昨晩卵液につけておいたフレンチトーストを焼いていると寝ぼけた彼がキッチンに顔を出した。
香ばしい匂いに徐々に目を開いていく無防備な顔に笑いかけて「おはよう」挨拶をすると彼は目をぱちくりとさせた後に嬉しそうに笑った。
「何時から任務なの?」まだ眠そうに目をこする彼は席についてぼんやり時計を見る。一時間後といった言葉に安堵し、朝食兼ねての昼食を用意する。
昨日は眠るのが遅すぎて2人して遅起きしてしまった。
フレンチトーストと、レタスやベーコンを挟んだサンドイッチを皿に盛りつけて朝作ったばかりのかぼちゃスープをテーブルに並べる。
突然出てきた料理に眠気が吹き飛んだのか大きな瞳を更に見開いてまじまじとそれを見つめる。
少年らしい反応はカカシさんとは全く違うもので新鮮なきもちになる。
「いただきましょうか?」手を合わせて食べようと言うと彼は嬉しそうな顔で「いただきます!」手を合わせた
待ちきれんとばかりに食べ始めた彼に目を奪われる。昨晩と同じように美味しいと繰り返してくれる姿は姿を見て、頬は緩みっぱなしだった。
悠長に食事をしていた所為か時間が無くなってしまったらしくどたばたと慌ただしく準備をし始める。騒がしい朝を迎えるのは初めてでその様子をあたふたしながら見守る。
支度を終えた彼がドアノブに手をかけて飛び出していこうとしたのを慌てて呼んだ
少し焦燥とした色を宿しながら不思議そうに光る蒼い瞳を受け止めてラップで包んだサンドイッチを手のひらにのせる
「多分、すぐにお腹すいちゃうとおもうから」
パンは米より腹持ちが良くない。あちこちと動き回る彼がお腹を好かせては大変なので、昨晩余分に作っておいたとんかつを挟んだサンドイッチを手渡した。
彼の瞳はみるみる見開かれたあとに嬉しそうにぎゅっと閉じた。満面の笑みにわたしもつられる
「いってらっしゃい」私の言葉に少し感動して目を輝かせた後に、大事そうにそれを抱えて大きな声で「いってきまーす!」出て行った。
カカシさんとは全く違う出発の様子にやれやれとため息を吐きつつ頬が緩んだままだった
正午をまわった時計を見てエプロンを取りわたしも病院に行く用意を始めた。
独特な匂いを鼻に掠めながら毎日通っている彼の病室に足を踏み入れると見知らぬ3人がベッドを囲んでいたので驚いた。
綺麗な女の人と、大柄の男の人と、…濃ゆいお顔の方。初めて見る異色のメンバーを見て、入るか躊躇った。ナルト君のお友達や先生方は、それとなく拝見しているけどカカシさんの同世代くらいのお友達は初めて見る。
怪訝な表情で何やら難しいお話をしているらしく病室に踏み込んだタイミングを見誤ったと後悔して踵を返そうとした
「…誰かいるの?」
艶やかな声が部屋に響いて緊張が走った。
私と確認されていないのではっきりは視えないようなのだけど、気配をはっきり感知されているようで3人とも私を見つめていた。
視えていないのにはっきり私がいるであろう一点を見つめる3人の姿に度肝を抜かれる。初めて火影様に会った時のような感じだ
ここでおずおずと私が出てきていいものなのか、素知らぬ振りして出て行くべきか迷ってしまった。
緊迫した空気と鋭い瞳に驚いて声も出せないでいると、彼らの間からひょこりとカカシさんが顔を覗かせる。
「いちか、また来たの」
「は、はいっ」
呼ばれた事に驚いて声を発してしまい私という存在を確認された。突然姿を現した私に3人は目を丸くした。
昨日のナルト君の時と同じようにはいかない。彼の後ろに隠れていましたなんていうごまかしは全く通用はしない
どうしよう。この状況
不審に思われるに違いない。一人冷や汗を垂らして焦っていた
しかし私が現れたことによって逆に空気は緩み、一人拍子抜けする。
違和感を覚えながら、緊迫した空気が解かれた隙にあわてて頭を下げた
「お話お邪魔してしまいすみません」
突然私が出てきた事によってのごまかしよりも、まず話しの腰を折ってしまった事を詫びた。
視線を感じながらゆっくり頭を上げると優しい瞳とぶつかり先ほどとは全く違う様子の3人に唾をゆっくり飲んだ
「この子が例の?」
艶やかな声が部屋に響く。綺麗な方だと目を奪われていると切れ長の大きな瞳とぶつかり女性の視線を受ける。
先ほどとは違う射抜くというよりは探るような不思議めいた瞳だった。居心地悪く感じながらも先ほどよりはマシだと感じる。
あの緊迫感は、恐らく忍のもの。カカシさんと同じ忍服を着ている事と、先ほどの射抜くような視線は彼らが忍びで間違いないと確信する。
彼女の問いにカカシさんは頷いた
「へえ、ちいせぇ嬢ちゃんだな」
「幾つくらいの子だ?変な事は教えてないだろうな」
背の高い彼らに興味深そうに見つめられて私は声も出なくなるくらい緊張しきってしまった。今の記憶でこんなに興味ありげに覗きこまれた経験は無い。視られた経験が少ないし、こんなに背の高い方たちに囲まれた事もない。
