Fragment of the planet   作:えっこ

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真直のぬくもりに眩瞑

 

 

 

いちども目を覚まさずぐっすり寝られたのは久しぶりだった。長い時間寝たようなつもりだったけれど病院での起床時間と同じ時間に起きていた。

カカシさんが退院する時に医師に言った言葉は的を得ていたらしく、随分病院で気を遣っていたらしい

 

ぼんやりする頭で彼の部屋を見渡し、帰って来た事を実感していると

「おはよ」当たり前に挨拶をしてくれるのが嬉しくてぐちゃぐちゃになった髪の毛を気にもせず、頬が緩むのを感じながら「おはようございます」朝一番の挨拶をカカシさんと交わした。

 

看護婦さん以外と朝一番におはようと挨拶するのは久しかった。

以前に寝ぼけた顔が恥ずかしく逃げてしまった事などとうに忘れていた。

 

 

既に身支度が終わったカカシさんは、ベッドの脇に膝を立てる。「調子はどう?」気遣う彼の声色にゆっくり頷いてみせた。朝は気分がいいのはいつものことだ。

 

「ご出発、ですか?」彼は私の長い髪を一本一本顔から除けてくれる。まだ覚醒していない頭でその行き交う彼の節くれ立った指をじっと見つめる。寝ぼけている私が可笑しいのか彼は少しだけ笑いが漏れた

 

「俺の事は気にしなくていいからゆっくり休んでなよ」

気遣う彼に目を瞬きつつ、随分とご心配をおかけした事を深く理解する。その彼に少しでも安心して貰いたく

 

「私の事は気にしなくていいので仕事に励んでください」彼の言葉を真似て笑ってみせると彼が楽しそうに息を漏らしたので、私も笑った。

 

 

気遣う彼に笑顔を向け小さく手を振って見送ると彼は後ろ髪引かれるような様子で出て行った。

 

静寂に満ちた部屋に頭を少しかいて、おおきく伸びをすると自分の声が響く。彼の部屋は必要最低限の家具しかない所為か反響しやすくよく声が響く。

 

 

ベッドからゆっくり下りて、窓を開いて外の空気を吸う。病院では窓をなかなか開けられなかったので清々しい気持ちになる。

1週間前とは少し違う空気の匂いに、秋が近づいていることに気がつく。

 

里を見下ろしたここの風景は相変わらずお気に入りで口に弧を描く。

 

 

 

休んでてね、と言われたものの寝てばっかりだったので正直体を動かしたい。

外に出たら怒られるかなあ。

外をぼんやり見つめて、どうするものかと思慮を巡らし普段通りの生活をしてみようと試みて着替えを済ませとりあえず洗濯機を回す事にした。

 

 

無理しない程度にリハビリのつもりでお掃除をしていると日が高くなった頃にノックが部屋に響いた。

 

弾んだこのノックには前にも聞いた事があるきがする。

 

そっと玄関前に忍び足で近づくと、ドア越しに聞き覚えのある声にやっぱりと思い扉を開く。

 

 

 

「テンゾウさん、」

「退院おめでとございます」

 

突然大きな白い花が目の前に広がり驚いて身をひく。その花は大きくて可憐な「百合の花だ〜」顔を近づけなくても独特な芳香を放つソレに目を細めて丁寧にその花束を手に取る。

 

何本も大きな百合の花に目尻を下げながらお礼を言うと彼は少し照れたように頭を掻いた。

 

「これからお仕事ですか?」

「今帰りなんですよ」

 

よく見ると少し疲れた顔をしていた。その疲労ぶりから昨日の夜から出かけていたのだろう。退院を知ってるということはおそらく病院にも顔を出したのかもしれない。花屋にも寄って大変だっただろうと思い申し訳ない気持ちになる。お疲れでしょうに。

 

労りの言葉を吐くと彼のお腹が鳴った。その間の抜けた音に朝から何も食べてなくてと恥ずかしそうにお腹をさする。

 

よかったらお作りしましょうかと言うと彼は恐縮しきってしまって「病み上がりなんですから休養してください」カカシさんと同じようなことを言った。彼にも随分ご心配をおかけしたと苦く笑う。「でも私もそろそろ何か食べようかなと思っていましたし」ついでですからと付け加えても彼は難しい顔をして悩んでいた。

 

そこまでして、私に料理を作らせたくないのかな。心配症なのかなと悩む彼の表情を伺う。

 

彼は腕を組んで黙思したあとに、すぐに顔をほころばせた。

 

「ご無理でなければ、食べに行きましょうか」

彼の魅力的な誘いに私は目を輝かせた

 

 

 

 

定食屋の暖簾を彼がめくって、礼を述べその下をくぐる。よくカカシさんと来るというその店は彼らが好きそうな定食が並んでいた。その中から、炊き込み御飯の定食を頼み彼はあじの開きの定食を頼んだ。

 

久しぶりの外の空気と、久しぶりの外食に落ち着かなく、わくわくしてしまう

 

目を輝かせた私を見た彼は目を細め微笑ましく思いつつも、口の端を歪めて笑いを堪えるのに必死になっていたのを私は知らない

 

 

暫くしてやってきた定食を口にして少し塩辛く感じる味付けをかみしめてこれこれ、とひとり感動する。病院食は美味しかったけど最初はうすく感じたものだ。それが今じゃ外食が塩辛く感じる。身体によくないと思いつつもこの感じが癖になる。と、いっても和食なのでこの前の夏祭り程栄養のバランスはさほど傾かないので身体によくないとは言い切れない

 

 

「ご飯がでてくるって幸せですよねぇ」

私の幸せボケした姿に彼は目尻を下げてそうですねぇ、と笑ってくれた。

誰かとご飯を食べるのは久しぶりで、つい口の端が上がってしまう。

 

うれしかった、あんな事があってからずっと一人で孤独に吐き出していたあの一週間は辛かったんだなと頭の隅で今更ながら思った

 

 

「もう体調はいいんですか?」

器用にあじの魚をつつく彼が心配そうな声で私に問うた。

入院中彼は体調の事をあまり聞かなかったので、彼から体調は大丈夫なのかと聞かれるのが新鮮で目を瞬く。

 

もしかしたら気遣いの彼は、心配をすれば私が気負う事を知っていてわざと話題を逸らしていたのかもしれない。思えば彼と会話するときは何か楽しいお話をしてくれていた気がする

彼なりの気遣いだったと今更気づいた

 

彼に私はにっこりと笑ってみせる。「もう大丈夫なんですよ」彼の気遣いを無視するわけにはいかない。吐き出してしまう事以外は本当に大丈夫だった。夜に一人考えすぎてしまう事が問題だったので、昨夜はカカシさんのおかげで眠れたし恐らくいい方向に向かっている筈。

