Fragment of the planet   作:えっこ

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ひだまりに溶かされる

 

 

 

病院のドアをゆっくり開き、独特な匂いが鼻をかすめた。深閑とした部屋を仕切るカーテンの合間から見えた綺麗な銀髪に目を細める。

音を立てないように忍び足で近づきそっと覗き込むと規則正しく寝息を立てている彼の姿にほっと安堵して近づく

 

 

綺麗な睫毛が頬に微かに影ができていて、息をのむ。彼の寝顔をまじまじと初めて見た気がした。

ねている間も口布は外していないが額当ては外してある。露わになった瞼の上をじっと見て、あの事件以来目にしていなかった走る傷に口をじっと見つめ真一文字に閉めた。

 

彼のプライベートに入ることは憚れていて、口布や額当てを隠した姿は極力見ないようにしてる。寧ろ見ていないといってもいい。就寝するまでの間はあまり視線を交えないように心得ていたので、改めて彼の寝顔を見るのは初めて。

 

白い部屋に、銀髪の彼が寝ている姿が不覚にも綺麗で声を失った

 

 

 

カカシさんの自宅を夜遅くにテンゾウさんが焦燥とした様子で入ってきたのは2日ほど前だ。

帰りが遅いので嫌な予感はしていた。テンゾウさんからカカシさんが入院したと聞いた時は世界が止まったかのように思った。

慌てて病院に向かうと布団から顔を出した彼は苦く笑っていた。笑っている姿に私はへなへなと腰を落としたのだった

 

先日聞いたチャクラというものを使いすぎて入院する事があるのは稀じゃないらしい。先日彼はよく入院すると言っていた話は嘘ではなかったようだ。

 

彼の傷口を走らせた瞳が、彼を病院送りするらしいのだけど動転していた所為で深く話を聞いていなかった。

その瞳が何故病院送りになる理由は結局知らない。

その時の私は、とにかく無事に生きていた事に安堵するしかなかった

 

 

 

 

先日より少し顔色が良くなった彼に安心した。簡易の椅子に座って持ってきた林檎を果物ナイフで切り始めた。

しょりしょり、とりんごを切る音が部屋に響きかなり静かな事を再確認する

 

彼は個室で、ひとりきりだった。その所為で、とてもこの部屋は静かだ。耳が痛くなりそうな静けさに自分が入院していた日を思い出す。

辛かったけど毎日誰かが見舞いに来てくれて看護婦さんと沢山お話をして楽しい日々でもあった。

…もう入院したいとは思わないけど

 

それでも、一日に沢山の人と顔を合わせて沢山話しをしたのは初めての経験で楽しかったと言い切れる

 

 

皿に林檎を並べてそのうちのひとつを口に運んだ。

歯切れのよい音が口の中で大きく鳴って、ちらりと彼を見てもまだ起きそうにはなかった。

安堵したような。心配なような。そんな気持ちになる。

昨日は私の気配ですぐに目を覚ましたのに、今日はぐっすり寝入ってる。

気が緩んでいるのだろうか、入院生活に疲れているのだろうか。

 

すっかり無防備に眠る彼を見つめてなんども珍しい光景だと実感する。彼の寝顔をじっくり見るの何度も言うが初めてで、真新しいものに目を奪われる

 

綺麗な白い肌に、銀髪の髪が似合っている。鼻筋がすっと通っていて本当に綺麗なお方だと思う。女の人のような綺麗な顔立ちに私は息を呑んで視線を逸らした。

 

そういえば先日彼に告白をされてから彼の顔をじっくり見るのは久しかった。次の日なんてすごく気まずかったし、それを誤魔化すように焦る自分が滑稽で恥ずかしかった。

 

それを優しい笑みで見守られていて今思い出しても顔から火が噴きそうだ。

正直、病院に入った事は心配だけど…ラッキーと思ってしまいました。ごめんなさい、カカシさん。

 

 

 

心のなかで懺悔していると静かに病室の扉が開かれ、看護婦さんが来たことに気づいて身を正した。

誰か入ってきた気配にカカシさんが目を開く。

 

「ご無沙汰してます」

「いちかさん、いらしていたんですね」

私が声をかけたことにより彼女は視えるようになり、やさしく表情を緩めてくれた。入院していた時にお世話になったナースさんの優しい笑みに安堵しながら顔を席を立って会釈する。

 

元気そうになってよかったわと私を気遣う彼女は根っからの看護婦なんだと感心した。

眼を覚ましたカカシさんの寝ぼけた瞳と目が合うとそれは徐々に見開かれていく。

 

「また来たの、いちか」

寝起きのカカシさんの声はいつもより低くて少しだけ色っぽかった。

困ったように眉を下げた彼に、つられて眉を八の字にさせた。

 

しんぱいだからついつい足を運んでしまう。

私が入院していた時に彼が毎日足を運んでいた時の気持ちがわかってしまった。毎日顔を見せる必要はないとわかってはいるけど、彼の呆れた声に曖昧に笑って誤魔化すと仕方ないとため息を吐いて許してくれた。

 

私達の様子をにこにことナースさんは見守りながらほかほかのタオルを手にしていた。…そのにこにことした表情に頭を抱えたくなった。

 

 

私が退院してからこの病院ではカカシさんと私は結婚していると看護婦さんたちの間で噂になっているらしい。何度も入院しているカカシさんは看護婦さん達にとっては顔見知りが多いらしくてその話題を共有しあっていた。

 

それが喜ばしく騒がれているものなのか嘆かれているかは考えなくない…私が入院している時に看護婦さん達に毎日顔を見せるカカシさんの関係を何度も聞かれたことを思い出す。

 

目の前にいる看護婦さんはその噂を楽しい話題らしく、にやにやと私を見つめてくる。睨まれるよりはマシだとは思ってはいるけど…これはこれで嫌だなあ

 

 