病室にいた事からカカシさんの知り合いである事は間違い無く危険はないとはわかっていてもこんなにじろじろと視られた事は無いし、知らない人だし。…逃げたくなった。
「あのねぇ、成人した立派な大人だよ」
「え”っ、そうなのか!?」
「幽霊って不思議なものね」
「全くだお目にかかるのは初めてだ」
幽霊という私の事情を知っている様子なので瞠目した。カカシさんだって最初に私の歳を見誤った事を棚に上げた事を笑いたかったがそんな余裕はなかった。
彼らが事情を知っている事に衝撃を受けて私の頭は回転が鈍くなっていた。簡単にカカシさんが話してしまうほど私の事情は簡単なものだったかと首を傾げたくなる。カカシさんに限ってそんな事はないとは思うのだけど。
私が思考している間も興味ありげに輝く視線に耐え切れず思わず視線を下げていく。
人の視線には慣れていない。
怯えるように視線を逸らし、距離を取ると美人な女の方に嫣然な笑顔を向けられて驚いて足を止める
「あなたもこの男の世話なんて大変ね、若いのに主婦みたいなことして人生棒にふってるわよ」
「なんて言い草だ」
同情してくれている、と素直に思ってもいいのか思慮深くなってしまう。怯えている私に気を遣って声をかけてくれたのかもしれない。しかし彼女を判断する情報はあまりに少なくどれが正解かわからない。この病院で働く看護婦のような気持ちを持って発した言葉だったら嫌味にも取れる。複雑な気持ちで彼女の言葉をどう捕らえるか考えていた
戸惑っている私に気づいてカカシさんは私を呼んだ。
呼ばれて思わず彼女達から逃げるように彼の傍に近寄る。…子供めいた自分の行動に一番驚いているのは自分だ。
照れくささを隠そうとする私の様子を見てカカシさんは目を細めた
「火影様からあの男の件兼ねて全て聞いてる奴らだから大丈夫だよ」
優しい声で教えてもらい驚いて彼女達をもう一度見る。入ってきた時のような瞳ではなく優しい瞳と目があった。ようやく事情を知っている理由がわかって胸をほっとなで下ろした
そりゃそうだ、カカシさんが考え無しに私の事を言いふらすわけなかった。
綺麗な婉然と笑う姿が様になっている美人の紅さんと、大柄なアスマさんと、濃ゆいお顔のガイさんを順番に紹介される度にお辞儀をしていく。
「いつでも頼って頂戴、力になるわ」
「ツケはカカシに払わせるからよ」
「俺のとこに修行しに来てもいいぞ!」
修行、は遠慮しかったけど彼女達の親切心に感謝して深々とお辞儀をした「ありがとうございます」
視られた事の無い私にとって物珍しげに見つめられるのは初めてだったとはいえ怯えてしまったのを恥ずかしく思う。
恐らく怯えてしまったのはあのぎらぎらと光るあの目玉の記憶が、恐怖心を呷ったのだろう。
冷や汗を垂らしその感覚をなんとかなくす
「ま、手を煩わせる事はないと思うけど一応」
「…はい」
火影様とカカシさんは心配して下さって他の忍びの方にも声をかけたのだろう。火影様達の気遣いとそれを受け入れて下さったこの方達に感謝する
沢山の人に心配と迷惑をかけているのを気がかりに思い早く一族の話しを聞きに向かわねばならないという気持ちがもっと強くなる。
「しかしなんでカカシのところにいるんだったけか?」
全て火影様から聞いていると思っていたのだけど違ったのかと首をかしげると「全く本当に忘れやすいわね」紅さんが頭を抱えていた姿を見て、ガイさんは忘れっぽい人なのだと理解する。説明しようとしていたのをやめて口を閉じた
「ま、運命かな」
「え」
人前でさらりと冗談とも取りづらい言葉を吐いた事に驚いて私の呆けた声が部屋に響く。途端に微妙な空気が流れてしまい、冷や汗をかいて頬を染めてしまいそうになり彼をジト目で見る。
私が恥をかいてしまったじゃないですか。恨めしい気持ちを込めて彼を睨むと凄く嬉しそうに彼は笑った。何がそんなに嬉しいのか理解ができない
「あら?...へぇ」
紅さんは興味ありげにカカシさんの顔をまじまじと見つめて「へ~ぇ?」アスマさんも楽しそうにカカシさんをまじまじと見つめた。
含みある二人の笑顔に私は冷や汗を垂らしてカカシさんを視界の端で確認する。彼はいつもの表情を浮かべて何も言わなかった。
「え、何だ?何だ?」一人ガイさんは取り残されてその様子を見守っていた。
「らしくないもの見たわ」面白そうに彼女は口の端を上げて踵を返した。
その後ろをアスマさんがついていき「邪魔者は退散するか」その後ろを「何の話だ?」わけがわからないという顔で後ろをガイさんがついていってあっという間にいなくなってしまった。
訪れた突然の静寂にぽかんとしてしまう。いつもと変わらない彼の笑顔を見て、苦虫を食いつぶしたような顔になっていくのを感じる
自分の失態に恥ずかしくなりその怒りをぶつけようとしたけどお門違いだと気づき大きく息を吸って気持ちを押し込める
