んだ事に後悔しながらもこの温度を知った事に尊さを感じ涙を流した。

 

 

「忍以外に傷つくのが怖かったなんて言われるのは久しいねテンゾウ」

「ええ、僕たちに対してそう言ってくれるのはいちかさんくらいです」

 

彼らは嬉しそうに談笑している声を耳にききながら心地よさを感じていた。彼らの笑う声がとてもきもちがよかった。その声はあの男が現れてから耳にする機会をへらしていた。

 

 

「関わろうとしたのは俺たちの意志だ。気にする必要はないんだよ」

 

私を胸におさめた彼のてのひらはやさしく私の頭を上からしたへと撫でていく。そのやわくゆっくり与えられる暖かさに心がどんどん落ち着いていくのがわかる。彼の心臓の音を聞きながらゆっくりまたたいた。

 

「いちかさんが何者でも、僕らは助けました」

 

やわく指でわたしの手を撫ぜてくるテンゾウさんの掌がなんだか心地よい。ひとの指ってこんなにも気持ちのよいものだったかと戸惑う。視線を絡ませると彼は困ったように笑っていた。

彼らの言葉に救われながらあの少年らを思い出す。

 

「…ナルト君達は、」

「ナルト達も同じだ。お前が何者か知って助けにいった。お前が何者でも俺たちには関係ないよ」

ナルト君達の名前に驚いて私は目を見開く。助けた後に私が化け物だったかを聞いたわけではなくて、化け物と聞かされた後に助けに来てくれたのか。その事実を知って私はたまらず口を開いた。

 

「どうしてそこまでするのですか、」

理解できず小さく嘆いた。その小さな声に彼らは目を合わせる。その空いた間をふしぎに思い彼らを見る。その瞳はまだわからないかな。と2人とも困っている顔だった。

カカシさんはやわく私の頭を離し、目線を合わせる。その変わらないまっすぐな瞳に息をするのを忘れそうになる

 

 

「お前が大事な人だからだよ」

 

 

その言葉を聞いて私の胸の中で何かこみあげてくる。大事と言ってもらえたその事実が嬉しく、巻き込んで申し訳ないと思っていた筈なのに自分が嬉しく思っているだなんて。矛盾しているような気がした

私が何と言おうとかれらは化け物と呼ばれた幽霊の私を認めて存在させてくれる。こんな素敵な方々に視られてしまった事を今初めて後悔した。

 

「…このまま寝続ければ良かったです」

彼のまっすぐな言葉の照れくささに吐き捨てる。寝続けてこんな素敵な彼らとおさらばしてしまえばよかったかもしれない。そうすればまだ、ここにいたいと思わなかったかもしれない。成仏しなければならない身としてその感情は御法度だ。蓋をしなければいけないものが今飛び出しそうになる。

彼らは同時に溜め息を吐いた。そのシンクロした仕草に私は驚いて少しだけ息を小さく吸った。

 

 

「起きてもらわなきゃ、俺が困るの」

 

「僕も困りますね」

 

 

その許された優しい空気に私は安堵し、胸を痛め、涙がまた溢れてくる。溢れて来た涙が恥ずかしくて慌てて掌で顔を隠すも隠せない涙に慌てる。その様子を見て彼らは

 

「テンゾウが泣かした」

「僕じゃありません、先輩ですよ」

 

口論しながら空いた手で私の涙を1つずつ丁寧に掬っていく。その許してくれる暖かで優しい彼らに私の涙は止まらなかった。

男からの危険が無くなったのに、今度はこの蓋ができない感情に私はまた頭を悩ますことになりそうだった。

 

私を生きている人間のように扱ってくれるかれらがこんなにもいとおしい

 

 

 

 

(151907 )

 

 

 

 

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