入院しているカカシさんは身体が動けない分お風呂は勿論入れないので看護婦さん達に拭いてもらっている。

手に持ったほかほかのタオルを見て、気を遣って席を離れようとするとそのタオルを何故か渡された。

温かさが手のひらに伝わっていくのを感じながらぼんやりソレを見つめる。

 

「頼んでもいいかしら、奥さま」

「お、おくさま?!」

 

慣れ親しみのない言葉に声を裏返させてしまう。私の反応を初々しいと勘違いした彼女はにこにこと笑っている。

入院している間も退院した後もお世話になっている身として不自由な日常を過ごす彼の手伝いをしたいとは思うが、ハードルが高すぎる。

勢い良くタオルを突き返して首を振った。私の否定の言葉も彼女の満面の笑みには通用しない事を理解して、冷や汗をたらした。

 

「…無理です」私の弱々しい言葉がその笑みに抗うものの頭の隅の方では無駄だとわかっていた。

好意を寄せてくれる彼の身体を拭くなんてできるはずがない、!

 

 

「お願いします、オクサマ」

楽しんだ声を発するカカシさんに驚く。この状況を楽しんでいるらしく、ジト目で見るとその視線はめっぽう弱いのか彼は口を噤んだ。

 

彼が否定しない限りこの病院ではその噂は勘違いされ続けるんだろうと思うと頭が痛くなる。誤解を解く様子のない彼に盛大にため息を吐く

 

 

状況を楽しんでるとわかった以上ここにいては被害に合うと確信し早々と部屋を出ていき、後手にドアを閉めた。

深閑とした廊下に自分の鼓動がこだまするように鳴り響いている。

いやなあせをかいた

 

逃げるように出てきた自分に恥ずかしさがこみあげてきて頭を抱えた。背中に預けた部屋では二人の楽しそうな声が聞こえて、…泣きたい

 

 

 

しばらくして出てきた先ほどの看護婦さんに満面の笑みで会釈されてしまい苦く笑った。

 

どんな顔で病室に戻るべきか立ちすくんでいると、昼食を運ぶ違う従業員の方が通ったので挨拶すると「はたけカカシさんの分です」渡された。美味しそうな匂いを漂わせる食事に正午になった事に気がつく。

 

しかし看護婦さん以外までにあの噂が広がっているわけじゃないよ、ね?なんでカカシさんの昼食を躊躇うことなく私に渡したのだろうか…自分の都合の悪い妄想に首を振って頭から追い出す。

昨日昼食時にいたときに顔を覚えられていたということにしよう。決して病院の人全員が私を妻だと勘違いしているわけではないことにしよう。

...そう願おう。

 

 

 

渡されたお盆を持って病室に入ると既に着替え終えた彼が横になっていた。

チャクラを使いきってしまうと身体を動かすことが辛いと聞いていたが、運ばれてきた日よりは随分楽になったそうだ。

 

確かに顔色もよくなったが、寝そべっていればの話しであり日常動作はまだ思うように動かないらしい。とにかくダルくて身体に力が入らないと言っていた。

その話を聞いて貧血とちょっと似てるかも…と感じた

 

 

ベッドに取り付けてある簡易のテーブルにお盆を乗せると彼はおもむろに身体を起こした。

 

「体調はいかがですか」

私の問いかけに彼は弱々しく笑って「大分いいよ」答えた。

数日前より朗らかに笑った彼に安堵して、先ほど座っていた椅子に腰をおろしてベッドに引き寄せた。

 

お箸を手に取り逆の手で手を添えて「食べられます?」食事の手伝いをしようと意思表示をすると驚いた後に少しためらって視線を下げていく。

 

身体を拭く事は絶対に出来ないと断言できるが、食事の手伝いなら...なんとかできそうだった。

困ってる時はお互い様だと思っていたので気が付けば私は箸を取って彼に食事を差し出していた。

 

 

何か黙考している彼に段々と不安になってくる。

いや、だったかな。

良かれと思った事だったけどいい大人が誰かに食べさせてもらうなんて恥ずかしいなんて思う人だっているのに少し軽率な行動だったかもしれない。もう少し考えてから行動するべきだったと後悔した

 

悶々と一人考えていると、彼が口布をつまんで下げようとしていたので慌てて視線を逸らした。

 

考慮不足ではなくて配慮不足だったと気づき視線をそらして見ないように心がけて小さく布がすれる音を耳にする。口布を下げたという事は食事の手伝いを受け入れてくれたようだった。

 

お、想いを告げられても彼は私の恩人だし力になりたいという気持ちは変わらない。ここで役に立たなくてはならないと自分を奮い立たせた。

しかしプライベートを覗き見る気にはならなくて素顔を見るつもりはなかった

口元を見ないで食事をうまく渡すイメージトレーニングをして、本日の昼食をぼんやりと見つめた。

 

 

意を決して差し出した箸が、明後日の方向に出された。

 

明後日の方向に差し出した事に未だ気づかず顔を背けている私に彼はおもいっきり噴き出して腹を抱えて笑いをこらえ始めた。その声に一瞬拍子抜けした後に自分の箸を見てソレをジト目でみつめた。

…やっぱり無理ですよね。

 

 

丸くなった彼からかなり離れた場所に私の手があって、言い訳する気にもならない。彼の押し殺した笑いに自分が段々情けなくなってきた。

 

カカシさんは人きしり笑ったあとに大きく息を吐いた。どうやら落ち着いたらしい。

 

 

「あのさ、見てもいいんだよ?」

 

唐突のなんでもないような口ぶりに驚いてしまう。自分の素顔を、見てもいいと言われたけど自分の生徒にも後輩にも隠しているものを私が見ていいはずがなく首を振った。

 

「プライベートですから、!」

「一緒に住んでてプライベートも何もないと思うけど...」

彼の言葉にぐうの音も出なくなってしまう。彼の意見も一理あったが、人に隠してるものを私が見ていいはず無いと頑なに拒否する私に彼はくつくつと笑いを零した。笑っている理由がわかって眉を顰める