「…すみません、人前で」
「いんや、いいよ」
いつものように冗談よしてくださいと真顔で返せばよかったのに、真に受けて狼狽えてしまうなんて。
しかも人前で。
彼らはカカシさんが私に好意を持っていると感づいたに違いない。これ以上の失態は無いとばかりに遅れて顔を真っ赤に染めるとと彼は笑みを濃くしていく
「俺の気持ちよくわかってくれたって事だもんね」
彼がごきげんな理由がようやくわかって大きくため息を吐いた。
今言われた彼の言葉にはっきりと首を振れないのは思い当たるところがあった。そう彼の気持ちを簡単に否定しないようにしているからこそ真に受けてしまった。…人前で。
口を真一文字に閉めて彼の言葉をノーと言えないでいると嬉しそうに目を細めた。
気を取り直すように、備え付けの椅子に座り病院に来る前に買ってきたリンゴを一つ取り出して引き出しに入っている小さいナイフでしょりしょりと昨日と同じように剥いていく。
外の風が葉をさらっていく姿を見て、声を失う。
僅かに黄色に色づいた葉っぱが散っていったのを視線を追っていく。
木にまだいる葉っぱはまだ若々しいのもいる。まだ全て色づいてはいなかった
「ナルトと、どう?」
私を心配しているのか突然聞いてきた。
昨日の事を思い出して口の箸をあげていく「たのしいですよ」長い時間をかけずに感じた事をそのまま伝えると彼も安心したのか目を細めて「それはよかった。」笑った。
「明後日に退院できるって」リンゴの皮を向きながら彼のはっきりとした口ぶりに驚いて目を見開いた。「もう、決定なのですか?」急く気持ちを胸に抱きながら身を乗り出して聞く。
「うん、今日担当の医者に言われたから間違いないよ。」
高揚とする気持ちを落ち着かせながら、彼の言葉を反芻させる。
やっと、猫又一族から話が聞ける
そう思うと落ち着かなくなる。察されないように顔をうつむかせた
それに、カカシさんとの生活が元に戻ると同様にナルト君とのお泊り会がすぐに近づいている事を理解する。
嬉しいような、悲しいような。
2つの気持ちが入り混じり苦しくなる。
静かな部屋にリンゴの皮を剥く音を微かに響かせる。窓から入る優しい日差しに気持ちよさそうに瞳を閉じてまどろむ彼を見ながら目尻を下げた。
昨日と同じ光景でやさしく流れる時間に安堵の溜め息を吐く。
皮を全て剥ききって、テーブルに置いた。すっかり寝入ったようで、無防備なる寝顔をこっそり盗み見る。
カカシさんが寝ている間にあたたかい飲み物でも買ってこようかと席を立とうと腰を上げた。
私はドアに視線を移し、そちらに向かおうとすると突然誰かに引っ張られ軽くつんのめる。
恐る恐る後ろを振り返ると、大きな手のひらが私の服の裾を掴んでいた
驚いてその手をたどり彼の顔を見ると閉じられていた瞳が開いて私を見ている。光が当たっていつもの色より薄く見える綺麗な瞳の色に目を奪われる
「もう帰るの?」
彼の言葉に目を見開く。
また来たのという割には寂しがるのか。彼の甘えるような声に驚きを隠せない。
ゆっくりと小さく首を振ってみせた。
カカシさんは手を離してまた瞳を閉じる。穏やかな彼の表情に戸惑いつつ口を開く
「喉はかわいていませんか、買ってきますけど」カカシさんは閉じた瞳をまた開いてうんと掠れた声を出した。
また眠ってしまった彼を視界の端に捉えながら彼の財布を預かり彼の病室を抜け出した。
病院の一階にある売店で飲み物を買って、先ほど私の服の裾を掴んだ彼を脳裏で思いしだしながら、思う。
あの病室は人を弱気にするところ
毎日あちらこちらと走っている彼が突然ベッドに突っ付す度に何を思うのだろうか。今の反応から見て、私の予想とそう大きく変わらないのだろう。
痛いほど気持ちはわかった。
…なるべく彼の精神的にも何かできたらいいなとは思うけど、何をしたらいいか見当もつかない。
彼の普段の生活と好きな食べものなどを頭の中で浮かべて色々思案してみるが、いい案は浮かばなかった。
頭を捻らせながら病室に帰ってくると彼は瞳を開けていた。
「飲みますか?」
買ってきたばかりのお茶を差し出すと短く返事をしてそれを受け取った。
ちらりと彼の顔を盗み見ると目が合った。そう思うのもつかの間、すぐに逸らされた。不自然なしぐさに首を傾げた
「ナルト君が任務終わったらこっちに来るのでそれまでいますね」
彼は私の答えに曖昧に答えた。彼の先程言った「もう帰るの」の答えをそれとなく答えてみせると彼は先程自分が何言ったかを思い出しているのか照れくさそうに視線を逸らした。
その仕草を見てめずらしい、と瞠目した。
彼が恥ずかしそうにしているのなんて初めてみた。その表情につられるのに気づかれないように顔を逸らした。
もしかして、寝ぼけていたのかな?それとも本当に気弱になっていたのかな?