 

「無理はしないでくださいね」

私の強がりを彼はどう捕えたのかわからない、気づいているのか気づいていないのか。どちらにしろ彼は心配している。カカシさんからもテンゾウさんからもここまで念をおされたら、大人しくする他なさそうだった。

 

私は頷いて、栗の炊き込みご飯を口に運んだ。

 

 

「サイは会いました?」

最近覚えた名に首を振った。あの日私を助けにきてくれた黒髪の青年で、まだあの時から会っていないけど一度3人で見舞に来てすぐに帰ったあの日に一緒にいたらしい。礼もまだ述べてない事をずっと気がかりだった。

 

「テンゾウさんは、ご存知なんですね?」

私はカカシさんからテンゾウさんが後輩で、ナルト君がカカシさんの生徒だとしか聞いていない。サクラちゃんとサイ君、みんなの関係を全く知らないのでテンゾウさんと接点がある事に首を傾げてしまう。そういえば、甘味屋で会った時もナルト君たちといたような。

 

首をかしげた私にテンゾウさんは瞠目して何も話していませんでしたね、と箸を置いた。

 

 

7班があって、そのうちの一人が抜け忍になって、当時動けなかったカカシさんに代わってナルト君達の隊長を勤めたこと等教えてもらった。

 

彼らの関係を初めて知って私は目を見開いた。そしてカカシさんは先生であって隊長であって彼らといつも行動せず仕事もして…なんとお忙しい人なのかと初めて理解して驚きを隠せない。

 

テンゾウさんも、隊長で暗部というところで仕事をしているらしく彼らは本当に凄い方達だったのだと思い知った。暗部の事も聞いて、ようやく私はずっと気になっていた事が繋がった。

 

「だからお名前が違うんですね」

暗部での名前と、ナルト君達の前での名前と2つある事をようやく理解した。聞いていいものなのかずっと悩んでいたので凄くすっきりした。

 

忍の事を聞いていいものなのかずっと迷っていた。

忍という存在にのうのうと暮らしている私が仕事の事情に踏み込んでいいか考えあぐねいていた。しかし、この前の一件から踏み込まなければ理解する事ができない事が増えていたのを感じていたので聞きたいと思っていた。

カカシさんにも色々お話を聞こうと思っていたところだった。テンゾウさんは話す事を忘れていた様子だったので、隠していたわけではなさそうだった。

私が笑いを零すと彼は不思議そうな瞳で見つめてきた

 

「テンゾウさんで、ヤマトさんなんですね」

踏み込んでいいものだと理解した事は自分にとって嬉しい出来事だったようだ

忍の後輩だという情報しかなかった人物がナルト君とカカシさんと線で結ばれて理解しただけなのにここまで嬉しい

それは多分、彼という存在が私の中で明確になっていくのが嬉しいのだろう

 

彼は面喰らったように自分の名を聞いて、こそばゆいのか少し照れていた。

 

「いちかさんにヤマトと呼ばれると調子狂いますね」

「でもナルト君たちの前ではヤマトさんって呼ばないと」

 

だめですもんね。有無を言わさないようににっこり笑うと彼は眉を下げてそうなんですが、と歯切れ悪く居たたまれない気持ちを隠す。そんな様子の彼に口の端を上げた。

 

 

定食屋を出て彼と別れようとする。また夜から仕事らしいのでそれに備えて仮眠を取るそうだ。

 

「今日はゆっくりするんですよ」私がいいたかった言葉を先に言われてしまう。カカシさんも、テンゾウさんも心配し過ぎなんですよ、と困ったように眉を下げた。不意に落ちた影に気づいて頭を上げると一歩近づいて来た彼と距離が近い。

 

その瞳は夏祭りの時のように熱い

 

 

「心配ですよ、」

空気に違和感を感じて、私は条件反射で身を固くした。瞳が真っすぐに私を見つめ、その視線から逃れる事ができず視線が絡まった。

 

息をするのさえ憚られ、真剣で真っすぐな瞳になんと言うか思慮しようとしても頭が働かない

 

 

この感覚は身に覚えがあった。

 

思わず視線を逸らして、まさかと自分の考えを退けようとする。

その、カカシさんが私に向ける空気と似ていた。

 

私を好きになっていいかと聞いてきたカカシさんが向けるような視線をテンゾウさんは私に向ける。

 

まさか、そんな筈ないと自分の考えに叱咤する

 

 

「僕はもうあんな思いは嫌です」

 

辛そうに呟くその声に心臓が早鐘のように鳴っていく。

カカシさんも昨夜似たような事を言っていた気がする、どことなく2人が重なっていくのを感じながら首を振る。

 

彼は突然私の掌を取って、強引に視線を絡ませた瞳は熱く、揺れていた。

 

触れ合った掌に先日の夏祭りに手を繋いだ事を思い出して頬が染めた。大きくて、ごつごつして男の人らしい掌に熱が上がっていく。

 

自分の予想が頭の中に占めていくのを感じて冷や汗をかいた。その予想がもしも当たっていたら先日彼ら2人でなぐさめてくれたあの言葉はそういう意味合いになってきて、まさか、彼は

 

 

 

「いちかさーん退院おめでとうございます」

 

遠くから手を振りながら駆け寄って来たサクラちゃんに驚いて彼と不自然に手が離れた。触れられた熱がじんじんとして、胸がざわついている。

 

そんな筈ない

 

冷や汗を垂らしながらその熱を指先で擦った

 

 

近寄って来たサクラちゃんは私たちの微妙な空気に驚いて顔色を変えた。タイミング悪かったかなと顔に書いてあるサクラちゃんに首を振って彼女の手を取る

 

「サクラちゃん、少しだけ買い物つき合って欲しいの」

「いいですけど、体調は」

「少し足らないものを買い足すだけだから」

 

ではヤマトさん、また。そう作った笑顔に彼は同じように作った笑顔で別れた。彼の背中を見送りながら先ほど繋がれていた掌を指先で何度も擦って、目を伏せた。

 

 

 

「お邪魔、でした?」

 

恐る恐る聞いて来たサクラちゃんに大きく首を振って彼女の両手を顔の近くまで持って来て「助かったよ」感謝の言葉を述べた。

 

全く状況がわかっていない彼女は頭の上に疑問符を浮かべていた。彼女の様子に苦く笑うと彼女は目を丸くして私の顔をじっと見つめる

 

「告白でもされたんですか?」

「な、違います」

口を尖らせて彼女の言葉を否定した。否定しつつも違和感のある彼女の言葉を少し考えて、瞳を覗き込む。

 