 

 

「でも、それじゃ食べれないけど」

明後日の方向に差し出されたお箸を指差されて口を噤んだ。

お遊びでこんなことをしているわけではない、看病するために彼の食事を手伝っているわけで、とんちんかんな場所に箸を運んで病人の彼を苦労させては本末転倒だ。

 

では、素顔を堂々と見れるかと言われるとそこまで図々しくなれない。箸を大人しく離すつもりはない自分に彼の為に何かしたいと強く願っていることに気がつく

 

譲らないのならば、ここは大人しく彼の誘いを受け入れるしか無い。

意を決して逸らしていた視線を彼に向けた。顔を見る勇気が出ず、視線をどんどん下げていきなんとか首元を見つめて箸を差し出した。

口元に的確に渡すことはできないだろうけど、先ほどよりはまだマシだ。

じっと見つめられているのを感じながら、羞恥心で目を伏せる。

こ、これが私の頑張りです…

頑固な私を見て彼はまた肩を揺らした

 

 

首元だけを見るといっても見ている事に変わりない。初めて見つけた顎の傍にあるホクロに心臓が変な動きをする。

彼の顔を好奇心でみていいものなのか、彼の想いに答えを出さなかった責任として彼との距離を保つべきなのか。自分の中で激しく葛藤した。

 

口元を僅かに反れた箸を彼の手が正す。大きな手が私の手首を容易く捕まえて、不覚にも熱く感じてしまった。

 

差し出しては、直されて、触れられる。これはこれでなんだか恥ずかしかい

それに、じっと私を見つめる視線を痛いほど感じてしまい気まずい。

食事と彼の首元に何度も視線を右往左往させて、狭い視界を窮屈に感じ目が回りそうだった

穏やかに時は進んでいる筈なのに、私の心臓は忙しない。

 

 

食事はみるみるなくなっていき、完食した。昨日の昼食は残したのを知っていたので驚いた。

最初は楽しみしていた食事も段々入院中はずっと横になっているのでなかなかお腹が減らないので苦になっていく。

私と同じように食べられなくなってしまったのかと心配していたのだが杞憂だったようだ。いつの間にか先ほど切ったリンゴも無くなっていた。

 

 

「ごちそうさま」

口布をようやく引き上げたのを確認して長く息を吐いた。自分との葛藤と彼の刺さるような視線にどっと疲れてしまった。私とは真逆に元気を取り戻した彼にため息を吐く

 

微かに見えた、ホクロの場所を明確に覚えてしまうほど何度も彼の首元を見てしまっていた事を理解する。

…結局素顔を見なくてもこんなに心中乱されては、私の葛藤は無駄だったような気もしたがいつもと変わらない彼の姿に戻って心底安心したので、見なくて正解だったかもしれない

 

「前は全然寄越してくれなかったのにね」

ご機嫌の彼が言う、前を思い出す。

ひとつひとつ彼との日常を思い出していき、甘味屋に連れて行ってくれた日にたどり着く。

初めてあの甘味屋に連れていってくれた日で、

 

 

「俺がいちかに好きになってもいいかと試した日」

 

その言葉に驚いて私は静かに彼をジト目で見つめると、カカシさんは小さく笑った。「そんな顔で睨んでも全然怖くない」僅かに頬が熱いのに今気づいて失敗したと後悔する

 

わざとこの前想いを告げられた日に使った私の「試した」という言葉に不快感を得る。

結局彼は試したけど、最初から気にならない奴に言わないと言われて墓穴を掘った出来事なので「試した」という言葉は…NGワードだ。

できれば思い出したくないのにわざと使うなんて。

 

 

「…からかってますね」

「うん、今のはからかった」

 

私の想いはからかいではないと理解はしたけど、やっぱりからかってくるのは性らしい。

からかわれたことに不貞腐れると彼はごめんごめんと軽く謝った。

 

 

「反応が好きでつい、ね」

 

射止められるような視線を感じて慌てて逸らした。本当に心臓によわい。

好きとか、もう簡単に言葉にしないで欲しい。

そんな言葉を吐かれた経験もキオクも無い私にそれは、いちばん重く心に響いてしまう。

 

…わたし、怒ってたのに。怒ってたのにその矛先が無くなってしまい眉をしかめた。

 

 

「ところでいちかの気分はどうなの?」

居心地の悪い空気を取り払ってくれたのは空気を醸しだした張本人だ。その空気を無意識でやっているものだったりしたら…かなり厄介でやり手だとおもう。

 

彼ももういいおとなで、沢山の恋沙汰にも経験がある筈。空気ひとつで乱されたりする自分を情けなく感じサクラちゃんに頂いた服の裾を握って重い言葉をなんとか退かす。

 

彼の言葉がこころに、ひびいてなんかいない。

 

 

「わたしよりもカカシさんですよ」

眉を下げて苦く笑うと、「たしかに」情けなく笑った。

退院後すぐ戻してからは快調だったが、昨日寝るときにあの感覚を久しぶりに感じて固く目を閉じ無理やり眠りについた。一人が続けばまた気弱な自分になってしまう事は明白だった

 

そんな自分になる前にできるだけ情報を集めたい。はやく猫又一族に会ってしまいたいと焦燥とした気持ちで強く思う。

しかし、またあの男のような人物に襲われたりしたらと考えるとその気持を押し込める他無い。森は里をでなければならないと聞いているので危険が伴うのは確かだ

 

同伴してくれるカカシさんの回復を待って行くのが正解だとわかってはいるけど…、正直待ちきれるか不安になる

 

 

「早く帰るからね」

私の気持ちを察しているのかわからなかったが、彼の部屋を広く感じ始めていたので素直に頷いた。

 