先程切ったリンゴを乗せた皿は、空になっていた
「…もし、お邪魔でしたら帰りますよ」
居心地わるい空気を取り払うように明るい声で言った。
退院もすぐならば休めるうちに休んでいたいだろうし、私がいて寝辛かったりしないかという配慮だった。
「ううん、いて」
彼の静かな声につられて彼の顔を見上げる。
気弱になった彼が出す言葉はそれとなく予想はしていたが、確認兼ねての問いかけだった。
「居てほしい」
予想はしていたけど、ここまで熱く真剣に答えられるとは思ってもいなかった。
次第に目尻がどんどん下がっていくのを見て自分が顔を紅くしているのに気づく。
また、墓穴掘ったかもしれないと眉をしかめて口を固く閉めた。
「そ、それでは、カカシさんがゆっくり眠れられるように努めます!」
気を取り直して、拳を作って見せると目尻だけでなく眉も下がっていく。「なにするの」どことなく彼の声は不安げだ。
気づかないフリをして、お茶を買って戻ってくる際に考えていた彼にできるお手伝いの事を考える。
一つの提案を思いつき、彼に寝転ぶように頼むと彼は不安げにしながらもしたがってくれた。
布団を肩まで引き上げて、簡易の椅子に腰掛ける。彼の瞳は相変わらず訝しげだ。
「ひつじがいっぴき、にひき」
布団に規則正しくリズムに乗って手を叩いてみせた。彼の瞳はまんまるになっていく「まさかそれで寝かせるつもり?」信じられないという目ににっこりと笑ってみせた
「ものは試しようです、」
私の言葉に心底あきれたようなため息を大きく吐き出した。
構わず続けてみせて、自分の頭の中で草原の上にある柵を越えていく羊の姿を思い浮かべながらそっと呟いていく。
静かな病室に自分の声が微かに響いて、穏やかな時間が過ぎていく。
彼の顔をこっそり盗み見ると垂れ下がった瞳と目が合って私もつられて目尻を下げた
まどろむ時間に胸があたたかくなっていく。
60匹目まで数えた時に規則正しい寝息が聞こえて目を見開いた
…本当に寝ちゃった。
その穏やかな横顔に少し笑みを浮かべた。
もう帰るの?なんてわざわざ聞かれなくてもあの部屋に二人で当たり前に帰りたい。と、こっそり思った。
もちろん、ナルト君の家はとても楽しいけど
わたしのいえはあそこだと錯覚してしまうほど、馴染んでいた。
嗤ってしまう。
私は居候の身であり、幽霊だというのに
それに、なんて図々しい
暫くしてナルト君がやってきて、こっそり病室を出た。
穏やかに眠る彼の寝顔を見て微笑む。ナルト君はカカシさんの無防備な寝顔を見て驚いていた。あんまり目にした事がないとこっそり教えてくれた。
声をかけて帰ろうかと思ったがその気持ちよさそうに眠る寝顔に憚られて、書き置きをして後にした。
眠りを妨げる事に躊躇したが、誰かと帰って行く姿を見て彼は寂しそうな表情を思い出して。
せめて眠りについたときに出ていこうと思ってその場を後にした
「あれ、」
ナルト君と商店街を歩き夕食の買い物をして帰宅している時に、ばったりヒナタちゃんと出くわしてしまった
「ひ、ヒナタちゃん」一番出会ってはならない子に出くわした。
驚いて思わず彼女の名を呼んでしまい、私を確認されてしまった。
彼女は目をまん丸くさせてナルト君と私の持っている食材を見て目を伏せた後にぎこちなく笑った。
「こんにちは」その笑顔に心を痛める。
「…こんばんは」気まずい空気が流れてお互いに視線を彷徨わせ合う。紅く染まった空の挨拶はどちらが正しいのか。
「お夕食…ですか?」私とナルト君は揃えて口を噤み冷や汗を垂らす。お夕食を一緒にして、泊まるなんて知られてしまったら申し訳なさすぎる。
ナルト君は彼なりに、秘密を守りたいと思って不自然に身体を強張らせ、私も一番会ってはならない彼女に出会ってしまい身体を固くさせていた。
まるで悪戯がばれてしまった子供のような気持ちだ。
明らかに、わたしたちは怪しかった。
私は彼女の手を取り詰め寄り、不思議な瞳を覗き込んで口を開いた。
「こ、これからお料理教える会をするんだけど一緒にどう?」
「え、?」
彼女は目を丸くして取られた自分の手を見て、詰め寄る私の視線を交互に見つめる。
下手につけない嘘を不自然に貫き通すよりは、ソレらしいことをいって彼女を招いた方がマシかもしれない。
ナルト君はどうしたらいいのかわからないようで、戸惑った瞳を私にぶつけて大人しく様子を見ている。
「よくナルト君にお料理教えるんだけどヒナタちゃんもよかったら」
嘘でもあるし、本当でもある。
2回しか教えていないのでよく、という言葉は嘘。
傷心する事なく嘘をついていることに少し後ろめたさを感じながらせめてヒナタちゃんがいい方に転ぶように仕向ける。
彼女は少し頬を染めて慌てて手を振って遠慮した。
恥ずかしそうに視線を下げる彼女を見ながら残念に思う。
遠慮しているヒナタちゃんに気を遣ってナルト君が一歩前に出た
「皆でやった方が楽しいってばよ」自信満々と答えた彼に笑みをこぼす
ナルト君が本心で言ったのがよくわかった
ヒナタちゃんは僅かに頬を染めて視線をあちこちと彷徨わせた後に私に何か懇願するように視線を向けた。
彼女の気持ちを汲み取る事ができず曖昧に笑いかける「よかったら、だけど」応援すると言った身として何か手伝えたらいいなんてお節介だったかな。
彼女は拳を作って「い、行きます!」私に意気込んだ。
折角だからナルト君に言えばいいのに。と思いつつ頬を染めた彼女に心が暖かくなっていく