どうしたんですか、彼躊躇いながら言葉を吐いた彼女を見ながら告白と言った意味をかんがえる。

 

 

「やっぱり、そう、いうことなのかな」

 

眉を顰めて頬を染めると、彼女は目を瞬いて少し呆けた後に興奮した。

「どういうことですか?!」くってかかってきた彼女にまるで胸ぐらを掴まれたような気持ちになりながら彼女を落ち着かせる。

 

「何も言われてないよ、言われてないけど」

歯切れ悪く私は言葉を切った。あの熱い瞳に空気、カカシさんと重なるところがあって。

なんとなく、そうなのかなって思ってしまった

 

 

「もし、そうだったとしたら、なんで私なんだろう」

 

自分の掌を見つめてテンゾウさんと出会ったつい最近の事を思い出す。私が弱いところを見せてただ数回お話しただけなのに。カカシさんも私を好きになっていいかなんて言ったけどただお部屋でお世話をしているだけの私に何故そんな事を聞いたのか未だに謎だ。

 

しかしカカシさんについては、この前の事があったし迷惑ばかりかけているのは自覚していたのでそろそろお荷物だと思って私に吐いた言葉を撤回すると思っている。

数回しかお話していない私を好きになるものなのだろうか。つい腕を組んで首を傾げてしまう。

 

私が深く悩んでいる様子を見て彼女は眉を下げた

 

 

「なんで、とかそういうのって必要なんですかね」

 

サクラちゃんは髪の毛を風に遊ばれるのを手で押さえて遠くを見つめていた

憂い帯びた横顔に、同性だけど思わずどきっとしてしまう。あまりにも綺麗な横顔で、見ていて胸が締め付けられる。

 

「サクラちゃんは好きになる理由探さない、ってこと?」

切なそうな横顔にドキドキしながら彼女に問う。人と恋話をするのは初めてで、慣れない感覚だった。彼女は寂しそうに眉を下げてそうですね、と小さく言った。あまり楽しそうな雰囲気ではないので、苦労している恋をしているのだろうか。私は恋をした事がないので、何と言ったらいいかわからない。自分の気の使えなさに落胆した

 

彼女は視線を私に寄越して口の端を上げた。

 

 

「いちかさんだから、好きなんじゃないんですか?」

 

私は瞬いて、彼女の言葉を耳に届けた。以前彼女が私に吐いた言葉と重なった。

 

 

入院している時、彼女は何度か足を運んでくれてずっと気にかけてくれていた。病室で労ってくれる姿に罪悪感が沸いてしまい、その時ずっと気になっていた事を彼女に聞いたのだ。

 

「私の事情を、聞いたんでしょ?」彼女はバツが悪そうに視線を逸らして頷いた。私が幽霊で何らかの理由で狙われていたという事を聞いただろう。私が目が覚めた時に点滴を差し直してくれた時に私の傷口をじっと見ていたのを覚えていた。

 

生きているみたいだときっと彼女はその時思っていたのだと思う。

 

「ねえ、どう思ったの?」彼女がその話を聞いて、戸惑っている姿を見るのは正直キツかった。

それでも彼女は離れていくわけでもなく、何度も足を運んでくれるのにとても不思議に思っていたのだ。あの病室で自分でも気がつかないくらい追い込まれていたようで彼女に責めるように聞いてしまった事を今でも後悔している。

 

彼女は真っすぐに私を見つめて口を開いた。

「正直に言えば、驚きました」

 

揺るがない瞳で嘘をつかず隠そうとはしない言葉に、目を瞬いた。

正直で真っすぐな娘だとその時初めて思った

彼女は出会った時から私をずっと気にかけてくれて優しい子だとは確信していたが、全く揺らごうとしない瞳に感嘆した。

 

「でも多分、わたし」彼女は眉を下げてしょうがないとでもいうように自分に呆れているような表情をしたりところころと代わる彼女は見ていて飽きない。

ひとつひとつ見逃さないように瞬きするのさえ惜しみたくなる。

 

 

「いちかさん自身が好きなんだと思います」

 

彼女は優しい笑みを浮かべて慈愛めいた言葉に瞠目した。恐らく、先ほどのしょうがないという顔は悩んでいてもしょうがないと彼女が諦めた瞬間だったのかも。

 

「なんか出会った頃から目が離せないっていうか、」私の首の傷口に手を伸ばし、消毒し直してくれる。「手かけちゃうっていうか。」優しい彼女に思わず噴き出して「いいお母さんになるね」思った事を口にすると彼女はそう思いますって自身満々に答えた。

 

 

「だから、貴女が誰であっても私は手を出すの」

「…?」

「幽霊だから嫌うわけないじゃない」

 

その時優しく笑んだ彼女の笑顔を鮮明に思い出すことができる

彼女は本当に優しく芯が強く揺るぎやすくも必ず貫き通す子だった。私が何と言おうと、好きだからお世話をしてしまうと一点張りで幽霊どうのこうのと考えるのはやめたそうだ。

実感が湧かないからそう言っているようにも思えたけど彼女が私を好いてくれているというのがとても嬉しかった。

 

悩みつつ私に向き合おうとしていた事を知って、涙を零して彼女を抱きしめた。「ごめんね」戸惑っている姿を見るのがキツかったなんて思って彼女の努力を無下してしまった事を深く後悔した。

彼女はその時私の背中をやさしく撫でた。サクラちゃんは優しいが故に脆いところがあるかもしれない。

 

直ぐに受け入れることができなくてもそれでも時間をかけてでも立ち向かっていく姿を見て凄く強い子だと思った。

 

 

 

 

あの時の彼女の言葉と今言われた言葉を頭で反芻させて、深く今納得して彼女の瞳を見つめる。

 

「サクラちゃんがもし幽霊だったとしても好き」

降参ですと掌を彼女に向けると白い歯を見せて笑った。

 

恋愛感情を難しく考えすぎて、幽霊の私にどうしてという気持ちばかりが優先してしまい疑ってばかりだった。幽霊の自分が納得できて彼らの隣に相応しい理由を探していたのかもしれない。

 

無いから、彼らの気持ちを否定してしまったけどそもそも恋愛感情云々の前に私は彼らの事を大事に思っている。

 

もしも彼らが幽霊であってもそう思っている。彼らも、サクラちゃんもナルト君も入院中にずっと言い続けてくれたその気持ちを今、初めて理解できた。

 

私が好きだから、幽霊とか関係ない。

そうみんな言ってくれていた。

 

 

「人を好きな理由っていらないって今わかったかも」

「そういうこと」

彼女は以前と同じように歯を見せて笑う姿に、きっと彼女は同じ事を考えた経験があるからこそ導きだせた答えなんだろうな、と思う。切なく遠くを見つめた彼女の横顔を脳裏で思い浮かべながら屈託なく笑う彼女を見て強い子だと確信した