「待って、ますね」

私がそういうと彼は窓辺に視線をうつして口布を引き伸ばすように上げた。彼は待つ人を改めて実感して照れくさくなったのだが彼の心情には全く気づかず、彼の視線につられて私も窓に視線をうつす。

 

秋の風が葉を揺らしているのを見ておだやかな気持ちになる。

これからどんどん寒くなっていくのだろう。マフラーとか必要になったりするのかな

 

季節が一つ通りすぎて、新しい季節を迎えて、また新しい季節を想像する

その行為はきっと昔何も感じず受け入れていたもの。でも、私にとっては初めての出来事で心が浮足立っている。

 

 

 

 

「せーんせ」

 

聞き覚えのある明るい声が聞こえて振り返った。カーテンをゆっくり開いていくと馴染みの顔があらわれて表情を緩めた。

「こんにちは」私が声をかけると彼らは私に気づいて私を視た。

 

「あら、いちかさん」

「お、ねーちゃんういっす」

騒がしいナルト君とサクラちゃんにくすくすと笑みを零して、ナルトくんの真似をして「ういっす」こめかみ辺りに軽い敬礼のポーズをして挨拶をした

 

彼らの後ろから黒髪の少年が現れて私は慌てて立ち上がった。病弱そうな白い肌に驚きつつ、その少年をしっかりと見据える。

彼は私を視界に入れると、僅かに微笑んだ。その表情に安堵して、覚えた名を心のなかで口にする。

 

「はじめまして、いちかさん」

礼儀正しくお辞儀をした彼にならい私も頭を下げた。あの事件の日の事をずっとお礼を言いたいと思っていたので「あの日のお礼も言えず、大変申し訳ありません」ようやく口に出した言葉は重々しいものだった。

 

自分の堅苦しい言葉はカカシさんと初めて会った時に使っていたもの。緊張し過ぎると出てしまう癖だと今更気づき始める。

ずっとお礼を言いたいと思って緊張しすぎてしまった。自分の失態に気づいて下げた頭を抱えたくなる

 

 

「僕も見舞いに結局行けず申し訳ありません」

私の堅苦しい言葉を同じように返してくれた彼に感謝した。

わざとなのか、元々そういう子なのかまだわからなかったけどどちらにしても悪い人ではなさそうだった。

感謝をようやく告げられた事に安堵する。

 

 

「先生まーたやっちゃったワケ?」

「毎度お見舞いに来る私達の身にもなってくださいよ」

「…来たく無かったら来なくていーけど」

 

サクラちゃんとナルト君は私達そっちのけでカカシさんと楽しそうに話していた。隣にいたサイ君はその様子を眩しそうに見つめていた。羨望に似た眼差しに首を傾げたくなったが、なんとなく彼の気持ちを察してしまい私も知らずしらず眩しそうに彼らを見つめていた。

 

それから、彼らは近日の任務の内容を口にしていった。私は席を外すタイミングを逃してしまい全て耳に届けながら、忍の任務の重大さを痛感する。

私…場違いだよなあと薄っすら思いながら身体を動かす事ができず全て聞いてしまう。

彼らの話を聞いたカカシさんは何か深く考えた後、彼らに細かく指導していく。仕事している彼を見るのは珍しくまじまじと見つめた。

小隊長って凄いんだな。

私がもし忍びになっても隊長という肩書は貰えないような気がしていた。そもそも忍びになれない気がして苦く笑う

 

 

いつの間にか私の隣に寄ってきたナルト君が目を輝かせてこちらを向いていた。「どうかしたの?」何か話したがっている姿に気づきやわく催促してやると満面の笑みを向けられる

 

「カカシ先生がいないってことはよ!晩飯!一緒に食おーぜ!」

私は目をぱりくりとさせて彼の言葉の趣旨を把握して笑ってしまった。

晩飯目当てだな~

少年のように目を輝かせて楽しみにしてくれる姿に嬉しくない筈がなくて

 

「うん、今日はナルト君の家でご飯だね」私の声も弾んでしまった。

大げさにはしゃぐ姿にみんなで苦く笑ってしまった。でも、その仕方ないというように自愛めいた瞳は彼を想っているものだった。

ひだまりのような彼を見つめる温かい仲間に私は目を細めた。

 

子供のようにはしゃぐ彼に笑いを零してしまった。

「んじゃさ、んじゃさ朝メシも食ってけばいいってばよ!」

「そうだ、……ね?」

 

私は了承した後に言葉の意味を理解して、語尾を上ずらせる。眩しい瞳が煌めきを失わず私を覗き込んでいた。この瞳が何らかの思惑があって言った言葉ではないと理解はしているがあまりにも突拍子のない言葉に驚いてしまう。わくわくと輝かせる瞳はおもちゃを独占できると知った子供の瞳。そのあどけない瞳に顔をひきつらせていく

と、泊まっていいと言われている…らしい。

 

 

私は驚いて声を失っていると変わらず私の視線を綺羅びやかな瞳で見つめ返す。純粋なその瞳に耐え切れずサクラちゃんを見ると視線を逸らした。サイ君も同様に。

懇願する気持ちでカカシさんを見つめ返すと顎に手をやって何か考え込んでいた。

いい案をだして私を救ってくれるかもしれない。

 

ナルト君は、弟のような存在で彼も私を同じような気持ちを持って接してくれている。間違ってもカカシさんが持っているような気持ちは一切無いと言い切れるが。

一番の気がかりは応援してしまったヒナタちゃんの存在だ。私がのうのうと彼の家に泊まったら彼女はなんて思うだろうか。考えるだけで顔面が蒼白していく。

 

カカシさんは答えを見つけてゆっくり頭を上げて口を開いた

 

 

「うん、暫く泊めてもらいなよいちか」

 

全く予想もしなかったこたえを導き出したようだった。彼の言葉に驚きを隠せない私を他所に「やったー!」彼はひとり嬉しそうにはしゃいでいた。

彼の言葉に驚いたのは私だけではなかったようだ。怪訝そうな顔に囲まれながら彼の答えに不安がどんどん大きくなっていき口を開く

 