…照れてナルト君に直接言えないのかな?初々しい彼女につられて頬が染まりそうだった。
3人でキッチンに立ち、手を洗って2度めとなる餃子作りのために大量のひき肉をボウルに入れてたっぷりの刻んだ野菜を加える。
餃子作りはナルト君の要望だ。前回作ったのがとても美味しかったらしくまた作りたいといってくれた。
100個焼いているうちに上手に焼くコツを見つけたらしい。
最初は難しかったと苦く笑いながら私を頼ろうとしてくれる姿はなんだか初めて出来た弟子のような気持ちだった。
ナルト君にもう一度説明する形になりながら作り方を教える。
2回めとなると細かに教えた方がいいと思い、ナルト君に優しく押して上げるように言うと段々コツを掴んできたのか綺麗な形の餃子を作っていた。
ナルト君はわからないことは雑になってしまうけどしっかり教えてあげるとコツをつかむのが早い。
ヒナタちゃんも手先が器用で時間をかけて上手になっていった。
教えがいのある二人にうなずきながら餃子を作り終えて、今度は出汁を作る作業に入る。
ナルト君は得意げにヒナタちゃんに作り方を教えていた。ヒナタちゃんも真剣に彼の話しを聞いていてその姿を見て目を細めた。
余った米が大量にあったので炒飯を作り、3人でテーブルを囲んだ。
炒飯と餃子とわかめスープに、お浸し。余ったお出汁で卵焼きを作ってみた。
中華と和風が混ざって支離滅裂な夕飯になってしまったけど、前回作ったものをもう一度作っておさらいさせた方が料理がうまくなると思っていたのでこれでいいと自分の心の中で頷く。
ナルト君達は顔を綻ばせながら箸をどんどんと進めていく。
綺麗に羽をつけた餃子に何度も頷きながら達成感に満ち溢れる。
彼の言ったとおり綺麗に焼けるようになっていた。
余った炒飯はどうするか考えていたところ彼女はおずおずとおかわりをしていいか聞いた。
4杯食べている姿に私とナルト君は声を失っていた。
ナルト君も負けじと食べていたけど音をあげて膨れたお腹をさすって仰向けになっていた。
その様子を見てヒナタちゃんと顔を見合わせて笑ってしまった。
綺麗に後片付けをしてそろそろ帰るといった彼女を私達2人でお見送りをする。
ナルト君は笑って「みんなでやった方が楽しかったろ?」ヒナタちゃんに自信満々に言った。
ヒナタちゃんは優しく笑って彼の言葉に頷いた。
「今日はありがとうございました」
ヒナタちゃんは礼儀正しくお辞儀をした。
私だけに聞こえる声で「…とても良い日になりました」紅くなりながら目を伏せた彼女に私はよかったと安堵して彼女の背中を見送る。
満足そうに笑っている彼につられて私も笑った。
昨晩と同じように二人で家事を済ませて、珈琲を抱えて腰を下ろした。
今日あった出来事を彼が絶えず話してくれて笑みを浮かべる。カカシさんはその日にあった任務の事を口にしなかったので、すごく新鮮で楽しかった。
今日あった事を話した彼は満足した様子で珈琲を口にする。
それを見ながら私もコーヒを口にする。
牛乳と砂糖を混ぜた、やさしい甘さが口の中に広がっていく
「次はいちかねーちゃんの番」
「わ、たし?」
突然話しをふられて驚いて目を見開く。
ナルト君は口の端を片方だけ器用に上げて、優しく催促した。「ねーちゃんの事教えて」昨日ナルト君の昔の話しなどを沢山聞いたりして満足していた。
…誰かに色々自分の事を話したこと無い。
初めての経験に心臓を鳴らせながらゆっくり口を開いた。
私がカカシ先生と初めて出会った時の事や黒猫が私の昔を知っていること。
黒猫を追いかけている男の事。
男の事は恐らくあの場を助けてくれたナルト君は知っていると思ったけど、説明していく。
カカシさんは私の事情を伏せて話したはわからなかったけど、ナルト君に聞いて欲しいと思って隠さず全て話した。
カカシさん以外に、私の口から誰かに事細かに話した経験は無い。
テンゾウさんは火影様やカカシさんづてに話しを聞いているらしい。どこまで話しを理解しているかはわからない。
段々と口がよく動いていき沢山の事を話しだす。
表情をころころと変える彼に安堵しながら言葉が止まらない。
わたしをみて、わたしのはなしを聞いてくれる。その存在に鼻の奥がつんとした
あの広場で確認してもらえない私は、いない
事情を知っているであろう一族を尋ねる事を口にして私の口は止まった。止まらないで自分だけこんなに沢山話した事は初めてかもしれない。
ああ、そうか私は誰かに今あった事を沢山聞いてほしかったのか
「怖くねーのか?」
その言葉に目を見開いた。
真っ直ぐな言葉と瞳に思わず視線を逸らした。怖くないのかと聞いたのは恐らく、猫又一族から私の話しを聞く事だろう。
真っ直ぐな言葉に心をえぐられたような気持ちだった。
彼はこんなに素直でほんとうにうらやましい。
怖いという感情をずっと押し込めていたので眉をしかめる。私は自分の胸を押さえて、彼をじっと見つめ返す
「…知らなきゃ、自分のこと」
怖いなんて、いってられない。素直に怖いと言葉を吐き出せる身分ではなかった。
なんとか奮い立たせて、その感情をしまい込む。
答えに近づく事をを怖いと思わないでチャンスと思いたい。何度も自分の心で思い浮かべた事だ。
ナルト君にまっすぐ怖いかと聞かれて揺らいでしまったが、なんとか奮い立たせる。この胸の痛さに眼を逸らす
ナルト君は珈琲を口にしながら上目遣いで私を見つめる。