 

 

「で、どっちにするんですか?」

「そう言うって事はヤマトさんってそうなの?」

「…私に聞かないで下さい」

困ったように眉を下げた彼女に答えを聞いても確かに仕様がないと口を噤む。聞く相手を間違えたと思いつつ本人に聞ける話でもない。

 

しかし、私を大事に思ってくれているのは確かでそれは逆に私もそうだ。どちらかを選べと言われてもどちらも大切だし選べない。

 

「恋愛感情無しにしても、選べないかな」

ずっとサクラちゃんに問われているどっちにするの、の答えはソレだった。

 

私の答えを聞くとサクラちゃんは頭の中で誰かと誰かを天秤にかけて確かに恋愛感情無しでは選べないと言っていた。恋愛感情があれば選べるのかとすこし疑問が湧いた。

 

 

 

「…ヒナタ、何か用なの?」

 

サクラちゃんは突然足を止めてしびれを切らしたように後ろを振り返った。サクラちゃんの視線を追い、私ではない誰かに声をかけた先をみる。曲がり角から見える藍色の綺麗な髪の毛が揺れたのを見て、首を傾げる。

 

あの髪の長さからおんなのこ、があそこにいるのかな?曲がり角に身を潜めていて顔は見えない。全く気づかなかったけどサクラちゃんはあの子が後ろにいるのに気づくなんて凄いな。忍ってすごいな、もしかして気配とかでわかったのかな。

 

 

「ごめんなさい、出るに出れなくて」

おずおずと出て来た可愛らしい女の子に本当にいたんだと吃驚する。サクラちゃんとの会話をひとつひとつ思い出して私が幽霊であるという事は言ってなかった筈、と丁寧に記憶を探る。

 

「どうかした?」

「ううん、えとね、」

サクラちゃんは気の弱そうなその子に優しく言葉を吐く。サクラちゃんは本当に誰にでも優しいのだな~と彼女らのやり取りを蚊帳の外からぼんやり見ていると、綺麗に揃えられた前髪から覗く不思議な瞳と視線がぶつかる。

 

「ちょっと、お伺いしたい事があって」

「わ、たし?」

突然知らない可愛い女の子から話があると言われたのは初めてだった。いつも話をする相手といえばカカシさんとテンゾウさんばかりで、サクラちゃん意外の女の子と話すのは初めて。

うまく話ができるのだろうか、と冷や汗をかいた。

 

「あ、の」

凄く言い辛そうに言葉を濁す彼女に私の心臓はいやなうごきをして、早くなっていく。この感覚は苦手だった。彼女も緊張していて私にまで緊張がうつってしまう。

 

口を開くのを躊躇っている彼女は作っていた拳を強く握りしめて、意を決して目を固くつむり口を開いた。

 

「ナルト君と、どう、いう関係なんですか!」

「、…、…え」

 

何を聞かれるのか怯えていたのに拍子抜けした。状況を全く理解していないし必死にここまで何かを尋ねられる経験を一度もしたことがない私は狼狽してサクラちゃんに助け舟を乞う。

 

サクラちゃんは何か理解しているのか頭に手をあてて大げさに溜め息を吐いた。

 

「ヒナタ、いちかさんはそういうのじゃない」

「じゃ、じゃあどういう?」

何か必死に私の素性を理解したい彼女の様子を見て、首を傾げる。私の素性を知る事がナルト君との関係を問うことに繋がらないけど、「姉弟みたいな、かんじ?」何か答えをほしがっている彼女に嘘をつかずありのままの事を話す。先日病室でナルト君に言われたのは事実だ。

 

ヒナタちゃんと呼ばれた子は目を見開き「そ、それ以上は無いのですか?」慌てて私に何かを確認している姿に首を傾げて「それ以上って、…どれ以上のことですか?」全く理解できず素直に口にした。

彼女は少し呆けた顔をしたまま何か考えるように視線を落として黙りこんだ。落ち着いてくれた様子に私も息を吐いた

 

「ナルトもそれ以外も恋愛感情は無いんですって」

「え”っ、そういう話だったの…」

「そ、うなんですか…」

明らかにほっとしたような顔色の彼女に、ようやく私は線が繋がっていくのを感じて蒼白した。

も、もしかして、この子はナルト君の事が…

「わ、私ナルト君に料理教えてただけで他は何も」まるで捕まった罪人のような気持ちで無罪を主張した。

 

「ナルト君の事、好きでは…無いんですね?」

恐る恐る聞いてくる彼女に何度も頷いてみせると彼女は良かったと優しく笑った。その笑顔はまるでぽっと灯りがついたような優しくて安心するものだった。サクラちゃんの笑顔は元気で見てるこっちまで元気になるものだけど、彼女はつい優しい気持ちになる笑顔だった。

 

少し染まった頬を見て、いつの間にか口が開いていた。

「あの、恋愛の好きて何、ですか?」

いつも傍にいてくれる方達に相談できる話ではないのでつい口を開いてしまった。見ず知らずの人に思わず聞いてしまうなんて、私も相当恋愛感情についてお手上げなんだなと思った。

 

その女の子は私の言葉に動揺して狼狽えていたけど私の真剣な瞳に気がつくと視線を下げて指先をいじった。

 

「…一緒にいたいとか、私を見て欲しいとか」

…じゃないですかとか細い声がどんどん小さくなっていく。顔を真っ赤にさせた彼女が可愛らしくて私は一人慌ててしまう。

恋をした女の子というものはこんなに可愛らしいものなのか

 

「それって、皆にも思ったりしないの?」

彼女は目を瞬いてから少し悩んだ後に「思う人もいますね…」と小さい声で答える。

私もサクラちゃんと話せば一緒にいたいと思うし、誰にも視てもらえない時は見て欲しいとも思った

恋愛感情と普通の感情の違いが全くわからないので私が悩み始めると彼女も悩んでしまった。二人で腕を組んで悩む姿は滑稽だろう。

 

「落ち着いて」

サクラちゃんは呆れて私達の間に割って入ってきた。

 

「ヒナタはナルトの事が好きなんでしょ。それでいいの。いちかさんは、深く考え過ぎないの」

まるで母親のように助言してくる彼女に私達ははい、とおとなしく頷く。やれやれとサクラちゃんはため息を吐いてみせて私に向き直る。

 

「まだそうと決まったわけじゃないんですから後で悩めばいいんじゃないですか」

 

テンゾウさんにはっきりいわれたわけではないので、わからないことをくよくよ悩んでいても仕方がない、サクラちゃんの言うとおりだった

 