「お部屋は大丈夫でしょうか」

戸締まりや火元、冷蔵庫の中身を含めて自宅を空けることに躊躇いはないのか。私が彼の部屋で待っているとは訳が違う。全く誰も部屋を入れない状態になって心配にはならないのか不安に思ってしまう。

私の心配を他所に彼は朗らかに笑ってみせた

 

「大丈夫だよあとほんの数日で退院する筈だから」

何日も空けるわけではない事を理解する。と、同時に鍵を託し家を空けてもいいと信頼されていることも理解する

 

他人の家に私を預けるのは恐らく私への気遣いもあるだろう。一人部屋にいるならばナルト君といさせた方がマシだと思ったに違いない。

しかし、ヒナタちゃんの事はどうするかとサクラちゃんを恐る恐る振り返ると頭を抱えてため息を吐いていた。…後でじっくり話しあいですね..

 

 

「鍵は無くしちゃダメだからね」

先生のような、世話焼きのお父さんのような口調に思わず笑みを零した。

 

「戸締まりと火元確認すれば大丈夫、結界もあるし」

黒猫が部屋を見渡しながら結界を見つめていたことを思い出す。その結界があるせいで私を見つける事ができなかったと言っていたような気がする。

 

その結界もあるおかげで彼は簡単に部屋の戸締まりを私に託すことができたのだと把握する。

カカシさんは一つ一つ家の事を思い出しながら口にしていくのを素直に頷いていく

 

 

「ナルトと森に行ったりしちゃダメだからね」

「そんなことしません、」

 

そんなことを言われるとは驚いた。確かにナルト君に森まで付いてきてもらうのもいい手だと思ってしまったが、ついていくと言ってくれた方に同伴して欲しい。

 

「…待ってますね」本日2度めとなる言葉に彼は静かにうなずいた。

 

一族にはあの男の話を知っている人もいるかもしれないし、私の事を知る人もいるかもしれない。私の過去に近づける大きな一歩になるかもしれない。

答えにたどり着くかもしれないし到着する事もできないかもしれない。

 

そんな重大な出来事の日、彼がいてくれればと願うのは何度も彼が私の背中を押してくれたからだ。

しかしついてきてほしい、とベッドに横たわっている姿を見ると流石に言えなかった

 

 

 

「まるで家族みてーな会話」

 

会話を全て聞いたナルト君がぽつりと零した言葉に驚いた。泊まることに許可を貰って戸締まりや鍵の話しをしていればたしかにそう思うかもしれない

家族という言葉に胸を暖かくしていく。そうだと、うれしいと素直に思った

 

私の表情を敏感に読み取った彼は不貞腐れて視線を逸らしたのを見て苦く笑った。口を尖らせた彼に近寄り覗きこむ。蒼い瞳が私の視線と絡み合い微笑んだ。

 

「私たち姉弟、なんでしょ?」

ナルト君が告げてくれた言葉にどんなに救われたことだろうか。カカシさんもナルト君も本物の家族ではなかったけど言葉だけで私は癒やされた。

ナルトくんもそうだといいと信じながら口にすると思惑通り彼の表情は明るいものになっていく

 

「へへ、そーだった」

機嫌を直した彼にほっと安堵して愁眉を開いた。少しはにかんだ笑顔に心を暖かにしながら微笑み返した。

隣にいたサクラちゃんと視線を交えると神妙な顔つきに頭が痛くなりそうだった。まだ問題はすべてなくなったわけではない

 

 

彼の病室を皆で出て行く時に微かに寂しそうに笑う彼に後ろ髪惹かれながらその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

彼女達はそれぞれ用事があるらしくその場で別れて、ナルト君と肩を並べて病院を後にした。

サイ君にようやくお礼も言えたし、カカシさんも退院までそう遠くないこともわかったので来るときよりも足が軽く感じた。

 

それから今日ナルト君の家にお邪魔することになり、あの感覚を思い出すことはないだろうという確信に心踊らせていた。

きっと考える間もなく騒がしいんだろうなと思うと笑いが零れた。

 

「なーに笑ってるんだってばよ」

「そういうナルト君も笑ってるよ」

私達はお互い考えていることは一緒のようで、楽しみを胸に抱いて笑いあった。

とりあずナルト君の家に向かう前に何日かあけるカカシさんの家をしっかり戸締まりに行くことにした

 

遠くの方から「おーいナルト」ナルト君の名を呼ぶ声に私もつられて振り返った。

そこに、3人肩を並べて此方に向かっている子たちがいる。初めて見る顔ぶれをまじまじと見つめた。

 

黒髪を後ろで束ねている彼と大柄な男の子、それから綺麗なブロンド髪の女の子だ。

サクラちゃんとナルト君サイ君達のように男の子達の間に女の子がいるのは珍しいことではないのかな。

私はもし同世代の男の子たちに囲まれて友達になることはできるのかな。よく日常を共にする私の傍にいてくれる2人を思い出して頭を振った。ふたりはともだち、というより家族みたいなもののように感じた。

 

ナルト君は「おー」少しうれしそうに返事をしていた。表情から察するように仲の良い友達なのだろう。

 

 

「ナルト一人で何処か行くの?」

「え、」

 

綺麗な髪の女の子に問われてナルト君は戸惑ったように私を見つめた。まだ私は彼らに確認されていないらしく視られてない。

戸惑った蒼い瞳に笑顔を向けて、人差し指を立て彼の背中に隠れて距離をあけた。

 

ナルト君一人と判断した彼らに私を紹介したりしたら突然姿を現すことになると彼らは驚くに違いない。必要以上に驚かす必要はなかった。

 

彼の戸惑った顔は少しくるものがあった。私が普通に確認されないところを見て彼は深く私を幽霊だと実感しただろう。…それでいい

 