彼の綺麗な蒼い瞳に自分がうつっているのを目にしながら、彼の瞳が大きいことを再確認する。
探るような瞳は次第に柔らかくなり、ちいさく笑った。
「カカシ先生がいちかの事ばっか気にするのわかったってばよ」
彼の瞳が半円に弧を描いた。
嬉しそうに表情を変えた彼に瞠目する。今の会話でどうしてそう思ったのか不思議に思う。
しかも、カカシさんの名前も出てきた
「な、なになに?聞きたい」
私は前のめりになりながら彼に答えを求める。ナルト君は少し迷って宙に視線を彷徨わせた後に私と目を合わせた。
「内緒だってばよ」
まぶしい彼の笑顔に何も言えなくなってしまった。
答えを教えてくれないことに歯がゆさを感じる。内緒と言われてしまえばそれ以上口を開く事ができず押し黙る。
私が不貞腐れたように口を閉ざす姿を見て彼は楽しそうに笑った
「いちかはさ、先生のお世話とかしてんだよな?」
彼の突然の問いかけに驚きつつ頷く
ナルト君はたまに私をいちかねーちゃんと呼んだり呼び捨てにしたりする。姉と友として呼んでくれるのならばとてもうれしい。
「見てて思うけど、苦じゃないんだよな?」
苦しいという言葉を頭で浮かべて、当てはまらないことを確認して間を開けずに直ぐに頷いた。
ナルト君は空になった珈琲をテーブルにおいてのけぞった。
「世話好きだよな~誰に関しても」彼は感心したようにため息を吐いた。
初めて言われた言葉に目をぱちくりとさせながら普段の自分を思い返す。
「誰でも構わずそういうわけじゃ…無いはず」
思い浮かべた自分は確かにあれやこれやと人に世話をやいているような気がした。
でも、私が世話好きならサクラちゃんだって世話好きだ。彼女はいい母親になると確信している。
一人ひとり顔を思い浮かべながら自分が手を出している理由をつける。
テンゾウさんは、カカシさんの後輩だから気を遣った事が最初だった。…きっかけはそうだったかもしれないがいらぬお世話をかけているのは事実だ。
自分の性格を初めて言い当てられた事にショックを隠せない。
ナルト君にいらぬお世話を焼きすぎてしまったのではないかと気づき蒼白していく私をナルト君は不思議そうに見つめる。
彼を見つめて、あわてて言い訳をしようとして口を開く。
「私、昔おとうとがいてね、」
唐突に出てきた言葉に声を失った。
言葉を発した自分に驚いてしまうのもなんと馬鹿げた話だった。
しかし、私は自分の過去を知らない筈であり
おとうとがいたことなんて全くしらない
「おとうと…いたのか?」
ナルト君は素直に言葉を吐き出して首を傾げている。
彼の言葉に私は眉を顰めて記憶を探ろうとしたが無に終わる「そ、そうなのかな?」情けない私の声に彼は突然噴き出して「なんだよそれ」苦く笑った彼につられて私も曖昧にわらう。
突然意思とはそぐわずに飛び出してきた言葉に驚きを隠せない。
自分の心臓が早鐘のようになっているのに気づきなれない感覚に眉を顰める。
「弟がいたから世話好きなのかもな」
彼の明るい声に励まされながら曖昧にまたもや笑った
昨日のように夜更けになる前に2人で布団に潜り込んだ。
瞳を閉じて冷静に自分の言葉を反芻させた。
彼に言われた通り、弟がいるから世話好きなのだろうか。
異性の下着を躊躇なく洗えたりするのはそういうところが関わっているのだろうか。
どんなに考えても答えは出ずに謎の言葉は、私のこころにわだかまりを残した
元気よく家を飛び出していったナルト君を見送った後に昨日と同じように病院に向かった。
明日退院と言っていたのでお見舞いに来るのは今日で最後だ。
明日はお見舞いではなく、退院の付き添い目的でやってくる。
そっと病室に忍び足で入るとカカシさんはこちらに背中を向けてまたもや寝ていた。
寝ている姿をみるのが当たり前になっているような気になりつつ腰を下ろした。
眠っている彼の背中をぼんやり見ながら昨日ナルト君との会話を思い出してしまい眉を顰めた。
弱い自分に気が付きその感情を取り払うように慌てて外を見つめる。
外に微かに色づいた葉が風で舞う姿を見て、眉の皺は濃くなっていく。
その感情は取り払われることなく私のこころを占領していく。
彼は明日退院して、直ぐに一族の元へ向かうと約束してくれた。
私を気遣ってくれたのだろう。
だけど、その答えを聞いて私はどうなるんだろうか
あの木が、黄色く全て彩った時に私はまだいられるのだろうか。
風が頬を刺す時期になった頃に私は、いるのだろうか。
答えに近づいた時、私を親友と呼んだ彼女のように星になるのだろうか
カカシさんが退院したら、すぐに向かいたいと思っていたのに…怖気づいている事に気づいた。
ナルト君に素直に問われたその言葉が妙に心をえぐっていた。こわいか。答えは勿論イエスだ。
昨日の自分で口にした言葉も気になる。
話しを聞きたい筈なのに、怖いとおもっている。
その感情を閉じ込めて自分で大丈夫と何度も呟いた。
大丈夫、これが私のあるべき、末路。
きつく瞳を閉じて自分の心のわだかまりに蓋をした。
微かに冷や汗を流した。息をうまく吸おうとして深呼吸をしようと大きく息を吸った。
冷えた私の頬に、暖かな温度に驚いて瞳を開いた
「また来たの、いちか」
和やかに目尻を下げたカカシさんは私に声をかけた。お馴染みの言葉を耳にして暗い自分の感情がすうっと消えていくのを微かに感じた。
優しい声が私の耳に響き、綺麗に唇が言葉を形づくったのを見て私の頭はショートした。
くち、びる?