でも、私を好きになっていいかと問うたカカシさんの事を思い出して眉を顰めた。もう既に私が好きだと断定している人にはどう対処したらいいのかと悩むものの、なんとなく口にだすのが憚られこの話はしないことにした。

 

まあ、人の気持ちをあれやこれやと考えてもしょうがない。否定するのも、疑うのも憶測でしかないし事実ではない事に一喜一憂したって仕方がない。彼らの感情を頭で考えるのはやめよう…と心の中で決めた。

 

 

「あの、突然変なこと聞いてすみませんでした」

ぺこりと行儀よくお辞儀をした彼女に目を見開いて、礼儀正しい彼女に目を細めながら「いえいえ気にしないで」表情を緩めると彼女も優しく笑む。その綺麗な笑みが彼女たちは対照的で魅入った。

 

可愛らしく頬を染めた彼女の隣にあのまぶしい太陽みたいな彼を思い浮かべて笑みを濃くした。

「ヒナタちゃんの恋、応援するよ」

私の事を化け物という言葉から何度も救ってくれたあの彼に少しの光が灯ればいい。

こんな顔を真っ赤にそめながらも一途に思ってくれる可愛らしい子がその光になってくれたら、もっといい

彼女は頬を染めて礼を述べた。サクラちゃんも小突くと指先をいじりながら肩を強張らせていく。

 

「は、話するのも恥ずかしくて、」

純情なるその想いに顔面を覆ってしまいたいくらいの恥ずかしさを私が感じてしまいそうだった。

 

 

それから彼女たちの話をつられて顔を赤くしながら聞いていた。彼女たちの話を聞きながら私はやはり彼らに対する想いは違うと確信した。彼らは違った空気を漂わせるので戸惑うし、そういう経験が無いから頬を染めてしまう

好きだから、恥ずかしいわけではないのだ

 

帰宅したのはもう辺りが真っ暗になっていて、なんかどっと疲れたような気持ちで扉を開けた。

 

 

 

 

「おかえり、出かけてたのね」

先に私を出迎えてくれた事に目を見張り、暗くなった空に流石に遅かったかと後悔をした。

 

おかえりなさい、と声をかけながら荷物を置こうとするとその荷物を奪われ冷蔵庫の前まで持っていってくれる。「買い物してきたの?」「いろいろ…」苦笑いをしながら靴を脱いで彼のそばに寄って、袋の中から食材を取り出して彼に渡して。それを受け取った彼は中にしまっていく

 

テンゾウさんとご飯を食べて、サクラちゃんと会って、ヒナタちゃんと会ったというと「濃い一日だったね…」と目を見開いていた。いつも家でこもって家事をしたり、この前まで入院していた私にとってカカシさん含め一日に何人も話をしたなんて、大きな出来事だった。

 

ヒナタちゃんはカカシさんを知っていた様子だったので、彼に素直に知り合いか尋ねると同僚の教え子だと言った。ちゃんと私が聞けば答えをくれた。人との関係を聞く事を憚れていたけど、どうやら取越苦労だったようだった。

 

 

今日の晩ごはん分の食材を取り出してキッチンに立つ。

「俺も今日は手伝うよ」

仕事で疲れているはずの彼の申し出を遠慮したいところだけど、流石に今日は疲れていたので助かった。

 

疲労しきった私を見て彼はおおきくため息を吐いて「無理しちゃダメでしょ」私を叱る。まるで親のように怒るので、肩を落としてしょげくれた。

「お話、楽しくて」言い訳を子供のようにぼそりとつぶやいてみる。女の子同士の恋の話は慣れなくて緊張もしたし戸惑ったりもしたけど楽しくて時間が過ぎるのを早く感じた。

 

 

「少し顔色良くなったね」

私の顔色を覗き込んで安心したように息を吐いた。本当ですかと笑顔になっていくのを感じながら、優しい瞳を覗き込む。

女の子たちと話していた所為か明るく顔を綻ばせる昨日と全く違う私の姿に、カカシさんは目尻を下げた

 

 

「でも楽しくても、身体が一番だからね」釘を刺され、思わずうっと言葉に詰まらせながら「はあい」大人しく彼の言葉に今度こそ従う事を素直に口にする。「えらいえらい」頭を撫でられて、その心地よさに視線を下げた

 

 

「じゃああの百合はテンゾウが持ってきたの?」

「そうなんです、退院お祝いに」

 

花瓶に添えた百合の花を見て、顔を綻ばせる。豪華絢爛な花は殺風景な部屋を一瞬で華やかにする存在感がすごかった。

 

少し花粉の匂いがキツく、窓を開けて空気を入れ替えようと窓に足を運ぶ。小さな部屋なので、匂いがすぐに充満してしまう

 

窓を開いて、少し冷たくなった風に驚きつつその深閑としたよるの雰囲気に空を仰ぎ見た。僅かに部屋から漂う芳香を放つ花を届けてくれたテンゾウさんの事を思い出して目を伏せた。

 

頭で考えるのはやめようと決めたけど夏祭りの事や今日のあの熱い瞳が私を捕らえる感覚に息をするのを忘れそうになり頭を振った。

 

今日は彼女たちと話せてよかった

きっと話していなかったらこの部屋であれはなんだったのだろうか、違うのかとずっと頭を抱えていた筈だ。誰にも話せなかった内容だったので随分と気が楽になったもの。

 

私もあんな風に誰かを想ったりするのだろうか、頬を染めつつ楽しそうに話す彼女達を見て少しうらやましくも思った。

 

 

 

「何考えているの」

すぐ傍まで来ていた彼にぎょっとした。こんなに近くにいるのさえ気づかず呆けていたらしい。何を考えていたなんて答えられるわけなく、口を閉ざし窓の縁を指先でいじる。

 

「だれの事考えていたの?」

射抜く瞳に私はまた動けなくなってしまい、視線を逸らした。

誰かを考えていたのがバレてしまいそうだ。思えば今日はテンゾウさんの事ばかり考えていたような気がする。カカシさんの私に対する似た空気を纏っていたのを脳裏で何度も掠めていた。

 

居心地悪く視線を外の風景に移して、外の風を感じながら鼻孔が百合の匂いを掠める。目の前の彼と、花を届けた彼が脳内でめまぐるしく回り、目眩がしてしまいそうだ

 

 

「俺の事だったらいいんだけどな」

 

私の髪をわずかに手で掬いとって、節くれだった綺麗な指先でいじる。想って欲しいだなんてまっすぐに伝えた彼に頬が熱くなっていくのを感じながら手のひらで隠す。彼の事なんとも思っていない筈なのにどうして私の頬は熱くなるのか不思議だ。きっと、誰かとこんなに近い距離で話した事がないから、だ。