苦く笑って気にしないでというように背中を押す。

ナルト君は少しむずかしい表情をして何か考えていた。気にしないでいいと言ってるのに何か深く考えているので目をぱちくりとさせる。彼が難しい表情するのは滅多に見ない

 

突然顔を明るくさせたかと思うと私の手を引っ張る。思いもよらない引力に私はされるがままに従う。思ったよりも力強く突然手を引くので前のめりになる。

 

「いちかねーちゃんと飯食うんだ」

 

手を引っ張られ勢い余りすぎて彼らの前に飛び込むように出てしまった。突然私が現れた事に予想通り彼らは目を丸くさせてわたしのことを凝視した。

その興味ありげに各々光る視線と交えて、苦く笑う。「は、はじめましていちかです」私の挨拶は少し慌ただしいものになってしまった。

 

必要以上に驚かす必要も無いと思ったし、彼らの親しげな輪から遠慮してわざと一歩引いたのにナルト君は強引に私を引き戻した。

 

幽霊と人間の間で揺らぐ私の心を察してくれたのだったら、この子は本当に感情に敏感でありすぎる。同じように化け物と呼ばれる私を気遣って強引に輪を入れてくれようとしたのかもしれない。

 

彼を振り返ると、満足そうに笑っていてた。その笑顔に何も言えなくなってしまい…本当に、この子はもう。

 

 

私が突然現れたのは彼の後ろに隠れていたという誤解のおかげでそう怪しまれる事はなかった。

たまたま、だとは思うけど。

これを計算でやっていたら凄いとおもう。

 

屈託なく笑う彼の横顔をじっと見つめた。その視線に割り込むように綺麗な髪の女の子が明るい声を出した

 

「ナルトとどういう関係なんですかー?」

 

軽い口調で問うた彼女に笑顔を向けて「お友達です、」望んだ答えを差し出せる事はできないとわかっていたので当り障りのない言葉を吐いた。サクラちゃんと初めて出会ったときに輝く瞳と重なり苦く笑う。若い子は本当にそういう話が好きなんだなあ

 

隣にいる黒い髪を束ねた彼の強い視線に冷や汗を垂らしながら「私、カカシさんの遠い親戚なんです」以前ナルト君達についていた嘘を口にする。素性がわかって緊張を解いた彼らに申し訳なさを覚えた。しかし例えナルト君の友達でも出会ってすぐに幽霊だとも言うわけにもいかない。後ろめたさをなんとか押し込めた。

 

カカシさんの従姉妹といえば簡単に皆緊張を解いてくれるので、何かを疑われる事は少ないと確信していた。彼の知名度、信頼に感謝せざるを得ない

 

大柄な男の子と綺麗な髪の女の子はすぐに打ち解けてくれたが、一つ結びの彼は疑心暗鬼の瞳で見つめてくるので居心地悪かった。まあ、正しい反応ではあるとは思う。仕方なしにその視線を受け入れた

 

 

「今日はな、俺ってばうまいもん食うんだってばよ!」

 

嬉しそうに黒髪の少年達に自慢し始める彼に、冷や汗を垂らした。ただの友達が家に転がり込んでせっせとご飯を作り泊まるなんて聞いたら、さっきからじろじろと見てくるこの子に何を思われることか、!

 

「た、たのしみだねー」どうか余計な事は言わないで欲しいとナルト君の横顔を懇願した気持ちで見つめる。

 

「いいな~何食べるつもりなんだい?」美味しそうにお菓子をつまんでいる彼は食いつくように話を繋げる。

満面の笑みを浮かべたナルト君にはらはらとしながら「な、内緒だよね」人差し指を立ててみせると彼は満面の笑みで「おう!」答えた

 

「えー何食べるんだよー気になるじゃんか」ただ単純にメニューが気になる大柄の彼は焦らされたことに憤慨してナルト君に迫るがそれを難なく彼は交わす。共有できる秘密事が嬉しいのかナルト君は楽しそうだ。

 

 

 

ナルト君と彼らは仲良く話した後に別れた。一つ結びの彼は暫くして面倒そうに視線を逸らされ何か探ってくるようには見る事は無くなった。

恐らくカカシさんの従姉妹という言葉よりも自分の判断で私が敵で無いとわかってくれたようだった。とりあえずあらぬ誤解をされなかったことに安堵する

 

 

隣をご機嫌に歩くナルト君に眉を顰めた。人差し指をたてて、詰め寄る

 

 

「ナルト君泊まることは絶対内緒ね」

 

ぜったいという言葉を力強く言う。きょとんとした顔が私をじっと見つめて「なんで?」疑問を素直に口にする。

少し残念そうにしている様子を見て言いふらそうとしていたのを確信する。…危なかった

 

「知らない子からみたら勘違いするんじゃないかな」

私とナルト君の関係を知らない人から見たら何かあると想像してしまうよね、と意味合いを含めてじっと見つめる。被害妄想してしまいそうなヒナタちゃんを思い出して蒼白していく

 

ナルト君は次第に顔を赤くさせて「そ、そういうんじゃねーってばよ!」私の言っていた意味を把握してくれたようなのでほっと安堵する

 

状況を把握してきたのか暫く黙った後に「…わかった」少し残念そうに呟いた。事の重さを知って顔を赤くさせたり蒼白している。

 

 

先程サクラちゃんと話し合って誰かに会っても内緒にする事にしたのだけど、彼に忠告する前に思いもよらぬ人たちと接触して驚いた。

 

忠告してなかった事もあり姿をわざわざ晒して誤解を招く必要も無いと思っていたのだけど…。

新しい誰かとお話するのは新鮮で楽しかった。誤解を招いてしまうリスクは勿論あったけどもそれよりも大事なものを垣間見たきがした

 

しかし結局名前も聞けずじまいだった。せめて顔だけでもしっかり覚えておこうと脳裏に何度もやきつける

 