何か違和感を感じる彼の顔に、身体は硬直した。
なんだかいつも見るカカシさんじゃない
口布を覆っていない初めてみる彼の素顔に私は声を失い顔を真っ赤にさせておもいっきり顔をそむけた。
「くくくくく、口元の布は?!」
初めて見た彼の素顔に動揺を隠せない
いつもはしっかり隠している当の本人は、あれまとのんきに声を発して首元にあった襟を顔の半分まで引き上げた
病院で渡された寝間着の下にいつも着ている黒い服を着ていた
彼の顔を一瞬だけど見てしまった事に沢山の罪悪感を抱えつつ、綺麗な肌と端正な顔立ちに心臓を早くしていく。
あれほど見てはならないと思っていた筈なのに簡単に見てしまった事をひどく後悔し蒼白していく。
いつかこの日が来るような気がしていたが、思いもしなかったタイミングで拝むことになり心臓が速さを増していく。
「大丈夫見たから死ぬわけじゃないし」
「そ、そういう問題ではなくて」
カカシさんの呑気な声で言う言葉に自分はそんなに死神やお化けを見たような顔をしているのだろうか。
あ、お化けはわたしだ。
初めて見た端正な顔つきをしっかり脳裏にこびりついてしまい眉をしかめた。
口を真一文字に閉めて、視線を逸らして脳裏の映像を振り払おうとした。
私の挙動不審な姿に彼はああ、とひとつ気づいた。
「見惚れちゃった?」
いつものように目尻を下げた優しい笑みでそう告げられて、言葉を失う。
いつもの表情である筈なのに私の頬は熱くなっていく。
慌てて逸らして見惚れた筈ないと答える私は不自然にどもり始める。
言い当てられた事に動揺している自分に気づき半泣きになる。
「だって、そりゃ、顔を隠している人の素顔を見たら誰でも驚くのは当然で」
私の情けない言い訳は彼の耳に届けた。
私は先程そんな筈ないと否定したのに言い訳した所為で見惚れた事に認めてしまった。
私は墓穴を掘るのが得意なようだ。自分の性格をまた知って、ショックを隠し切れない
「驚き、ねえ」
普段とは違う声色に恐る恐る彼の表情を見る。先程の優しい笑みとは違う、いたずらに瞳を歪めていた。
初めて見る表情に驚きを隠せない。冷や汗を垂らしながら視線を逸らして自分の感情にどうか気づかれないように必死に隠す。
隠す私の顎を掴んで無理やり私と視線を揃える
「驚くと顔が真っ赤になるんだね」
「、!」
彼の言葉に更に頬が紅くなっていく。その様子を彼は楽しそうに見つめる。
彼の手を振り払い背中を向けて「そうです、そうなんです!」憤慨してわけもわからない言葉を吐き出した。
不貞腐れた私の様子を見て彼は声を押し殺して笑った。その小さな笑い声に眉の皺がどんどん濃くなっていく。
カカシさんが目覚める前までの気持ちはすっかり忘れて感謝しなければならないのだけど、
かっこいいだなんて、思ってしまった事を深く後悔した。
日が陰ってきた頃に病院を出ようとと腰を上げた。ナルト君は今日遅くなるからまっすぐ家に帰ると言っていたから病院は来ない。
終始嬉しそうに笑う彼を睨んで、部屋を後にした。
彼が起きるまでに考えていた事は思い出さないことにした。
大丈夫、彼の顔を見て忘れるくらいの感情の筈だ。
ずっと仕舞い込めるはず
紫がかった空の下カカシさんの家とは違う帰路を歩き、ナルト君の家を前にしてチャイムを押すかそのまま扉を空けるか数分悩んでおもいっきってチャイムを押さずに扉を開けた。
玄関を開けて感慨深くその玄関を見つめる。
今日でナルト君の家にお泊りするのは最後だ。
この家をくぐるのは機会があるかもしれないけど泊まる事はないかもしれない
ナルト君と会える機会は少なくなるかもしれない。
彼がまた私の買い物を待ち伏せしていれば会えると思うけど、そうなるとこちらは待つしかない
珈琲を片手に沢山お話したこの部屋を見渡して、寂しく思う。
靴を脱いで、私がいなくても過ごしやすいように片付けをして食事の準備をしていると慌てた様子で扉が開いた。
驚いて肩を強張らせた。
大きな音で扉を開けた張本人は少し上気した頬を隠さず肩で息して私をみつめた。
嬉しそうに帰ってきた彼の姿に微笑みで「おかえり、ナルト君」言葉を吐いた。
私の言葉に彼は目を見開いた後に大きく頷いた。
自分の部屋の明かりと美味しそうな匂い、その事実に彼は目をうるませた
彼と食事を済ませて、寝る準備をしているとナルト君は忍具を磨いていた。
面倒くさがりのイメージを抱いていた私は瞠目した。忍に関する事はまじめに取り組むのかとイメージを塗り替える。
カカシさんもよく磨いているのを思い出しながらナルト君の隣に座った。
私の気配も馴染み初めたのか作業を止める事なく彼は進めていく。器用な手つきに釘付けになる。
磨かれる苦無を見つめて、口を開いた
「苦無って飛び道具にも短剣みたいにも使えるんだよね」
「ん?そうだってばよ」
「私にも使えるかな」
言葉を耳にしてナルト君は驚きで手を止めて私の顔を信じられないような顔つきで見つめた。
その瞳を受け止めて、真剣に見つめ返す。
「何があるか、わからないから」
私は誰かにまた襲われる可能性があった。あの男が言っていた情報を集めた他の人がきになる。
その人達がいつ私を襲ってもおかしくない
私がのうのうと買い物をしている時に襲われるかもしれない
はったりでも、下手くそでもいい。
うまく使えなくてもいい。
「お願い、私に使い方を教えてください」
頭を下げてナルト君に初めてのお願いをする。誰かにお願いをするのは、初めてかもしれなかった。誰かの迷惑になることばかり考えてわがままを言えずにいた。
カカシさんは忙しいのはよくわかっているし、お願いごとなんてできなかった。そんな彼らに守られているのもいや。
それに、全てナルト君に話した理由はここにもあった。事情を知って私に武器の使い方を教えて貰おうとこっそり思っていた。
ナルト君が忙しくないわけではないのは承知しているが、頼みやすいと思うのは彼が友であり弟のような存在だからかもしれない。
ナルト君は思うところがあるのか困ったように顔を歪ませていた。
その様子をちらりと盗み見て拳を握る