 

「あんな事があったのに、まだ私を好きになろうと努力しているのですか?」

 

そろそろお荷物だと思っていい頃合いの筈なのに、彼は私を放るわけでなく寄り添ってきた。その温度に身を委ねていた私がとやかく言うのは、たしかにおかしいけど。

あの事件で愛想をつかしてもいいのに。大事な人だと言ってくれたり看病してくれたり、本当に想われていると自覚していた。

 

「違うよ。」カカシさんは私の私の髪から手を離し、その手のひらを窓の縁についてぐっと距離を近づけてくる。思わず仰け反るけど、熱い瞳にまたもや捕らわれ動けない。

 

そらしてばかりの視線を離すのさえ惜しくなる感覚に陥った。カカシさんが私を視てくれているだけで幸せであったのに

 

 

「好きだよ、いちか」

 

その瞳に収めて愛でてくれようとしている。知っていた事だったけど、なってもいい?と言われていた言葉から断言しきった物言いに驚き、信じる事ができず首を振った。

「う、嘘です」弱々しく言葉を吐き出して、うろたえた。好きになっていいかと言った言葉が断言に変わるとは思ってもいなかったので僅かに混乱した。

 

彼は癖になってしまったのかまた私の髪の毛を掬って、私の顔を覗き込む「嘘じゃない」少しやわくひいた髪の毛が彼と私をしっかりと繋げていて、手を繋ぐくらいになんだか恥ずかしい。

 

捕われている感覚に口を真一文字にしめた

 

熱く揺らいだ瞳に、意を決して拳を握り彼を睨む「カカシさんがわかりません…」覗きこんだ彼の瞳が思ってもみない言葉だったのか驚きで見開いた。私の弱々しい声は部屋に小さくこもって響いた。自分の声に情けないと思いつつも言葉を吐き出す

 

 

「私の事からかって距離を見誤りましたよね?」

 

私達は初めて会ってお互い距離を図りつつも生活していた。私が気を緩めすぎて距離を見誤っていた時、彼は最初ちゃんと壁を張っていた。あの思い出すのも恥ずかしくなる、風呂場での出来事や部屋でだらけ過ぎていた時は彼はまだ大人の対応をしていた。

 

私にちっとも興味なんて無さそうに。

彼は私をからかうのが楽しくなってきた頃から、距離が変わったように思えた。

 

「私のこと、試しましたよね?」彼がいつの日にか私を好きになっていいかと聞いたアレは、私の反応を見て出るか出ないか迷っていたようにみえた。

 

つまり、私の事をからかって反応を見ていたと思ってる。ここ最近では流石に大事に想われていると自覚しているので、彼が面白半分に私をからかいつづけているとは思わないけど。

あの日、彼は間違いなく私をからかうというよりも試していたように思えた

 

 

疑心暗鬼なる視線にカカシさんは、寄っていた距離を戻し頭を少しだけ掻いて視線を逸らした。少し居心地わるそうな彼を見て、やっぱり予想どおりだったのかと睨む。そんな視線にため息を吐いて、まっすぐ私をみつめた

 

 

「からかってないといったら嘘になるかもね」

「随分曖昧なんですね」

「まあそう怒らないで」

 

カカシさんがゆっくり手を伸ばし私の頭を優しくなでて、その暖かさにいつの間にか弱くなった私は口を大人しくつぐんだ。この体温が私を黙らせるようになったのはいつからだっただろうか。

悔しいのか、恥ずかしいのかなんとも言えない気持ちで唇を噛み締める

 

 

「でもね、気にならない女にちょっかいなんてしないよ」

 

彼は優しく頭をなでて、何度も髪の毛を梳く。サクラちゃんに借りた櫛のおかげでひっかかることなく毛先まで彼の指が通って行く。

 

歳下の子をからかっていたのは認めるけど、最初からその気があったと彼は言いたいのだろう

 

そこまで考えて責めるつもりが彼の気持ちを再確認してしまい墓穴掘ったと頬を熱くした

 

「いいかと聞いたらどう反応するかなって思ったから、試したという表現は当たりかな?」困ったように眉を落とす彼を、ジト目で見つめ返した。私の視線に居心地悪そうに身じろぎ、私の髪から手を離した。私が彼を睨むなんていままでになかったから少し新鮮な気持ちだった。

 

 

「あの時、テンゾウさんの事やけに気にしていましたよね。」

彼は私の視線から逃げるように視線を上にうつして記憶を探る。私がテンゾウさんと出会ったばかりの頃でおもちゃを取られたような子供のように焦ってムキになっていたように見えた。

 

 

「ま、焦って柄にも無いこと言ったかもね」

テンゾウが好きなの、と聞いた彼が何か焦ったように見えたのは間違いではなかったようだ。今思い返すと、確かにあの時の彼は彼らしくなかったような気もする。

 

「なら、やはり勘違いなのでは?」

焦っていろいろ間違えてしまったのではないかと期待を込めて言ってみるものの、彼はまた私の髪の毛を掴んで、そこに口布越しに唇を寄せた。

 

それはまるで小さな子どもの物語に出てくるようなシーンみたいで声を失う。

 

 

「間違いじゃない、」また彼との距離が近くなる。苦しそうに吐き出した言葉になんだか胸が締め付けられて、私が受け入れられる言葉でなはないと悟り視線をそらす。

 

「急いたのも、からかったのも認める。」彼は視界に入れてもらいたいのか何度だって私を絶対に逃さないように視線を絡めとる。「でも、奪われるわけにはいかなかったんだ」

奪われる、だなんて。

 

私は鼻孔をくすぐる強い花粉の匂いに目がまわりそうだ。

 

 

 

「疑わなくていいんだ俺の気持ちを」

 

私の頬に手を添えて、こもった熱で答えた。理由をつけて否定したい私の気持ちを察していたらしい。初めて会った時から彼はきれる人だとわかってはいたけど私の気持ちまで察せらてしまうと抜け目ないなと実感してしまう。

触れられた手のひらがいつもより熱く感じた。

 

「いちかは、俺の事どう思う?」

彼の質問に眉を顰めてしまう。好きか嫌いかと言われたら好きである。ただそれがどういう感情のものか私も理解に苦しんでいて伝えていいものなのかわからず口にするのを憚れてしまう。まっすぐ私の気持ちを聞いてきた彼に少し困ったように眉を下げた

 

「今日はずかずか踏み込んでくるんですね」

「ぼやぼやしている暇じゃなくてね」

見慣れた熱い瞳に、視線を彷徨わせて対応に苦慮していた。彼の期待に沿いたいとは思うほど彼の事は好きなんだろうけどこれは多分彼女達が頬を染めて楽しそうに話していたあの感情ではない。