 

 

カカシさんの家の外で少し待っててもらい火元や戸締まりをしっかり確認してからナルト君と商店街に足を運び本日の夕飯を買う。

終始笑顔の彼につられて笑いながら彼の部屋を跨いだ。

「汚くてわりいってばよ…」突然私が来ることになったので部屋は荒れ放題だった。

男の子らしい荒れた部屋を苦く笑い、腕まくりをした。「片付けようかね」掃除という言葉に少しげんなりしたような顔をしたけど渋々と重い腰を上げた。

 

 

荒れた部屋はカップラーメンのゴミが大半を占めていて、服があちこちと散乱している。

洗濯物とそうじゃないものを分けてもらって、洗濯機を回してもらう。

ゴミを片付けて、散乱した物を元の場所に戻せばあっという間に綺麗になった。

 

私達がこの部屋でご飯を食べに来たのはさほど前ではない。あの日片付けていたおかげなのか掃除はすぐに終わった。

あっという間に部屋が綺麗になった事に彼は目を輝かせて喜んでいた

 

 

エプロンをして食事の準備に取り掛かろうとするとナルト君は椅子を持ちだして私の様子をわくわくと見守っていた。子供のような反応がおかしくて笑いをこぼす

 

今日は2人分の食事で時間も余裕があったので一人慌てることなく準備できた。

椅子に座って様子を見ていた彼は結局隣に来て包丁を握ってくれていた。料理に関心が出てくれたようで嬉しかった

ナルト君は育ち盛りだしいっぱい食べさせてあげたい。カカシさんは揚げ物が嫌いなので普段油料理はしないけどトンカツを作ってあげることにした。私も久しぶりの揚げ物料理に不安を残しつつも作業に取り掛かる

 

卵液につけて、パン粉にまぶしている肉をじっと彼は目を凝らして見ている。油の中に投入する際に「危ないから気をつけてね」と言うと慌てて私の背中に隠れた。

ぱちぱちと音をたててとんかつが黄金色になっていく瞬間を一時も目を離さず見守っていた。煌びやかに光る純粋な瞳が綺麗でわらう。

 

そっか、ナルト君がここまで料理に食いつく理由は誰かに作ってもらった経験がなくてしっかりと見たことがないのか

 

彼から詳しく話しを聞いたわけではないけど、あの日腹の中に化け物を抱えていると言って目を伏せたカカシさん達を見る限り色々訳ありなのだと思う。

…お母さんは?お父さんは?そう聞きたいのを答えてつばを飲み込む。

記憶が無い私にとってもその問いはかなり苦しいものであるからだ

 

 

揚げたてのトンカツを皿に盛ってほんの少しだけ塩を振ったキャベツを切ってトマトを飾りつけ、炊けたご飯をテーブルに並べる。

エプロンを取って食べようかと声をかけると頬を染めた彼が大きく頷いた。

 

ナルト君と二人でテーブルを囲んだのは初めてだった。トンカツを口に運び蒼い瞳が輝きを失わず何度も美味しいと言ってくれて嬉しくなる。

 

カカシさんも美味しいと言ってくれるけどこんなに食いついて忙しなく食べながら何度も言ったりしない。どちらかがいいという話しではなくて、それぞれの表現の仕方があるのだと感じた

 

頬についたごはん粒を取ってあげて「おかわりあるよ」笑うと照れたように笑った。

トンカツと一緒に生野菜も食べれた事に安堵した。野菜が嫌いなのではなくて、食べる機会が少なかったのではないかとおもう。口の中に広がる香ばしい味を堪能して久しぶりの揚げ物を味わった。

 

おかわりを繰り返す彼に笑みを零して「あしたもいっぱい作るからね」そう言うと、凄く嬉しそうにうなずいた。

 

 

食べ終えた食器を2人で洗い今日あったことを聞く。病室で聞いてしまった話が彼の口から聞くと楽しい話になっていく。聞いてほしいと輝く瞳を緩やかに見つめた。

 

洗ったばかりの洗濯物を肩を並べて2人で干す。私のうしろを子供のようについてくる彼は可愛らしかった。16歳の子にかわいいなんて言ったら怒るだろうか。伝えたい気持ちをぐっと我慢する。

 

干してあった洗濯物を畳みながら彼は口を開く。「洗濯物畳むなんて久しぶりだってばよ」いつもは干しっぱなしか丸めてタンスに押し込むらしい。彼が着替えた服がしわくちゃな理由がわかった。

男の子の一人暮らしなんてそんなものなのかな。

カカシさんの最初に訪れた時は何もなくて綺麗というよりも生活感が無かったと思い出す

 

同じ男でも歳も違えば性格も違う。それぞれのスタイルがあるのだと理解する。それを崩すのではなくてせめて生活しやすいもなのにしたいと願いを込めつつ干しっぱなしにされ続け肩がよれてしまった服を次々にたたんでいく。

下着を畳まれて彼は微妙な表情をしていたのを見逃さなかったがあえて何も言わなかった。

 

 

耳をそぎ落とした分厚いパンを卵の液に浸して明日の朝食のフレンチトーストの準備をする。朝浸けて食べてもいいのだけど前日分厚いパンに浸す方がとても美味しく出来上がる。

 

ナルト君は隣で青い瞳を輝かせながら私の動作を終始じっと見つめていた。

「いちかねーちゃんは、なんでも作れるんだな」

綺羅びやかに輝く視線に狼狽えながら「なんでも、ってわけじゃないけど」苦く笑った。

「でも食べるものなら美味しいものの方がいいと思って練習するよ」漬け終えたパンをラップして冷蔵庫にしまう

 

ナルト君は目をぱちくりとさせて笑った。「俺も、かっけー技なら練習めっちゃするってばよ」私の言葉を彼の言葉に変えて納得した様子だった。彼の中で変換して納得できる事は忍の事なんだな。