「暇な時でいいから、おねがい」
ただ、震えて助けを求める自分は情けなくて何かしていないと気がすまない。
「おねがいします」襲われたあの日にカカシさんに助けを求めた時の感情を思い出して震えそうになる手のひらを強く握りしめた。
なさけなくて、よわい自分はもういやだ
「じゃあ、一週間に1回くればいいってばよ」
照れくさそうに言葉を吐き、快諾してくれたナルト君に驚いて頭を上げる。
私の綺羅びやかな瞳に驚いて慌てて逸らした。
「お、俺ってば忙しいからな!時間ない、し」
小さな声で「…また泊まればいい」照れくさそうに言葉を吐き出す彼に詰め寄って、嬉しさのあまり手を取る
「ご飯も作るし迷惑はかけないから!」
私が興奮して嬉しそうにする姿を彼は驚いて目を丸くしたあとに困ったようにやさしく笑んだ。
力になってくれる事がとてもうれしくて、嬉しさを隠せない。それに、またナルト君とこうやってお泊りするのがこれっきりだと思うと寂しかったから、嬉しかった。
「俺ってばスパルタだからな!」
「はい!よろしくおねがいします!」
私達は視線をそろえて、微笑んだ。
次の日、私は玄関先で荷物をまとめて挨拶をしようとナルト君を振り返るとしょぼくれてすっかり元気を無くしていた。
一週間に一回泊まればいいという提案はナルト君は私を寂しく思って提案した事に気がついた。小さな少年のような彼に眉を下げて笑ってしまった。だって、かわいらしかったから
「さびしくないよ、またくる」
「寂しいなんて、言ってないってばよ」
素直じゃない。男の子のプライドを垣間みて笑みを浮かべる。
あまりにもしょげくれた姿に笑うのは不謹慎だと思い口を元の位置に必死に正す。
「いつか貴方を出迎えてくれる人が必ず来る。その嬉しさが倍になる過程だよ、いま」
慰めるように少し濡れた彼の瞳を覗き込む。本当に小さな少年のようだった。
昨日私が出迎えた事に瞳を輝かせた彼を思い出す。
誰かが待っている家をきっと切望している。
きっとあったかい彼はあたたかい家庭を持つ事を確信していたのでその未来はきっと叶う
「それでも寂しくなったら?」
やっぱり、寂しいのね。
不貞腐れたように口を尖らせて視線を逸らし自分の感情を認めた彼に口の端を上げて手をそっと取る。
「すぐよんで。駆けつける」
いつもカカシさん達にもらっている暖かさをこのこに少しでも分けてあげて元気になってくれたらいい。
それが、私に力になれることだったらとてもうれしい。
だって私はいま、視てもらえている。
誰かを、励ませる
私の言葉に彼は満足したのか「俺が行く方がはえーな!」元気を取り戻して満面のえみを浮かべた。
そのあたたかい笑顔に私はつられてわらった。そのひだまりに、とかされるようなきもちだった
話を聞いたらまた会おうと約束してナルト君と別れた
病室に入ると、久しぶりに忍服を身にまとうカカシさんがいた。見慣れた筈だった姿を久しぶりに思うのは、病院生活を長く感じていたからだろうか。
「退院おめでとうございます」
「まったくだよ」
彼はげんなりとため息を吐いた。
入院中に隠れて鍛錬をしていたのか、フットワークは軽い。退院後とは思えない早足に驚いて慌ててその後ろをついていく。
にこやかに笑う看護婦さんたちに見送られて病院を後にした。
彼の大きな身長を見上げながら、しっかり立っている姿をぼんやり見る。
彼はずっとベッドに座ったり寝ていたりしたので見上げるこの行為が懐かしい。
彼はゆっくり私を振り返って眼があって見つめていたことに気づかれたと慌てて笑顔を取り付くってごまかした
「さて、時間も無いし急ぐよ」
「え、ちょ、え?!」
突然の浮遊感に驚いて慌ててしがみついた。
私が退院した時と同じように彼は建物の間を飛んで、あっという間に彼の家にたどり着いた。
慣れない浮遊感に心臓がまだ異様に早く動いていた。
退院した後すぐに一族の集いに向かうと言っていた。
時間が無いのは承知だがそれにしたって、あの浮遊感は3度目でも慣れない。
できることならば歩いて帰りたかったと心のなかでひっそりおもう。
ふらつく足を力を入れて数日ぶりの彼の家の扉をぼんやり見つめる。
懐かしい玄関扉に目を奪われる
「ただいま、」
頭上から降り注いだ優しい声につられて、彼を見上げる。
声と同じように優しい笑みにつられて「おかえりなさい、」わたしも声が優しくなる。
二人で彼の部屋をくぐり懐かしい彼の部屋に私は懐かしむように腰を下ろした。
たった数日だったのに、ここまで懐かしいのもおかしなはなしだ。
ひとり感慨ふけている間に彼は準備をしていた。私も彼にならい出かける身支度を軽くする。
退院早々にねこまた一族を訪れるなんて身体は大丈夫なのだろうか。
時間が無いといっていたけど、猫又一族へは遠いのだろうか。
窓を開くと、事前に約束をしていた猫がそこに座っていた。
「おはよう、しらたま」久しぶりに会話するしらたまは機嫌よくしっぽを揺らして挨拶を返してくれた。
部屋に招き、窓を閉めて、玄関先に立つ彼に気づき、駆け寄る。身支度を終えたカカシさんはしらたまに挨拶していた。
「随分待たせて悪かったね」
猫と私に謝る彼に慌てて頭を振った。猫は肯定とも否定とも取れない鳴き声で答えた。
カカシさんは退院したらすぐにいこうという約束を律儀に守ってくれて向かおうとしてくれている。
身体は、任務は、大丈夫なのだろうか。あれこれと考えて口にしようとしたが口を噤む。
「カカシさん、ありがとうございます」
沢山の想いをたったひとつの言葉にのせてお辞儀をした。
私の気持ちを察しながら「ん?なんのこと」気づかない振りをする彼に感謝しながら、私はしらたまを振り返る。「道案内、よろしくね」猫は大きな声で「まかせてくださいでやんす!」得意気に返事をした。
「じゃ、いきますか」
心臓が鈍く動くのを感じながら慎重にうなずいた。
あの感情を何度も蓋をして、紐をしっかり閉めた
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