それでも、伝えていいものだと優しい瞳に許され口を開いた

 

 

「…大切に、思っています。」

 

少し頬を染めて視線を下げて、心の内を吐き出す。

私の中では大きな告白だった

 

カカシさんは添えた手のひらがぴくりと驚いて動きを止めた。私が恥ずかしさで揺れる瞳を覗き込んで面食らって僅かに視線を彷徨わせ口布を引き上げた

 

「家族のように、思っています」

 

はっきりと伝えて、いつも気にかけてくれる感謝を伝えたかった

私は、カカシさんに対して家族のような愛を感じていた

 

彼と同じ気持ちになる事はできなかったけれど、その感情以上に私はこの気持も大事だと思っている。初めて伝えた気持ちに視線を下げて恥ずかしさを堪える。

い、言っちゃった。

人に気持ちを伝えるというのはこんなにも緊張するものなのか

彼は2回も私に気持ちを伝えて、すごいと思う。

 

「そう思ってくれて凄く嬉しい」

涙袋を膨らませて笑んだ彼に今度は私が面食らう番だった。同じ気持ちになれない事を彼は嘆きもせず喜んでくれた。私の頬を撫ぜる手が愛おしく滑っていくのを感じて瞳を閉じた。彼の気持ちに答えられない事を僅かに悔しく思いつつも、自分の気持ちを変えられる訳ではなかった

 

歯がゆさを感じて「想って頂いているのはわかりますが、」言葉を曖昧に切り言葉にするのを躊躇い視線を彷徨わせる。

いつの間にか私の手をそっと包んでいて、続きを促すようにやさしい視線に眉を顰めた。

 

 

「その感情は家族のようなものでは、ないのですか」

 

私が経験少ないから家族愛と思ってしまっているのか彼にその愛を求めていたか定かではないが、確かに愛を感じていた。しかし、恋愛感情と家族の愛と見分けがつかなく、一人何度も混乱した。

 

彼の醸しだす空気は独特でとても苦手なので、できれば家族の愛のようなものだと私は助かるのだけど…。彼は添えた指先で私の頬を撫ぜた。

 

 

「全然ちがう、こんな想いはいちかだけ」

 

私の手を口布越しに唇を這わせて視線を絡ませられる。彼のまっすぐ貫き通す想いに顔を真っ赤にさせて視線を反らし白旗を上げた。

 

私がなんと言おうと彼は自分の気持ちを貫き通すつもりらしいので、私の言い訳は彼には通用しそうになかった。

 

彼がそうでなかったらいいと思っていたけどそういうわけにはいかないらしく、どうしたものかと冷や汗を垂らしながら徐々に近づいてくる彼から距離を取る。

 

 

「一緒だったら、良かったと思いました」口を尖らせて子供のように拗ねてみせた。家族愛のような気持ちでこの家にもう少し留まっていられたら、私は幸せで成仏できそうだ。私の未練が幸せになることで成仏できるかはわからないけれども…

 

私のふてくされた顔を見て彼は口布から息を漏らしてかすかに笑った。「ダメ、俺は」途切れた言葉に視線を上げると、微かにリップノイズが響く。

 

突然のことに言葉を無くして状況を把握しようとしても頭が全く動かない。口布を上げるしぐさをしている彼が一歩引いて私の視線と揃えて覗き込んでくる

 

 

 

「こんなにも愛おしくて堪らない」

 

わずかに、濡れたまぶたに顔があつくなっていき上げ直した口布の仕草を思い出して口をパクパクとさせて何が起きたのかわかってしまった。

 

わなわなと震えて目眩がしたと思うと後頭部を思いっきりぶつけた。痛みでしゃがみ込むと自分の心臓の音が失速を許さず響いていた。

 

わ、わたしはいま

 

 

「大丈夫?」心配してしゃがみ込んできた彼に驚き真っ赤な顔で尻もちをしてしまった。そんな私を見て彼は、口元は見えないけどきっとにやりと笑った。ひとつだけの目が、三日月のように歪んだのを見て油断、した!と思った。

 

 

 

「姉御~~!!」

窓から突然私の胸元に飛び降りてきた重みに驚いて、尻もちをついていた私はバランスを失って床に倒れ込んだ。

 

「、?!、?!」いろんな事が突然起きすぎて、混乱していた。目を丸くして私の胸元にいる何かを見つめている彼にならい、恐る恐る視線を胸元にうつした。

 

そこには毎日焦がれていた聞き覚えのある声の相棒がいて破顔して起き上がった。

 

「し、しらたま~!心配してたよ~!」

「おいらのセリフでやんすうう」

 

猫って涙流すんだとぼんやり猫の顔をみつめる。私の心臓はあれやこれやと反応して大変だ。

猫の心配そうな瞳に笑顔を浮かべて、猫との再会を喜んでいた。

 

カカシさんがしゃがみ込んでしらたまを撫でた。「ね、俺の言ったとおりでしょ」「見るまでは安心できないでやんす!」仲よさげに話しているのを見て目を見開いた。しらたまは話すのも億劫な程カカシさんの事嫌いだったのに少し砕けて話している姿に驚きながらもほっと安堵した。

 

大事な二人が仲良くなってくれるのはとてもうれしい。「仲、良くなったね」私の茶化しも猫は怒らず照れくさいのか視線をそらしていた。やだ、この子今デレたのかしら凄く可愛かった

 

 

「入院中は毎日部屋に来てたんだよ」

私が入院している間、この部屋の窓の辺りをそわそわ落ち着かない様子で動きまわっていたらしい。毎日私の様子を耳にして森へと帰って行ったそうだ

 

随分心配をかけていた事を知り猫の頭をなでてやって「もう大丈夫だからね」笑いかけると猫は安心したように嬉しそうに鳴いた。2つのしっぽが揺らめいているのを見つめて、口を開く

 

 

「しらたまに、沢山聞きたい事があったの」

猫は黄金の瞳で私を見つめていた。その綺麗な色に魅了しつつ、私の紅い瞳から何かを探るようにまっすぐ見つめる猫から目を離さなかった。

 

 

「姐さんには色々話さなきゃなんねえっすね」

大きくため息を吐いて視線を逸らした猫に私は心臓の音が大きくなっていく。私の知りたかった答えが見つかるかもしれないという高揚感に頬が上気していく。

 

言葉を探している猫に心臓を高鳴らせながら言葉をまつものの、猫が考え始めて全く喋らなくなってしまい、その苦しそうに悩む姿に頭をかしげた。

猫は恐る恐る私を見上げて「何処から何処まで話せばいいかわからないでやんす」弱々しく言葉を吐いた。「全部でいいんじゃないの?」私の言葉を全く耳に届いていないのか難しい表情をした猫は窓の縁に移動して、座った。