 

 

ようやく腰を下ろして、彼とコーヒを手にしながら沢山お話をした。カカシさんが忙しくてなかなか聞けずにいた忍の事を色々聞かせてもらった

無知な私に彼は驚いていたけど、丁寧に説明してくれようとしてくれた。擬音がとても多くて時々首を傾げてしまったけど、なんとか理解できた

知らない話しを聞くのはとてもおもしろかった。

 

アカデミーがあって下忍になり、中忍の試験があって、上忍になる。

そのシステムを初めて聞いて驚く。以前テンゾウさんが上忍であるといった意味をようやく理解でき長い道のりだったことを実感する。あの時凄いのかと聞いてしまったことを後悔する

 

昔の彼の活躍ぶりを聞いて凄い凄いと食いついて話しを聞くと得意気になって話しは止まらなくなる。その顔は頼もしく感じた

 

彼の話しではいつも隣には姉のような存在であったサクラちゃんが常にいて、ライバルであるサスケ君を追いかけていた。

今は別の形で存在しつつもソレを支えてくれる周りの人達の話しを聞いて目を細めた

 

 

「ナルト君は、家族のようだって言ってくれたけど」

昼に病室でつまらなさそうに口を尖らせてカカシさんと私に吐いた言葉を思い出す。

羨望する気持ちはこの一人荒れた部屋が表している気がした。ここで迎えてくれる誰かがいてくれわけじゃないかもしれない。ご飯を作って待ってくれる人がいるわけではない。

 

 

「代わりにいい友だちに沢山囲まれてるよね」

 

この部屋を飛び出せばそばに居てくれる同い年の仲間達と、面倒を見てくれているカカシさんを含める先生達。

歴代の火影様達に愛されて、彼がひねくれることなくここまで大きくなったのかな。

 

私がはっきりと友人と呼べる人は黒猫とイタズラに微笑んだあの幽霊の子だけだ。異色の友達に笑みをこぼした。

 

「私はナルト君が羨ましいって思うよ」

 

自分の友達に不満があるわけではないが、唯一の友達の一人はもう会えないしもう一方も直ぐに会える距離にいるわけではない。

見かければ誰かに声をかけてくれるたくさんの仲間もいなければ、確認されることも難しい私にとってはナルト君が羨ましいと感じた。

 

初めての言葉に彼は驚きながら、目を閉じて一人ひとりの顔を思い出していた。

途端にはなをぐずらせながら照れたように笑う。その愛くるしい顔に笑みをこぼした

 

私を羨ましいと思ってくれた家族は所詮擬似でしかないけど、その言葉にどんなに救われたかわからない。

それを羨望するナルト君がつながりあっている友達は本物で、私は羨ましい。言葉だけでなく信頼された絆が垣間見られて、強く羨望した

 

しかしないものねだりをするほど子供にはなりきれなくて苦く笑ってその気持を押し込めようとした。

うらやましいと言えるほど彼のように純粋ではなかった

 

「じゃあさじゃあさ、俺が友達になるってばよ」

 

しかし気持ちに敏感な彼は誘惑をしかけてくる。隠そうとしなくていいと言われているようで目を見開いた。

本当にこの子はわかってやってるんだろうか。そしたら本当に末恐ろしい

 

「…私は姉じゃなかったけ?」

嬉しいと思う気持ちを必死に隠して、可愛げのない言葉を吐いた。

 

そういえばサクラちゃんも彼の姉代わりでいると感じてる。新しい誘惑の目的は二人姉は必要ないということだろうか。実際のところ姉か友達というポジションはどちらが格上なのかというとわからない。そもそも上も下もあるのだろうか。混乱してきた

 

ナルト君はサクラちゃんを思い出しているのか少し悩んだ後に、私を見て照れた。その照れる様子があまりにも可愛らしくて目をぱちくりさせた

 

「…こんなねーちゃんがいたらなって思う。」

 

その言葉に目をこれでもかと見開いて耳に届ける。こんな私にそんな風に思ってくれるのが嬉しかった

昼に人に確認されづらいところも見てるはずで自分を取り巻く仲間とは違うとはっきりわかってくれているはずなのに。

私自身を羨望してくれる

 

友達にもなってくれるし姉にもしてくれるらしい欲張りな彼に笑みが溢れてしまう。何度彼の言葉に喜けば気がすむのだろうか

鼻の奥が少し痛くて、涙も溢れてしまいそうだった

 

「じゃあ友達でおねーちゃんだ」

私がそう言うと彼は照れたように「へへへ」心地よさそうに目を細めた

ありがとう、その愛らしい顔に何度も心の中でとなえた

 

 

 

彼の話しを聞いているといつの間にか日付が変わってから随分経っていた。私もナルト君も思いもよらない場所を指す時計の針に目を丸くさせて慌てて布団に潜り込んだ。

彼は明日も任務らしく大丈夫かと心配したが、昼から行くと言っていたので安心した。よかった寝不足で怪我したなんてしてしまったらどうしようかと。カカシさんが入院したと聞いた時のあの感覚を思い出す

 

 

ナルト君は誰かの気配に少し落ち着かないのかそわそわした後にすぐに眠りについた。私も楽しい話が続いて興奮が冷め切らずなかなか眠れない。この高揚とした気分はあの感覚を思い出さないようで安心する

 

貸してくれた少しカビ臭い布団に苦く笑いながら目を閉じる。この布団は誰も使われることなく奥深くで眠っていたのだろう。使い古したものなので以前彼が使っていたものだと思うけど、誰かの気配を感じさせない孤独の部屋に胸が痛みつつも固く目を閉じた。

 

それでも、彼の周りにいまはやさしい誰かが沢山いる。少しずつ誰かに認めてもらえ始めている彼に尊敬した

 

太陽に笑う彼を瞼に描きながら瞳を閉じた。

 

 

 

 

151025

 

 

 

 

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