 

 

「長に聞いてくるでやんす」

月明かりに照らされた猫が神秘的で綺麗だった。「…おさ?」驚いて目を見開いた。あまり深く考えた事は無かったのだけど、一族というからには長がいるのは当たり前だけど…しらたま以外に猫又がいるのは驚きだった。

 

森の奥でみんなと暮らしていると前に聞いた事があったけど、一族で暮らしていたのかどうかは聞いていない。そもそも、この里に下りて来ている猫又はしらたまだけだ。

 

他の猫は見たことがないので猫又一族という集まりがあることに驚きを隠せない

 

 

「場合によっちゃ森に来て貰う事になるでやんす」

「長様は、降りてこないの?」

しらたまは少し視線を泳がせて、降りてこないでやんすねぇと言った。首を傾げて森から動かない長様の事を考える。ひきこもり体質なのだろうか。

 

「森に行くなら同行を許可頂きたい」

 

カカシさんは床に腰を下ろした状態でしらたまを見上げていた。森に行くという事は里を離れるという事だ。あの男は今拘束されているけど、しらたまを狙う他の人はきっとまだいる。

それに私も狙う人も、だ。

 

カカシさんがいてくれれば確かに安心だけど、忙しいって聞いてるのに…大丈夫なのかな。月明かりに照らされた銀色の髪の毛に目がいき、じっと見つめていると彼は視線に気づき私と目がばっちり合った。先ほどの事を思い出して慌てて視線を逸らした。

 

猫は彼の申し出を神妙に頷いてしっぽを揺らして返事をした。まんまるい綺麗な月を猫は見上げて「ねえさん、元気そうで安心したでやんす」2つ揺らしたしっぽをこちらに向けて帰ろうとしていた。

 

猫にお礼を述べると、窓の先へと消えた。腰を上げて、窓縁に手をかけその後姿を目で追う。暗闇にいつも溶けていく様は、黒猫らしかった。暗闇の中微かに見えた黄金の2つの目がこちらを向いている事にきがつき、手を振るとその色も黒く闇に消えた。

 

 

 

少し冷たくなった風に数本髪の毛が遊ばれて、瞳を閉じた。わずかに感じた草木の気配に頬を緩ませて風を感じる。二人で仲良く鳴ったお腹の音に驚いて夕飯の支度の途中だったことを思い出す。彼に手伝ってもらいながらおうどんをつくり、二人で啜った。

 

温かいものが身にしみる時期になってきたと実感しながら熱いうどんに何度も息をふきかける。暖かく優しい味に優しく笑むと彼も笑ったような気がした。

 

でも、確認はしなかった。

私は食事中彼の事を盗み見たりするのはやめていた。隠したいものを見るのはなんとなく憚れていたからだ

 

食べ終えた彼が美味しかったねと腰を上げてシンクに向かったのを私は振り返ることができずそうですね、と言葉を吐いた。

 

 

 

寝る支度を済ませて今日もベッドで寝ていいと言ってくれた言葉に甘えさせて頂き寝転がった。ベッドに入ってこっそり彼の様子をちらりと見るとこちらを見ていてばっちり目が合ってしまい慌てて視線を逸らした。

 

私の意識しすぎている様子に彼は困ったように苦く笑って、ベッドの脇に腰を折った。

 

「困らせたかな?」

先ほど唇を寄せた瞼を優しく親指で撫でられて赤くなる前にに布団で隠して、小さく頷いた。

 

正直すごくびっくりしてどうしたらいいかわからない

しらたま帰らなくてよかったのにと心のなかでこっそり思っていた。わたしは、彼との気持ちは違う方向に大事に想いあっていて交わる事が無いことがよくわかった。

 

彼は私の頭を優しく撫でて、小さく謝った。「でもわかって欲しくてね」優しい手つきと、優しい声に安心しながら目を瞬く。彼は私に何をわかってほしかったのだろうかと彼の言った言葉を探る

 

 

「本気で好きだって事をね」

 

2度までならぬ3度までも。油断しきっていた私は言葉を失い布団で顔を隠すことを忘れて彼の瞳を真っ赤な顔で見つめてしまった。私の赤い顔を冷たい手で包み込まれて声を失い慌てて顔をそむけた。

 

そんな愛おしそうな瞳で見つめないで、ほしい

 

 

「からかうって散々言われたからね」

ため息混じりに言われて口を噤んだ。彼の醸しだす空気から逃げるために何度もからかうんですから、と誤魔化していたけど実は気にしていたらしい。

本気の気持ちをはぐらかされてずっと怒っていたのだろうか、勇気を振り絞ってそっと振り返った。

 

「…ごめんなさい」

自分も大切な気持ちを持っているのではぐらかされた彼の気持ちがなんとなくわかった。

 

もし私が家族のように大切に思っているという気持ちをはぐらかされたらきっと悲しい

勇気のいる言葉だったし、緊張した。酷な事をしたと反省すると彼はやんわりと笑った。

 

「わかってくれたからもういいよ」

私の意識しすぎている様子にご満悦な理由がなんとなくわかって眉を顰めながらまあ、自業自得かと諦めてため息を吐いた。

 

彼は、返事をくれだとか私が持つ感情に不満があるとか決して言わなかった。ただ、わかってほしいと言われたのでお言葉に甘えさせて頂いて理解するだけにさせていただく

 

 

「今日も手繋ぐ?」

差し出された手のひらに首を振って「大丈夫です気持ち悪くないし」あの記憶を思い出す前に頭の中でぐるぐる沢山の事がまわっていてそれどころじゃなかった。

 

「オレの事で、いっぱい?」

見透かされて布団で鼻のてっぺんまで隠した。テンゾウさんの事を考えていたのに今ではカカシさんで頭がいっぱいだった。

 

無理もない話だ、だって告白されたんだから。テンゾウさんは、そうなのかも?と憶測でしかなかった話よりも考えこんでしまう。

 

「カカシさん、言っちゃだめです」図星でしかない為、そう言うしかなかった。私の弱々しい言葉に彼は凄く嬉しそうな顔をして、私の頭をまた撫でた。その温度に今日も身を委ねて目を閉じていく

 

 

「もっと考えていいよ」

 

うっすらと瞳を開けて、恥ずかしさで揺らいだ瞳で睨むと彼は嬉しそうに笑った。自業自得だと何度も心のなかでつぶやいて彼の弾んだ笑い声を耳にしながら瞳を閉じた。その体温に安心しながら、息をしていく

 

 

今日も、いきをしている

 

 

 

150927

 

 

 

 

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